弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成16年(行ケ)第29号審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成16年12月9日
判決
原       告   ザ,プロクター,エンド,ギャンブル,
カンパニー
同訴訟代理人弁護士吉 武 賢 次
同宮 嶋   学
同訴訟代理人弁理士永 井 浩 之
同勝 沼 宏 仁
同岡 田 淳 平
同名 塚   聡
同森   秀 行
被       告   特許庁長官小川 洋
同指定代理人   松 縄 正 登
同鈴 木 公 子
同一 色 由美子
同涌 井 幸 一
同宮 下 正 之
主文
     1 特許庁が不服2002-9856号事件について平成15年9月1
2日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
 主文第1項と同旨
第2 争いのない事実等
1 特許庁における手続の経緯
 原告は,特許庁に対し,平成6年11月14日(優先権主張1993年11
月16日及び同年12月8日・米国)を国際出願日とし,発明の名称を「良好な結
合性を備えた混合多層吸収構造体を有する吸収物品」とする特許出願(平成7年特
許願第514480号。以下「本願」という。)を行ったところ,特許庁は,平成
14年2月22日に拒絶査定をした。
 そこで,原告は,同年6月3日,拒絶査定不服審判の請求をした(不服20
02-9856号)ところ,特許庁は,平成15年9月12日,「本件審判の請求
は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)を行い,その謄本
は,同月24日,原告に送達された。
2 特許請求の範囲(甲2,3)
 平成14年1月16日付け手続補正書により補正された後の本願に係る明細
書(甲2,3。以下「本願明細書」という。)の「特許請求の範囲」の請求項1の
記載は,次のとおりである(以下,この発明を「本願発明」という。)。
「長さ方向に延びる長さ方向中心線と横断方向に延びる横断方向中心線とを有
する吸収物品であって,
 液体透過性のトップシートと,
 前記トップシートに接合された液体不透過性のバックシートと,
 前記トップシートと前記バックシートの間に配置された吸収コアであって,
身体に面する面と下着に面する面とを有し,吸収ゲル化材料と繊維の混合物を有
し,前記繊維はセルロース繊維と液体不感受性のクリンプされた合成繊維の混合物
を有している,吸収コアと,
 前記トップシートと前記吸収コアの間に配置された捕捉層であって,身体に
面する面と下着に面する面とを有し,その中に分配された液体不感受性のクリンプ
された合成繊維を有する,捕捉層と,
 前記捕捉層と前記吸収コアの間に配置された中間層であって,二つの面を有
し,前記中間層の一つの面は前記捕捉層の下着に面する面に接着され,前記中間層
の他の面は前記吸収コアの身体に面する面に接着され,前記中間層と前記捕捉層お
よび前記中間層と前記吸収コアの接着は10グラム/インチ(g/in)以上の湿
潤剥離強度を有する接着剤によって形成されている,中間層と,を有し,
 前記捕捉層の身体に面する面は前記トップシートに接着され,前記吸収コア
の下着に面する面は前記バックシートに接着されている,ことを特徴とする吸収物
品。」
3 本件審決の理由の要旨(甲1)
 本件審決は,次のとおり,本願発明は,特開平2―168949号公報(甲
4。以下「引用例」といい,これに記載された発明を「引用発明」という。)及び
周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるか
ら,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。
(1) 本願発明と引用発明の対比
(一致点)
1)長さ方向に延びる長さ方向中心線と横断方向に延びる横断方向中心線と
を有する吸収物品であって,
2)液体透過性のトップシートと,前記トップシートに接合された液体不透
過性のバックシートと,
3)前記トップシートと前記バックシートの間に配置された吸収コアであっ
て,身体に面する面と下着に面する面とを有し,吸収ゲル化材料と繊維の混合物を
有し,前記繊維はセルロース繊維と液体不感受性の合成繊維の混合物を有してい
る,吸収コアと,
4)前記トップシートと前記吸収コアとの間に配置された捕捉層であって,
身体に面する面と下着に面する面とを有し,その中に分配された液体不感受性の合
成繊維を有する,捕捉層と,
5)前記捕捉層の身体に面する面は前記トップシートに接着され,前記吸収
コアの下着に面する面は前記バックシートに接着されている,ことを特徴とする吸
収物品。
(相違点ア)
 本願発明においては,吸収コアと捕捉層とが液体不感受性のクリンプされ
た合成繊維を有するのに対し,引用発明においては,液体不感受性の合成繊維がク
リンプされたものでない点
(相違点イ)
 本願発明においては,捕捉層と吸収コアの間に配置された中間層であっ
て,二つの面を有し,前記中間層の一つの面は前記捕捉層の下着に面する面に接着
され,前記中間層の他の面は前記吸収コアの身体に面する面に接着され,前記中間
層と前記捕捉層および前記中間層と前記吸収コアの接着は10グラム/インチ(g
/in)以上の湿潤剥離強度を有する接着剤によって形成されている,のに対し,
引用発明においては,捕捉層と吸収コアの間に配置された中間層に相当する層がな
く,したがって,前記中間層と前記捕捉層および前記中間層と前記吸収コアの接着
が10グラム/インチ(g/in)以上の湿潤剥離強度を有するものであることが
記載されていない点
(2) 相違点の検討
(相違点アについて)
 一般に,多層吸収構造体を有する吸収物品の分野において,吸収コアと捕
捉層に液体不感受性のクリンプされた合成繊維を用いることは,本願出願前周知の
