弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を取り消す。
     被控訴人の請求を棄却する。
     訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
         事    実
 一、 当事者双方の申立
 控訴代理人は、主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求め
た。
 二、 被控訴代理人の主張
 (一) 請求の原因
 (1) 被控訴人は、昭和四〇年一二月二〇日甲府地方裁判所昭和四〇年(ケ)
第二〇号不動産任意競売事件につき、原判決添付甲号目録記載の土地の所有権を競
落により取得し、昭和四一年二月九日被控訴人名義に所有権移転登記を経由した。
 (2) 控訴人Aは、同甲号目録第一記載の土地上に同乙号目録第一記載の建物
を、同甲号目録第一、第二記載の土地上に同乙号目録第二、第三記載の建物を、所
有している。
 (3) 控訴人Bは、同乙号目録第一ないし第三記載の建物(以下本件第一ない
し第三の建物と称する)に居住して、同甲号目録第一、第二記載の土地(以下本件
第一、第二の土地と称する)を占有している。
 (4) よつて、控訴人Aに対して右建物収去、同Bに対して右建物退去ならび
に、それぞれ右土地明渡を求める。
 (二) 控訴人らの抗弁に対する答弁
 (1) 本件第一、第二の土地および本件第一ないし第三の建物がいずれもCの
所有であつたことおよび控訴人Aがその主張の日Cから本件第一ないし第三建物を
買い受けて所有権移転登記を経たことは認めるが、控訴人Bが控訴人Aから右建物
を賃借していることは否認する。
 (2) 控訴人AがCから本件第一、第二土地上の本件第一ないし第三建物を買
い受け右土地の賃借権を取得したとしても、これに先立つ昭和四〇年五月一〇日右
土地につき抵当権実行による競売申立登記がなされており、したがつて、右土地賃
借権の設定は右土地について差押による処分禁止の効力が生じた後であるから、控
訴人Aは右賃借権をもつて競落人たる被控訴人に対抗しえないのみならず、これに
代わつて法定地上権が成立する余地もない。
 (3) Cは、さきに本件第一、第二土地上に(イ)木造瓦葺平家建工場一棟建
坪一六一・一五平方メートル(四八坪七合五勺)および(ロ)木造セメント瓦葺平
家建便所一棟建坪一・六五平方メートル(五合)を所有し、これにつき保存登記を
了していたが、昭和三四年中に右建物を全部とりこわしながら、その滅失登記手続
をすることなく、昭和三八年頃本件第一、第二土地上に本件第一ないし第三建物を
建築所有し、これについて所有権保存登記もされなかつたところ、控訴人Aが右建
物を取得した際、前記(イ)および(ロ)の建物について売買がなされたものとし
て同控訴人に所有権移転登記がなされ、その後昭和四二年六月二〇日にいたり、右
滅失した建物の登記がなお残存しているのを利用して、(イ)の建物につき昭和三
八年七月一〇日一部取毀を原因としてその建坪を三三・二一平方メートル(一〇坪
六勺)と、(ロ)の建物につきこれを分割してその構造を木造瓦葺平家建として、
更正登記がなざれたものであり、したがつて、本件第一ないし第三建物は右登記さ
れた建物と同一性を有せず、本件第一ないし第三建物はその登記を欠くものという
べきであるから、控訴人Aはその敷地の競落人たる被控訴人に対して法定地上権を
対抗しえない。
 (4) かりに、前記(イ)および(ロ)の建物と本件第一ないし第三建物とが
同一性を失つていないとしても、本件各建物は、当初甲府市a町b番地、ついで昭
和四〇年九月一日からは同市c丁目d番地に所在するものとして登記され、昭和四
二年六月二〇日にいたつて、漸く本件第一、第二土地上に所在するものとして更正
登記がなされたものであり、したがつて、本件各建物は、Cが本件第一、第二土地
について抵当権を設定した当時および被控訴人が右土地を競落取得した当時登記簿
