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平成28年4月18日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成25年(ワ)第20031号損害賠償等請求事件
口頭弁論終結日平成28年1月27日
判決
当事者の表示別紙当事者目録記載のとおり
主文
1被告Aⅰは,原告に対し,401万9542円及びこれに対する平成26
年7月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2被告Aⅰは,串かつ料理を主とする飲食物を提供するに当たり,その提供
を受ける者の利用に供するメニュー並びに看板,ホームページ及びチラシに
別紙被告標章目録記載の各標章を付してはならない。
3被告Aⅰは,原告に対し,別紙物件目録記載の各動産を引き渡せ。
4被告Aⅰは,原告に対し,平成27年1月26日から別紙物件目録記載5
の動産を原告に引き渡すまで又は同動産についての前項の引渡しの強制執行
が不能となるまで,1か月当たり5000円の割合による金員を支払え。
5別紙物件目録記載5の動産についての第3項の引渡しの強制執行が不能と
なったときは,被告Aⅰは,原告に対し,10万円及びこれに対する執行不
能となった日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6原告のその余の請求をいずれも棄却する。
7訴訟費用は,原告に生じた費用の4分の3と被告Aⅰに生じた費用につい
ては,これを5分し,その4を原告の,その余を被告Aⅰの各負担とし,原
告に生じたその余の費用と被告東邦サプライに生じた費用については,原告
の負担とする。
8この判決は,第1項及び第3項ないし第5項に限り,仮に執行することが
できる。
事実及び理由
第1請求
1被告Aⅰは,原告に対し,3500万円及びこれに対する平成26年7月2
3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2被告らは,原告に対し,連帯して1500万円及びこれに対する被告Aⅰに
つき平成25年8月24日から,被告東邦サプライにつき同月29日から,各支払
済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3主文第2項と同旨
4主文第3項と同旨
5被告Aⅰは,原告に対し,平成25年8月24日から別紙物件目録記載の各
動産を原告に引き渡すまで又は前項の引渡しの強制執行が不能となるまで,動産ご
とに,1か月当たり同目録の各「使用料」欄記載の金額の割合による金員を支払え。
6第4項の引渡しの強制執行が不能となったときは,被告Aⅰは,原告に対し,
動産ごとに,別紙物件目録の各「価格」欄記載の金員及びこれに対する執行不能と
なった日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(上記1の請求と上記2の被告Aⅰに対する請求との関係につき,後記第2の1を
参照。)
第2事案の概要等
1本件は,原告が,(1)平成24年6月5日から平成25年4月27日まで
原告の取締役であった被告Aⅰが,①平成24年10月末に,株主総会の承認を経
ることなく,原告の経営していた串かつ店「かつーん」千歳烏山店(以下,単に「千
歳烏山店」という。)に関する事業を被告Aⅰ自身に譲渡したことにより,会社法
467条1項に違反するとともに,利益相反取引(同法356条1項2号)をした
ものとして同法356条1項に違反した,②同年8月17日から同月22日までの
間及び同年9月24日から同年10月31日までの間に,原告の千歳烏山店の売上
金を横領した,③同月25日,原告がしていた商標登録出願を無断で取り下げた,
④同年9月25日及び同年10月25日に,株主総会決議を経ずに,被告Aⅰ自身
の取締役報酬をお手盛りした,⑤同年9月25日から平成25年4月27日までの
間,株主総会の承認を経ることなく,既に原告に事業譲渡していたはずの串かつ店
「かつーん」赤坂店(以下,単に「赤坂店」という。)の営業を行い,競業避止義
務違反(同法356条1項1号)をしたものとして同法356条1項に違反した,
以上①ないし⑤をもって取締役としての任務を怠ったものである旨主張して,被告
Aⅰに対し,同法423条1項に基づく損害賠償請求として,3500万円及びこ
れに対する平成26年7月18日付け訴え変更申立書送達日の翌日である同月23
日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,(2)
被告Aⅰが,平成24年10月30日,原告と被告東邦サプライとの間で締結され
ていた千歳烏山店の店舗建物に係る賃貸借契約を解約し,同年11月1日,被告A
ⅰ個人が同建物を賃借する旨の賃貸借契約を締結したことは,横領に当たり,被告
東邦サプライにも共同不法行為責任がある旨主張して,被告らに対し,民法709
条,719条に基づく損害賠償請求として,1500万円及びこれに対する各訴状
送達日の翌日である,被告Aⅰにつき平成25年8月24日から,被告東邦サプラ
イにつき同月29日から,各支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害
金の連帯支払を求め(なお,被告Aⅰに対するこの請求は,上記(1)の請求のう
ち1500万円及びこれに対する平成26年7月23日から支払済みまでの年5分
の割合による遅延損害金の支払請求と,損害額及び遅延損害金が重複する範囲で選
択的併合の関係にある。),(3)被告Aⅰが,串かつ料理を主とする飲食物を提
供するに当たり,別紙被告標章目録記載の各標章(以下,それぞれ「被告標章1」
ないし「被告標章3」といい,これらを併せて「被告各標章」という。)を使用
していることは,別紙原告商標目録記載の各商標(以下,それぞれ「原告商標1」
及び「原告商標2」といい,これらを併せて「原告各商標」という。)に係る各
商標権(以下,それぞれ「本件商標権1」及び「本件商標権2」といい,これら
を併せて「本件各商標権」という。)を侵害するものである旨主張して,被告A
ⅰに対し,商標法36条1項に基づき,被告各標章の使用の差止めを求め,(4)
別紙物件目録記載の各動産(以下「本件各動産」という。)を占有している被告A
ⅰに対し,①本件各動産の賃貸借契約終了,使用貸借契約終了又は所有権に基づき,
本件各動産の引渡しを求めるとともに,②本件各動産の引渡済みまで又は上記引渡
しの強制執行が不能となるまで1か月当たり同目録の各「使用料」欄記載の金額の
割合による使用料相当損害金の支払並びに③本件各動産の強制執行不能の場合に同
目録の各「価格」欄記載の代償金及びこれに対する執行不能となった日の翌日から
支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨に
より容易に認められる事実。なお,書証番号は,特記しない限り枝番の記載を省略
する。)
(1)当事者等
ア原告は,飲食店の経営等を目的とする株式会社であり(なお,取締役会設置
会社〔会社法2条7号〕ではない。),被告Aⅰは,平成24年6月5日から平成
25年4月27日までの間,原告の代表取締役であった者である。
原告は,平成24年6月5日,Aⅱが300万円,被告Aⅰが200万円を各出
資して設立され,同日から平成25年4月27日までは被告Aⅰ及びAⅱが取締役
で被告Aⅰが代表取締役であったが,同日,被告Aⅰが代表取締役を退任し取締役
を解任されたことから,それ以降は,Aⅱのみが取締役で代表取締役である。原告
の株式については,設立以来,発行済株式総数100株のうち,Aⅱが60株,被
告Aⅰが40株を各保有している(以上につき甲1,35)。
イ被告東邦サプライは,家庭用電気製品の製造,販売,輸出入のほか,不動産
の売買,賃貸,管理等を目的とする株式会社であり,千歳烏山店の店舗建物である
東京都世田谷区南烏山6丁目5-7所在の明光ビル新館103号室(以下「本件建
物」という。)の賃貸人である。
(2)本件各動産の引渡し等
原告は,平成24年6月23日,被告Aⅰに対し,本件各動産を引き渡した。
被告Aⅰは,それ以降,本件各動産を占有している。
(3)本件建物の賃貸借契約と千歳烏山店の営業開始
ア原告は,平成24年7月2日,被告東邦サプライとの間で,本件建物を,串
かつ店として使用するため,同月10日から平成27年7月9日までの期間賃借す
る旨の事業用建物賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結した(甲
4,乙A4)。
イ原告は,本件建物に内装設備や什器備品類を備え,平成24年8月17日か
ら千歳烏山店の営業を開始した。
(4)赤坂店
ア被告Aⅰは,平成19年3月27日以降,平成24年6月5日に原告が設立
されるまで,個人事業として,「かつーん」の屋号で赤坂店の串かつ店としての営
業を行っていた(弁論の全趣旨)。
イ被告Aⅰは,平成24年9月5日から同月24日まで,赤坂店の売上金を原
告の三菱東京UFJ銀行六本木支店の預金口座(以下「六本木支店口座」ともい
う。)に入金したが,同月25日以降,赤坂店の売上金を原告の預金口座に入金し
なかった(乙A2)。
(5)Aⅱによる預金引揚げ
Aⅱは,平成24年9月24日,原告の三菱東京UFJ銀行烏山支店の預金口座
(以下「烏山支店口座」ともいう。)及び六本木支店口座から合計315万800
0円をAⅱ個人の口座に送金する方法により引き揚げた(以下「本件預金引揚げ」
という。)(乙A1,2)。
(6)取締役報酬の支給
被告Aⅰは,平成24年9月25日及び同年10月25日にそれぞれ37万08
00(合計74万1600円)を,自己の取締役報酬として,原告から自らに支給
した(以下,併せて「本件報酬支給」という。)。被告Aⅰがこの報酬を定めるに
当たって,原告の株主総会による承認はされていない。
(7)千歳烏山店に係る什器備品の譲渡等
ア被告Aⅰは,平成24年10月31日,千歳烏山店の什器備品である次の①
ないし⑧の各物件(以下,併せて「本件什器備品」という。)を,原告から被告A
ⅰ個人が代金55万1017円で買い受ける旨の動産売買契約を,自ら原告を代表
する形(自己取引の形)で締結した(乙A25)。この取引について,原告の株主
総会による承認はされていない。
①製氷機(フクシマ製FIC-65KT1)
②冷蔵ショーケース(レマコム製RCS-100)
③横型冷蔵庫(ホシザキ製RT-120PTE1)
④ガスフライヤー(マルゼン製MGF-23J)
⑤縦型冷凍冷蔵庫(フクシマ製URN-122PM6)
⑥冷凍ストッカー(レマコム製RRS-102CNF)
⑦冷凍ストッカー(レマコム製RRS-T70)
⑧酒燗器(サンシン製NS-1D)
イ被告Aⅰは,平成24年11月1日以降,個人事業として,千歳烏山店の営
業を行っている(弁論の全趣旨)。
(8)本件建物の賃貸借契約の切替え
被告Aⅰは,平成24年10月30日,原告を代表して,被告東邦サプライとの
間で,同月31日限り本件賃貸借契約を解約する旨の合意をし(以下「本件解約」
という。),同年11月1日,被告東邦サプライとの間で,被告Aⅰ個人として,
本件建物を,串かつ店として使用するため,同日から平成27年7月9日までの期
間賃借する旨の事業用建物賃貸借契約を締結した(以下,この本件解約と新たな賃
貸借契約の締結を併せて「本件賃貸借切替え」という。)(乙B4,5,7の1)。
(9)原告の商標登録等
ア原告は,平成24年7月20日及び同年8月27日に,原告が串かつ店「か
つーん」の事業に使用する原告各商標につき,それぞれ商標登録出願をした(商願
2012-58680号,商願2012-69122号)。ところが,被告Aⅰは,
同年10月25日,原告を代表して,上記2件の商標登録出願をいずれも取り下げ
た(以下「本件出願取下げ」という。)(甲5)。
イ原告は,平成25年2月20日,原告各商標につき,再度商標登録出願をし,
同年7月5日,商標登録を得た。原告は,以来,本件各商標権を保有している(甲
12)。
ウ被告Aⅰは,千歳烏山店において,串かつ料理を主とする飲食物の提供に関
し,その提供を受ける者の利用に供するメニュー並びに看板,ホームページ及びチ
ラシに被告各標章を使用している(甲11,乙A10,弁論の全趣旨)。
3争点
(1)被告Aⅰに対する会社法423条1項に基づく損害賠償請求(前記第1の1)
について
(1-1)被告Aⅰに対する千歳烏山店の譲渡に関する損害賠償請求について
ア被告Aⅰの事業譲渡又は利益相反取引による損害賠償責任の有無
被告Aⅰが,平成24年10月末,千歳烏山店に関し,本件什器備品のみならず
原告の事業の重要な一部を譲渡したものとして,会社法467条1項に違反し,原
告に対して同法423条1項に基づく損害賠償責任を負うか。あるいは,被告Aⅰ
が,上記譲渡を行ったことにつき,利益相反取引をしたものとして,同法356条
1項に違反し,原告に対して同法423条1項に基づく損害賠償責任を負うか。
イ損害
上記アの譲渡による原告の損害はいかなるものか。
(1-2)被告Aⅰに対する売上金横領に関する損害賠償請求について
被告Aⅰが,平成24年8月17日から同月22日までの間及び同年9月24日
から同年10月31日までの間に,原告の千歳烏山店の売上金を横領したか。
(1-3)被告Aⅰに対する本件出願取下げに関する損害賠償請求について
被告Aⅰが,平成24年10月25日,本件出願取下げをしたことにより,原告
に対して会社法423条1項に基づく損害賠償責任を負うか。
(1-4)被告Aⅰに対する取締役報酬お手盛りによる損害賠償請求について
被告Aⅰが,平成24年9月25日及び同年10月25日の本件報酬支給により,
会社法361条に違反し,原告に対して同法423条1項に基づく損害賠償責任を
負うか。
(1-5)被告Aⅰに対する競業避止義務違反による損害賠償請求について
ア被告Aⅰの競業避止義務違反の有無
被告Aⅰが,平成24年9月25日から平成25年4月27日までの間,赤坂店
の営業を行ったことが,原告に対する競業避止義務違反(会社法356条1項1号)
となるか(具体的には,被告Aⅰが,平成24年6月5日から同年9月24日まで
の間に,原告に対し,赤坂店の事業を譲渡していたか否かが,主に争われている。)。
イ損害
上記アの競業避止義務違反による原告の損害はいかなるものか。
(1-6)損害額
被告Aⅰが取締役としての任務を怠ったこと(上記(1-1)ないし(1-5))による原告
の損害額は幾らか。
(2)被告らに対する共同不法行為に基づく損害賠償請求(前記第1の2)につい

ア被告Aⅰの横領による損害賠償責任の有無
被告Aⅰが,平成24年10月30日及び同年11月1日に本件賃貸借切替えを
したことにより,横領をしたものとして,原告に対して不法行為に基づく損害賠償
責任を負うか。
イ被告東邦サプライの共同不法行為に基づく損害賠償責任の有無
被告東邦サプライが,本件賃貸借切替えに応じたことにつき,原告に対して共同
不法行為に基づく損害賠償責任を負うか。
ウ損害額
上記アないしイの不法行為により原告は幾らの損害を受けたか。
(3)被告Aⅰに対する本件各商標権に基づく差止請求(前記第1の3)について
ア著作権の抗弁の成否