技術手段にすぎないものであって格別のものではない(必要ならば,特開平5-2
28175号公報(甲5)の第9欄段落【0013】下から2行-末行の記載,特
開昭64-64654号公報(甲6)の第6頁右下欄末行-第7頁左上欄第3行の
記載を参照)。
 してみれば,この点は,引用発明に周知の技術手段を単に付加したにすぎ
ない。
(相違点イについて)
 吸収物品において,「中間層」を一層,あるいは複数層形成することは,
本願出願前周知の技術的事項であって格別なものではない(必要ならば,上記特開
平5-228175号公報(甲5)の第10欄段落【0015】-第11欄段落
【0016】の記載を参照)。
 そして,接着剤の湿潤剥離強度が10グラム/インチ(g/in)以上で
あることは,例えば,特公昭62-31755号公報(甲7)(表2),特公昭6
3-14769号公報(甲8)(図6)に,それぞれ湿潤剥離強度がほぼ400グ
ラム/インチ以上,100グラム/インチ以上であるものが示されているように,
本願出願前周知の事項として広く知られていることである。
 そうすると,本願発明のように,接着剤の湿潤剥離強度10グラム/イン
チ(g/in)以上とすることは,接着剤の周知の湿潤剥離強度の範囲内の数値を
単に抽出したにすぎないものであって,その数値限定自体に格別な意味があるもの
とはいえない。
 してみれば,本願発明のように捕捉層と吸収コアの間に中間層を配置する
とともに,前記中間層と前記捕捉層および前記中間層と前記吸収コアの接着剤の湿
潤剥離強度を10グラム/インチ(g/in)以上とした点は,引用発明に周知の
技術手段を単に付加した程度にすぎないものであって,格別の困難性があるものと
はいえない。
(3) むすび
 したがって,本願発明は,引用例及び周知の技術手段に基いて当業者が容
易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許
を受けることができない。
 それゆえ,本願は,他の請求項に係る発明について判断するまでもなく,
拒絶されるべきものである。
第3 原告主張に係る本件審決の取消事由の要点
 本件審決は,本願発明と引用発明との各相違点についての判断を誤った結
果,本願発明についての進歩性の判断を誤り(取消事由1,2),また,手続違背
の瑕疵を有する(取消事由3)ものであり,これらの違法が審決の結論に影響を及
ぼすことは明らかであるから,取り消されるべきである。なお,本願発明と引用発
明との一致点及び相違点の認定は認める。
1 取消事由1(相違点アの判断の誤り)
 本件審決は,「多層吸収構造体を有する吸収物品の分野において,吸収コア
と捕捉層に液体不感受性のクリンプされた合成繊維を用いることは,本願出願前周
知の技術手段にすぎない(甲5,甲6参照)から,この点は,引用発明に周知の技
術手段を単に付加したにすぎない。」旨判断したが,誤りである。
(1) 本願発明は,捕捉層が,トップシート及び中間層に接着され,同様に,吸
収コアが,中間層とバックシートに接着されるものである。
 その結果,吸収コアと捕捉層の表面に存在する捲縮された合成繊維が,ト
ップシート,バックシート,中間層等の液体に対して安定的な構成要素(液体安定
構成要素)に接着されると,混合多層吸収構造体の層間の結合性に寄与することと
なり,捲縮された合成繊維が,液体安定構成要素と液体安定結合を形成し(湿潤時
の一体性の保持),混合多層吸収構造体としての液体安定性(内層の結合性)を高
くする(崩壊を防止する)ことができる(本願明細書(甲2)8頁25行~9頁1
行)。それだけでなく,捲縮された合成繊維が,吸収コアと捕捉層のそれぞれの内
部で互いに絡み合い,圧縮に対しても引っ張りに対しても弾性的な抵抗を有するこ
ととなって,湿潤時に,吸収材料が崩壊あるいは固まってしまうことを防止でき
る。
 なお,本願発明に係る請求項1には,吸収コアと捕捉層がそれぞれ捲縮さ
れた合成繊維を有していることが記載されており,吸収コアと捕捉層が,中間層,
トップシート,バックシート等の液体安定構成要素に接着されることも記載されて
いるから,それらの表面に露出している捲縮された合成繊維の一部が,液体安定構
成要素に接着されることとなるのは,自明である。
(2) これに対して,甲5,甲6には,吸収構造体に,捲縮された合成繊維を使
用することが記載されているが,甲5,甲6記載の発明は中間層を有していないか
ら,捲縮された合成繊維を中間層に接着させることについては,直接的な記載はお
ろか,間接的な示唆すらない。
 そもそも,甲5,甲6記載の発明は,液体湿潤時の吸収構造体の層間の剥
離や崩壊や変形を防止するという課題を認識しないものであって,そこにおける捲
縮された合成繊維は,単に吸収コア等の弾力性を維持するために加入されているに
すぎない。
2 取消事由2(相違点イの判断の誤り)
(1) 中間層について
 本件審決は,「吸収物品において,中間層を一層あるいは複数層形成する
ことは,本願出願前周知の技術的事項であって格別なものではない(甲5参照)か
ら,本願発明のように捕捉層と吸収コアの間に中間層を配置した点は,引用発明に
周知の技術手段を単に付加した程度にすぎない。」旨判断したが,誤りである。
ア 本願発明の中間層は,それ自体が液体安定構成要素であって,隣接する
捕捉層及び吸収コアを支持する程度の強度を有するものである。また,捕捉層や吸
収コアのクリンプされた合成繊維が液体安定結合(接着)を形成するための構造体
でもある。すなわち,本願発明の中間層は,構造体であり,単なる接着剤の層と
も,また,液体の吸収や移送を目的とした多層吸収構造体の層とも異なるものであ
る(本願明細書(甲2)8頁20~22行,18頁16~19行)。
 具体的には,本願明細書(甲2)には,「液体安定構成要素は,トップ
シートと,バックシートと,捕捉層と吸収コアとの間に位置決めされた,中間の液
体透過性の液体安定層とを備えている」(8頁20~22行),「(2)中間の液
