弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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            主    文
    1 原判決を取り消す。
    2 被控訴人の請求をいずれも棄却する。
    3 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。
            事実及び理由
第1 申  立
 1 控訴の趣旨
   主文と同旨
 2 控訴の趣旨に対する答弁
  (1) 本件控訴をいずれも棄却する。
  (2) 控訴費用は控訴人らの負担とする。
第2 事案の概要
   原判決別紙物件目録一及び二記載の土地(以下「本件各土地」といい,個別
には「本件1土地」,「本件2土地」という。)は,登記簿上,それぞれ控訴人ら
に所有権があり,かつ,控訴人らを権利者として,根抵当権設定登記又は所有権移
転請求権仮登記がなされている(後記1(3)のとおり)。
   被控訴人は,本件土地は,その被相続人が売買により取得した,若しくは時
効により取得したとして,控訴人らに対し,所有権に基づく妨害排除請求として,
真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記を求め,根抵当権等の登記につ
き抹消登記手続を求めた。
   原審は,被控訴人の先々代が本件各土地を売買により取得したとし,控訴人
らが背信的悪意者に該当するとして,被控訴人の請求をいずれも認容したので,控
訴人らが控訴した。
 1 前提事実
  (1) 本件各土地の元の所有者
    本件各土地は,元Aの所有であった(甲26,27)。
  (2) 当事者等の関係
   ① 被控訴人は,Bが昭和38年11月8日死亡し,同人の長男であり被控
訴人の父であるCが昭和40年7月4日死亡したことにより,Bの財産を相続した
(甲3ないし10)。
   ② Aが昭和48年に死亡したことにより,同人の財産は,妻Dと子である
E,同Fが相続し,Dが昭和58年に死亡したことにより,同人の財産は,子であ
るE,F,Aの死後Dの養子となったGが相続した(甲26,27,29,3
0)。
   ③ 控訴人Hは,昭和28年8月18日設立された宗教法人たる控訴人I寺
の代表役員であり,Jは,平成4年10月9日設立された宗教法人たる控訴人K寺
の責任役員である。
  (3) 本件各土地の登記簿上の権利関係
   ① 本件1土地(甲16,26)
    ア 平成2年7月5日受付
      所有権保存登記
      共有者 E,F,D(持分各3分の1)
    イ 平成2年7月5日受付
      D持分全部移転登記
      原因  昭和58年2月21日相続
      共有者 E,F,G(持分各9分の1)
    ウ 平成2年7月5日受付
      根抵当権設定登記
      原因    平成2年4月11日設定
      極度額   500万円
      根抵当権者 控訴人H
      債務者   E,F,G
    エ 平成10年12月1日受付
      共有者全員持分全部移転登記
      原因  平成2年4月11日
      所有者 控訴人H
     なお,本件1土地の地目は,平成10年10月27日,昭和40年月日
不詳地目変更を原因として,畑から山林に変更された。
   ② 本件2土地(甲17,27)
    ア 平成2年7月5日受付
      所有権保存登記
      共有者 E,F,D(持分各3分の1)
    イ 平成2年7月5日受付
      D持分全部移転登記
      原因  昭和58年2月21日相続
      共有者 E,F,G(持分各9分の1)
    ウ 平成2年7月5日受付
      共有者全員持分全部移転登記
      原因  平成2年4月11日
      所有者 控訴人H
    エ 平成5年9月16日受付
      根抵当権設定登記
      原因    平成5年9月16日設定
      極度額   1億円
      根抵当権者 株式会社せとうち銀行
      債務者   日照建設株式会社
    オ 平成7年10月30日受付
      所有権移転登記
      原因  平成7年10月24日売買
      所有者 L
    カ 平成7年10月30日受付
      所有権移転請求権仮登記
      原因  平成7年10月30日売買予約
      権利者 控訴人I寺
    キ 平成10年8月10日受付
      所有権移転登記
      原因 平成10年8月10日売買
      所有者 控訴人K寺
  (4) 本件各土地に関する売買契約書等の存在
   ① E及びFを売主,控訴人Hを買主とする売買契約書(乙12)
     契約締結年月日  平成2年4月11日
     売買代金     1756万5000円(坪単価1万5000円)
     売買対象土地   本件各土地,広島市a区b町c番土地(以下地番は
すべて広島市a区b町所在の土地である。)及びd番土地
     特約       売買代金は3.3平方メートル当たり,隣地(e番
