弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求めた裁判
(原告ら)
1 被告が原告らに対して昭和四四年一二月二三日付でなした相続税の更正処分お
よび過少申告加算税賦課決定処分を取消す。
2 被告が原告らに対して昭和四四年一二月二三日付でなした被相続人Aに対する
昭和三九年分贈与税の決定処分および無申告加算税賦課決定処分を取消す。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
(被告)
主文同旨。
第二 当事者の主張
(請求の原因)
一 訴外Aは昭和四一年七月二四日死亡し、その妻である訴外Bと子である原告両
名の三名がその相続人となつた。
そこで、右三名の者は昭和四二年一月二〇日被告に対し、亡Aの遺産について別表
(一)(相続税等明細表)の「申告額」欄記載のとおり相続税の申告をし、かつそ
の申告税額を納付した。
二 被告は原告両名に対し、昭和四四年一二月二三日付で別表(一)の「更正額」
欄記載のとおり右相続税の更正(以下、本件相続税更正処分という)ならびに過少
申告加算税賦課決定をなした。なお、訴外Bに対しても、被告は別表(一)の「更
正額」欄記載のとおり更正ならびに過少申告加算税賦課決定をなした。
三 また、被告は原告両名に対し、昭和四四年一二月二三日付で、被相続人Aが昭
和三九年一月二六日有限会社ヤスノ宝石店の出資引受権を取得し、その利益が相続
税法九条に該当するとして、別表(二)(贈与税等明細表)の「決定額」欄記載の
とおり贈与税の決定(以下、本件贈与税決定処分という)ならびに無申告加算税賦
課決定をなした。なお、訴外Bに対しても、被告は同様の各決定をなした。
四 しかしながら、本件相続税更正処分は被相続人Aの遺産の評価をいちぢるしく
誤るものであり、本件贈与税決定処分も被告の不当な見解にもとづくものであるか
ら、被告の原告らに対する各処分はいずれも違法として取消されるべきである。
(請求原因に対する認否)
一 請求原因一ないし三の事実はいずれも認める。
二 同四は争う。
(被告の主張)
一 相続税について
1 訴外Aが昭和四一年七月二四日死亡したことにより、相続人である原告両名
(子)および訴外B(妻)が相続した財産は、別表(四)(相続財産種類別明細
表)記載のとおりであり、その財産評価額は同表「被告主張額」欄記載のとおりで
ある。
2 右財産評価額は「相続税財産評価に関する基本通達(昭和三九年四月二五日付
直資五六、直審一七)」(以下、評価通達という)にもとづき算定したものである
が、そのうち、争点となつている芳正興業株式会社(以下、芳正興業という)の株
式の評価額(別表(四)番号3)および有限会社ヤスノ宝石店(以下、ヤスノ宝石
店という)の出資金の評価額(別表(四)番号4)について詳述すると以下のとお
りである。
(一) 芳正興業の株式の評価額
(1) 被相続人Aが所有していた芳正興業の株式数は五、一二七株であり、一株
の単価は六六五円であるから、その評価合計額は三、四〇九、四五五円である。
(2) 評価通達は、取引相場のない株式の合理的評価方法として、上場会社に準
ずる程度に規模の大きい会社の株式の価額は類似業種比準方式を採用することと
し、個人企業と実質においてほとんど変らない規模の小さい会社(小会社)の株式
の価額は、当該株式の経済的価値が会社財産に対する持分として把握されるため、
個人の事業主について相続開始があつた場合に被相続人である事業主の有していた
一切の財産が相続税課税評価の対象となることとの権衡も考慮して、課税時期にお
ける一株当りの純資産価額によつて評価する方法-純資産価額方式-を採用するこ
ととしている。そして右小会社の範囲は、課税時期(相続開始の日)における資本
金が一億円未満の会社のうち卸売業以外の業種を営む会社について、課税時期の直
前期末の総資産価額(帳簿価額)が三〇、〇〇〇、〇〇〇円未満で、かつ同直前期
末以前一年間における引取金額が六〇、〇〇〇、〇〇〇円未満のものとされている
(評価通達一七八)。
(3) ところで、芳正興業は不動産貸付を案とする会社であり、課税時期におけ
る資本額は一、五〇〇、〇〇〇円、課税時期の直前期末の総資産の帳簿価額は一
五、五八〇、二九五円、同直前期末以前一年間における取引金額は七一七、〇八四
円であるから、右通達に定める小会社に該当する。
そこで、本件課税時期における芳正興業の資産の価額は、負債の金額および直前期
の利益処分として確定した配当金額等は別表(五)(財産目録(一))記載のとお
りであるから、同表中資産の部合計額二二、七二五、八六二円から負債の部小計
一、二六四、八二二円および配当金確定額一、五〇〇、〇〇〇円を控除した金額一
九、九六一、〇四〇円を発行済株式の数三〇、〇〇〇株で除して得られた金額六六
五円が右会社の一株当りの株式評価額となる。
(4) なお、右別表(五)の芳正興業の財産目録のうち、同会社の損益計算書ま
たは、貸借対照表に掲げる数額と異なる数額は、評価通達にもとづき評価替えを行
つたものであり、その算定明細は別表(六)(芳正興業、財産評価表)記載のとお
りである。
(二) ヤスノ宝石店の出資金の評価額
(1) 被相続人Aが所有していたヤスノ宝石店の出資口数は七、七五〇口であ
り、出資一口当りの単価は二、九九四円であるから、その評価合計額は二三、二〇
三、五〇〇円である。
