弁護士法人ITJ法律事務所

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       主   文
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
       事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人
 主文と同旨。
二 被控訴人
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
第二 事案の概要
 事案の概要は次のとおり付加するほか原判決「事実及び理由」中の「第二 事案
の概要」のとおりであるからこれを引用する。
一 原判決三頁一一行目の「被告高校」の次に「(平成一〇年四月一日に「双葉高
等学校」と名称を変更した。)」を加える。
二 五頁五行目の「復職」の前に「同年一一月一日からの」を加える。
第三 証拠関係
 証拠関係は原審及び当審記録中の書証及び証人等目録のとおりであるからこれを
引用する。
第四 当裁判所の判断
一 争点1について
1 争点1のうち本件解雇時における被控訴人の身体状況及び被告高校における保
健体育授業の概観等については、次のとおり改めるほか、原判決一七頁七行目の
「1 各項中に掲記した」から同二一頁八行目の「一〇分間である(乙一五)。」
までのとおりであるからこれを引用する。
(一) 原判決一八頁一行目の「認められ、」の次に「肩関節がわずかに挙上でき
る程度で、」を加え、同六行目の「歩行に関しては、」から八行目の「走ることは
できない。」までを「歩行能力は、正常人の六〇パーセント程度で、平成九年当時
四二歳の鑑定人(北海道大学医学部教官)が室内廊下で約八秒で歩行できる距離を
一三秒かかり、装具を付けることにより単独歩行ができ、杖を用いると速歩行が可
能であるが、走ることはできない。」に改める。
(二) 同一九頁三行目から同六行目までを「右手による書字は困難である。左手
による場合、健常人と比較すると、紙面筆記、板書共に、半分位の能力であり、実
用的なところまでに達していない。」に改め、同一〇行目の「特に、」から同二〇
頁三行目の「ある。」までを「特に、被控訴人が大勢の人の前で話す場合や緊張し
ているとき相手にとって聞き取りが難しく、高校における授業時を想定すると、授
業を受ける側に立つ生徒の理解と協力が必要となる。」に改める。
2 右に認定した事実及び前掲各証拠並びに弁論の全趣旨を総合すると、被控訴人
は本件解雇通知を受けた平成七年一二月当時において、控訴人高校における体育教
諭として要請される保健体
育授業での各種運動競技の実技指導を行うことはほとんど不可能であったし、教室
内等の普通授業においても発語・書字力がその速度・程度とも少なくとも未成熟な
生徒を対象とすることが多い高等学校の教諭としての実用的な水準に達しないこと
から多大の困難が予想され、とりわけ、授業・部活動中の生徒の傷害等事故の発生
時に適切な措置をとることができないことが確実であり、その余の分掌事務の分担
もその内容・性質と被控訴人の前記能力との相関においてその処理が不可能(例え
ば、学園祭における各種行事の実行指導とか、修学旅行の付き添いなど。)か、相
当の困難が伴う(部活動の顧問等も簡単な口頭によるもののほかは、身体運動を伴
うものは相当困難であろう。)身体状況にあったものと認められ、これらを要する
に、被控訴人の身体能力等は、体育の実技の指導・緊急時の対処能力及び口頭によ
る教育・指導の場面等において控訴人高校における保健体育の教員としての身体的
資質・能力水準に達していなかったものであるから、控訴人高校での保健体育教員
としての業務に堪えられないものと認めざるを得ない。
 もっとも、被控訴人に対して適宜に補助者を付け、分担すべき業務を軽減し、ま
た平素の授業における生徒の理解と協力を得られるならば、被控訴人が保健体育の
教員としての業務を遂行できる場合がありうること、被控訴人が身体障害を克服す
る努力を続ける中で生徒の理解と協力を得つつ教員として活動することで被控訴人
が主張するような教育的効果を期待し得る場合があることは、いずれも首肯し得な
いではない。
 しかし、本件においては、被控訴人がその「身体の障害」によって控訴人の就業
規則一〇条一号所定の「業務に堪えられない」と認められるかどうかが争点であっ
て、被控訴人が主張するような補助や教育的効果に対する期待(ただし、現実問題
