弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
       事実及び理由
第一 請求
 別紙目録記載の自動車について、被告茨城県水戸県税事務所長が平成一一年一月
二九日になした自動車取得税更正処分を取り消す。
第二 事案の概要
一 争いのない事実並びに括弧内の書証及び弁論の全趣旨により容易に認定できる
事実
1 別紙目録記載の自動車(以下「本件自動車」という。)について、被告が平成
一一年一月二九日になした自動車取得税更正処分(以下「本件更正処分」とい
う。)に至る経緯
(一) 原告は自動車販売等を業とする者である。
(二) 原告は、本件自動車を販売目的で他から買い受けてその所有権を取得し、
平成一〇年一二月九日、オート・クラフト・ジャパン株式会社は、本件自動車の輸
出許可を受け、同月一一日横浜港から出港させて、輸出した(甲四の一、二、甲五
の一、二)。
(三) 原告は、同月二五日関東運輸局茨城陸運支局において、本件自動車につい
て道路運送車両法七条の規定による新規登録(以下「新規登録」という。)を行
い、その直後、同所において、本件自動車について同法一六条の規定による抹消登
録を行った。
 同日、原告は、本件自動車に関して「自動車税、自動車取得税申告書(報告
書)」を自動車取得税に関する部分について未記入のまま被告に提出した。
(四) 被告は、右自動車取得税の税額未記入申告に対し、平成一一年一月二九日
付け水税第七五号をもって、次のとおり本件更正処分を行った。
ア 更正額  課税標準額   一六四万五〇〇〇円
納付すべき税額   八万〇六〇〇円
イ 過少申告加算金
基礎となる税額   八万〇六〇〇円
加算金額        八〇〇〇円
(五) 原告は、平成一一年三月三一日、本件更正処分を不服として茨城県知事に
対し審査請求を行ったが、同知事は同年六月二五日右審査請求を棄却する旨の裁決
をし、同月二六日ころ、原告にその旨の通知がなされた。
2 その他関連事実
 原告は、平成四年四月二八日付けで新規登録と同時に抹消登録し輸出した自動車
は国内では走行していないので自動車取得税は課税されるべきではないことを理由
に審査請求を提起し、同年七月三一日付けで審査庁から棄却の裁決を受けた。
3 ところで、自動車取得税は、道路に関する費用に充てる財源として設けられた
いわゆる目的税である(地方税法六九九条)。自動車
取得税の課税要件は、人が自動車を取得したことであり、原則的に自動車の取得に
対し、当該自動車の主たる定置場所在の道府県において当該自動車の取得者に課さ
れるが、例外的に自動車の製造業者の製造による自動車の取得、自動車販売業者の
販売のための自動車の取得は課税要件である「自動車の取得」に含まれないものと
されている(地方税法六九九条の二)。そして、地方税法六九九条の三第三項前段
は、自動車販売業者が販売のため取得した自動車を運行の用に供した場合には、当
該運行の用に供することを右「自動車の取得」と、当該販売業者を自動車の取得者
とそれぞれみなして自動車取得税を課す旨規定し、同項後段は、同項前段の場合に
おいて当該販売業者が当該自動車について新規登録を受けたときは、右登録を前段
所定の運行の用に供することとみなす旨規定している。
 そこで、被告は、本件自動車について、前記のとおり新規登録がなされたことか
ら、同項後段により、当該登録をもって運行の用に供することとみなされるとし、
さらに運行の用に供することは同項前段の規定により、課税要件である「自動車の
取得」とみなされることを理由として、本件更正処分を行った。
二 争点
 本件の争点は、①本件自動車の新規登録について地方税法六九九条の三第三項後
段のみなし規定の適用があるか否か、②本件更正処分は信義則に違反する違法なも
のといえるか否かであるところ、これに関する当事者双方の主張の要旨は以下のと
おりである。
1 原告の主張
(一) 地方税法六九九条の三第三項後段の解釈
 本件自動車は、新規登録を受ける前に海外に輸出されていたから、国内の道路上
において運行の用に供されることはないことは登録前に確定していた。すなわち、
右新規登録は実体と乖離していたもので、しかも登録直後に抹消登録されていたも
のである。そもそも、自動車取得税は道路損傷に対する補修整備のための負担金的
性格を持つところの目的税であって、その流通税的性格を強調すべきではない。
 したがって、本件自動車のように国内で運行の用に供される可能性がない自動車
について、地方税法六九九条の三第三項を形式的に適用して自動車取得税を課すこ
とは、右に述べた自動車取得税の立法趣旨に反するうえ、いわゆる実質課税の原則
に反する違法なものである。すなわち、自動車取得税の課税の目的が「道跡に関す
る費用に充てる目的」のために存在するもの
であること、本来租税は普通税が原則で目的税が例外的にのみ認められるから目的
