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平成24年12月25日判決言渡
平成24年(行ケ)第10094号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成24年10月30日
判決
原告三井金属鉱業株式会社
訴訟代理人弁護士高橋雄一郎
同北島志保
被告ソニー株式会社
被告古河電気工業株式会社
被告ら両名訴訟代理人弁護士上山浩
同小川直樹
同井上拓
被告古河電気工業株式会社訴訟代理人弁理士
山﨑京介
同古川友美
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2010-800119号事件について平成24年2月9日にした
審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,被告らが有する後記本件特許について特許庁がした無効不成立審決の取
消しを求める事案であり,争点は,後記本件訂正の適否及び進歩性の有無である。
1特許庁における手続の経緯
被告らは,発明の名称を「非水電解液二次電池及び非水電解液二次電池用の平面
状集電体」とする特許第3742144号(平成8年5月8日出願,平成17年1
1月18日設定登録,請求項数4。以下「本件特許」という。)の特許権者である。
原告は,平成22年7月15日,特許庁に対し,本件特許について無効審判を請
求した(無効2010-800119号事件)。被告らは,平成23年12月21
日,特許庁に対し,本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」と
いう。)の訂正(以下「本件訂正」とい,本件訂正後の明細書を「本件訂正明細
書」という。)を請求した。
特許庁は,平成24年2月9日,「訂正を認める。本件審判の請求は,成り立た
ない。」との審決をし,その謄本は同年2月17日原告に送達された。
2特許請求の範囲の記載
(1)本件訂正前の特許請求の範囲の記載(甲3)
「【請求項1】
平面状集電体の表面に電極構成物質層が形成されてなる正極及び負極を備える非
水電解液二次電池において,
負極の平面状集電体は,銅を電解析出して形成される電解銅箔からなり,
上記電解銅箔は,マット面の表面粗さが10点平均粗さにして3.0μmより小
さく,このマット面と反対側の光沢面との表面粗さとの差が10点平均粗さにして
2.5μmより小さいことを特徴とする非水電解液二次電池。
【請求項2】
非水電解液二次電池の負極を構成する平面状集電体であって,
当該平面状集電体は,銅を電解析出して形成される電解銅箔からなり,
上記電解銅箔は,マット面の表面粗さが10点平均粗さにして3.0μmより小
さく,このマット面と反対側の光沢面との表面粗さとの差が10点平均粗さにして
2.5μmより小さいことを特徴とする平面状集電体。
【請求項3】
上記電解銅箔の少なくとも一方の面が,防錆被膜によって被覆されていることを
特徴とする請求項1記載の非水電解液二次電池。
【請求項4】
上記電解銅箔の少なくとも一方の面が,シランカップリング剤によって被覆され
ていることを特徴とする請求項1記載の非水電解液二次電池。」
(2)本件訂正後の特許請求の範囲の記載(甲4の9の2)
(下線部が訂正箇所。以下,本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1~4に記載
された各発明を「本件発明1」「本件発明2」などといい,本件発明1~4を併せ
て「本件発明」という。)
「【請求項1】
平面状集電体の表面に電極構成物質層が形成されてなる正極及び負極を備える非水
電解液二次電池において,
負極の平面状集電体は,銅を電解析出して形成され,クロメート処理が施された電
解銅箔からなり,
上記電解銅箔は,マット面及び光沢面の表面粗さが10点平均粗さにして3.0μ
mより小さく,このマット面と反対側の光沢面との表面粗さの差が10点平均粗さ
にして1.3μm以下であることを特徴とする非水電解液二次電池。
【請求項2】
非水電解液二次電池の負極を構成する平面状集電体であって,
当該平面状集電体は,銅を電解析出して形成され,クロメート処理が施された電解
銅箔からなり,
上記電解銅箔は,マット面及び光沢面の表面粗さが10点平均粗さにして3.0μ
mより小さく,このマット面と反対側の光沢面との表面粗さの差が10点平均粗さ
にして1.3μm以下であることを特徴とする平面状集電体。
【請求項3】
平面状集電体の表面に電極構成物質層が形成されてなる正極及び負極を備える非水
電解液二次電池において,
負極の平面状集電体は,銅を電解析出して形成される電解銅箔からなり,
上記電解銅箔は,マット面及び光沢面の表面粗さが10点平均粗さにして3.0μ
mより小さく,このマット面と反対側の光沢面との表面粗さの差が10点平均粗さ
にして1.3μm以下であって,上記電解銅箔の少なくとも一方の面が,防錆被膜
によって被覆されていることを特徴とする非水電解液二次電池。
【請求項4】
平面状集電体の表面に電極構成物質層が形成されてなる正極及び負極を備える非水
電解液二次電池において,
負極の平面状集電体は,銅を電解析出して形成される電解銅箔からなり,
上記電解銅箔は,マット面及び光沢面の表面粗さが10点平均粗さにして3.0μ
mより小さく,このマット面と反対側の光沢面との表面粗さの差が10点平均粗さ
にして1.3μm以下であって,上記電解銅箔の少なくとも一方の面が,シランカ
ップリング剤によって被覆されていることを特徴とする非水電解液二次電池。」
3審決の理由
審決の理由は別紙審決書写し記載のとおりであり,その要点は次のとおりである。
(1)本件訂正(訂正事項1~32)について
ア訂正事項2,6,11,14,17,20,23,25,27,30につい

上記訂正事項のうち,訂正事項25以外のものは,「マット面と反対側の光沢面
との表面粗さとの差」を「マット面と反対側の光沢面との表面粗さの差」に訂正す
るものであり,訂正事項25は,「長さLだけだけ」を「長さLだけ」に訂正する
ものであるから,いずれも誤記の訂正を目的とするものである。
これらの訂正は,本件特許の出願時の願書に最初に添付した明細書に記載した事
項の範囲内においてしたものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更す
るものではない。
イ訂正事項4,32について
上記訂正事項は,請求項1,2に記載された「電解銅箔」を「クロメート処理が
施された電解銅箔」に訂正するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とす
るものである。
これらの訂正は,本件特許の出願時の願書に最初に添付した明細書に記載した事
項の範囲内においてしたものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更す
るものではない。
ウ訂正事項1,3,5,7~10,12,13,15,16,18,19,2
1,22,24,26,28,29,31について
訂正事項1,3,5,7は,請求項1,2に記載された「マット面の表面粗さが
10点平均粗さにして3.0μmより小さく,このマット面と反対側の光沢面との
表面粗さとの差が10点平均粗さにして2.5μmより小さい」を,「マット面及
び光沢面の表面粗さが10点平均粗さにして3.0μmより小さく,このマット面
と反対側の光沢面との表面粗さの差が10点平均粗さにして1.3μm以下」に訂
正するものであり,訂正事項8,9は,請求項1の記載を引用して上記記載を含む
独立請求項に書き改めるものであって,いずれも,請求項1~4に係る発明の発明
特定事項であった「マット面の表面粗さ」「マット面と光沢面の表面粗さの差」さ
らにこの二つの発明特定事項から計算上発明特定事項となる「光沢面の表面粗さ」
について,その数値範囲をより限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を
目的とするものである。
訂正事項10,12,13,15,16,18,19,21,22,24,26,
28,29,31は,発明の詳細な説明において上記と同様の訂正をするものであ
り,請求項の記載に発明の詳細な説明を整合させるものであるから,明りょうでな
い記載の釈明を目的とするものである。
これらの訂正は,本件特許の出願時の願書に最初に添付した明細書に記載した事
項の範囲内においてしたものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更す
るものではない。
(2)無効理由について
原告(請求人)が主張した無効理由は,本件発明1,2の新規性の欠如(無効理
由1,2)及び進歩性の欠如(無効理由3,4),本件発明3,4の進歩性の欠如
(無効理由5,6)並びにサポート要件違反(無効理由7)である。
審決は,無効理由1~7はいずれも失当であり,本件特許を無効とすることはで
きないと判断した。
ア無効理由1~6(新規性・進歩性の欠如)について
本件発明2は,特開平5-74479号公報(甲1の1。以下「引用例」とい
う。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)ではないし,引用発明に基
づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでもない。本件発明2の平面
状集電体を用いた非水電解液二次電池に相当する本件発明1も同様である。
本件発明3,4も,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をす
ることができたものではない。
したがって,無効理由1~6は失当である。
(ア)引用発明