としてこれらが常に随伴するとは考えがたい。)がなければ、被控訴人が教員とし
ての業務を全うすることができないのであれば、被控訴人は身体の障害により業務
に堪えられないもの、すなわち同規則の同条項に該当するものであることを肯定す
るに等しいものというべきである。
 また、被控訴人は、公民、地理歴史の教諭資格を取得したから同科目の業務に従
事することができると主張するが、被控訴人は保健体育の教諭資格者として控訴人
に雇用されたのであるから、雇傭契約上保健体育の教諭として
の労務に従事する債務を負担したものである。したがって、就業規則の適用上被控
訴人の「業務」は保健体育の教諭としての労務をいうものであり、公民、地理歴史
の教諭としての業務の可否を論ずる余地はないというべきである。
二 争点2について
1 被控訴人が脳出血を罹患した原因が控訴人高校における過労であると認めるに
足りる証拠はない。
2 証拠(甲一〇、甲一七、甲一八、乙一、乙二、乙三の1、2、乙四から乙八、
乙一〇の1から3、乙一一の1から9、乙一二の1から10、乙一三から乙一五、
原審証人A、同B、同C、当審証人D、原審における被控訴人本人)及び弁論の全
趣旨によれば、次の事実が認められる。
 控訴人高校の教員の体制は、各教科を担当する専任の教員のほか時間講師が置か
れ、その人数構成は一定ではない。平成五年一〇月当時の保健体育の授業は三人の
教員と一人の時間講師が分担し、平成一一年当時の保健体育の授業は四人の教員と
一人の時間講師が分担していた。
 被控訴人は平成六年四月に病院を退院し、その後の通院治療及びリハビリテーシ
ョンを経て担当の医師から「歩行能力獲得、左手への利き手変換完成、構語障害改
善、十分就労可」と記載した平成七年一〇月一九日付け診断書の交付を受け、同月
二三日控訴人に対し就業できる状態に回復したので同年一一月一日から復職するこ
とを希望する旨の復職願を右診断書を添えて提出した。
 控訴人高校の副校長は平成七年一一月一六日被控訴人の担当医師と会って被控訴
人の障害の程度等について聴取したところ、同医師から被控訴人には障害が残って
いるので以前のように元通りの仕事をすることはできないが仕事の内容によっては
就労可能である旨の回答を得た。
 平成七年一一月二九日から同年一二月一九日までの間に被控訴人と控訴人高校の
校長との間で被控訴人の処遇を巡る交渉が行われた。その際の被控訴人の要望の要
旨は賃金の減額はやむを得ないが、一、二年間保健体育の教員として復帰させて欲
しいというもので、これに対する校長の回答の要旨は教員としての復帰は無理であ
り、したがって解職はやむを得ないが、時間講師としての使用を検討したいので年
明けの三学期に週七時間の保健の授業を担当してもらった上で翌年四月以降の処遇
を再検討するというものであった。以上の事実が認められる。
3 前記争いのない事実、一及び前項の各認定事実、とりわけ学校における教員採
用は学校が各教科ごとに教員の能力適性及び組織運営全般に対する総合的検討に基
づいて行うものであること、控訴人は被控訴人のために就業規則を改正するなどし
て解雇の意思表示までの間においてもできるだけ有利に処遇したこと(弁論の全趣
旨)などを併せて考慮すると、本件解雇が解雇権の濫用に当たるものということは
到底できない。
 被控訴人は平成六年に北海道教育委員会から公民、地理歴史の教員免許を受けた
ものであるが(甲6、7)、実務経験がまったくないことや前記書字・発語能力な
どに照らすと、被控訴人が実際に平成八年当初から直ちに社会科教諭として補助・
事務の軽減等のない通常の業務に堪ええたか疑問のあるところであり、この点や控
訴人高校の教職員数等を考慮しても、右の認定判断を動かすには足りない。
 その他、本件解雇が解雇権の濫用であると認めるに足りる証拠はない。
三 以上のとおり、控訴人が平成七年一二月二七日にした本件解雇の意思表示は有
効であって、被控訴人は平成八年一月四日限り控訴人の従業員としての地位を喪失
したものというべきであるから、被控訴人の本件請求はいずれも理由がない。
第六 結論
 よって、被控訴人の本件請求をいずれも認容した原判決は不相当であるからこれ
を取り消した上で、被控訴人の請求をいずれも棄却することとして、主文のとおり
判決する。
札幌高等裁判所第二民事部
裁判長裁判官 大出晃之
裁判官 中西茂
裁判官 森邦明

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