弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
1 被告らは、原告に対し、各自金七一万一八五四円及びこれに対する平成四年三
月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを三分し、その一を被告らの、その余を原告の負担とする。
この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。
       事実及び理由
第一 原告の請求
一 被告らは、共同して、原告に対し、被告株式会社早稲田経営出版発行の雑誌
「Article」及び原告発行の雑誌「法律文化」に別紙謝罪広告目録(一)記
載の謝罪広告を同目録(二)記載の条件でそれぞれ、かつ一回掲載せよ。
二 被告らは、原告に対し、各自金二〇〇万円及びこれに対する平成四年三月一五
日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 訴訟費用は被告らの負担とする。
四 第二項につき仮執行宣言。
第二 事案の概要
一 本件は、原告が、被告らの出版販売等する別紙被告書籍目録(一)記載の書籍
に掲載されている別紙被告表目録(1)ないし(8)記載の表、及び別紙被告書籍
目録(二)記載の書籍に掲載されている別紙被告表(1)ないし(4)、(6)な
いし(8)記載の表が、原告の別紙原告書籍目録(一)記載の書籍中の別紙原告表
目録(1)ないし(8)記載の表について有する著作権(複製権)及び著作者人格
権を侵害しているとして、被告らに対し、著作権法一一五条の規定に基づき謝罪広
告の掲載、著作権侵害による通常使用料相当の損害賠償金二万四二九〇円(その内
訳は、別紙被告書籍目録(一)記載の書籍について二万〇二一六円、同目録(二)
記載の書籍について四〇七四円である。)、著作権及び著作者人格権侵害による信
用毀損に対する損害賠償金二〇〇万円の内金九七万五七一〇円、右不法行為と相当
因果関係を有する弁護士費用相当の損害金一五〇万円の内金一〇〇万円の合計二〇
〇万円の被告ら連帯しての支払いを求めるものである。
二 基礎となる事実
1(一) 原告は、宅地建物取引主任者資格試験(宅建試験)を含む国家試験の受
験指導の企画、制作、提供、講義、出版等を業とする会社である。(甲八号証の
一、原告代表者、弁論の全趣旨)
(二) 被告株式会社早稲田経営学院(被告学院)は、原告同様に国家試験の受験
指導等を業とする会社であり、被告株式会社早稲田経営出版(被告出版)は、被告
学院の出版部門を担当する同被告の子会社である。(争いがない)
2(一) 原告は、昭和六三年六月二五日までに、「出る順宅建(下)宅建業法 
法令上の制限 その他」との題号の書籍(第一版)を出版し、その後、毎年これに
改訂を加え、平成二年三月一〇日、別紙原告表目録(1)ないし(8)記載の表
(順に「原告表(1)」、「原告表(2)」、「原告表(3)」、「原告表
(4)」、「原告表(5)」、「原告表(6)」、「原告表(7)」、「原告表
(8)」といい、これらを「原告各表」と総称することがある。)を掲載した別紙
原告書籍目録(一)記載の書籍(原告書籍(一))を出版した。(争いのない事
実、甲七号証の一ないし二二)
(二) 原告書籍(一)は、原告の開催する宅建試験の受験指導のための講座の常
勤及びアルバイトの講師により、原告の企画に基づき、すなわち原告の発意の下に
作成し、原告名義で公表されたものである。(甲八号証の一、原告代表者)
(三) 原告は、同年九月三〇日頃以来原告表(1)ないし(3)、同(5)及び
同(8)を掲載した別紙原告書籍目録(二)記載の書籍(原告書籍(二))を出版
した。(争いのない事実)
3(一) 被告学院は、平成三年六月二〇日までに、別紙被告表目録(1)ないし
(8)記載の表(順に「被告表(1)」、「被告表(2)」、「被告表(3)」、
「被告表(4)」、「被告表(5)」、「被告表(6)」、「被告表(7)」、
「被告表(8)」、といい、これらを「被告各表」と総称することがある。)を掲
載した別紙被告書籍目録(一)記載の書籍(被告書籍(一))を作成し、被告出版