「非水系電解質溶液を用いる非水系二次電池の負極集電体であって,光沢,半光
沢の圧延金属箔をエッチング処理等により表面粗度として0.1~0.9μmに制
御してなる負極集電体。」
(イ)本件発明2と引用発明の一致点
「非水電解液二次電池の負極を構成する平面状集電体であって,当該平面状集電
体は,箔からなる平面状集電体。」である点
(ウ)本件発明2と引用発明の相違点
a相違点1
本件発明2が「銅を電解析出して形成され,クロメート処理が施された電解銅
箔」であるのに対し,引用発明は「圧延金属箔をエッチング処理等」したものであ
る点。
b相違点2
本件発明2が「マット面及び光沢面の表面粗さが10点平均粗さにして3.0μ
mより小さく,このマット面と反対側の光沢面との表面粗さの差が10点平均粗さ
にして1.3μm以下である」のに対し,引用発明は「表面粗度として0.1~
0.9μmに制御してなる」ものである点。
(エ)相違点の判断
相違点1について,甲1には,引用発明について,圧延金属箔をエッチング処理
等したもののほか,電解メッキにより直接得られる銅箔を用いてもよいことが記載
されており,これは電解銅箔を用いることを示唆するものと認められるが,クロメ
ート処理を施すことについての記載や示唆はない。
相違点2について,甲1に,「表面粗度」を金属箔表面の凹部の平均の深さとし
て測定することが記載されているが,この「表面粗度」と本件発明2の「10点平
均粗さ」とは測定方法が異なるから,両者の関係性が明らかでなく,両者を対応づ
けることができない。また,引用発明の数値限定は,硬質な圧延箔を前提に,活物
質の塗布工程における接着性向上を目的として粗面化するものであるのに対し,本
件発明2の数値限定は,軟質な電解箔を前提に,塗布工程ではなく,活物質とのプ
レス工程における変形性向上を目的として平滑化するものと解され,両者の数値限
定はその目的も異なるから,本件発明2の数値限定は,引用発明の数値限定から実
験的に容易になし得たものではない。
したがって,引用発明において,相違点1,2を解消することは容易ではない。
イ無効理由7(サポート要件違反)について
本件訂正明細書の発明の詳細な説明には,本件発明の課題とその課題を解決する
手段,その具体例において課題が解決されたことが記載されているから,本件発明
は,発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できる
ように記載されたものである。
したがって,無効理由7は失当である。
第3取消事由に関する原告の主張
審決には,サポート要件の判断の誤り(取消事由1),訂正要件の判断の誤り
(取消事由2),本件発明2と引用発明の一致点及び相違点1の認定の誤り(取消
事由3),本件発明2と引用発明の一致点及び相違点2の認定の誤り(取消事由
4),引用発明における「表面粗度」の認定の誤り(取消事由5)及び進歩性の判
断の誤り(取消事由6)があり,これらの誤りは審決の結論に影響を及ぼすもので
あるから,審決は違法なものとして取り消されるべきである。
1サポート要件の判断の誤り(取消事由1)
訂正事項1,3,5,7~10,12,13,15,16,18,19,21,
22,24,26,28,29,31について,光沢面の表面粗度の上限をマット
面の表面粗度の上限と同一の3.0μmとすることについては,本件特許明細書の
どこにも記載がなく,被告らが審判手続において主張した技術常識から自明でもな
いから,本件特許は,サポート要件を満たさないため無効であるところ,審決は,
サポート要件の判断を誤っており,違法である。
(1)本件特許明細書に記載がないこと
本件特許明細書のどこにも,光沢面の表面粗度の上限を「3.0μm」とするこ
と,「マット面の表面粗度は光沢面の表面粗度より大きい」ことは記載されていな
い。
(2)被告らが審判手続において主張した「技術常識」が存在しないこと
被告らは,審判手続において,光沢面の表面粗度の上限をマット面の表面粗度の
上限と同一の3.0μmとする根拠として,本件特許出願時においては,電解銅箔
において,光沢面の方がマット面に比べて表面粗さが小さいことは「技術常識」で
あったと主張し,かかる技術常識に基づいて,光沢面の表面粗度の上限がマット面
の表面粗度の上限を超えることはないという理由により,光沢面の表面粗度の上限
をマット面の表面粗度の上限と同一に訂正することを主張した。しかし,そのよう
な技術常識は存在しない。その理由は以下のとおりである。
ア被告ら主張の「技術常識」と実施例とが矛盾すること
本件特許明細書には,光沢面よりもマット面の方が表面粗さが小さい実施例2
(甲3の【0041】,【0051】,【表1】)及び実施例3(【0045】,
【0051】【表1】)が記載されている。本件特許に関して明細書に記載した実
施例と矛盾する技術常識を被告らが審判手続において主張することは許されない。
イ被告ら主張の「技術常識」と矛盾する公知文献が存在すること
本件特許出願時より前に出願された特開平9-143785(甲1の32)の
【請求項1】には,「未処理銅箔の析出面(マット面に対応する)の表面粗度Rz
が該未処理銅箔の光沢面の表面粗度Rzと同じか,それより小さい箔」が記載され
ている。また,甲1の32の明細書中の各実施例1から4には,光沢面粗さ(R
z)≧粗面(マット面に相当する)粗さ(Rz)である電解製箔によって製造され
た未処理銅箔が記載されている(甲1の32【0026】,【0029】の表2の
実施例1から実施例4のRzを参照)。甲1の32の請求項1又は実施例1から4
に記載の電解銅箔は,メッキ処理や粗化処理を施していない未処理銅箔であること
から,甲1の32には,メッキ処理や粗化処理を施さない未処理の電解銅箔であっ
て,被告らが審判手続において主張した「光沢面の方がマット面に比べて表面粗さ
が小さい」という「技術常識」と矛盾する電解銅箔が記載されている。
また,甲1の32の出願審査経緯(甲1の33の1~29)において,「未処理
銅箔の析出面の表面粗度Rzが該未処理銅箔の光沢面の表面粗度Rzと同じか,そ
れより小さい箔の析出面上に粗化処理を施したことを特徴とする電解銅箔。」(甲
1の33の2)という出願当初の請求項1に記載の発明は,審査官が拒絶理由に記
載した引用例1及び引用例2において電解銅箔の粗面と光沢面の粗度を同程度にす
ることが記載されている(甲1の33の11)と指摘されている。さらに,補正後
の請求項1に記載の「未処理銅箔の析出面の表面粗度Rzが該未処理銅箔の光沢面
の表面粗度Rzより小さい箔の析出面上に粗化処理を施したことを特徴とする電解
銅箔。」(甲1の33の16)という発明についても,拒絶理由通知において審査
官から引用例1に開示された電解銅箔は,マット面の表面粗度が光沢面のそれより
小さい場合をも示唆している(甲1の33の21)と指摘された結果,特許査定さ
れることなく拒絶されている。したがって,甲1の32の出願当初において,「未
処理銅箔の析出面の表面粗度Rzが該未処理銅箔の光沢面の表面粗度Rzと同じか,
それより小さい箔」は公知であったといえる。
よって,被告らが審判手続において主張した「技術常識」と矛盾する未処理の電
解銅箔が記載された公知文献が存在する。
ウ被告ら主張の「技術常識」はマット面に光沢銅メッキを施すことと矛盾する
こと
被告らが審判手続において「技術常識」であると主張した「電解銅箔において,
光沢面の方がマット面に比べて表面粗さが小さい」という事実は,少なくとも本件
特許明細書に記載されているように「光沢銅メッキを施した面」も「マット面」に
含まれるという前提においては妥当しない。なぜなら,マット面に光沢銅メッキを
施した結果,マット面がメッキ処理前に比べて滑らかになることは当然であるため,
どのようなメッキ処理を施すかによって,メッキ処理後のマット面の表面粗さが光
沢面よりも小さくなる場合が当然に含まれることになるからである。
2訂正要件の判断の誤り(取消事由2)
訂正事項4及び32(電解銅箔にクロメート処理を行うことを要件とする訂正)
は,訂正要件を満たさず違法である。本件特許明細書(甲3)には,実施例1~3
のみならず,比較例1においても電解銅箔にクロメート処理を行ったことが記載さ
れているが(段落【0032】,【0041】,【0045】,【0048】),
クロメート処理を行わない電解銅箔を用いた比較例の記載はない。
仮に,被告らが審判手続において主張したように,本件発明においてクロメート
処理を施すことで電池特性に大きな好ましい効果を奏するというのであれば,クロ
メート処理を施した実施例とクロメート処理を施さない比較例とを用いて,クロメ
ート処理を施した本件発明の効果を明らかにする必要がある。しかるに,本件特許
明細書には,クロメート処理を施すことによって生じる本件発明の効果は全く開示
されていない。
被告らは,非水電解液二次電池の負極を構成する平面状集電体の防錆処理として
クロメート処理を採用した場合に良好な電池特性が得られることの実施例が本件特
許明細書【0041】及び【0045】に記載されていると主張する。しかし,
【0041】及び【0045】には,「電解箔にクロメート処理を行った」こと又
は「銅メッキが施された電解銅箔に同様にクロメート処理を施した」ことが記載さ
れているのみであって,このクロメート処理によって良好な電池特性が得られるこ
とについては何ら記載されていない。
したがって,訂正事項4及び32は,特許法134条の2第1項,134条の2
第9項,126条5項に記載の新規事項追加により訂正要件を欠く。
3本件発明2と引用発明の一致点及び相違点1の認定の誤り(取消事由3)
審決は,本件発明2と引用発明の相違点1を,「本件発明2が『銅を電解析出し
て形成され,クロメート処理が施された電解銅箔』であるのに対し,引用発明は
『圧延金属箔をエッチング処理等』したものである点。」と認定している。