原告の被告Aⅰに対する本件商標権2の行使が,原告商標2の商標登録出願の日
前に生じた他人の著作権に抵触するものとして,商標法29条により許されないか。
イ先使用権の抗弁の成否
被告Aⅰが被告各標章につき先使用権(商標法32条1項)を有するか。
ウ権利濫用の抗弁の成否
原告が被告Aⅰに対し本件各商標権に基づく差止請求権を行使することが権利の
濫用に当たるか。
エ無効の抗弁の成否
原告各商標の商標登録について,次の(ア)ないし(ウ)の点で商標法46条1項1号の
無効理由があり,商標登録無効審判により無効にされるべきもの(同法39条,特
許法104条の3第1項)と認められるか。
(ア)商標法4条1項10号該当性
原告各商標が商標法4条1項10号に該当するか。
(イ)商標法4条1項15号該当性
原告各商標が商標法4条1項15号に該当するか。
(ウ)商標法4条1項7号該当性
原告各商標が商標法4条1項7号に該当するか。
オ通常使用権の抗弁の成否
原告は,被告Aⅰに対し,原告各商標の使用(通常使用権)を許諾していたか。
(4)被告Aⅰに対する本件各動産に係る引渡等請求(前記第1の4ないし6)に
ついて
ア賃貸借契約終了に基づく引渡請求の当否
原告と被告Aⅰが平成24年6月23日に本件各動産の賃貸借契約を締結し,平
成25年8月23日に同契約が終了したか。
イ使用貸借契約終了に基づく引渡請求の当否
原告と被告Aⅰが平成24年6月23日に本件各動産の使用貸借契約を締結し,
平成25年8月23日に同契約が終了したか。
ウ所有権に基づく引渡請求の当否
原告が本件各動産の所有権を有しているか。
エ使用料相当額
本件各動産の使用料相当額は幾らか。
オ代償金の額
本件各動産の代償金の額は幾らか。
4争点に関する当事者の主張
(1)被告Aⅰに対する会社法423条1項に基づく損害賠償請求について
(1-1)被告Aⅰに対する千歳烏山店の譲渡に関する損害賠償請求について
【原告の主張】
ア被告Aⅰの事業譲渡による損害賠償責任
(ア)被告Aⅰは,平成24年10月末,原告の株主総会において取引の重要事実
を開示して承認決議を受けることなく,千歳烏山店の営業用資産(店舗賃借権,内
装設備,什器備品,在庫,電話回線,ノートパソコン等の事務機器及び事務用品等)
を全て原告から自らに譲渡した(以下「本件移転」という。)。
(イ)会社法467条にいう事業の譲渡とは,「一定の営業目的のため組織化され,
有機的一体として機能する財産(得意先関係等の経済的価値のある事実関係を含
む。)の全部または重要な一部を譲渡し,これによって,譲渡会社がその財産によっ
て営んでいた営業的活動の全部または重要な一部を譲受人に受け継がせ,譲渡会社
がその譲渡の限度に応じ法律上当然に旧商法25条《現会社法21条》に定める競
業避止義務を負う結果を伴うものをいう」(最高裁昭和40年9月22日大法廷判
決・民集19巻6号1600頁)ところ,被告Aⅰは,千歳烏山店の営業を行うた
めの営業用資産を全て自らに譲渡しており,これが「一定の営業目的のため組織化
され,有機的一体として機能する財産(得意先関係等の経済的価値のある事実関係
を含む。)の全部または重要な一部」の譲渡に該当することは明らかである。した
がって,本件移転は,原告の「事業の重要な一部」(会社法467条1項2号)の
譲渡に該当し,株主総会の承認が必要であった。
(ウ)したがって,被告Aⅰは,本件移転を行ったことにつき,株主総会の承認を
受けることなく原告の事業の重要な一部を譲渡したものとして,会社法467条1
項に違反し,原告に対して同法423条1項に基づく任務懈怠に係る損害賠償責任
を負う。
イ被告Aⅰの利益相反取引による損害賠償責任
本件移転は,原告の取締役であった被告Aⅰが,自己のために原告と取引をした
ものであるから,会社法356条1項2号の利益相反取引に該当し,取締役会設置
会社(同法365条1項)ではない原告においては株主総会の承認が必要であった。
したがって,被告Aⅰは,本件移転を行ったことにつき,株主総会の承認を受け
ることなく利益相反取引をしたものとして,会社法356条1項に違反し,原告に
対して同法423条1項に基づく任務懈怠に係る損害賠償責任を負う。
ウ損害
(ア)本件移転により,千歳烏山店の営業を被告Aⅰに乗っ取られたため,原告は,
千歳烏山店において事業を営むことができなくなり,平成24年11月1日以降の
得べかりし千歳烏山店からの利益に相当する額の損害を被った。
千歳烏山店の開業日である平成24年8月17日から同年10月31日までの7
6日間の売上高は,最低でも831万5289円であり,同期間の仕入れは最大で
も248万6931円,販売費及び一般管理費は最大でも356万7181円であっ
たから,営業利益は最低でも226万1177円であった。これを年間利益に換算
すると,最低でも1085万9600円となる。千歳烏山店は少なくとも5年間は
営業を継続でき,同様の利益を上げたとみられるから,本件移転により原告が被っ
た損害は,5429万8000円を下らない。
なお,平成24年8月17日から同年10月31日までの期間の千歳烏山店の営
業利益につき,経理上は赤字となっているが,費用として計上されているもののう
ち合計312万5170円は,①キャバクラでの遊興費など違法に支出された費用
や,②原告の設立・店舗立ち上げ時にかかる初期費用,③多店舗展開を前提とした
費用又は④被告Aⅰの事業簒奪にかかった費用など本来費用計上できないものであ
る。これを費用から除くと,営業利益は前記のとおり226万1177円となる。
(イ)被告Aⅰは,本件移転に際し,本件建物の保証金(250万円)並びに千歳
烏山店の本件建物内の内装設備(294万円)及びその他の営業用資産(287万
2020円)を,被告Aⅰ個人が本件建物を賃借して営業を開始した千歳烏山店の
事業に流用した。このため,原告は,千歳烏山店の保証金,内装設備相当額,営業
用資産相当額及びのれん相当額の損害を被った。
(ウ)原告が被った上記(ア)及び(イ)の損害の合計額は,少なくとも2500万円を
下らない。
【被告Aⅰの主張】
ア被告Aⅰの事業譲渡による損害賠償責任について
(ア)原告が本件移転として主張する事実のうち,本件什器備品の譲渡以外の事実
は否認する。なお,千歳烏山店の賃借権については,直接的に原告から被告Aⅰに
地位の承継をする契約を締結したわけではない。
(イ)本件移転が会社法467条の事業の譲渡に当たるとの主張は争う。千歳烏山
店の従業員は,Aⅱと被告Aⅰとの対立が生じた中で,自ら原告を退職する旨申し
出ており,原告の千歳烏山店には人的資源が存在しなかった。
次に,原告は,本件賃貸借契約において,事業を継続したとしても解除事由(本
件賃貸借契約17条11号,15条1号④)を抱えており,内装設備については,
財産的価値を生じ得ず,むしろ原状回復費用という負の財産を負うのみであった(総
勘定元帳〔乙A19〕に記載された工具器具備品を除く流動資産はいずれもこのよ
うな性質を有するものであった。)。また,工具器具備品について,一度使用した
什器備品等には財産的価値がなく,むしろリサイクル料金を含む廃棄費用の方が高
額になるため,負の財産であった。結局,千歳烏山店の資産は,什器備品に限られ
るものであり,「事業」といい得るものではなかった。
さらに,平成24年9月24日にAⅱが本件預金引揚げをしたため,千歳烏山店
は,運転資金を失い,資金不足により本件賃貸借契約が解除され,従業員が退職し
得る状況に追い込まれ,「事業」と評価できる状態ではなくなった。
(ウ)被告Aⅰが千歳烏山店に係る譲渡を行ったことについては,会社法467条
1項に違反せず,被告が原告に対して本件移転に関し同法423条1項に基づく損
害賠償責任を負うことはない。
イ被告Aⅰの利益相反取引による損害賠償責任について
本件移転が利益相反取引に当たるとの主張は争う。前記ア(イ)のとおり,被告Aⅰ
が譲り受けた財産は,負の財産であり,債務の引受けと何ら変わるところはないか
ら,会社法356条1項2号に定める利益相反取引には該当しない。
ウ損害について
(ア)そもそも,原告は,Aⅱの本件預金引揚げという着服行為により千歳烏山店
の営業を継続できる状況になかった。したがって,原告の損害を観念することはで
きない。
また,千歳烏山店の平成24年6月5日から同年10月31日までの営業利益(損
失)は86万3993円の赤字であったし,同年11月及び同年12月の営業利益
(損失)は342万1986円の赤字,平成25年の営業利益(損失)は1559
万0689円の赤字であったから,原告に損害が発生したとはいえない。
さらに,千歳烏山店で売上げや利益が出たとしても,それは被告Aⅰが営業をし
たことによるものであり,原告が営業の主体であったなら同じ売上げや利益は獲得
できなかったものである。なお,仮に原告が被告Aⅰに営業を委託した場合には,
被告Aⅰの取締役報酬もかかる。
(イ)原告は本件建物の保証金に係る損害を250万円と主張するが,このうち7
5万円は償却されるものであるから(本件賃貸借契約7条2項),原告の主張には
理由がない。また,残り175万円についても,平成24年10月31日時点で敷
金返却分175万円について原告の総勘定元帳(乙A19)に経理処理されている
ものであって,被告Aⅰが受領したものではない。
次に,前記ア(イ)のとおり,原告は本件賃貸借契約において解除事由を抱えてい
たため,内装設備の価値は実質的に零である。
さらに,営業用資産についても実質的に価値はない。本件什器備品の売買契約
当時,千歳烏山店内の什器備品について業者に下取りとして見積もってもらった
が,価値はほとんどなかった。かろうじて下取価格が付く可能性のあるものにつ
いて,中古品価格(下取価格ではない。)として対価を定めたのが上記売買契約
である。当時の中古品価格については既に資料を廃棄してしまったが,現時点で
調査した中古品価格は,下表のとおりである。
型番中古価格証拠番号
製氷機FIC-65KT1105,000円乙A33の1
冷蔵ショーケースRCS-10020,000円乙A33の2
横型冷蔵庫RT-120PTE170,200円乙A33の3
ガスフライヤーMGF-23J86,400円乙A33の4
縦型冷凍冷蔵庫URN-122PM6224,640円乙A33の5
冷凍ストッカーRRS-102CNF18,800円乙A33の6
冷凍ストッカーRRS-T7018,000円乙A33の7
酒燗器NS-1D5,400円乙A33の8
合計548,440円
なお,原告は,のれん相当額の損害も主張するが,千歳烏山店は営業利益が赤字
であるから,そもそものれん代はないといえる。さらに,仮にのれん代が存在する
としても,千歳烏山店の客観的価値に関する証拠の提出はないから,これについて
の原告の損害賠償請求は認められない。
(1-2)被告Aⅰに対する売上金横領に関する損害賠償請求について
【原告の主張】
被告Aⅰは,平成24年8月17日から同月22日までの間及び同年9月24日
から同年10月31日までの間に,原告の千歳烏山店の売上げを原告に入金せず,
原告への売上報告も行わなかった。被告Aⅰのこの行為は,原告に対する横領であ
り,これにより,原告は売上金相当額の損害を被ったから,被告Aⅰは,原告に対
して会社法423条1項に基づく損害賠償責任を負う。
なお,千歳烏山店における同年8月23日から同年9月23日までの32日間の
売上合計は合計410万2210円,1日当たりの平均売上金額は12万8194
円であった。
【被告Aⅰの主張】
原告が指摘する期間において,被告Aⅰは,原告の預金口座に売上金を入金し
ていないが,原告の売上げに計上しており(乙A19〔「410売上高」勘定〕),
横領していない。したがって,原告に損害は発生していない。
なお,平成24年8月17日から同月22日までの間に被告Aⅰが千歳烏山店の
売上報告及び売上金の入金をしていなかったのは,そのような入金の指示をAⅱか
ら受けたのが同月23日頃だったからである。千歳烏山店は,新規に同月17日か
ら同月19日まで,赤字覚悟で「1人90分1000円で飲み放題,食べ放題」の
イベントを開催し,同期間の売上げは,同期間の仕入金額に追い付かなかったもの
であり,同日までの売上げと仕入れとを相殺していくと,送金すべき売上金は存在
しなかった。
また,同年9月24日以降の千歳烏山店の売上については,同日に被告Aⅱによ
る本件預金引揚げがあり,やむを得ず被告Aⅰ自身が千歳烏山店の営業を引き継ぐ
ことにしたため,原告の預金口座への入金をしなかったものである。
(1-3)被告Aⅰに対する本件出願取下げに関する損害賠償請求について
【原告の主張】
ア被告Aⅰは,原告の取締役として,原告に対し善管注意義務(会社法330
条,民法644条)及び忠実義務(会社法355条)を負っており,原告の利益の
ために忠実にその委任事務を処理すべき任務を負っていたにもかかわらず,無断で
本件出願取下げをし,上記義務に違背した。したがって,被告Aⅰは,原告に対し
て会社法423条1項に基づく任務懈怠に係る損害賠償責任を負う。
イ原告は,調査及び再度の商標登録出願のために16万8000円の追加費用
の拠出を要し,本件出願取下げにより同額の損害を被った。
【被告Aⅰの主張】
原告の追加拠出費用は不知,被告Aⅰによる商標出願取下げが違法であるとの主
張は争う。
そもそも,かつーんのロゴ(原告商標2ないし被告標章3のロゴ。以下「かつ~
んロゴ」ともいう。)は,被告Aⅰが平成19年頃「かつーん」赤坂店を出店する
に当たり,被告Aⅰの友人であるAⅲがデザインし,被告Aⅰが,著作権者である
Aⅲから利用許諾を受けたものである。原告は,被告Aⅰが運営に関与する限りに
おいて,Aⅲの利用許諾を得ていたにすぎない。Aⅱの本件預金引揚げによる着服
以降,千歳烏山店の運営はやむを得ず原告から被告Aⅰに移管され,かつ,原告が
被告Aⅰの関与のもと店舗運営をする可能性は消滅したのであるから,原告が,か
つ~んロゴの利用許諾を受ける理由は全くない。
被告Aⅰが,原告における商標登録出願を取り下げたのは,上記の理由からであっ
て,何ら不当な目的があったものではない。
(1-4)被告Aⅰに対する取締役報酬お手盛りによる損害賠償請求について
【原告の主張】
ア会社法361条により,取締役の報酬は株主総会決議によって定めなければ
ならないところ,被告Aⅰは,平成24年9月25日及び同年10月25日,株主
総会決議を経ずに,自己の報酬額(それぞれ37万0800円)を決定し,原告か
ら自らに本件報酬支給をした。その結果,原告は,合計74万1600円の損害を
被った。
被告Aⅰは,本件報酬支給により,会社法361条に違反したものであり,原告
に対して同法423条1項に基づく任務懈怠に係る損害賠償責任を負う。
イなお,被告Aⅰが後記のとおり主張する全株主の同意があったとの事実は否
認する。被告Aⅰから取締役報酬を支給するとの提示があったのに対し,Aⅱは,
承認できないと回答した。
【被告Aⅰの主張】
被告Aⅰは,原告から,取締役報酬として,合計74万1600円の支給を受け
たが(本件報酬支給),Aⅱに対して事前に支給案を送信し,Aⅱの承諾を得てい
た。したがって,被告Aⅰは,本件報酬支給に関し,Aⅱと被告Aⅰという全株主
の承諾を得ていたものであるから,原告に対して会社法423条1項に基づく損害
賠償責任を負わない。
(1-5)被告Aⅰに対する競業避止義務違反による損害賠償請求について
