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平成23年12月15日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成23年(行ケ)第10240号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成23年12月8日
判決
原告セキセイ株式会社
同訴訟代理人弁理士宮崎栄二
原田智裕
被告特許庁長官
同指定代理人齋藤孝惠
遠藤行久
板谷玲子
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2010-24421号事件について平成23年6月9日にした審
決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が,下記1の意匠登録出願に対する下記2のとおりの手続において,
原告の拒絶査定不服審判の請求について特許庁が同請求は成り立たないとした別紙
審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4の取
消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1本願意匠(甲5)
意匠に係る物品:「印刷用はくり紙」
意匠の形態:別紙審決書(写し)の「別紙第1」(以下「別紙第1」という。)
のとおり(以下「本願意匠」という。)
出願番号:意願2009-19173号
出願日:平成21年8月21日
2特許庁における手続の経緯
拒絶査定日:平成22年8月19日(甲8)
審判請求日:平成22年10月29日(不服2010-24421号)
審決日:平成23年6月9日
本件審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」
審決謄本送達日:平成23年6月30日
3本件審決の理由の要旨
(1)本件審決の理由は,要するに,本願意匠は,下記引用例に記載された意匠
(その形態は別紙審決書(写し)の「別紙第2」(以下「別紙第2」という。)の
とおり。以下「引用意匠」という。)に基づいて容易に意匠の創作をすることがで
きたものであるから,意匠法3条2項の規定に該当し,意匠登録を受けることがで
きない,としたものである。
引用例:大韓民国意匠商標公報2009年3月13日09-05号ミニアルバム
用写真印刷用紙(登録番号30-05226251)の意匠(特許庁普及支援課が
平成21年4月16日に受入れ。特許庁意匠課公知資料番号第HH2140928
0号。甲1)
(2)なお,本件審決は,その前提として,本願意匠及び引用意匠を,以下のと
おり認定した。
ア本願意匠:写真等が印刷可能な印刷部を台紙から剥がし冊子状にして使用可
能な「印刷用はくり紙」に係り,横長長方形状の台紙の表面に2段の横長帯状の印
刷部(以下「帯状印刷部」という。)を設け,帯状印刷部には実線で囲まれた横長
矩形状が2つずつ配され,その中央に縦方向にミシン目を設けたもので,ミシン目
は上下の余白部にも設けられ,使用時には山折りにする縦の実線部や谷折りにする
破線部のミシン目に沿って蛇腹状に折り曲げ,裏面を貼り合わせることにより,冊
子状に形成できるもの
イ引用意匠:写真等が印刷可能な印刷部を台紙から剥がし冊子状にして使用可
能な「ミニアルバム用写真印刷用紙」に係り,横長長方形状の台紙の表面に4段の
横長帯状の帯状印刷部を設け,帯状印刷部には,実線と破線で囲まれた横長隅丸矩
形状が5つずつ配され,その中央に縦方向にミシン目を設け,細帯状の表紙用の背
当て部が設けられている横長隅丸矩形状を有する帯状印刷部と背当て部を有さない
帯状印刷部を交互に設けたもので,使用時には破線部や中央のミシン目に沿って蛇
腹状に折り曲げ,裏面を貼り合わせることにより,冊子状に形成できるもの
(3)また,本件審決は,以下の意匠を参考意匠としている。
ア参考意匠1:特開2005-161656号の【図2】の意匠(別紙審決書
(写)の「別紙第3」。甲2)
イ参考意匠2:特開2006-187971号の【図1】の意匠(別紙審決書
(写)の「別紙第4」。甲3)
4取消事由
本願意匠の創作容易性に係る判断の誤り