しかし,甲1の1には,非水系電解質溶液二次電池の集電体として「電解メッキ
により直接得られる銅箔」を用いることが記載されており(【0020】),ここ
で「電解メッキにより直接得られる銅箔」とは,すなわち電解銅箔のことである。
審決は,「甲第1号証には・・・電解メッキにより直接得られる銅箔を用いても
よいこと(摘記1-3参照)が記載されており,これは電解銅箔を用いることを示
唆するものと認められる」(審決書19頁8~11行)としているが,ここでいう
甲第1号証(本件訴訟における甲1-の1)の摘記1-3の記載は,単に電解銅箔
を用いることを示唆するものではなく,電解銅箔を用いることが記載されているも
のと理解すべきである。
したがって,引用発明は,「電解銅箔」を用いる点においても本件発明2と一致
し,相違点1は,「クロメート処理が施され」ているか否かの点に限られるべきで
ある。
4本件発明2と引用発明の一致点及び相違点2の認定の誤り(取消事由4)
審決は,本件発明2と引用発明の相違点2を,「本件発明2が『マット面及び光
沢面の表面粗さが10点平均粗さにして3.0μmより小さく,このマット面と反
対側の光沢面との表面粗さの差が10点平均粗さにして1.3μm以下である』の
に対し,引用発明は『表面粗度として0.1~0.9μmに制御してなる』もので
ある点。」と認定している。
しかし,引用発明の「表面粗度」はRaであり(後記(1)),仮に,引用発明の
「表面粗度」の表示法がRaでないとしても,引用発明の「表面粗度」はRaとほ
ぼ同等の数値を示すことから,引用発明の「表面粗度」はRaとほぼ同等である
(後記(2))ところ,本件発明2の「10点平均粗さ」の測定方法であるRzとR
aとの間には一定の相関関係があり,これによれば,引用発明には,マット面及び
光沢面の表面粗さが10点平均粗さにして1.0μm以下で,このマット面と反対
側の光沢面の表面粗さの差が10点平均粗さにして1.0以下である銅箔が記載さ
れているといえる(後記(3))。
したがって,引用発明は,「マット面及び光沢面の表面粗さが10点平均粗さに
して3.0μmより小さく,このマット面と反対側の光沢面との表面粗さの差が1
0点平均粗さにして1.3μm以下である」点でも本件発明2と一致し,相違点2
は存在しない。
(1)引用発明における「表面粗度」は,「平均の深さ」であって,Raであるこ

ア関係当事者4者が認めていたこと
審判長審判官は,引用発明に記載された「平均の深さ」である「表面粗度」がR
aであることを認めていた(平成23年9月28日付通知書(甲4の3)には,
「引用発明の表面粗度は,…,中心線平均粗さ(Ra)と認められる」との記載が
ある。)。
また,本件特許に係る別件無効審判請求事件(無効2010-800051事
件)の請求人であるイルジンマティリアルズ株式会社(イルジンカッパーフォイル
株式会社)も,引用例(甲1の1。無効2010-800051事件の甲第4号
証)に記載された「表面粗度」がRaであることを主張している(平成24年1月
6日付け「上申書」(甲5)11頁19~20行には,「…,甲第4号証の表面粗
度は通常はRaであると理解することができるとの結論に至りました。」との記載
がある。)。
さらに,被告らも,無効2010-800051事件の平成22年6月21日付
け審判事件答弁書(甲6の30頁21行~31頁10行)において,引用例(甲1
の1。無効2010-800051事件の甲第4号証)の「銅箔の表面粗さはRa
でありRzは開示されていない」,「「0.1~0.9μm」は中心線平均粗さR
aである可能性がある。」と主張していた。
このように,関係当事者4者は,引用発明に記載された「平均の深さ」である
「表面粗度」がRaであることを一時は認めていた。
イ実質的に検討しても,引用発明に記載された「表面粗度」はRaである。そ
の理由は以下のとおりである。
(ア)引用発明(甲1の1)出願当時のJIS規格について
一般に,JIS規格は,当該技術分野の当業者にとって技術常識と認識されるも
のであるから,甲1の1の明細書中に「表面粗度」についてJIS規格に記載され
た表面粗さの測定単位であることが明示されていない場合でも,当業者であれば,
甲1の1の「表面粗度」はJIS規格を用いて測定したものであると認定するのが
通常である。
そして,引用発明(甲1の1)出願当時におけるJIS規格JISB-060
1-1982(甲1の12)において,表面粗さを表す表示法は,中心線平均粗さ
(Ra),最大高さ(Rmax)及び十点平均粗さ(Rz)の3種類であり,この
うち,引用発明(甲1の1)の「表面粗度」として最も適切な表示法は,Raであ
る。
すなわち,引用例(甲1)の「平均の深さ」という表現からすると,平均という
要素を含まない最大高さ(Rmax)を指すとは考えられない。また,十点平均粗
さ(Rz)は,断面曲線において山頂の高い方から5点の平均山高さと谷底の低い
方から5点の平均谷低さの差であるため,単純な「深さ」という引用例(甲1)の
表現には馴染まない表示法である。他方,中心線平均粗さ(Ra)は,粗さ曲線の
高さ方向における平均線からの絶対値偏差の平均値であるので,粗さ曲線の高さ方
向は「深さ」に相当し,平均線からの絶対値偏差の平均値は「平均」に相当する。
したがって,Ra,Rz及びRmaxという3つの表示法のうち,甲1の1の
「表面粗度」として最も適切な表示法はRaである。
(イ)「平均深さRa」と記載された公知例が存在すること
甲1の1には,「平均の深さを表面粗度とする。」と記載されているところ,特
開平03-276739(甲1の71)には,「Ra」を示す表現として「平均深
さRa」(甲1の71請求項1,請求項2など多数)という表現が用いられており,
特開平05-47852(甲1の72)にも,「Ra」を示す表現として「平均深
さRa」(甲1の72の請求項1,請求項3など多数)という表現が用いられてい
るから,甲1の1に記載の「平均の深さ」も「平均深さRa」であると解するのが
合理的である。
また,甲1の1の特許請求の範囲にも「表面粗度が0.1~0.9μm」と記載
されていることから,特許請求の範囲に記載された「表面粗度」という単位が,J
ISとは異なる独自の規格であるとは考えにくい。
したがって,甲1の1において「平均の深さ」として定義される「表面粗度」は,
中心線平均粗さ(Ra)を指すものである。
(2)引用発明に記載された「表面粗度」の数値がRaと同等であること
仮に,引用発明に記載された「平均の深さ」である「表面粗度」の表示法がRa
ではないとしても,引用発明に記載された「平均深さ」である「表面粗度」は,R
aとほぼ同等の数値を示すことから,引用発明に記載された「表面粗度」はRaと
ほぼ同等である。
陳述書(甲7)によれば,電子顕微鏡5000倍の画像測定結果において,引用
発明に記載された「平均深さ」としての表面粗度と測定長0.8mmのRaの数値
とは相関している。
したがって,引用発明に記載された「平均深さ」としての表面粗度と,測定長0.
8mmで測定したRaの数値とは,ほぼ同等であるといえる。
(3)RzとRaとの間に一定の相関関係があること
銅箔においては,RzとRaとの間に一定の相関関係があり,同一の銅箔表面に
おいてRzはRaより大きく,RzはRaの数倍であり,一定のマージンを考慮し
てもRzがRaの10倍を超えることは考えにくい(甲4の1)。
また,甲1の1には,Ra(又は「平均深さ」で表示される表面粗度)が0.1
μmの銅箔が開示されている。したがって,甲1の1に記載された表面粗度をRz
で表示すると,最大でもRzにおいて1.0μmを超えることはない。
よって,引用発明には,10点平均粗さにして少なくとも1.0μm以下の表面
粗度を有する銅箔が記載されていることから,マット面及び光沢面が10点平均粗
さにして1.0μm以下の表面粗度を有する銅箔が記載されている点において,本
件発明2と一致する。また,引用発明に記載されているマット面及び光沢面の表面
粗さが10点平均粗さにして1.0μm以下であることから,マット面と光沢面と
の表面粗さの差は10点平均粗さにして1.0以下であり,この点でも引用発明は
本件発明2と一致している。したがって,相違点2は存在しない。
(4)被告らの主張について
ア被告らは,JIS規格のRa等は,通常触針式で表面をなぞって測定するの
に対し,甲1の1は断面研磨して測定しているので,完全に異なる測定方法による
数値であると主張している。このような主張ぶりからすると,被告らは,表面粗度
の測定方法が異なる場合には測定された数値自体も異なるものと考えているようで
ある。
しかし,JIS規格(JISB-0601-1982
:甲1の12,JISB-
0601-1994
:甲1の14)は,「粗さ曲線」を用いてRaを求めることを要求
しているが,粗さ曲線自体の測定方法を触針式に限定するものではない。すなわち,
JIS規格におけるRaは,触針式で表面をなぞって測定された数値のみに限定さ
れるものではなく,JIS規格は「粗さ曲線」を用いてRaという数値を求める計
算方法を規定しているにすぎない。被告らは,粗さ曲線の「測定方法」とRaとい
う「数値」の計算方法とを混同しているようであるが,特定の数値の「測定方法」
と測定された「数値」とは異なるのであるから,「測定方法」が異なるからといっ
て,測定された「数値」自体が異なるという理由にはならない。
したがって,被告らの上記主張には理由がない。
イ被告らは,甲1の1の表面粗度はJIS規格とは異なる独自の計測方法によ
る計測値であると主張する。
しかし,当業者が作成した特許明細書中に,特定の表面粗度の数値が記載されて
おり,かつ,当該明細書中にJIS規格とは異なる独自の表面粗度(表面粗さ)の
計算方法が具体的に明示されていない限り,当該明細書中に記載された表面粗度の
数値はJIS規格に基づく表面粗度の数値のいずれかであると考えるのが合理的で