体安定層 任意的な中間の液体安定層34が好適には,捕捉層30と貯蔵コア32
との間に配置されている。」(18頁14~16行)と記載されており,本願図面
の第3図も併せると,本願発明の中間層が液体安定構成要素であることは明らかで
ある。
 また,「クリンプされた合成繊維は,改良された内層の結合性を提供す
る。これは,捕捉層及び吸収コア内のクリンプされた合成繊維の相互かみ合い,お
よび吸収物品の液体安定構成要素との液体安定結合を形成するための,これらの層
の表面へのクリンプされた合成繊維の有効性による。かくして,吸収構造体は,隣
接する液体安定構成要素との液体安定結合によって結合されている液体安定繊維の
かみ合うマトリックスから成る複数の層を提供する。」(8頁25行~9頁3行)
と記載されているから,液体安定構成要素(中間層も液体安定構成要素の一つであ
る。)が,湿潤時の多層吸収構造の崩壊を防止することも明らかである。
イ 一方,引用例及び甲5のいずれにも,上記のような「中間層」を有する
ことについては記載されていない。甲5には,付随的コアを適宜複数層設けること
が記載されるのみである。
ウ なお,特許請求の範囲に明確に把握できるように記載された事項は,特
許請求の範囲の記載に基づいて解釈されなければならないというべきであるから,
本願明細書に中間層を省略した実施例の記載があるからといって,「中間層が液体
安定構成要素として必ずしも必要ではない」ということはできない。
 また,乙1の「第2の層4」は,吸収体であり,乙2の「中間不織布
5」は,単に綿状パルプ4とポリマー層6の間に配置された不織布にすぎないか
ら,これらは,本願発明の「中間層」(隣接する捕捉層および吸収コアの支持基体
として,また,捕捉層と吸収コアのクリンプされた合成繊維を結合させる構造体と
して機能するもの)に相当しない。
(2) 剥離強度について
 本件審決は,「接着剤の湿潤剥離強度が10グラム/インチ(g/in)
以上であることは,例えば,甲7,甲8に示されているように,本願出願前周知の
事項であり,本願発明のように,中間層と捕捉層および中間層と吸収コアの接着剤
の湿潤剥離強度を10グラム/インチ(g/in)以上とすることは,接着剤の周
知の湿潤剥離強度の範囲内の数値を単に抽出したにすぎないものであって,その数
値限定自体に格別な意味があるものとはいえず,引用発明に周知の技術手段を単に
付加した程度にすぎない。」旨判断したが,誤りである。
 すなわち,本願発明における湿潤剥離強度は,混合多層吸収構造体特有の
湿潤剥離強度であり,10グラム/インチ(g/in)という湿潤剥離強度は,湿
潤時に多層吸収構造体の崩壊を防止することに適した数値として得られたものであ
る(本願明細書(甲2)20頁5~26行)。一方,甲7及び甲8は,一般的な接
着剤の剥離強度を示すにすぎない。したがって,本願発明における湿潤剥離強度
は,接着剤の周知の湿潤剥離強度の範囲内の数値を単に抽出したものとはいえな
い。
3 取消事由3(手続違背)
 本件審決は,甲5に,付随的コアを適宜複数層設けることが記載されている
(段落【0015】,【0016】)ことを根拠に,「中間層を一層あるいは複数
層形成することは出願前周知の技術的事項であるから,捕捉層と吸収コアの間に中
間層を配置することは,引用発明に周知の技術手段を単に付加した程度にすぎな
い。」旨判断している。
 しかしながら,本願発明の「中間層」を甲5記載の「付随的コア」と同一視
する判断は,拒絶理由通知(甲9)や拒絶査定(甲10)には示されておらず,本
件審決で初めて示されたものであり,この判断に対して,原告が意見を述べる機会
も補正をする機会も与えられていない。
 この手続は,特許法50条(拒絶理由の通知)を準用する同法159条2項
の規定に反しており,本件審決は,瑕疵ある手続の下でなされたもので違法であ
る。
第4 被告の反論の要点
 本件審決の判断に誤りはなく,原告の主張する本件審決の取消事由には理由が
ない。
1 取消事由1(相違点アの判断の誤り)について
 本願発明に係る請求項1には,「前記捕捉層と前記吸収コアの間に配置され
た中間層であって,二つの面を有し,前記中間層の一つの面は前記捕捉層の下着に
面する面に接着され,前記中間層の他の面は前記吸収コアの身体に面する面に接着
され,…前記捕捉層の身体に面する面は前記トップシートに接着され,前記吸収コ
アの下着に面する面は前記バックシートに接着されている」と記載されているが,
原告が主張するような「吸収コアや捕捉層の表面に存在する捲縮された合成繊維
が,トップシート等の液体安定構成要素に接着される」点については,記載も示唆
もないから,原告の主張は,請求項の記載に基づかないものである。
 そして,一般に,多層吸収構造体を有する吸収物品の分野において,吸収コ
アと捕捉層に液体不感受性のクリンプされた合成繊維を用いることは,本件審決が
述べるとおり,本願出願前周知の技術手段にすぎず格別のものではない。
2 取消事由2(相違点イの判断の誤り)について
(1) 中間層について
ア 本願発明に係る請求項1には,中間層が液体安定構成要素であることは
記載されていないし,中間層の材質,性質等の限定も何らなされていない。
 また,本願明細書(甲2)には,「液体安定層34は又,おむつの可撓
性が液体安定層34の存在によって実質的に影響を受けないように,可撓性である
のが好ましい。」(18頁24~26行)と記載されているが,中間層が液体に対
して安定的な構成要素(液体安定構成要素)であること,及び湿潤時に多層吸収構
造の崩壊を防止するという目的を有する旨の記載はない。
 さらに,本願明細書(甲2)には,「更に別の実施例では,液体安定層
34は除去され,この場合には,捕捉層30及び貯蔵コア32の合成繊維が互いに
直接結合されている。」(21頁18~19行)と記載されており,この記載から
して,「中間層」は液体安定構成要素として必ずしも必要なものではない。
