弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を懲役2年6月に処する。
未決勾留日数中300日をその刑に算入する。
理由
【罪となるべき事実】
被告人は,
第1【平成31年2月12日付け起訴分(第1)】
公安委員会の運転免許を受けないで,平成30年7月15日午後0時49分頃,
大阪府和泉市a町b丁目c番d号付近道路において,普通乗用自動車を運転し,も
って無免許運転をするとともに,その頃,同所先の交通整理の行われていない交差
点を南東から南西に向かい左折進行するに当たり,同交差点左折方向出口には横断
歩道が設けられていたのであるから,同横断歩道を横断する自転車等の有無及びそ
の安全を確認して左折進行すべき自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り,
同横断歩道を横断する自転車等の有無及びその安全確認不十分のまま漫然時速約1
0kmで左折進行した過失により,折から同横断歩道を右(北西)から左(南東)
に向かい横断してきたA(当時8歳)運転の自転車を右前方約2.8mの地点に認
め,急制動の措置を講じたが間に合わず,同自転車左側面部に自車前部を衝突させ
て,Aを同自転車もろとも路上に転倒させ,よって,Aに加療約3日間を要する見
込みの上腹部打撲の傷害を負わせた。
第2【平成31年2月12日付け起訴分(第2)】
第1記載の日時場所において,同記載の車両を運転中,同記載のとおり,Aに傷
害を負わせる交通事故を起こし,もって自己の運転に起因して人に傷害を負わせた
のに,直ちに車両の運転を停止してAを救護する等必要な措置を講じず,かつ,そ
の事故発生の日時及び場所等法律の定める事項を,直ちに最寄りの警察署の警察官
に報告しなかった。
第3【令和元年11月26日付け起訴分(第1)】
Bと共謀の上,令和元年10月30日午前10時51分頃,大阪府岸和田市上野
町東24番10号にある大阪地方検察庁岸和田支部前路上において,Bが運転席に
乗車中の普通乗用自動車の助手席に乗り込むや,保釈が取り消された被告人の収容
業務に従事し,同車前方に佇立していた同支部検察事務官C(当時52歳)及び同
D(当時26歳)に対し,同車を急発進させ,同車前部をC及びDに順次衝突させ
て,Dを路上に転倒させる暴行を加え,もってその公務の執行を妨害するととも
に,前記暴行により,Cに加療約2週間を要する見込みの左膝関節捻挫,左膝打撲
挫創等の傷害を,Dに加療約7日間を要する見込みの左手部打撲傷,右肘擦過傷の
傷害をそれぞれ負わせた。
第4【令和元年11月26日付け起訴分(第2)】
第3記載の罪等を犯して逃走中,逮捕等を免れる目的で,令和元年10月30日
午後2時30分頃,大阪府泉大津市e町f番g号にあるhi号室のE方において,
電話で,さらに,同日午後3時7分頃から同日午後4時頃までの間,同市j町k丁
目l番m号にあるn付近路上から大阪府和泉市op丁目q番にあるr団地に至る路
上を走行中の自動車内において,情を知るFに対し,自己を匿うことを依頼し,F
にその旨決意させ,よって,Fに,同日午後4時頃から同日午後10時頃までの間
及び同月31日午前3時頃から同年11月1日午前11時14分頃までの間,前記
団地s号棟t号室のFの長男であるG方に自己を滞在させ,もって犯人蔵匿を教唆
した。
【証拠の標目】省略
【争点に対する判断】
1争点
判示第3の事実につき,弁護人は,被告人とBとの間には,公務執行妨害罪及び
傷害罪の共謀がないから,被告人は無罪であると主張している。
2前提事実
関係証拠によれば,以下の事実が認められる。
(1)被告人は,平成31年2月12日,無免許過失運転致傷及び道路交通法違
反被告事件で起訴され,同年3月20日付け保釈許可決定により保釈されたが,そ
の後,第2回公判期日(令和元年9月9日)及び第3回公判期日(同年10月10
日)に出頭せず,同年10月15日付けで保釈取消決定がなされた。
これを受けて,検察官は,被告人を収容するため,被告人に連絡をとり,同月3
0日に大阪地方検察庁岸和田支部(以下,単に「検察庁」という。)に出頭するよ
う要請した。
(2)被告人は,令和元年10月30日,Bが運転する自動車に乗車して検察庁
へ向かい,同日午前10時40分頃,検察庁に出頭した。
被告人は,取調室で検察官に対し,「収監ですか」と何度も尋ね,検察官から収
容する旨告げられると,被告人は,トイレに行きたいと述べて,トイレに入った。
その後,被告人は,「荷物を取りに行きたい」などと言って建物出入口に向かった
が,検察庁職員らに説得されて取調室に戻った。被告人は,一旦は取調室に入った
ものの,また「荷物を取りに行きたい」などと言って取調室を出て,「逃げません
って,荷物を取りに行きたい」などと繰り返しながら建物出入口に向かったため,
検察事務官らが被告人の周りを囲むように追従した。
なお,Bは,同日午前10時49分頃,検察庁前の路上に自動車を停車させ,被
告人を待っていた。
(3)被告人は,検察事務官4名に周りを囲まれながら検察庁の建物及び敷地か
ら出て,同日午前10時51分頃,検察庁前の路上に停車していた自動車に近づ