は同日以来これを出版し、被告学院は、これを定価二八〇〇円で販売した。(争い
がない)
 また、被告学院は、同年秋までに、被告表(1)ないし(4)、(6)ないし
(8)を掲載した別紙被告書籍目録(二)記載の書籍(被告書籍(二))を作成
し、被告出版は同年秋頃これを出版し、被告学院は、これを同被告の宅建試験講座
の受講者らに無償で配布した。(争いがない)
 但し、被告書籍(二)においては、被告表(1)ないし(4)、(6)ないし
(8)の各表毎に二箇所ないし四箇所の語句が空欄とされてアルファベットの符号
が付されて空欄穴埋の問題の形式とされ、同じ頁の下部に〈解答〉として、アルフ
ァベット符号の空欄に至るべき語句が示されている。(甲四号証の一ないし一
〇)。
(二) 被告書籍(一)の出版部数は少なくとも三〇〇〇部、被告書籍(二)のそ
れは一〇〇〇部である。(争いがない)
第三 争点及びこれに対する当事者の主張
一 原告各表は著作物と認められるか。
1 原告表(1)について
(一) 原告の主張
 原告表(1)は、宅地建物取引業法(宅建業法)八条一項により、建設省及び都
道府県にそれぞれ備えられる宅地建物取引業者名簿に関して、同条二項に示された
名簿登載事項及び同法九条に示された前記事項の変更の届出を一つの表にまとめた
ものであり、次のとおり創意と工夫が施されているから著作物性がある。
(1) 原告表(1)は、宅建業法八条二項と九条から名簿登載事項と変更の届出
を選び出して一つの表にまとめ、それによって両者を一度に、かつ体系的に容易に
理解できるようにしたものであり、この構成は原告により工夫されたものであって
精神的労力を用いた成果である。
(2) 加えて、原告表(1)には、名簿登載事項の整理に関して原告の創造があ
る。
 すなわち、宅建業法八条二項の法文と原告表(1)とを比較すると、次のとおり
名簿登載事項関係でも同法八条二項そのままではない。
(ア) 原告表(1)の①、②及び⑤は、それぞれ同条二項中一号、二号及び五号
と同じであるが、原告表(1)の③、④については、同二項三号及び四号の記載を
簡潔にし、かつ、同各号に言及された同法施行令二条の二の具体的要件については
宅建試験合格には不要と判断してこれを除外している。
(イ) 原告表(1)の⑥は、
同条二項六号の内容を示すものであるが、同号で引用する同法一五条を必要な範囲
で取り出した上、右六号の内容をわかり易く簡潔に記載している。
(ウ) 原告は、同法八条二項七号を記載する上で、同号にいう建設省令である同
法施行規則五条の各条文に示すところを検討し、その一号及び二号に対応させて原
告表(1)の⑦及び⑧の二項目に分け、その意味するところをそれぞれ簡潔な用語
で示した。
(3) 更に、宅建業法九条にかかる変更の届出期間に関する法文を一目でわかる
ように原告表(1)の欄外に、他の部分と調和がとれるように簡潔にエクスクラメ
ーションマークをもって示している。
(4) 以上のとおり、原告表(1)は、名簿登載事項関係でも宅建業法八条二項
そのままではなく、創意工夫を施しているのであって、著作物として保護されるべ
きものである。
(二) 被告らの主張
(1) 原告表(1)は、宅建業法八条二項及び同九条を図表化したものである
が、右各法条は、宅地建物取引業者名簿の登載事項及び登載事項のうちで変更があ
った場合に届出を要する事項を定めており、その内容は一義的に解釈されるもので
ある。
 このような法文の内容を図表化する場合、項目分けとしては二つの観点がある。
一つは登載すべき事項が八項目あることであり、一つは登載すべき事項のうち六項
目が変更の際に届出を要することである。
 右の観点から右法文の内容を図表化すると、登載すべき事項と要届出事項の二つ
の項目を置き、八個の登載すべき事項にそれぞれ届出の要否を対置させた表となる
のが当然である。原告表(1)は、このような必然的な条文の解釈をそのまま表に
したにすぎず、特に表の内容に新規性や創造性があるわけではなく、著作物性がな
い。
(2) 原告表(1)は、昭和六三年二月一二日、東京法経学院出版発行の「六三
年版宅地建物取引主任者合格ノート」(乙六号証の六)に記載されている宅地建物