第3当事者の主張
〔原告の主張〕
(1)本願意匠の認定の誤りについて
本件審決は,帯状印刷部を除いた台紙の余白部形状に係る特徴に何ら言及してい
ない点において誤りがある。
すなわち,本願意匠は,
a写真等が印刷可能な印刷部を台紙から剥がし冊子状にして使用可能な「印刷
用はくり紙」に係り,
b横長長方形状の台紙の表面に2段の横長帯状の印刷部を設け,
c帯状印刷部には実線で囲まれた横長矩形状が2つずつ配され,その中央に縦
方向にミシン目を設けたもので,ミシン目は上下の余白部にも設けられ,使用時に
は山折りにする縦の実線部や谷折りにする破線部のミシン目に沿って蛇腹状に折り
曲げ,裏面を貼り合わせることにより,冊子状に形成できるものであり,
d上記ミシン目を上下の帯状印刷部において連続させかつ台紙の縦幅いっぱい
に形成することで帯状印刷部を除く台紙の余白部が「E,三,3」の文字・数字の
形状を呈するように配置した構成
とするものであり,上記dの構成も含めて認定されるべきである。
(2)帯状印刷部の段数及び配置について
本件審決は,本願意匠において,帯状印刷部を上下2段にすることも,各帯状印
刷部の台紙へのレイアウト及び余白部も,格別の工夫を認めることができないと判
断したが,余白部が「E,三,3」の文字・数字の形状を呈するような構成態様は,
ありふれた態様ではなく,引用意匠にも参考意匠1にも示されていない。
(3)本願意匠の特徴の示唆ないし動機付けについて
本件審決は,本願意匠における引用意匠と相違する個々の構成態様がありふれた
態様にすぎないとし,その結果,全体として本願意匠は創作容易と判断したが,誤
りである。
意匠の創作容易性を判断するに当たっては,公知意匠等の内容に本願意匠の特徴
に到達するためにしたはずであるという示唆,動機付けの存在が必要であるという
べきである。しかるに,参考意匠1,2を考慮して引用意匠に基づいても,容易に
創作できる意匠としては,甲第4号証に示す参考図に示すものが得られるにすぎな
い。すなわち,本願意匠は,ミシン目を上下の帯状印刷部に連続させかつ台紙の縦
幅いっぱいに形成して,全体の印象として,帯状印刷部を除いた台紙の余白部形状
が「E,三,3」の文字・数字形状を模した特有の美感を起こさせる意匠を創作し
たものであり,このような余白部形状につき,引用意匠及び参考意匠1,2は示唆
するものではない。
(4)ミシン目の形成について
本件審決は,本願意匠のようにミシン目を上下の余白部にも設けたものが,本願
意匠の出願前より公然知られ,その態様に独自の特徴を認めることはできず,印刷
物の折り線を上下の余白部にまで延伸しただけのものであって,普通に見られるあ
りふれた態様を採用したまでのものにすぎないと判断したが,誤りである。
参考意匠1には,各印刷部にミシン目を施し,各ミシン目を連続的に結合しかつ
台紙の縦幅いっぱいに形成する発想は全くない。したがって,参考意匠1のミシン
目の構成態様に照らせば,引用意匠における各帯状印刷部の間の余白部分にミシン
目を形成して上下の帯状印刷部をミシン目によって区画する構成態様が得られるに
すぎない。よって,本願意匠において,2本のミシン目を上下2段の帯状印刷部を
横断して台紙の縦幅いっぱいに形成する構成態様は,普通に見られるありふれた態
様ではない。しかも,本願意匠は,上下2段に配置する帯状印刷部に対して,2本
のミシン目を横断して形成することによって、台紙の余白部が「E,三,3」の文
字・数字のような形状を呈する美感を起こさせているが,このような構成態様は,
参考意匠1にも引用意匠にも存在せず,本願意匠特有の構成である。
(5)横長矩形状の角部の態様及び実線と破線との組合せについて
本件審決は,本願意匠において,帯状印刷部における横長矩形状の角部を直角状
とし,横長矩形状の中央にミシン目を施すことは,ありふれた態様であると判断し
たが,2本のミシン目を含めた形態は,ありふれた態様ではない。
本願意匠は,帯状印刷部を構成する左右の横長矩形状の四隅部を丸めず直角状と
することで,左右の横長矩形状の各々の区別が薄れ,しかも,横長矩形状間の隅部
が直角状であることから,2本のミシン目間の余白部が「三」の文字形状を形成し
ている。参考意匠2は,長方形状の用紙1の中央部にミシン目3を形成する構成が