ある。
そして,甲1の1に記載された表面粗度は「平均の深さ」と定義されているが,
甲1の1には,JIS規格とは異なる独自の表面粗度の計算方法は具体的に明示さ
れていないのであるから,甲1の1の「表面粗度」として最も適切な表示法はRa
である。
ウ甲7について
(ア)被告らは,甲7の測定実験における測定長さ及び測定方法が不明であると
主張する。
甲7の測定実験における測定長さは,甲7の3~9頁の各写真の左上にあるウィ
ンドウ中に表示された銅箔の長さである。甲7の3~9頁の各写真の左上にあるウ
ィンドウ中には,6.0μmのスケールを示す白色の点が11点記載されており,
隣り合う点と点との距離はそれぞれ0.6μmのスケールを示すものである。かか
るスケールを用いると,甲7の3~9頁の左上にあるウィンドウ中に表示された各
写真のサンプルA~Fの銅箔の測定長さは約22.5μmである。
しかし,測定長さをどのように設定するかによって甲1の1に記載された測定方
法を再現する甲7の測定結果が大きく異なるものではない。例えば,甲9の測定実
験は,甲7の測定実験において用いた測定長さ約22.5μmを,その半分(約1
1.25μm)又はその3分の1(約7.5μm)に変更して,甲7と同様の方法
によってそれぞれの測定長さにおける表面粗度の数値と触針式で測定したRaの数
値とを比較した結果を示すものである。甲9によれば,甲7の測定実験に用いた測
定長さを2分の1又は3分の1にした場合であっても,甲9の17頁に示す「平均
深さ」の数値にはほとんど差がないことが分かる。このように,測定長さをどのよ
うに設定するかによって甲1の1に記載された測定方法を再現する甲7の測定結果
の正確性が大きく異なるものではない。
(イ)被告らは,甲1の1に記載された表面粗度の測定方法について,画像処理
ソフトを用いたか否か,画像処理ソフトを用いたとすればどの画像処理ソフトを用
いたのかが不明であると主張する。
しかし,甲7の測定実験に用いた測定方法は,甲1の1の段落【0021】に記
載された測定方法を可能な限り正確に再現できる方法を用いて行われたものである。
(ウ)被告らは,甲1の1では銅箔の湾曲の影響が排除されていない可能性があ
ると主張する。
甲7は,甲1の1に記載された表面粗度の測定方法を可能な限り正確に再現した
ものであるため,仮に,甲1の1に銅箔の湾曲の影響が含まれていれば,甲7にお
いても同程度の銅箔の湾曲の影響が再現されるのであるから,甲7が甲1の1に記
載された表面粗度の測定方法と同じ方法で測定されたものであるという趣旨に変わ
りはない。
なお,測定長さを短くすればするほど銅箔の湾曲の影響は少なくなるところ,甲
9の測定長さは,甲7の測定実験に用いた測定長さの2分の1又は3分の1である
から,甲7に示す測定結果に比べて甲9に示す測定方法は,より銅箔の湾曲の影響
を受けない測定方法である。
(エ)被告らは,仮に甲7の測定結果とRaの数値がほぼ同等であるとしても,
それはたまたまある銅箔について計測した2つの数値が近い値であったことを示す
にすぎないなどと主張する。
しかし,甲7の2頁「(2)測定対象サンプル」に示すとおり,甲7の測定実験
では,性質や種類の異なる6種類の銅箔をサンプルとして使用して表面粗さを測定
しているのであり,甲7の10頁「(5)測定結果」に示すとおり,上記6種のサ
ンプルを用いた測定結果がそれぞれRaの数値に近い数値となっているのであるか
ら,「たまたまある銅箔について計測した2つの数値が近い値であった」とはいえ
ない。
5引用発明における「表面粗度」の認定の誤り(取消事由5)
審決は,引用発明の「表面粗度」がRaであることは確認することができないと
している。
しかし,上記4(取消事由4)において述べたとおり,引用発明の「表面粗度」
はRaであり,仮にRaでないとしても,引用発明の「表面粗度」はRaとほぼ同
等の数値を示す表示法である。
したがって,審決の認定は誤りである。
6進歩性の判断の誤り(取消事由6)
上記3~5によれば,本件発明2と引用発明の相違点は,「クロメート処理が施
され」ているか否かの点に限られることになる。
そして,銅箔にクロメート処理を含む防錆処理を施すことは,本件特許出願時に
おける周知技術である(後記(1))。引用発明と上記周知技術は銅箔に関する技術
であって技術分野を同一にするものであるから,上記周知技術を引用発明に適用す
ることは当業者が容易に推考できるものであり,それによる効果は,単に銅箔の酸
化を抑制することのみであり,この効果に関しては,非水電解液二次電池用の銅箔
であっても回路用の銅箔であっても同じである(後記(2))。
したがって,仮に,「クロメート処理が施された」という構成要件を付加する訂
正(訂正事項4及び32)が認められたとしても,この点において本件発明が進歩
性を有することはない。
(1)銅箔にクロメート処理を含む防錆処理を施すことが周知・慣用技術であるこ

そもそも銅箔の表面を防錆被膜で被覆することは,甲1の2~6,9などから,
本件特許の出願時における周知技術である。
銅は性質上酸化しやすい物質であるため,銅箔には通常何らかの被膜が施される
ことは周知である。そして,銅箔に施される酸化防止(すなわち防錆)用の被膜は,
例えばクロメート処理によって施されることも周知である(甲3【0023】,
【0032】,【0041】,【0048】,甲1の2【0004】,甲1の9
【0002】,【0003】等)。
特に,クロメート処理に関しては,特公昭38-1965(甲1の47),特開
昭48-20734(甲1の48),特開昭56-87694(甲1の49),特
公昭60-15654(甲1の50)に記載されているように,非常に古くから行
われている周知慣用技術である。
さらに,甲1の51には,「第3段階は,両者に共通で,運搬中または保管中の
銅はくの酸化,もしくは,積層プレス時に積層板表面にできる額縁酸化を防止する
ための防錆工程である。」(254頁の下から6~5行)と記載されているように,
防錆処理が必須工程として記載されており,甲2の8,甲2の9の仕様書(作成日
1993年6月15日)に記載されているように,出荷後ある程度の期間,外観保
証を求められることが通常であるため,防錆処理をしないとは考えられない。
さらに,甲8には,「銅および銅合金は一般にはその表面に生じる酸化物が主と
して酸化第2銅(CuO)である」(「2.変色とは」2~3行),「環境として
の大気中においても,銅表面が液体の水で濡れぬかぎり,空気中の酸素による酸化
は起っても常温では昼夜の温度差などによる酸化物層の破壊によっての厚さの成長
は,図1のVernon氏の研究結果のごとく150日目でも0.003μにすぎ
ず,磨かれた色沢もかわらない。けれども普通の戸内の大気中で結露が起り,とき
に水で表面が乾湿を繰り返えすような場合は,150日の化合物層の厚さは0.2
3μに及び,青紫色薄膜となる。」(「3.大気中における変色」1~8行),
「化学的処理としては,表面に薄い化合物層を作り,この化合物層が水に不溶であ
り,干渉色を示さず,銅の色沢を保持するものであれば,一時的ではあるが変色を
防止出来ることになる。この処理剤としては,有機系と無機系に分けられ,有機系
としては,アミン,アミド,トリアゾール,テトラゾールなどの誘導体が用いられ,
銅表面における反応としては,吸着,キレート化合物の生成,その他の化合物層な
どにより,環境を遮断し変色を防止する。無機系の場合には,クロム酸塩を主体と
したものが用いられ,これは銅表面にクロミウムクロムの薄膜を形成し,変色を防
止しようとするものである。」(「7.変色防止法について」10~19行)との
記載がある。
上記記載から,銅は常温においても大気中で酸素による酸化が生じ,銅表面に酸
化第2銅が生じること,銅の変色を防止するため,無機系の処理剤を用いる化学的
処理ではクロム酸塩を主体としたものが用いられることが理解される。
以上によれば,本件特許の出願時において,銅箔にクロメート処理を含む防錆処
理を施すことが周知・慣用技術であったことは明らかである。
(2)非水電解液二次電池用の銅箔と回路用の銅箔とで違いがないこと
本件特許明細書に記載されているような銅箔に「防錆被膜」を被覆することに
よって「銅箔の酸化を抑制する」という効果は,非水電解液二次電池用の銅箔で
あっても回路用の銅箔であっても酸化防止という点で同じである。本件特許明細書
のどの部分にも,「クロメート処理」を施すことによって好ましい電池特性が得ら
れるというような効果は一切記載されていない。本件特許発明の明細書に記載され
た効果は,単に「上記電解銅箔の少なくとも一方の面には,銅箔の酸化を抑制する
ために,防錆被膜が被覆されていてもよい。」【0023】及び「電解銅箔の少な
くとも一方の面には,銅箔表面と活物質との吸着性を向上させるために,シランカ
ップリング剤からなる膜が被覆されていてもよい。」【0023】というものにす
ぎない。
なお,本件訂正明細書の【0060】には,「マット面及び光沢面の表面粗さが
10点平均粗さにして3.0μmより小さく,このマット面と反対側の光沢面との
表面粗さの差が10点平均粗さにして1.3μm以下で形成される」電解銅箔によ
り,「集電体と活物質との接触性が良く,電気伝導度が大きくなって,充放電サイ
クルに優れた」非水電解液二次電池が得られることが記載されている。しかし,本
件特許明細書の【0060】には,電解銅箔の表面粗さの数値を限定することに
よって生じる効果が記載されているににすぎず,電解銅箔に「クロメート処理」を
施すことによって,集電体と活物質との接触性が良くなったり,電気伝導度が大き
くなって充放電サイクルに優れた非水電解液二次電池が得られたりするというよう
な効果は全く記載されていない。
よって,本件発明には,甲1の1及び上記周知技術から予測できる効果以上のも