取引業者名簿の登載事項の整理を枠で囲って、模倣、改変したものにすぎず、著作
物性はない。
2 原告表(2)について
(一)原告の主張
(1) 原告表(2)は、宅建業法二一条では同条一号以外は、同条二号、三号で
一八条中の一項一号又は三号から五号の二までと、一八条一項二号を各引用してい
るが、両者は届出期間及びその届出義務者が異なるため、これを説明すると複雑に
なり初学者にとって理解が容易でない。そこで、法文と異なる簡潔な原告の文言に
よる記述により、法文の意味するところを示して表にまとめたものであって、原告
の精神的労苦による成果物である。
(2) また、原告表(2)は、法文から直接には導かれない特徴として、次のこ
とが指摘できる。
(ア) 項目について、届出義務者ごとに枠でくくり、一目で届出の必要な事項と
届出義務者がわかるようにしてあること。
 また、同法二一条三号の記載に関しては、一文で示されているところを後見人と
保佐人の二つの枠に分け、法概念につき未だ理解の充分でない初学者にわかるよう
に同法一八条一項二号に示された禁治産者の届出義務者は前者、準禁治産者につい
ては後者と明示していること。
(イ) 項目の順序について、二一条の号の順ではなく、よりわかり易くするよう
に届出義務者に着目し、相続人、後見人、保佐人、本人の順(すなわち同法二一
条、一号、三号、二号の順)としていること。
(ウ) 同法二一条二号で引用する同法一八条一項一号又は三号から五号の二は、
一八条一項の但書が対象とする一項各号に該当する者が都道府県知事の登録を受け
ることができないとする不許可事由の形で示されているので、二一条の届出事由に
ついては、一八条の不許可事由の記載を若干解釈で補った上、①ないし④の項目に
まとめ、それをそれぞれ原告の言葉で簡潔に示していること。
 また、同法一八条一項五号及び五号の二の長い条文を合体されて⑤として要約し
ていること。
(3) 以上のとおり、原告表(2)は、原告の精神的労苦に基づく独創的な記述
であって、著作権法上保護される著作物である。
(二) 被告らの主張
(1) 宅建業法二一条は、届出項目及び届出義務者の二つの要素を規定した条項
であり、同条一号、同条二号が引用する同法一八条一項一号、三号ないし五号の
二、二一条三号の八個の届出項目につき、それぞれ届出義務者を規定している。
そしてこの内容を図表化すれば、八個の届出項目に対してそれぞれ届出義務者を対
置する構造の表となるのは必然である。
 また、読者の理解しやすさを勘案すれば、届出義務者が共通の同法二一条二号の
届出項目を枠でくくるなどすることは当然の発想である。
 原告表(2)は、右の観点から、条文の構造をそのまま図表化したにすぎず、表
の基本的構造について何らの創造性があるとはみられない。
 なお、原告表(2)は、本人が届出義務者となる事項について最後にまとめてい
るが、これは表の見易さを確保するために通常されることであり、特に新規性や創
造性があるとはみられない。
(2) また、原告表(2)は、右二号に規定された各届出事由を法文とは異なる
形で記述しているが、これは解釈上当然導かれる内容を記載したにすぎず、特に創
造的な記述とはいえない。
 すなわち、同号規定の各届出事由は、同法一八条の不許可事由をそのまま準用す
る形をとっているが、同法一八条の不許可事由の場合には過去にかかる事由が生じ
た場合であっても一定の期間が経過すれば許可をしても良いという立場から、かか
る事由が生じた時点から一定の期間内であることが不許可の要件となるが、同法二
一条の届出事由の場合には将来業者として不適法な事由が生じたときは直ちに届け
出るべきことを規定しており期間の経過の点は無関係である。このような解釈をも
とに各届出事由を簡潔に表現すると、当然に原告表(2)の記述となるのである。
(3) 同法一八条一項五号、同号の二は、刑事手続による処分を受けた際のこと
を規定しており、届出事由としては考慮する必要のない処分からの期間の点を除い
て、その内容を整理すると、禁固以上の刑に処せられたこと、宅建業法に違反して
罰金刑を受けたこと、刑法二〇四条(傷害罪)等で罰金刑を受けたこと、暴力行為