上本件第一、第二土地上に存在するものとはされていなかつたのであるから、本件
各建物のため右土地上に法定地上権が成立するによしなく、また、その後右のよう
に更正登記がされてはいるが、右登記が本件建物についてなされたものといいえな
いこと前記のとおりである以上、これにより法定地上権が成立しないことにかわり
はない。
 三、 控訴代理人の主張
 (一) 請求の原因に対する答弁
 被控訴人主張の請求原因事実は、すべて認める。
 (二) 抗弁
 本件第一、第二土地およびその地上の本件第一ないし第三建物はいずれもCの所
有であつたところ、同人は昭和三九年六月九日右各土地につき大和商事株式会社に
対して根抵当権を設定したが、控訴人Aは、昭和四〇年一〇月一〇日稔から本件各
建物を買い受けるとともに、本件各土地につき賃借権の設定を受け、右同日控訴人
Bに対して右建物を賃料一か月七〇〇〇円の約で賃貸し、同年一一月九日控訴人A
名義に右建物の所有権移転登記を経由したものであり、被控訴人の本件土地競落取
得により、控訴人Aの本件土地賃借権は消滅するが、同時に同控訴人のため本件土
地について法定地上権が成立するから、同控訴人は右法定地上権をもつて被控訴人
に対抗しえ、同控訴人から本件建物を賃借する控訴人Bも適法に本件土地を占有し
うる。
 (三) 抗弁に対する答弁についての反駁
 (1) 控訴人AがCから本件第一、第二土地の賃借権の設定を受けた時期が右
土地について競売申立登記のなされた後であることは認めるが、右土地の競落の場
合、法定地上権は右土地賃借権と関係なく成立しうるものというべきである。
 (2) Cは、昭和三八年七月一〇日頃被控訴人主張の(イ)および(ロ)の建
物を一部とりこわして、本件第一ないし第三の建物としたところ、その後控訴人A
の右建物買受後、これについて昭和四二年六月二〇日被控訴人主張のとおりの更正
登記がなされたものであり、右(イ)および(ロ)の建物と本件第一ないし第三建
物とは同一性を失つていないから、本件第一ないし第三建物について登記を欠くも
のとはいえない。
 (3) 本件第一土地は、昭和四〇年九月一日町名地番変更前は、登記簿上甲府
市e町f番のg宅地一〇五坪のうちの一部であり、本件第二土地は、同じく同町f
番のh宅地七五坪であつたところ、右同日の町名地番変更にあたり、右上地上の本
件第一ないし第三建物(右同日前は登記簿上前記(イ)および(ロ)の建物)の所
在地番の表示が、登記官吏の過誤によつて、同市e町i番のjの新地番である同市
c丁目k番と記載され、したがつて、本件各建物は登記簿上本件第一、第二土地上
に存在しないこととなつたが、右記載は明白な誤謬によるものであつたため、昭和
四二年六月二〇日被控訴人主張の更正登記に際して、本件第一建物の所在地番の表
示が本件第一の土地、本件第二、第三建物の所在地番の表示が本件第一、第二の土
地と更正されたのであり、被控訴人は、本件第一、第二土地の競落にあたつて、右
上地上に本件第一ないし第三建物が存在していることを了知していたものである。
 四、 証拠
 被控訴代理人は、甲第一号証を提出し、当審証人梶原武雄の証言を援用し、乙第
四号証の成立は不知であるがその余の乙号各証の成立を認めると述べ、控訴代理人
は、乙第一ないし同第八号証を提出し、当審証人Cおよび同Dの各証言を援用し、
甲第一号証の成立を認めると述べた。
         理    由
 被控訴人主張の請求原因事実は、すべて当事者間に争いがない。
 控訴人らは、本件土地の占有権原について、控訴人Aは法定地上権に基づいて本
件土地上に本件建物を所有し、控訴人Bは控訴人Aから本件建物を賃借しているも
のであると主張するから、この点について判断する。
 本件土地およびその地上の本件建物がいずれももとCの所有であつたところ、同
人が昭和三九年六月九日大和商事株式会社に対して本件土地につき抵当権を設定し
たことならびに控訴人Aが昭和四〇年一〇月一〇日Cから本件建物を買い受け同年
一一月九日同控訴人名義に所有権移転登記を経由したことは、当事者間に争いがな
