弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人岡本繁四郎の上告趣意書は末尾に添えた別紙記載の通りである。
 (一)上告論旨第一点は、原審公判は被告人を拘禁して行つたものであるのに、
原判決が右拘禁が正当の理由によるものであることを説明していないのは、憲法第
三四条後段(論旨に第二項とあるのは誤り)および刑訴応急措置法第二条に反する、
というのである。しかし、令状によつて勾留された者は、憲法第三四条後段および
刑訴応急措置法第六条第二項に基き勾留理由の開示を求めることができるばかりで
なく、正当な理由がないと信ずるときは旧刑訴法第四五七条、第四七〇条によつて
勾留決定に対し抗告を為し、あるいは保釈を請求し、これが却下決定に対しても抗
告の途が開かれており、また人身保護法第二条による救済をも求め得るのである。
すなわち被拘禁者は以上の各制度を活用することによつて憲法第三四条後段の保障
する自由権享有の万全を期し得るのであり、すなわち問題は判決手続外に解決せら
るべきであつて、判決書に拘禁勾留の理由を記載することは実質上の意義なく、ま
た憲法第三四条の要求するところでない。それゆえ原審判決に「勾禁の理由付がな
い」と非難する上告論旨は、憲法の要求しない点を問題とするものであつて、上告
の適法な理由にならない。
 (二)上告論旨第二点は、長期拘禁による原審の裁判は憲法第三七条の「公平な
裁判所の迅速な公開裁判」でなく、原審裁判はこの点につき何らの説明をもしてい
ない、というのである。その趣旨は裁判が迅速でなかつたとの非難と思われる。し
かし記録によれば、本件裁判は公判の請求が昭和二三年八月九日、第二審判決の言
渡が同年一二月二一日、すなわち四ケ月半足らずであつて、今日の実例上迅速な裁
判ならずとは言えない。第一審の第一回公判期日の指定から第二審の判決言渡まで
六ケ月半かかつた右裁判を憲法第三七条第一項に違反しないとした当裁判所大法廷
の判例がある(昭和二三年(れ)第七三号同年七月七日判決)。そして仮りに裁判
が迅速でなかつたとしてもそれを上告の理由とすることができないことは、これま
た当裁判所大法廷の判例とするところである(昭和二三年(れ)第一〇七一号同年
一二月二二日判決)。なお裁判が迅速であつたかどうかということは何ら判決にお
いて説明を要する事項でないから、原判決がその点に触れていないのは当然であつ
て、要するに論旨は理由がない。
 よつて旧刑事訴訟法第四四六条および最高裁判所裁判事務処理規則第九条第四項
に従い、主文の通り判決する。
 以上は当小法廷裁判官全員一致の意見である。
 検察官 柳川真文関与
  昭和二四年七月五日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠

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