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平成13年(ワ)第1105号特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 平成14年5月13日
             判      決
原      告  黒沢建設株式会社
訴訟代理人弁護士    及  川  昭  二
      同                奥  村  正  策
同                菅  生  浩  三
同                吉  岡  康  博
同                北  郷  美那子
補佐人弁理士石  井  良  和
被      告 住友電気工業株式会社
訴訟代理人弁護士        花  岡     巖
同                唐  澤  貴  夫
同                飯  塚  暁  夫
        主      文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
       事実及び理由
第1 請求
1 被告は,PCストランド(商品名フロボンド)を製造し,販売し,販売のた
めに展示してはならない。
 2 被告は,PCストランド(商品名フロボンド)及びその製造設備を廃棄せ
よ。
 3 被告は,別紙「パンフレット1」及び別紙「パンフレット2」記載のフロテ
ックアンカー工法及びスーパーフロテックアンカー工法の各パンフレットを頒布し
てはならない。
 4 被告は,原告に対し,1億0190万5208円及び内金984万9790
円に対する平成13年2月8日から,内金9205万5418円に対する平成13
年6月23日から各支払済みまで各年5分の割合による金員を各支払え。
第2 事案の概要
本件は,PCストランドの防錆被覆方法に係る特許権を有する原告が被告に
対し,PCストランド(商品名フロボンド)の製造のため使用している防錆被覆方
法は,原告の上記特許権を侵害すると主張して,上記フロボンドの製造,販売の差
止め及び損害賠償金の支払等を求めている事案である。
1 争いのない事実
(1) 原告は,以下のとおりの特許権(以下「本件特許権」といい,その発明を
「本件発明」という。)を有している。
発明の名称          PCストランドの防錆被覆方法
出願日            昭和63年7月21日
登録日            平成4年2月28日
特許番号           第1642772号
特許請求の範囲
 複数の単線を撚り合わせたPCストランドを加熱した後,撚り拡げ
機に連続して送り込み,該PCストランドの各単線間が互いに離反した状態に撚り
を拡げ,その撚り拡げられた各単線に熱可塑性を有する合成樹脂被覆粉末を流動接
触させて付着させ,該合成樹脂粉末を加熱溶融させた後,元の撚り合わせ状態に戻
し,該PCストランドの内外に合成樹脂被覆層を形成することを特徴としてなるP
Cストランドの防錆被覆方法。
(2) 本件考案を構成要件に分説すると以下のとおりとなる。
A複数の単線を撚り合わせたPCストランドを加熱した後,
   B 撚り拡げ機に連続して送り込み,該PCストランドの各単線間が互いに
離反した状態に撚りを拡げ,
   C その撚り拡げられた各単線に熱可塑性を有する合成樹脂被覆粉末を流動
接触させて付着させ,
   D 該合成樹脂粉末を加熱溶融させた後,元の撚り合わせ状態に戻し,
   E 該PCストランドの内外に合成樹脂被覆層を形成すること
   を特徴としてなるPCストランドの防錆被覆方法
(3) 被告は,業として樹脂コーティングPCストランド(商品名フロボンド,
以下「被告製品」という。)を製造販売しているが,被告製品の製造に当たり,防
錆被覆処置(その方法を以下「被告方法」という。)を施している(別紙製法説明
図参照)。
(4)被告方法の構成を分説すると以下のとおりである(もっとも,原告は,以
下の分説について,いったん合意をしたが,後日,合意の内容と矛盾するかのよう
な主張をする部分がある。)。
   A’ PCストランドを樹脂粉末の融合温度より高い温度に加熱し,
   B’ ストランドオープナーによって中心線から側線を一時的に開き,側線
を中心線の周りに初期のスパイラル状に戻す。