(2) ヤスノ宝石店は貴金属小売を業とする会社であり、課税時期における資本
金額は一、〇〇〇、〇〇〇円、課税時期の直前期末の総資産の帳簿価額は四、一〇
九、一六三円、同直前期末以前一年間における取引金額は七、〇三〇、五七六円で
あるから、評価通達に定める小会社に該当する。
そこで前記芳正興業の株式の評価額算定方法と同様の方法によりヤスノ宝石店の出
資金の価額を計算すると、同会社の資産価額、負債の金額および直前期の利益処分
として確定した配当金額等は別表(七)(財産目録(二))記載のとおりであるか
ら、同表中資産の部合計額三三、三九四、九五七円から負債の部合計額三、四四
六、八五六円を控除した金額二九、九四八、一〇一円を出資口数一〇、〇〇〇口で
除して得られた金額二、九九四円が右会社の出資一口当りの出資金評価額となる。
(3) なお、右別表(七)のヤスノ宝石店の財産目録のうち、同会社の損益計算
書または貸借対照表に掲げる数額と異なる数額は、評価通達にもとづき評価替えを
行つたものであり、その算定明細は別表(六)(ヤスノ宝石店・財産評価表
(一))記載のとおりである。
(4) 右別表(八)のうち、争点となつている借地権の評価額は、ヤスノ宝石店
が訴外株式会社近藤紡績所(以下、近藤紡績所という)の所有する名古屋市<以下
略>(旧町名地番は中区<以下略>であつたが昭和四一年三月三〇日に変更)宅地
四七・五六坪(以下、本件宅地という)上に有していた借地権を左記評価方法によ
り評価したものである。すなわち、借地権の評価方法は、評価通達(二七)では、
借地権の目的となつている宅地の自用地としての価額に別に定める割合を乗じて計
算した価額によるとされている。別に定める割合とは、宅地の価額に対する借地権
の売買実例価額、精通者意見価格、地代の額等を基として評価した借地権の価額の
割合(借地権割合)がおおむね同一と認められる地域ごとに定める割合をいうとこ
ろ、昭和四一年分相続財産評価基準によれば、本件宅地の路線価は坪当り八七三、
〇〇〇円であるから借地権割合は七〇パーセントである。従つて、本件宅地四七・
五六坪に対する借地権価額は二九、〇六三、九一六円となる。
3 右相続財産の評価額を基として計算した原告らの相続税額および右税額より計
算した過少申告加算税額は別表(三)(相続税計算表)記載のとおりである。すな
わち、原告らの相続税額は各一、七六六、三〇〇円、過少申告加算税額は各五九、
五〇〇円である。
4 よつて、本件相続税更正処分による相続税額各一、七四八、三〇〇円、過少申
告加算税額各五八、六〇〇円はいずれも右各金額の範囲内であるから、被告のなし
た本件相続税更正処分および過少申告加算税賦課処分には何らの違法はない。
二 贈与税について
1 被相続人Aは有限会社ヤスノ宝石店の社員であつたが、同会社は、昭和二一年
四月二六日設立された有限会社ヤスノ商事が同三五年五月一二日商号変更された会
社であつて、その出資総額は一五〇、〇〇〇円、出資一口の金額は一〇〇円、また
各社員の氏名、その相互関係、各出資口数は別表(九)(ヤスノ宝石店出資明細
表)123欄記載のとおりの同族会社であつた。
2 ヤスノ宝石店は、昭和三九年一月二六日従来の資本金一五〇、〇〇〇円(出資
一、五〇〇口)を一、〇〇〇、〇〇〇円(出資一〇、〇〇〇口)に増加したが、法
定出資引受権にもとづく出資一口に対する新出資の割当口数の比率、すなわち増資
割合は一対五・六六六であるから、これにより同時点における同社員の法定引受出
資口数を算定すると、別表(九)の4欄記載のとおりである。
ところが、右資本増加に対して、同社社員でありかつ法定出資引受権者であるC、
Dの両名は法定割当分である合計一、七〇〇口を全く引受けず、また同じくBも法
定割当分である一、九八三口のうち一、五〇〇口を引受けたのみで四八三口の引受
をせず、これら引受されない新出資合計二、一八三口全部をAが引受けた。
3 ところで、含み資産を有する会社が増資をすれば、旧出資の価値は増資額との
割合に応じて減少し、新出資の価値は逆に増加する。そこで増資に当たり、増資前
の出資の割合に応じて新出資の引受がなされなかつた場合には、その新出資の全部
または一部の引受をしなかつた者の財産は、旧出資の価値の減少に伴い減少する一
方、増資の割合以上の新出資の引受をした者の財産は、逆にそれだけ増加するか
ら、後者は前者からその差額に相当する利益を取得したことになり、右利益は相続
税法九条により当該利益を取得させたものから贈与によつて取得したものとみなさ
れる。
4 そこで本件についてこれをみるに、ヤスノ宝石店の資本増加において被相続人
Aは、その親族であるB(妻)が引受けなかつた四八三口、C(弟)およびD(妻
の父)が引受けなかつた各八五〇口の合計二、一八三口の出資引受権を昭和三九年
一月二六日同人らからそれぞれ贈与され、自己の法定出資引受口数をこえて新出資
合計二、七五〇口を引受けた。
5 被相続人Aが出資引受権の贈与により受けた利益額は以下のとおりである。
(一) 増資直前におけるヤスノ宝石店の資産を評価通達により評価した価額およ
び負債の金額は別表(一〇)(財産目録(三))記載のとおりである。ただし、右
別表の資産の部のうち、同会社の損益計算書または貸借対照表に掲げる数額と異な
る数額は、評価通達にもとづき評価替えを行つたものであり、その算定明細は別表
(一一)(ヤスノ宝石店・財産評価表(二))記載のとおりである。
(二) 右資産の合計額から負債の合計額を控除した金額二四、九八八、八八九円