く、被控訴人がその後昭和四〇年一二月二〇日本件土地を競落取得し昭和四一年二
月九日被控訴人名義に所有権移転登記を経由したことは、前記のとおりである。こ
のように、同一所有者に属する土地およびその地上建物のいずれか一方について抵
当権が設定された場合には、競売の場合につき法定地上権が成立することは、民法
三八八条の規定するところであり、また、右抵当権設定の当時において土地および
その地上建物が同一所有者に属する場合には、その後両者がその所有者を異にする
にいたつても、競売の場合につき法定地上権が成立するものというべきである。
(大正一二年一二月一四日大審院連合部判決。民集二巻六七六頁)。
 そうとすれば、本件においても、被控訴人の本件土地競落取得とともに控訴人A
のため本件土地について法定地上権が成立すべき場合にあたるものということがで
きる。
 ところで、被控訴人は、控訴人Aが本件建物買受に際して本件土地の賃借権を取
得したとしても、その時期は本件土地について競売申立登記がなされた昭和四〇年
五月七日の後であるから、右土地賃借権の設定は処分禁止の効力に牴触して無効で
あり、したがつて、これに代わつて法定地上権が成立する余地がないというから考
える。当審証人Cの証言によれば、控訴人AはCから本件建物を買い受けるととも
に(右買受の日は、前記のとおり昭和四〇年一〇月一〇日である。)、同人から本
件土地を賃借したことが認められ、そうとすれば、同人の右土地賃借権の設定は右
土地について競売申立登記のなされた同年五月七日に後れることが明らかである。
したがつて、右土地賃借権の設定が競売申立登記による処分禁止に牴触することは
被控訴人の主<要旨>張するとおりである。しかし、法定地上権は、抵当権設定当時
当該土地およびその地上建物が同一所有者に属していた事実がある場合に土
地または地上建物の競売によつて当然に成立するものであつて、右のように、抵当
権設定後競売の時までに土地と地上建物とがその所有者を異にするにいたつた場合
競売により成立する法定地上権は、建物所有者が土地所有者から設定を受けていた
土地利用権とはなんらの関係もないのである。むしろ、法定地上権は、建物のため
の土地利用権を存続せしめようとする抵当権設定当事者の意思の推測にその根拠を
おくものであつて、同一所有者に属する土地および地上建物のうち土地のみについ
て抵当権が設定された場合には、将来抵当権の実行によつて右土地が第三者の所有
に属する結果土地所有者と建物所有者が異なるにいたることが当然予定されている
のであり、このような場合、わが民法は、いわゆる自己借地権すなわち自己の所有
地に対する自己のための借地権の設定を認めることなく、競落によつて所有者が異
なるにいたつてはじめて建物所有者のため地上権を設定したものとみなして、建物
の存立を維持し、もつて抵当権設定当事者の意図し予期するところを実現しようと
するものである。そうであるとすれば、土地および地上建物の所有者が土地につい
て抵当権を設定したことにより、土地所有権はすでに潜在的には土地利用権をにな
つており、右利用権は建物所有権とその帰趨を共にする存在となつたものというべ
く、したがつて、その後土地について競売申立登記がなされ処分禁止の効力が生じ
たとしても、土地利用権になんら影響を及ぼすものではないというべきである。こ
のように解しても、すでに土地について抵当権を設定する当時、将来地上建物所有
のための土地利用権によつて制限を受けることを当然に予期していたというべき抵
当権者もしくは競落人に対して、なんら不測の損害を与えるおそれはない。したが
つて、控訴人AがCから本件土地を賃借した時期が競売申立登記に後れていたこと
をもつて、法定地上権の成立を妨げる理由とすることはできない。
 次に、被控訴人は、本件第一ないし第三建物については、すでに滅失した建物に
ついて登記のみが残存しているのを利用して更正登記がなされたものであつて、実
質的には登記を欠くものであるから、法定地上権をもつて競落人に対抗しえないと