示されているにすぎず,ミシン目を上下2段の帯状印刷部を横断して台紙の縦幅い
っぱいに形成する契機となるものではない。
〔被告の主張〕
(1)本願意匠の認定の誤りについて
使用に供する帯状印刷部の態様が本願意匠の要部であって,その点に創作の主眼
が置かれることから,創作非容易性の有無の判断において必要な態様に絞って記載
したまでであり,余白部の構成を明示的に記載していないからといって直ちに審決
に誤りがあるということにはならない。
原告は,帯状印刷部を除く台紙の余白部が「E,三,3」の文字・数字の形状を
呈するように配置した構成であるとするが,これは,台紙の略「日」の字状を呈す
る余白部と上下の余白部に設けられたミシン目とを組み合わせて,あたかも特異な
構成としたかの如く表現しているにすぎない。
(2)帯状印刷部の段数及び配置について
帯状印刷部と帯状印刷部の間に細い余白部を有する点は,引用意匠に表されてい
るとおりであり,横長矩形状を上下2段左右2列に配列することは,普通に行われ
ていることである。また,同形の横長矩形状を左右に連続させて複数配列すること
も,普通に行われていることであり,ミシン目を台紙の縦幅いっぱいに形成するこ
とも,本願意匠の出願前より普通に行われていることである。
本願意匠の形状は,帯状印刷部と帯状印刷部の間に細い余白部を有する引用意匠
を基本とし,この帯状印刷部を,単に,左右2列に横長矩形状が並んだ構成のもの
として,これを上下2段に配列し,帯状印刷部に形成された2本のミシン目を,台
紙の縦幅いっぱいに上下に延伸させたまでにすぎない。
したがって,本件審決が,本願意匠の帯状印刷部を上下2段とする各帯状印刷部
の台紙へのレイアウト及び余白部も,格別の工夫を認めることができないと判断し
た点に誤りはない。
(3)本願意匠の特徴の示唆ないし動機付けについて
本願意匠の余白部形状について,各印刷部同士の間及び台紙の周縁部に余白部を
設けること自体は,ごく普通に行われていることである。そして,帯状印刷部を何
段にするか,帯状印刷部を構成する横長矩形状を何個設けるかは,その台紙の大き
さや冊子の頁数に制約されるところがあり,必要に応じて様々な段数の帯状印刷部
や,様々な個数の矩形状部が設けられるものであるから,引用意匠において帯状印
刷部が2段であれば,余白部全体は略「日」の字状となり,この「日」の字状の余
白部を縦方向に2本のミシン目で仕切れば,余白部は左側が略「E」字状,中央部
が漢字の「三」の字状,右側が数字の略「3」の字状に自然となるのであって,原
告の主張は,単に帯状印刷部が2段であり,これを縦断して台紙の縦幅いっぱいに
2本のミシン目が形成されていることを余白部に着目して述べたに過ぎない。
したがって,本件審決が本願意匠における引用意匠と相違する個々の構成態様が
ありふれた態様にすぎないとし,全体として本願意匠は創作容易であると判断した
点に誤りはない。
(4)ミシン目の形成について
印刷用紙の分野において,ミシン目をその台紙いっぱいまで形成することは,本
願意匠の出願前より普通に認められるところ,本願意匠は,帯状印刷部の谷折り線
であるミシン目をその上下に延伸して,縦幅いっぱいに形成したまでのものであっ
て,帯状印刷部の有無にかかわらず,台紙の上下端に通す態様であることに変わり
はないことから,特段の創作を要したものではない。
したがって,本件審決が,ミシン目について,普通に見られるありふれた態様を
採用したまでのものにすぎないと判断した点に誤りはない。
(5)横長矩形状の角部の態様及び実線と破線との組合せについて
帯状印刷部における横長矩形状の四隅部を直角状とすることは,この種の印刷用
紙の分野においては,極めて普通のありふれた態様といえるもので,特徴となる点
とはいえず,その横長矩形状の中央にミシン目を設けることも普通に知られ,中央
にミシン目を有する横長矩形状を横長長方形状の台紙に配列することも,本願意匠
の出願前よりありふれた態様であり,本願意匠の横長矩形状の態様に格別の創作が
認められるものではない。
印刷用はくり紙の分野において,ミシン目を介して折り畳み可能に連接された複
数の横長矩形状の紙片を台紙にはくり可能に配置することは,本願意匠の出願前よ