を、増資前の出資総口数一、五〇〇口で除して得られる出資一口の価額は一六、六
五八円である。
(三) ところで、増資後の出資一口の評価額の算定にあたつては、出資と実質を
同じくする株式における新株の評価基準によるのが相当であるので、所得税法施行
令一一一条の定めるところに従いこれを計算すると次のとおりである。
すなわち、増資後の出資(新出資)一口当り評価額は、増資割合が前記のとおり
五・六六六倍であるから、旧出資一口の評価額一六、六五八円と新出資の一口の払
込金額一〇〇円に右増資割合を乗じて得た金額の合計額を同増資割合に一を加えた
数で除して計算した金額、すなわち二、五八二となる。
因みに計算内容を示せば次のとおりである。
16、658円+100円×5.666/1+5.666=2、582円
(四) 従つて、出資引受権の一口当り評価額は、右増資後の出資評価額二、五八
二円から増資払込金額一〇〇円を控除した後の金額二、四八二円であるから、Aが
B、C、Dの三名から取得した出資引受権二、一八三口の価額は、五、四一八、二
〇六円となり、右金額が被相続人Aが贈与により利益を受けた金額である。
6 右金額を基として計算した被相続人Aの贈与税額および右税額を基礎として計
算した無申告加算税額は別表(二)(贈与税等明細表)の「決定額」欄記載のとお
りであるから、被告のなした本件贈与税決定処分および無申告加算税賦課処分には
何らの違法はない。
(被告の主張に対する認否)
一 1被告の主張一の1については、相続財産についての別表(四)のうち、「原
告申告額」欄記載の価額の限度で認めるが、これを超える被告主張額(同表中の番
号3、4、10、18、19、21、22)はすべて争う。
2 同一の2については、被相続人Aが芳正興業の株式を有していたこと、同人が
ヤスノ宝石店の社員であり主張の出資口数を有していたこと、ヤスノ宝石店が訴外
近藤紡績所より本件宅地を借り受けて建物を所有していたことは認めるが、その余
は争う。
3 同一の3、4は争う。
二 1 被告の主張二の1、2については認める。
2 同二の3については、一般論としては認めるが、本件ヤスノ宝石店の場合には
該当しないものである。
3 同二の4は認める。
4 同二の5、6は争う。
(原告らの主張)
一 相続税について
1 被相続人Aの遺産のうち、特にヤスノ宝石店に対する出資金についての被告の
評価額は極めて不当である。それは以下に詳述するように、主としてヤスノ宝石店
の有する借地権(以下、本件借地権という)の評価の誤りに基因するものである。
被告の主張する本件借地権の評価は、通常(正常)の借地権の評価方法としてはこ
れを認めるが、本件借地権の特殊性を無視するものであつて不当である。
2 相続税法によれば、借地権の評価は相続財産取得の時における時価によるもの
とされている。これは借地権の個別性の故に、千差万別の事実関係により時価をも
つて評価することが当事者の利益に適合するものとの見地から、時価評価を定めた
ものと思料される。そして、ここに時価とは、相続時の現況において不特定多数の
当事者間で自由に取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額であるとさ
れている。
3 そこで、本件借地権についての事実関係をみると以下のとおりである。
(一) 昭和二〇年一二月頃、被相続人Aは地主である近藤紡績所に本件宅地の借
入方を申入れ、同二一年一月一〇日一時使用のため仮建築物を設ける趣旨の賃貸借
契約書が作成された。
(二) 昭和二一年一月一五日、A名義で建築届が提出された。
(三) 昭和二一年四月二六日、有限会社ヤスノ商事(後にヤスノ宝石店と商号変
更)が設立された。
(四) 昭和二一年中に、前記A名義の建物はヤスノ商事に譲渡され、同時に賃貸
人の承諾なくその借地権が同会社に譲渡された。
(五) 昭和二八年、賃貸人近藤紡績所よりAに対して家屋収去土地明渡の訴が提
起され、昭和三〇年一〇月五日名古屋地方裁判所宅地建物調停委員会において左記
要旨による調停が成立した。
(1) 被告(A)は原告(近藤紡績所)に対し、無条件で昭和四〇年一〇月末日
限り建物を収去し、敷地たる本件宅地を明渡すこと。
(2) 被告(A)は原告(近藤紡績所)に対し、昭和三〇年一〇月以降明渡完了
まで毎月左記賃料(内容省略)を支払うこと。
(3) 原告近藤紡績所と被告E間の家屋収去土地明渡事件において本件調停条項
より被告(A)側に有利に和解あるいは調停が成立したときは、本件当事者間の調
停条項も当然被告(A)側に有利に変更されたものとする。
(4) 参加人有限会社ヤスノ商事は被告(A)の債務につき連帯保証をなすこ
と。
(六) 前項調停条項(3)に掲げてある近藤紡績所とE間の家屋収去土地明渡事
件は昭和三四年七月三日和解成立し、その和解条項はさきにAと近藤紡績所間で成
立した調停条項よりA側に有利であつたため、この有利な条項により昭和三五年五
月一三日当事者間で左記要旨の覚書を取り交した。
(1) 近藤紡績所(甲)はA(乙)に対し、本件宅地を昭和五一年一〇月末日ま
で賃貸する。(2) 乙は本件借地権をヤスノ商事以外の第三者に譲渡し、または
転貸してはならない。
(3) 甲は乙またはヤスノ商事がその建物を第三者に賃貸する等使用させること
に干渉しない。
但し、乙またはヤスノ商事は右に関し甲に迷惑をかけない。
4 以上の事実関係によれば、本件借地権は、被相続人Aにおいてこれをヤスノ宝