   C’ 上記の開いた状態にある間及び閉じた状態において,ストランドを熱
硬化性樹脂のエポキシ樹脂粉末で静電塗装し,
   D’ その後,ストランド外周表面に珪砂を付着させた後,
   E’ これら樹脂被覆層を加熱により硬化固化させ,
   F’ 側線と側線との隙間を樹脂で充填し,かつ,閉じたストランドの外面
に塗膜を形成する
   PCストランドの防錆被覆方法
  (5) 被告方法は本件発明の構成要件A,B及びDを充足する。
 2争点及び当事者の主張
(1) 被告方法における「熱硬化性樹脂のエポキシ樹脂粉末」は本件発明の構成
要件Cの「熱可塑性を有する合成樹脂被覆粉末」に当たるか。
(原告の主張)
被告方法における熱硬化性樹脂のエポキシ樹脂粉末は,以下のとおりの理
由から,本件発明の構成要件Cの「熱可塑性を有する合成樹脂被覆粉末」に当たる
と解すべきである。
 ア 粉体塗装においては,熱硬化性樹脂粉末塗料及び熱可塑性樹脂粉末塗料
はいずれも周知であり,任意に選択できるものである。
 イ 本件特許出願時において,PCストランドに樹脂を使用して防錆被膜を
形成する場合,その樹脂が熱硬化性であるか熱可塑性であるかは,樹脂の熱に対す
る特性としての区別であって,防錆被膜形成においては区別する必要はなかった。
特開昭60-110381号公報,特公昭60-8876号公報,特開昭60-8
7873号公報も防錆被膜形成において,熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂とを区別す
ることなく同列に扱っている。
   ウ 本件発明に係る明細書(以下「本件明細書」という。)においては,合
成樹脂粉末を用いて防錆被覆を形成する旨記載されているが(2頁左欄18ないし
25行目,2頁右欄41ないし42行目),熱硬化性樹脂粉末を意図的に排除する
旨の記載はない。
   エ 被告は,熱硬化性樹脂粉末の場合は,非可逆的な架橋反応が進んで熱硬
化するため,槽内に硬化した樹脂が増加して正常な塗装ができなくなってしまう旨
主張する。しかし,粉体塗装の場合,それが流動浸漬法であっても静電法であって
も,1度使われ余剰となった粉体塗料については,塗装装置に取り付けられている
サイクロン装置によって決められた粒子寸法より小さくなったもの及び異物は回収
されるのであるから,被告が主張するような問題は生じない。
(被告の反論)
  本件発明の構成要件Cの「熱可塑性を有する合成樹脂被覆粉末」は,以下
のとおりの理由から,熱可塑性樹脂被覆粉末を意味し,被告方法における「熱硬化
性樹脂のエポキシ樹脂粉末」を含まないと解すべきである。
 ア 「熱可塑性を有する合成樹脂被覆粉末」を通常の意味で理解すれば,
「熱可塑性樹脂」に限定され,「熱硬化性樹脂のエポキシ樹脂粉末」は含まれな
い。
   イ 熱硬化性樹脂粉末塗料も熱可塑性樹脂粉末塗料も任意に選択できるにも
かかわらず,特許請求の範囲において,「熱可塑性を有する」という限定を付して
いる以上,熱可塑性樹脂に限定するのが合理的である。
ウPCストランドにおいて,防錆性能その他の特性は鋼材表面の樹脂被覆
層の性能に左右されるところ,熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂とでは,機械強度や耐
候性などの点でその性能が著しく相違しているので,被覆材料が熱可塑性樹脂か熱
硬化性樹脂かは重要な相違である。
   エ熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂粉末も,加熱により溶融するが(そう
でないとそもそも粉体塗料として用いることはできない),加熱により硬化が始ま
り,硬化後は加熱溶融性を失うのであるから,硬化後も加熱溶融を繰り返す熱可塑
性とは異なる。硬化開始前に加熱溶融性を有するからといって,エポキシ樹脂粉末
が熱可塑性を有することにはならない。
   オ 本件発明のように,粉体塗料を「流動接触させて付着させ」る塗装方法
は,流動浸漬法を意味するところ,流動浸漬法の場合,粒子密度が非常に高いた
め,槽内の残留粉体塗料が加熱されたPCストランドからの熱影響を受けやすい。
熱可塑性樹脂粉末の場合は,溶融後PCストランドに付着せずに冷却固化しても,
再加熱により溶融し,被塗物に付着することができるが,熱硬化性樹脂粉末の場合
