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平成18年11月30日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成18年(ワ)第8320号損害賠償等請求事件
(口頭弁論終結の日平成18年10月16日)
判決
原告A
被告株式会社タイホーコーザイ
訴訟代理人弁護士村林隆一
同井上裕史
訴訟代理人弁理士福田賢三
同福田伸一
被告B
訴訟代理人弁護士村林隆一
同井上裕史
被告ジョンソン株式会社
訴訟代理人弁護士渡部喬一
同小林好則
同仲村晋一
同近藤勝彦
同守田大地
同松井章義
同松田一彦
被告C
訴訟代理人弁護士岡田春夫
同森博之
主文
本件訴えをいずれも却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告らは,原告に対し,それぞれ520万円を支払え。
2最高裁判所第1小法廷平成15年2月5日の決定,主文に基づいて確定判決を
求める。最高裁判所第1小法廷平成17年1月28日の決定主文に基づいて確定
判決を求める。
第2当事者の主張
1原告の主張
(1)被告株式会社タイホーコーザイ(以下「被告タイホー」という。)に対す
る請求
ア原告は,昭和52年6月21日,考案者を原告,考案の名称を「車両のエ
アワイパ」とする考案について実用新案登録出願(実願昭52−8215
5)をした。同出願は,昭和54年1月22日,出願公開(実開昭54−9
438)され,昭和57年12月13日,出願公告(実公昭57−5802
7)された後,登録された(実用新案登録第1501677号。以下「本件
実用新案権」という。)
イ被告タイホーは,昭和54年12月24日,発明者をFら,発明の名称を
「防曇剤」とする発明について特許出願(特願昭54−166942)した。
同出願は,昭和56年7月23日,出願公開(特開昭56−90876)さ
れ,昭和62年10月7日,出願公告(特公昭62−47227)された後,
登録された(特許登録第1441167号。以下「本件特許権1」とい
う。)。
ウ被告タイホーは,本件実用新案権の考案を横取りした。本件実用新案権の
実用新案公報には,機械式ワイパを用いた場合は「前面ウインドガラスに湯
膜が付着しやすいという欠点」があるという指摘があるから,本件実用新案
権の実用新案登録請求の範囲に,油膜で湯膜を防止する防曇剤の考案も含ま
れ,本件特許権1の特許請求の範囲も含まれている。後願である本件特許権
1は無効とされるべきものである。
エ被告タイホーは,自動車用ガラスコーティング剤(商品番号20886。
商品名クリンビューガラスコート撥水剤)及び自動車用くもり止め剤(商品
番号20970。商品名フロントガラス撥水剤)を販売している。上記各商
品は,シリコンオイルを使用した油膜取りクリンビューであり,泡状にして
フロントガラス内側にコーティングして油膜で湯膜を防止するものであり,
本件特許権1に係る発明の実施品である。
オ被告タイホーは,上記各商品を販売して何億円もの利益を得ているところ,
その全額金は,本件実用新案権の権利者である原告が取得すべきものである。
したがって,原告は,被告タイホーに対し,内金400万円の支払を求める。
(2)被告B(以下「被告B」という。)に対する請求
ア原告は,昭和52年3月20日ころ,弁理士である被告Bに対し,車両の
エアワイパーと油の膜でコーティングして湯膜が車両のウインドガラス内側
にできるので湯膜を防止する考案について実用新案登録出願を依頼し,更に
車両のウインドガラス外側に油の膜をコーティングして雨を吹き飛ばしやす
くする考案を開示したところ,被告Bは,上記依頼に基づいた出願をせず,
依頼人である原告の秘密を保持するという職務上の義務に違反して,上記各
考案の内容を漏洩した。
イ訴外E(以下「E」という。)は,昭和49年2月9日,発明者をE,発
明の名称を「艶出し撥水剤」とする発明について特許出願(特願昭49−1
6487)した。同出願は,昭和50年12月19日,出願公開(特開昭5
0−157288)され,昭和53年2月13日,出願公告(特公昭53−