【原告の主張】
ア被告Aⅰの競業避止義務違反
(ア)被告Aⅰは,平成24年6月5日,赤坂店の事業を,①原告からの本件各動
産の貸付け等を対価として有償で,又は(仮に法的な対価関係が認められないとし
ても)②Aⅱによる串かつ店の共同経営への参画・資金拠出や原告からの本件各動
産の貸付けをメリットとして享受しつつ法形式上は無償で,原告に譲渡し,赤坂店
の経営を原告の下で行うことに合意した。
そして,被告Aⅰは,同年8月24日,店舗ごとに口座を分けた方がよいので千
歳烏山支店の口座を開設するようにとのAⅱの指示を受け,これに従い,六本木支
店口座は赤坂店用に使用するため,千歳烏山店用にもう一つ口座を開設したいと銀
行担当者に説明して原告名義の烏山支店口座を開設し,同年9月5日以降は,それ
まで千歳烏山店の売上金を入金していた原告の六本木支店口座に赤坂店の売上金を
入金し,新しく開設した烏山支店口座に千歳烏山店の売上金を入金するようになっ
た(被告Aⅰは,同月5日から同月24日までの間の赤坂店の売上金を,六本木支
店口座に入金した。)。
(イ)ところが,被告Aⅰは,平成24年9月25日以降,赤坂店の売上げを原告
に入金しなくなった。
(ウ)取締役が自己のために会社の事業の部類に属する取引をするには株主総会の
承認を要するところ(会社法356条1項1号),被告Aⅰは,平成24年9月2
5日から平成25年4月27日までの間,株主総会の承認を受けずに,赤坂店にお
いて,原告の事業の部類に属する串かつ店の営業を行ったものであり,会社法35
6条1項に違反した。
(エ)なお,被告Aⅰが後記のとおり主張する,被告Aⅰが赤坂店で原告と競業す
る事業を行うことにつき全株主の同意があったとの事実は否認する。Aⅱは,平成
24年9月25日から平成25年4月27日までの間の競業を承認していない。
イ損害
被告Aⅰの上記競業避止義務違反により,原告は,被告Aⅰが競業取引によって
得た利益の額に相当する損害を被った(会社法423条2項)。
【被告Aⅰの主張】
ア被告Aⅰの競業避止義務違反の有無について
(ア)被告Aⅰは,平成19年3月27日以降,平成24年6月5日の前後を問わ
ず,個人事業として赤坂店の営業を行っていたものであり,被告Aⅰが原告に赤坂
店の事業を譲渡する旨の合意をしたとの事実は否認する。
(イ)被告AⅰとAⅱは,被告Aⅰ個人が赤坂店の運営を継続することを前提とし
て,原告を設立したものである。
被告Aⅰが原告に対して赤坂店を譲渡した事実がないからこそ,契約書が存在せ
ず,かつ,譲渡に見合う対価の支払もされていないのである。また,赤坂店の公共
料金の支払請求も被告Aⅰに対してされており,原告に譲渡されていないことは明
らかである。なお,原告が赤坂店の譲渡の対価と主張する本件各動産に関する点は,
Aⅱが不要となった家具を被告Aⅰに贈与したものにすぎない。
(ウ)被告Aⅰが平成24年9月25日以降赤坂店の売上げを原告の預金口座に入
金していないことが違法であるとの主張は争う。
赤坂店は被告Aⅰの個人事業であるから,その売上金を原告に引き渡す必要はな
い。
被告Aⅰは,平成24年9月5日から同月24日まで,赤坂店の売上を原告の六
本木支店口座に預託しているが,これは,赤坂店の運営を原告に移管させる旨の検
討がなされており,その検討に際し,Aⅱから被告Aⅰに対し,①赤坂店と千歳烏
山店の売上金額を明確にし,被告Aⅰが運営する赤坂店に原告の運営する千歳烏山
店の売上金が流用されていないか確認し,②赤坂店が採算の取れる店舗か確認した
いので,赤坂店の売上金を原告の口座に入れてもらいたい旨の要望があったためで
ある。結果としてこの事業譲渡は実現しなかった。
(エ)被告Aⅰが,平成24年9月25日から平成25年4月27日までの間,赤
坂店において,原告の事業の部類に属する串かつ店の営業を行ったことは認め,こ
れが違法であるとの主張は争う。
被告Aⅰが赤坂店の営業を継続することについては,Aⅱの承諾,したがってA
ⅱと被告Aⅰという全株主の承諾を得ていた。
イ損害について
原告の主張は争う。
(1-6)損害額
【原告の主張】
被告Aⅰが取締役としての任務を怠ったこと(上記1-1ないし1-5)による原告の
損害額は,3500万円を下らない。
【被告Aⅰの主張】
原告の主張は争う。
(2)被告らに対する共同不法行為に基づく損害賠償請求について
【原告の主張】
ア被告Aⅰの横領による損害賠償責任
(ア)被告Aⅰは,平成24年10月30日及び同年11月1日,被告東邦サプラ
イとの間で,本件賃貸借切替えをし,本件建物の保証金(250万円)並びに千歳
烏山店の建物内の内装設備(294万円)及びその他の営業用資産(287万円2
020円)を横領した(以下「本件横領行為」という。)。
(イ)なお,Aⅱが平成24年9月24日,原告の千歳烏山店口座から189万3
000円をAⅱの預金口座に送金したこと(本件預金引揚げ)は認め,これに関す
る被告Aⅰの後記主張は争う。
Aⅱによる本件預金引揚げは,被告Aⅰによるずさんな金銭管理及びお手盛りを
防止するために,被告Aⅰが自由に出金できない預金口座に原告の会社資金を移動
するべく行われたものである。
総勘定元帳(乙A19)には原告の経費として認められないものが計上されてい
たり,赤坂店の売上金が計上されていなかったり,預金口座からの出金金額が現金
に計上されていなかったりする問題があり,それらを考慮すれば,当時,少なくと
も500万円以上の会社資金が存在したはずであり,結局,9月分の従業員給与及
び家賃を支払う必要があったことを考慮しても,それを支払うに足りる資金が残さ
れていたはずである。
イ被告東邦サプライの共同不法行為に基づく損害賠償責任
(ア)被告東邦サプライは,①被告Aⅰが,株式を過半数保有しているスポンサー
との関係がうまく行かなくなったことを認識しつつ,また,②本件解約に係る合意
書(乙B4)に顕出された原告の印鑑の印影が,本件賃貸借契約に係る契約書(甲
4,乙A4)のそれとは異なることを認識しながら故意に,ないしは少なくとも漫
然と見落として,本件建物の保証金並びに千歳烏山店の建物内の内装設備及びその
他の営業用資産の承継を認め,被告Aⅰによる本件横領行為を実現させた。
(イ)なお,被告東邦サプライは,後記のとおり,本件賃貸借契約には解除事由が
あり損害が発生しない旨主張するが,本件賃貸借契約15条1号④は,契約後にお
いて賃借人に実質的変更があった場合についての定めであり,原告の株主構成は,
当初から被告Aⅰ40%とAⅱ60%で,取締役も両名の共同経営であることは,
原告の定款に記載のとおりであり本件解約まで何ら変更はなかったのであるから,
上記条項に該当することはない。
ウ損害額
本件横領行為により,原告は,本件建物の保証金並びに千歳烏山店の内装設備相
当額,営業用資産相当額及びのれん相当額の損害を被った。
原告が被った上記損害は,1500万円を下らない。
【被告Aⅰの主張】
ア被告Aⅰが千歳烏山店の建物につき本件賃貸借切替えを行ったのは,原告の
取締役であったAⅱが,平成24年9月24日,原告の千歳烏山店口座の残高(1
89万4007円)のほぼ全額に相当する189万3000円をAⅱ名義の預金口
座に送金する本件預金引揚げにより着服し,千歳烏山店の事業継続を事実上不可能
にしたためである。
被告Aⅰは,千歳烏山店の従業員の雇用を守り,同店の運営を継続するためには,
原告ではなく被告Aⅰ個人において運営するほかないと判断し,本件賃貸借契約を
被告Aⅰ名義に切り替えるとともに,同店の本件什器備品については,自らが相当
の対価を支払って原告から譲り受けた。
イ損害額に関する原告の主張は争う。千歳烏山店は,本件解約前の平成24年
9月24日の被告Aⅱによる預金の横領(本件預金引揚げ)により,被告Aⅰから
の借入れなしには営業が継続できない状態となり,原告の賃借権及び千歳烏山店の
営業は無価値となっていた。
また,被告Aⅰが200万円を原告に貸し付けて対応を行わなければ,平成24
年10月27日より後は,本件賃貸借契約17条11号により賃貸人である被告東
邦サプライからいつでも解除し得る状況にあったものであるから,原告の賃借権は,
原告の権利又は法律上保護された利益とはいえない。
さらに,本件建物の保証金並びに千歳烏山店の営業用資産及びのれんについては,
被告Aⅰは原告に相当の対価を支払っている。また,本件解約により,保証金25
0万円から敷引きされる75万円を除く175万円が原告に返還されたが,被告A
ⅰは,Aⅱが原告の資金を不当に引き揚げたことから,従業員の賃金や家賃の支払
等につき立替払いを行っていたため,被告東邦サプライから原告の代表者として受
領した上記返還金を,被告Aⅰの原告に対する上記立替金返還請求権の弁済に充当
した。
【被告東邦サプライの主張】
ア(ア)被告東邦サプライは,被告Aⅰが既に赤坂店を盛況に運営している実績や
同店の従業員に対する教育等の評価を確認して納得し,当初の申込人であった被告
Aⅰ個人に対する信頼に基づいて千歳烏山店の建物を賃貸したものであり,本件賃
貸借契約締結時には被告Aⅰの都合で賃借人が原告となったが,被告Aⅰの芸名が
「Bⅱ」であることなどに照らし,原告は被告Aⅰが法人成りした株式会社である
と理解していた。
(イ)被告Aⅰの横領行為については不知。原告が主張する被告東邦サプライの認
識については否認する。
建物賃貸借解約合意書(乙B4)の原告の印影は,原告の事業用建物申込書(乙
B2),原告の鍵預かり証(甲4末尾)の印影と同一である。
原告の主張は,本件解約が有効であることを前提としているところ,本件解約に
よって原告に返還された保証金や内装設備を,原告がどう処分するかは,原告の内
部の問題であって,被告東邦サプライとは関係がない。被告東邦サプライは,被告
Aⅰが管理をしない串かつ店を千歳烏山店の建物で営業させることには不安が大き
く(火を使う飲食店に賃貸することは,建物全体の衛生,防災等の面で危険があり,
適正な店舗管理ができる者に対してでなければ賃貸することはできない。),本来で
あれば原状回復を求めなければならないが,本件解約後,被告Aⅰ個人が経営する
のであれば,不安はなく,かつ,千歳烏山店の建物賃貸の空白期間をなくすことが
できるので,賃貸人としての合理的な判断から,被告Aⅰの申込みを受け入れて,
被告Aⅰに賃貸したにすぎない。
本件解約後の被告東邦サプライの行為は,建物賃貸借契約の賃借人である被告A
ⅰの対向当事者である賃貸人として賃貸借契約を締結しただけであって,何ら被告
Aⅰの行為に加担してはいない。被告東邦サプライが追求していた利益は,賃貸人
としての正当な利益以外の何物でもない。
本件賃貸借契約を解約することが原告の代表取締役であった被告Aⅰの真意であ
ることには争いはなく,建物賃貸借解約合意書(乙B4)に押捺された原告の印鑑
が代表印であろうがなかろうが,法的に意味はない。被告東邦サプライは,原告の
代表者であった被告Aⅰ本人から原告の本件解約の意思を確認しており,本件解約
に係る合意書の印影が実印であるか否かを確認する必要もなかった。
イ損害額に関する原告の主張は争う。
被告東邦サプライは,赤坂店を適切に経営管理していた被告Aⅰに信頼を置いて,
被告Aⅰが代表者を務める原告との本件賃貸借契約を締結したのであり,被告Aⅰ
が原告から離れ,被告Aⅰ以外の者が千歳烏山店の経営管理を行い,被告Aⅰがそ
の責任を負担しないこととなれば,従前の占有管理とは全く異なるものとなり,「経
営の実態が第三者による経営と判断される場合」(本件賃貸借契約15条1④)に
該当し,被告東邦サプライは,本件賃貸借契約17条11号に基づき,本件賃貸借
契約をいつでも解除することができる状態になる。
したがって,原告と被告Aⅰとの対立による訣別が不可避であった以上,原告に
は本件賃貸借契約継続による利益を取得できる可能性はなかったものであり,損害
は発生しない。
(3)被告Aⅰに対する本件各商標権に基づく差止請求について
【原告の主張】
被告Aⅰは,千歳烏山店及び赤坂店において,串かつ料理を主とする飲食物の提
供という役務に関し,被告各標章を使用しているところ,被告各標章が使用されて
いる役務は,本件各商標権の指定役務と同一である。
そして,被告標章1は原告商標1と同一であり,被告標章2は原告商標1に類似
する。また,被告標章3は原告商標2と同一又は類似である。
したがって,被告Aⅰの被告標章1及び被告標章2の上記使用行為は,原告の保
有する本件商標権1を侵害し,被告標章3の上記使用行為は,原告の保有する本件
商標権2を侵害する。
よって,原告は,被告Aⅰに対し,商標法36条1項に基づき,被告Aⅰの被告
各標章使用行為の差止めを請求することができる。
【被告Aⅰの主張】
原告が本件各商標権の商標権者として登録されていることは認めるが,原告各商
標を考案し,平成19年から継続して信用を築いてきたのは被告Aⅰであり,実質
的に本件各商標権の登録を受けるべき地位にあるのは被告Aⅰである。
被告Aⅰとしては,以下の抗弁を主張する。
ア著作権の抗弁
原告商標2については,平成19年頃,Aⅲが創作し,著作権を有している。
そして,被告Aⅰは,Aⅲから許諾を得て赤坂店の営業にかつ~んロゴ(被告標
章3)を使用している。
他方,原告は,被告Aⅰが主体となって利用する限りでかつ~んロゴ(原告商標
2)の使用許諾を得ていたところ,平成24年9月24日,Aⅱが本件預金引揚げ
をしたことにより,千歳烏山店の運営を継続することができなくなり,被告Aⅰを
主体として原告がかつ~んロゴを使用することは不可能となった。
以上によると,原告の被告Aⅰに対する本件商標権2の行使は,原告商標2の商
標登録出願の日より前に生じた他人の著作権(Aⅲの著作権)と抵触するため,商
標法29条により許されない。
イ先使用権の抗弁
被告Aⅰは,①原告の原告各商標に係る商標登録出願(平成25年2月20日)
より前の平成19年3月から,日本国内において,本件各商標権の指定役務と同一
の役務について被告各標章を赤坂店の事業で使用しており,②不正競争の目的はな
く,③上記商標登録出願の際,被告各標章が被告Aⅰの業務に係る役務を表示する
ものとして需要者の間に広く認識されていた。したがって,被告Aⅰは,継続して
その役務に被告各標章を使用することにつき,先使用権(商標法32条1項)を有
している。
ウ権利濫用の抗弁
原告は,平成24年11月1日以降,何ら事業を行っておらず,原告各商標の使
用も行っていない。
原告は本件各商標権を利用しておらず,原告各商標は需要者にとって被告Aⅰに
対する信用が化体したものであるから,被告Aⅰが被告各標章を使用したとしても,
本件各商標権の実質的な侵害は存在しない。
また,前述のとおり,本件各商標権は,本来,被告Aⅰが商標登録を受けるべき
地位にあったもので,原告は商標登録を受けるべき地位にないにもかかわらず,商
標登録出願を行ったものにすぎない。
そうすると,原告の原告各商標に係る商標登録出願は,被告Aⅰの営業を妨害し
ようという不正の目的に基づくものであったと推認される。
以上の事情に鑑みれば,原告が被告Aⅰに対し本件各商標権に基づく差止請求権
を行使することは,権利の濫用に当たり,許されないものというべきである。
エ無効の抗弁
原告各商標の商標登録について,次の(ア)ないし(ウ)の点で商標法46条1項1号の
無効理由があり,商標登録無効審判により無効にされるべきものと認められるから,