地)の売買代金と同額とすることで,この売買契約は成立するものとする。
   ② 控訴人I寺を売主,控訴人K寺を買主とする売買契約書(丙15)
     契約締結年月日  平成7年1月9日
     売買代金     3億円
     売買対象土地   本件各土地,c番,d番土地,f番g土地,f番h
土地,i番土地
   ③ 控訴人K寺及びLを申立人,控訴人H及び同I寺を相手方とする即決和
解調書(丙29)
     成立年月日    平成9年7月4日
     和解内容   ア 上記②の売買契約書の売買代金を2億9200万円
に減額する。
            イ 控訴人Hは,控訴人K寺に対し,本件1土地につ
き,(3)①ウの根抵当権の抹消登記手続をし,控訴人I寺は,同土地につき,自己の
責任と負担において,農地法及び国土法の手続をとったうえで,控訴人K寺に対
し,売買を原因とする所有権移転登記手続をする。
            ウ 控訴人I寺は,Lに対し,本件2土地につき,(3)②
カの所有権移転登記請求権仮登記の抹消登記手続をし,自己の責任において,農地
法及び国土法の手続をとったうえで,控訴人K寺に対し,売買を原因とする所有権
移転登記手続をする。
  (5) 墓苑造成工事の施行と完成
   ①ア 本件各土地の西側には里道を挟んでe番土地が隣接し,更に同土地の
西側に隣接してj番,f番g及びf番h土地がある(甲24,丙37)。
    イ(ア) e番及びj番土地は,平成9年7月10日受付で,同日売買を原
因として,Lのために所有権移転登記がなされている(丙5,6)。
     (イ) f番g及びf番h土地は,平成2年1月4日受付で,平成元年1
2月28日売買を原因として,控訴人I寺のために所有権移転登記がなされ,平成
7年10月30日受付で同月24日売買を原因として,Lのために所有権移転登記
がなされ,さらに,平成7年10月30日受付で,同日売買予約を原因として,控
訴人I寺のために所有権移転請求権仮登記がなされている(丙7,8)。
   ②ア 広島市長は,平成9年5月23日,控訴人K寺に対し,位置を広島市
a区b町e番,j番,f番g及びf番hの各一部とし,名称をb霊園とする,墓地
経営を許可した(丙26)。
    イ 広島市長は,同日,控訴人K寺に対し,アの各土地と周辺4筆の土地
に対する宅地造成に関する工事を許可した(丙25)。
   ③ 控訴人K寺は,平成9年7月1日,株式会社熊谷組に対し,工事場所を
②イの各土地,工事期間を平成9年7月1日から平成10年10月31日,工事代
金を6億9300万円(消費税込み)とする墓苑造成工事を発注し,株式会社熊谷
組は,平成10年3月ころ,ほぼf番g及びf番h土地を対象とする第1期工事
を,平成11年末ころ,ほぼe番土地の北側半分とj番土地を対象とする第2期工
事を,それぞれ完成,引渡し,これにより,本件各土地と里道を挟んで西側に隣接
する墓苑(以下「b墓苑」という。)が完成した(丙28の1,2,丙37,3
8,原審証人J)。
 2 争点
  (1) 被控訴人は元の所有者Aとの関係で本件各土地の所有権を取得したと認め
られるか。
  (被控訴人の主張)
   ① Bは,昭和21年ころ,Aから本件各土地を代金4000円で買い受け
た。
   ② 仮に①が認められないとしても
     Bは,昭和21年ころ,Aから本件各土地の引渡しを受け,同各土地の
境界を確認して境界杭を埋設し,同各土地の約2分の1ないし3分の1を開墾し,
土地内に作業小屋を建て,果樹園としてイチジクを栽培して同各土地を占有し,こ
の占有は,同人(昭和38年11月8日死亡)とC(昭和40年7月4日死亡)が
各死亡したことにより被控訴人に承継され,20年が経過した。
     被控訴人は,本訴において,時効を援用した。
  (控訴人らの認否と主張)
   ① 被控訴人の主張①の事実は否認する。
     同時期にAから本件各土地の隣接地を購入したMやNは,いずれもAか
ら所有権移転登記を受けているのに,Bに移転登記がなされていないことは,被控
訴人主張の売買がなかったことを推認させるものである。
   ② 被控訴人の主張②の事実について
    ア 認否
      被控訴人の主張②の事実は否認する。
      Bが占有したのは斜面となっている本件各土地の下側3分の1部分の
みであり,その占有も断続的なものである。
    イ 主張(控訴人H及び同I寺)
      Bの占有は,Aとの間の賃貸借に基づくものであるから,他主占有で
ある。
  (2) 控訴人らは元の所有者Aとの関係で本件各土地の所有権等の権利を取得し
たと認められるか。
  (控訴人らの主張)
   ① 控訴人H,同I寺の主張
    ア 本件各土地は,元Aの所有であった。
    イ Aが,昭和48年に死亡し,Dが昭和58年に死亡したことにより,
本件各土地は,両名の子であるE,Fと,Aの死後Dの養子となったGとが相続し
た(持分は,E及びFが各9分の4,Gが9分の1)。
    ウ E,F及びG(以下「Fら」という。)は,平成2年4月11日,控
訴人Hに対し,本件各土地及びc番,d番の各土地を,代金1756万5000円
で売り渡した(以下「平成2年売買契約」という。)。 