3992)された後,登録された(特許登録第925546号。以下「本件
特許権2」という。)。
ウ本件特許権2は,Eが真の発明者ではなく,上記の被告Bの漏洩の結果,
冒認出願されるに至ったものである。被告タイホーは,横取りした本件特許
権1の発明を実施する商品である油膜取りクリンビューを販売して利得した。
エ原告は,被告Bが原告の上記依頼内容に沿った出願をしていれば,あるい
はその考案の内容を漏洩しなければ,得ることができたであろう400万円
を得ることができなかった。したがって,原告は,被告Bに対し,400万
円の支払を求める。
(3)被告ジョンソン株式会社(以下「被告ジョンソン」という。)に対する請

ア本件実用新案権の実用新案公報には,撥水剤の油の膜シリコンオイルの油
についての指摘があり,本件特許権2の特許公報にはシリコンオイルと指摘
があるから,本件特許権2に係る発明は,本件実用新案権に係る考案の撥水
剤の油シリコンオイルの油を引用したことが明らかである。Eは,漏洩され
た本件実用新案権の考案を横取りして冒認出願したので,本件特許権2は無
効とされるべきものである。
イ被告ジョンソンは,Eとの間で,本件特許権2について実施許諾契約を締
結し,レインダッシュスーパーロング撥水剤(商品番号15221)を販売
している。同商品は,本件特許権2に係る発明の実施品である。
ウ被告ジョンソンは,上記商品を販売して何億円もの利益を得ているところ,
本件実用新案権の権利者である原告は許諾料等を受けるべきである。したが
って,原告は,被告ジョンソンに対し,内金400万円の支払を求める。
(4)被告C(以下「被告C」という。)に対する請求
原告は,訴外D(以下「D」という。)に対し,本件実用新案権の登録料の
納付を依頼したところ,Dは,納付年金1年分を故意に支払わず,その結果,
本件実用新案権は抹消された。原告はDの相続人である被告Cに対し,Dが依
頼に沿った1年分の登録料を支払っていれば得ることができた400万円の支
払を求める。
(5)被告らに対する請求
原告は,被告らに対し,上記(1)ないし(4)の被告らの各行為により被った
精神的苦痛に対する慰謝料として,各被告らに対し,それぞれ120万円の
支払を求める。
2被告らの主張
(1)被告タイホーの主張
ア原告の主張のうち,1(1)アは不知,同イは認め,同ウないしオは,被告
タイホーが本件特許権1に係る発明の実施品である眼鏡用防曇剤を製造販売
し,別の特許権に係る発明の実施品である「自動車くもり止め剤」をクリン
ビューの商品名で製造販売し,利益を得た事実は認めるが,その余は否認な
いし争う。
イ原告は,被告タイホーに対し,次の訴訟を提起した。
①大阪地方裁判所平成16年(ワ)第3264号(以下「16年事件」とい
う。)
②東京地方裁判所平成18年(ワ)第1139号(以下「18年事件」とい
う。)
ウ16年事件における原告の主張は,本件訴訟における原告の主張と全く同
一であるところ,16年事件の判決は原告の請求を棄却しており,本訴にお
ける被告タイホーに対する主張は,前訴と訴訟物を同じくするものであるか
ら,前訴の確定判決の既判力により棄却されるべきものである。
エ18年事件の原告の訴状は,本件の訴状と全く同じであるところ,18年
事件の判決は,訴訟の提起が権利の濫用であるとして,被告タイホーに対す
る訴えを却下した。
本件訴訟は,本人訴訟とはいえ,2度にわたり,大阪地裁,大阪高裁,最
高裁において理由がないとされた事件について,更に東京地方裁判所におい
て訴えを却下されたにもかかわらず,何ら調査研究することなく,専門家と
相談することもなく,漫然と被告タイホーに精神的,経済的に著しく負担を
かけることを目的としてなされたものであり,その主張は,裁判所が買収を
受けたという司法に対する冒涜を理由とするもので,全く事実的,法律的根
拠を欠くものである。したがって,裁判制度の目的に照らし,著しく相当性
を欠くものであり,訴権を濫用するものであるから,本件の訴えの提起は不
適法であって,却下されるべきものである。
(2)被告Bの主張
ア原告は,被告Bに対し,大阪地方裁判所平成11年(ワ)第2664号損害
