弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成28年4月27日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成27年(ワ)第27220号著作権侵害行為差止等請求事件
口頭弁論終結日平成28年2月10日
判決
原告株式会社ケイジェイシー
同訴訟代理人弁護士牧山美香
同補佐人佐藤英昭
被告スケーター株式会社
同訴訟代理人弁護士鳥山半六
同補佐人中野収二
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,別紙被告商品目録記載1ないし20の各製品を製造し,販売しては
ならない。
2被告は,前項記載の各製品を廃棄せよ。
3被告は,原告に対し,100万円及びこれに対する平成27年11月13日
から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要等
1本件は,「エジソンのお箸」という商品名の幼児用箸を製造販売している原
告が,「デラックストレーニング箸」という商品名の幼児用箸を製造販売している
被告に対し,自らが別紙原告著作物目録1記載の図画(以下「原告図画」という。)
及び別紙原告著作物目録2記載1ないし19の各幼児用箸(以下,同目録の番号に
従い「原告製品1」などといい,これらを併せて「原告各製品」という。)に係る
各著作権を有すること(なお,原告各製品のうち,上部の部材に記載又は成形され
たキャラクターの図柄又は立体像については,原告も著作権を主張しているもので
はないと解される。)を前提に,被告による被告商品目録記載1ないし20の各幼
児用箸(以下,同目録の番号に従い「被告商品1」などといい,これらを併せて「被
告各商品」という。)の製造販売が上記各著作権(複製権及び翻案権)を侵害する
旨主張して,被告に対し,①著作権法112条1項・2項に基づき,被告各商品の
製造及び販売の差止め並びに廃棄を求めるとともに,②平成25年1月から平成2
7年9月28日(訴え提起時現在)までの間における上記各著作権侵害を内容とす
る不法行為に基づく損害賠償請求として,2400万円の内金100万円及びこれ
に対する不法行為の後である同年11月13日(訴状送達の日の翌日)から支払済
みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2前提事実(当事者間に争いのない事実,当裁判所に顕著な事実並びに掲記の
証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。なお,書証番号は,特記しな
い限り枝番の記載を省略する。)
(1)当事者
ア原告は,化粧品及び健康食品並びに食料品,飲料水,酒類及び日用雑貨品の
輸出入業,販売業及び問屋業並びにそれらの仲介業等を目的とする株式会社であり,
ベビー用品の輸入及び製造販売等を主な業務として営業をしている(甲1,弁論の
全趣旨)。
イ被告は,プラスチック製品の企画製造販売各種等を目的とする株式会社であ
る(甲2)。
(2)原告各製品及び原告図画
ア原告各製品は,「エジソンのお箸」と称する幼児用箸である。これら別紙原
告著作物目録2記載のとおりの19種類の各製品は,一方の箸に1個のリング,他
方の箸に2個のリングが設けられている点で共通するが,両箸が結合する上部の形
状ないし模様(キャラクター)や全体の色がそれぞれ異なっている。
イ原告図画は,「子供の知能を発展させる練習用箸」と称する白黒のデザイン
画である。原告図画については,米国著作権局において「2次元美術品」として著
作権登録(基本登録:登録番号VAu1-173-069,発効日2014年4月14日,補充
登録:登録番号VAu757-819,発効日2015年2月12日)がされており,同登録
上,2001年(平成13年)にAⅰが完成したものとされている(甲3,4,弁
論の全趣旨)。
ウ原告は,本件デザイン画を基に原告各製品を製作し,日本国内においてこれ
らを製造販売している(少なくとも原告製品1,2,4ないし6,16ないし19
については,平成15年から日本国内において製造販売している〔乙1ないし3〕。)
(弁論の全趣旨)。
(3)被告各商品
被告は,遅くとも平成25年1月以降,被告各商品を製造販売している(甲7,