いう。しかし、右主張事実を認めるに足りる証拠はなく、かえつて、成立に争いの
ない乙第一ないし同第三号証および同第五号証ならびに当審証人C、同Dおよび同
Eの各証言によれば、Cは、さきに本件土地上に木造セメント瓦葺平家建工場一棟
建坪四八坪七合五勺(一六一・一五平方メートル)およびその付属建物として木造
セメント瓦葺平家建便所一棟建坪五合(一・六五平方メートル)を所有し、構造お
よび坪数を右のとおり表示した所有権保存登記を経ていたところ、昭和三八年頃ま
でに、右建物を大部分とりこわして、現存する本件第一ないし第三建物のみを残し
たのであるが、昭和四〇年九月一日登記簿上構造を木造瓦葺平家建と変更し、被控
訴人が本件土地を競落取得した後の昭和四二年六月二〇日にいたつて、前記工場建
物につき、一部取毀を原因とする更正登記の方法により建坪を三三・二一平方メー
トル(これが本件第二、第三建物にあたる)とし、前記便所建物につき、これを分
割して建坪を一・六五平方メートル(これが本件第一建物にあたる)としたことが
認められる。したがつて、本件土地の抵当権設定当時においても、また被控訴人が
本件土地を競落した当時においても、本件第一ないし第三建物について、その記載
内容に事実と符合しない部分があるにせよ登記が存在したものというに難くないか
ら、被控訴人の右主張は採用するに足りない。
 さらに、被控訴人は、本件第一ないし第三建物はいずれも本件土地の抵当権設定
当時および被控訴人が本件土地を競落した当時登記簿上本件土地上に存在していな
かつたから、法定地上権は成立しえないという。成立に争いのない乙第一ないし同
第三号証および同第五ないし同第八号証によれば、本件土地について抵当権が設定
された昭和三九年六月九日当時は、本件第一ないし第三建物は登記簿上甲府市e町
l丁目m番地に所在するものとして表示されており、右地番の表示は、昭和四〇年
九月一日町区域および名称変更前の本件第一、第二土地を表示するものと認められ
るから、右抵当権設定当時においては、本件建物は登記簿上も本件土地上に存在し
ていたものということができる。しかし、被控訴人が本件土地を競落取得した昭和
四〇年一二月一〇日当時、本件建物は、本件土地上ではなく、これとは別個の甲府
市c丁目d番地上に存在するものとして表示されていたことが認められるが、右記
載は、右乙号各証の記載および弁論の全趣旨に徴すれば、右町区域および名称変更
に伴う変更登記にあたり登記官吏の過誤によつてなされたことを窺いうるのであつ
て、これを理由に本来当然に成立すべき法定地上権の取得を否定することは、法定
地上権者たるべき者の利益を著しく害するものであつて、許されないところといわ
なければならないのみならず、土地競落人としても、当該土地の現況を調査すれば
現に建物の存在することを容易に知りえたものであるから、土地競落の際の地上建
物の登記について前記のような記載がなされていたとしても、これにより法定地上
権の成立はなんら妨げるものではないと解すべきである。
 してみれば、控訴人Aは被控訴人の本件土地競落とともに当然本件土地について
法定地上権を取得し、これをもつて被控訴人に対する関係で適法に本件土地を占有
しうるものといわなければならない。
 さらに、当審証人Cの証言によれば、控訴人Aは、Cから本件第一ないし第三の
建物を買い受けるとともに、これを控訴人Bに賃貸したことが認められ、したがつ
て、同控訴人も控訴人Aのための前記法定地上権の成立に伴い、被控訴人に対する
関係で適法に本件土地を占有しうるものというべきである。
 よつて、被控訴人の本訴請求を認容した原判決は失当であつて、本件控訴は理由
があるから、民訴法三八六条により、原判決を取り消し、被控訴人の請求を棄却す
ることとし、訴訟費用の負担につき、同法九六条、八九条を適用して、主文のとお
り判決する。
 (裁判長裁判官 三淵乾太郎 裁判官 園部秀信 裁判官 森綱郎)

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