弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各控訴を棄却する。
         理    由
 主任弁護人江川甚一郎の控訴趣意は、同弁護人及び弁護人岩佐鍵児作成提出にか
かる各控訴趣意書記載のとおりであるから、いずれもここにこれを引用する。
 弁護人江川甚一郎作成提出の控訴趣意書記載の控訴趣意第一点について。
 所論平和条約第三条には、日本国は北緯二九度以南の南西諸島(琉球諸島及び大
東諸島を含む)(中略)を合衆国の唯一の施政権者とする信託統治制度の下におく
こととする国際連合に対する合衆国の如何なる提案にも同意する。このような提案
が行われ且つ可決されるまでは合衆国は領水を含むこれ等の諸島の領域及び住民に
対して、行政、立法及び司法上の権力の全部及び一部を行使する権利を有するもの
とする。と規定され、なお、右平和条約の最初の効力発生の日から施行された昭和
二七年政令第九九号によれば、関税法第一〇四条(中略)に規定する地域は、左に
掲げる地域をいう。として、一、北緯二九度以南の南西諸島(琉球諸島及び大東諸
島を含む)(以下略)とあるから、関税法第一〇四条に基き、外国と看做される地
域は、昭和二四年五月二六日大蔵省令第三六号(その後昭和二七年二月六日同省令
第五号で改正)所定の北緯三〇度以南から、同二九度以南に減縮された筋合ではあ
るが、琉球諸島及び大東諸島を含む北緯二九度以南の南西諸島はなお引続き、依然
として外国と看做されているのである。しかして、原判示掲記の沖縄島運天港、沖
縄島沖の島及び伊平屋島は、いずれも前示政令にいう北緯二九度以南の南西諸島に
属すること経験上顕著な事実であり、従つて、岡地域は、今、なお、関税法上外国
と看做される地域であるから、被告人等の同地域への貨物の無免許輸出、同地より
の貨物の無免許輸入の所為がいずれも、関税法違反罪に問擬されるのは、まこと
に、当然であつて、ここに多言を要しないところである。さすれば、前示平和条約
の発効は、所論のように、直ちに、被告人等の本件所為に対し、免許または公訴棄
却の判決を言い渡すべき事由ある場合にあたるものといさことはできない。それ
故、論旨は理由がない。
 弁護人江川甚一郎の同第二点について。
 関税法第三七条の規定によれば、輸出貨物は、輸出免許を受けた後でなければ、
これを積出することはでき<要旨第一>ない。とあるから、同規定及び同法第三一条
以下の諸規定を照し合せて考量すれば、同法第七六条第一項にいわゆる
輸出とは、仕向地たる外国に対し、輸送せられる無免許貨物の積載行為を指称し、
同条項の輸出罪の既遂時期は、すなわちその積載行為をしたときと解するのが相当
である。さすれば、同条項所定の輸出罪の判示としては、無免許貨物を船舶に積載
し、これを外国に向け、輸出した旨を明らかにすれば足り、また、それで、同罪の
構成要件たる該当事実の摘示としては十分であると解するから、特に所論のよう
に、外国乃至領海外に運ばれた旨を具体的に判示するの要はないものといわざるを
得ない。そこで、今、原判決を調べてみれば所論原判示各事実には、被告人等が、
税関の免許を受けないで、外国に向け、原判示貨物を原判示船舶に積載して出航
し、これを輸出した旨を摘示していることが明らかであるから、原判決は、前説示
するところにより、同法第七六条第一項の輸出罪の判示としては何等間然するとこ
ろはないというべきである。論旨は、独自の見解の下に原判決を非難するもので、
採用し得ない。
 弁護人江川甚一郎の同第三点、同岩佐健児の同第一点前段について。
 関税法第七六条第一項の輸出罪の既遂時期は、貨物の積載行為のあつたときと解
すべきこと、控訴趣意第二点において説示したとおりである。しかして、同条項所
定の輸入罪の既遂時期は、同法第一一条、第三一条以下の規定を綜合してみれば、
無免許貨物の陸揚行為のあつたときと解すべきが相当であるから、その貨物の陸揚
行為以前の行為、すなわち、密輸入の目的をもつて、貨物を船舶に積載してからそ
れを陸揚げするまでの一連の行為は、その行為の性質上、その船舶が日本国の領海
の内外の如何なる地域において貨物を積載したかどうかを問はず、既に、具体的に