 したがって,「中間層が液体安定構成要素である」との原告の主張は,
本願明細書の記載に基づかないものであり,失当である。
イ 引用例に,「乾燥側部圧縮試験において,実施例1の生理用ナプキン
が,比較的容易に初期的に変形し,そして,このため,着用者の動作と肌着に快適
である傾向があることを示す。しかし,湿潤時,初期変形を生成するために必要と
された力は,増大し,こうして実施例1の製品が,湿潤時,崩壊に耐える傾向があ
り,こうして弾力性と構造的完全性を保つことを示す。」(12頁左下欄1~8
行)と記載されているとおり,「液体湿潤時の吸収構造体の層間の剥離や変形を防
止したいという認識」は,本願出願前において,すでに周知の事項であったといえ
る。
 そして,一般に,吸収物品において,多層構造の吸収体を形成するに際
し,各構造体として,付随的コアを用い,該付随的コアを重ねあわせて,互いに接
着すること,すなわち,中間層を用いることや,捕捉層,中間層及び吸収コアを互
いに接着することは,本願出願前周知の事項である(甲5,特開平3-17356
2号公報(乙1),特開昭63-256701号公報(乙2))。
(なお,乙1において,「表面シート22」,「裏面シート21」,「親
水性の低密度繊維層7」,「第2の層4」,「第1の層(繊維ウエブ)5」は,そ
れぞれ本願発明の「トップシート」,「バックシート」,「捕捉層」,「中間
層」,「吸収コア」に相当する。また,乙2において,「表面不織布1」,「防水
用ポリエチレンシート8」,「第3綿状パルプ2と第2ポリマー3と第2綿状パル
プ4の3層からなる積層体」,「中間不織布5」,「第1ポリマー層6と第1綿状
パルプ7の2層からなる積層体」は,それぞれ本願発明の「トップシート」,「バ
ックシート」,「捕捉層」,「中間層」,「吸収コア」に相当する。)
 また,捕捉層がトップシートに接着され,同様に吸収コアがバックシー
トに接着され,これにより捕捉層および吸収コアに含まれるクリンプされた合成繊
維がトップシートやバックシート,すなわち液体に対して安定的な構成要素(液体
安定構成要素)に接着されている点は,引用例に記載されている(8頁右下欄14
行~9頁左上欄9行)。
 いいかえれば,トップシートとバックシートに本願発明の捕捉層と吸水
性コアをそれぞれ接着するのは,捕捉層と吸水性コアをそれぞれトップシートとバ
ックシートに固定するためであり,吸収性物品の使用中に,捕捉層あるいは吸水性
コアの間でずれが生じたら,トップシートとバックシートの間で捕捉層と吸収コア
を固定する意味がなくなってしまうのである。引用発明においても,転移層と蓄積
層との間は接着されていることからして,これに中間層を加えた3層となっても,
そのどこかの境界で剥離,ずれが生じては吸収性物品としては,意味がないのであ
るから,この層間を接着するのは当然のことである。
 そうであるから,中間層を用い,その全体を接着するという周知の技術
手段を引用発明の吸収物品に採用することに格別困難はなく,その場合の液体湿潤
時の吸収構造体の層間の剥離や変形の防止等の作用効果も,自明にすぎないから,
当業者が予測可能の程度のものであると認められる。
 したがって,捕捉層と吸収コアの間に中間層を配置した点は,引用発明
に周知の技術手段を単に付加した程度にすぎないとの本件審決の判断に誤りはな
い。
(2) 剥離強度について
 本願発明は,多層吸収構造体の全体としての湿潤剥離強度について触れて
いるのではなく,中間層と捕捉層および中間層と吸収コアの間をつなぐ接着剤その
ものの湿潤剥離強度について,限定しているのであるから,「10グラム/インチ
という湿潤剥離強度は湿潤時に多層吸収構造体の崩壊を防止することに適した数値
である」との原告の主張は失当である。
 そして,本願発明における湿潤剥離強度は10グラム/インチ以上であっ
て,その上限は何ら限定されていないものであるところ,接着剤単体として,10
グラム/インチ以上という湿潤剥離強度を有することが周知であることからして,
本願発明の接着剤の湿潤剥離強度は,周知の範囲内のものであって,本願発明の数
値限定に格別の意味があるとはいえない。
 そうであるから,従来周知の接着剤を本願発明の各層間の接着に適用する
ことは当業者であれば容易に想到できるものである。
 したがって,本願発明における湿潤剥離強度は,接着剤の周知の湿潤剥離
強度の範囲内の数値を単に抽出した程度のものにすぎないとの本件審決の判断に誤
りはない。
3 取消事由3(手続違背)について
 本願発明の「中間層」は,甲5記載の「付随的コア」と同一であって,本願
出願前周知の技術的事項であり,当業者が通常有する知識程度の技術手段であるこ
とを踏まえると,甲5を周知例として引用するにあたって,出願人に意見を述べる
機会や補正する機会を与えるまでもないことは明らかである。してみれば,本件審
決には,手続違背を構成するほどの瑕疵は存在しない。
第5 当裁判所の判断
 本願発明と引用発明との一致点及び相違点(ア,イ)が,本件審決認定のとお
りであることは,当事者間に争いがない。
 そこで,相違点アの判断の誤りの有無の点はさておき,まず相違点イの判断の
誤りの有無につき,検討する。
1 取消事由2(相違点イの判断の誤り)について
 原告は,本件審決の「吸収物品において,中間層を一層あるいは複数層形成
することは,本願出願前周知の技術的事項であって格別なものではない(甲5参
照)から,本願発明のように捕捉層と吸収コアの間に中間層を配置した点は,引用
発明に周知の技術手段を単に付加した程度にすぎない。」旨の判断は誤りである旨
主張し,その理由として,「本願発明の中間層は,それ自体が液体安定構成要素で
あって,隣接する捕捉層及び吸収コアを支持する程度の強度を有するものである。
また,捕捉層や吸収コアのクリンプされた合成繊維が液体安定結合(接着)を形成
するための構造体でもある。」点を挙げる。
(1) 本願発明における「中間層」
ア 本願発明に係る請求項1には,「中間層」に関し,「前記捕捉層と前記