石店に譲渡することは認められたが、その他の第三者に譲渡することは禁止され、
わずかに建物を第三者に賃貸等使用させることを認められたに過ぎず、賃貸借の期
限も昭和五一年一〇月末日と限定されたものである。
5 借地権に関しては、借地法が賃借人を保護する幾多の規定を置いてはいるが、
本件借地権は賃貸契約後裁判所において調停が成立し、期限を昭和五一年一〇月末
日と定められた以上、これを伸長することは不可能なものである。それにもかかわ
らず、被告が残存年数の定めなき一般の借地権指数を基準とした評価方式をもつて
本件借地権の評価額を決定したことは不当である。これを常識的に判断しても、利
用価値三〇年の土地と五年の土地との間には価額の点で相当の開きがあることは何
人も否定しえないところである。
6 さらに、現行借地法では一定要件を充たすことにより借地権の譲渡も可能であ
るが、本件借地権は当事者間で取り交した前記覚書により第三者への譲渡が禁止さ
れているものであるから、譲渡益は全く考えられない。従つて、不可能にして不存
在の資産を想定して相続財産を決定する危険を含むことになるが、一応地上権の評
価基準を準用し、地価八七三、〇〇〇円の一〇パーセントをもつて一坪当りの評価
額とすれば、本件借地権の評価額は八七三、〇〇〇円×〇・一×四七・五六坪=
四、一五一、九八八円が妥当である。
7 また、本件の賃借期限は相続開始より一〇年後に到来する。そこで、借地法に
よる非堅固建物の借地権は存続期間が三〇年であるから、一般の借地権評価額二
九、〇六三、九一六円の三〇分の一〇である九、六八七、九七二円を本件借地権の
評価額とすべきである。そうすれば、ヤスノ宝石店の出資一口当り評価額は一、〇
五六円となり、これに被相続人Aの持分七、七五〇口を乗じた八、一八四、〇〇〇
円が同人のヤスノ宝石店に対する出資金の評価額となる。この額が原告の被告に対
する申告額であるが、純資産価額方式によつて出資価額を評価する場合には処分価
額より法人税等四七パーセントを控除した金額が正味課税標準価額であるから、こ
れにより計算すれば、被相続人Aのヤスノ宝石店に対する出資金の評価額は約五、
八九五、〇〇〇円となる。
二 贈与税について
1 被告は、被相続人Aがヤスノ宝石店の増資による出資引受権を取得し、その経
済的利益を享受したと主張する。しかし、増資による出資引受権に利益が生ずるの
は増資前の純資産が当初の払込金すなわち資本金を超える場合であつて、被告は本
件ヤスノ宝石店の資産の評価を誤るものであり不当である。
すなわち、ヤスノ宝石店の増資直前の貸借対照表によれば、負債が資産を一、〇九
二、〇〇〇円上廻つており、簿外の借地権を評価して初めて純資産が増加すること
になるのであるが、本件借地権は、前述(原告らの主張一、3、4)のとおり、賃
貸借期限を昭和五一年一〇月末日と定められており、さらに賃借権を第三者に譲渡
または転貸することを禁止されているなど幾多の制約があるものである。従つて、
これを他に売却することが不可能である実情より考慮し、売却換価することの不可
能な借地権を被告主張の如く多額に評価することは不当である。
2 さらに、被告の「本件では、旧出資口数の割当によらず特定の出資者に増資の
割当が行われたため、割当を受けなかつた者から出資引受権を取得し、その経済的
利益を享受したと認められる」との判断は、全く経済界の実情を無視した偏見であ
る。
すなわち、およそ企業は不測の事態が発生しない限り半永久的に存続するものであ
るから、被告の如くその営業所を売却処分することを前提として価値判断すること
は全く実情に即しないものである。企業に対する投資家は投資の時点における法人
の収益率を重視して増資に応ずべきか否かを判定するものであり、その解散価値の
如きは殆んど問題とせず、主として経営成績と配当率を判定資料とするものであ
る。たとえ解散価値が如何様であろうとも、目前の資金運用を有利に投下すること
こそ投資家にとり唯一の目標とされるのである。
3 本件ヤスノ宝石店は、業績不振のための運転資金の必要を生じ増資を協議した
ものであるが、ヤスノ宝石店の業績はすこぶる不振で創業以来社員に一回たりとも
配当した事実はなく、さりとて解散も断行できず、辛うじて事業を継続するに止ま
り、将来性についても出資者は経済的な期待は望むべくもないため、他の社員が出
資払込に応じない結果、余儀なく被相続人Aが同会社に貸付けた五五〇、〇〇〇円
を増資に振向け、かつ同人とその妻滋子が各一五〇、〇〇〇円を出資して資本金
一、〇〇〇、〇〇〇円の会社とし、御木本真珠店との取引を開始するに至つたもの
である。およそ、同族会社の増資払込の無償譲渡がいわゆるみなす贈与として取扱
われるものは、実質的には贈与とみてもさしつかえないような経済的効果をもつ場
合であり、経済的利益がないと判断して出資者自らが出資引受権を放棄したため、
やむを得ず代表社員たる被相続人Aとその妻が出資金により当面の資金難を切り抜
けた行為に対し、相続税法九条を適用して課税しようとする被告の主張には服し難
いのである。
4 なお、仮に被告の見解が正当としても、課税計算額は五八五、〇四四円とすべ
きものであり、被告主張の課税額は修正されるべきである。
(原告らの主張に対する被告の答弁と反論)
一 相続税について、原告らが本件借地権の事実関係として主張すること(原告ら
の主張一の3)は認めるが、その余は争う。