等の処罰に関する法律違反の罪を犯し罰金刑に処せられたこと、ということにな
り、原告表(2)は、右の内容を簡略に記述したのみであって、特に独創性や創造
性がみられるものではない。
(4) 原告表(2)は、昭和六〇年一月一七日、株式会社週刊住宅新報社発行の
「六〇年版宅建試験の完全整理」(乙七号証の三)記載の表とほとんど同じであ
り、条文の文言の略し方にやや相違がみられるが、特に創造性がみられるわけでは
ないから、右先行出版物記載の表を模倣、改変したものにすぎず、原告が著作権を
取得することはありえない。
3 原告表(3)について
(一) 原告の主張
 原告表(3)は、複雑な都市計画法一五条一項を解説するものであるが、右一項
は、都道府県知事が定める都市計画のみについて規定しており、市町村が定める
「他の都市計画」については、具体的に規定していない。「他の都市計画」につい
ては同法七条ないし一二条の五をみなければならないが、これは極めて長文であ
り、種々の事項を包含するため、ここに示されたところから、都市計画の種類を整
理し、その上で、対象となる「他の都市計画」を描き出し、同法一五条が何を言っ
ているのか一見してわかるように表にしたものである。
 原告表(3)は、次のとおり、原告が独自の観点から精神的労苦により作成した
ものであって、著作物性がある。
(1) 都市計画法一五条一項はその法文を読んだだけでは初学者に具体的理解が
困難であるので、原告は、その説明のために、同法七条ないし一二条の五に示され
ている都市計画の種類を改めて整理し、また特に地域地区については決定権者が分
かれるため、決定権者毎に細分して、それぞれ右側の位置にわかり易く決定権者を
示したのであり、正に原告の精神的労苦の所産である。
(2) また、決定権者について、「知事または市町村」として示しているものが
あるところ、これについては法文を詳細に見れば更に項目を分けることも可能であ
るが、宅建試験の合格のための知識量という原告の独自の観点からこの限度の記載
に留めているものである。
(二) 被告らの主張
(1) 原告表(3)は、都市計画法七条ないし一二条の五及び同法一五条の規定
に従って、都市計画の種類とその決定権者を記載しただけであり、記載内容が一致
するのは、これまた当然でしかない。要するに原告表(3)の記載は都市計画法の
条文上に明記された用語と、それに対する法律上の決定権者を並べたものにすぎ
ず、これを表に記載すれば、誰が行っても原告表(3)と同一になる程度のもので
ある。このように、原告表(3)の記載内容それ自体は著作権の対象として保護さ
れるものではありえない。
(2) 原告表(3)は、昭和六三年一月二五日、株式会社学陽書房発行の「図解
宅地建物取引知識」(乙八号証の三)記載の表と同じものであって、表の体裁が原
告表(3)は表全体を線で囲んでいるところが異なるが、内容に影響のない単純な
形態の違いにすぎない。したがって、原告表(3)は、右先行出版物記載の表を模
倣、改変したものであり、原告が著作権を取得することはありえない。
4 原告表(4)について
(一) 原告の主張
(1) 原告表(4)は、都市計画法二九条の示すところを表にまとめたものであ
る。原告表(4)は、同条が示すところを開発行為の許可の要否について、横に開
発行為の形態を各号の特徴を捉えて分類する一方、縦に都市計画区域の別を示して
その交わるところに要否を○、×あるいは△で表わし、許可の要否が一見して分か
るように表に示している。この表は右法文から一義的に導かれるものでなく、原告
の精神的労苦の所産による独創的なものである。
(2) 以下、原告表(4)中の独創的な点について指摘する。
(ア) 原告表(4)は、横に開発行為の態様を、縦に都市計画区域の別を示し、
その交わるところに要否を示したが、これは決して法文からの当然の論理の帰結で
はない。すなわち、区域の別だけをみても、法文は、柱書で区域を限定し、一号及
び二号において更に細かく区域を限定し、また三号以下では何ら限定はない。原告
表(4)がこのような細部についても必要な範囲で取り込んで項目をまとめている
のは、原告独自の考えによる。
(イ) また、細かな各項目分けについてみると、法文からは、市街化区域及び線