のは記載されていない。
しかも,甲1の1に記載された発明と上記周知技術は,銅箔に関する技術であっ
て技術分野を同一にするものであるから,上記周知技術を甲1の1に記載されたも
のに適用することは,その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が
容易に推考できるものである。
よって,本件訂正明細書に記載された,クロメート処理を含む防錆処理を施すこ
とによって生じる効果は,単に銅箔の酸化を抑制することのみである。
そして,銅箔の酸化を抑制するという効果に関しては,非水電解液二次電池用の
銅箔であっても回路用の銅箔であっても同じである。
したがって,仮に「クロメート処理が施された」という構成要件を付加する訂正
が認められたとしても,この点において本件発明が進歩性を有することはない。
(3)被告らの主張について
被告らは,甲1の56には,銅箔表面が分厚い酸化物被膜で覆われると集電機能
が阻害されることが記載されていると主張する。
この点,本件特許明細書では,処理溶液のpH値,処理温度,処理時間の数値が
いずれも限定されていないため,クロメート処理によって銅箔表面に形成される酸
化物被膜の厚さが限定されていない。そうすると,本件特許明細書に記載されたク
ロメート処理が施された電解銅箔は,文言上,集電機能が阻害される程度の厚さの
酸化物被膜が形成された電解銅箔も含むものであるから,本件特許明細書に記載さ
れたクロメート処理が施された電解銅箔は,集電機能が阻害されたものを含むこと
になる。本件特許明細書には,甲1の56に記載されているような酸化物被膜の厚
さによる集電機能の阻害に関する記載は存在せず,その他にクロメート処理との関
係で集電機能が向上するというような記載も存在しない。
また,被告らは,集電体用銅箔においては防錆皮膜の電気的絶縁特性が性能に大
きな影響を与えることになるので,回路用銅箔においてクロメート処理が使用可能
であることが知られていたとしても,集電体用銅箔にも使用可能とはいえないと主
張するが,このような議論も,本件特許明細書に何ら記載されていない議論である
ため,本件審決取消訴訟において考慮すべき事項ではない。
第4被告らの反論
1取消事由1(サポート要件の判断の誤り)に対し
(1)原告は,取消事由1として,本件特許明細書には光沢面の表面粗度の上限を
3.0μmとすることについての記載がなく,また被告らが審判手続において主張
した「技術常識」が存在しないとして,審決はサポート要件に対する判断を誤って
いる旨主張する。しかし,以下のとおり,当該主張は理由がない。
(2)本件特許明細書には,光沢面の表面粗度の上限を3.0μmとすることつい
て,実質的に記載されているといえる。
すなわち,本件特許明細書の段落【0007】の「電解金属箔の一方の主面(マ
ット面)に大きな凹凸が形成されて,電解金属箔の両主面の表面粗さの差が大きす
ぎる」,段落【0015】の「しかし,活物質表面に沿って集電体が変形しない場
合には,活物質と集電体の接触部分が少なくなり,電気伝導度が小さい。また,集
電体表面の凹凸が大きい場合には,活物質と集電体の接触点も少ない。このような
接触抵抗が大きい電極は,充放電を繰り返すと,活物質の充放電に伴う膨張収縮に
よるストレスや,接着剤であるバインダーの電解液への溶解などによって,集電体
と活物質との距離が段々と大きくなり,一部の活物質が充放電に利用できない電気
伝導度になって容量の劣化が起きる。」等の記載から明らかなように,本件発明は,
「電解金属箔の一方の主面(マット面)に大きな凹凸が形成されて,電解金属箔の
両主面の表面粗さの差が大きすぎる」ことを電池特性悪化の原因として把握し,マ
ット面の表面粗さを所定の数値より小さい値に限定したものである。
したがって,本件特許明細書においては,マット面のみならず光沢面の表面粗さ
もまた当該所定の数値よりも小さい値に限定することが当然の前提とされていたこ
とが自明である。
(3)また,「技術常識」云々の点に関しては,無効審判における被告らの主張は,
「通常の一般的な電解銅箔においては,光沢面の方がマット面に比べて表面が滑ら
かで,表面粗さが小さい」(下線は被告ら)というものであって,「光沢面の表面
粗さの方がマット面より大きい電解銅箔が一切存在していなかった」などという主
張はしていない。
したがって,本件特許明細書の実施例や公知文献に光沢面の表面粗さの方がマッ
ト面より大きい電解銅箔が記載されていることは,被告らの主張と何ら矛盾しない。
(4)よって,取消事由1には理由がない
2取消事由2(訂正要件の判断の誤り)に対し
(1)原告は,取消事由2として,本件特許明細書にクロメート処理を施さない場
合と比較した,クロメート処理を施すことによって生じる効果が開示されていない
とし,これを理由として訂正要件を欠くと主張している。しかし,以下のとおり,
当該主張も理由がない。
(2)本件発明1及び2は,電解銅箔にクロメート処理を施した場合に電池特性に
どのような影響が生ずるかに関する公知例が存在しない状況において,非水電解液
二次電池の負極を構成する平面状集電体の防錆処理としてクロメート処理を採用し
た場合に良好な電池特性が得られることを見いだしたものであり,その実施例は,
本件特許明細書の段落【0041】及び【0045】に記載されている。
したがって,クロメート処理を施さない場合との対比に関する記載が本件特許明
細書にないとしても,そのこと故に訂正要件を欠くことはあり得ない。
(3)よって,取消事由2も理由がない。
3取消事由3(本件発明2と引用発明の一致点及び相違点1の認定の誤り)に
対し
(1)引用発明(甲1の1)について,審決が「甲第1号証には・・・電解メッキ
により直接得られる銅箔を用いてもよいこと(摘記1-3参照)が記載されており,
これは電解銅箔を用いることを示唆するものと認められる」(審決書19頁8~1
1行)と認定し,電解メッキにより直接得られる銅箔すなわち電解銅箔が「記載」
されているのではなく示唆されていると判断したことについて,原告は,取消事由
3として,本件発明2と引用発明の一致点及び相違点1に関する認定の誤りがある
と主張している。
(2)しかし,原告は,「記載」と「示唆」の相違が本件発明1及び2の新規性判
断並びに本件発明の進歩性判断にいかなる影響を与えるのかについて,何ら主張し
ていない。
本件においては,「記載」と「示唆」の相違が審決の結論に何らの影響を与える
ものでないことは明らかであるから,取消事由3も理由がない。
4取消事由4(相違点2の認定の誤り)に対し
(1)原告は,取消事由4として,引用発明(甲1の1)の表面粗度について,審
決が「『表面粗度』がRaであると確認することはできない」(審決書20頁)と
認定した点が,本件発明2と引用発明の一致点及び相違点2に関する認定を誤った
ものであると主張している。
しかし,当該主張は,原告独自の見解に基づく主張であり,失当である。甲1の
1の表面粗度は,JIS規格(Ra,Rz,Rmax等)とは異なる独自の計測方
法による計測値である。
(2)甲1の1出願当時のJIS規格に関する主張について
原告は,甲1の1にJIS規格に記載された表面粗さの測定単位であることが明
示されていなくとも,当業者であればJIS規格を用いて測定したものと認定する
のが通常であると主張している。
しかし,JIS規格の表面粗さ又は表面粗度を用いているのであれば,JIS規
格で用いられている略称であるRaやRz,「中心線表面粗さ」や「10点平均粗
さ」,あるいは「平均線から絶対値偏差の平均値を表面粗度とする」(Raの場
合)や「基準長さ毎の山頂の高い方から5点,谷底の低い方から5点を選び,その
平均高さを表面粗度とする」(Rz)のように,JIS規格の定義に従った記載が
なされていることが通常であり,逆にこれとは異なる計測方法の記載がある場合は,
JIS規格とは異なる独自の計測方法を用いたものと考えられる。
そもそもJIS規格のRa等は,通常触針式で表面をなぞって測定するのに対し,
甲1の1は断面研磨して測定しているので,完全に異なる計測方法による数値であ
る。
したがって,原告の主張は採用できないことが明らかである。
(3)甲1の71,甲1の72の記載に関する主張について
原告は,甲1の1に「平均の深さを表面粗度とする」と記載されているところ,
甲1の71及び甲1の72に「平均深さRa」という表現があることをもって,甲
1の1の「表面粗度」がRaである旨主張している。
しかし,審決書19~20頁において認定されているとおり,JIS規格では定
義していない表面粗さもあり得る以上,甲1の71及び甲1の72の当該表現を根
拠として,甲1の1の「表面粗度」がRaであると解する必然性はない。
しかも,甲1の34には,通常の圧延銅箔のRaが,両面で0.1~0.15μ
mであることが記載されているから,甲1の1の「表面粗度」をRaと解すると,
表面の滑らかな圧延箔を用いた従来技術の集電体まで含むことになり,不合理であ
る。
したがって,この点の原告の主張も採用できない。
(4)甲7に関する主張について
ア原告は,原告が実施した表面粗度の測定に関する陳述書(甲7)を根拠とし
て,甲1の1の表面粗度とRaの数値がほぼ同等であると主張している。
しかし,そもそも甲7の計測結果に基づいて,甲1の1の表面粗度とRaの数値
がほぼ同等であると認めることは,不可能である。むしろ,以下に述べるとおり,
甲7は,甲1の1の表面粗度がRaとは異なる,独自の手法によるものであること
を証明している。
イ甲7の記載によれば,甲7の数値は,甲1の1の段落【0021】に記載さ
れている表面粗度の測定方法に基づき測定されたとされている。しかし,甲1の1
及び甲7には,具体的な測定条件などが充分に記載されていないことから,これら
を当業者が再現することができない。
ウ測定長さについて
