弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役十年に処する。
     原審未決勾留日数中二百四十日を右本刑に算入する。
     原審における訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 弁護人高木巖の控訴趣意は同弁護人提出の控訴趣意書記載のとおりでおるから、
これを全部ことに引用する。
 右に対する判断。
 第二点(証拠によらない事実認定)
 原判決摘示の事実は、すべて原判決の拳示引用にかかる証拠によつてこれを認定
するのに十分であつて、原判決が証拠によらないで事実を認定した違法があるもの
とは認められない。論旨は理由がない。
 第三点(事実誤認)について。
 前段説示のとおり、原判決摘示の事実は、その挙示の各証拠によつてこれを認定
し得るところであり、証拠の証明力に関する原審裁判官の判断に経験法則の違背等
特に不合理とすべき事由なく、論旨は原判決引用の証拠の趣旨に添わない事実の存
在を前提し、若しくは原判決認定の事実の趣旨を誤解するものであつて採用の限り
でない。
 第四点(心神喪失)について。
 原判決拳示の証拠、殊に検察官の面前における被告人の第一回供述調書によれ
ば、被告人は酒気を帯びてはいたものの自転車に乗つて原判示A方に赴き、同人に
対し、返金のできないことを謝罪し、同家から日本刀を持出して原判示B方を訪、
「今晩は」と大声で呼び起し、同人に対し、「おやぢ、起きんか」と申向け、家人
が戸を開けたので屋内に這入つた事実すなわち、犯行当時における被告人の言動
は、前後一定の脈絡を保つものであつて、事理弁別の能力を全く喪失した状態にお
けるものとは認められないこと明白でおり、原判決が心神喪失の主張を容れなかつ
たことは相当である。
 第五点(検事の押印を欠く供述調書の証拠能力)について。
 <要旨>検事の面前における所論の各供述調書に検事の押印を欠くことは論旨指摘
のとおりである。しかし、検察官検事が、刑訴第一九八条又は第二二三条に
より、被疑者又社被疑者以外の者を取り調べ、その供述を調書に録取する場合その
調書は、必ずしも検事みずから作成するの要なく、検察庁法第二七条第三項によ
り、上官の命を受けて検察庁の事務を掌り、又検察官を補佐する職務権限を有する
検察事務官をして作成させることもできるのであり、この場合においては、その検
察事務官が、刑訴規則第五八条所定の方式に従い、調書を作成すべきもので、取調
をした検察官検事は、その氏名が調書に表示されているのみで足り、必ずしも検察
事務官と共に署名押印するの要はないものと解すべきである。所論の各供述調書
は、検察官検事Cが、被疑者及び被疑者以外の者を取り調べ、その供述を、検察事
務官Dに命じて調書に録取させ、同検察事務官において、刑訴規則第五八条所定の
方式に従い作成したものであること、並びに検察官検事Cは、同検察事務官と共に
署名(起訴状の署名と筆跡が一致するので、同一検事の署名と認められる。)した
が、たまたま押印を欠いたのに過ぎないことがいずれも右各調書の記載に徴して明
白である。従つて右各調書は、その作成の方式上何ら欠くところはないものという
べきであるのみならず、同調書は、すべて被告人においてこれを証拠とすることに
同意しているのであり、その供述のなされたときの情況を考慮し何ら不相当と認め
らるべき事由はないのであるから、調書に検事の押印が欠けているという一事を捉
えて、これを証拠としたことに法令の違反があるとする論旨は全く理由がない。
 第六点(恩赦の恩典から故意、不当に除外)について。
 原審における訴訟手続の進行が適法であることは、記録上明白であり特に不当若
しくは違法の事由があるものとは認められない。
 第七点(量刑不当)について。
 記録並びに原審において取調べた証拠に現われている諸般の犯情に照らし、被告
人に対して懲役十五年の刑を科した原判決は刑の量定が過当であつて相当でないと
いうのほかなく、この点に関する論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。
 よつて、刑訴第三九七条第三八一条により原判決を破棄し、刑訴第四〇〇条但書
に従い、本件について更に判決する。
 被告人に対する犯罪事実は原判決摘示のとおりであつて、法令の適用は次に示す
とおりである。
 刑法第一九九条(無期懲役刑選択)、第三九条第二項、第六八条第二号
 刑法第二一条
 刑訴法第一八一条第一項
 以上の理由により主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 筒井義彦 裁判官 柳原幸雄 裁判官 岡林次郎)

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