引区域について、農林漁業用建築物という開発態様を、また市街化調整区域につい
て小規模開発という開発態様を示す必要は全くない。また、二号ないし四号につい
ては開発態様を個別に明示し、五号ないし一一号は一まとめにしているが、これら
はいずれも法文からの論理の帰結ではない。
(3) 原告の右のような整理は、原告が受験指導の観点から整理したものであっ
て、原告表(4)が原告の独創によるもので、著作権法上保護されるものであるこ
とは明白である。
(二) 被告らの主張
(1) 都市計画法二九条は、都市計画区域内での開発行為について原則として都
道府県知事の許可制とし、例外として、同条及び同条が引用する政令が許可の不要
な開発行為として、①小規模開発、②農林漁業用建築物、③公益性のあるもの、④
国、都道府県等が行うもの、⑤都市計画事業等の施行として行うものなどを定めて
いるものである。
 そして都市計画区域は、同法二九条の関係では市街化区域内(右①)、市街化調
整区域内(右②)、それ以外の未線引区域(右③ないし⑤)の三つに分けられる。
かかる内容を図表化しようとすれば、項目分けとしては二つの観点があるのは明白
である。つまり、一つは、都市計画区域別の項目分け、もう一つは許可の不要な開
発行為別の項目分けである。
 その観点から内容を図表化すると、都市計画区域別の項目分けとしては区域外を
も加えて四個、許可の不要な開発行為別の項目分けとして五個を対置させた表とな
るのは当然である。
 原告表(4)はかかる必然的な条文の解釈をそのまま表にしたにすぎず、特に表
の内容に新規性や創造性があるわけではない。
(2) 原告表(4)は、昭和六〇年三月二〇日、東京法経学院出版発行の「早受
かり宅地建物取引主任」(乙九号証の三、四)記載の表と同じものであって、原告
表(4)が許可の必要なケースと不要なケースを一つの表にまとめている点は特に
工夫を要するものではない。したがって、原告表(4)は右先行出版物を模倣、改
変したものであり、原告が著作権を取得することはありえない。
5 原告表(5)について
(一) 原告の主張
 原告は建ぺい率の計算方法を説明するため原告表(5)の図を作成した。
 建ぺい率については、建築基準法五三条一項及び同法施行令二条一項二号に規定
があり、通常建物の一階部分の面積が敷地面積の何割を占めているかの割合が建ぺ
い率であると考えてよい。ただし、以下の点に注意する必要がある。
① 上の階が下の階よりせり出している場合には、そのせり出している部分も建築
面積に含めて計算する。
② バルコニー、ひさし、軒等が一m以上せり出している場合には、その先端から
水平方向で一mの部分を除く残りの部分を計算に入れる。
③ 同一敷地内に複数の建物があれば、それぞれの建築面積を合算する。
 原告は、上記注意点のうちわかりにくい①及び②について容易に理解できるよう
な例を工夫して、二階部分が一階よりせり出し、かつひさしを有する建物を描き、
かつ絵について親しみがもてるようにするため、窓、木等を配置して原告表(5)
を作成したものである。
 したがって、同図が原告の精神的労苦の所産として著作権法上の保護を受けるべ
きことは明白である。
(二) 被告らの主張
(1) 原告表(5)が芸術的な絵画と言いうるだけの美的見地からの創造性を認
めうるものではないことは、一見して明白である。一方、学術的図表といいうるだ
けの知的な創造性が認めうるかであるが、原告表(5)は、従来から宅建試験の受
験指導の書籍で使われていた一般的な図を改変したものにすぎず、それ自体を一個
の著作物といいうるだけの創造性を有するものではない。
(2) 原告表(5)は、昭和五二年四月二〇日、株式会社オーム社発行の「絵と
き建築関係法規」(乙一〇号証の二)に記載されている「建築面積の算定方法(令
2条2号)」と題する二個の表の合体にすぎない。したがって、原告表(5)は右
先行出版物記載の表を模倣、改変したものであり、原告が著作権を取得することは
ありえない。
6 原告表(6)について
(一) 原告の主張
 原告表(6)は、建築基準法六九条ないし七五条に規定された建築協定に関する
事項を内容的に分析し、これを適用区域、協定の主体、協定の内容、手続、協定の