吸収コアの間に配置された中間層であって,二つの面を有し,前記中間層の一つの
面は前記捕捉層の下着に面する面に接着され,前記中間層の他の面は前記吸収コア
の身体に面する面に接着され,前記中間層と前記捕捉層および前記中間層と前記吸
収コアの接着は10グラム/インチ(g/in)以上の湿潤剥離強度を有する接着
剤によって形成されている,中間層」と記載されている。
イ 上記請求項1の記載から明らかなとおり,請求項1には,「中間層」の
配設位置と結合手段は規定されているものの,「中間層」が,いかなる機能を果た
すものであるのか,また,いかなる内部構造,材質からなるものであるのか等につ
いては何ら規定されていない。
 しかしながら,「中間層」は,「捕捉層」と「吸収コア」との間に配置
され,特定の湿潤強度でもって,これらと接着されるものである。したがって,
「中間層」は,単にこれらの「中間に位置する層」であると解することはできず,
「捕捉層」や「吸収コア」とは異なる機能を有するものであり,また,湿潤時にお
いて,「捕捉層」,「吸収コア」と接着剥離のないことに基づいて機能を発揮する
層であると解すべきである。
 しかるに,請求項1の記載からは,上記機能について窺い知ることはで
きず,したがって,「中間層」の配設位置と結合手段の技術的意義を一義的に明確
に理解することができないというべきであるから,本願明細書の「発明の詳細な説
明」の記載を参酌することとする。
ウ 本願明細書の「発明の詳細な説明」のうち,「発明の概要」の項には,
次の記載がある。
「本発明は,良好な結合性と液体処理能力を備えた吸収物品を提供するよ
うに構成された異なる種類の繊維の混合体から成る吸収層を有する,おむつ,トレ
ーニングパンツ,衛生ナプキン,成人用失禁装置等のような吸収物品に関する。
 吸収物品は好適には,液体透過性のトップシートと,トップシートに接
合された液体不透過性のバックシートと,トップシートとバックシートとの間に配
置された多層吸収構造体とを備えている。多層吸収構造体は好適には,3つの主要
構成要素から成る。これらの主要構成要素は,捕捉層と,捕捉層の下に位置決めさ
れた貯蔵層(又は“吸収コア”)と,捕捉層と吸収コアとの間に位置決めされた,
任意の液体透過性の液体安定中間結合層とを備えている。捕捉層と吸収コアは,こ
れらの2つの構成要素の湿潤結合性を増大させ,かつ吸収物品の他の構成要素との
液体安定結合を形成する,クリンプされた合成繊維のような少なくとも僅かの水分
(即ち,液体)不感受性繊維を含んでいる。(ここで使用される語“液体”は,身
体排出物,合成尿,水を含む。語“液体安定結合”又は“湿潤安定結合”は,液体
の存在によって影響を受けない結合,即ち湿潤時に強度を保持し溶解しない結合を
意味する。)吸収コアは好適には,セルロース繊維,吸収ゲル化材料及びクリンプ
された合成繊維の混合物から成る。吸収コア及び捕捉層のクリンプされた繊維は,
液体安定構成要素(即ち,湿潤時に結合性を失わない構成要素,特に,高湿潤引っ
張り強度を有する構成要素)に結合される。液体安定構成要素は,トップシート
と,バックシートと,捕捉層と吸収コアとの間に位置決めされた,中間の液体透過
性の液体安定層とを備えている。」(8頁2~22行)
 また,同様に,「発明の詳細な説明」の項には,次の記載がある。
「(2)中間の液体安定層 任意的な中間の液体安定層34が好適には、
捕捉層30と貯蔵コア32との間に配置されている。液体安定層34は、2つの目
的を有している。液体安定層34は、隣接する捕捉層30および貯蔵コア32の支
持基体として役立つ。液体安定層34は、捕捉層30および貯蔵コア32の合成繊
維に液体安定結合が形成される構造体を提供する。…液体安定層34は、捕捉層3
0から貯蔵コア32への液体の移動を妨げてはならない。かくして、液体安定層3
4としては、極めて多孔質で親水性の材料が好ましい。液体安定層34は又、おむ
つの可撓性が液体安定層34の存在によって実質的に影響を受けないように、可撓
性であるのが好ましい。」
 上記記載において,各層の位置関係を考慮すれば,「液体透過性の液体
安定中間結合層」,「中間の液体透過性の液体安定層」ないし「中間の液体安定
層」が,本願発明の中間層と一致することは明らかであるから,上記記載によれ
ば,本願発明の中間層は,トップシート及びバックシートと共に液体安定構成要素
(湿潤時に結合性を失わない構成要素)を構成するものであって,隣接する捕捉層
及び吸収コアと接着されることにより液体安定結合(湿潤時に強度を保持し溶解し
ない結合)を形成し,湿潤時にも捕捉層及び吸収コアとの結合性(接着)を維持し
てこれらを支持する機能を果たすものであると認められる。
(2) 甲5記載の「付随的コア領域」
ア 一方,甲5の段落【0015】,【0016】には,次のような記載が
ある。
「【0015】再度添付図を参照すると,図2~4は図1のライン2-2
に沿って取ったコア成分4の幾つかの適当な変形の模式的な断面を表し,ここで受
攻領域の各々はそれぞれ(a),(a′)および(a′′)で示され,また各付随
的コア領域はそれぞれ(b)および(c),(b′)および(c′)並びに(b′
′)および(c′′)で示されている。必要ならば,付随的コア領域の数を有利に
は6以上,例えば10に増やすことができ,また付随的コア領域の数は1~6の範
囲内にあることが好ましい。大量生産,即ち工業的生産においては,1~3個の付
随的コア領域を有するコア成分が好ましく,1個の付随的コア領域を有するものが
一般的には最も製造が容易である。これらの領域は適当な半-同軸状の形状で(図
2),積層された水平の形状で(図3),および垂直/隣接状態で(図4)断面図
として示されている。該コア領域は一般的には矩形の六面体形状にあり,かつ相互
に隣接した平行な配列で配置されている。各場合において,ダッシュを付したまた
は付さない「a」で示された受攻領域から,ダッシュを付したまたは付さない