りありふれた態様であり,特徴のないものといえる。また,この種の印刷用紙の分
野においては,折り畳みのための山折りと谷折りを区別するために,その指示線を
区別して表すことも,本願意匠の出願前より写真用アルバム作成用の印刷用用紙と
して既に行われていることであって,容易に想到できるというほかない。
したがって,本件審決が,帯状印刷部における横長矩形状の角部を直角状とし,
横長矩形状の中央にミシン目を施すことについて,これをごく普通の態様であると
し,格別の創作と認めることができないと判断した点に誤りはない。
第4当裁判所の判断
1本願意匠の創作容易性について
(1)意匠法3条2項について
意匠法3条2項は,物品との関係を離れた抽象的なモチーフとして日本国内にお
いて広く知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(周知のモチーフ)を
基準として,それからその意匠の属する分野における通常の知識を有する者(以下
「当業者」という。)が容易に創作することができた意匠でないことを登録要件と
したものであり,上記の周知のモチーフを基準として,当業者の立場からみた意匠
の着想の新しさないし独創性を問題とするものである(最高裁昭和45年(行ツ)
第45号同49年3月19日第三小法廷判決・民集28巻2号308頁,最高裁昭
和48年(行ツ)第82号同50年2月28日第二小法廷判決・裁判集民事114
号287頁参照)。
(2)本願意匠の認定
本願意匠は,別紙第1の図面に記載されたとおりのものである。
すなわち,意匠に係る物品は,写真等が印刷可能な印刷部を台紙から剥がし冊子
状にして使用可能な「印刷用はくり紙」である(別紙第1「意匠に係る物品の説
明」)。そして,本願意匠は,横長長方形状の台紙の表面に2段の横長帯状の印刷
部(帯状印刷部)を設け,帯状印刷部には実線で囲まれた横長矩形状が2つずつ配
され,その中央に縦方向にミシン目を設け,ミシン目は上下の余白部にも設けられ
たものである。なお,使用時には山折りにする縦の実線部や谷折りにする破線部の
ミシン目に沿って蛇腹状に折り曲げ,裏面を貼り合わせることにより,冊子状に形
成できるものである(別紙第1「使用状態を示す参考図1,2」)。
(3)引用意匠の認定
引用意匠は,別紙第2の図面に記載されたとおりのものである。なお,本件審決
の引用意匠の認定については,争いがない。
すなわち,引用意匠は,写真等が印刷可能な印刷部を台紙から剥がし冊子状にし
て使用可能な「ミニアルバム用写真印刷用紙」に係る。引用意匠は,右に90度回
転すると,横長長方形状の台紙の表面に4段の横長帯状の帯状印刷部を設け,帯状
印刷部には,実線と破線で囲まれた横長隅丸矩形状が5つずつ配され,その中央に
縦方向にミシン目を設け,5つのうち1段目と3段目の最も右側の横長隅丸矩形状
は,中央に細帯状の表紙用の背当て部が設けられており,その余の横長隅丸矩形状
は背当て部を有さないものである。また,使用時にはミシン目に沿って蛇腹状に折
り曲げ,裏面を貼り合わせることにより,冊子状に形成できるものである。
(4)本願意匠と引用意匠との対比
ア上記(2)(3)によれば,本願意匠と引用意匠とは,以下の点において共通する。
(ア)写真等が印刷可能な印刷部を台紙から剥がし冊子状にして使用可能な印刷
用紙であり,使用時には折り目やミシン目に沿って蛇腹状に折り曲げ,裏面を貼り
合わせることにより,冊子状に形成できるものである点
(イ)横長長方形状の台紙の表面に,複数の横長帯状の帯状印刷部を設けている

(ウ)帯状印刷部には,複数の横長矩形状が配され,中央に縦方向にミシン目が
設けられている点
イまた,上記(2)(3)によれば,本願意匠と引用意匠とは,以下の点において相
違する。
(ア)横長長方形状の台紙の表面に設けられた横長帯状の帯状印刷部について,
本願意匠は,2段の帯状印刷部を設け,それぞれの帯状印刷部に2つの横長矩形状
が配されているのに対し,引用意匠は,4段の帯状印刷部を設け,それぞれの帯状
印刷部に5つの横長隅丸矩形状が配されている点
(イ)横長矩形状について,本願意匠は,いずれも,実線で囲まれ,その中央に
縦方向に上下の余白部までミシン目を設けたものであるのに対し,引用意匠は,帯