賠償請求事件(以下「11年事件」という。)に係る訴訟を提起した。
11年事件の原告の主張と本訴の被告Bに対する主張は全く同一であり,
11年事件と本件訴訟は訴訟物が同じである。また,原告は,被告Bに対し,
16年事件に係る訴訟も提起したが,16年事件の判決も,11年事件の被
告Bに対する請求と16年事件の被告Bに対する請求は実質的に同一であり,
訴訟物を同じくするものであるから,前訴の確定判決の既判力により棄却を
免れないと判断している。
イ原告は,被告Bに対し,18年事件に係る訴訟も提起したが,18年事件
の訴状と本件の訴状は全く同一であるところ,18年事件の判決は,訴訟の
提起が権利の濫用であるとして,被告Bに対する訴えを却下した。
本件訴訟は,本人訴訟とはいえ,3度にわたり,大阪地裁,大阪高裁,最
高裁において理由がないとされた事件について,更に東京地方裁判所におい
て訴えを却下されたにもかかわらず,何ら調査研究することなく,専門家と
相談することもなく,漫然と被告Bに精神的経済的に,著しく負担をかける
ことを目的としてなされたものであり,その主張は,裁判所が買収を受けた
という司法に対する冒涜を理由とするもので,全く事実的,法律的根拠を欠
くものである。したがって,裁判制度の目的に照らし,著しく相当性を欠く
ものであり,訴権を濫用するものであるから,本件の訴えの提起は不適法で
あって,却下されるべきものである。
(3)被告ジョンソンの主張
ア原告の主張の1(3)イのうち,被告ジョンソンがレインダッシュスーパー
ロングの販売を行っていたことは認めるが,Eとの間で,本件特許権2につ
いて実施許諾契約をしたことは否認する。被告ジョンソンは,レインダッシ
ュスーパーロングの販売において,いかなる意味においても,原告の技術を
使用していない。
イ原告は,被告ジョンソンに対し,11年事件,16年事件,18年事件に
係る訴訟を提起したところ,11年事件は,請求棄却の判決が控訴棄却によ
り確定し,16年事件は,請求棄却の判決が控訴棄却,上告棄却により確定
した。18年事件は,被告ジョンソンに対する請求を棄却する判決がされた。
ウこのように,原告は,本件請求と実質的に同一の請求を既に3回行って敗
訴しており,本件請求は過去の訴訟の不当な蒸し返しであって,被告ジョン
ソンの地位を不当に長く不安定な状態におき,ことさらに応訴のための負担
を強いるものであって,民事訴訟制度を濫用するものというべきである。し
たがって,本件訴えは,訴権の濫用にあたり,訴えの利益を欠くものとして,
却下されるべきである。
エ仮に,却下されない場合でも,前記のとおり,本件請求は,紛争の蒸し返
しにすぎないから,速やかに棄却されるべきである。
(4)被告Cの主張
ア原告の1(4)の主張について,被告CがDの相続人であることは認めるが,
その余は争う。
イ原告は,平成14年,Dを被告として訴訟を提起したが(大阪地裁平成1
4年(ワ)第1323号。以下「14年事件」という。),同訴訟は,第1回
口頭弁論期日において取下げにより終了した。原告は,被告Cに対し,18
年事件に係る訴訟も提起した。
ウ14年事件,18年事件及び本件訴訟は,いずれも,原告がDに本件実用
新案権の第10年分の登録料の支払を委託したが,Dが同登録料の納付を怠
り,本件実用新案権が登録抹消されたため,その財産的損害の賠償及び慰謝
料をD又はその相続人である被告Cに対して求める趣旨のものである。
原告は,18年事件で敗訴するや,控訴することなく,わずか1か月後に
本件訴訟を提起し,新たな主張や証拠を提出するわけでもなく,裁判所を変
えて,ただ漫然と前訴と実質的に同じ請求を繰り返し,蒸し返しているにす
ぎない。18年事件の訴状と本訴の訴状は実質的に一字一句同じである。
一方,被告Cは,前訴においてせっかく勝訴判決を得たにもかかわらず,
実質的に同一の請求について,応訴の負担を強いられている。原告の請求内
容に何らの根拠もないことを併せ考えれば,いかに本人訴訟とはいえ,原告
の訴え提起は,正当な権利行使とは到底いえず,被告Cの地位を不当に長く