「b」および「c」で示された付随的なコア領域までの諸領域は段階的に減少する
平均の体積対表面積比,孔径および大きく減少する相対的な平均の液-固接触角を
もつことにより特徴ずけられる。前に述べた如く,これらの特徴は,例えば該繊維
混合物を,該合成繊維の平均のdpfを減ずるように変えることにより,また一種
以上の補充繊維,好ましくは低い平均体積および高い平均繊維表面積をもつ繊維,
例えばセルロースを主成分とする繊維の濃度を増大することにより該平均の液-固
接触角を変えることにより達成できる。」,
「【0016】図2において,(a)は好ましくは約25~100%の合
成熱可塑性繊維,好ましくは局所的にあるいはその他の疎水性を機能させかつ保持
するための処理を施した熱可塑性繊維を含む,中央に配置された受攻領域を表す。
上記したかかる繊維は,上記範囲内の比較的高いdpf値を有し,かつ約0~約7
5重量%,好ましくは0%~約50重量%のセルロースを主成分とする繊維および
上記のSAP粉末または粒状物質と組み合わせた紡糸かつ処理したポリオレフィン
樹脂,樹脂混合物またはそのコポリマー(即ち,PP/PE)であり得る。図2の
(b)および(c)(この順序で)で示した付随的コア領域は個々の均一な領域を
表し,該領域は段階的に小さくなる平均繊維体積および高い平均繊維表面積並びに
段階的に小さくなる平均孔径および該繊維混合物中の繊維濃度も変えられる場合に
は,領域(a)からの相対的な幾何学的距離の増加に伴って低くなる平均液-固接
触角を有する繊維状の吸収性材料を含む。領域(a),(b)および(c)は個別
に結合(または未結合)状態にあり得,あるいは公知の結合技術を利用して「完全
に」結合されていてもよい。図2に示した態様は,受攻領域からの流体の移動が横
および軸方向の両者で起こるような構造を示している。図3に示した態様は,軸方
向の流体移動を示す。図4に示した態様は横方向の流体移動を示している。」
 これらの記載によれば,甲5記載の「コア成分4」は,「受攻領域」
と,1個以上の「付随的コア領域」が積層されてなるもので,受攻領域から付随的
なコア領域までの諸領域は,段階的に減少する平均の体積対表面積比,孔径および
大きく減少する相対的な平均の液-固接触角をもつようにされており,「該構造体
の層を介して毛管勾配を形成し,該コア成分の流体受理部分,即ち該受攻領域か
ら,該コア成分の動径方向,横方向または軸方向に流体を運び去る」(段落【00
06】)ようにしたものと認められる。そして,「受攻領域」から「付随的コア領
域」へ向かって,流体が移動するのであるから,吸収物品において,「受攻領域」
が,「付随的コア領域」よりも身体側に位置することは明らかである。
イ また,甲5には,コア成分に関して,「一般に,かかる物品は,通常1
層以上の例えば木材パルプ,,レーヨン,ガーゼ,薄葉紙等,および幾つかの場合
においては超吸収性の粒状物質または粉末(SAP)の吸収性材料の層を含む有効
な流体-吸収性コア成分を有する。着衣並びに回りの領域を,コア成分中に保持さ
れた流体による湿潤並びに汚損から保護するために,かかる物品は,一般的に流体
-不透過性の裏地成分により裏打ちされている。該物品は,また通常不織り型の生
地またはカバーストック(coverstock)材料を有し,該材料は少なくと
も該流体吸収性物品の身体接触表面を画成している。場合により設けられる中間的
捕捉層と共に,該不織りカバーストック材料に対しては,流体の流れの制御および
その着用者の既に該コア内に保持されている湿気との継続的な接触からの隔絶が期
待されている。該身体に対向する材料またはカバーストックはその身体接触側で流
体透過性であって,各流体攻撃の該流体吸収性のコア成分への迅速な移動を促進
し,一方でそれ自体は柔軟で,乾燥したかつ水性流体に対し本質的に非吸収性を維
持するものでなければならない。」(段落【0002】)との記載もあるから,こ
の記載によれば,一般に,コア成分は,身体に対向する流体透過性のカバーストッ
ク材料,または,カバーストック材料と共に設けられる中間的捕捉層と,流体-不
透過性の裏地成分との間に設けられるものと認められる。
ウ 上記ア,イで認定したところによると,甲5の「付随的コア領域」は,
「受攻領域」と流体-不透過性の裏地成分との中間(「付随的コア領域」が一層の
場合),または「受攻領域」と他の「付随的コア領域」との中間(「付随的コア領
域」を複数層形成する場合)に位置するものではあるが,実質的な液体保持層を形
成しており,コア成分そのものであるということができる。
エ しかも,甲5には,「領域(a),(b)および(c)は個別に結合
(または未結合)状態にあり得,あるいは公知の結合技術を利用して「完全に」結
合されていてもよい。」(段落【0016】),「全体としての詰綿は音波,熱,
レーザーまたは同様な公知の結合技術(図示せず)を利用して場合により一緒に結
合される。」(段落【0019】)と記載されているものの,結合手段として「接
着」が明示されているわけではない。
(3) 対比
 上記(1),(2)のとおり,本願発明の「中間層」は,トップシート及びバッ
クシートと共に液体安定構成要素(湿潤時に結合性を失わない構成要素)を構成す
るものであって,隣接する捕捉層及び吸収コアと接着されることにより液体安定結
合(湿潤時に強度を保持し溶解しない結合)を形成し,湿潤時にも捕捉層及び吸収
コアとの結合性(接着)を維持してこれらを支持する機能を果たすものである。一
方,甲5における「付随的コア領域」は,「コア成分」(本願発明における「吸収
コア」に相当する。)を構成するものにすぎず,上記のような機能を果たすもので
はない。したがって,本願発明の「中間層」と,甲5の「付随的コア領域」とは,
同一ではなく,異なるものというべきである。
 しかるに,本件審決は,甲5の「付随的コア」は,本願発明の「中間層」