税の解釈は慎重な解釈がなされるべきであること、地方税法六九九条の二第一項の
規定は自動車が日本において存在することを前提とするものであることなどから考
えると、海外に輸出され、日本に存在しなくなった自動車について自動車取得税を
課すことは地方税法六九九条の三第三項後段の予定している課税を越えるものであ
る。
 なお、被告は本件と同種事案であるとして課税を認めた裁判例を書証として提出
しているが、右裁判例は、自動車販売業者が道路運送車両法に基づく新規登録を受
けた後海外に輸出した事案であって、本件と事案を異にする。
 また、地方税法六九九条の一五第一項によれば、自動車販売業者から自動車を取
得した者が、当該自動車の性能が良好でないこと等を理由に取得の日から一か月以
内に当該自動車を当該自動車販売業者に返還したときは、その者の申請により、自
動車取得税を還付し又はその納付を免除すると規定しており、形式的に取得の事実
をもって税を課税するものと規定しているわけではないこと、地方税法六九九条の
三第三項は、同第一項の規定の適用がある自動車の売買がされたときを除くとして
おり、仮に新規登録をしたとしても、すでに売買がなされて実質的所有権を取得し
た者が存在する以上、その実体にあわせて課税され、単に形式的に新規発録があれ
ば販売業者に課税するものではないことに照らすと、地方税法は自動車取得税の目
的に鑑み、現実に運行に供したかどうか個別具体的に認定することを前提として、
実体に応じた課税を予定しているものと解される。
 なお、原告の主張に対しては、課税者は個別具体的事情をそれぞれ判断すべきこ
とになり、法的安定性を欠くとの批判もあり得るが、個別具体的事情についての主
張立証責任を被課税者に課しているものと解せば、法的安定性を害するものでもな
い。
(二) 信義則違反
 原告は、平成四年四月二八日に更正処分を受けた後は、本件同様に海外に自動車
を輸出したうえでその後に新規登録をなしているが、本件更正処分を受けるまで一
度も更正処分を受けたことはないし、関東運輸局茨城陸運支局内の財団法人陸運賛
助会には、茨城県水戸県税事務所の徴収係の職員が出張しているが、長年の間、原
告が自動車取得税を納めないにもかかわらず、「自動車登録番号標交付通知書」
(以下「通知書」という。
)の「県税受付印」欄に経由印を押して原告に交付しており、原告が自動車取得税
を納めないことを認容する取扱いを行っていた。そうすると、本件更正処分は、こ
れまでの右取扱いを突然変えるもので、信義則に反する。
2 被告の主張
(一) 地方税法六九九条の三第三項後段の解釈
 自動車取得税は前述の目的税の意味を持つと同時に自動車の取得の際にその取得
の事実に担税力を見いだしてその取得者に課税する流通税としての性格を持つ。自
動車取得税の立案の過程において、自動車取得税の目的に照らすと、各自動車が道
路を走行することについて一回課税すれば足り、同一の自動車に対して何回も課税
すべきではないとして、中古車を課税対象から除外すべきであるとの意見も出た
が、最終的に、立法趣旨としては、自動車取得税は、その使途を限定しながら、税
としては自動車の取得という事実に担税力を見いだして課する流通税であるとし
て、新車か中古車かを区別すべき理由はないとされたものである。
 地方税法六九九条の一五第一項の規定により、自動車取得税が還付され又はその
納付義務が免除されるのは、返還の理由がもっぱら自動車販売業者の責に帰す場合
であって、買主の責に帰すべさ場合はこれに該当しないのであり、同法六九九条の
三第三項及び同第一項についても、売主の所有権留保は売買代金債権の担保を日的
としているのにすぎず、買主が実質的には所有者であり当該自動車を現実に占有し
て使用するから、特に買主が自動車を取得したものとみなして課税するのが適当で
あるとして設けられた規定であって、本件の場合に、課税するべきではないという
根拠にはならない。
 地方税法六九九条の三第三項は、自動車販売業者が販売のために自動車を取得し
た後、その自動車を使用する場合、その時点において自己所有自動車である以上、
自動車の取得という事実は発生しないから、自動車取得税を課税することができな
いことになり、課税の均衡が失われるとともに、脱税の手段とされる可能性がある
こと、また、運行の用に供されない自動車については、新規登録等の手続がなされ
ないのが通常であるのに対し、運行の用に供するためには新規登録等の手続をする
ことが不可欠であることに鑑み、新規登録等の手続を行った場合には当該自動車を
運行の用に供するものであるとみなす旨規定されたものである。原告は、運行の用
に供したか否かについて細別具体的に判断す
べきである旨主張するが、課税権者側が自動車販売業者側の立証に対して反証を行
うことは事実上不可能であって、そのように解することはできない。