き,助手席側から乗り込んだ。運転席にいたBは,すぐに自動車を発進させ,前方
にいた検察事務官2名に自車前部を順次衝突させながら,その場から走り去った。
3共謀の成否
(1)検察事務官であるH及びI,そしてBの各証言を総合すると,被告人は,
自動車の助手席に乗り込む際,運転席にいるBに対して,「逃げて」,「車出し
て」,「行け」などと,車を発進させるよう求める発言をし,被告人が助手席ドア
を閉めるのとほぼ同時に,Bがアクセルを踏み込んで自動車が急発進した事実が認
められる。
各証人とも,近くで被告人の発言を聞いており,聞いた言葉自体は同一ではない
ものの,その意味するところに違いはなく,各証言は基本的な部分で符合してお
り,相互に信用性を高め合っている上,前記認定の事実経過に照らしても自然な内
容である。したがって,前記各証言は信用できる。
(2)これに対し,被告人は,パニックから逃れたかったため,Bに対して「助
けて」とは言ったが,その場から逃げようと思ったわけではなく,車の発進を求め
るような発言はしなかったと供述する。
しかし,被告人は,収容されるかどうかを心配しながら検察庁に出頭し,検察官
から収容する旨告げられると,荷物を取りに行きたいなどと言って検察庁から退出
し,自動車に乗り込んでいる。このような経緯や状況等に照らすと,被告人の供述
は不自然というほかない。なお,たとえ被告人の発した言葉が「助けて」であった
としても,前記経緯や状況等からすれば,その発言は自動車の発進を意図するもの
であったと考えるのが自然である。
(3)弁護人は,本件当時,Bは,執行猶予期間中であった上,無免許運転であ
ったから,その発覚を恐れて,被告人のこととは関係なしに,その場から逃走しな
ければならない強い動機があったと主張する。しかし,被告人が検察庁から出てく
るのを待ち,被告人が乗車してから自動車を発進させたBが,被告人の意思とは関
係がなく行動したというのは不自然である。また,弁護人は,貴重品の入った被告
人のバッグが取調室に置いたままであったことを指摘するが,被告人が収容を逃れ
ようとしたことを認定する妨げとはならない。
(4)以上によれば,被告人は,自動車の助手席に乗り込む際,Bに発進するよ
う求め,これを受けてBは,自動車を急発進させたものであり,被告人は,遅くと
も,自動車が発進する時点において,Bとの間で,自動車を発進させることについ
て意思連絡があったと認められる。これに加え,被告人は,検察官から収容する旨
を告げられていたこと,また,検察庁を出て自動車に向かう被告人を,検察事務官
らが周りを囲むようにして追従し,被告人が乗車した頃には自動車の前方等に佇立
していたもので,そのような状況を被告人やBも認識していたことからすると,被
告人やBにおいて,自動車を発進させれば,検察事務官らに衝突させる可能性があ
ることを認識していたものと認めることができる。
よって,被告人とBとの間には,検察事務官らに対する公務執行妨害ないし暴行
について共謀が成立したと認められる。
4結論
以上の次第で,被告人には公務執行妨害罪及び傷害罪の共同正犯が成立する。
【累犯前科】省略
【法令の適用】省略
【量刑の理由】
まず,判示第3,第4の事実(公務執行妨害,傷害,犯人蔵匿教唆)についてみる
に,被告人らは,検察事務官らが周囲を取り囲む中,自動車を急発進させ,前方に
立ち塞がろうとした2名に次々に衝突させており,危険な犯行である上,加療期間
が長いとまではいえないものの,両名共に傷害を負わせた結果も軽視できない。被
告人は,保釈取消による収容業務を妨害して逃亡した上,友人を唆して自己を匿わ
せており,刑事司法作用を妨げた点でも悪質である。被告人は,自身が収容される
ことを免れるため,息子に指示したり,友人に依頼したりして各犯行に及んだもの
であり,その責任は重い。次に,判示第1,第2の事実(無免許過失運転致傷,道
路交通法違反)についてみるに,被告人は,安全確認不十分のまま交差点を左折
し,横断歩道を横断してきた被害者運転の自転車に自車を衝突させており,被告人
の過失は軽視できないが,傷害の程度は比較的軽微である。しかし,何らの必要
性,緊急性もないのに無免許運転をした上,事故を起こしたにもかかわらず,無免
許運転の発覚を恐れ,救護義務等を果たさず逃走しており,身勝手で,強く非難さ
れるべきである。
以上の犯情に関する事情を踏まえ,被告人は,前記累犯前科の執行終了後2年も
経たないうちに判示第1,第2の犯行に及び,さらに,同事件の係属中に,判示第
3,第4の犯行に及んだものであり,規範意識が鈍麻しているといわざるを得ない
一方で,被告人が,判示第1の被害者の父母との間で15万円を支払うことで示談
が成立し,同金員も支払い済みであること,被告人は,判示第1,第2,第4の事
実については,事実を認めて反省の態度を示していること,被告人の叔父が,情状
証人として出廷し,被告人の更生への協力と監督を約束していることなどの事情も
考慮して,主文のとおり量刑した。
(求刑懲役4年6月)
令和2年10月28日
大阪地方裁判所第15刑事部
裁判長裁判官松田道別
裁判官船戸宏之
裁判官柏木桃子

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