効力、協定の変更、協定の廃止、一人協定の項目に分類し、自ら工夫して簡潔にそ
れぞれ要点を列挙し、一つの表にまとめたものである。
 このように数条にまたがる条文に示されたところを検討し、独自に項目を立て、
かつその説明を簡潔にまとめる行為は正に精神的労苦の所産であり、同表が著作権
法上の保護を受けることは論をまたない。
(二) 被告らの主張
(1) 原告表(6)は、その記載内容が建築基準法の条文どおりである。
 すなわち、まず、適用区域、協定の主体、協定の内容の各欄は、同法六九条、七
〇条二項を整理したものにすぎない。借地権者について「地主の承諾不要」という
記述は法文には存しないが、同法七〇条二項を解釈すればこの記述となるのは、極
めて自然である。次に手続欄は、同法七〇条、七三条をまとめたにすぎない。同様
に協定の効力欄は同法七五条、協定の変更欄は七四条、協定の廃止欄は七六条、一
人協定欄は七六条の三第一項、欄外注は同条四項に、各対応する。
 このように、いずれも、法文に忠実にまとめるならば記述者の如何にかかわらず
かくあるべしというものであって、原告表(6)に創造性が認められるものではな
い。
(2) 欄の作成方法、従って分類方法についても、法文を前提とする限り、素直
にまとめれば原告表(6)のようになるのであって、創造性は認められず、かつ、
仮に若干の創造性が認められるとしても、著作物としての保護に値する程度には至
らない。
 すなわち、右配列は同法第四章の条文配列を基準とする。まず、六九条が適用区
域、協定の主体、協定の内容に関する三つの内容を有することは明白である。次に
七〇条ないし七三条がその手続を定めることも明らかである。条文配列上は次に建
築協定の変更(七四条)がくるが、七三条の公告によって成立した協定の効力(七
五条)をまず記述しようとするのは、理解しやすさを第一義とするとき、当然の発
想である。
 協定の変更(七四条)、廃止(七六条)、一人協定(七六条の三)という、いわ
ば例外的な規定を、末尾に条文順にまとめようというのも極めて自然である。
(3) 原告表(6)は、前記1(二)(2)の「六三年版宅地建物取引主任者合
格ノート」(乙六号証の五)及び昭和六三年一月一四日株式会社住宅新報社発行の
「六三年版図でみる法令上の制限」(乙一一号証の四)記載の表と同じものであ
る。乙一一号証の四との対比では、原告表(6)は、協定の内容という項目、ま
た、協定の変更という項目と協定の廃止という項目を設けているが、特に本質的な
差異とはなっていない。乙六号証の五との対比では、原告表(6)は、協定の変更
という項目を独立させている点が形式的に異なるだけである。したがって、原告表
(6)は右先行出版物を模倣、改変したものであり、原告が著作権を取得すること
はありえない。
7 原告表(7)について
(一) 原告の主張
 原告表(7)は、国土利用計画法二七条の二に示された監視区域の指定手続につ
いて、時系列的に図表化したものである。原告は、同法条について、「引用」によ
って意味するところの理解が容易でなく、かつ、具体的な指定手続の時系列が初学
者にとって明確に理解することが困難であることを考慮して本表を作成している。
 具体的には、右二七条の二により準用される規制区域の指定に関する一二条二項
ないし五項及び一〇項の規定を検討し、監視区域の指定手続の流れを具体的に理解
し、それを初学者がわかり易いように時系列的に並べかえ、かつブロックで表記
し、その中に要点のみ簡潔に表示することとし、原告表(7)を作成したのであ
る。
 したがって、原告表(7)が原告の著作物として著作権法上保護されることは明
らかである。
(二) 被告らの主張
 原告表(7)は、国土利用計画法二七条の二に規定された監視区域の指定手続を
図表化したものであるが、同法二七条の二及び同条が準用する同法一二条に記載し
た行政手続を時系列に従って並べると、①(土地利用審査会、関係市町村長の意見
聴取)、②(知事による区域、期間の決定)、③(公告)、④(公告による指定の
効力発生)、⑤(内閣総理大臣への報告、関係市町村長への通知、必要な措置)、
⑥(調査)の順となる。これを図表化しようとすれば、右①ないし⑥の項目を一列