本件借地権は、その主張する契約内容からも明らかなように、借地法九条の一時使
用のための賃貸借に該当せず、一般の借地権と区別すべき理由はない。
二 ところで、本件借地権と全く同様の事情にある東側隣接地に所在する訴外Eの
有する借地権が昭和四八年中に少なくとも坪当り一、七〇〇、〇〇〇円余で土地所
有者に対し譲渡された事実が認められる。そして右借地権譲渡代価坪当り一、七〇
〇、〇〇〇円は、右借地権の目的土地の昭和四八年一月一日における坪当り正常価
額二、一四五、〇〇〇円の七九パーセント強にあたるものである。
この事実に照らしても、被告が本件借地権の評価にあたつて適用した借地権割合七
〇パーセントは妥当なものというべきであり、本件借地権特有の事情を考慮すべき
であるとの原告らの主張は失当である。
三 贈与税についての原告らの主張は争う。
本件におけるヤスノ宝石店のような閉鎖的な小会社の同族社員は、会社財産との結
合が強く、それだけ出資の会社財産に対する持分的性格が濃いといえるのであるか
ら、配当の有無および配当率をその出資金の評価上考慮することは適当でなく、原
告らの主張は失当である。被告の反論に対する答弁と原告らの再反論)
一 訴外Eの有する借地権が坪当り一、七〇〇、〇〇〇円余で地主に譲渡されたと
の事実は、否認する。
二 仮に右金員が地主より訴外Eに支払われたとしても、右はいわゆる立退料に該
当するものであつて、一種の和解示談金に過ぎず、地主がケースバイケースによつ
て出捐する気持にならなければ発生しない金員である。従つて、それは客観的に確
定することができないものであり、原告らの場合についても、地主が任意に支払つ
てくれればその時になつて初めて財産的価値が発生するものであり、それ迄は全く
零に等しいというべきである。原告らが将来もし相当の立退料を訴外Eの如く受領
したならば、そのときになつて初めて課税すればよいのであつて、未だ何ら確定せ
ず、仮定の事実を前提とし、利益のないところに課税せんとする被告の主張は極め
て不当である。
三 しかも、本件借地権者は訴外ヤスノ宝石店であり、原告らはその一社員の相続
人に過ぎないのである。将来右ヤスノ宝石店がその営業全部を第三者に譲渡したな
らば、その際には本件借地権も幾らかの評価をもつて譲渡されるかもしれないが、
それはあくまでも訴外ヤスノ宝石店の所得であつて、それが直ちに一社員に過ぎな
い原告らの所得となる訳ではないのである。まして、現段階においては、訴外ヤス
ノ宝石店は存続しており、しかも営業成績極めて不振であるにおいては、原告らに
何らの利益もないのに多額の相続税のみ課せられる理由は全くないというべきであ
る。
第三 証拠(省略)
○ 理由
一 請求原因一ないし三の事実(原告らの相続関係、本件相続税・贈与税各課税処
分の内容経緯等)は、いずれも当事者間に争いがない。
二 相税について
原告らの相続財産であるとして被告が主張する別表(四)(相続財産種類別明細
表)記載の財産(負債も含む)のうち、番号1、2、5ないし9、11ないし1
7、20、23各記載のものについては争いがないが、番号3(株式)、4(出資
金)、10(経過利息)、18(預金)、19(未収給料)、21(贈与税)、2
2(延滞税)各記載のものについては、原告らはいずれも同別表「原告申告額」欄
記載の各金額を超える限度でこれを争うので、以下判断する。1 芳正興業株式会
社の株式の評価額(別表(四)番号3)
(一) 被相続人Aが有していた芳正興業の株式(五、一二七株)の評価につい
て、被告主張額は三、四〇九、四五五円であり、原告主張額は三、二七一、〇二六
円である。
(二) 被告は、右株式は非上場株式であるところ、芳正興業は不動産貸付を業と
する会社であり、その資本金額、総資産の帳簿価額、年間取引金額からみて相続税
財産評価基本通達(一七八)に定める小会社に該当するので、その株式の評価はい
わゆる純資産価額方式で評価すべきものであると主張する。そして、証人Fの証言
により真正に成立したものと認める乙第四号証によれば、芳正興業(代表者C)は
不動産貸付を業とする会社であり、資本金一、五〇〇、〇〇〇円、課税時期直前期
末である昭和四一年五月三一日現在の総資産の帳簿価額一五、五八〇、二九五円、
同直前一年間における取引金額七一七、〇八四円であつて、株主九名の同族小会社
であり、その株式は取引相場のない株式であることが認められる。
右の如き個人企業と実質においてほとんど変りない小会社の株式は会社の資産に対
する持分的性格が濃く、その評価は、これを相続財産として評価する場合、個人の
事業主について相続開始があつた場合にその有していた一切の事業財産が相続税課
税評価の対象となることとの権衡も考慮して、相続開始時における一株当りの純資
産価額によつて評価するいわゆる純資産価額方式によつて評価することは合理性を
有するものであるということができる。
(三) そこで右方式によつて評価すると、前顕乙第四号証、成立に争いのない乙
第五ないし第一四号証、第一八ないし第二〇号証、第二四ないし二六号証および証
人Fの証言によれば、本件相続開始時における芳正興業の資産の価額、負債の金額
および直前期の利益処分として確定した配当金額等は別表(五)(財産目録
(一))(但し、芳正興業の損益計算書または貸借対照表に掲げる数額と異なるも
のは、評価通達にもとづき評価替えを行つた額であり、その計算明細は別表(六)
記載のとおりである)記載のとおりであることが認められ、右別表中資産の部合計