    エ 控訴人Hは,同時に,Fらとの間で極度額を500万円とする根抵当
権を設定した。
    オ 控訴人I寺は,平成7年10月30日,当時の所有者であったLとの
間で,本件2土地につき,売買予約をした。
   ② 控訴人K寺の主張
    ア ①アないしウと同じ
    イ 控訴人K寺は,平成7年1月9日,本件1土地につき控訴人Hから売
却権限を与えられた控訴人I寺との間で,本件2土地を含む7筆の土地を対象土地
とし,売買代金を3億円とする売買契約を締結し(以下「平成7年売買契約」とい
う。),平成10年8月10日受付で,当時の所有名義人であったLから同土地の
所有権移転登記を受けた。なお,平成9年7月4日成立した即決和解(以下「本件
和解」という。)により売買代金は2億9000万円に減額された。
  (被控訴人の認否)
   ① ①アの事実は認め,同イないしオの事実は知らない。
   ② ②イの事実は知らない。
  (3) 控訴人H,同I寺及び同K寺は,背信的悪意者と認められるか。
  (被控訴人の主張)
   ① 控訴人H及び同I寺について
     控訴人Hは,被控訴人が本件各土地を所有し,土地上に作業小屋を所有
し,同各土地を果樹園として占有していることを現認しながら,同各土地に所有権
保存登記がなく,元の所有者であるAの相続人であるFらが東京在住で同各土地の
位置現況を知らないことを奇貨として,墓苑造成により多額の利益を得るため,敢
えて被控訴人の所有権を無視し,本件各土地につき,Fらとの間で平成2年売買契
約を締結し,同人ら名義の保存登記をした上で,本件1土地につき,平成2年7月
5日受付で根抵当権設定登記をし,平成7年10月27日,同土地の現況が畑であ
るのに地目を山林と変更する登記をし,平成10年12月1日受付で,所有権移転
登記をし,本件2土地につき,平成2年7月5日受付で,所有権移転登記をした。
また,控訴人Hは,平成7年10月24日,本件2土地をLに売却し,同月30日
受付で同人のために所有権移転登記をし,控訴人Hが代表責任役員である控訴人I
寺は,同土地につき,同月30日受付で,同日売買予約を原因として,所有権移転
請求権仮登記をした。
     平成2年売買契約に関しては,平成2年売買契約書が作成されているも
のの,同契約書に記載された売買代金額が実際に支払われたか否かについては疑問
があるうえ,仮に,同契約書に記載された坪単価1万5000円で売買がなされた
としても,控訴人K寺は,b墓苑の土地取得代金として,4億3240万円(対象
土地面積9382.95平方メートル)を支出したこと(坪単価約15万円)から
すると,控訴人Hあるいは同I寺は,本件各土地の取得及び売買により莫大な利益
を得ていることは明らかである。
     したがって,控訴人Hは本件1土地につき,同I寺は本件2土地につ
き,背信的悪意者として,被控訴人の登記の欠缺を主張する正当な利益を有せず,
民法177条の第三者に該当しない。
   ② 控訴人K寺について
     控訴人K寺は,控訴人H及び同I寺と同様,被控訴人が本件各土地を所
有し,土地上に作業小屋を所有し,同各土地を果樹園として占有していることを現
認しながら,墓苑造成により莫大な利益を上げるため,敢えて被控訴人の所有権を
無視し,平成7年1月9日,控訴人I寺との間で平成7年売買契約を締結し,平成
7年10月30日受付で同売買契約につき控訴人K寺のために売買代金を拠出した
Lに所有権移転登記をした。その後,控訴人K寺の責任役員でありb墓苑の開設事
業を担当していたJが,平成9年春ころ,被控訴人の息子であるOから,本件各土
地が被控訴人の所有であるとの指摘を受けたにもかかわらず,控訴人K寺は,これ
を無視し,平成9年7月4日,本件和解を成立させ,平成10年8月10日受付で
Lから所有権移転登記を受けた。
     したがって,控訴人K寺は,本件2土地につき,被控訴人の登記の欠缺
を主張する正当な利益を有せず,民法177条の第三者に該当しない。
  (控訴人らの認否と反論)
   ① 控訴人H及び同I寺
    ア 認否
      控訴人Hが,墓苑造成のために,本件各土地を取得したこと,土地上
に作業小屋が存在することは認めるが,同人が,平成2年売買契約締結時に,被控
訴人が本件各土地を所有し果樹園として占有していたことを現認したことは否認す
る。
    イ 反論
     (ア) 平成2年売買契約の当時,本件各土地は果樹園の形態をなしてい
たわけではなくうっそうとした雑木林であった。仮に,本件各土地の一部にイチジ
クの木等が植えられていたとしても,立札等その占有者を明らかにする明認方法が
なされていたわけではなく,また,作業小屋も何十年にもわたって使用された形跡
のないものであり,控訴人Hが,これらによらず,登記簿によって,Fらを所有者
として認識したことに信義則に反するような背信性があるとはいえない。
     (イ) 控訴人Hは,Fから本件各土地が同人らの所有であることを確認
して,同人らとの間で,平成2年売買契約を締結し,現金で468万4000円を
支払い,その後,平成2年5月7日,控訴人Hが理事長である学校法人翠光学園振
出しの小切手で1288万1000円を支払った(同小切手は平成2年5月16日