に並べるしか方法がなく、縦書き横書きを別にすれば、誰が試みても同一図表にな
らざるを得ない。このことは、行政手続規定は、手続の明確さが要求されるため
に、規定文言が明確かつ覇束性を有し、その解釈も一義的にならざるをえないこと
に思いを致せば当然のことである。すなわち、原告表(7)は、一義的な解釈以外
に方法がない、というよりもむしろ条文そのものを簡略化して表現したにすぎず、
表の内容に新規性、創造性が介入する余地はなく、原告表(7)は著作物性がな
い。
8 原告表(8)について
(一) 原告の主張
 原告表(8)は、国土利用計画法二三条ないし二七条に規定されている土地に関
する権利の移転等の届出手続の流れを図表化したものである。
 この数条にわたって規定された手続を、簡潔にかつ手続の時系列的な流れに沿っ
て複雑なブロック図で示すことは、正に精神的労苦を要するところであり、この原
告表(8)が原告の著作物として著作権法上保護されることは明白である。
(二) 被告らの主張
(1) 原告表(8)は、国土利用計画法二三条ないし二七条に規定されていると
ころの土地に関する権利の移転等の届出以降の手続の流れを図表化したものである
が、同法二三条一項の規定による届出をした者は、届出日から六週間を経過するま
での間、勧告、通知を受けない限り、契約締結ができない(同法二三条三項)。し
たがって、同法二三条三項の反対解釈によれば、勧告、通知を受けないで六週間経
過すれば契約締結ができることになるのであるから、届出後の手続の流れとして
は、
① 勧告も通知もなく六週間を経過した場合
② 通知があった場合
③ 勧告があった場合
の三通りに場合分けができる。そして、①の場合は前記のとおり契約締結が可能で
あり、②の場合も同法二四条三項により勧告不要の通知がなされるのみなので契約
締結が可能であると解釈できる。また、③の場合には、次のように分かれる。
(a) 勧告に従わないときは、同法二六条に規定されるように、知事は勧告内容
を公表することができる。勧告対象の特定のために公表事項には氏名が含まれるこ
とは当然である。また、同条は公表のみを規定しているのであって勧告に従わない
で契約を中止しなかった場合の契約の効力について、特に無効とする旨の規定はな
いから、当該契約の効力は有効と解される。
(b) 勧告に従って契約を中止したときは、同法二七条の明文規定によって、知
事が必要に応じて斡旋その他の措置を講ずる。
 以上の手続の流れを図表化するならば、何人が試みても原告表(8)のようにな
らざるをえず、後は微細な表現方法の問題である。
 行政手続規定は、その性質上、規定文言及びその解釈が明確性を要求され、原告
表(8)は、その明文規定と、そこから当然に導かれる解釈を図表化したものにす
ぎず、何らの学術性、独創性もない。
 以上より、原告表(8)は、著作権法で保護されるべき著作物性を有しない。
(2)原告表(8)は、前記4(二)(2)記載の「早受かり宅地建物取引主任」
(乙九号証の五)の「土地に関する権利の移転等の届出」と題する表と同じもので
ある。したがって、原告表(8)は右先行出版物記載の表を模倣、改変したもので
あり、原告が著作権を取得することはありえない。
二 被告各表は原告各表を複製したものか。氏名表示権、同一性保持権の侵害があ
るか。
(原告の主張)
1 被告表(1)は、原告表(1)と比較すると、原告表(1)が届出の要否につ
いて○×の記号で示しているのに対し、被告表(1)では必要、不必要の文字で示
している点が相違するだけで、他の点は、全て同一である。
2 被告表(2)は、原告表(2)と比較すると、表の項目の見出しにおいて、原
告表(2)が「届出の必要な場合」、「届出義務者」としているのに対し、被告表
(2)では、「届出事由」、「義務者」としている点が相違するだけで、他の点は
全て同一である。
3 被告表(3)は、原告表(3)と比較すると、原告表(3)の③、⑥、⑦が被
告表(3)ではそれぞれ⑧、⑦、③の番号の位置に配置されていることを除き、全
く同一である。
4 被告表(4)は、原告表(4)と比較すると、被告表(4)には原告表(4)