同法39条,特許法104条の3第1項により,原告は,本件各商標権を行使する
ことができない。
(ア)商標法4条1項10号該当性
「かつーん」という文字標章(原告商標1)及び「かつ~んロゴ」(原告商標2)
は,原告設立前から,被告Aⅰが赤坂店において使用していた標章であり,顧客か
ら見れば,被告Aⅰが運営する串かつ店を表す標章として周知であった。したがっ
て,原告各商標は,その出願時において,他人の業務に係る役務を表示するものと
して需要者の間に広く認識されている商標であって,その役務について使用をする
ものであるから,商標法4条1項10号に該当し,その商標登録は,同項に違反し
てされたものである。
(イ)商標法4条1項15号該当性
原告が串かつ店の役務に原告各商標を使用すれば,顧客はあたかも被告Aⅰの運
営する串かつ店であるかと誤信し,他人の業務に係る役務と混同を生ずるおそれが
ある。したがって,原告各商標は,商標法4条1項15号に該当し,その商標登録
は,同項に違反してされたものである。
(ウ)商標法4条1項7号該当性
かつ~んロゴ(原告商標2)は,Aⅲが著作権を有しており,原告は,原告商標
2が他人の著作権に係るものであることを知りながら,原告商標2を使用すること,
すなわち,使用により著作権侵害を行うことを前提として商標登録出願を行ったも
のであり,このような違法行為を前提とした本件商標権2の出願は公序良俗に反す
る。したがって,原告各商標は,公序良俗を害するおそれがある商標として,商標
法4条1項7号に該当し,その商標登録は,同項に違反してされたものである。
オ通常使用権の抗弁
原告の設立に当たり,Aⅱと被告Aⅰとの間では,①「かつーん」の新店舗(千
歳烏山店)を開店し,被告各標章を使用すること,②店舗運営は被告Aⅰに任せ,
代表取締役には被告Aⅰが就任すること,③原告が原告各商標に係る権利を取得し
た際には,原告は被告Aⅰに対し原告各商標の使用を許諾することが合意されてい
た。
したがって,取締役会設置会社でない原告において,業務の執行は取締役の過半
数によって決せられるところ(会社法348条2項),Aⅱ及び被告Aⅰという全
取締役の合意によって,原告は,被告Aⅰに対し,本件各商標権について通常使用
権を許諾したものである。すなわち,原告は,設立時に,原告各商標に係る商標権
を取得することを停止条件として,被告Aⅰが主体となって使用する限り,原告各
商標を被告Aⅰが使用することを許諾したものである。
【原告の反論(被告Aⅰの主張に対する認否)】
ア著作権の抗弁について
被告Aⅰの上記アの主張は争う。原告商標2のマスターデータは原告に譲渡され
ており,原告商標2の著作権は,Aⅲから被告Aⅰを経て原告に譲渡されている。
イ先使用権の抗弁について
(ア)被告Aⅰの上記イの主張は争う。
被告Aⅰによる被告各標章の使用は,いまだ「需要者の間に広く認識されている」
とはいえなかった。赤坂店の売上げは,千歳烏山店の売上げの半分以下であり,固
定客は少ないというのが実状であった。また,被告各標章を知る被告Aⅰの関係者
ですら,原告設立前から原告設立の話を聞いて,今後はAⅱと被告Aⅰが共同でか
つーんを経営していくという認識に変わっており,原告設立後も引き続き被告各標
章が被告Aⅰの個人的な商標であり続けるとの認識など有してはいなかった。
(イ)先使用権の放棄
被告AⅰとAⅱが,原告において原告各商標の商標登録出願を行うこと及び被告
Aⅰが原告に対して赤坂店を事業譲渡することを前提として,共同出資により原告
を設立し,共同経営することを合意した際,当該合意には,①原告代表取締役とし
て被告Aⅰに競業避止義務を負わせ,原告の事業に注力する義務を負わせる趣旨及
び②被告Aⅰに事業譲渡後の競業避止義務(商法16条)を負わせ,原告とは別に
被告各標章を使用できないこととする趣旨のほか,③被告Aⅰにおいて本件各商標
権の先使用権を放棄する趣旨が含まれていた。
ウ権利濫用の抗弁について
被告Aⅰの上記ウの主張は争う。原告が原告各商標の商標権者となることは,原
告設立時にAⅱと被告Aⅰとの間で合意済みの事項である。事実,被告Aⅰは,平
成24年7月20日及び同年8月27日,原告代表者として原告各商標の商標登録
出願を行っている。本件のような事業乗っ取りの事案で,被告Aⅰが自ら事業を乗っ
取っておきながら,原告は原告各商標を使用していないなどと主張し,原告の本件
各商標権に基づく差止請求権の行使が権利濫用であるというのは,本末転倒という
べきである。原告の上記差止請求権の行使は,正当な権利の行使である。
エ無効の抗弁について
原告各商標の商標登録について,無効理由はない。
(ア)商標法4条1項10号該当性について
Aⅱと被告Aⅰは,原告において原告各商標の商標登録を行うことを合意し,現
に被告Aⅰは,平成24年7月20日及び同年8月27日,原告代表者として原告
各商標の商標登録出願を行った。
また,原告各商標はいまだ「需要者の間に広く認識されている」とはいえなかっ
た。原告各商標を知る被告Aⅰの関係者ですら,原告設立前から原告設立の話を聞
いて,今後はAⅱと被告Aⅰが共同でかつーんを経営していくという認識に変わっ
ており,原告設立後においても引き続き,原告各商標が被告Aⅰの個人的に使用す
る商標であり続けるとの認識など有してはいなかった。
以上によると,原告各商標は,商標法4条1項10号に該当しない。
(イ)商標法4条1項15号該当性について
上記(ア)と同様の理由から,原告各商標は,商標法4条1項15号に該当しない。
(ウ)商標法4条1項7号該当性について
原告各商標のマスターデータは原告に譲渡されており,原告各商標に係る著作権
は,Aⅲから被告Aⅰを経て原告に譲渡されている。
したがって,被告Aⅰの主張は成り立たず,原告各商標は,商標法4条1項7号
に該当しない。
オ通常使用権の抗弁について
(ア)原告が被告Aⅰに通常使用権を許諾したことは否認する。
(イ)通常使用権許諾契約の解除
仮に通常使用権の許諾をしたとしても,原告は,乗っ取り行為等の被告Aⅰによ
る背信行為を理由として,被告Aⅰに対し,通常使用権許諾契約を解除する旨の意
思表示をした(原告第2準備書面7頁)。その結果,同許諾契約は既に効力を失っ
ている。
【被告Aⅰの再反論(原告の反論に対する認否)】
ア著作権の抗弁について
原告商標2の著作権がAⅲから被告Aⅰを経て原告に譲渡されたとの事実は否認
する。
イ先使用権の抗弁について
原告が主張する先使用権放棄の再抗弁事実は否認する。原告ないしAⅱと被告A
ⅰとの間にそのような合意は存在しない。
ウ通常使用権の抗弁について
原告が主張する通常使用権解除の再抗弁については争う。被告Aⅰは背信行為を
行っていない。
(4)被告Aⅰに対する本件各動産に係る引渡等請求について
【原告の主張】
ア賃貸借契約終了に基づく引渡請求
(ア)原告は,平成24年6月5日,Aⅱが代表取締役を務める株式会社アレクス
(以下「アレクス」という。)との間で事業提携契約を締結し,同社から本件各
動産の貸与を受けた。
(イ)原告は,平成24年6月23日,被告Aⅰに対し,赤坂店の事業譲渡に対す
る対価の一部として,本件各動産を期限の定めなく賃貸し,これに基づき引き渡し
た。
(ウ)原告は,被告Aⅰが赤坂店の事業譲渡の合意を履行しないため,平成25年
8月23日被告Aⅰに送達された本件訴状をもって,債務不履行を原因として,本
件各動産の上記賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。
(エ)よって,原告は,被告Aⅰに対し,上記賃貸借契約の終了に基づき,本件各
動産の引渡しを請求することができる。
イ使用貸借契約終了に基づく引渡請求
(ア)前記ア(ア)と同じ。
(イ)原告は,平成24年6月23日,被告Aⅰに対し,無償で本件各動産を期限
の定めなく貸し渡した。
(ウ)原告は,平成25年8月23日被告Aⅰに送達された本件訴状をもって,本
件各動産の返還を請求した。
(エ)よって,原告は,被告Aⅰに対し,上記使用貸借契約の終了に基づき,本件
各動産の引渡しを請求することができる。
ウ所有権に基づく引渡請求
(ア)アレクスは,平成22年6月当時,本件各動産を所有していた。
(イ)アレクスは,平成27年1月26日,原告に対し,本件各動産を贈与した。
(ウ)被告Aⅰは,本件各動産を占有している。
(エ)よって,原告は,被告Aⅰに対し,所有権に基づき,本件各動産の引渡しを
請求することができる。
エ使用料相当額
本件各動産の使用料相当額は,1か月当たり,別紙物件目録記載の各「使用料」
欄記載のとおりであって,合計10万円を下らない。
オ代償金の額
本件各動産の価額は,別紙物件目録記載の各「価格」欄記載のとおりであるから,
本件各動産の引渡しの強制執行が不能となったときは,原告は,被告Aⅰに対し,
いわゆる代償請求として,同各金額の支払を請求することができる。
【被告Aⅰの主張】
ア賃貸借契約終了に基づく請求について
(ア)原告がアレクスから本件各動産の貸与を受けたことは否認する。
(イ)被告Aⅰが原告との間で賃貸借契約を締結したこと,及び被告Aⅰが受けた
引渡しが同賃貸借契約に基づくことは否認する。
被告Aⅰは,平成24年6月23日,Aⅱから,Aⅱが賃借していた京都のマン
ションを解約するに当たり家電製品等が不要となるため無償で譲り受けてほしいと
言われ,本件各動産を無償で譲り受けたものである。
(ウ)原告がした解除の意思表示の効果は争う。そもそも被告Aⅰは原告と本件各
動産の賃貸借契約を締結していないし,赤坂店を事業譲渡する合意もしていない。
イ使用貸借契約終了に基づく請求について
(ア)原告がアレクスから本件各動産の貸与を受けたことは否認する。
(イ)被告Aⅰが原告との間で使用貸借契約を締結したこと,及び被告Aⅰが受け
た引渡しが同使用貸借契約に基づくことは否認する。
ウ所有権に基づく引渡請求について
(ア)アレクスが平成22年6月当時本件各動産を所有していたこと及びアレクス
が原告に本件各動産を贈与したことは不知。
被告Aⅰは,前記ア(イ)のとおり,平成24年6月23日,Aⅱから本件各動産
の贈与を受けたものである。
Aⅱはアレクスの代表取締役であり,Aⅱが本件各動産を被告Aⅰに贈与すると
いう趣旨は,Aⅱがアレクスの代表者として本件各動産を贈与するという趣旨であ
り,本件各動産の所有権はAⅰに移転している。
(イ)仮に本件各動産の所有権がAⅱ以外にあったとしても,被告Aⅰは,そのよ
うな説明を受けておらず,即時取得(民法192条)により本件各動産の所有権を
取得した。
エ使用料相当額について
本件各動産の使用料相当額は争う。
オ代償金の額について
本件各動産の代償金の額は争う。
【原告の反論(被告Aⅰの主張に対する認否)】
アAⅱがアレクスの代表者として本件各動産を被告Aⅰに贈与したことは否認
する。
イAⅱが被告Aⅰに本件各動産を贈与したことは否認し,即時取得の主張は争
う。
第3当裁判所の判断
1事実経過
前記前提事実に掲記の証拠(原告代表者尋問の結果及び被告Aⅰ本人尋問の結果
については,本人調書別紙速記録中,当該供述が記載された該当頁を付記する。)
及び弁論の全趣旨を総合すると,次の事実が認められる。
(1)原告設立の経緯
ア被告Aⅰは,もともと役者を志しており「Bⅱ」の芸名で役者としての活動
をしていたが,その傍ら,平成10年10月末に六本木でアミューズメントバー「K
EYSTONE」を開業し,平成19年3月27日には,個人事業として,「かつー
ん」という名称の串かつ店である赤坂店を開業した。赤坂店の開業に当たり,被告
Aⅰは,友人のAⅲにかつ~んロゴを作成してもらった。
平成24年6月5日当時,赤坂店のスタッフは,店長であるAⅳ,Aⅴ,Aⅵ及
びAⅶの4名であった(以上につき,甲27,67,乙A15,45,原告代表者
〔速記録2,49頁〕,被告Aⅰ本人〔速記録1,15頁〕,弁論の全趣旨)。
イAⅱは,不動産事業に従事したほか,金融業,経営コンサル業,家具のレン
タル業等の会社の経営に携わってきた者であり,平成23年ないし平成24年頃に
は香港における消費者金融業(香港人の低所得者向けに実質年利58~60%で無
担保無保証の小口融資をする事業)を推進するバンリ・グループの副代表兼グルー
プ統括本部長を務めていた上,その後も,同グループに属する会社の一つで人材派
遣コンサルティング業・人事コンサルティング業を営むバンリ&エキスパート株式
会社(以下「バンリ&エキスパート」という。)の代表取締役を務め,また,家具
や自動車のレンタル業を営むアレクスの代表取締役を務めている。
被告AⅰとAⅱは,平成11年頃,Aⅱが前記アのアミューズメントバーに客と
して来店したことを契機に知り合った(以上につき,甲67,乙A45,48,原
告代表者〔速記録5,17,18,48頁〕)。
ウ被告Aⅰは,平成23年3月頃,Aⅱに対し,「かつーん」を池尻大橋駅付
近に出店するための資金に関する相談をした。その後まもなくその出店の話は立ち
消えとなったが,平成24年2月頃,被告Aⅰは,再びAⅱに対し,千歳烏山駅付
近に「かつーん」の新店舗を出したいので,開業資金500万円を拠出してもらい
たいとの要請をした。これは,被告Aⅰが,当時経済的に余裕がなかったため,自
らAⅱに対し,会社(原告)を設立して店舗を開業することを持ち掛けたものであ
る。Aⅱは,この要請を受け入れ,300万円の出資と200万円の貸付けをする
こととなった(甲67,乙A45,46,原告代表者〔速記録1,5頁〕,被告A
ⅰ本人〔速記録3,25,27,28頁〕)。
エ被告AⅰとAⅱが設立する会社は,被告Aⅰの芸名にちなんで商号を「白国
ファクトリー」とすることとなり,平成24年6月5日,原告が設立され,次の内
容を含む定款が定められた(甲1,原告代表者〔速記録4頁〕)。
(ア)株主総会の決議等の省略(20条1項)
取締役又は株主が株主総会の目的である事項について提案をした場合におい
て,当該提案につき株主(当該事項について議決権を行使することができるも
のに限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは,
当該提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなす。
(イ)報酬等(28条)
取締役の報酬,賞与その他の職務執行の対価として当会社から受ける財産上
の利益は,株主総会の決議によって定める。
(ウ)設立時取締役(33条)
当会社の設立時取締役及び設立時代表取締役は,次のとおりである。
設立時取締役Aⅱ
設立時取締役被告Aⅰ
設立時代表取締役被告Aⅰ
(エ)発起人の氏名,住所及び設立時発行株式に関する事項(34条)
当会社の発起人の氏名又は名称,住所及び設立に際して割り当てを受ける株
式の数並びに引き換えに払い込む金額は,次のとおりである。
Aⅱ株式60株300万円
被告Aⅰ株式40株200万円
オ平成24年6月5日,上記定款33条に従い,被告Aⅰが原告の代表取締役
に就任した(甲35)。
また,同日,上記定款34条に従い,Aⅱは300万円,被告Aⅰは200万円
を原告に出資した(甲67,73)。
カなお,原告は,平成24年6月5日,Aⅱが代表取締役を務めるアレクスと
の間で,原告の事業に対してアレクスが包括的な事業協力を全面的に行うためとし