現金化された。)。この売買代金額は,隣地(e番土地)と同額に定められてお
り,不当に廉価なものではない。
       なお,上記平成2年売買契約の代金額と控訴人K寺に対する平成7
年売買契約の代金額との間に開きがあったとしても,平成7年売買契約が墓苑開発
を前提としたものであることからすると,この差額が背信性を裏付ける事情とはい
えない。
   ② 控訴人K寺
    ア 認否
      控訴人K寺が,墓苑造成のために本件各土地を取得したことは認める
が,平成7年売買契約締結時に,被控訴人が本件各土地を所有し果樹園として占有
していたことを現認したこと,Jが,平成9年春ころ,Oから本件各土地が被控訴
人の所有であるとの指摘を受けたことは否認する。
    イ 反論
     (ア) 控訴人K寺は,控訴人I寺の債権者から控訴人I寺が資金的に行
き詰まっており,その打開策として,控訴人Hらが所有する土地に墓苑を造成する
ことを計画し,控訴人I寺との間で平成7年売買契約を締結した。
     (イ)<ア> Jは,平成7年売買契約を締結する前に,数度現地を検分
し,付近でイチジク畑を目にしたが,本件各土地は,雑木林という感じで,うっそ
うと木が茂っており,同各土地内にイチジク畑があることは分からなかった。
       <イ> Jは,平成7年売買契約を締結するに際し,売買対象土地
にFら名義の土地(本件1土地)が存在することは認識したが,同契約の立会人と
なったP弁護士(控訴人H及び同I寺の訴訟代理人)から,同土地は売買契約を締
結し控訴人Hが取得しているから,所有権の移転については間違いない旨を聞かさ
れた。
     (ウ) Jが,平成9年にOと会った際に,Oは,「b墓苑の予定地の奥
に自分の土地があるので,今度開発するときは一緒にやろう。」と発言したことは
あったが,本件各土地が被控訴人の所有であると発言したことはなかった。
第3 証拠
   原審及び当審各記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるか
ら,これを引用する。
第4 争点に対する判断
 1 争点(1)について
  (1) 甲3,5,10,24,35,乙2の1,2,乙7の1ないし18,乙
8,20,丙37,原審証人M,当審証人Qの各証言によれば,次の事実が認めら
れる。
   ① Bの二男であり,Cの弟であるM(大正元年8月31日生。)は,昭和
20年9月ころ復員した後,昭和21年2月13日,Aから本件1土地の東側に隣
接するk番l土地(山林1983平方メートル)を代金2000円で買い受け,同
月21日受付で所有権移転登記を得た。
   ② Mは,上記売買の後,A及びBと共にk番土地及び本件各土地の境界を
確認し,木製の境界標を設置した。
     当時,k番土地及び本件各土地は,雑木林であったが,B及びMは,各
土地を開墾し,Bは,本件各土地にイチジクの木を植えた。
   ③ 本件1土地の東寄りで,本件1土地の南側に隣接するQ所有のm番土地
との境界付近から約20メートルの位置に農作業小屋(以下「本件小屋」とい
う。)が存在する。同作業小屋は,Bが昭和24,25年ころ建てたものである。
   ④ k番土地及び本件各土地の南側は,広島市所有地と隣接しているとこ
ろ,被控訴人の夫であるR(大正5年11月28日生。昭和18年10月22日被
控訴人と婚姻。昭和32年一旦離婚の後,昭和35年12月16日再度婚姻。平成
5年10月31日死亡。)は,上記各土地と広島市との間で境界を確認するに際
し,Mと共にこれに立会した。
   ⑤ 本件各土地の北側にn中学校が開校し,本件各土地を含む周辺土地へ上
がる道が閉ざされたため,周辺土地を耕作する所有者には,同中学校の山側(本件
各土地側)にあるフェンスに設けられた出入口の鍵が渡されたが,R(同人の死亡
後は被控訴人)はこの鍵を所持している。
   ⑥ Qは,その所有するm番土地の南側(上側)に所在する土地が被控訴人
の所有と認識している。
  (2) (1)で認定した事実によれば,Bの二男であるMが復員後間もなく本件各
土地の東側に位置する土地を2000円で購入しており,父であるBが本件各土地
を購入したとしたとしても不自然ではないこと,Bは,昭和21年以降,本件各土
地の境界を確認し,これを開墾しイチジクの木を植え,農作業小屋を建てるなど所
有者としての行動を取っていること,Bの相続人も,同様に所有者として扱われ,
隣地所有者も被控訴人を所有者であると認識していることが認められ,この事実と
Mが上記証人尋問において,「登記関係の書類に本件各土地の売買代金が約400
0円と記載されたのを見た。」旨を証言していることを併せ考えると,Bは,Aか
ら,昭和21年2月ころ,本件各土地を約4000円で購入したものと認めるのが
相当である。
    控訴人らは,Mが上記売買により所有権移転登記を得ている(乙3の1,
2によれば,Nも,Mと同日にAからk番o土地を購入し,移転登記を得たことが
認められる。)のに,本件各土地につきBのために所有権移転登記がなされていな
いことは,Bが本件各土地を買い受けなかったことの証左である旨主張する。
    しかし,甲26,27,乙2の1,2,乙3の1,2によれば,昭和21