額二二、七二五、八六二円から負債の部小計一、二六四、八二二円および配当金確
定額一、五〇〇、〇〇〇円を控除した金額一九、九六一、〇四〇円を発行済株式数
三〇、〇〇〇株で除して得られた金額六六五円が右会社の一株当りの株式評価額で
ある。
従つて、被相続人A所有の芳正興業の株式の評価額は被告主張どおり三、四〇九、
四五五円と認められる。
2 有限会社ヤスノ宝石店の出資金の評価額(同表番号4)
(一) 被相続人Aが有していたヤスノ宝石店の出資金の評価について、被告主張
額は二三、二〇三、五〇〇円であり、原告主張額は八、一八四、〇〇〇円である。
(二) 証人Fの証言により真正に成立したものと認める乙第一号証によれば、ヤ
スノ宝石店は貴金属小売を業とす会社であり、本件課税時期における資本金は一、
〇〇〇、〇〇〇円、同時期直前期末の総資産の帳簿価額は四、一〇九、一六三円、
同直前一年間における取引金額は七、〇三〇、五七六円であつて、出資者五名の同
族小会社であることが認められるので、右ヤスノ宝石店の出資金の評価をいわゆる
純資産価額方式で評価する被告主張の評価方法は、既述(二、1、(2))のとお
り相当であるということができる。
(三) そこで、前顕乙第一号証、成立に争いのない乙第二、三号証、第一八号
証、第二一号証、第二三号証、第二六号証および証人Fの証言によれば、本件相続
開始時におけるヤスノ宝石店の資産の価額、負債の金額および直前期の利益処分と
して確定した配当金額等は別表(七)(財産目録(二))(但し、ヤスノ宝石店の
損益計算書または貸借対照表に掲げる数額と異なるものは、評価通達にもとづき評
価替えを行つた額であり、その計算明細は別表(八)記載のとおりである)記載の
とおりであることが認められる。
(四) 右資産のうち、争点となつている借地権の評価は、簿外資産としてヤスノ
宝石店が訴外株式会社近藤紡績所所有の名古屋市<以下略>宅地四七・五六坪上に
有する借地権(本件借地権)について、右宅地の自用地としての価額(坪当り八七
三、〇〇〇円)に借地権割合(七〇パーセント)を乗じて計算した価額によるもの
である。
今日においては、借地権は一つの客観的価値を有する財産とみなすことができるも
のであるところ、その借地権価額が地価の高低と相凾関係を有するものであり、地
価に対する借地権割合をもつてその価額を算定する方法は広く承認せられていると
ころである。被告の主張する評価通達(二七)による借地権の評価方法は合理性を
有するものであるということができ、原告らも通常の借地権の評価方法としてはそ
の妥当性を争うものではない。
(五) 原告らは、本件借地権の特殊性を主張し、本件借地権は右通常の借地権評
価の方法によらず具体的妥当な時価によつて定めるべきであると主張する。すなわ
ち、原告らは、本件借地権は裁判所における調停・和解調書によつて、その期限を
昭和五一年一〇月末日と定められており、さらにこれを第三者に譲渡または転貸す
ることが禁じられ、地上の建物を堅固建物に改築することが禁止されているなどの
制約のある借地権であるから、本件借地権の評価は一般の通常借地権の評価と同視
することはできず、その残存期間が約一〇年であるから地上権の評価基準(相続税
法二三条)を準用して地価の一〇パーセントをもつてその評価額とするか、あるい
は一般の借地権価額の三〇分の一〇をもつてその評価額とすべきものであると主張
する。
(六) そこで検討するに、本件借地権について、原告主張の如き内容の調停・和
解がなされていることは当事者間に争いがない。しかし、右事実と成立に争いのな
い甲第一ないし第四号証によれば、本件借地権の期間については、昭和二一年にな
された当初の賃貸借契約においては一時使用のための仮建築のみが許された短期間
の賃貸借であつたことが窺われるが、後に裁判所の調停・和解により最終的に確定
した本件賃貸借契約の内容は、本件借地権の存続期間を賃貸借契約成立時の昭和二
一年一一月一日から三〇年後の昭和五一年一〇月末日までとするものであるから、
原告ら主張の覚書作成時からでも右期間満了まで一六年余り存するのであつて、こ
れを一時使用の目的のための賃貸借であるとみるのは無理であること、さらに期間
満了の際には更新を許さず地主に明渡す旨のいわゆる明渡条項の定めがなく以後期
間満了まで賃料を支払う旨の約定がなされていること等から判断すれば、本件借地
権は建物の所有を目的とする通常の借地権であると認めざるをえない。すなわち、
本件借地権は、期間の定めはあるが、一時使用のための借地権とは認められないか
ら、借地法が適用されるものである。そして、借地法四条、六条によれば、期間の
定めある借地権といえども、その期間満了に際し賃貸人に明渡を求める正当事由の
存しない限り賃貸借契約が更新されるべく、また一般に更新される可能性が高いも
のであるのが実情である。これを裁判所における調停・和解によつて期限が定めら
れたとの一事をもつて、期間の伸長が許されず、期間満了をもつて必ず終了すべき
ものとされた特殊な借地権であるとは到底認められない。もつとも、成立に争いの
ない甲第五号証の一、二によれば、昭和四八年に近藤紡績所から本件宅地の所有権
を譲受けた訴外株式会社名古屋観光ホテルから原告Gに対し、昭和五〇年一一月二
八日付書面でもつて、昭和五一年一〇月末日の期間満了をもつて本件宅地の明渡を
求める旨の更新拒絶の通知がなされていることが認められる。しかし、右訴外名古