て,次の内容を含む事業提携契約を締結した(甲13,原告代表者〔速記録18,
49頁〕)。
(ア)原告の本店となる登記事務所の提供や準備の協力をアレクスは積極的に行う
(1条1項)。
(イ)緊急時にのみ原告の要望により原告の支払に対しアレクスが立て替えて支払
うことに協力する(1条2項)。
(ウ)原告が必要とする経営や財務などの各種コンサルティングサービスをアレク
スは提供する(1条3項)。
(エ)アレクスが行っている事業(自動車及び家具や備品などの貸与やそれに関す
るコンサルティング)のサービスを原告に提供する(1条4項)。
(オ)その他原告が必要とするサービスをアレクスは協力して行う(1条5項)。
(カ)本契約の事業提携の料金は,個別に「別紙契約書」で定めることとする(3
条)。
キ平成24年6月22日,三菱東京UFJ銀行に原告の六本木支店口座が開設
された。Aⅱは,同年7月17日にインターネットバンキングが使用可能となるま
で,前記オの出資金合計500万円を自己名義の預金口座で管理していたが,同月
18日,500万円を六本木支店口座に入金した(甲67,乙A2)。
(2)本件各動産の購入,引渡し等
アアレクスは,平成22年6月10日から同月23日の間に,電気店等におい
て,本件各動産を,別紙物件目録の各「価格」欄記載の代金額で購入した(甲63)。
アレクスは,その頃,原告に対し,前記(1)カの事業提携契約1条4項に基づき,
本件各動産を貸与した(甲67,弁論の全趣旨)。
イ原告は,平成24年6月23日,被告Aⅰに対し,本件各動産を引き渡した。
以来,被告Aⅰが本件各動産を占有している(甲14,67,乙A45,原告代表
者〔速記録30頁〕,弁論の全趣旨)。
(3)本件賃貸借契約の締結その他の経緯
ア原告と被告東邦サプライは,平成24年7月2日,次の定めを含む本件建物
の事業用建物賃貸借契約(本件賃貸借契約)を締結した(甲4,乙A4)。
(ア)使用目的(2条)
原告の使用目的および営業種目は次の通りとする(1項)。
営業目的:串かつ店として使用するものとする。
営業種目:飲食事業を行うものとする。
(イ)契約期間(3条)
本契約の契約期間は,平成24年7月10日より平成27年7月9日までの
3年間とする。ただし,期間満了の場合は,原告・被告東邦サプライ協議の上
更新することもできる。
(ウ)賃料(5条)
本物件の賃料は,月額金21万円(税込)とし,原告はその翌月分を毎月2
7日までに,被告東邦サプライのもとに現金で持参するか,もしくは同被告の
27条に指定する銀行口座宛に支払うものとする(1項)。
(エ)保証金(7条)
原告は本契約成立と同時に保証金として,金250万円を被告東邦サプライ
に預託する。ただし,保証金には利息を付けないものとする(1項)。
本契約を解除し本件店舗を明け渡す場合は,金75万円を控除した金額を被
告東邦サプライは原告に返却するものとする(2項)。
被告東邦サプライは原告が本契約に基づき支払うべき金員,または原告が負
担すべき費用について,期日通り支払わない場合には,同被告は何らの通知・
催促なしに保証金をこれに充当することができる。この場合,原告は,当該充
当の通知を受けたときより,8日以内に保証金の不足額を補填しなければなら
ない(3項)。
(オ)禁止事項(15条)
原告は,次の行為を行ってはならない。
1号原告が被告東邦サプライの書面による承諾を得ることなく,本物件の
賃借権の全部もしくは一部を第三者に譲渡・転貸・担保に供することを
なし,または本物件の全部もしくは一部を第三者に使用,共同使用させ
ること。ただし,次の場合は,本号の譲渡・転貸に該当するものとみな
す。
④経営の実態が第三者による経営と判断される場合。
(カ)契約解除(17条)
原告において下記の各号の一つに該当したときは,被告東邦サプライは何ら
の催告を要しないで直ちに本契約を解除することができ,またその告知によっ
て本契約は終了するものとする。
11号原告が本契約の各条項および別紙付属管理規則に違反したとき。
(キ)原状回復および本物件の返還(18条)
原告は本契約終了時において,特に被告東邦サプライの書面による承諾がな
い限り,原状回復して直ちに同被告に対して明け渡さなければならない(1項)。
本契約終了と同時に原告が本物件内に設置した内装,造作その他の設備およ
び原告所有の物品を原告の費用をもって撤去し,原告の希望により被告東邦サ
プライが設置した原告所有の物件についても同被告の要求あるときは,原告の
費用をもってこれを取り外し,本物件の破損個所を原告の費用をもって修理し,
原状回復してこれを同被告に明け渡すものとする(2項)。
イ原告は,平成27年7月20日,原告商標2の商標登録出願(商願2012
-58680号)をした(甲5)。
ウAⅱは,前記(1)ウのとおり200万円の予定であった貸付金額を500万円
に増額することとなり,平成24年7月27日,原告に対し,500万円を,年利
15%の約定で貸し付けた(甲3,67,73)。
(4)千歳烏山店開業以降の千歳烏山店及び赤坂店の運営等に関する経緯
ア平成24年8月17日,千歳烏山店の営業が開始された。千歳烏山店の店長
はAⅴが務め,被告Aⅰは調理,接客その他店舗運営業務に当たった(甲67,乙
A22,原告代表者〔速記録10,49頁〕,被告Aⅰ本人〔速記録7,26~2
7頁〕)。
Aⅴは,翌18日,Aⅱに対し,前日(17日)の売上げについて報告したが,
同19日には売上げを報告しなかったため,Aⅱは,Aⅴに対し,売上げの報告を
求めた。Aⅱは,同月23日にも,Aⅴに対し,「なぜ売上報告して来ない!?」
と記載したメールを送信した。その後,Aⅴは,同月24日から同年9月24日ま
で毎日,Aⅱに対し,千歳烏山店の前日の売上げをメールで報告した(甲32,乙
A17,45,被告Aⅰ本人〔速記録31頁〕)。
イAⅱは,平成24年8月24日,被告Aⅰに対し,「千歳烏山に別口座を来
週中に開設してくれ。店舗ごとに口座を分けた方がいい!」と指示するメールを送
信し,被告Aⅰは,これに従い,同月31日に原告の烏山支店口座を開設した(甲
57,乙A1)。
Aⅱは,同月26日,Aⅴ及び被告Aⅰに対し,「現金売上は,土日祝日も口座
に入金するようにしてくれ。手数料がかかるが,お店に多くの現金を置かない方が
いいので,安全料だと思ってくれ。」と記載したメールを送信し,同月27日には,
Aⅴ及び被告Aⅰに対し,「小口現金が何のためにあるんだ!?売上入金を勝手
に減額して入れるのは,ダメだ!」という経理上の指示を記載したメールを送信し
た。また,Aⅱは,同日,被告Aⅰに対し,被告Aⅰが自己の判断で20万円を超
える預金を引き出せないようにするために,六本木支店口座のキャッシュカードに
よる出金限度額を20万円に設定する手続をさせた(甲19,37,39,乙A1
8の1・3,原告代表者〔速記録7頁〕)。
ウ原告は,平成24年8月27日,原告商標1の商標登録出願(商願2012
-69122号)をした(甲5)。
エAⅱは,平成24年8月27日,被告Aⅰに対し,肩書を「取締役会長兼C
EO」とするAⅱの名刺を作成するようメールで指示し,被告Aⅰはこれを承諾し
た。被告Aⅰは,同年9月頃,Aⅱの指示に従って,「株式会社白国ファクトリー
取締役会長兼CEOAⅱ」とする名刺を作成し,これには,原告商標2が記載さ
れた下に「赤坂店」と「千歳烏山店」という店舗名が併記されていた。また,被告
Aⅰの名刺も,同月頃,「株式会社白国ファクトリー代表取締役社長Aⅰ」とす
るものが作成され,これにも,原告商標2が記載された下に「赤坂店」と「千歳烏
山店」という店舗名が併記されていた。なお,これらに対し,「店長Aⅴ」とす
るAⅴの名刺では,原告商標2が記載された下に店舗名として「千歳烏山店」のみ
が記されていた(甲2,28,36,原告代表者〔速記録33~34頁〕,被告A
ⅰ本人〔速記録6頁〕)。
オAⅲは,平成24年8月30日,Aⅱの依頼に応じて,かつ~んロゴのマス
ターデータをAⅱに送信した(甲16,67)。
カAⅱは,平成24年8月30日,Aⅴに対し,「今日からその日の仕入れ合
計金額も毎日報告してくれ。」と指示するメールを送信した上,Aⅴ及び被告Aⅰ
に対し,「仕入れ以外の支払い」に関し,「必ず私に事前に相談し,内容をFAX
してくれ。」と指示するとともに,「ところで,小口現金を毎日5万円とする場合
に引き出し金額が細かい数字にならないのはなぜだ?実際の手持ち現金が5万円
でないのなら,毎日その金額も報告してくれ。」と指示するメールを送信した。さ
らに,Aⅱは,同年9月1日にも,Aⅴに対し,「仕入れ以外は必ず事前に私に相
談してから購入してくれ。尚,電球などの消耗品は事後報告でよい。」と指示し,
また,「来週月曜日から赤坂店の売上報告を始めてもらいたい。」と記載したメー
ルを送信した(甲43,44,乙A18の4)。
キAⅱは,同年9月4日から同月24日にかけて,ほぼ毎日,赤坂店の店長で
あるAⅳから,赤坂店の売上げ,仕入れその他の状況についてメールで報告を受け,
Aⅳに対し,「産廃管理費」や「リース代」といった費用項目の意味を問いただし
たり,「メールで報告する出金金額は支払った金額ではなく,口座から出金した金
額を書くようにしてくれ!」とか,「小口は5万円になるようにしてくれ。」,「私
からのメールには必ず返事をするように。」などと指示をした(甲46ないし49,
51ないし53,原告代表者〔速記録10,32頁〕,被告Aⅰ本人〔速記録31
頁〕)
ク被告Aⅰは,Aⅱの指示により,平成24年9月5日から同月24日にかけ
て,原告に対し,赤坂店の売上金を原告の六本木支店口座に入金した(甲27,2
9,67,乙A2)。
ケ被告Aⅰは,平成24年9月5日,原告の従業員としてAⅰ,Aⅴ,Aⅵ,
Aⅶ及びAⅷの6名が記載された社員年末調整情報確認表を作成し,Aⅱに送付し
た。また,被告Aⅰが原告を代表して依頼したAⅸ税理士は,同月7日,同月25
日支給予定の給与案として,原告の従業員として上記6名が記載された給与集計表
を作成した。これらの表には,赤坂店の従業員も原告の従業員として記載されてい
た。(甲21,61,62,67,乙A16,19,原告代表者〔速記録6,36
頁〕,被告Aⅰ本人〔速記録6頁〕,弁論の全趣旨)。
なお,赤坂店でアルバイトをしていたAⅹは,同月19日には1万0800円,
同月21日は1万1700円というように,原告から日当の支払を受けていた(甲
51,52,乙A2,弁論の全趣旨)。
(5)本件預金引揚げの経緯
アAⅱは,被告Aⅰの資金管理がずさんで支出にも問題があると感じるように
なり,自らが指示したとおりに被告Aⅰが動かないことに不満を募らせたことなど
から,平成24年9月17日から同年10月1日まで香港に滞在していた途中の同
年9月24日,原告の烏山支店口座及び六本木支店口座から315万8000円の
本件預金引揚げをした。すなわち,同日,原告の烏山支店口座には,189万40
07円の残高があったところ,Aⅱは,このうち,振込手数料735円を費やして
189万3000円を,インターネットバンキングによりAⅱ個人名義の口座に送
金し,その結果,烏山支店口座には272円のみが残った。また,同日,原告の六
本木支店口座には,126万5898円の残高があったところ,Aⅱは,このうち,
振込手数料735円を費やして126万5000円を,インターネットバンキング
によりAⅱ個人名義の口座に送金し,その結果,六本木支店口座には163円のみ
が残った。なお,Aⅱは,本件預金引揚げの後に店舗の運営に必要な現金があるか
どうかを直接確認はしなかった(甲29,33,67,69,81,乙A1,2,
原告代表者〔速記録11~12,22,41頁〕,被告Aⅰ本人〔速記録10頁〕)。
イ被告Aⅰは,上記のとおり突然原告の口座の預金が引き揚げられたため,平
成24年9月25日の原告従業員の給与の支払や同月27日の本件建物の賃料の支
払,日々の食材の仕入代金の各支払のための資金繰りの困難に直面した。被告Aⅰ
は,金策に奔走した結果,同月25日,親族から自身が200万円を借り入れた上,
原告に同額を貸し付け,上記各支払に充てて対応し,赤坂店及び千歳烏山店の営業
を継続した(乙A7,45,原告代表者〔速記録16頁〕,被告Aⅰ本人〔速記録
10~11,20,54頁〕)。
ウこれ以降,被告AⅰとAⅱとは対立するようになり,原告内で紛争状態に陥っ
た。この件に関しては,被告Aⅰは,平成24年9月末頃,本件訴訟の被告Aⅰ訴
訟代理人であるBⅰ弁護士に相談した(乙A27ないし29,45,被告Aⅰ本人
〔速記録11~12,15頁〕,弁論の全趣旨)。
(6)本件報酬支給等
ア被告Aⅰは,平成24年9月25日及び同年10月25日にそれぞれ,自己
の役員報酬として各37万0800円を,原告から自らに支給した(乙A19〔「6
20役員報酬」勘定〕)。
イ被告Aⅰは,平成24年10月25日,本件出願取下げをした(甲5,被告
Aⅰ本人〔速記録15頁〕)。
ウBⅰ弁護士は,平成24年10月29日付けで,Aⅱに対し,「被告Aⅰか
ら原告の経営及び千歳烏山店の運営等に関する事項についてAⅱとの間で話し合い
をすることについて依頼を受けた」として,「Aⅱは,開店準備のための協力関係
先からAⅱに対する挨拶がないことや,被告Aⅰに対するより先にAⅱに報告をす
べき等という理由で,度々のように突如として憤怒し,被告Aⅰに対する個人的な
協力のために採算度外視で取引してもらっている多くの関係先に対して暴言をあび
せ,取引先を中止させるなど,上記関係先の名誉と被告Aⅰの信用を傷つけた。」
「本件預金引揚げにより,被告Aⅰは翌日に予定していた千歳烏山店と赤坂店の従
業員に対する給与の支払をすることができないという危機的状況に追い込まれた。
本件預金引揚げは,法的には横領と評価できる極めて重大な行為であり,見過ごす
ことができない。」「千歳烏山店の開店前後のAⅱの所為によって,取引先及び従
業員等のモチベーションと契約関係の維持は難しくなり,法人としての原告の状態
は既に破綻寸前となりつつある。」「Aⅱとの間で無用な紛争を長引かせることは,
相互にメリットがない。合理的な話をして,相互にデメリットのない形で早期に円
満に解決したいので,面談の機会調整のため,連絡をもらいたい。」旨記載した書
面を送付した(甲15)。
(7)本件什器備品の譲渡及び本件賃貸借切替え等
ア被告Aⅰは,リサイクル業者に千歳烏山店の什器備品等動産類を評価させ,
値段が付く物については金額を算出させた結果,本件什器備品8物件については被
告Aⅰ個人が対価を支払って買い受けることとし,平成24年10月31日,自ら
原告を代表して,被告Aⅰ個人に対し,本件什器備品を代金55万1017円で売
却した(乙A25,45)。
イまた,被告Aⅰは,同日,本件解約をした(乙B4)。その際作成した建物
賃貸借解約合意書(乙B4)に被告Aⅰが押捺した原告の代表者印の印影は,本件
賃貸借契約締結の際に作成された同年7月2日付け事業用建物賃貸借契約書(甲4,
乙A4)に押捺された原告の代表者印の印影とは異なっていたが,本件賃貸借契約
締結前に作成された原告を申込人とする事業用建物申込書(乙B2)及び同年6月
26日付け鍵預かり証(甲4末尾)にそれぞれ押捺された原告の代表者印の各印影
と同一であった。
ウ被告東邦サプライは,同年10月31日,本件賃貸借契約7条2項の定めに
従い,預託を受けていた本件建物の保証金250万円から75万円を控除した17