と同一であるとの前提のもとで,「吸収物品において,中間層を一層,あるいは複
数層形成することは本願出願前周知の技術的事項であって格別なものではない」と
説示し,相違点イについての容易想到性を肯定したものであるから,本件審決の相
違点イについての判断は,その前提を欠き,誤りであるというべきである。
(4) 被告の主張について
 これに対し,被告は,「一般に,吸収物品において,多層構造の吸収体を
形成するに際し,各構造体として,付随的コアを用い,該付随的コアを重ねあわせ
て,互いに接着すること,すなわち,中間層を用いることや,捕捉層,中間層及び
吸収コアを互いに接着することは,本願出願前周知の事項である(甲5,乙1,乙
2参照)。なお,乙1の「親水性の低密度繊維層7」,「第2の層4」,「第1の
層(繊維ウエブ)5」はそれぞれ,本願発明の「捕捉層」,「中間層」,「吸収コ
ア」に相当し,乙2の「第3綿状パルプ2と第2ポリマー3と第2綿状パルプ4の
3層からなる積層体」,「中間不織布5」,「第1ポリマー層6と第1綿状パルプ
7の2層からなる積層体」はそれぞれ,本願発明の「捕捉層」,「中間層」,「吸
収コア」に相当する。」旨主張する。
ア 被告の上記主張の趣旨は,必ずしも明らかではないが,「各構造体とし
て,付随的コアを用い,該付随的コアを重ねあわせて,互いに接着すること」は,
「中間層を用いることや,捕捉層,中間層,吸収コアを互いに接着すること」に他
ならないとしていることから,本願発明における中間層はその材質,性質等が何ら
限定されていないことを前提に,多層構造の吸収体において,層を形成する各構造
体が,付随的コアであり,付随的コア同士を重ね合わせて,互いに接着して,捕捉
層,中間層,吸収コアを形成することが周知事項であると主張するものと解され
る。
イ しかしながら,前記(1)のとおり,本願発明における中間層は,捕捉層,
吸収コアとは異なり,トップシート及びバックシートと共に液体安定構成要素(湿
潤時に結合性を失わない構成要素)を構成するものであって,隣接する捕捉層及び
吸収コアと接着されることにより液体安定結合(湿潤時に強度を保持し溶解しない
結合)を形成し,湿潤時にも捕捉層及び吸収コアとの結合性(接着)を維持してこ
れらを支持する機能を果たすものであると解すべきであるから,被告の上記主張の
ように,捕捉層,中間層,吸収コアをすべて付随的コアとして同一視することはで
きない。
ウ そして,乙1には,「第一の層は,…繊維ウエブと該ウエブの全体に間
欠的に結合配置された高吸水性ポリマー粒子から成り,…第二の層は親水性の繊維
層であって,具体的には粉砕パルプを代表とするセルローズ繊維,レーヨン繊維そ
れらの混合物等から成る…。第一の層と第二の層は…十分な圧力で圧縮されて,第
二の層の繊維の一部は第一の層の中にまで延びて,高吸水性ポリマーとも接触した
状態で第一の層と一体になり…。このようにして得られる圧縮複合体では,例え第
二の層に局部的に体液が供給されても,体液の水分は第二の層の平面内に拡散し,
それによって広い面積にわたって繊維ウエブと高吸水性ポリマーとに水分が供給さ
れる。」(3頁左上欄18行~左下欄10行),「公知技術による圧縮複合体1
は,…第一の層を成す繊維ウエブ5と,その一方の面に一体的に積層された第二の
層を成すパルプ層4とから成り,…繊維ウエブ5とパルプ層4とは…互いに圧縮さ
れて接触している。…繊維ウエブ5は,高吸水性ポリマー6が繊維ウエブ5に実質
的に均等に結合してできているが,…吸収体の用途によって高吸水性ポリマー6が
ウエブ5の上面あるいは下面にのみ偏在していてもよい。繊維ウエブ5は,圧縮復
元弾性を有する短繊維から成り,優れた体液拡散性を得る」(4頁左上欄13行~
右上欄9行),「圧縮された状態では,繊維ウエブ5とパルプ層4との一部が互い
に混合して両者の境界が明確には区別されず,その境界域においては,繊維ウエブ
5の繊維と高吸水性ポリマー6との中にパルプ層4のパルプ繊維が混在し,かつ繊
維ウエブ5に隣接するパルプ層4においては,該パルプが高密度に固められて体液
拡散層を形成している。」(5頁左上欄8~15行),「親水性の低密度繊維層7
は,圧縮複合体1に対して外部から圧力を特別に加えることなく第二の層に対して
積層するだけで,その目的を果すことができるが,親水性の低密度繊維層7の圧縮
複合体1に対する確実な位置決めのために外圧を加える場合でも,親水性の低密度
繊維層7の密度を0.04~0.15g/cm3
の範囲に維持するように圧力を加え
ることが好ましい。」(5頁右下欄8~15行),「圧縮複合体1のパルプ層4の
上に親水性の低密度繊維層7として粉砕パルプを積層してなる…吸収体2の例であ
り,…吸収体2は,高吸水性ポリマー6を含むウエブ5の吸水速度が,一回で供給
される体液の量に比して遅い場合に有効であって,親水性の低密度繊維層7は一時
的に体液を蓄えて高吸水性ポリマー6の吸収の進行に応じて水分を該ポリマー6に
供給する役割を果している。」(6頁左上欄4~18行),「圧縮複合体に積層し
た親水性の低密度繊維層は,前記高吸水性ポリマーに対するクッション材となると
共に一時的に体液の水分を蓄えて,前記圧縮複合体に徐々に体液の水分を供給する
役割を果す。」(7頁左下欄7~11行),「圧縮複合体に積層した親水性の低密
度繊維層が…体液の水分が高吸水性ポリマーに吸収されるまでの間,体液の水分を
一時的に蓄えておくことによって,前記の横漏れ,リ・ウェットの問題を解決する
ことができる。」(7頁右下欄2~8行)と記載されている。
 これらの記載によれば,「低密度繊維層7」は水分の一時的な蓄積層と
して,「パルプ層4」は体液拡散層として,また,「繊維ウエブ5」は吸水層とし
て機能するものではあるが,「パルプ層4」と「繊維ウエブ5」とは,互いに圧縮
されて一体に積層され,一部が互いに混合して両者の境界が明確には区別できない
ものとなっていると認められる。そうであれば,「パルプ層4」と「繊維ウエブ