年当時,k番o及び同番p土地は,既に所有権保存登記がなされていた土地である
のに対し,本件各土地は表示登記のみで保存登記がされていない土地であったこと
が認められること,甲26によれば,当時本件1土地の地目は畑であることが認め
られ,その所有権移転には,農地調整法(昭和20年法第64号により改正)4条
により地方長官又は市町村農地委員会の承認を得ることが必要であったことからす
ると,これらの理由により所有権移転登記がなされなかったとも考えることができ
るから,本件各土地につき所有権移転登記がなされなかった事実は,前記認定を妨
げるものではない。
    なお,前記第2の1(3)①の地目変更の事実によれば,本件1土地の現況が
その後非農地となったことが認められる。
 2 争点(2)について
   本件各土地が元Aの所有であった事実は当事者間に争いがなく,前記第2の
1(2)②,同(3)①ウ,エ,同②オ,カ及び同(4)①によれば,控訴人Hは,平成2年
4月11日,本件各土地をAから相続したFらから買い受けたこと,本件1土地に
つき,同日,Fらとの間で極度額を500万円とする根抵当権を設定したこと,控
訴人I寺は,本件2土地につき,平成7年10月30日,当時の所有者であったL
との間で売買予約をしたことが認められ,同(3)②アないしウ,エ,キ及び同(4)
②,③によれば,控訴人K寺は,平成7年1月9日,控訴人Hから売却権限を与え
られた控訴人I寺から本件2土地を買い受け,平成10年8月10日受付で,当時
の所有であったLから同土地の所有権移転登記を受けたことが認められる。
 3 争点(3)について
  (1)① 本件各土地の現況の推移
     甲3,5,10,11,24,34ないし36,乙7の1ないし18,
乙8,20,丙37,原審証人M,当審証人Q,原審及び当審証人Oの各証言,控
訴人H本人尋問の結果(原審)によれば,次の事実が認められる。
    ア 本件各土地は,Bが耕作してイチジクの木を植えた後,C,被控訴人
がその占有を承継し,隣接するm番土地の所有者Qが昭和54年に公務員を退職し
てその耕作に従事しだして後は,被控訴人の夫Rがイチジクの木の世話をしたり,
野菜を作ったりして耕作していたが,その範囲は,概ね本件2土地に限られ,本件
1土地は,既に耕作されておらず広葉樹が生えていた。本件小屋は,本件2土地の
南側境界線から約20メートル位の距離にあるため,本件各土地に隣接する里道か
らも目撃できた(なお,平成5年当時の広島市の住宅地図においては,ほぼ本件2
土地に相当する部分に果樹園の,その東隣(本件1土地部分)は広葉樹林の表記が
なされ,更にその東隣には果樹園の表記がなされているが,東隣の果樹園の表示
は,Mが本件1土地の東に隣接するk番l土地にイチジクの木を植えていたことに
よるものと考えられる。)。
    イ Rは,平成5年10月31日,76歳で死亡し,その後,約2,3年
の間は,Sが被控訴人から本件2土地を借りて野菜等を作っていたが,その範囲
は,本件1土地の下側部分(北側部分)にとどまった。
    ウ Sが耕作を止めた後は,本件2土地についても耕作はされておらず,
周辺の山裾を開墾した農地は3年程度放置した場合には雑木等が生え荒れてしまう
ことから,平成7,8年ころには,耕作地であった形跡は留めていなかった。しか
し,雑木の生え方や里道の存在等から本件各土地を東隣のMが所有するk番l土地
や西隣のe番の土地と区別することは可能であった。
   ② 平成2年売買契約締結の経緯と売買代金の授受
     前記第2の1(3),(4)①の事実と甲16,17,25,乙10ないし1
5,17,21ないし26,丙37,当審証人Fの証言,控訴人H本人尋問の結果
(原審)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
    ア Fは,昭和24年から27年ころまで,qにあるAの家に同居し,そ
の後,東京で生活しているが,控訴人Hとは昭和50年代の終わりころから知り合
いであった。Fは,Aから本件各土地付近に土地を所有していたことがあるとは聞
かされたことがあったが,上京して後Aの財産に関心を持ったことはなく,昭和4
8年にAが死亡した際にも,相続人の間で本件各土地が話題になることはなかっ
た。
    イ 控訴人Hは,昭和58,59年ころから,墓苑造成の目的で,本件各
土地及びその西に連なる土地を買収しようと考え,現地調査を開始し,平成元年こ
ろから,具体的な土地購入を開始し,登記簿や公図を調査して,本件各土地の表題
部の所有者欄にAの名が記載されていたことから,本件各土地の登記簿上の所有者
が同人であることを知り,平成2年2,3月ころ,Fに連絡して,同人と現地を検
分するなどして,売買交渉をし,平成4年4月11日,Fらとの間で平成2年売買
契約を締結した。
      控訴人Hは,同売買契約を締結するまでに,現地調査により,本件各
土地付近ではm番土地にイチジクの木が植えられていたこと,本件小屋が存在する
ことは認識したが,付近の土地所有者や耕作者に本件土地の耕作者や所有者を確認
することはしなかった。
    ウ 平成2年売買契約においては,本件各土地とともにc番土地及びd番
土地が対象土地となったが,c番土地は,Mが所有するk番l土地の東側に存在す