5万円を原告代表者としての被告Aⅰに返却し,被告Aⅰは,原告を代表してこれ
を受け取った(甲7,8の1)。同受取保証金175万円は,同日付けで,原告の
被告Aⅰに対する短期借入金の弁済に充てる清算処理がされた(乙A19〔「24
2敷金」勘定及び「314短期借入金」勘定の各同日の欄〕)。
エ被告Aⅰは,平成24年11月1日,個人として,被告東邦サプライから本
件建物の賃借を受け,被告東邦サプライに対し本件建物の保証金として175万円
を預託した(甲8の2,乙B5,7の1・3)。
オ被告Aⅰは,平成24年11月1日以降,現在に至るまで,本件建物におい
て,個人事業として,千歳烏山店の営業を行っている。なお,千歳烏山店の従業員
であるAⅴ及びAⅶは,被告Aⅰとの信頼関係から,残業代及び休日出勤手当の支
払を請求せずに,長時間の時間外労働をして業務を遂行した(甲67,被告Aⅰ本
人〔速記録19~20頁〕,弁論の全趣旨)。
(8)本件賃貸借切替え後被告Aⅰの取締役解任までの経緯
アAⅱは,①平成24年11月26日に原告の烏山支店口座から自らが代表取
締役を務めるアレクスの口座に5000円を,②同日に原告の六本木支店口座から
同じくアレクスの口座に19万5000円を,③同月30日に六本木支店口座から
自らが代表取締役を務めるバンリ&エキスパートの口座に2万円を,④同年12月
5日に同じくバンリ&エキスパートの口座に1万5000円を,⑤平成25年2月
25日にAⅱ自身の口座に5000円を,それぞれインターネットバンキングによ
り送金した。Aⅱは,①については事務所費,②についてはコンサルティング契約
料及び事務所家賃,③及び④についてはコンサルティング契約料の未払金の一部で
あると説明している(甲81,乙A1,2,46,48,原告代表者〔速記録18,
22~24頁〕,被告Aⅰ本人〔速記録13頁〕)。
イ原告は,平成25年2月20日,原告各商標の商標登録出願をし,同年7月
5日にその登録を受けた。原告は,同年6月27日頃,そのための登録料,弁理士
費用等として合計16万8000円を出費した(甲12,59)。
ウAⅴ,Aⅳ,Aⅷ,Aⅵ及びAⅶの5名は,Bⅰ弁護士らを代理人として,
平成25年3月4日付けで,本件訴訟の原告訴訟代理人弁護士に対し,「上記5名
は,これまで,被告Aⅰとの信頼関係に基づき,赤坂店又は千歳烏山店の従業員と
して業務を行ってきた。赤坂店及び千歳烏山店の運営に関し,仕入先,顧客,従業
員等との関係は,全て被告Aⅰとの信頼の上に成り立っているものであり,被告A
ⅰなしに店舗の運営はできないと考えている。」旨の記載がある書面を送付した(甲
65,弁論の全趣旨)。
エ被告Aⅰは,平成25年4月11日,原告の取締役として,Bⅰ弁護士らの
代理により,原告が債務超過の状態にあるとして,原告につき準自己破産の申立て
を当庁にした。この申立てについては,審尋がされた後,被告Aⅰは,取下げをし
た(甲9,乙A5,原告代表者〔速記録17頁〕,弁論の全趣旨)。
オ被告Aⅰは,平成25年4月27日,原告の取締役を解任された(甲35,
乙A45,原告代表者〔速記録22頁〕)。
(9)赤坂店及び千歳烏山店の利益状況等
ア赤坂店の利益状況
赤坂店の平成24年9月25日から同年12月末までの期間における売上高は合
計740万5920円,商品仕入高は合計193万5841円,荷造運賃は合計1
万0600円,給料手当は合計92万6735円,雑給は27万9250円,賃借
料は合計89万4348円,修繕費は8400円,消耗品費は合計14万1895
円,水道光熱費は合計41万6771円,手数料は合計3万1265円,通信費は
合計5万6445円,雑費は合計39万7924円であった(乙A38,42,4
4)。
赤坂店の平成25年1月1日から同年4月27日までの期間における売上高は合
計759万6230円,商品仕入高は合計233万9227円,広告宣伝費は合計
1万0631円,荷造運賃は合計3760円,給料手当は合計279万5260円,
賃借料は合計89万4348円,事務用品費は合計6163円,消耗品費は合計2
8万5001円,水道光熱費は合計36万0001円,旅費交通費は合計7530
円,手数料は合計5万2428円,交際接待費は合計4万9758円,通信費は合
計5万3683円,雑費は合計3万5988円であった(乙A40)。
イ千歳烏山店の利益状況
千歳烏山店の平成24年11月及び12月の営業利益はマイナス342万198
6円であった(乙A35,37,41)。
また,千歳烏山店の平成25年の営業利益はマイナス1559万0689円であっ
た(乙A36,39)。
ウ総勘定元帳と確定申告書との整合性
(ア)赤坂店の店長であったAⅳは,平成25年3月15日,本所税務署長に対し,
赤坂店の事業所得を含む平成24年分の所得税の確定申告をしたところ,その確定
申告書及び添付書類(乙A42の2)に記載された①売上金額(2226万687
0円),②仕入金額(655万3902円),③給料賃金(703万8105円),
地代家賃(357万7392円),水道光熱費(125万5877円),消耗品費
(48万3420円)などの経費の金額は,赤坂店の平成24年の総勘定元帳(乙
A38,44)に記載された①売上金額(「410売上高」),②仕入金額(「4
31商品仕入高」),③給料等(「621給料手当」及び「625雑給」),
賃料(「631賃借料」),水道光熱費(「635水道光熱費),消耗品費(「6
34消耗品費」)などの経費の金額と一致していた(乙A38,42,44)。
なお,Aⅳは,平成23年の赤坂店の事業所得についても,確定申告をしていた
(甲20)。
(イ)被告Aⅰは,平成25年3月15日,北沢税務署長に対し,千歳烏山店の事
業所得を含む平成24年分の所得税の確定申告をしたところ,その確定申告書及び
添付書類(乙A41の2)に記載された①売上金額(511万9430円),②仕
入金額(194万5660円)及び③給料賃金(271万6315円),地代家賃
(483000円),水道光熱費(25万1682円),消耗品費(41万461
6円)などの経費の金額は,千歳烏山店の平成24年の総勘定元帳(乙A37)に
記載された①売上金額(「410売上高」),②仕入金額(「431商品仕入
高」)及び③給料(「621給料手当」),賃料(「631賃借料」),水道
光熱費(「635水道光熱費),消耗品費(「634消耗品費」)などの経費
の金額と一致していた。
また,被告Aⅰは,平成26年3月14日,北沢税務署長に対し,千歳烏山店の
事業所得を含む平成25年分の所得税の確定申告をしたところ,その確定申告書及
び添付書類(乙A43の2)に記載された①売上金額(4934万3220円),
②仕入金額(1632万7055円),③給料賃金(1915万1120円),地
代家賃(647万5392円),水道光熱費(287万5860円),消耗品費(1
51万9698円)などの経費の金額は,千歳烏山店の平成25年の総勘定元帳(乙
A39)及び赤坂店の同年の総勘定元帳(乙A40)に記載された①各売上金額(「4
10売上高」)の合計額(2633万3220円+2301万円=4934万3
220円)と一致し,②各仕入金額の合計額(「431商品仕入高」)の合計額
(905万2391円+727万6344円=1632万8735円)とほぼ一致
し(差額は1680円),③各給料(「621給料手当」)の合計額(970万
3690円+944万7430円=1915万1120円),各賃料(「631賃
借料」)の合計額(319万6116円+327万9276円=647万5392
円),各水道光熱費(「635水道光熱費)の合計額(147万4183円+1
40万1677円=287万5860円),各消耗品費(「634消耗品費」)
の合計額(59万6122円+92万3576円=151万9698円)など各経
費の合計金額と一致していた(以上につき,乙A37,39ないし41,43,被
告Aⅰ〔速記録19頁〕)。
(ウ)なお,千歳烏山店の平成24年の総勘定元帳(乙A19)の売上金額(「4
10売上高」)及び仕入金額(「431商品仕入高)の記載は,平成24年8
月18日,同月21日ないし同年9月23日の売上金額についてAⅴがAⅱに報告
した金額(甲32,42,44,乙A17)及び同年8月29日ないし同年9月2
1日の仕入金額についてAⅴがAⅱに報告した多くの項目の金額(甲44,乙A1
7の8~27・29・30)と一致していた。
(10)本件訴訟提起後の経過
ア原告は,平成25年7月30日,本件訴訟を当庁に提起し,同年8月23日,
本件訴状は被告Aⅰに送達された。
イその後,アレクスと原告は,平成27年1月26日,アレクスが原告に本件
各動産を贈与する旨の契約を締結した(甲64)。
ウ被告Aⅰは,平成24年9月25日以降,個人事業として,赤坂店の営業を
行っていたが,店長の体調不良が原因で,平成27年9月30日に赤坂店の営業を
終了した(被告Aⅰ本人〔速記録20,45頁〕)。
2被告Aⅰに対する千歳烏山店の譲渡に関する損害賠償請求について
(1)被告Aⅰの事業譲渡又は利益相反取引による損害賠償責任の有無について
ア事業譲渡による損害賠償責任
(ア)前記前提事実(7)及び前記1(7)で認定した事実によると,①平成24年10月
31日,原告から被告Aⅰに対し,原告の株主総会の承認決議を受けることなく,
千歳烏山店の本件什器備品が代金55万1017円で売り渡されたこと,②これは,
千歳烏山店の什器備品等動産類をリサイクル業者に評価してもらい,値段が付く物
については金額を算出してもらった結果,値段が付いた本件什器備品について被告
Aⅰ個人が対価を支払って買い受けることとしたものであること,③その後被告A
ⅰが個人事業として千歳烏山店の営業を行っていることなどを指摘することができ
る。これらの事実経過と弁論の全趣旨に鑑みると,被告Aⅰは,原告から自身への
本件什器備品の譲渡に当たり,値段が付かなかった千歳烏山店の什器備品等動産類
や千歳烏山店の内装設備,電話回線等をも,一括して譲渡したものであり,他に千
歳烏山店の営業財産はほとんどなかったものと推認される。そして,この推認を覆
すに足りる証拠はないから,結局,被告Aⅰは,同日頃,原告を代表して,被告A
ⅰ個人に対し,千歳烏山店の内装設備,本件什器備品その他の什器備品,事務機器,
電話回線,のれん等の譲渡(以下「本件譲渡」という。)をしたものと認められる。
なお,原告は,本件建物の賃借権についても譲渡された(本件移転)と主張する
が,これについては,前記1(7)イないしエのとおり,本件賃貸借契約が解約され,
被告Aⅰ個人が賃借し直したものと認められ,原告から被告Aⅰに対して直接譲渡
されたものとは認められない。
(イ)そこで,本件譲渡が会社法467条1項所定の事業譲渡に当たるかについて
検討するに,同項にいう事業譲渡(同法21条の事業譲渡,旧商法25条の営業譲
渡と同じ。)とは,「一定の営業目的のため組織化され,有機的一体として機能す
る財産の全部又は重要な一部の譲渡」をいうものと解される(前掲最高裁昭和40
年9月22日大法廷判決参照)。
前記(ア)で認定したとおり,本件什器備品のみならず,内装設備や値段が付かなかっ
た他の動産類も含めて一括して譲渡されたことなどに鑑みると,各個の財産物件の
価値自体は低いとみられるものの,上記譲渡されたものは,これらの総和よりも高
い価値を持った有機的一体として機能する財産の一部を構成するといえる。そして,
前記(ア)で認定した事実に前記1で認定した事実を総合すると,本件譲渡当時,千歳
烏山店の営業は原告の事業の重要な一部であったといえるところ,被告Aⅰは,そ
れまで原告の代表取締役として千歳烏山店を営業していたが,本件譲渡後は,個人
として同店を営業しているというのであり,かつ,本件譲渡の対象となったものは,
千歳烏山店の営業財産のほとんどであったということができる。
そうすると,本件譲渡は,会社法467条1項2号の「事業の重要な一部」の譲
渡に当たるというべきである。
(ウ)ところが,本件譲渡は原告の株主総会の承認決議を受けることなくされたと
いうのであるから,被告Aⅰは,原告に対し,会社法423条1項に基づき,本件
譲渡による損害の賠償責任を負う。
なお,本件譲渡についてAⅱの同意があったと認めるに足りる証拠はないから,
株主全員の同意があったとも認められない。
イ利益相反取引による損害賠償責任
(ア)本件譲渡は,原告会社の当時の代表取締役Aⅰと被告Aⅰ個人との間の契約
であるから,会社法356条1項2号の「取締役が自己のために株式会社と取引を
しようとするとき」に当たり,株主総会の承認が必要であったというべきである。
ところが,被告Aⅰは,株主総会の承認を受けることなく本件譲渡をしたのであ
るから,この点からしても,被告Aⅰは,原告に対し,会社法423条1項に基づ
き,本件譲渡による損害の賠償責任を負うということができる。
なお,本件譲渡について株主全員の同意があったとも認められないことは,前記
ア(ウ)で説示したとおりである。
(イ)これに対し,被告Aⅰは,内装設備や什器備品は交換価値がなく負の財産に
すぎない旨主張するが,これらは,客観的な交換価値があるとはいえなくても,関
係当事者にとって千歳烏山店の営業にそのまま用いれば有用なものであるから,会
社法356条1項2号の「取引」に該当することを否定する理由にはならない。
(2)本件譲渡による損害の有無及び金額
ア逸失利益について
(ア)本件譲渡による原告の逸失利益(消極損害)は,千歳烏山店の平成24年1
1月1日以降の得べかりし営業利益である。
これについて更に検討するに,被告Aⅰは,平成24年11月1日以降も平成2
5年4月27日に解任されるまでは,原告の取締役であったから,原告のために千
歳烏山店の営業をすべきであったということができ,この期間に被告Aⅰが千歳烏
山店の営業により実際に挙げた利益があるならば原告の逸失利益になるものとみら
れる。これに対し,平成25年4月27日以降は,被告Aⅰは,原告の取締役では
ない全くの個人として千歳烏山店の営業をしているため,被告Aⅰ個人の貢献が原
因となっている利益をそのまま原告の利益と同視することはできない。前記1で認
定したとおり,本件においては,この時期には既に原告の経営を巡って内紛が激化
していた上,仮に被告Aⅰが店舗の運営から外れてAⅱ又はAⅱが指名等した者が
運営に当たった場合に,被告Aⅰが運営していたときとは従業員との関係(前記1
(8)ウ参照)や顧客との関係が変わるため,同様の売上げや利益を上げられたとは限
らない。原告は,本件譲渡がなければ原告が少なくとも「5年間は営業を継続でき
た」旨主張するが,これを認めるに足りる的確な証拠はない。
そうすると,本件譲渡による原告の損害となるのは,せいぜい千歳烏山店の平成
24年11月1日から平成25年一杯までの営業利益にとどまり,同店の平成26
年以降の営業利益を原告の損害と認めることはできないというべきである。
(イ)そこで,千歳烏山店の平成24年11月1日から平成25年12月末までの
営業利益について検討するに,前記1(9)で認定したとおり,千歳烏山店の平成24
年11月・12月の営業利益はマイナス342万1986円,平成25年の営業利
益はマイナス1559万0689円であり,通算して1901万2675円の赤字
であったと認められる。