5」は,それぞれ個別の機能層を形成しているとみるよりは,一体となって本願発
明における「吸収コア」を形成しているとみるのが妥当である。しかも,「低密度
繊維層7」,「パルプ層4」,「繊維ウエブ5」は,互いに接着されてもいないか
ら,湿潤時に「パルプ層4」が上下の層との結合性を維持してこれらを支持する機
能を果たすものともいえない。したがって,乙1の「パルプ層4」が,本願発明の
「中間層」であるということはできない。
エ また,乙2には,「べとつきを解消するため2種類のポリマー粉でもっ
て別々の層を作り綿状パルプ層上に散布したものである。」(2頁左上欄7~9
行),「最初第1綿状パルプ層を作り,その上に第1ポリマー層として吸収速度が
早く,ゲル強度の少ないポリマー粉を散布し中間不織布をのせ,第2綿状パルプ層
を置き第2ポリマー層として吸収速度が遅くゲル強度の強いポリマー粉を散布した
後第3綿状パルプ層をその上に重ねて吸収体となし」(2頁左上欄10~16
行),「表面不織布より吸収された尿は第3綿状パルプを通り第2ポリマー層へ行
くが吸収速度が遅いため使用者の着用圧で第2綿状パルプを通過して中間不織布に
て前後に拡散され第1ポリマー層へ行く。第1ポリマー粉は吸収速度が早くゲル強
度が弱い為尿中の水分を早く取り込んでしまい,なおかつ中間不織布についている
水分までもかかえ込む。次から次に尿が第1ポリマー層へ来て飽和状態になると着
用圧により逆に中間不織布を通して第2綿状パルプ層へ尿が拡散された状態で上が
つていく。第2ポリマー層には吸収速度が遅いがゲル強度の強いポリマー粉がある
のでゆつくり上がつて来た尿をかかえ込み第3綿状パルプ層へ持ちあげない為表面
の不織布は常にサラットしている。」(2頁右上欄3~16行)と記載されてい
る。
 上記記載によれば,「中間不織布5」は,第1綿状パルプ層の上に第1
ポリマー層としてポリマー粉を散布した上にのせられ,さらに,その上に,第2綿
状パルプ層を置かれて形成されたものにすぎず,第1綿状パルプ層や第2綿状パル
プ層と互いに接着されていない。したがって,「中間不織布5」は,湿潤時に上下
の層との結合性(接着)を維持してこれらを支持する機能を果たすものとはいえ
ず,むしろ,上記記載中にあるように,尿を前後に拡散する機能を果たすものに止
まるというべきである。したがって,乙2の「中間不織布5」が,本願発明の「中
間層」であるということはできない。
オ さらに,甲5の「付随的コア領域」が,本願発明の「中間層」とは異な
るものであることは,前記(2),(3)のとおりである。
カ そうすると,甲5,乙1,2を根拠に「中間層を用いることや,捕捉
層,中間層及び吸収コアを互いに接着することは,本願出願前周知の事項である」
とする被告の上記主張は,理由がない。
(5) 相違点イの容易想到性について
 本願発明の中間層は,トップシート及びバックシートと共に液体安定構成
要素(湿潤時に結合性を失わない構成要素)を構成するものであって,隣接する捕
捉層及び吸収コアと接着されることにより液体安定結合(湿潤時に強度を保持し溶
解しない結合)を形成し,湿潤時にも捕捉層及び吸収コアとの結合性(接着)を維
持してこれらを支持する機能を果たすものであることは,前記(1)のとおりであるか
ら,相違点イの「中間層」に係る構成を想到することが容易であるというために
は,上記機能を果たす,上記配置,接着による接合構造を容易に採用することがで
きるとする根拠(論理付け)が示される必要がある。
 しかるに,本件審決が挙げた甲5や被告の提出した乙1,乙2からは,前
記(2)ないし(4)のとおり,それぞれ,異なる技術内容が把握されるだけであり,こ
れらから共通して把握される周知事項は,せいぜい,吸収コアを含んでいる吸収体
を,積層構造とすることだけである。また,本件審決が挙げた甲7,甲8からは,
湿潤剥離強度が10グラム/インチ(g/in)以上である接着剤が存在すること
が周知事項として把握されるだけである。これらの周知事項から,本願発明の「中
間層」の上記の配置,接着構造を想到することが容易であるということはできな
い。
 これに対し,被告は,「引用発明においても,転移層と蓄積層との間は接
着されていることからして,これに中間層を加えた3層となっても,そのどこかの
境界で剥離,ずれが生じては吸収性物品としては,意味がないのであるから,この
層間を接着するのは当然のことである。」旨主張する。しかしながら,転移層と蓄
積層との間に,中間層を加えることの容易想到性についての根拠が示されていない
ことは,上記のとおりであるし,また,引用例には,「少なくとも一つの内側層境
界面が,内側層ずれを許容するために結合されない。」(3頁左下欄3~5行)と
記載されており,この記載によれば,引用発明において層間接着が当然であるとは
いえない。したがって,被告の上記主張は理由がない。
 したがって,本件審決の相違点イについての判断は,誤りであり,原告の
取消事由2の主張は理由がある。
(なお,引用例には,「本発明の吸収性構造は,すべての層の間に必ず結合
される。」,「組織層が,蓄積層と転移層の間に置かれる。」(8頁右下欄4~1
1行)等の記載もあるから,これらの記載等も踏まえて,相違点イの容易想到性に
ついてはさらに慎重な検討がなされるべきである。)
2 結論
 以上のとおり,本件審決の相違点イについての判断は誤りであり,この誤り
が本件審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。したがって,本件審決は取
消しを免れない。
 以上によれば,原告の本件請求は理由があるから,これを認容することと
し,主文のとおり判決する。
  東京高等裁判所知的財産第1部
    裁判長裁判官 北  山  元  章
   
   裁判官   青  柳     馨
          裁判官沖  中  康  人

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