不安定な状況におき,ことさら応訴の負担を強いるものであり,民事訴訟制
度を濫用するものである(なお,14年事件は,被告Cを被告とするもので
はなく,取下げにより終了したが,被告Cは,Dを名宛人とする訴状を受領
し,上申書を裁判所に提出し,Dの死亡及び相続の事実等について説明し,
第1回口頭弁論を傍聴して取下げを確認したのであり,事実上応訴を余儀な
くされている。)。したがって,本件訴えは訴権の濫用にあたり,訴えの利
益を欠くものとして却下されるべきである。
エ本訴は,18年事件と実質的に同一訴訟であり,訴訟物を同じくするもの
であるから,仮に却下されないとしても,前訴の確定判決の既判力により棄
却を免れない。
オ原告は,本件実用新案権に関する第10年分の登録料の支払をDに委託し
たと主張しているが,その具体的事実関係を示す証拠を提出していない。
もっとも,本件実用新案権の登録料は第9年分まで納付されていること,
Dの弁理士としての職業専門家としての誇りからも,Dが平成10年分の登
録料について委託をうけていれば納付していたことは間違いない。第10年
分の登録料の支払がされていないとすれば,そもそも委託の事実がなかった
と考えざるをえない。
原告は14年事件において,Dの原告宛領収書を書証として提出したが,
第9年分のものであり,登録原簿から明らかである納付日付より前の日付の
ものであったことから,Dは,原告に登録料及び手数料を前払してもらい特
許庁に登録料を納付していたことが分かる。したがって,第10年分の納付
も,委託されていたとすれば,原告からDへ前払いされた領収書があってし
かるべきところ,第10年分の領収書は書証として提出されていない。仮に,
平成3年12月に第10年分の登録料を納付しても,それから半年で権利の
存続期間が満了するため,原告は第10年分の登録料の納付を希望しなかっ
たと推測される。
カ原告の被告Cに対する損害賠償請求の法律構成としては,不法行為又は契
約違反が考えられる。
不法行為の構成については,少なくとも原告は平成14年2月の14年事
件の提起時に損害及び加害者を知ったので,それから3年経過後の平成17
年2月に時効にかかる。契約違反の構成については,第10年分の納付期限
は平成3年12月13日であり,原告からの委託は同日又は追納期限である
平成4年6月13日までにあったことになり,同日までに納付しなければ債
務不履行となるから,どんなに遅くとも時効は同日から進行し10年の消滅
時効期間が経過した。
被告Cは,18年事件において消滅時効を援用した。
第3当裁判所の判断
1過去の訴訟
原告が過去に被告らに対して提起した訴訟は,次のとおりである。
(1)大阪地方裁判所平成11年(ワ)第2664号損害賠償請求事件(11年事
件。丁1,2,己1)
ア訴訟物
(ア)被告B関係
被告Bは,守秘義務があるにもかかわらず,昭和52年3月ころ,原告
が被告Bに対して特許又は実用新案の出願のために開示した,ウインドウ
ガラスに油等の物質を塗布することにより水滴を粒状にして吹き飛ばすア
イデアを漏らし盗んだことが不法行為に該当するとして,原告が,被告B
に対し,損害賠償及び慰謝料合計620万円の支払を求めたもの。
(イ)被告ジョンソン関係
被告ジョンソンは,上記の盗まれたアイデアを実施した商品である「レ
インダッシュスーパーロング」を発売して不当に利益を得ているとして,
原告が,被告ジョンソンに対し,1)上記商品の販売の差止め,2)損害賠償
及び慰謝料合計620万円の支払を求めたもの。
イ経過
平成11年7月13日,請求棄却の判決がされた。控訴審では,同年12
月21日,控訴が棄却され,同判決は確定した(丙9,丁6,戊5)。
(2)大阪地方裁判所平成14年(ワ)第1323号損害賠償請求事件(14年事
件。戊1)
ア訴訟物
(ア)被告タイホー関係
被告タイホーが商品「クリンビュー」を製造販売する行為は,本件実用
新案権及び原告が権利者である特許第2566512号の特許権を侵害す
るとして,原告が,被告タイホーに対し,上記侵害行為により被った財産
的損害の賠償及び慰謝料合計520万円の支払を求めたもの。
(イ)被告B関係