状印刷部の輪郭が実線で囲まれ,1段目と3段目の最右のものには中央に細帯状の
表紙用の背当て部が設けられており,それ以外は,いずれも隣接する横長隅丸矩形
状との間及び中央に縦方向にミシン目を設けたものである点
(5)創作容易性
ア帯状印刷部の段数及び構成について
上記のとおり,引用意匠は,4段の帯状印刷部を設け,それぞれの帯状印刷部に
5つの横長隅丸矩形状が配されているのに対し,本願意匠は,2段の帯状印刷部を
設け,それぞれの帯状印刷部に2つの横長矩形状が配されている。
本願意匠出願前に,さまざまな段数の帯状印刷部を設け,それぞれの帯状印刷部
にさまざまな個数の横長矩形状が配されている印刷用台紙が存在し,横長矩形状に
も四隅が隅丸のものも直角状のものも存在していたこと(乙1),そして,2段の
帯状印刷部を設け,それぞれの帯状印刷部に四隅が直角状の2つの横長矩形状が配
されている印刷用紙の態様があったこと(甲2)に照らせば,公知の引用意匠の上
記構成から,本願意匠の上記構成を創作することに,着想の新しさないし独創性を
見出すことはできず,当業者が容易に創作することができたものといわざるを得な
い。
イ横長矩形状について
上記のとおり,引用意匠は,帯状印刷部の輪郭が実線で囲まれ,1段目と3段目
の最右のものには中央に細帯状の表紙用の背当て部が設けられており,それ以外は,
いずれも隣接する横長隅丸矩形状との間及び中央に縦方向にミシン目を設けたもの
であるのに対し,本願意匠の横長矩形状は,実線で囲まれ,いずれもその中央に上
下の余白部まで縦方向にミシン目を設けたものである。
本願意匠の実線とミシン目は,いずれも蛇腹状に折り曲げるための線であるとこ
ろ(別紙第1「意匠に係る物品の説明」),実線とミシン目が折り方を区別する常
套手段であることは,原告が自認するところである。そして,印刷用紙の分野にお
いては,折り畳みのための山折りと谷折りを区別するために,その指示線を区別し
て表すことは,本願意匠の出願前から写真用アルバム作成用の印刷用用紙として既
に行われていることである(乙6)。また,ミシン目を実線にすること及びミシン
目を上下の余白部まで設けることは,当業者にとって,容易に創作することができ
る事項であり,さらに,背当て部を設けた引用意匠からそれをなくした本願意匠に
想到し創作することにも,格別の困難は見当たらない。
ウ小括
そうすると,横長長方形状の台紙の表面に,4段の横長帯状の帯状印刷部を設け,
それぞれの帯状印刷部に5つの横長隅丸矩形状が配され,帯状印刷部の輪郭が実線
で囲まれ,1段目と3段目の最右の横長隅丸矩形状には中央に細帯状の表紙用の背
当て部が設けられており,それ以外は,いずれも隣接する横長隅丸矩形状との間及
び中央に縦方向にミシン目を設けた公知の意匠から,2段の帯状印刷部を設け,そ
れぞれの帯状印刷部に2つの横長矩形状が配され,いずれもその中央に上下の余白
部まで縦方向にミシン目を設けた本願意匠を創作することは,いわばその一部を切
り取って横長矩形状の隅丸を直角状にし,ミシン目の一部を上下の余白部まで設け,
又は実線に変更する程度のものであり,その意匠の全体から見ても,本願意匠出願
時の当業者の立場からみて意匠の着想の新しさないし独創性があるとはいえず,容
易に創作することができたものというべきである。
よって,本願意匠は,意匠法3条2項に該当する。
(6)原告の主張について
ア本願意匠の認定について
原告は,本願意匠について帯状印刷部を除く台紙の余白部の形状も含めて認定さ
れるべきであると主張する。
しかしながら,本願意匠における帯状印刷部以外の余白部について,それが「E,
三,3」の文字又は数字の形状を呈しているとは,直ちにいうことができない。仮
に,本願意匠における帯状印刷部以外の余白部について,原告が主張するとおり,
それが「E,三,3」の文字又は数字の形状を呈しているとしても,本願意匠は,
冊子状にして使用可能な印刷用はくり紙に係るものであり,はくり紙の台紙は,通
常,印刷部である帯状印刷部を取り去った後は不要となるものであるから,使用に
供する帯状印刷部の態様こそが創作の中心になるものと解される。そのことからす
ると,本件審決が本願意匠の認定に際し余白部の構成を直接認定しなかったとして
も,余白部は台紙のうち帯状印刷部以外の部分を指すものであるから,帯状印刷部