甲1の1には,測定長さについての記載がなく,同様に甲7にも測定長さが示さ
れていない。よって,甲1の1の実証再現試験ができないとともに,甲7の実証再
現試験もできない。
エ測定方法について
甲1の1には,「金属箔表面の凹部の深さを拡大写真で測定し,平均の深さを表
面粗度とする」と記載されているが,それが画像処理ソフトの機能を用いたものか,
それ以外の測定方法によるものかは不明である。画像処理ソフトによるものであれ
ば,そのソフトの仕様や性能によって結果が異なり得るため,再現実験試験を行う
ためには,甲1の1で使用されたソフトと同一のもの(もしくは同等の仕様を有す
るソフト)を用いることが必要である。
この点,甲7には,画像解析ソフト「Image-ProPlus」を用いて
解析したと記載されているが,そもそも甲1の1における解析方法が不明のため,
甲1の1の表面粗さの測定を再現したことにはならない。
オその他
甲7・6頁のサンプルDの画像を見ると,銅箔に湾曲が見られる。表面粗度を正
確に計測するためには,銅箔が大きく反るなどの銅箔の湾曲の影響を排除する必要
あるが,甲1の1において湾曲の影響をどのように処理していのるか不明である。
さらに,甲1の1及び甲7では,試験片をエポキシ樹脂で固めた後に断面研磨等
の加工処理を行って,表面の粗面断面の形を再現しようとしている。しかし,銅な
どのような柔らかい材料では研磨等の加工処理によって銅箔表面の形状が容易に変
形してしまうから,本来の表面の形状から変形していないことが担保されていない
(変形していない可能性が排除されていない)。
カなお,仮に甲7の測定結果とRaの数値がほぼ同等であるとしても,それは
たまたまある銅箔について計測した2つの数値が近い値であったことを示したにす
ぎず,甲1の1の記載に基づいて,当業者がその表面粗度がRaであると認識でき
ることの根拠となるものではない。したがって,甲7を根拠とする原告の主張は意
味がない。
(5)小括
以上のとおりであるから,本件発明2と引用発明(甲1の1)との一致点及び相
違点2に関する審決の認定に誤りはなく,取消事由4も理由がない。
5取消事由5(引用発明における「表面粗度」の認定の誤り)に対し
上記4と同様の理由により,取消事由5も理由がない。
6取消事由6(進歩性の判断の誤り)に対し
(1)原告は,取消事由6として,クロメート処理を施すことは本件特許出願時の
周知技術であり,「クロメート処理が施された」という構成要件を付加する訂正が
認められたとしても,本件発明は進歩性を欠いており,審決は本件発明の進歩性違
反を看過していると主張している。しかし,当該主張も,原告独自の見解に基づく
主張であり,失当である。
(2)原告が提出した文献には,集電体について記載されたものにはクロメート処
理について記載がなく,クロメート処理が記載されたものには集電体について記載
がない。
例えば,「防錆処理をしないことは考えられない」という主張の根拠として原告
が引用する甲2の8及び甲2の9は,それぞれ印刷回路用電解銅箔(GTS箔)及
び多層印刷回路用電解銅箔(GTS-MP箔)の仕様書であり,集電体用銅箔に関
する文献ではない。
また,甲8は,銅箔を「建材などに使用する場合における戸外または戸内での変
色」の防止方法について述べた文献であり,集電体用銅箔に関する文献ではない。
むしろ,乙1・764頁には,「銅を空中に放置すれば,容易に酸化銅などのき
わめて薄い皮膜を生じ,銅の固有の色を失って,いわゆる銅色を呈する。このまま
で長く安定に保たれ,きわめて耐食性に富む金属である」と記載されており,銅の
自然酸化膜にも十分な耐食性があることが述べられている。
また,乙1・764頁には,「銅は安定的な金属であるため,化成処理の困難な
金属でもある。したがって,未だに十分に満足を与える有効にして適切な処理方法
はない」とも記載されており,確立された防錆処理方法がないことが述べられてい
る。
以上によれば,本件特許出願当時に非水電解液二次電池の集電体用電解銅箔にク
ロメート処理を施すことが周知慣用技術であったといえないことは明らかである。
(3)さらに,甲1の56の段落【0047】には,「水性処理薬品のph値,処
理温度,処理時聞が大きいほど金属箔表面での酸化物被覆の成長速度が高められる
が,処理溶液のph値,処理温度,処理時間の数値のいずれかが,上述した設定範
囲を大きく上回ると,銅箔表面が分厚い酸化物被覆で覆われるため,金属箔表面の
電気的絶縁性が高くなり,金属箔に本来要求されるべき集電機能が著しく低下して
しまう」と記載されており,酸化皮膜(クロメート処理もその一種)によって集電
機能が阻害されてしまう場合があることが記載されている。
そして,回路用銅箔の場合には,防錆皮膜は電流の通過経路ではないのに対し,
集電体用銅箔の場合には防錆皮膜を経由して銅箔と活物質の間に電流が流れる。そ
のため,集電体用銅箔においては防錆皮膜の電気的絶縁特性が性能に大きな影響を
与えることになるので,回路用銅箔においてクロメート処理が使用可能であること
が知られていたとしても,集電体用銅箔にも使用可能とはいえないのである。
したがって,防錆処理に関して「非水電解液二次電池用の銅箔と回路用の銅箔と
で違いがない」とする原告の主張は,明白な誤りである。
(4)以上のとおり,本件特許出願当時に非水電解液二次電池の集電体用電解銅
箔にクロメート処理を施すことが周知慣用技術であった旨の原告の主張は誤りであ
り,取消理由6も理由がない。
第5当裁判所の判断
当裁判所は,原告の主張する取消事由はいずれも理由がなく,本件訂正は適法で
あり,本件発明は進歩性を有するものと判断する。以下,事案に鑑み,取消事由2
(訂正要件の判断の誤り)から検討する。
1取消事由2(訂正要件の判断の誤り)について
(1)原告は,本件特許明細書(甲3)には,クロメート処理を施さない場合と比
較して,クロメート処理を施すことによって生じる効果が開示されていないため,
訂正事項4及び32は,特許法134条の2第1項,134条の2第9項,126
条5項に記載の新規事項追加により訂正要件を欠くと主張する。
訂正事項4は,本件訂正前の請求項2に「銅を電解析出して形成される電解銅箔
からなり」とあるのを「銅を電解析出して形成され,クロメート処理が施された電
解銅箔からなり」と訂正するものであり,訂正事項32は,本件訂正前の請求項1
について,訂正事項4と同様に訂正するものであって,訂正事項4及び32は,電
解銅箔にクロメート処理を施すことを内容とするものである。
そこで,訂正事項4及び32が新規事項の追加に当たるか否か,すなわち,電解
銅箔にクロメート処理を施すことが本件特許明細書(甲3)に記載されているか否
かをみると,本件特許明細書(甲3)には,「【0032】・・・次いで,この電解
銅箔をCrO3;1g/l水溶液に5秒間浸漬して,クロメート処理を施し,水洗後
乾燥させた。なお,ここでは,クロメート処理を行ったが,ベンゾトリアゾール系
処理,或いはシランカップリング剤処理,又はクロメート処理後にシランカップリ
ング剤処理を行ってもよいことは勿論である。」との記載があり,電解銅箔にクロ
メート処理を施すことが記載されている。
したがって,訂正事項4及び32は,本件特許明細書に記載した事項の範囲内に
おいてしたものであることが明らかであり,新規事項の追加には当たらない。
(2)原告は,本件特許明細書には,クロメート処理を施さない場合と比較して,
クロメート処理を施すことによって生じる効果が開示されていないから,特許法1
34条の2第1項,134条の2第9項,126条5項に記載の新規事項の追加に
当たる旨主張する。
しかし,本件訂正の適否について適用されるべき条項は,平成23年6月8日法
律第63号による改正前の特許法(以下「特許法」という。)134条の2第5項
が第1項の場合に準用するものとする126条3項であり,同項でいう「願書に添
付した明細書,特許請求の範囲又は図面(・・・)に記載した事項」とは,明細書
等に開示された発明に関する技術的事項をいうものであるところ,本件特許明細書
(甲3)には,訂正事項4及び32に係る技術的事項が記載されているから,クロ
メート処理を施すことによって生じる効果が開示されていないとしても,新規事項
追加の禁止には当たらない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
(3)小括
よって,取消事由2は理由がない。
2取消事由1(サポート要件の判断の誤り)について
(1)原告は,訂正事項1,3,5,7~10,12,13,15,16,18,
19,21,22,24,26,28,29,31について,光沢面の表面粗度の
上限をマット面の表面粗度の上限と同一の3.0μmとすることについては,本件
特許明細書のどこにも記載がなく,被告らが審判手続において主張した技術常識か
ら自明でもないから,本件特許は,サポート要件を満たさないため無効であると主
張する。
しかし,本件発明は,本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1~4に記載された
発明であるから,本件発明がサポート要件(特許法36条6項1号)を満たすか否
かは,本件発明が,本件訂正後の明細書である本件訂正明細書の発明の詳細な説明
に記載したものであるか否かによって判断すべきものであり,本件訂正前の明細書
である本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるか否かによって判
断すべきものではない。
したがって,本件特許がサポート要件に違反することの理由として,光沢面の表
面粗度の上限をマット面の表面粗度の上限と同一の3.0μmとすることについて,
本件特許明細書に記載がないことをいう原告の主張は,失当である。
(2)そこで,光沢面の表面粗度の上限をマット面の表面粗度の上限と同一の3.