被告Bは,昭和52年3月ころ,原告から実用新案登録の出願手続のた
め開示された,1)車両のエアワイパーについてのアイデア,2)ウインドウ
ガラスに油状,ワックス状,油紙又は他の液状,固体状,グリス状のもの
を塗布することにより,ウインドウガラスに付着する雨・水等の水滴を粒
状にして吹き飛ばし,ウインドウガラスに残らないようにしたアイデア,
3)加熱装置を設置して,熱風をウインドウガラスに吹き出して凍結を防止
したり油膜を除去するアイデア,4)防曇剤のアイデアのうち2)ないし4)は
実用新案登録の出願手続をすることなく第三者に漏らし,被告タイホーが
特許出願したことにより(後に本件特許権1として登録),原告は損害を
被ったとして,原告が,被告Bに対し,財産的損害の賠償及び慰謝料合計
520万円の支払を求めたもの。
(ウ)被告C関係
本件実用新案権について,Dが登録料を故意に9年分しか支払わなかっ
たため本件実用新案権は登録抹消されてしまったとして,原告が,Dに対
し,財産的損害の賠償及び慰謝料合計520万円の支払を求めたもの(丙
2)。
イ経過
平成14年3月28日,請求棄却の判決がされた。なお,Dに対する訴え
は,1審の第1回口頭弁論期日(平成14年3月28日)において取り下げ
られた(丙3)。
(3)大阪地方裁判所平成16年(ワ)第3264号損害賠償請求事件(16年事
件。丁3ないし5,戊3)
ア訴訟物
(ア)被告タイホー関係
被告タイホーを権利者とする本件特許権1は,本件実用新案権の実用新
案登録請求の範囲に含まれる油膜を防止する防曇剤の考案を含み,本件実
用新案権の後願であって無効であるところ,被告タイホーは,本件特許権
1の実施品である油膜取りクリンビューを製造販売して利益を得たが,こ
れは本来原告が得るべきものであったとして,原告が,被告タイホーに対
し,原告が得たであろう利益相当額400万円の支払を求めたもの。
(イ)被告B関係
被告Bは,昭和52年3月ころ,原告から車両のエアーワイパの考案に
ついて実用新案登録出願の手続を依頼されたが,その際に原告から開示さ
れた油膜を車両のウインドガラスの内側にコーティングする撥水剤及び防
曇剤の考案について,出願の手続をせず,守秘義務に違反してその内容を
第三者に漏洩した結果,上記考案を発明の内容とする本件特許権1及び2
が出願登録され,被告タイホー及び被告ジョンソンは,それぞれ本件特許
権1及び2の実施品である油膜取りクリンビュー及びレインダッシュスー
パーロングをそれぞれ販売して利益を得たが,被告Bの漏洩行為がなけれ
ば原告はこれらの利益の一部ないし実施許諾料等を得ることができたとし
て,原告が,被告Bに対し,原告が得たであろう利益相当額400万円の
支払を求めたもの。
(ウ)被告ジョンソン関係
被告Bが原告の考案である撥水剤について漏洩したため冒認出願された
本件特許権2について,被告ジョンソンはその実施品であるレインダッシ
ュスーパーロングを製造販売して利益を得たが,冒認出願されなければ原
告は被告ジョンソンから実施許諾料等を受けることができたとして,原告
が,被告ジョンソンに対し,原告が得たであろう利益相当額400万円の
支払を求めたもの。
イ経過
平成16年7月29日,請求棄却の判決がされた。控訴審では,同年12
月24日,控訴が棄却され,平成17年6月30日,決定により上告が棄却
されて,同判決は確定した。
(4)東京地方裁判所平成18年(ワ)第1139号不当利得返還等請求事件(1
8年事件。丙9,丁6,戊5)
ア訴訟物
(ア)被告タイホー関係
被告タイホーは,本件特許権1の実施品である「自動車用ガラスコーテ
ィング剤」(クリンビューガラスコート撥水剤)及び「自動車用くもり止
め剤」(フロントガラス撥水剤)を販売して利益を得ているが,本件特許
権1の特許請求の範囲は,その先願である本件実用新案権の実用新案登録
請求の範囲に含まれ,本件特許権1は,本件実用新案権を盗用したもので
無効となるべきものであるから,前記利益は本来原告が取得すべきもので
あるとして,原告が,被告タイホーに対し,不当利得返還金の内金及び慰
謝料の合計520万円の支払を求めたもの。
(イ)被告B関係