は,非可逆的な架橋反応が進んで熱硬化するため,硬化した樹脂が再度溶融し被塗
物に付着することができず,槽内には硬化した樹脂の量が次第に増加して正常な塗
装ができなくなる。そのため,PCストランドのような長尺物を熱硬化性樹脂の粉
体塗料で塗装する場合,流動浸漬法ではPCストランドを撚り拡げ機に「連続し
て」送り込むことはできない。また,PCストランドの撚りをいったん拡げて被覆
する場合,粉体塗料が撚りを開くダイス部分に流出して溶融付着し,熱硬化性樹脂
の場合はそこで非可逆的に硬化してその周辺に塊を形成し,最終的には各単線が通
過する穴を塞いでしまうことになる。以上のとおり,PCストランドを流動浸漬法
により塗装する場合,熱硬化性樹脂の粉体塗料を用いるのは,工業的にみて不可能
であり,本件発明の構成要件Cの「熱可塑性を有する合成樹脂被覆粉末」が,この
ような工業的に使用不可能な熱硬化性樹脂を含むということはあり得ない。
  (2) 被告方法の構成C’における「熱硬化性樹脂のエポキシ樹脂粉末」は,本
件発明の構成要件Cにおける「熱可塑性を有する合成樹脂被覆粉末」の均等物とい
えるか。
  (原告の主張)
ア 粉体塗料には多くの種類があり,その選定に当たっては腐食環境が大き
な要素であることは一般論として認められているのであるから,本件発明の構成要
件Cが熱可塑性を有する樹脂と限定した点は,本件発明の本質的部分ではない。
イ 腐食環境に応じて粉体塗料を選択するのであるから,熱可塑性を有する
樹脂を熱硬化性樹脂のエポキシ樹脂に置き換えても本件発明の目的を達成できる。
ウ 熱可塑性を有する樹脂及び熱硬化性樹脂は周知の粉体塗装材料であり,
相互に置き換えることは当業者にとって自明のことである。
エ したがって,被告方法における「熱硬化性樹脂のエポキシ樹脂粉末」は
本件発明の構成要件Cの「熱可塑性を有する合成樹脂被覆粉末」の均等物といえ
る。
(被告の反論)
ア 本件発明の構成要件Cにおいて,PCストランドの腐食防止剤として熱
可塑性を有する合成樹脂を使用することは本件発明の本質的部分である。
イまた,本件特許の出願時において,エポキシ及びポリスチレン等の防蝕
性樹脂を静電塗装法又は流動浸漬法で粉体塗装すること(乙2の2)並びにPCス
トランドの撚りを拡げて腐食防止剤を被覆すること(乙2の3)は公知であった。
また,鋼撚線の各素線を回転筒の貫通孔に挿入して素線間の距離を拡大し,拡大部
分において液体や気体などを供給して各素線を再び収束する技術(乙2の4)及び
金属線状体の腐食防止を目的として,該金属線状体を加熱してエポキシ等の合成樹
脂を該金属線状体の表面で熱溶融させ個化させることによって表面をコーティング
する技術(乙2の5)も公知であった。そして,これらの発明は,いずれもPCス
トランドの分野に関するものであったから,当業者において,上記の各発明を組み
合わせて被告方法に想到することは容易であった。したがって,被告方法は,本件
特許の出願時における公知技術から当業者が容易に推考できたものである。
ウ 防錆塗装をPCストランドの内外に施すに当たり,エポキシ樹脂及び静
電塗装を採用することは,当業者にとって第一に行う選択であったにもかかわら
ず,原告は,本件明細書の特許請求の範囲では,エポキシ樹脂粉末を記載しなかっ
たのであるから,本件発明の技術的範囲からエポキシ樹脂粉末を意識的に除外した
というべきである。
エ したがって,被告方法の構成C’は本件発明の構成要件Cと均等とはい
えない。
  (3) 被告方法における「静電塗装し」は,本件発明の構成要件Cの「流動接触
させて付着させ」に当たるか。
 (原告の主張)
粉体塗装であれば,流動浸漬法と静電塗装法の何れの塗装方法であって
も,本件発明における心線及び側線間空隙部分に樹脂を充填することは可能であ
り,本件発明の目的は達成される。
被告は,流動浸漬法と静電塗装法とでは,被塗物と粉体塗料とは接触しな
い点及び粒子密度の点で異なる点を主張するが,いずれも効果に何ら差異はない。
    したがって,被告方法における「静電塗装し」は,本件発明の構成要件C
の「流動接触させて付着させ」に当たる。
(被告の反論)
 本件発明の構成要件Cにおける「流動接触させて付着させ」る方法は,そ
の文言を素直に読めば,流動浸漬法(流動浸漬槽内に粉体塗料を入れ,下部から吹
き込んだ空気の風力により粉体塗料を流動させ,この流動状態の粉体塗料の中に加