結果発生の危険性があり、しかして、日本国外にある日本国に船籍のある船舶内の
行為は、刑罰法規の適用上日本国内における行為と同一視すべきものであるから、
日本国に船籍のある船舶により、日本国の領海外においてなされた関税法違反の所
為に対しても、日本国の領海内における同法違反<要旨第二>の所為と同一視し、同
法を適用しても何等妨げないものと解すべきである。さすれば、日本国の領海外に
おいてなされた密輸入貨物の積載行為乃至それを領海内に向けて運搬す
る一連の行為は、密輸入のための単なる準備行為の範囲を超えた実行の開始にあた
り、いわゆる、犯罪の実行の着手の段階に入つたものとして、関税法第七六条第二
項所定の密輸入の未遂罪が成立するものとみるのが相当である。そこで、今、所論
に鑑み、原判示第一の(ロ)掲記の事実をみれば、原判決が、「昭和二五年三月上
旬頃沖縄島から砂糖一千斤位(原価一万五千円相当)及び米軍用オーバー九〇着
位、HB作業服五〇〇着位を前記a丸に積載し、日本に向け輸入する目的で同島を
出発したが、その頃同島中の島附近で強風のため右a丸が沈没したので、前記砂糖
一千斤位と別表第二の一覧表記載の米軍用オーバー四〇着位及びHB作業服三〇五
着位(原価合計金十六万千四百円)の輸入の目的を遂げなかつたものである。」と
認定していることは、まことに所論のとおりである。しかして、a丸が日本国に船
籍のあること、被告人b等が右原判示貨物を日本国に密輸入する目的で同船舶に積
載したこと、その貨物は外国貨物で、その積載場所は控訴趣意第一点において説示
したとおり外国と看做される三〇度以南の地域であること、いずれも、所論事実に
つき、原判決の挙示する証拠によつて十分これを認めることができるのである。さ
すれば所論船舶及び貨物が、日本国に密輸入される途中北緯三〇度以南の領海外に
おいて強風のため沈没したとしても、前段説示の理由により、それは、なお、北緯
三〇度以北の領海内において、その貨物の陸揚前に沈没したと同一視し、いわゆる
障礙未遂として、同被告人等の所為に対し、関税法第七六条第二項所定の未遂罪に
問擬しても何等妨げないものといわざるを得ない。それで、同被告人等の前掲原判
示所為を右同条項の未遂罪として処断した原判決は、まことに相当であり、論旨は
採用し得ない。
 弁護人江川甚一郎の同第四点について。
 しかし、原審第八回公判調書中の所論の点について、『検察官は、昭和二六年三
月二二日附起訴関係、公訴事実第二の二行目の別紙第二の次に、第三を挿入、三行
目陸揚げしての次に、密輸入し、を挿入し、以下八行目まで削除、罰条、第一事実
の次に、第二事実を挿入、次行第二事実につき同法第七五条第一項を削除」云々す
る旨訴因、罰条の変更を請求した。との記載のあるのをみれば、その請求の趣旨
は、所論起訴状記載の公訴事実中関税逋脱罪の訴因を撤回し、それに対応する罰条
はこれを削除し、密輸入罪の所為についてのみ起訴を維持するというに帰着するこ
とが窺い得られ、従つて、所論の点までも削除する趣旨であるとは文理上からみて
も到底諒解し得られないところである。さすれば、所論の点の公訴は何等不適法と
はいい得ないので、論旨は理由がない。
 弁護人江川甚一郎の同第五点について。
 所論に鑑み、記録を調べてみれば、所論原判示第三の(ロ)掲記の事実は昭和二
六年三月二二日附起訴状記載の公訴事実中の第二掲記の事実に対応することが明ら
かであり、しかして、原判決は起訴の順序によらず、起訴状記載の公訴事実中年月
の古い犯行から新しい犯行に、その年月の順次に従つて判示したことが認められ、
それがため、所論の点につき、一見してやや混線しているような感がないでもな
い。しかし原判決には所論の点につき、不告不理の原則に反して、不法に事実を認
定した違法は何等認められないところである。それ故、論旨は理由がない。
 弁護人江川甚一郎の同第六点について。
 所論の点については、論旨第五点において説示したとおりであり、従つて記録に
よれば、その一覧表記載の番号も、起訴状添附の分と原判決書添附の分とは相違し
ていることが認められる。しかし、それかといつて、所論被告人等に対し、二重に