被告Bは,昭和52年3月20日ころ,原告から「油の膜で撥水剤と湯
膜を防止する防曇剤の考案」の実用新案登録出願手続を依頼されたが,原
告から開示された考案の出願手続をせず,守秘義務に違反して考案内容を
漏洩した結果,本件特許権2が冒認出願され,被告タイホーは本件特許権
1の発明を実施する商品(油膜取りクリンビュー)を販売して利得したと
して,原告が,被告Bに対し,得べかりし利益相当額400万円の支払を
求めたもの。
(ウ)被告ジョンソン関係
被告ジョンソンは,本件特許権2の技術的範囲に含まれる「レインダッ
シュスーパーロング」を販売して不当な利益を得ているが,本件特許権2
は,本件実用新案権を盗用して取得された冒認出願であるから,原告は被
告ジョンソンから実施料等を受けるべきであるとして,原告が,被告ジョ
ンソンに対し,不当利得返還金の内金及び慰謝料合計520万円の支払を
求めたもの。
(エ)被告C関係
Dは,本件実用新案権について故意に第10年分の登録料を支払わず本
件実用新案権を失効させたとして,原告が,Dの相続人である被告Cに対
し,10年分の登録料が支払われていれば得たであろう利益相当額及び慰
謝料合計520万円の支払を求めたもの。
イ経過
平成18年5月30日,被告タイホー及び被告Bに対する訴えを却下し,
被告ジョンソン及び被告Cに対する請求を棄却する旨の判決がされた。被告
タイホー及び被告Bに対する訴えが却下されたのは,原告が過去に実質的に
同一の訴訟を複数回行って敗訴しており,過去の訴訟の蒸し返しであるから,
訴権の濫用にあたり訴えの利益を欠くと判断されたためであった。同判決は
同年6月28日の経過により確定した(丙10)。
2判断
(1)被告タイホーに対する訴えについて
原告は,過去に,被告タイホーに対し,14年事件,16年事件,18年事
件の3つの訴訟を提起したが,その請求は,いずれも,本件特許権1が先願で
ある本件実用新案権の実用新案登録請求の範囲に含まれ無効である,本件実用
新案権を盗用したものであるとの前提に立って,被告タイホーが本件特許権1
の実施品であるクリンビューを販売することにより得た利益は,本来原告が得
るべきものであったとして,本訴と同じく不当利得ないし不法行為により,不
当利得の返還ないし損害賠償(慰謝料も含む)を求めるものであって,その請
求の基礎とする事実関係も,本訴の被告タイホーに対する請求とほぼ同一であ
る。
そして,14年事件及び16年事件の被告タイホーに対する請求はいずれも
棄却され,18年事件の被告タイホーに対する訴えは,前訴の不当な蒸し返し
であって訴権の濫用であるとして却下されたにもかかわらず,原告は,18年
事件の判決確定から約1か月後に本訴を提起した。しかも,18年事件の訴状
(丙7,戊4)は,本件の訴状と数か所の文言の相違はあるものの,その内容
・文言をほぼ同じくするものである。
以上に照らせば,本件の被告タイホーに対する訴えの提起は,正当な権利行
使であるとはいえず,被告タイホーの地位を不当に長く不安定な状態において
ことさらに応訴の負担を強いるものであり,被告タイホーに対する本件訴えは,
訴権を濫用する不適法な訴えとして却下を免れない。
(2)被告Bに対する訴えについて
原告は,過去に,被告Bに対し,11年事件,14年事件,16年事件,1
8年事件の4つの訴訟を提起したが,その請求は,いずれも,被告Bが昭和5
2年3月ころ原告から特許又は実用新案の出願のために開示された,ウインド
ウガラスに油等の物質を塗布することにより水滴を粒状にして吹き飛ばすアイ
デアについて,依頼どおりに出願手続をせず守秘義務に違反して漏洩したこと
により,後願である本件特許権1及び冒認出願である本件特許権2が登録され,
被告タイホー及び被告ジョンソンはその実施品であるクリンビュー及びレイン
ダッシュスーパーロングを製造販売して利益を得たが,被告Bの漏洩行為がな
ければ原告はこれらの利益の一部ないし実施許諾料等を得ることができたとし
て,本訴と同じく不当利得ないし不法行為により,不当利得の返還ないし損害
賠償(慰謝料も含む)を求めるものであって,その請求の基礎とする事実関係
も,本訴の被告Bに対する請求とほぼ同一である。