(二) 信義則違反の主張について
 平成四年四月二八日の更正処分以降、原告が新たに登録した自動車についても引
き続き自動車取得税を納付しなかったため、被告は平成六年八月一九日に納付を文
書催告するとともに、原告宅を訪問するなどして納付を求めた。その結果、平成六
年一二月二〇日に一部が納付され、平成七年三月一七日には文書催告にかかる自動
車取得税が完納された。
 通知書は地方税法上の根拠に基づくものではなく、自動車の所有者が道路運送車
両法一〇条に基づき、自動車を新規登録したときは、自動車登録番号標交付代行者
である財団法人関東陸運振興財団(旧名称財団法人陸運賛助会)から自動車登録番
号標の交付を受けることになっているところ、自動車取得税は新規登録については
地方税法六九九条の一一第一号により当該登録時に納付することになっているた
め、便宜上通知書に県税受付印欄を設けているが、これは、単に自動車取得税の申
告がなされたことを証明するにすぎないものであるから、不納付を容認していたも
のではない。
第三 当裁判所の判断
一 地方税法六九九条の三第三項後段の解釈について
 前判示のとおり、原告は、新規登録を受ける前に海外に輸出されていたので国内
で運行の用に供される可能性のなかった本件自動車について地方税法六九九条の三
第三項を形式的に適用して自動車取得税を課すことは、同税が道路に関する費用に
充てるための目的税である趣旨に反する違法なものである旨主張する。
 地方税法六九九条に「道路に関する費用に充てる財源を交付するため、自動車取
得税を課するものとする。」と規定されていることから明らかなように、自動車取
得税は道路に関する費用に充てる目的を有する目的税であるが、他方で、地方税法
六九九条の二第一項が「自動車の取得」を課税要件にしていることから明らかなよ
うに、自動車取得税は「自動車の取得」という事実に担税力を見いだした流通税の
性質をも併せ持つものであるといえる。そして、新規登録を受ける前に海外に輸出
されていたので国内の道路上で運行の用に供される可能性の乏しかった本件自動車
について自動車取得税を課すことは、右目的税である趣旨に即したものであるとは
いい難いものの、右流通税の性質には合致す
る相当なものであるといえる。してみると、右目的税の性質と右流通税の性質を併
せ持つ自動車取得税を本件自動車に課しても違法とまではいえないことになる。し
たがって、原告の右主張は採用できない。
 ところで、自動車取得税の賦課については、まず、地方税法六九九条の二第一項
で「自動車取得税は、自動車の取得に対し、当該自動車の主たる定置場所在の道府
県において、当該自動車の取得者に課する。」との原則規定が置かれている。
 そして、これに対する例外として、地方税法六九九条の二第二項は、前項の「自
動車の取得」には自動車販売業者の販売のための自動車の取得を含まないものとす
る旨の規定を置いている。これは、販売業者が販売目的で取得した自動車は運行の
用に供されることがないことが通常であるので、かような取得形態を課税要件であ
る右「自動車の取得」から除外したものである。
 しかし、右例外に当たる場合であっても、地方税法六九九条の三第三項前段は、
自動車販売業者が販売のため取得した自動車を運行の用に供した場合には当該運行
の用に供することを右「自動車の取得」と、当該販売業者を前記「自動車の取得
者」とみなして自動車取得税を課する旨規定している。この規定は、自動車販売業
者が販売のために自動車を取得した後その目的を変更して自動車を使用する場合、
その時点においては右自動車は自己所有に属するから自動車の取得という事実は発
生せず、地方税法六九九条の二第一項によっては自動車取得税を課することができ
ないことになるが、これを容認すると課税の均衡が失われるとともに、脱税の手段
として悪用される可能性があるから、この弊害を除去するために設けられたもので
ある。
 そして、地方税法六九九条の三第三項後段は、同項前段の場合において、当該販
売業者が、当該自動車について、道路運送車両法七条の規定による新規登録を受け
たときは、右新規登録を同項前段の「運行の用に供すること」とみなす旨規定して
いる。この規定は、運行の用に供されない自動車については新規登録の手続がなさ
れないのが通常であるのに対し、運行の用に供するためには新規登録の手続をする
ことが不可欠であることから、新規登録により自動車を運行の用に供したとみなす
ものである。この規定が設けられた趣旨は、販売業者が自動車を運行の用に供した
ことを課税実務上捕捉することは不可能であるから、同項前段の場合におい
て運行の用に供したか否かについて個別具体的に判断すべきであるとすると、自動
車販売業者側が運行の用に供しなかったように作為した場合、これに対抗して課税
者側が運行の用に供したとの証拠を挙げることが事実上不可能となり、同項前段の