る土地であり,d番土地は公図上には所在が記載されていない土地である。
      同売買契約の売買代金は,控訴人Hが買収を予定していた隣地である
e番土地(なお,実際には,同土地は平成9年7月10日売買を原因として同日受
付でLに所有権移転登記がされた。)と同額の坪当たり1万5000円で算出され
た1756万5000円と決定され,控訴人HはFらに対し,平成2年5月7日ま
でに現金で468万4000円を小切手で1288万1000円を支払った。
    エ 控訴人Hは,地目が山林であった本件2土地については,平成2年7
月5日受付で所有権移転登記を受けたが,本件1土地の地目が畑であったため,同
土地については,Fらとの間で根抵当権設定契約をし同日受付で債務者をFらとす
る根抵当権設定登記をし,E名義で,平成10年10月27日付けで同土地につき
広島市農業委員会会長の非農地であることの証明を受けて地目変更登記の申請を
し,同日受付で表題部の地目を山林と変更した後,同年12月1日受付で所有権移
転登記を受けた。
   ③ 平成7年売買契約の締結とその後の経緯
     前記第2の1(3)ないし(5)の事実と甲11,25,乙10,11,丙1
5ないし18,25,26,28の1,2,丙29,原審及び当審証人O,同J,
同Qの各証言,控訴人H本人尋問の結果(原審)によれば,次の事実が認められ
る。
    ア 控訴人H及び同I寺は,本件各土地を含む墓苑造成予定地を取得した
ものの,資金繰に窮したため,既に取得済みの土地を一括して控訴人K寺に売却し
墓苑造成を委ねようと考え,その旨を控訴人K寺の責任役員であるJに申し入れた
ところ,Jは,この話にはやくざが絡んでいるとの情報があったことなどから一旦
はこの申入れを拒絶した。しかし,その後,Jの知人である総連の商工会会長から
「控訴人I寺に融資した金員の回収ができなくて困っているので控訴人K寺の方で
上記土地を購入して欲しい。」旨の要請があったため,Jは,上記土地を買い受け
る方向で交渉することとなり,平成6年9月ころ,控訴人Hと共に初めて墓苑造成
予定地を訪れ,その後数回にわたり購入土地の境界の確認等のために本件各土地周
辺を訪れ,控訴人H及び同人から開発に必要な図面の作成を依頼されていたアキサ
ービス株式会社の社員から本件各土地及び墓苑造成予定地の境界等の説明を受け
た。控訴人K寺は,そのうえで,平成7年1月9日,控訴人I寺との間で平成7年
売買契約を締結した(Jが平成7年売買契約の締結前にQから本件各土地の境界の
説明を受けたか否かについては,これを肯定するJの原審での証言はあ
るが,Qは,陳述書(甲11)において,控訴人Hから墓苑造成のための近隣の同
意を求められたのは平成7年春ころのことである旨述べ,当審における証言におい
て,Jと初めてあったのは控訴人Hと会った後である旨証言していること及びJは
当審の証言においてはQと平成7年の売買契約の前に会ったことはない旨証言して
いることに照らすと,Jの原審での証言は勘違いの疑いがあり,他にJが平成7年
売買契約の前にQから上記境界の説明を受けたと認めるに足りる証拠はない。)。
    イ 同契約の対象土地は本件各土地を含む7筆の土地であり,その地積合
計は,7728.91平方メートルであり(=119+3047+9.91+69
7+3199+208+449),代金額は当初1億4000万円で合意された
が,控訴人I寺の債務返済のためにはより多額な金員が必要であるとのP弁護士の
強い要望を受け3億円と決定され,控訴人K寺は,平成7年1月9日に手付金とし
て1000万円を,同年10月24日に中間金として5000万円を支払った。同
売買契約の立会人であったP弁護士は,所有名義がFらとなっていた本件1土地を
控訴人K寺が円満に取得できるのかとのJの疑念に対し,同土地の所有者との関係
で調査が済んでいると説明しこれを払拭した。
      本件2土地は,平成7年10月30日受付で,同月24日売買を原因
として,平成7年売買契約につき控訴人K寺の支払代金を負担したLのために所有
権移転登記がなされ,同日受付で,控訴人I寺のために所有権移転請求権仮登記が
なされた。
    ウ 控訴人K寺は,平成7年売買契約締結のころには,墓苑造成予定地の
総面積が1万平方メートルを超えると大型開発として造成のための規制が厳しくな
ること,本件各土地及びe番土地,j番土地の形状から工事費用の割に造成後墓苑
としての有効面積が確保できないことから,本件各土地をb墓苑開設のための造成
予定地から外した。
      控訴人K寺は,平成7年3月には,b墓苑の造成予定地の権利者全員
から造成工事施工の同意書を取得し,また,b墓苑設置のための道路施設土地を確
保するため,m番土地の所有者であるQのほか,e番土地の北側にあるr番s土地
の所有者及びr番t土地の所有者との間で覚え書を締結した。
    エ 被控訴人の長男Oは,知人から控訴人K寺の墓苑開発の資金融資の相
談に乗ってもらいたいとの依頼を受けて,平成9年春ころ広島市内の全日空ホテル
で,大手建設会社の社員を伴って,その会社が墓苑開発事業に参加するかを決める
ための説明を受けさせる目的で,Jと会った。Jは,造成予定地を表示した図面等
を示して墓苑造成計画を説明した。このときOから,予定地付近に母(被控訴人)