起訴されている点は何等認められないから、論旨は理由がない。
 弁護人江川甚一郎の同第七点及び同岩佐健児の同第三点について。
 しかし、所論物件が、所論のような性質の物件であるとしても、該物件が、他日
取引の目的となり得る適性の物件であることは経験則上明白であるから、該物件が
輸入貨物としての適性のあることは多言を要しないし、従つて、関税法にいわゆる
貨物であることは寸疑を容れないところである。それで、所論物件を税関の免許を
得ないで輸入した以上は、関税法違反の罪責を免れ得ないところである。それ故、
論旨は採用し得ない。
 弁護人江川甚一郎の同第八点について。
 しかし、原判示第三の(ロ)掲記の事実につき、原判決の挙示する証拠を綜合す
れば、所論被告人等が共謀の上、同判示第五一覧表記載の貨物の密輸入をしたいき
さつが窺い得られるし、その間反経験則等の違法はないから、論旨は理由がない。
 弁護人江川甚一郎の同第九点及び岡岩佐健児の同第一点後段について。
 しかし、共同審理を受けた共同被告人の自白は、それだけでは完全な独立の証拠
能力を有しないが、被告人の自白を補強する場合には、合せて完全な独立の証拠能
力を形成するもので、共同被告人の供述自体を更に補強する他の証拠を要するもの
ではないと解すべきところ(昭和二三年(れ)第七七号、同二四年五月一八日大法
廷判決参照)、今、所論事実につき、原判決の挙示する証拠を調べてみれば、原判
決は被告人の供述調書の外、その裏付けとなるべき補強証拠を挙示していることが
明らかであり、しかも、その挙示の証拠を綜合すれば、所論事実は十分これを認め
得るし、その間反経験則等の違法はないから、論旨は採用しがたい。
 弁護人江川甚一郎の同第一〇点について。
 原判決を調べてみれば、原判示第一掲記の事実中の貨物の原価は、合計金四十三
万四千六百七十五円であり、原判決の追徴金は金四十三万三千七百九十五円である
ことは、まことに所論のとおりである。従つて、その差額が金八百八十円であるこ
とは計数上明らかなところである。しかし、記録を調べてみれば、押収にかかる証
第二乃至第五号の物件は、原判示第一の(ハ)掲記の事実中の物件の一部であり、
しかも右押収物件に対する鑑定書の記載に徴すれば、その原価は、金八百八十円で
あることが認められ、しかして、右証第二乃至第五号の押収物件全部に対しては、
原判決において没收の言渡をされているため、右物件の原価相当額である右金八百
八十円は、所論金四十三万四千六百七十五円より控除すべき筋合であることは多言
を要しないところである。さすれば、原判決は、右控除した金四十三万三千七百九
十五円を追徴していることが認められるので、原判決は所論の点につき、何等の誤
差も存衣しないところである。それ故、論旨は採用し得ない。
 弁護人江川甚一郎の同第一一点及び同岩佐健児の情状の点と題する記載の点につ
いて。
 所論原判示第三の(イ)及び(ロ)掲記の事実につき、原判決の挙示する証拠を
綜合すれば、所論共謀の点は、十分これを認めることができるのでその点に対する
論旨は理由がない。しかして、訴訟記録並びに原審において取り調べた証拠にあら
われた事実を綜合し、所論情状の点は勿論のこと、本件犯行の動機、回数その他諸
搬の情状を勘案すれば、被告人等に対する原判決の量刑は、その犯情に照らし、さ
まで不当に重きに失するきらいがあるものとは認められないので、論旨は採用し得
ない。 弁護人岩佐健児作成提出の控訴趣意書記載の控訴趣意第二点について
 しかし、被告人cことdに関する原判示第三の(ロ)掲記の事実につき、原判決
挙示の証拠を綜合すれば、同被告人は他の被告人等と共謀の上、所論所為に及んだ
いきさつが認められ、その間反経験則等の違法はないから、論旨はたやすく採用し
得ない。
 以上の理由により、刑事訴訟法第三九六条に基いて本件各控訴を棄却する。
 よつて、主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 山下辰夫 判事 二見虎雄 判事 長友文士)

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