趣旨が潜脱されるおそれがあるので、これを防止するため現実に運行の用に供した
か否かにかかわらず新規登録したことを基準にして自動車取得税を課すことができ
るようにすることにある。この立法趣旨によれば、地方税法六九九条の三第三項後
段のみなす旨の規定は(さらには、同項前段のみなす旨の規定も)、その文言どお
りにみなし規定と解釈されなければならず、右みなし規定の効果に異論のある者も
反証を挙げることが許されないことになる。
 そうすると、本件においても、原告が本件自動車について平成一〇年一二月二五
日新規登録を行ったことは前判示のとおり当事者間に争いがないから、地方税法六
九九条の三第三項後段により右新規登録の事実から本件自動車につき同項前段の
「運行の用に供すること」があったとみなされ(さらには、同項前段により地方税
法六九九条の二第一項の「自動車の取得」があったとみなされ)、適法に自動車取
得税を課税できることになる。
 これに対し、原告は、本件自動車は新規登録前にすでに海外に輸出されていたの
で国内で運行の用に供される可能性は全くなかったものであり自動車取得税の課税
の基礎となる事実がなかった旨主張するが、原告が本件自動車を全く運行の用に供
さなかったことを主張立証したとしても、右各みなし規定は反証を挙げることを許
さないから、原告に対する自動車取得税の課税は何ら妨げられないことになる。
 以上によれば、原告の本件自動車の取得について自動車取得税を課した被告の本
件更正処分は、地方税法に違反するものではなく適法である。
二 信義則違反の主張について
 租税法規に適合する課税処分について、法の一般原理である信義則の法理の適用
により、右課税処分を違法なものとして取り消すことができる場合があるとして
も、法律による行政の原理なかんずく租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律
関係においては、右法理の適用については慎重でなければならず、租税法規の適用
における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分にかか
る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特
別の
事情が存する場合に、初めて右法理の適用の是非を考えるべきものである。そし
て、右特別の事情が存するかどうかの判断に当たっては、少なくとも、税務官庁が
納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示したことにより、納税者がその表示
を信頼しその信頼に基づいて行動したところ、後に右表示に反する課税処分が行わ
れ、そのために納税者が経済的不利益を受けることになったものであるかどうか、
また、納税者が税務官庁の右表示を信頼しその信頼に基づいて行動したことについ
て納税者の責めに帰すべき事由がないかどうかという点の考慮は不可欠のものであ
るといわなければならない(最高裁判所昭和六二年一〇月三〇日第三小法廷判決裁
判集民事第一五二号九三頁)。これを本件についてみると、乙第二号証及び弁論の
全趣旨によれば、原告は、平成四年四月二八日に更正処分を受けた後は、本件同様
に海外に自動車を輸出したうえでその後に新規登録をなしているが、本件更正処分
を受けるまで一度も更正処分を受けたことはないこと、関東運輸局茨城陸運支局内
の財団法人関東陸運振興財団(旧名称財団法人陸運賛助会)には、茨城県水戸県税
事務所の徴収係の職員が出張しているが、長年の間、原告が自動車取得税を納めて
いないにもかかわらず、通知書の「県税受付印」欄に経由印を押して原告に交付し
ていたこと(あくまで受付印であって、不納付を認容したものではないと認められ
る)が認められるが、右認定事実に照らしても、被告や茨城県水戸県税事務所の職
員などが原告に対し、信頼の対象となる公的見解を表示したことにより、原告がそ
の表示を信頼し、その信頼に基づいて行動したところ、後に右表示に反して本件更
正処分が行われ、そのために原告が経済的不利益を受けることになったものとは認
められない。したがって、本件更正処分が信義則に反するとの原告の主張は採用で
きない。
第四 以上のとおりであって、被告が本件自動車について、原告に対して自動車取
得税を課した更正処分は正当であり、原告の本件請求は理由がないからこれを棄却
することとし、訴訟費用の負担については、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一
条を適用して、主文のとおり判決する。
水戸地方裁判所民事第一部
裁判長裁判官 中野信也
裁判官 大熊良臣
裁判官 日野直子

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