の所有地がある旨の発言はあったが,それ以上のやりとりはなかった。
    オ その後である平成9年7月4日,控訴人K寺,L及びJと控訴人H及
び同I寺とは,平成7年売買契約の履行につき,地元対策に関する経費その他の問
題で,同売買契約の残代金につき生じた争いを解決するため,本件和解を成立さ
せ,売買代金を2億9200万円に減額する旨を合意した。
      控訴人K寺は,本件和解条項の履行として平成9年8月8日7458
万5123円を支払い,本件2土地につき,平成10年8月10日受付でLから所
有権移転登記を受けた。
    カ 前記第2の1(5)の経過によりb墓苑が完成した。
     なお,エに関し,原審及び当審証人Oの証言中には,Oが,Jと会った
際,同人から示された図面を見て,墓苑開発予定地の隣に本件各土地が存在するの
を発見して,同人に対し,本件各土地が被控訴人の所有であると指摘したところ,
同人が「今回は本件各土地を開発する予定はない。」旨を答えたので,「隣を開発
するんであれば,うちの同意がいるのではないか。」と言ったが同人は何も答えな
かった旨の供述があるが,(あ)Oの当審での証言は,Jとの会合の際にJからどの
ように墓苑開発予定地の説明を受けたかにつき,極めてあいまいであり,Jとの具
体的な会話内容が明らかではないこと,(い)Oの当審での証言によれば,Oは,本
件各土地の地番を認識しておらず,本件各土地の北側にQの土地があることや東側
にMの土地があることも知らなかったことが認められ,本件各土地及び周辺土地の
権利関係や位置関係につき詳しい認識はなかったことが認められるところ,同証言
によれば,OがJから示された図面には地番のみが表示され,墓苑の造成計画区域
等は表示されておらず,同区域についてはJが同図面上を指でなぞったというので
あるから,Jの所作を加えても,示された図面から墓苑の造成区域内
に本件各土地が含まれている,あるいは同区域が本件各土地と隣接していると認識
したというのは不自然であること,(う)Jが,この会合の際に,Oから本件各土地
が被控訴人の所有であることを指摘されたのなら,前記のとおり,本件各土地はb
墓苑の設置予定地から外されており,しかも,本件各土地とb墓苑の設置予定地の
うちの本件各土地側の土地(e番土地)との間には里道が存在することから墓苑開
発に当たり本件各土地の所有者の同意は不要であり,また,控訴人K寺が,平成7
年売買契約に基づき本件和解が成立するまでに控訴人I寺に支払った売買代金は6
000万円にすぎなかったのであるから,控訴人K寺は,Oの指摘を受けた後に成
立した本件和解に際し,本件各土地を売買対象土地から外すことは十分に可能であ
ったにもかかわらず,本件和解において本件各土地が売買対象土地から外されてい
ないこと,これらに照らして信用できない。
  (2) (1)で認定した事実に基づき,控訴人らが背信的悪意者に該当すると認め
られるか否かにつき検討する。
   ① 控訴人H及び同I寺について
     被控訴人は,控訴人Hが被控訴人が本件各土地を所有し果樹園として占
有していることを現認しながら墓苑造成により多額の利益を得るため,敢えて被控
訴人の所有権を無視して,本件各土地につきFらとの間で平成2年売買契約を締結
した旨主張する。
    ア 前記(1)①ア,②アないしウの事実によれば,控訴人Hが現地調査を始
めた昭和58,59年ころから平成2年ころまでの間,本件1土地は既に耕作され
ておらず広葉樹が生えている状態であったが,本件2土地にはイチジクの木や野菜
が植えられ本件小屋も存在したことから同土地に耕作者が存在することは認識でき
たこと,控訴人Hは本件各土地付近の公図と登記簿を調査しており,本件各土地の
東側にMがAから取得して耕作している土地が存在することは知り得たことが窺
え,さらに,Fらが本件各土地の所在や所有関係につき確たる認識を有していたと
は認められないところ,原審証人Mの証言によれば,Mは,BがAから本件各土地
を購入した事実を知っていたことが認められるのであるから,控訴人Hが平成2年
売買契約を締結する前にMに本件各土地の耕作者,所有者を尋ねたなら,本件各土
地がBに売却された土地であること,あるいはその蓋然性の高い土地であることを
認識することは可能であったことが認められるから,控訴人Hには,本件各土地が
被控訴人の所有であると認識しなかったことにつき重大な過失があるというべきで
ある。
    イ しかし,(あ)控訴人HがMの所有地(k番l土地)を墓苑開発予定地
としこれを買収する計画があったと認めるに足りる証拠はないことからすると,M
に周辺の耕作者,所有者を確認しなかったからといって,直ちに,控訴人Hが敢え
て被控訴人と接触しようとしなかったとまではいえないこと,(い)前記(1)②アない
しウによれば,控訴人HがFらから購入した土地の内のc番土地はAの所有土地で
あることが認められることからすると,平成2年売買契約を締結するにつき控訴人
HやFらが本件各土地付近にAの所有土地が現存しない(Aがその所有土地のすべ
てを売却済みである。)ことを確定的に認識していたとはいえないこと,(う)前
記(1)②ウで認定したとおり,平成2年売買契約の売買代金の坪単価は,控訴人Hが