9,乙1ないし3,弁論の全趣旨)。
(4)先行訴訟
原告は,平成25年,Aⅰと共に,被告を相手取り,被告各商品の一部(被告商
品2,7,12及び17)等の製造販売の差止め及び廃棄を求める訴訟を大阪地方
裁判所に提起した(同庁平成25年(ワ)第2464号事件)。この訴訟において,
原告は,被告の上記製造販売行為が,原告各製品の一部(原告製品1,2,4ない
し6,16ないし19)等の形態からなる原告の商品表示と類似する商品表示を使
用した商品を販売等するものであり不正競争防止法2条1項1号の不正競争に当た
るとして同法3条1項・2項に基づく差止め及び廃棄を求め,共同原告であったA
ⅰは,上記被告各商品の一部が発明の名称を「子供の知的能力を発達させる練習用
箸」とする特許第3766831号の特許請求の範囲の請求項1(別紙「特許請求
の範囲」のとおり)に係る特許発明(原告各製品はこの特許発明の実施品であると
みられる。)の技術的範囲に属し,被告の上記製造販売行為が上記特許に係る特許
権を侵害するとして特許法100条1項・2項に基づく差止め及び廃棄を求めた。
大阪地方裁判所は,平成25年10月31日,原告の上記製品の形態は不正競争
防止法2条1項1号の商品等表示に当たるとは認められず,対象とされた被告の各
製品が上記特許発明の技術的範囲に属するものとは認められない旨判断して,原告
及びAⅰの請求をいずれも棄却する判決をした。
原告及びAⅰは,上記判決を不服として知的財産高等裁判所に控訴したが(同庁
平成25年(ネ)第10110号事件),同裁判所も,大阪地裁の上記判決の判断
を支持し,平成26年4月24日に同控訴をいずれも棄却する判決をし,同判決は,
同年5月12日の経過により,原告に関する部分について確定した(以上につき,
乙1ないし4)。
(5)原告製品9に関する意匠登録
原告及びAⅰは,平成27年1月22日,原告製品9の形状を示すとみられる別
紙意匠公報記載の意匠について,創作者を同人として,意匠登録出願をし,同年7
月17日,意匠権の設定登録を受けた(意匠登録第1531558号。以下,この
意匠権を「本件意匠権」といい,登録意匠を「原告意匠」という。)(甲5,6)。
(6)本件訴訟の経緯
原告は,平成27年9月28日,被告を相手取り,本件訴えを当庁に提起した。
その際原告が定立した請求は,①前記1のとおり著作権(複製権・翻案権)侵害を
理由として,著作権法112条1項・2項に基づく被告各商品の製造販売の差止め
及び廃棄並びに不法行為に基づく損害賠償を請求するとともに,②被告商品2ない
し10及び12ないし20の製造販売は本件意匠権をも侵害するとして,意匠法3
7条1項・2項に基づく同各商品の製造販売の差止め及び廃棄を請求する(①と②
が重なる範囲で選択的併合)というものであった。
ところが,上記②の本件意匠権に基づく請求については,被告の答弁書において,
「仮に原告主張のごとく被告各商品に係る意匠が原告意匠に類似するのであれば,
本件意匠権に係る出願(平成27年1月22日)より前から販売されている被告各
商品に係る意匠は公然知られた意匠であり,これと類似する原告意匠は新規性を欠
くため(意匠法3条1項),その意匠登録は意匠登録無効審判により無効にされる
べきものであるから,原告は被告に対し本件意匠権を行使することができない(同
法48条,41条,特許法104条の3)し,被告は,被告各商品に係る意匠の実
施について先使用による通常実施権を有する(意匠法29条)。」旨指摘された。
そこで,原告は,平成27年12月14日の第1回口頭弁論期日において,本件
意匠権に基づく請求に係る訴えを取り下げたが,被告が取下げに同意しなかったた
め,同請求を放棄するに至った(以上は,当裁判所に顕著な事実)。
3争点
(1)原告が原告各製品に係る著作権を有しており,被告による被告各商品の製造
及び販売が同著作権(複製権又は翻案権)を侵害するか。
(2)原告が原告図画に係る著作権を有しており,被告による被告各商品の製造及
び販売が同著作権(複製権又は翻案権)を侵害するか。
(3)原告が,平成25年1月から平成27年9月28日までの間に,被告の上記(1)
又は(2)の製造販売行為により幾らの損害を受けたか。
4当事者の主張
(1)原告各製品に係る著作権(複製権又は翻案権)侵害の成否について
【原告の主張】
ア原告各製品の著作物性
原告各製品は,本来は2本の棒状の箸によって左右対称に表現される箸について,