これに対し,原告は,上記認定の根拠となる総勘定元帳(乙A37,39,40)
は信用できない旨の主張をするが,この総勘定元帳(乙A37,39,40)に記
載された金額は,売上げ及び経費の各金額について,税務署に提出されたものと認
められる確定申告書(乙A41の2,43の2)の金額とそれぞれ一致していて(前
記1(9)ウ),一定の信用性が認められるところ,それにもかかわらずその信用性を
否定するに足りる具体的な事情を示す的確な証拠は見当たらないから,原告の上記
主張は採用することができない。
(ウ)また,原告は,平成24年8月17日から同年10月31日までの期間の営
業利益につき,経理上は赤字となっているが,費用として計上されているもののう
ち合計312万5170円は,キャバクラでの遊興費など本来費用計上できないも
のであり,これを費用から除くと,営業利益は226万1177円となる旨主張し
た上,同年11月1日から5年間は同様の営業利益が生じたはずである旨主張する。
しかしながら,平成24年11月・12月の営業利益及び平成25年の営業利益
は,現実には前記(イ)のとおりであったものであり,同年8月17日から同年10月
31日までの期間と同様であった(この約2か月半にすぎない期間の利益状況がそ
の後も変わらず続いた)とする根拠は認められない。かえって,仮に同月末に本件
譲渡がされなかったとしても,同年9月24日に既にAⅱが本件預金引揚げをした
ことなどによる影響があったことが考えられるし,その他経営環境的な状況が上記
期間とは異なる可能性が否定できない。また,前記(ア)で説示したとおり,仮に千歳
烏山店を原告(Aⅱ)が被告Aⅰなしに運営していたら,開店後被告Aⅰが運営し
ていた状況とは異なる可能性が否定できない。
なお,平成25年の経費のうち,同年9月4日のキャバクラ「ClubR」での40
万4800円(乙A39の「639交際接待費」勘定)を費用から差し引いても,
前記(イ)の赤字は解消されない。他方,前記1(7)オの時間外手当のように,実際には
支払われていなかったが本来費用として支払われるべきであったものもある。
(エ)以上によると,原告が平成24年11月1日以降に千歳烏山店の営業から得
べかりし利益があったとは認められず,この点で本件譲渡による原告の損害を認め
ることはできない。
イ本件建物の保証金について
前記1(3)ア(エ),(7)ウで認定した事実によると,原告から預託されていた本件建物
の保証金250万円は,平成24年10月31日,本件賃貸借契約7条2項の定め
に従って75万円が控除された上,被告東邦サプライから原告に175万円が返還
され,それが被告Aⅰの原告に対する貸付けとの間で清算されたと認められる。し
たがって,本件建物の保証金に関し,原告に損害が生じたとは認められない。
ウ千歳烏山店の内装設備及び営業用資産について
内装設備については,前記ア(イ)のとおり千歳烏山店で営業を継続するに当たって
他の什器備品と相俟って有用な面があったとしても,客観的な財産的価値があった
と認めるに足りる証拠はない(千歳烏山店自身にとって利益を生み出す源泉という
面は前記アで評価すべきものであるが,その物自体の他の者にも通用する交換価値
については,零であった可能性が否定できない。)。
また,本件什器備品については,被告Aⅰにより代金55万1017円で買われ
ているところ,証拠(乙A33)に照らしてもこの代金額を超える価値を認めるに
足りる証拠はないから,原告に損害があったということはできない。
エのれんについて
千歳烏山店ののれんの評価額を認めるに足りる証拠はないが,それまで原告の事
業として営業され,顧客が付いていたことに照らすと,それが零であったとはいい
難い。そうすると,これについては,損害が生じたこと自体は認められるが,損害
の性質上その額を立証することが極めて困難というべきであるから,民事訴訟法2
48条により,相当な損害額を10万円と認める。
(3)小括
被告Aⅰは,原告に対し,会社法423条1項に基づき,本件譲渡による損害と
して,のれん相当額10万円(前記(2)エ)の賠償責任を負う。
3被告Aⅰに対する売上金横領に関する損害賠償請求について
証拠(乙A19,24)によると,平成24年8月17日から同月22日までの
間及び同年9月24日から同年10月31日までの間の千歳烏山店の売上げは,原
告の売上げ(「現金売上」)として計上されていることが認められる。
原告の預金口座に入金されていなくても,その分の現金等があれば横領があった
とはいえないところ,最終的に原告の現金勘定が合っていない(その分の現金が失
われている)ということを認めるに足りる証拠はない。
なお,Aⅱは,陳述書(甲67)において,①平成24年9月10日から同月2
5日にかけて烏山支店口座から出金された合計65万4351円(甲33)が元帳
の「111現金」勘定に計上されておらず,使途不明金が生じている,②同年1
0月1日から同月31日までの現金の出納が合算記帳されており,全く不明である
旨指摘する。しかしながら,上記①の点に関し,Aⅱが,原告代表者尋問において,
同年9月30日に売上現金が手元にあった旨述べていることを措くとしても,被告
Aⅰが経費の支払等をしていたことをも考慮すると,上記①・②の金員を被告Aⅰ
が領得したと直ちに断定することはできず,これを認めるに足りる的確な証拠はな
い。
以上によると,被告Aⅰが平成24年8月17日から同月22日までの間及び同
年9月24日から同年10月31日までの間に原告の千歳烏山店の売上金を横領し
たとは認められない。
4被告Aⅰに対する本件出願取下げによる損害賠償請求について
前記前提事実(9)及び前記1(6)イ,(8)イで認定した事実によると,被告Aⅰが原告
の代表取締役として本件出願取下げをしたため,原告が再度商標登録出願を行い,
16万9044円の費用を支出し,同出願に基づき原告各商標の商標登録がされた
というのである。後記8のとおり,この商標登録が無効であるとは認められず,被
告Aⅰが本件出願取下げをしなければ原告に16万9044円の追加費用は発生し
なかったといえるから,被告Aⅰの本件出願取下げにより原告が同額の損害を被っ
たものと認められる。
したがって,被告Aⅰは,原告に対し,会社法423条1項に基づき,本件出願
取下げによる損害として16万9044円の賠償責任を負う。
5被告Aⅰに対する取締役報酬お手盛りによる損害賠償請求について
前記前提事実(6)及び前記1(6)アで認定した事実によると,被告Aⅰは,株主総会
決議を経ることなく,自己の取締役報酬を定め,原告から自らに対して取締役報酬
として合計74万1600円の支給(本件報酬支給)を行ったというのである。こ
れについてAⅱが承諾していたと認めるに足りる証拠はなく(かえって,Aⅱは,
原告代表者尋問〔速記録10~11頁〕において,承諾していない旨明言している。),
全株主の承諾があったとは認められないし,上記取締役報酬について事前に約定が
あった証拠もない。
そうすると,被告Aⅰは,会社法361条1項に違反したものであり,これによ
り原告が74万1600円の損害を被ったものと認められる。
したがって,被告Aⅰは,原告に対し,会社法423条1項に基づき,取締役報
酬お手盛りによる損害として74万1600円の賠償責任を負う。
6被告Aⅰに対する競業避止義務違反による損害賠償請求について
(1)被告Aⅰから原告に対する赤坂店に係る事業譲渡の有無について
前記1(4)エ,キないしケで認定した事実によると,①被告Aⅰは,平成24年9
月5日から同月24日まで,赤坂店の売上金を原告の六本木支店口座に入金してい
たこと,②原告の取締役かつ大株主であるAⅱは,同月4日から同月24日にかけ
てほぼ毎日,赤坂店の店長から直接,赤坂店の売上げ,仕入れその他の状況の報告
を受けていた上,赤坂店の経営に関わる細かな指示を出していたこと,③被告Aⅰ
が同月5日に作成した社員年末調整情報確認表及びAⅸ税理士が同月7日に作成し
た給与集計表には,赤坂店の従業員も原告の従業員として記載されていたこと,④
赤坂店でアルバイトをしていたAⅹが原告から日当の支払を受けていたこと,⑤「株
式会社白国ファクトリー代表取締役社長Aⅰ」の名刺及び「株式会社白国ファク
トリー取締役会長兼CEOAⅱ」の名刺には,原告商標2が記載された下に「赤
坂店」と「千歳烏山店」が併記されていたことなどに照らすと,赤坂店の事業は,
同年6月5日から遅くとも同年9月24日までの間に,被告Aⅰから原告に譲渡さ
れたものと推認される。
もっとも,上記譲渡について対価が明確に定められた形跡がないことから,取引
として不自然でないかが問題となり得る。しかしながら,前記1(1)ウ,オ,(3)ウで
認定した事実によると,もともと原告の設立は,被告Aⅰが,当時経済的な余裕が
なかったことから,自らAⅱに持ち掛けて開業資金500万円の拠出を要請し,A
ⅱがこれに応じたものというのである。そうすると,Aⅱが陳述書(甲67)及び
原告代表者尋問において説明するとおり,Aⅱが被告Aⅰの要請に応じて開業資金
を拠出する条件の一つとして「赤坂店を会社に事業譲渡し,会社で経営していくこ
と」が合意されたとしても,あながち不自然ではない。
なお,被告Aⅰは,上記①の点について,単に赤坂店の売上状況をAⅱに確認さ
せるだけのために入金したものである旨主張するが,単なる売上状況の確認であれ
ば,赤坂店用に被告Aⅰ名義の口座を設けてこれに入金をしその入金状況を報告す
れば足りることなどに照らすと,上記主張を採用することはできない。
また,被告Aⅰは,赤坂店の電気・ガス・賃貸借が被告Aⅰ名義であったことを
主張し,これを裏付ける書証(乙A32)等を援用するが,この点については,も
ともと被告Aⅰが個人事業として赤坂店を運営していたところ,上記の名義が単に
変更されないまま経過したにすぎない可能性もあり,上記譲渡の事実の推認を覆す
には足りない。
(2)被告Aⅰの競業避止義務違反
上記(1)のとおり,被告Aⅰが平成24年9月24日までの間に赤坂店の事業を
譲渡したと認められるところ,その後に被告Aⅰが個人として赤坂店の営業を行う
ことをAⅱが承諾していたと認めるに足りる証拠はない。したがって,被告Aⅰが
同月25日から平成25年4月27日まで原告の取締役でありながら個人として赤
坂店の営業(競業取引)を行った行為は,原告に対する競業避止義務違反(会社法
356条1項1号)を構成するというべきである。
(3)損害額
平成24年9月25日から平成25年4月27日までの間における被告Aⅰの上
記競業取引(赤坂店の営業行為)によって生じた原告の損害については,会社法4
23条2項により,同行為によって被告Aⅰが得た利益の額が,同損害の額と推定
される。
そこで,平成24年9月25日から平成25年4月27日までの間の赤坂店の利
益の額について検討するに,前記1(9)で認定したとおり,①赤坂店の平成24年9
月25日から同年12月末までの期間における売上高は合計740万5920円,
商品仕入高は合計193万5841円,荷造運賃は合計1万0600円,給料手当
は合計92万6735円,雑給は合計27万9250円,賃借料は合計89万43
48円,修繕費は8400円,消耗品費は合計14万1895円,水道光熱費は合
計41万6771円,手数料は合計3万1265円,通信費は合計5万6445円,
雑費は合計39万7924円であったと認められ,これによると,営業利益は23
0万6446円(740万5920円-509万9474円=230万6446円)
となる。また,②赤坂店の平成25年1月1日から同年4月27日までの期間にお
ける売上高は合計759万6230円,商品仕入高は合計233万9227円,広
告宣伝費は合計1万0631円,荷造運賃は合計3760円,給料手当は合計27
9万5260円,賃借料は合計89万4348円,事務用品費は合計6163円,
消耗品費は合計28万5001円,水道光熱費は合計36万0001円,旅費交通
費は合計7530円,手数料は合計5万2428円,交際接待費は合計4万975
8円,通信費は合計5万3683円,雑費は合計3万5988円であったと認めら
れ,これによると,営業利益は70万2452円(759万6230円-689万
3778円=70万2452円)となる。したがって①及び②の両期間について合
計した営業利益は,300万8898円となる。
なお,原告は,上記認定の根拠となる総勘定元帳(乙A38,44)は信用でき
ない旨の主張をするが,総勘定元帳(乙A38,44)に記載された金額は,売上
げ及び経費の各金額について,税務署に提出されたものと認められる確定申告書(乙
A42の2)の金額とそれぞれ一致していて(前記1(9)ウ),一定の信用性が認め
られるところ,それにもかかわらずその信用性を否定するに足りる具体的な事情を
示す的確な証拠は見当たらないから,原告の上記主張は採用することができない。
そして,前記損害の額が300万8898円と推定されることを覆すに足りる証
拠はない。
(4)小括
以上によれば,被告Aⅰは,原告に対し,会社法423条1項に基づき,競業避
止義務違反による損害として300万8898円の賠償責任を負うというべきであ
る。
7被告らに対する共同不法行為に基づく損害賠償請求について
(1)被告Aⅰの横領による損害賠償責任の有無について
原告は,「被告Aⅰは,本件賃貸借切替えをし,本件建物の保証金(250万円)
並びに千歳烏山店の建物内の内装設備(294万円)及びその他の営業用資産(2
87万円2020円)を横領した(本件横領行為)。」と主張するが,被告Aⅰが
した本件賃貸借切替えについて直ちに「横領」といえるのかという問題を措くとし
ても,本件横領行為による損害が認められない。すなわち,原告は,本件横領行為
による損害として,「本件建物の保証金並びに千歳烏山支店の内装設備相当額,営
業用資産相当額及びのれん相当額の損害を被った。」としているところ,本件建物
の保証金並びに千歳烏山支店の内装設備相当額及び営業用資産の損害が認められな
いことは,前記2(2)イ,ウで説示したとおりである。他方,のれんについては,本
件横領行為により上記金銭や有体物を自己のもとに移転したというだけでは,移転
したことにならないので,本件横領行為と相当因果関係のある損害としては認めら
れない(なお,のれんについては,前記2(2)エにおいて,被告Aⅰの本件譲渡によ
る損害賠償責任を認めているところである。)。
したがって,被告Aⅰは,原告に対し,本件横領行為による損害賠償責任を負う
ものではない。
(2)被告東邦サプライの共同不法行為に基づく損害賠償責任の有無について
原告は,「被告東邦サプライは,被告Aⅰが,①株式を過半数保有しているスポ
ンサーとの関係がうまく行かなくなったことを認識しつつ,また,②本件解約に係
る合意書に顕出された原告の印鑑の印影が,本件賃貸借契約に係る契約書のそれと
は異なることを認識しながら故意に,ないしは少なくとも漫然と見落として,本件
建物の保証金並びに千歳烏山店の建物内の内装設備及びその他の営業用資産の承継
を認め,被告Aⅰによる本件横領行為を実現させた。」と主張する。
しかしながら,前記前提事実及び前記1(7)イで認定した事実によると,被告Aⅰ
は,本件賃貸借切替え当時,原告の代表取締役として代表権を有していたのであり,
本件解約に係る合意書に被告Aⅰが押捺した原告の代表者印の印影は,本件賃貸借