屋観光ホテルに本件賃貸借の更新拒絶をなしうる正当事由があると認めるべき証拠
は何ら存しないのである(しかも、右訴外名古屋観光ホテルは本件宅地をヤスノ宝
石が賃借していることを知りながらその所有権を譲受けたいわゆる新賃貸人である
から、その正当事由の主張には旧賃貸人に比べてより厳しい制約が存するものであ
る)。将来右貸借関係がどうなるかについてはなお不確定であるとしても、このこ
とは債権債務関係である借地権一般についていえることであつて、特に本件借地権
についてのみ存することではない。
また、原告主張の譲渡制限、建築制限の特約の存在については借地権の無断譲渡・
転貸の禁止、非堅固建物から堅固建物への改築禁止が当時者間に約定されているこ
とは、むしろ通常の借地権一般についていえることであつて(もつとも、これらの
点も一定の条件のもとに許可されることは借地法八条の二、九条の二等に規定され
ているところである)、本件借地権に特有のことであるとは到底認められないもの
である。
さらに、成立に争いのない乙第二七号証の一ないし三、第二八、二九号証、証人F
の証言により真正に成立したものと認める乙第三一号証および同証人の証言によれ
ば、前記新賃貸人訴外名古屋観光ホテルは昭和四八年中に訴外Eから、本件宅地の
東側隣接地に所在し、本件借地権と同様の内容を有する右E所有の借地権を坪当り
一、七〇〇、〇〇〇円余(その借地権割合は約七九パーセントに当る)で買取つて
いる事実が認められるのである。
結局、本件借地権は通常の借地権と何ら異なるところのないものであることが認め
られるのであつて、これを特に価値の低いものであるとする原告らの主張は採用す
ることができず、本件借地権の評価についての原告らの主張は理由がない。
(七) なお、原告らは、本件借地権を有する者は訴外ヤスノ宝石店であるから、
同訴外会社が仮に本件借地権を譲渡してはじめて原告らにも利益が生ずる可能性を
有するに過ぎない旨主張する。しかし、本件では、被相続人Aの有した訴外ヤスノ
宝石店の出資金を評価するに当り、同訴外会社の有する資産の一つである本件借地
権を相続開始の時点において評価しようとするものであり、本件借地権の譲渡を理
由に、処分価額を直ちに原告らの所得と評価して課税せんとするものではない。従
つてまた、純資産価額方式により出資金を評価する場合には処分価額より法人税等
四七パーセントを控除して評価すべきであるとの原告の主張も失当である。
(八) よつて、本件相続開始時におけるヤスノ宝石店の財産の評価は、別表
(七)の資産の部合計三三、三九四、九五七円から負債の部合計三、四四六、八五
六円を控除した金額二九、九四八、一〇一円であり、これを出資総口数一〇、〇〇
〇口で除して得られる金額二、九九四円が同会社の出資一口当りの評価額となる。
従つて、被相続人Aの有したヤスノ宝石店の出資金の評価額は、同人の出資口数が
七、七五〇口であることは当事者間に争いないので、これに右出資一口当り評価額
二、九九四円を乗じて計算すると、二三、二〇三、五〇〇円となる。
3 北陸銀行の定期預金利息(同表番号10)
被相続人Aが有していた北陸銀行名古屋支店の定期預金の昭和四一年七月二四日現
在の経過利息として、被告は九、四七九円の存在を主張する。
証人Hの証言により真正に成立したものと認める乙第一六号証および同証人の証言
によれば、被相続人Aは北陸銀行名古屋支店に合計五一三、四七三円の定期預金を
有し、その昭和四一年七月二四日現在の経過利息が合計九、四七九円存したことが
認められ、これに反する証拠はない。
4 芳正興業の預金、未払給料(同表番号18、19)
被相続人Aが有していた芳正興業の預金および同会社の未払給料として、被告はそ
れぞれ三四、六六五円および三四、八五〇円存した旨主張する。
前顕乙第四号証、証人Fの証言により真正に成立したものと認める乙第一五号証、
第三〇号証および同証人の証言によれば、右被告主張事実をいずれも認めることが
でき、これに反する証拠はない。
5 贈与税、延滞税(同表番号21、22)
被相続人Aの負債として控除されるべき贈与税、延滞税については、原告らはその
存在を否定するが、被告はそれぞれ二、〇五九、九〇〇円と四一六、三二九円を計
上するものである。贈与税については後述する。
以上によれば、被相続人Aの相続財産の課税価額は別表(三)(相続税計算表)記
載のとおり二九、一一五、〇〇〇円であり、相続人である原告ら一人当りの相続税
額は同表記載のとおり一、七六六、三〇〇円であることが認められる。そして、右
税額を基として計算した過少申告加算税額は同表記載のとおり各五九、五〇〇円で
ある。
従つて、本件相続税課税処分および過少申告加算税賦課決定処分は、その更正決定
税額がいずれも右認定金額の範囲内であるから、適法であるということができる。
三 贈与税について
1 ヤスノ宝石店の社員の氏名、各出資口数等が被告主張どおりであること、ヤス
ノ宝石店は昭和三九年一月二六日資本増加の決議を行い、従来の資本総額一五〇、
〇〇〇円(出資一、五〇〇口)を一、〇〇〇、〇〇〇円(出資一〇、〇〇〇口)に
増加し、被相続人Aが被告主張のように他の社員の出資引受権(合計二、一八三
口)を取得して出資したことは当事者間に争いがない。
被告は、ヤスノ宝石店はその増資直前の資産が別表(一〇)(財産目録(三))記
載のとおりであり含み資産のある会社であつたから、被相続人Aが増資に際し他の