左右で異なった部分を有しながらも,表現上の工夫により左右のバランスを保ち,
更にその箸本体を円形の結合部分により有機的に結合させることにより,看者に左
右対称の安心感に近い安心感を与え,3つのリングの配置及びその美しいフォルム
が看者の芸術的感性に訴えかけるものであるから,一般人を基準として純粋美術と
同視し得る程度の美的創作性を備えており,「美術の著作物」(著作権法2条2項,
10条1項4号)に当たるといえる。
また,実用に供される応用美術であっても,他の表現物と同様に,表現に作成者
の何らかの個性が発揮されていれば,創作性があるものとして著作物性が認められ
るべきであり,被告の後記主張のように高度の美的表象の表現を要件とするのは相
当でない。原告各製品の形態的特徴については,①キャラクターが表現された円形
部材により最上部で結合された連結箸である点,②1本の箸に人差し指と中指を入
れる2つのリングを有し,かつ,他方の箸に親指を入れる1つのリングを有して,
合計3つのリングが設けられている点において,作成者の個性が発揮されており,
創作性が認められる。したがって,原告各製品も,応用美術として著作権法上の保
護を受けるべきものである。
したがって,原告各製品は,著作権法上の著作物に当たる。
イ原告各製品に係る著作権の帰属
原告各製品は,原告が製作したものである上,原告図画の二次的著作物に当たる
ところ,原告図画に係る著作権は創作者であるAⅰから原告に譲渡されている。し
たがって,原告は,原告各製品に係る著作権を有している。
ウ原告各製品と被告各商品との関係(複製・翻案該当性)
原告各製品と被告各商品とは,①最上部において一定の幅を持たせて円形部材に
より連結され,②一方の箸の上部に箸本体に対して略平行で縦長楕円形の親指用リ
ングが手前側(別紙原告著作物目録2及び別紙被告商品目録に掲載した各正面写真
の手前側。以下同じ。)に突出するように設けられ,③他方の箸の上部に箸本体に
交差し正面視左横方向に突出する部分を有し,④その下部に箸本体に対して斜めに
交差し背面側に突出する部分を有し,⑤最上部の連結部分においてキャラクターを
表現している点,及び⑥親指用リングを横から見た場合,そのリングはやや縦長の
楕円形であって,リングの下部が徐々に膨らみ箸本体部材又は親指根元部材に滑ら
かに連続するように表現されている点で,共通している。その結果,原告各製品と
被告各商品とは,「本来は2本の棒状の箸によって左右対称に表現される箸につい
て,左右で異なった部分を有しながらも,表現上の工夫により左右のバランスを保
ち,更にその箸本体を円形の結合部分により有機的に結合させることにより,看者
に左右対称の安心感に近い安心感を与える」という表現上の本質的特徴を同一にし
ている。
したがって,被告各商品は,原告各製品を複製又は翻案したものというべきであ
る。
エ小括
以上によると,原告は,原告各製品に係る著作権を有しており,被告各商品の製
造販売は,同著作権(複製権又は翻案権)を侵害する。
【被告の主張】
ア原告各製品の著作物性について
原告各製品は,一般家庭で幼児が食事を行う際に使用する実用品として画一的に
量産される製品にすぎず,そのデザインは,練習用箸の用途や機能から離れて専ら
美術的鑑賞を目的とした「美術工芸品」に匹敵する高度の美的表象を表現したもの
ではない(せいぜい製品に趣味感を加える意匠にすぎない。)から,著作権法によ
り保護されるべきものではない。原告各製品に認められるのは純粋に「実用性」の
みであって,そもそも「鑑賞性」を兼ね備えた「美術」作品ではないから,「応用
美術」にすらならない。
また,原告が主張する原告各製品の形態的特徴は,「アイデア」そのものであっ
て「表現」ではないし,原告各製品のように練習用箸においてリングを設けること
は極めてありふれた形態であって何ら個性的な形態ではないから,上記形態的特徴
をもって創作的な表現と認めることはできない。
したがって,原告各製品は,著作権法上の著作物には当たらない。
イ原告各製品と被告各商品との関係(複製・翻案該当性)について
被告各商品は,①箸本体部材が断面四角形である点,②各リングが箸本体部材に
外挿される角筒状のスリーブに一体化されるとともに該スリーブを箸本体部材の表
面から突出している点,③親指用リングのスリーブが背面側を厚肉に形成し上端か