熱した被塗物を浸漬し,被塗物が保有する熱を利用して付着させるという塗装法)
を意味するものと解すべきである。これに対して,被告方法における塗装方法は,
静電気を利用して粉体塗料を被塗物に付着させる静電塗装法であって,流動浸漬法
とは別の塗装方法である。また,静電塗装法では,被塗物と粉体塗料とは接触しな
い。さらに,流動浸漬法と静電塗装法とでは,塗装時における被塗物付近の空間の
粉体塗料の粒子密度が大きく相違する。すなわち,流動浸漬法においては流動中の
粒子密度は非常に高く,「浸漬」という用語から想像されるとおり,塗装の際には
被塗物を液体中に「浸す」ように塗装が行われるのに対し,上記静電塗装法におい
ては,粒子密度が流動浸漬法に比べて極めて低く,先が透けて見える薄い粒子の霧
が漂うように塗装が行われる。
    以上のとおり,被告方法における「静電塗装し」は本件発明の構成要件C
の「流動接触させて付着させ」に当たらない。
(4) 構成要件Eの充足性
(原告の主張)
被告製品の側線間の隙間は,2か所が約0.1ミリメートルであり,その
余の4か所は約0.03ミリメートルであるところ,この程度の隙間はPCストラ
ンドの撚り合わせの構造上避けられないものであり,被告製品にのみ生じるという
ものではない。また,0.03ミリメートルの被膜では防錆効果はない。
したがって,被告方法は構成要件Eを充足する。
(被告の反論)
    本件発明の構成要件Eの「PCストランドの内外」とは,側線同士の接触
点を境に内と外とを区別していることを前提としているというべきである。これに
対し,被告製品においては,側線間には平均して約0.1ミリメートルの隙間が設
けられており,各単線表面とPCストランド外周面の熱硬化性樹脂被覆層が上記隙
間を介して一体となっているので,側線の内と外とを区別することはできない。被
告方法による被覆の結果,より高い防錆性能が得られることになる(なお,ストラ
ンド内部においては,0.03ミリメートルの被膜でも防錆効果はある。)。
したがって,被告方法は構成要件Eを充足しない。
(5) 本件特許に無効理由があることが明らかであり,本件特許権に基づく権利
主張は権利の濫用となるか。
(被告の主張)
特開昭60-110381号公報(乙2の2)には,PC鋼撚線の防錆処
理としてポリエチレンやエポキシ樹脂を静電塗装又は流動浸漬粉体塗装することが
開示されている。また,特開昭61-103633号公報(乙2の3)には,PC
ストランドの撚りを一時的に緩解させて各撚線を腐食防止剤で被覆する方法が開示
されており,特開昭62-68639号公報(乙2の4)には,銅製撚線の各素線
を,回転筒の貫通孔に挿入して素線間の距離を拡大し,拡大部分において液体や気
体のほか,粉体や粒体などを供給し,素線群を再び収束して行う銅製撚線の加工方
法が開示されている。
    したがって,本件発明は,乙2の2ないし4記載の発明から容易に想到す
ることができるから,本件特許には無効理由が存在することが明らかである。本件
特許権に基づく請求は権利の濫用である。
(原告の認否)
争う。特開昭60-110381号公報及び特開昭61-103633号
公報に記載された各発明から本件発明を想到することはできない。
(6) 損害額
  (原告の主張)
ア被告は,自己が施工したフロテックアンカー工法及びスーパーフロテッ
クアンカー工法の際にフロボンドを使用したが,これにより被告が得た利益は次の
とおりである。
(ア) フロテックアンカーについて(平成4年7月から平成12年3月3
1日まで)
被告が平成4年7月から平成12年3月31日までの間に施工したフ
ロテックアンカー工法に使用されたフロボンドの総重量は96万2238キログラ
ムであり,フロボンド1キログラム当たりの価格は556円であるから,上記フロ
ボンドの総額は5億3500万4328円となる。そして,粗利益率は少なくとも
15パーセントを下らないから,上記フロボンドの使用により被告が得た利益は8
025万0649円となる(このうち平成4年7月から平成9年10月までの間に
得た利益は984万9790円である。)。
(イ) スーパーフロテックアンカーについて(平成11年6月から平成1
2年3月31日まで)
被告が平成11年6月から平成12年3月31日までの間に施工した
スーパーフロテックアンカー工法に使用されたフロボンドの総重量は25万964