社員の出資引受権を譲受けたことは、相続税法九条の贈与により利益を取得した場
合に該当すると主張する。
2 そこで判断するに、前顕乙第一ないし第三号証、第二六号証、成立に争いのな
い乙第一七号証、第三二号証および証人Fの証言によれば、増資直前におけるヤス
ノ宝石店の資産は別表(一〇)(但し、ヤスノ宝石店の損益計算書または貸借対照
表に掲げる数額と異なるものは、評価通達にもとづき評価替えを行つた額であり、
その計算明細は別表(二)記載のとおりである)記載のとおりであることが認めら
れる。そして、右別表(一〇)の資産の合計額から負債の合計額を控除した金額二
四、九八八、八八九円を、増資前の出資総口数一、五〇〇口で除して得られる出資
一口の価額は一六、六五九円であつたと認められる。
このように含み資産を有する会社が増資をすれば、旧出資価値は増資との割合に応
じて減少するのであるが、ヤスノ宝石店の本件増資後の出資一口当り評価額を所得
税法施行令一一一条に定める方式により計算すると、その増資割合が五・六六六倍
であることは当事者間に争いないから、次の計算どおり二、五八四円となる。
16、659円+100円×5.666/1+5.666=2、584円
右のように、増資によつて出資口数が増加しただけ旧出資の価値は減少(本件で
は、一六、六五九円から二、五八四円に減少)したのであるが、新出資は旧出資と
平均化されることにより一口当りの価額は払込金額を上廻ることになる。この価額
が出資引受権の評価額であるが、増資前の出資割合を超えて新出資の引受がなされ
た場合には、その者は増資前の出資割合に応ずる新出資の引受をしなかつた者から
出資引受権の評価額に相当する利益を取得したことになる。そして右利益は、相続
税法九条の贈与により利益を取得した場合に該当するということができる。
そこで、本件増資による出資引受権の一口当り評価額は、前記増資後の出資一口当
り評価額二、五八四円から増資払込金額一口一〇〇円を控除した金額二、四八四円
である。従つて、被相続人Aが前記B、C、Dの三名から取得した出資引受権合計
二、一八三口の価額は、二、四八四円×二、一八三口=五、四二二、五七二円とな
り、右金額が被相続人Aが贈与により利益をうけた金額であると認められる。
3 原告らは、被告の主張する本件借地権の評価額を争い、本件借地権は裁判所に
おける調停・和解調書によつて、その期限を昭和五一年一〇月末日と定められ、こ
れを第三者に譲渡・転貸することが禁じられ、地上の建物を堅固建物に改築するこ
とが禁止されているなどの制約のある特殊な借地権であるから通常の借地権に比べ
てより低額に評価されるべきであると主張する。
しかし、前記二、2(六)で述べたとおり、本件借地権は一般の借地権と何ら変り
のないものであつて、その評価も相当であると認められるから、原告らの右主張は
理由がない。
4 さらに原告らは、被告の主張は企業における出資の実情を見誤るものであると
主張する。すなわち、投資家は企業の収益性を重視するものであるところ、ヤスノ
宝石店は業績不振でこれまで一度も利益配当した事実もなく、他の社員が引受けな
かつた増資額を被相続人Aがやむなく引受けて出資したものであり、本件は増資に
より利益をうける余地のない事案であると主張する。
しかし、本件のヤスノ宝石店のような閉鎖的な小会社の同族社員は会社財産との結
合が強く、それだけ出資持分は会社の資産に対する持分的性格が強いといえるので
あつて、出資持分の評価は会社の純資産の持分の評価と同視しうるといつてよい。
また、同族の小会社においては利益配当を少なくして内部留保することが多く行わ
れているものであり、本件ヤスノ宝石店が含み資産を有する会社であつたことは前
記認定のとおりである。従つて、右会社の出資金の評価を純資産価額方式によつて
評価することは相当であつて、利益配当の有無・配当率をその評価上常に考慮しな
ければならないとすることは適当でない。そして、本件増資による被相続人Aの出
資引受によつて、出資口数の割合に変化があり、同人の出資割合が増加したのであ
るから、その受けた増加分を利益とみて、これについて課税することは相当である
ということができる。原告らの右主張は採用することができない。
5 以上の次第で、被相続人Aは、ヤスノ宝石店の昭和三九年一月二六日の増資に
際し前記五、四二二、五七二円の利益を得、その利益は相続税法九条により贈与に
よつて取得したとみなすべきであるので、法定額の贈与税納付義務を負担したこと
が明らかであるところ、同人の死亡により右義務を原告らが相続したものである。
右利益金額を基として計算した被相続人Aの贈与税の税額および右税額を基礎とし
て計算した無申告加算税額は別表(二)(贈与税等明細表)の「認定額」欄記載の
とおりであり、原告らの各納付税額も同別表記載のとおりそれぞれ六八七、三〇〇
円と六八、七〇〇円である。
従つて、被告のなした本件贈与税課税処分および無申告加算税賦課決定処分は、そ
の決定税額がいずれも右認定金額の範囲内であるから、適法であるということがで
きる。
四 よつて、原告らの本訴請求はいずれも理由がないから失当としてこれを棄却す
ることとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用し
て、主文のとおり判決する。
(裁判官 山田義光 窪田季夫 小熊 桂)

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