0μmとする点について,本件特許がサポート要件を満たすか否か,すなわち,光
沢面の表面粗度の上限をマット面の表面粗度の上限と同一の3.0μmとすること
が本件訂正明細書(甲4の9の2)の発明の詳細な説明に記載されているか否かを
みると,本件訂正明細書(甲4の9の2)の発明の詳細な説明には,①従来,リチ
ウムイオン二次電池の集電体として一般に銅箔が使用されているが,この銅箔とし
て市販の電解銅箔を使用した場合には,電解銅箔の一方の主面に大きな凹凸が形成
され,両主面の表面粗さの差が大きすぎて,活物質と集電体の接触が悪いため,電
池特性,特に充放電でのサイクル特性が悪くなるという問題が生じること(【00
04】~【0008】),②このような問題点を解決し,活物質と集電体の接触性
を良好に保って,充放電サイクルに優れた安価な非水電解液二次電池用の平面状集
電体を提供することを目的として,電解銅箔のマット面及び光沢面の表面粗さが1
0点平均粗さにして3.0μmより小さく,このマット面と反対側の光沢面との表
面粗さの差が10点平均粗さにして1.3μm以下とすること(【0009】,
【0011】,【0016】),③上記数値限定を満足する実施例1~3と,一方
の主面であるマット面に大きな凹凸が形成されて両主面の表面粗さの差が大きすぎ
て上記数値限定を満足しない比較例1の電解銅箔を,それぞれ負極集電体に用いた
円筒形非水電解液二次電池について,100サイクル後の容量維持率とインピーダ
ンスを測定し,前者が後者より優れたものであること(【0050】~【005
5】)が記載されている。
以上のとおり,本件訂正明細書の発明の詳細な説明には,本件発明の課題とその
課題を解決する手段,その具体例において課題が解決されたことが記載されている。
したがって,本件訂正後の特許請求の範囲の記載のうち,光沢面の表面粗度の上
限をマット面の表面粗度の上限と同一の3.0μmとする点に係る部分は,サポー
ト要件(特許法36条6項1号)を満たすものである。
(3)ところで,原告は,上記のとおり,「訂正事項1,3,5,7~10,12,
13,15,16,18,19,21,22,24,26,28,29,31につ
いて,・・・本件特許明細書書のどこにも記載がなく,・・・」と主張していると
ころをみると,取消事由1は,上記訂正事項について,新規事項の追加を理由とす
る訂正要件の判断の誤りをいうものとも解される。
そこで,訂正事項1,3,5,7~10,12,13,15,16,18,19,
21,22,24,26,28,29,31が新規事項の追加に当たるか否か,す
なわち,光沢面の表面粗度の上限をマット面の表面粗度の上限と同一の3.0μm
とすることが本件特許明細書(甲3)に記載されているか否かをみると,本件特許
明細書(甲3)には,①従来,リチウムイオン二次電池の集電体として一般に銅箔
が使用されているが,この銅箔として市販の電解銅箔を使用した場合には,電解銅
箔の一方の主面に大きな凹凸が形成され,両主面の表面粗さの差が大きすぎて,活
物質と集電体の接触が悪いため,電池特性,特に充放電でのサイクル特性が悪くな
るという問題が生じること(【0004】~【0008】),②このような問題点
を解決し,活物質と集電体の接触性を良好に保って,充放電サイクルに優れた安価
な非水電解液二次電池用の平面状集電体を提供することを目的として,電解銅箔の
マット面の表面粗さが10点平均粗さにして3.0μmより小さく,このマット面
と反対側の光沢面との表面粗さの差が10点平均粗さにして2.5μmより小さく
すること(【0009】,【0011】,【0016】),③上記数値限定を満足
する実施例1~3と,一方の主面であるマット面に大きな凹凸が形成されて両主面
の表面粗さの差が大きすぎて上記数値限定を満足しない比較例1の電解銅箔を,そ
れぞれ負極集電体に用いた円筒形非水電解液二次電池について,100サイクル後
の容量維持率とインピーダンスを測定し,前者が後者より優れたものであること
(【0050】~【0055】)が記載されている。
上記記載によれば,本件特許明細書には,電解銅箔のマット面について「表面粗
さが10点平均粗さにして3.0μmより小さく」するのは,活物質と集電体の接
触性を良好に保って,充放電サイクルに優れたものとするためであるということが
記載されているものと認められる。
また,本件特許明細書(甲3)には,電解銅箔からなる負極集電体は,その両面
に活物質が塗布されるものであること(【0034】)が記載されており,この記
載によれば,電解銅箔の光沢面についても表面粗さを小さくして,活物質と集電体
の接触性を良好に保つようにすべきことは,当業者にとって自明のことであるとい
える。
そうすると,本件特許明細書には,電解銅箔のマット面のみならず光沢面につい
ても,表面粗さを小さくすることが記載されているということができる。そして,
本件特許明細書には,電解銅箔の光沢面の表面粗さに係る上限値について,マット
面の表面粗さに係る上限値と異にすべき必要性については何ら記載されていないか
ら,マット面に係る上限値と同程度とすべきことも明らかであり,結局,本件特許
明細書には,電解銅箔の光沢面についても,「表面粗さが10点平均粗さにして3.
0μmより小さく」することが記載されているものと認めるのが相当である。
したがって,訂正事項1,3,5,7~10,12,13,15,16,18,
19,21,22,24,26,28,29,31は,新規事項の追加には当たら
ない。
(4)小括
よって,取消事由1は理由がない。
3取消事由3(本件発明2と引用発明の一致点及び相違点1の認定の誤り)に
ついて
審決は,本件発明2と引用発明の相違点1を次のとおり認定している。
「本件発明2が『銅を電解析出して形成され,クロメート処理が施された電解銅
箔』であるのに対し,引用発明は『圧延金属箔をエッチング処理等』したものであ
る点。」
これに対し,原告は,引用発明は,「電解銅箔」を用いる点においても本件発明
2と一致し,相違点1は,「クロメート処理が施され」ているか否かの点に限られ
るべきであると主張する。
しかし,仮に,相違点1に係る審決の認定に原告主張の誤りがあるとしても,後
記5において判示するとおり,本件発明の進歩性を否定することはできないから,
その誤りは審決の結論に影響を及ぼすものとはいえない。
よって,取消事由3は理由がない。
4取消事由4(本件発明2と引用発明の一致点及び相違点2の認定の誤り)及
び取消事由5(引用発明における「表面粗度」の認定の誤り)について
(1)審決は,本件発明2と引用発明の相違点2を次のとおり認定している。
「本件発明2が『マット面及び光沢面の表面粗さが10点平均粗さにして3.0
μmより小さく,このマット面と反対側の光沢面との表面粗さの差が10点平均粗
さにして1.3μm以下である』のに対し,引用発明は『表面粗度として0.1~
0.9μmに制御してなる』ものである点。」
これに対し,原告は,引用発明は,「マット面及び光沢面の表面粗さが10点平
均粗さにして3.0μmより小さく,このマット面と反対側の光沢面との表面粗さ
の差が10点平均粗さにして1.3μm以下である」点でも本件発明2と一致し,
相違点2は存在しないと主張する。
しかし,本件訂正明細書(甲4の9の2)の【0020】の記載によれば,本件
発明2の「10点平均粗さ」とは,JIS規格B0601において定義されている
「10点平均線粗さ(Rz)」であり,断面曲線から基準長さLだけ抜き取った部
分の平均線から縦倍率の方向に測定した,最も高い山頂から5番目までの山頂の標
高(Yp)の絶対値の平均値(|Yp1+Yp2+Yp3+Yp4+Yp5|/5)と,最も低い谷
底から5番目までの谷底の標高(Yv)の絶対値の平均値(|Yv1+Yv2+Yv3+Yv4
+Yv5|/5)との和を求めたものであると定義されている。
他方,引用発明の「表面粗度」は,甲1の1の【0021】の記載によれば,
「金属箔から1cm角に切り出し,これを型に入れてエポキシ樹脂を流し込み硬化
させる。常温で一日間放置後に型から取り出し,切断し,金属箔を含む樹脂切断面
を自転および公転する研磨機で研磨し,エアブロー」して試験片を調製し,その試
験片の「断面の顕微鏡写真を撮る。金属箔表面の凹部の深さを拡大写真で測定し,
平均の深さを表面粗度と」したものである。
上記によれば,本件発明2の「10点平均粗さ」と引用発明の「表面粗度」とが
異なるものであることは明らかである。また,本件発明2の「10点平均粗さ」と
引用発明の「表面粗度」との関係は不明であり,甲1の1の記載から,引用発明の
金属箔が,本件発明2と同等の「10点平均粗さ」となっていると理解することも
できない。
したがって,本件発明2の電解銅箔の「マット面及び光沢面の表面粗さが10点
平均粗さにして3.0μmより小さく,このマット面と反対側の光沢面との表面粗
さの差が10点平均粗さにして1.3μm以下である」ことと,引用発明の金属箔
を「表面粗度として0.1~0.9μmに制御してなる」ことが,一致するという
ことはできない。
(2)原告は,本件発明2と引用発明との間に審決認定の相違点2は存在しないと
の上記主張を根拠付けるものとして以下のとおり主張するが,いずれの主張も採用
することができない。
ア原告は,関係当事者4者が,引用発明の「表面粗度」がRaであることを一
時は認めていたと主張するが,仮にそのような事情があったとしても,それによっ
て引用発明の「表面粗度」がRaであると認定することはできない。
イ原告は,甲1の1の明細書中に「表面粗度」についてJIS規格に記載され
た表面粗さの測定単位であることが明示されていない場合でも,当業者であれば,
甲1の1の「表面粗度」はJIS規格を用いて測定したものであると認定するのが
通常であり,引用発明の出願当時におけるJIS規格JISB-0601-19
82において表面粗さを表す表示法は,Ra,Rmax及びRzの3種類であり,
このうち,引用発明の「表面粗度」としても最も適切な表示法はRaであると主張
する。
しかし,証拠(甲1の12・12頁「4.2Ra,Rmax,Rzの3種類を
採用した理由」)によれば,表面粗さには,JIS規格と異なるものがあり得るこ
とが認められるから,甲1の1にJIS規格を用いて測定したことが記載されてい
ない以上,当業者といえども,甲1の1の「表面粗度」はJIS規格を用いて測定
したものであると認定するのが通常である,ということはできない。
したがって,原告の上記主張は,その前提を欠き,理由がない。
ウ原告は,「平均深さRa」という表現が用いられた公知例(甲1の71,7
2)が存在することを根拠に,甲1の1の「平均の深さ」も「平均深さRa」であ
ると解するのが合理的であると主張する。
しかし,前記のとおり,表面粗さにはJIS規格と異なるものがあり得る上,上
記公知例と甲1の1との関係は明らかでないから,上記公知例が存在するからと
いって,甲1の1の「平均の深さ」を「平均深さRa」であると解することが合理