ら下向きに次第に厚肉状に傾斜するテーパ面を設けるとともに該テーパ面の下側に
弧状の凹部を表している点にも特徴があり,原告各製品と被告各商品とは,これら
の点で相違している。
したがって,被告各商品は,原告各製品を複製又は翻案したものではない。
ウ小括
以上によると,原告が原告各製品に係る著作権を有するとはいえず,被告各商品
の製造販売が同著作権(複製権又は翻案権)を侵害するとはいえない。
(2)原告図画に係る著作権侵害(複製権又は翻案権)の成否について
【原告の主張】
ア原告図画の著作物性
原告図画は,あたかも画家がスケッチするようなタッチで描かれたデザイン画で
あり,特にその中の影の表現等は絵画的な表現形式であるから,創作者がその「思
想又は感情を創作的に表現したもの」であって「美術の範囲に属するもの」という
べきである。したがって,原告図画は,「美術の著作物」(著作権法10条1項4
号)に当たる。
また,原告図画が,特許用の図面であったとしても,技術思想を創作的に表現し
た「学術的な性質を有する図面」(著作権法10条1項6号)に当たる。
このように,原告図画は,著作権法上の著作物に当たるというべきである。
イ原告図画に係る著作権の帰属
原告は,原告図画の創作者であるAⅰから,原告図画に係る著作権を譲り受け,
以来,同著作権を有している。
ウ原告図画と被告各商品との関係(複製・翻案該当性)
原告図画と被告各商品とは,①最上部において一定の幅を持たせて円形部材によ
り連結され,②一方の箸の上部に箸本体に対して略平行で縦長楕円形の親指用リン
グが手前側に突出するように設けられ,③他方の箸の上部に箸本体に交差し正面視
左横方向に突出する部分を有し,④その下部に箸本体に対して斜めに交差し背面側
に突出する部分を有し,⑤最上部の連結部分においてキャラクターを表現している
点,及び⑥親指用リングを横から見た場合,そのリングはやや縦長の楕円形であっ
て,リングの下部が徐々に膨らみ箸本体部材又は親指根元部材に滑らかに連続する
ように表現されている点で,共通している。その結果,原告図画と被告各商品とは,
「本来は2本の棒状の箸によって左右対称に表現される箸について,左右で異なっ
た部分を有しながらも,表現上の工夫により左右のバランスを保ち,更にその箸本
体を円形の結合部分により有機的に結合させることにより,看者に左右対称の安心
感に近い安心感を与える」という表現上の本質的特徴を同一にしている。
したがって,被告各商品は,その正面視において原告図画を複製したものである
といえる。また,立体化されている被告各商品の正面視以外の部分に新たな表現が
加えられているとしても,被告各商品は,原告図画を翻案したものである。
エ小括
以上によると,原告は,原告図画に係る著作権を有しており,被告各商品の製造
販売は,同著作権(複製権又は翻案権)を侵害する。
【被告の主張】
ア原告図画の著作物性について
原告図画は,「子供の知能を発展させる練習用箸」を実用的に工業化するための
製品の外観(意匠)と技術的構成を図解的に表したデザイン画にすぎず,特許用の
図面にすぎないものであって,純粋美術としての「絵画」ではない。
そして,原告図画は,商品化及び実用化の目的によって制約されたものであると
ころ,一般的なインダストリアルデザイン画の通常の描写方法で作成されたものに
すぎず,描かれた練習用箸の物品から離れて美的鑑賞の対象となり得るような芸術
性ないし美術性のある創作的表現を感得できるものでは全くない。また,原告が主
張する「スケッチするようなタッチ」や「影の表現」は,一般的な工業デザイン画
にありふれた通常の描写方法であって,何ら「創作的」なものでも「個性的」なも
のでもない。
なお,原告図画は,設計図面と呼べるような代物でもない。
したがって,原告図画は,著作権法上の著作物には当たらない。
イ原告図画と被告各商品との関係(複製・翻案該当性)について
被告各商品は,①箸本体部材が断面四角形である点,②各リングが箸本体部材に
外挿される角筒状のスリーブに一体化されるとともに該スリーブを箸本体部材の表
面から突出している点,③親指用リングのスリーブが背面側を厚肉に形成し上端か
ら下向きに次第に厚肉状に傾斜するテーパ面を設けるとともに該テーパ面の下側に
弧状の凹部を表している点にも特徴があり,原告図画と被告各商品とは,これらの
点で相違している。
また,被告各商品においては,原告が主張する「スケッチするようなタッチ」や