7キログラムであり,フロボンド1キログラム当たりの価格は556円であるか
ら,上記フロボンドの総額は1億4436万3732円となる。そして,粗利益率
は少なくとも15パーセントを下らないから,上記フロボンドの使用により被告が
得た利益は2165万4559円となる。
イしたがって,被告は,本件特許権の侵害により得た利益は1億0190
万5208円(8025万0649円+2165万4559円)となる。
遅延損害金は,984万9790円(平成4年7月から平成9年10月
までの間にフロテックアンカー工法の施工により得た利益)については平成13年
2月8日から,その余の9205万5418円については平成13年6月23日か
ら,それぞれ請求する。
  (被告の認否)
争う。
第3 当裁判所の判断
1まず,本件特許に無効理由があることが明らかであり,本件特許権に基づく
権利主張は権利の濫用となるかについて,先に検討する。
(1) 公知技術等
 ア 本件特許の出願前に刊行された特開昭60-110381号公報(乙2
の2)の特許請求の範囲欄の(1)には「PC鋼材に防蝕性樹脂を静電塗装又は流動浸
漬粉体塗装により塗装することを特徴とするPC鋼材の防蝕方法」と,(2)には「P
C鋼材がPC鋼撚線である特許請求の範囲第(1)項記載のPC鋼材の防蝕方法」
と,(4)には「防蝕性樹脂がポリエチレン,エポキシの群から選ばれる一つである特
許請求の範囲第(1)項記載のPC鋼材の防蝕方法」と,それぞれ記載されており,上
記各記載からすると,上記刊行物には,ポリエチレン等の防蝕性樹脂を流動浸漬法
によりPCストランドの表面に塗着させるPCストランドの防錆方法に係る発明が
示されている。
イ 本件特許の出願前に刊行された特開昭61-103633号公報(乙2
の3)の特許請求の範囲の(1)には「複数本の鋼線を撚って形成されたPCストラン
ドの撚りを一時的に緩解させ,この状態下に腐食防止剤を供給してPCストランド
の各撚線を腐食防止剤で被覆し」と,発明の詳細な説明欄には「一旦緩解されたP
Cストランドの撚りは,撚られた鋼線エレメント自体が有している発条性作用によ
り,その後旧状に復するが,この場合にPCストランドは腐食防止剤を内部に云わ
ば閉じ込めた状態を呈する(中略)。従って,PCストランドはその内外共に腐食
防止剤で被覆されることになる」(2頁左下欄2ないし9行目)と,それぞれ記載
されており,上記各記載からすると,上記刊行物には,PCストランドの撚りを一
時的に緩解させた状態で,腐食防止剤で各単線を被覆し,その後,PCストランド
を元の状態に戻すことにより,PCストランドを構成する各単線を腐食防止剤によ
り被覆するという腐食防止方法に係る発明が示されている。
ウ 乙2の8には,粉体塗装における熱可塑性粉体塗料の例としてポリエチ
レンが紹介されていることから(19頁,135頁,136頁,137頁),特開
昭60-110381号公報記載の発明の「ポリエチレン等の防蝕性樹脂」は本件
発明の「熱可塑性を有する合成樹脂粉末」に相当すると解される。
(2)進歩性の検討
ア 本件発明と特開昭60-110381号公報記載の発明とを対比する
と,両者は,複数の単線を撚り合わせたPCストランドを加熱し,PCストランド
に熱可塑性を有する合成樹脂被覆粉末を流動接触させて付着させ,該合成樹脂粉末
を加熱溶融させることによりPCストランドに合成樹脂被覆層を形成させる点で一
致するが,PCストランドを撚り拡げ機に連続して送り込み,該PCストランドの
各単線間が互いに離反した状態に撚りを拡げ,その撚り拡げられた各単線に合成樹
脂を塗着させ,その後撚り拡げられた各単線を元の撚り合わせ状態に戻すことによ
り該PCストランドの内側にも(各単線の周囲にも)上記合成樹脂被覆層を形成さ
せる点で相違する。
イ そこで,上記相違点について検討する。
特開昭60-110381号公報と特開昭61-103633号公報と
は,いずれも同一の技術分野に属するPCストランドの防錆方法についての記載が
されているので,特開昭60-110381号公報に記載された技術に,特開昭6
1-103633号公報に記載された前記(1)イで認定した技術を適用することは当
業者であれば容易に想到することができたといえる。また,PCストランドの撚り
を拡げる手段として,PCストランドを撚り拡げ機に連続して送り込むという手段