墓苑造成のために取得しようとしていた隣接地と同額と決定されており,控訴人H
が本件各土地をことさら廉価に購入しようとしたとはいえず(控訴人H又はLがb
墓苑の敷地となった土地を本件各土地より高額の坪単価で取得したと認めるに足り
る証拠はない。),控訴人HはFらに対し同売買代金を現実に支払っていること,
これらからすると,控訴人Hが,本件各土地を廉価で取得するために
,被控訴人の所有権を無視し,その利益を害してはばからない意図のもとに,平成
2年売買契約を結んだとはいえない。
      なお,被控訴人は,控訴人Hあるいは同I寺は本件各土地を控訴人K
寺に売却することにより多額の利益を得た旨主張し,前記(1)③イで認定したとお
り,控訴人I寺は本件各土地を含む7筆の土地を坪単価約12万8090円(≒3
億円÷7728.91×3.3)で売却したことが認められるが,これは,本件各
土地が墓苑となることによって多額の開発利益が生じるからであり,控訴人Hが本
件各土地を同時期に取得した他の土地と比較して廉価に取得したと認められない以
上,控訴人Hあるいは同I寺の背信性を根拠づけるものではない。
      さらに,背信的悪意を認定するにつき売買契約締結後所有権移転登記
までの事情を考慮することができるとしても,前記(1)①イ,ウで認定したとおり,
平成2年売買契約の後,控訴人Hに本件1土地の所有権移転登記がされた平成10
年12月1日までの間に本件1土地の占有状況に変化はなかったこと,この間に,
控訴人Hに新たに本件1土地が被控訴人の所有であることを認識させるような出来
事があったと認めるに足りる証拠はないし,また,前記(1)イ,ウで認定したとお
り,控訴人I寺が本件2土地につき所有権移転請求権仮登記を受けた平成7年10
月30日までの間に本件2土地の占有状況に基本的な変化はなく,この間に新たに
控訴人I寺に本件2土地が被控訴人の所有であることを認識させるような事情が生
じたと認めるに足りる証拠もない。
    ウ したがって,控訴人H及び同I寺に,被控訴人の登記の欠缺を主張す
ることが信義に反するものというべき事情があったとは認められないから,控訴人
H及び同I寺が背信的悪意者であるとはいえない。
   ② 控訴人K寺について
     被控訴人は,控訴人K寺が被控訴人が本件各土地を所有し果樹園として
占有していることを現認しながら墓苑造成により多額の利益を得るため,敢えて被
控訴人の所有権を無視して,本件各土地につき控訴人I寺との間で平成7年売買契
約を締結し,平成9年には本件和解を成立させた旨主張する。
    ア 前記(1)①イ,ウ,③アのとおり,Jが現地調査を始めた平成6年9月
ころ,本件2土地の下側部分(北側部分)には野菜等が植えられており,隣接土地
と区別することは可能であったことからすると,Jは,本件2土地に耕作者が存在
することを認識し得た可能性があり,また,前記(1)③ウの事実によれば,平成7年
売買契約の締結の際には,本件1土地の登記名義はFらにあることは認識してお
り,本件2土地も本件1土地と同時期に売買されたことを知り得たのであるから,
控訴人Hの場合と同様にMに確認する等の手段を取れば,控訴人K寺が本件2土地
がBに売却された土地であること,あるいはその蓋然性の高い土地であることを認
識することは可能であったことが認められるから,控訴人K寺には,本件2土地が
被控訴人の所有であると認識しなかったことにつき過失があるというべきである。
    イ しかし,Jが,平成7年売買契約の締結より前に,本件各土地の隣地
所有者らから本件2土地が被控訴人の所有であると知らされていたと認めるに足り
る証拠はないし,前記(1)③イのとおり,控訴人K寺は控訴人I寺から本件各土地を
含む7筆の土地を3億円で買い受け,平成7年10月24日までに6000万円を
支払っていることからすると,控訴人K寺が,墓苑造成により多額な利益を得るた
め,被控訴人の所有権を無視し,その利益を害してはばからない意図のもとに,平
成7年売買契約を結んだとはいえない。
      さらに,前記(1)③エのとおり,本件和解の成立あるいは平成10年8
月10日に控訴人K寺が本件2土地の所有権移転登記を受けるまでの間において
も,OがJに対し本件各土地が被控訴人の所有であると指摘したとは認められない
し,他に新たにJに本件2土地につき被控訴人が所有権を有していることを認識さ
せる事情を認めるに足りる証拠もない。
    ウ したがって,控訴人K寺に,被控訴人の登記の欠缺を主張することが
信義に反するものと認められる事情があったとは認められないから,控訴人K寺も
また背信的悪意者であるとはいえない。
第5 結論
   以上によれば,被控訴人の請求は理由がないから棄却すべきであり,これと
異なる原判決は不相当であるから取り消し,被控訴人の請求をいずれも棄却するこ
ととし,訴訟費用の負担につき民訴法67条2項,61条を適用して,主文のとお
り判決する。
     広島高等裁判所第3部
        裁判長裁判官 下 司 正 明
           裁判官 野々上 友 之
           裁判官 檜 皮 高 弘

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