の配置が認定されていることに照らし,それが直ちに結論に影響するとはいえない。
イ帯状印刷部の段数及び配置について
原告は,余白部が「E,三,3」の文字・数字の形状を呈するような構成態様は,
ありふれた態様ではなく,引用意匠にも参考意匠1にも示されていないと主張する。
しかしながら,まず,本願意匠の余白部が「E,三,3」の文字又は数字の形状
を呈しているとは直ちにいうことができないことは,前記のとおりである。引用意
匠と同様に,帯状印刷部と帯状印刷部の間に細い余白部が生じるように配列し,そ
れが2段であって,本願意匠出願前から普通に行われていたように,ミシン目を台
紙の紙幅いっぱいに形成した結果(甲2,3),帯状印刷部以外の余白部が,仮に
「E,三,3」の文字又は数字の形状を呈しているようにみえたとしても,このこ
とは,本願意匠の要部となる帯状印刷部の配列の結果にすぎないから,原告の上記
主張を採用することはできない。
ウ本願意匠の特徴の示唆ないし動機付けについて
原告は,帯状印刷部を除いた台紙の余白部形状が「E,三,3」の文字・数字形
状を模した特有の美感を起こさせる本願意匠の余白部形状につき,引用意匠等に示
唆がない旨主張する。
しかしながら,引用意匠において同形の帯状印刷部を2段とし,ミシン目を上下
の余白部まで設ければ,帯状印刷部以外の余白部の形状は,自ずと本願意匠のよう
な形状となるのである。意匠に係る物品が写真等が印刷可能な印刷部を台紙から剥
がし冊子状にして使用可能な印刷用紙であり,使用時には折り目やミシン目に沿っ
て蛇腹状に折り曲げ,裏面を貼り合わせることにより,冊子状に形成できるもので,
横長長方形状の台紙の表面に,複数の横長帯状の帯状印刷部を設けており,横長帯
状の帯状印刷部には,複数の横長矩形状が配され,中央に縦方向にミシン目が設け
られているという引用意匠と本願意匠との共通点に照らすと,引用意匠から本願意
匠を創作する動機付けは十分である。
エミシン目の形成について
原告は,参考意匠1には,各印刷部にミシン目を施し,各ミシン目を連続的に結
合しかつ台紙の縦幅いっぱいに形成する発想は全くなく,本願意匠において,2本
のミシン目を上下2段の帯状印刷部を横断して台紙の縦幅いっぱいに形成する構成
態様は,普通に見られるありふれた態様ではないと主張する。
しかし,ミシン目を台紙の紙幅いっぱいに形成することは,本願意匠出願前から
普通に行われていたものであり(甲2,3),原告の上記主張は,採用することが
できない。
オ横長矩形状の角部の態様及び実線と破線との組合せについて
原告は,本願意匠の2本のミシン目を含めた形態は,ありふれた態様ではないと
主張する。
しかしながら,上記のとおり,本願意匠の実線とミシン目とは,いずれも蛇腹状
に折り曲げるための線であり,実線とミシン目とが折り方を区別する常套手段であ
ることは,原告が自認するところである。よって,原告の上記主張は,採用するこ
とができない。
(7)本件審決の判断の当否
以上のとおり,本願意匠は,引用意匠から容易に創作することができるものと認
められるので,本件審決の判断は,結論において正当といわなければならない。
2結論
以上の次第であるから,原告の請求は棄却されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官滝澤孝臣
裁判官髙部眞規子
裁判官齋藤巌

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〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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71期修習生 72期修習生 求人
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職種 事務職
時給 当社規定による
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シフトは週40時間以上
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