的であるとはいえない。原告の上記主張は採用することができない。
エ原告は,甲1の1の特許請求の範囲に「表面粗度が・・・」と記載されてい
るから,この「表面粗度」がJIS規格とは異なる独自の規格とは考えにくいと主
張する。
しかし,前記のとおり,甲1の1の【0021】には,「表面粗度」は所定の方
法で測定された平均の深さであることが定義されており,この定義がJISのいず
れにも該当しないものであることは明らかである。原告の上記主張は採用すること
ができない。
オ原告は,原告が実施した表面粗度の測定に関する陳述書(甲7)を根拠とし
て,引用発明の「表面粗度」はRaとほぼ同等であると主張する。
甲7の測定結果は,6種類のサンプルを用いた測定結果がそれぞれRaの数値に
近い数値となっているというものであるが(甲7・10頁「(5)測定結果」),
そもそも,甲7の測定結果を見ても,引用発明の「表面粗度」とRaがほぼ同等の
数値を示していると評価することができるか疑問である上,ある銅箔において,引
用発明の「表面粗度」とRaがほぼ同等の数値を示すとしても,これをもって,一
般的に,引用発明の「表面粗度」がRaとほぼ同等の数値を示すと結論付けること
はできない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
カ原告は,銅箔においては,RzとRaとの間に一定の相関関係があり,同一
の銅箔表面においてRzはRaより大きく,数倍であり,一定のマージンを考慮し
てもRzがRaの10倍を超えることは考えにくい(甲4の1)として,甲1の1
には,Ra(又は「平均深さ」で表示される表面粗度)が0.1μmの銅箔が開示
されており,Rzで表示すると,最大でもRzにおいて1.0μmを超えることは
ないから,甲1の1には,Rz(10点平均粗さ)で,少なくとも1.0μm以下
の表面粗度を有する銅箔が記載されていると主張する。
甲4の1には,各種サンプルの測定結果を基に,「以上のとおり,銅箔において
はRzとRaは一定の相関があり,同一の銅箔表面においてRzはRaより大きく,
RzはRaの数倍であること,一定のマージンを考慮してもRzはRaの10倍を
超えることは考えにくいことが理解される。」(甲4の1・43頁)と結論付ける
記載があるが,上記記載にもあるように,その測定結果からは,「同一の銅箔表面
においてRzはRaより大きく,RzはRaの数倍である」という程度の評価しか
できず,RzとRaの間に一定の相関関係があるとまでいうことはできない。
したがって,原告の上記主張は,その前提が誤っており,採用することができな
い。
(3)以上のとおりであるから,相違点2に係る審決の認定に原告主張の誤りはな
く,本件発明2と引用発明との間には相違点2が存在する。
よって,取消事由4及び5は理由がない。
5取消事由6(進歩性の判断の誤り)について
(1)原告は,審決には,取消事由3(本件発明2と引用発明の一致点及び相違点
1の認定の誤り),取消事由4(本件発明2と引用発明の一致点及び相違点2の認
定の誤り),取消事由5(引用発明における「表面粗度」の認定の誤り)があるた
め,本件発明2と引用発明との相違点は,「クロメート処理が施され」ているか否
かの点に限られるところ,銅箔にクロメート処理を含む防錆処理を施すことは,本
件特許出願時における周知技術であり(甲1の2~6・9,甲1の47,甲1の4
8~51,甲2の8・9,甲8),引用発明と上記周知技術は銅箔に関する技術で
あって技術分野を同一にするものであるから,上記周知技術を引用発明に適用する
ことは当業者が容易に推考できるものであり,それによる効果は,単に銅箔の酸化
を抑制することのみであり,この効果に関しては,非水電解液二次電池用の銅箔で
あっても回路用の銅箔であっても同じであると主張する。
しかし,上記のとおり,本件発明2と引用発明との間には相違点2が存在すると
ころ,原告は,相違点2についての容易想到性の主張をしていない。
また,仮に,原告が主張するように,本件発明2と引用発明との相違点が,「ク
ロメート処理が施され」ているか否かの点に限られるとしても,本件発明の進歩性
を否定することはできない。その理由は次のとおりである。
(2)原告が,銅箔にクロメート処理を含む防錆処理を施すことは本件特許出願時
における周知技術であると主張し,その根拠として提出した上記証拠のうち,クロ
メート処理を施すことについて記載されているものは,いずれも印刷用回路の銅箔
に関するものであり,非水電解液二次電池の負極集電体用の銅箔に対してクロメー
ト処理を施すことについて記載ないし示唆のあるものはない。
すなわち,甲1の2には,回路用の銅箔に対してクロメート処理を施すことにつ
いての記載はあるが,非水電解液二次電池の負極集電体用の銅箔に対してクロメー
ト処理を施すことについて記載ないし示唆はない。
甲1の3には,クロメート処理に関する記載はない。
甲1の4(特開平8-306390の公開特許公報。公開日平成8年11月22
日),甲1の5(特開平9-63564の公開特許公報。公開日平成9年3月7
日)は,いずれも本件特許の出願時(平成8年5月8日)より後に頒布された刊行
物である。
甲1の6には,クロメート処理に関する記載はない。
甲1の9には,回路基板としての銅箔に対してクロメート処理を施すことについ
ての記載はあるが,非水電解液二次電池の負極集電体用の銅箔に対してクロメート
処理を施すことについて記載ないし示唆はない。
甲1の47(特許出願公告昭38-1965の特許公報。公告日昭和38年3月
11日)には,銅材料に対して重クロム酸塩と燐酸塩との混和水溶液で処理するこ
とについての記載はあるが,銅材料の具体的な用途を特定する記載はない。した
がって,甲1の47の記載をもって,非水電解液二次電池の負極集電体用の銅箔に
対してクロメート処理を施すことについて記載ないし示唆があるということはでき
ない。
甲1の48(特開昭48-20734の公開特許公報。公開日昭和48年3月1
5日)には,銅箔に対して六価クロムイオンを含む水溶液を用いて防食する方法に
ついての記載があり,銅箔の用途として「特に印刷回路用」との記載はあるが,非
水電解液二次電池の負極集電体用の銅箔に対してクロメート処理を施すことについ
て記載ないし示唆はない。
甲1の49には,印刷回路用銅箔の製造方法に関する記載はあるが,非水電解液
二次電池の負極集電体用の銅箔に対してクロメート処理を施すことについて記載な
いし示唆はない。
甲1の50には,プリント回路用の銅箔に対してクロメート処理を施すことにつ
いての記載はあるが,非水電解液二次電池の負極集電体用の銅箔に対してクロメー
ト処理を施すことについて記載ないし示唆はない。
甲1の51(昭和63年6月30日初版2刷の「プリント回路技術便覧」と題す
る書籍の「4.2銅はく」)には,原告が指摘する防錆工程についての記載があ
るが,これは,プリント配線用銅はくの製造方法に関する記載であることが文脈上
明らかである。そして,甲1の51には,非水電解液二次電池の負極集電体用の銅
箔に対してクロメート処理を施すことについて記載ないし示唆はない。
甲2の8は,印刷回路用電解銅箔(GTS箔)の購入仕様書であり,甲2の9は,
多層印刷回路用電解銅箔(GTS-MP)の購入仕様書であって,これら購入仕様
書には,非水電解液二次電池の負極集電体用の銅箔に対してクロメート処理を施す
ことについて記載ないし示唆はない。
甲8(昭和45年2月1日発行の「銅と技術第6巻第1号」と題する書籍中
の「銅および銅合金の変色と防止について」と題する論文)には,銅の変色防止の
ために,銅表面にクロミウムクロムの薄膜を形成する方法についての記載があるが,
この論文の冒頭には,「1.変色の問題点」として,「最近において伸銅品の商品
価値を低下させること,あるいは,それらを建材などに使用する場合における戸外
または戸内での変色が問題となり,伸銅品の用途拡大に対して変色を防止すること
が必要になってきた。・・・銅センター技術委員会では本問題を取りあげ変色防止
専門委員会をつくりその対策を講じた。本論文は主として日本大学において研究を
行い,本専門委員会によって審議されたものの集録報告である。」との記載があり,
これによれば,甲8は,銅を建材などに使用する場合における戸外または戸内での
変色対策について論じたものであって,非水電解液二次電池の負極集電体用の銅箔
の変色防止方法について論じたものでないことは明らかである。
(3)上記のとおり,原告が,銅箔にクロメート処理を含む防錆処理を施すことは
本件特許出願時における周知技術であると主張し,その根拠として提出した証拠の
うち,クロメート処理を施すことについて記載されているものは,いずれも印刷用
回路の銅箔に関するものであり,非水電解液二次電池の負極集電体用の銅箔に対し
てクロメート処理を施すことについて記載ないし示唆のあるものはない。
そして,印刷用回路の銅箔に対してクロメート処理を施すことが周知であるとし
ても,このことは,引用発明の負極集電体を構成する金属箔(電解銅箔)に対して
クロメート処理を施すことを動機付けるものではない。
なぜなら,本件訂正明細書にも記載されているように,非水電解液二次電池の負
極集電体は,その表面に,負極活物質とバインダーとを含有する電極構成物質層が
形成され,非水電解液と接触した状態で使用されるものであり(【0013】,
【0034】,【0039】),印刷回路用の銅箔とは,その使用環境が大きく異
なるものであるため,印刷回路用の銅箔に対してクロメート処理を施すことが周知
であるとしても,印刷回路用の銅箔とは異なる環境で使用される非水電解液二次電
池の負極集電体用の銅箔においても同様にクロメート処理を施す必要があるかどう
かは明らかではないからである。
また,用途にかかわらず,あらゆる銅箔にクロメート処理を施すことが周知技術
であるとか,銅箔が使用される際には必ずクロメート処理が施された状態で使用さ
れるということを示す証拠もない。
(4)以上のとおり,引用発明の負極集電体を構成する金属箔(電解銅箔)に対し
てクロメート処理を施す動機付けが存在しない以上,仮に,原告が主張するように,
本件発明2と引用発明との相違点が,「クロメート処理が施され」ているか否かの
点に限られるとしても,本件発明の進歩性を否定することはできない。
(5)小括
よって,取消事由6は理由がない。
6まとめ
以上のとおり,原告の主張する取消事由はいずれも理由がなく,本件訂正は適法
であり,本件発明は進歩性を有するから,本件特許を無効とすることはできないと
した審決の判断に誤りはない。
第6結論
以上によれば,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文の
とおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
芝田俊文
裁判官
西理香
裁判官
知野明

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