そして,11年事件,14年事件,16年事件の被告Bに対する請求はいず
れも棄却され,18年事件の被告Bに対する訴えは,前訴の不当な蒸し返しで
あって訴権の濫用であるとして却下されたにもかかわらず,原告は,18年事
件の判決確定から約1か月後に本訴を提起した。しかも,18年事件の訴状
(丙7,戊4)は,本件の訴状と数か所の文言の相違はあるものの,その内容
・文言をほぼ同じくするものである。
以上に照らせば,本件の被告Bに対する訴えの提起は,正当な権利行使であ
るとはいえず,被告Bの地位を不当に長く不安定な状態においてことさらに応
訴の負担を強いるものであり,被告Bに対する本件訴えは,訴権を濫用する不
適法な訴えとして却下を免れない。
(3)被告ジョンソンに対する訴えについて
原告は,過去に,被告ジョンソンに対し,11年事件,16年事件,18年
事件の3つの訴訟を提起したが,その請求は,いずれも,本件特許権2は原告
が昭和52年3月に被告Bに開示したアイデアを横取りした冒認出願であって
無効であるとの前提に立って,被告ジョンソンが本件特許権2の実施品である
レインダッシュスーパーロングを販売したことによる利得につき原告が実施許
諾料等を受けるべきであるとして,本訴と同じく不当利得ないし不法行為によ
り,不当利得の返還ないし損害賠償(慰謝料も含む)を求めるものであって,
その請求の基礎とする事実関係も,本訴の被告ジョンソンに対する請求とほぼ
同一である。
そして,11年事件,16年事件,18年事件の被告ジョンソンに対する請
求はいずれも棄却されたにもかかわらず,原告は,18年事件の判決確定から
約1か月後に本訴を提起した。しかも,18年事件の訴状(丙7,戊4)は,
本件の訴状と数か所の文言の相違はあるものの,その内容・文言をほぼ同じく
するものである。
以上に照らせば,本件の被告ジョンソンに対する訴えの提起は,正当な権利
行使であるとはいえず,被告ジョンソンの地位を不当に長く不安定な状態にお
いてことさらに応訴の負担を強いるものであり,被告ジョンソンに対する本件
訴えは,訴権を濫用する不適法な訴えとして却下を免れない。
(4)被告Cに対する訴えについて
原告は,過去に,Dに対して14年事件,被告Cに対して18年事件に係る
訴訟をそれぞれ提起したが,その請求は,いずれも,Dが本件実用新案権につ
いて故意に第10年分の登録料を支払わず本件実用新案権を失効させたとして,
D又はDの相続人である被告Cに対し,本訴と同じく債務不履行又は不法行為
に基づき,10年分の登録料が支払われていれば得たであろう利益相当額及び
慰謝料の支払を求めるものであって,その請求の基礎とする事実関係も,本訴
の被告Cに対する請求とほぼ同一である。
そして,14年事件は取下げにより終了したものの,18年事件の被告Cに
対する請求は棄却されたにもかかわらず,原告は,18年事件の判決確定から
約1か月後に本訴を提起した。しかも,18年事件の訴状(丙7,戊4)は,
本件の訴状と数か所の文言の相違はあるものの,その内容・文言をほぼ同じく
するものである。
以上に照らせば,本件の被告Cに対する訴えの提起は,正当な権利行使であ
るとはいえず,被告Cの地位を不当に長く不安定な状態においてことさらに応
訴の負担を強いるものであり,被告Cに対する本件訴えは,訴権を濫用する不
適法な訴えとして却下を免れない。
(5)「最高裁判所第1小法廷平成15年2月5日の決定,主文に基づいて確定
判決を求める。最高裁判所第1小法廷平成17年1月28日の決定主文に基づ
いて確定判決を求める。」との訴えについて
上記は,別件の最高裁判所の決定主文に基く確定判決を求めるという訴えと
解されるが,法的根拠を欠くことは明白であり,不適法であって却下を免れな
い。
3結論
よって,本件訴えは,いずれも不適法な訴えであるから却下することとし,主
文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官山田知司
裁判官高松宏之
裁判官村上誠子

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