「影の表現」は何ら有形的に再製されていないことは明らかである。
さらに,仮に原告図画を設計図面と解したとしても,被告が被告各商品を製作す
る行為は,建築の著作物(著作権法2条1項15号ロ)の場合とは異なり,当該図
面の複製でも翻案でもない。
したがって,被告各商品は,原告図画を複製又は翻案したものではない。
ウ小括
以上によると,原告が原告図画に係る著作権を有するとはいえず,被告各商品の
製造販売が同著作権(複製権又は翻案権)を侵害するとはいえない。
(3)損害額について
【原告の主張】
被告は,平成25年1月から平成27年9月28日までの間,少なくとも10万
本の被告各商品を製造販売した。被告各商品の平均単価は1100円,平均利益率
は20%である。したがって,被告の上記製造販売行為(著作権〔複製権又は翻案
権〕侵害行為)により原告が受けた損害の額については,著作権法114条2項に
より,2200万円と推定される。
また,原告は,本件訴訟に関する弁護士・弁理士費用として200万円の損害を
被った。
したがって,原告は,被告の上記製造販売行為(著作権〔複製権又は翻案権〕侵
害行為)により合計2400万円の損害を被ったものである。
【被告の主張】
原告の主張は争う。
第3当裁判所の判断
1原告各製品に係る著作権侵害(複製権又は翻案権)の成否について
(1)原告各製品が,幼児用箸として実用に供されるためにデザインされた機能的
な工業製品であること自体は当事者間に争いがないところ,原告は,これが「著作
物」として著作権法による保護を受ける旨主張する。
(2)そこで検討するに,著作権法2条1項1号は,「著作物」とは「思想又は感
情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するも
のをいう」旨規定し,同条2項は,「この法律にいう『美術の著作物』には,美術
工芸品を含むものとする」と規定している。そして,そもそも,著作権法は,文化
的所産に係る権利の保護を図り,もって「文化の発展に寄与すること」を目的とす
るものである(同法1条参照)。これに対し,産業的所産に係る権利の保護につい
ては,工業上利用することができる意匠(物品の形状,模様若しくは色彩又はこれ
らの結合であって,視覚を通じて美感を起こさせるもの)につき,所定の要件の下
で意匠法による保護を受けることができる(同法2条1項,3条ないし5条,6条,
20条1項等参照)など,工業所有権法ないし産業財産権法の定めが設けられてお
り,このほか,商品の形態については,不正競争防止法により,「実質的に同一の
形態」等の要件の下に3年の期間に限定して保護がされている(同法2条1項3号,
同条5項,19条1項5号イ等参照)。
以上のような各法制度の目的・性格を含め我が国の現行法が想定しているところ
を考慮すれば,実用に供される機能的な工業製品ないしそのデザインは,その実用
的機能を離れて美的鑑賞の対象となり得るような美的特性を備えていない限り,著
作権法が保護を予定している対象ではなく,同法2条1項1号の「文芸,学術,美
術又は音楽の範囲に属するもの」に当たらないというべきである。
なお,原告は,実用に供される機能的な工業製品やそのデザインであっても,他
の表現物と同様に,表現に作成者の何らかの個性が発揮されていれば,創作性があ
るものとして著作物性を肯認すべきである旨主張するけれども,著作権は原則とし
て著作者の死後又は著作物の公表後50年という長期間にわたって存続すること(著
作権法51条2項,53条1項)などをも考慮すると,上述のとおり現行の法体系
に照らし著作権法が想定していると解されるところを超えてまで保護の対象を広げ
るような解釈は相当でないといわざるを得ず,原告の上記主張を採用することはで
きない。
(3)前記前提事実に証拠(甲6,乙1,4)及び弁論の全趣旨を総合すると,原
告各製品については,①幼児が食事をしながら箸の正しい持ち方を簡単に覚えられ
ることを目的とした幼児の練習用箸であり,このような用途・機能を有する実用品
として量産される工業製品であること,②一方の箸には,人差し指挿入用のリング
及び中指挿入用のリングが設けられ,他方の箸には,これら2つのリングよりは大
きな,やや縦長楕円形の,親指挿入用のリングが設けられているところ,これら各
リングが配置されている位置及び向きは,リングが上記3指の位置を固定して,正