を採用することは,当業者であれば容易に想到できたといえる。
  (3) 以上によれば,本件発明は,特開昭60-110381号公報及び特開昭
61-103633号公報の記載に基づき当業者が容易に発明することができたも
のということができ,特許法29条2項の無効理由を有することは明らかである。
したがって,原告の本件特許権に基づく権利行使は権利の濫用として許さ
れない。
2次に,被告方法が本件発明の技術的範囲に属するか否かについて,念のため
検討する。被告方法における「静電塗装し」は,以下のとおりの理由から,本件発
明の構成要件Cの「流動接触させて付着させ」に当たらない。
(1) 構成要件の解釈
 構成要件Cにおける「合成樹脂被覆粉末を流動接触させて付着させ」の意
義について,「流動接触させて付着させ」は,静電塗装法を含まないと解するのが
相当である。その理由は以下のとおりである。
ア 粉体塗装とは,粉末の塗料を使用し,溶媒を使用せずに空気を媒体とし
て塗装を行う方法をいい,溶剤型塗料を使用した塗装法に比べ,塗装性能,作業性
に優れ,大気や水質の汚染を減少できるなどの利点があるため,昭和20年代後半
に工業用として本格的に利用されるようになり,昭和60年代に入り汎用化され
た。
 粉体塗装の塗装法には,主に①流動浸漬法,②静電塗装法,及び③静電
流動浸漬法がある。このうち,①流動浸漬法とは,流動浸漬槽内に樹脂粉末を入
れ,下部から空気を吹き込み粉末を流動させ,あらかじめ加熱した被塗物を浸漬
し,被塗物が保有する熱によりその表面に樹脂粉末を融着させて塗膜を形成させる
方法であり,②静電塗装法とは,静電ガンにより粉体塗料に電荷を与えることによ
り,これを被塗物に静電的に塗着させる方法であり,③静電流動浸漬法とは,流動
槽内で流動している粉体塗料に静電気を帯びさせることにより,これを被塗物に静
電的に塗着させる方法である。静電塗装法においても,被塗物が空隙の多い場合や
塗着する塗膜を厚くしたい場合には,被塗物を予熱することがある。(乙2の8)
イ ところで,①本件発明の構成要件Cの「合成樹脂粉末を流動接触させて
付着させ,」の後には,続いて「該合成樹脂粉末を加熱溶融させ」と記載されてい
ること,②本件明細書の「発明の詳細な説明」欄には,「各単線毎にその全周面に
樹脂材料が付着し,各単線の熱にて溶融される。」(2頁左欄20ないし21行
目),「合成樹脂被着槽5は,撚り戻し機4によってPCストランド2が各単線2
a毎に互いに離反している状態にあるときに,その各単線2aにポリオレフイン系
の接着性を有する熱可塑性合成樹脂粉末を付着させるようにしているものであり,
第3図に示すように原料収容槽14内にその底面のキャンパス15を通して送風機
16より送風し,これによって合成樹脂粉末を浮揚させる。」(2頁右欄6ないし
13行目),「このブロワー20によってガイドパイプ17内に原料収容槽14内
の空気を強制循環させることにより浮揚している合成樹脂粉末をガイドパイプ17
内に吸い込みPCストランド2に接触させるようにしている。」(2頁右欄20な
いし24行目)と各記載されていること,③本件明細書及び明細書に添附された図
面には,粉体塗料に電荷を与えることに関する記載が全くないこと等の諸点に鑑み
ると,構成要件Cにおける「(合成樹脂被覆粉末を)流動接触させて付着させ」る
方法は,前記の流動浸漬法を指すものであり,静電塗装法を含まないと解するのが
相当である。
(2) 対比
 これに対して,被告方法は,静電塗装法であることは争いがない。したが
って,被告方法の「静電塗装し」は,本件発明の構成要件Cの「流動接触させて付
着させ」に当たらない。
3 以上のとおりであるから,その余の点を判断するまでもなく,原告の請求は
いずれも理由がない。
    東京地方裁判所民事第29部
        裁判長裁判官 飯   村   敏   明
           裁判官 今   井   弘   晃
           裁判官 佐   野       信

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ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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