契約締結前に作成された事業用建物申込書及びその頃作成された鍵預かり証にそれ
ぞれ押捺された原告の代表者印の各印影と同一であった(なお,さらには,本件什
器備品の売買については契約書〔乙A25〕も作成されていた。)というのである
から,賃貸借契約の対向当事者である被告東邦サプライにおいて,仮に上記①及び
②の認識があったからといって,それのみでは,被告Aⅰの行為が「横領」に当た
ると認識することはできないし,被告Aⅰからの賃貸借契約の解約に応じて営業用
資産の承継を認めたことが不法行為に当たるということはできない。
したがって,原告の上記主張は採用の限りではなく,被告東邦サプライは,原告
に対し共同不法行為による損害賠償責任を負うものではない。
8被告Aⅰに対する本件各商標権に基づく差止請求について
(1)商標権侵害
被告標章1は原告商標1と同一であり,被告標章2は原告商標1に類似しており,
また,被告標章3は原告商標2と同一又は類似であることが明らかである。
被告Aⅰは,千歳烏山店において,串かつ料理を主とする飲食物の提供という役
務に関し,その提供を受ける者の利用に供するメニュー並びに看板,ホームページ
及びチラシに被告各標章を使用(商標法2条3項3号,8号)しているところ,被
告各標章が使用されている役務は,本件各商標権の指定役務と同一である。
したがって,被告Aⅰの被告標章1及び被告標章2の上記使用行為は,原告の保
有する本件商標権1を侵害し,被告標章3の上記使用行為は,原告の保有する本件
商標権2を侵害する。
(2)著作権の抗弁の成否
原告商標2のロゴは,「かつ~ん」の文字を毛筆体に変形し「か」の字を大きく
したものと,その背景に「○」の中に「串」の字を朱色で記載したマークを配した
ものである。同ロゴは,商標として使用することが予定された実用的・機能的なロ
ゴであること,上記の文字やマークはそれぞれありふれたものとみられることから
すると,その実用的機能を離れて創作性は認められないから,著作権法上の著作物
には当たらず,これについて著作権は発生しないというべきである。
したがって,被告Aⅰが主張する著作権の抗弁(商標法29条)は,その前提を
欠き,採用することができない。
(3)先使用権の抗弁の成否
証拠(乙A11,12,15)によれば,①平成20年11月1日に発行された
『CLUBHARLEY』というハーレー・ダビッドソン愛好家向けの雑誌において,被
告Aⅰが取り上げられたところ,その記事においては,写真に付された説明文中に
比較的小さな字で原告商標1が記載されており,写真に写った赤坂店ののれんに原
告商標2ないし被告標章3とおぼしきロゴがおぼろげながら見えること,②平成2
1年8月1日に13万5000部発行された雑誌『おとなの週末』平成21年8月
号において,特集された串かつ店の一つとして赤坂店が取り上げられたところ,そ
の記事においては,見出しや説明文中に被告標章2が記載され,写真には,赤坂店
ののれん及び掲示に原告商標2ないし被告標章3が記載されている様子が写ってい
ることが認められる。また,被告Aⅰの陳述書(乙A45)には,③「かつーんは,
平成23年5月16日にフジテレビで放送された「HEY!HEY!HEY!」でも,ジャニー
ズグループの「KAT-TUN」と同様の名前の串かつ店として紹介されています。」と
の記載部分がある。
しかしながら,上記①については,それにより原告各商標がどれだけ需要者の間
に認識されたかは疑問であるし,また,上記③については,どのような放送がされ
たのかに関する客観的な証拠がなく,仮に上記陳述書記載部分の内容自体はそのと
おりであったとしても,原告各商標がどのように放映されたのかは不明である。そ
して,平成19年3月27日に「かつーん」赤坂店が開業(前記1(1)ア)されてか
ら平成25年2月20日に原告各商標について商標登録出願がされるまで,原告各
商標ないし被告各標章が使用された期間は6年に満たなかったことをも考慮すると,
上記①ないし③を総合的に勘案しても,上記商標登録出願の際,現に原告各商標が
被告Aⅰの業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されていた
ものと認めることはできない。
なお,被告Aⅰが援用する乙A第13号証は,上記商標登録出願より後の平成2
5年5月1日に発行された雑誌にすぎず,他に,上記商標登録出願の際,現に原告
各商標が被告Aⅰの業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識さ
れていたと認めるに足りる証拠はない。
したがって,被告Aⅰが主張する先使用権の抗弁は,採用することができない。
(4)権利濫用の抗弁の成否
前記前提事実(9)及び前記1で認定した事実並びに弁論の全趣旨を総合すると,原
告は,平成24年8月17日から同年10月31日までの間,千歳烏山店の業務に
原告各商標を使用していたものと認められる。したがって,原告が,原告各商標に
つき商標登録を受けるべき地位になかったとはいえないし,原告が平成25年2月
にした商標登録出願が,専ら被告Aⅰの営業を妨害しようという不正の目的に基づ
くものであったと認めることもできない。
そして,原告が平成24年11月1日以降事業を行っていないというのみでは,
本件各商標権の行使が権利の濫用に当たるということはできない。
他に,原告の被告Aⅰに対する本件各商標権に基づく差止請求権の行使が権利の
濫用に当たるとまで認めるに足りる事情は見当たらない。
したがって,被告Aⅰが主張する権利濫用の抗弁は,採用することができない。
(5)無効の抗弁の成否
ア前記(3)のとおり,原告各商標についての商標登録出願がされた平成25年2
月20日当時,原告各商標が被告Aⅰの業務に係る役務を表示するものとして需要
者の間に広く認識されていたとまで認めるに足りる証拠はないから,原告各商標は,
商標法4条1項10号には該当しない。
イ前記アの点のほか,前記(4)のとおり,原告各商標は,平成24年8月17日
から同年10月31日までの間,原告の営業にも用いられていたことなどを考慮す
ると,被告Aⅰ個人の役務と混同を生ずるおそれがあるということはできず,原告
各商標は,商標法4条1項15号には該当しない。
ウ原告各商標が商標法4条1項15号に該当する旨の被告Aⅰの主張は,原告
商標2の著作権侵害を前提とするものであるが,そのような前提は,前記(2)で説示
したとおり,認められない。原告各商標は,商標法4条1項15号には該当しない。
エ原告各商標の商標登録について,他に商標法46条1項各号所定の無効理由
は見当たらず,商標登録無効審判により無効にされるべきものとは認められない。
(6)通常使用権の抗弁の成否
被告Aⅰが,千歳烏山店及び赤坂店を,原告の取締役として営業する分には原告
各商標を使用することができたものであることに争いはないが,これを超えて被告
Aⅰが自己の個人事業として営業するために原告各商標を使用することを,原告が
承諾していたことを認めるに足りる証拠はない。
したがって,原告が被告Aⅰに対し本件各商標権の通常使用権を許諾したとは認
められない。
(7)小括
以上によれば,被告Aⅰが,串かつ料理を主とする飲食物の提供という役務に関
し,その提供を受ける者の利用に供するメニュー並びに看板,ホームページ及びチ
ラシに被告各標章を使用することに関しては,商標法36条1項により,原告は,
被告Aⅰに対し,本件商標権1に基づいて被告標章1及び被告標章2の,本件商標
権2に基づいて被告標章3の,各使用行為の差止めを請求することができる。
9被告Aⅰに対する本件各動産に係る引渡等請求について
(1)本件各動産の引渡請求について
ア所有権に基づく引渡請求について
(ア)前記1(2)ア,(10)イで認定した事実によれば,アレクスが,平成22年6月に
電気店等において本件各動産を購入し,その後,平成27年1月26日に原告に本
件各動産を贈与したというのである。
そうすると,原告は,同日以降,本件各動産を所有しているものと認められる。
(イ)これに対し,被告Aⅰは,平成24年6月23日に,本件各動産について,
アレクスから贈与を受けたこと,又はAⅱから贈与を受けて即時取得したことを主
張する。
しかしながら,被告Aⅰが上記のような贈与を受けたことの証拠としては,被告
Aⅰ自身の陳述書(乙A45)及び本人尋問における供述があるのみで,これを認
めるに足りる客観的な裏付け証拠はないから,上記事実は認められない。
(ウ)そして,被告Aⅰは,本件各動産を占有しているところ,本件訴状の送達を
受けた後,それについて占有権原があるものとはうかがわれない。
イ小括
したがって,原告は,被告Aⅰに対し,本件各動産の所有権に基づき,その引渡
しを請求することができる。
(2)使用料相当損害金の支払請求について
ア賃貸借契約終了又は使用貸借契約終了に基づく目的物返還債務の履行遅滞に
基づく損害賠償請求について
前記1(2)で認定した事実によると,原告は,平成24年6月にアレクスから本件
各動産を借り受け,同月23日に被告Aⅰに対して本件各動産の引渡しをしたこと
が認められる。
しかしながら,原告と被告Aⅰとの間の契約を示す証拠はなく,これが賃貸借と
も使用貸借とも,すなわち返還約束を伴って引き渡されたと認めるに足りる証拠は
ない。
そうすると,平成25年8月24日以降,賃貸借契約終了又は使用貸借契約終了
に基づく目的物返還債務が発生したとはいえず,その履行遅滞に基づく損害賠償請
求権があるということもできない。
イ所有権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求について
前記(1)で説示したところを前提にすると,原告は,被告Aⅰに対し,平成27年
1月26日以降の所有権侵害を理由に,不法行為に基づき使用料相当損害金の賠償
を請求することができる。
ウ損害額について
本件各動産は,平成22年6月に購入されたものであるから,平成27年1月2
6日時点で,購入から4年半以上経過していたものである。それにもかかわらず,
これらについて,1か月当たり原告主張の使用料を取得することができるほどの価
値があったと認めるに足りる証拠はない。
そして,本件各動産のうち,別紙物件目録記載5のシーリーベッドについては,
平成22年6月に174万1897円で購入されたものであり,Aⅱの陳述書(甲
67)では,シーリーベッドは日本最高級といわれるベッドであると説明されてい
るが,それ以外の動産については,購入価格及び経過年数等に照らし,そもそも使
用料を取得することができない可能性が高く,損害の発生を認めるに足りる証拠は
ない。
上記シーリーベッドについては,原告に損害が生じたことが認められるが,損害
の性質上その額を立証することが極めて困難であるというべきである。そこで,民
事訴訟法248条により,購入価格,経過年数等に照らし,相当な損害額を,1か
月当たり5000円と認める。
(3)代償請求について
執行不奏効の場合の代償請求については,口頭弁論終結時の目的物の時価を主張
立証しなければならないが,購入から5年半以上経過することになるこの時点(平
成28年1月27日)における本件各動産の時価を示す証拠はない。
そもそも,本件各動産のうち,別紙物件目録記載5のシーリーベッド以外の各動
産については,その購入価格及び経過年数等に照らし,時価が付かない可能性が高
く,損害の発生を認めるに足りる証拠はない。
他方,上記シーリーベッドについては,損害が生じたことが認められるが,損害
の性質上その額を立証することが極めて困難であるというべきである。そこで,民
事訴訟法248条により,購入価格,経過年数等に照らし,相当な損害額を,10
万円と認める。
したがって,原告は,被告Aⅰに対し,上記シーリーベッドの引渡しの強制執行
が不奏効の場合において所有権侵害の不法行為に基づき代償金10万円の損害賠償
を請求することができるというべきである。
第4結論
1以上の次第で,(1)原告の被告Aⅰに対する会社法423条1項に基づく
損害賠償請求については,①千歳烏山店に係る本件譲渡に関するのれん相当額10
万円の損害賠償請求(前記第3の2(1)・(2)エ),②本件出願取下げに関する16万
9044円の損害賠償請求(前記第3の4),③取締役報酬お手盛りに関する損害
74万1600円の損害賠償請求(前記第3の5)及び④競業避止義務違反に関す
る300万8898円の損害賠償請求(前記第3の6)並びにこれら合計401万
9542円に対する訴えの変更申立書送達日の翌日である平成26年7月23日か
ら支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払請求は理由がある
が,その余の請求はいずれも理由がない。
(2)原告の被告らに対する共同不法行為に基づく損害賠償請求はいずれも理由
がない(前記第3の7)。
(3)原告の被告Aⅰに対する本件各商標権に基づく被告各標章使用行為の差止
請求は理由がある(前記第3の8)。
(4)原告の被告Aⅰに対する①所有権に基づく本件各動産引渡請求は理由があ
り(前記第3の9(1)),②使用料相当損害金の支払請求については,別紙物件目録
記載5の動産につき1か月当たり5000円の割合による使用料相当損害金の支払
を求める限度で理由があるが,その余の請求は理由がなく(前記第3の9(2)),③
代償請求については,上記②の動産につき上記①の引渡しの強制執行が不能となっ
たときの代償金10万円及びこれに対する執行不能となった日の翌日から支払済み
までの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが,
その余の請求は理由がない(前記第3の9(3))。
2よって,原告の請求は,主文第1項ないし第5項の内容を求める限度で理由
があるから,これらをいずれも認容し(なお,主文第2項については,仮執行宣言
を付すのは相当でないから,これを付さないこととする。),その余の請求はいず
れも理由がないから,これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官
嶋末和秀
裁判官
笹本哲朗
裁判官
天野研司
(別紙)
当事者目録
原告株式会社白国ファクトリー
同訴訟代理人弁護士田島正広
同寺西章悟
同進藤亮
同訴訟復代理人弁護士花村大祐
同西川文彬
被告Aⅰ
(以下「被告Aⅰ」という。)
同訴訟代理人弁護士髙橋修平
同阿部麻由美
同西村義隆
同亀井孝衛
同江村祥子
同井伊弘明
同辰巳駿介
被告株式会社東邦サプライ
(以下「被告東邦サプライ」という。)
同訴訟代理人弁護士成田茂
同前山暁子
同鈴木智有
(別紙)
物件目録
番号物件メーカー製造番号価格使用料
1電子レンジシャープAXX2R89,800円3,983円
2冷蔵庫三菱MRE50RPW138,000円6,121円
3トースター東芝HTRH6E46,480円288円
4炊飯ジャーパナソニッ

SRSJ182W104,800円4,649円
5シーリーベッ
ド一式(リー
ジェント&カ
ンタベリー)
シーリー社不明1,741,897円77,265円
6ベッドスカー

Benaco1-2908-117173,460円7,694円
合計2,254,437円100,000円

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