しい箸の持ち方の手の形になるようにするという目的に適った位置及び向きであり,
人体工学に基づいて設計されたものであること,③箸本体を上部の円形部材等で連
結させているところ,これは1本1本の箸を固定して箸先の交差を防止するという
機能を果たす目的によるものであることが認められる。これら各点に照らせば,上
記②のリングの個数,配置,形状等及び上記③の連結箸である点は,いずれも上記
①の幼児の練習用箸としての実用的機能を実現するための形状ないし構造であるに
すぎず,他に,原告各製品の外観のうち,原告が被告各商品と共通し同一性がある
と主張する部分を見ても,際立った形態的特徴があるものとはうかがわれない。そ
うすると,原告各製品が,上記実用的機能を離れて美的鑑賞の対象となり得るよう
な美的特性を備えているということはできない(もとより純粋美術と同視し得る程
度の美的特性を備えているということもできない。)。
なお,原告各製品について原告が保護を求めているところのものは,結局のとこ
ろ,前示のとおり意匠法が意匠として保護を予定している量産され工業上利用可能
な物品の形状等そのものであり,原告製品9と同一の形状とみられる意匠について
現に意匠登録もされている(ただ,被告各商品の販売開始時期に比してその出願・
登録が遅かったにすぎない。)ものである。
(4)以上によると,原告各製品は,著作権法2条1項1号所定の著作物には当た
らないというべきである。
したがって,被告による被告各商品の製造販売が原告各製品に係る著作権(複製
権又は翻案権)を侵害するということはできない。
2原告図画に係る著作権侵害の成否について
(1)前記前提事実に証拠(甲4,乙4)及び弁論の全趣旨を総合すると,原告図
画は,原告各製品ないしこれに類似する製品を製作するための,あくまで工業用の
デザイン画の域を出ないものと認められる。そうすると,原告図画は,「学術的な
性質」を有する図面(著作権法10条1項6号)とはいえないことはもとより,前
記1で原告各製品について説示したところに照らし,直ちに著作権法上の著作物に
当たるとはいい難い。
(2)もっとも,原告は,「原告図画は,あたかも画家がスケッチするようなタッ
チで描かれたものであって,特にデザイン画中の影の表現等は絵画的な表現形式で
あり,美術の著作物に当たる。」と主張する。
そこで検討するに,原告図画について,前記(1)の原告各製品等工業製品の製作と
は離れて,純粋に白黒のスケッチ画として見るとすると,3次元の被告各商品とは
形状や色彩等において全く異なるし,仮に原告の指摘する影の表現等の絵画的な特
徴をもって創作性を認めるとした場合,その特徴は被告各商品には何ら現れていな
いから,被告各商品から原告図画の表現形式上の本質的特徴は感得することができ
ないというほかはない。
また,被告各商品が原告図画に依拠して作られたとの事実を認めるに足りる証拠
もない。
そうすると,いずれにせよ,被告各商品が原告図画の複製にも翻案にも当たらな
いことは明らかである。
(3)以上によると,被告による被告各商品の製造販売が原告図画に係る著作権(複
製権又は翻案権)を侵害するということはできない。
3結論
よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由が
ないから,これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官
嶋末和秀
裁判官
笹本哲朗
裁判官
天野研司
(別紙)
特許請求の範囲
親指を挿入する親指挿入穴と固形物を掴み取る第1パッドとを有する第1箸部材で
あって,第1箸部材の上部に親指挿入穴を形成し,第1箸部材の下端に第1パッド
を形成した第1箸部材と,
人差し指および中指を挿入する保持ユニットと,保持ユニットの固定位置を調節す
る調節手段と,固形物を掴み取る第2パッドとを有する第2箸部材であって,この
保持ユニットが人差し指を挿入する人差し指挿入穴と中指を挿入する中指挿入穴と
を有し,第2パッドを第2箸部材の下端に形成した第2箸部材と,
第1箸部材および第2箸部材の上部に形成され,第1箸部材および第2箸部材を所
定の間隔で結合する結合手段とを有する,知的能力を発達させる練習用箸。

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