弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を原裁判所に差し戻す。
         理    由
 検察官の控訴趣意は本件記録中の検察官田原迫卓視作成名義の控訴趣意書に記載
のとおりであり弁護人砂山博の答弁は同人作成名義の答弁書に記載のとおりである
から何れもここに引用する。
 同控訴趣意(事実誤認の違法)について
 刑事訴訟法第二四九条第二五六条第一、二項によれば公訴の提起は検察官が起訴
状で指定した被告人以外の者にその効を及ぼさないのであり事件はその指定された
被告人及び公訴犯罪事実とによつて特定されるのであるに拘らず同法第二五四条第
二項が共犯の一人に対してした公訴提起による時効の停止は他の共犯に対してもそ
の効力を有する旨を規定し同法第二三八条第一項(告訴の不可分)と同旨の規定を
設けた所以のものは公訴時効の制度の本旨が単に時間の経過によつて生じた事実上
の状態を尊重することによる犯人の生活の安定を保障するという点にあるのではな
く犯罪によつて蒙る社会的損失が時間の経過によつて不問に附せられるという点に
あるので犯人と指向された人を基礎とするものではなく客観的な事実上の状態を基
礎としている点から生<要旨第二>じた結果に外ならないのである。従つて検察官が
起訴状において共犯の一人として指定して起訴した被告人が仮りに審判
の結果無罪となつたとしてもそれが検察官の特定した公訴犯罪事実が客観的に存在
しないことが明白であるというような場合は論外とするも、一応客観的に存在視さ
るる該犯罪につき当該被告人の所為はその客観的構成要件をも充足しておらず全然
無関係という理由であるならば格別そうでなく単に該犯罪の責任条件を欠如すると
いうに止まるときは当該被告人に対してした公訴提起は他の共犯者に対する関係に
おいても時効停止の効力を生ずるものと言わなければならぬ。之を本件事実関係に
ついて観るとAは機帆船B丸に同船機関長、Cは同船甲板員として乗組み同船船長
たる本件被告人と共謀の上免許を受けないで昭和二四年一〇月七日頃の午後八時頃
熊毛郡種子島沖合海上に於て大島郡方面より船名不詳の漁船で来航した氏名不詳者
より双目糖(台湾糖)三五九八斤黒糖三〇斤その他占領軍衣類等の積換えをし之を
同月九日午前一一時三〇分頃鹿児島湾知林島沖合海上まで運搬して来て右砂糖の密
輸入を図り且つ米占領軍衣類等の関税三一七四円七二銭の逋脱を図つたという公訴
事実について前記A、Cは昭和二五年一月一六日鹿児島地方裁判所川内支部に起訴
されたが同裁判所において無罪の判決を受け更に検察官の控訴申立により福岡高等
裁判所宮崎支部において昭和二六年一二月一四日控訴棄却の判決があり該判決は上
訴の申立なく同年同月二九日確定したこと、本件被告人は事件後間もなく逃走し所
定不明であつたため昭和三〇年八月一九日に至り前記同一の公訴事実について前示
A、Cと共犯関係ありとして鹿児島地方裁判所名瀬支部に起訴せられたが同裁判所
は同年一〇月二五日前記A、Cとの共犯関係は認められず従つて曩に右両名に対し
てした公訴提起によりては時効停<要旨第一>止の効力は生じないとの理由を以つて
免訴の判決を言渡したことは本件記録に徴して明らかである。しかし、</要旨第
一>前記A、C両名に対する典罪の確定判決は本件被告人に対する関係においては拘
束力はなく右両名と本件被告人との共犯関係の有無は専ら現に本件被告人に対する
事件の繋属する当裁判所が本件に現われた証拠により決定すべきものであるところ
本件記録中の検察官指摘の証拠によれば本件公訴事実の存在は勿論該事実について
少くとも本件被告人と前記Aとの間に共犯関係の存することを認められないことは
ないのみならず仮りにそうでないとしても本件被告人が本件公訴犯罪事実である大
島方面からの貨物密輸入を企図したことについてその情を知りながらCは該貨物の
船移しの加勢をし、Aは該貨物積載のB丸の運船に従事したものであり、只右両名
に対する曩の無罪判決に説示するように両名の右のような従犯的行為に出でないこ
とを要求できないような附随的事情があつて他に適当な方法処置をとることは何人
にも期待し得なかつたのでその刑責を負させることかできなかつたというに止まり
両名の所為が該公訴犯罪についてその客観的構成要件を充足していたことは証拠上
明認できるから冒頭説示に照らして自ら明らかなように右両名に対してした公訴の
提起は本件被告人に対する関係においても時効停止の効力を生ずるものと言わざる
を得ない。而して本件公訴犯罪の時完成期間は五年であるところ該犯罪の行われた
のは昭和二四年一〇月九日であり両名に対してした公訴提起は昭和二五年一月一六
日、福岡高等裁判所宮崎支部の控訴棄却の判決により両名に対する事件の判決の確
定は昭和二六年一二月二九日であるから其の間の時効進行の停止により時効完成日
は昭和三一年九月二〇日であるのに本件被告人に対する公訴提起は昭和三〇年八月
一九日であるから未だ本件の時効は完成していないこと明白である。果して然らば
原審が以上と異なり被告人に対し免訴の言渡をしたのは所論の如く事実を誤認した
か若しくは公訴提起による時効停止に関する法令の解釈適用を誤つたものというの
外なく検察官の論旨は理由があり之と異る見解に立つ弁護人の所論には賛成しな
い。
 そこで刑事訴訟法第三九七条に則り原判決を破棄することにする。然しながら本
件被告人に対しては時効期間の未完成を前提として有罪の判決をしなければならな
いのであるが本件貨物の密輸入の用に供したB丸の所有又は占有関係の所在並にそ
の存否及び該貨物の存否並に換価の有無が記録上不明確であり従つて関税法第八三
条により何れを没収し何れを追徴すべきかを判断することができないので更に以上
の諸点を審理させるため同法第四〇〇条本文により本件を原裁判所に差戻すること
にする。仍て主文のように判決する。
 (裁判長裁判官 筒井義彦 裁判官 二見虎雄 裁判官 長友文士)

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