にない「原則」との項目が設けられているが本質的ではなく、その余はほとんど同
一である。
5 被告表(5)は、木が示されていないこと等を除き、原告表(5)と全く同じ
図である。特に、左下の必要性の全くない長方形まで同様に示されている。
6 被告表(6)と原告表(6)は、原告表(6)には協定の主体の欄に「(臨時
設備・一時使用を除く)」との記載が存する点を除くと、一字一句同一である。
7 被告表(7)は、原告表(7)と全く同一である。
8 被告表(8)は、原告表(8)と文言に微細な差異は存するが、図表の構成等
が全く同一である。
9 右のとおり、被告各表は、これに対応する原告各表と同一あるいはほとんど同
一であり、しかも原告各表に依拠して作成されたものであるから、被告各表は、こ
れに対応する原告各表を複製したものである。
 被告表(5)には、原告表(5)中の図示する必要性の全くない左下の長方形ま
でが表示されていることからも依拠の事実は明らかである。
10 被告各表は、原告各表を一部改変したものであり、しかも著作者として原告
の名義が表示されていないから、原告が原告各表について有する、同一性保持権、
氏名表示権を侵害するものである。
三 被告らの行為による原告の損害及び謝罪広告の必要性
1 原告の主張
(一) 前記のとおり、被告各表は、それぞれ原告各表の複製物である。被告ら
は、故意又は過失により、共同して、原告各表について原告が有する著作権(複製
権)を侵害した。
(二)(1) 被告らは、被告書籍(一)を一部二八〇〇円の価額で合計五〇〇〇
部出版、販売したものであるが、原告が、被告らによる被告各表の被告書籍(一)
における使用につき、通常受けるべき使用料の額は、被告らによる同書籍の総販売
額の一〇%に同書籍の総頁数に対する同各表の掲載されている割合を乗じた金額で
計算できるから、被告書籍(一)の発行による著作権侵害行為により原告が被った
損害は、次のとおり二万〇二一六円である。
2,800(円/部)×5,000(部)×0.1×8(頁)/554(頁)=2
0,216円)(円未満切捨て)
(2) 被告らは、被告書籍(二)を一〇〇〇部発行し、無償で配布したが、右を
前提として損害額を計算すると、原告が、被告らによる被告各表の被告書籍(二)
における使用につき、通常受けるべき使用料の額は、被告書籍(二)が有償で頒布
されていないため、原告書籍(二)の定価に一〇%を乗じた金額に、原告書籍
(二)の総頁数に対する原告各表(被告書籍(二)において被告各表として複製掲
載された原告著作物)の割合及び被告書籍(二)の配布部数を順次乗じた金額で計
算すると、被告書籍(二)の発行による著作権侵害行為により原告が被った損害
は、次のとおり四〇七四円である。
2,800(円/部)×0.1×7(頁)/481(頁)×1,000(部)=4
074(円)(円未満切捨て)
(三) 著作者人格侵害、信用毀損等による損害
 被告書籍(一)及び(二)においては、被告表(1)ないし(8)が原告の著作
物であることを明示しておらず、また、前記二のとおり、被告表(7)を除いて、
原告各表の本質的でない部分を勝手に変更しており、原告が原告各表について有す
る著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)を侵害している。
 原告は、正確であるべき法律に係わる受験講座を営業としながら、原告各書籍及
び被告各書籍の内容を知った複数の得意先企業等から、どちらが真の著作者である
かといった精神的に耐えがたい疑問を投げかけられたことがあり、また、原被告ら
の各書籍を対比して確認する機会を有した読者、利用者及びこれらの者から風評を
伝え聞いた原告の顧客層等から、原告各書籍が独自の分析により読者のために分か
り易く解説する工夫をしたものではないと、そのオリジナル性、更には原告の基本
的な経営方針にまで疑問を懐かれたことがあり、そのため原告の企業としての信用
を著しく毀損された。
 右信用毀損が著しいものであることは、原告が、以上のような著作権及び著作者
人格権を侵害する被告各書籍が被告学院による原告の顧客に対する売り込み行為に
不当に利用された結果、合計八社、原告が講座を担当した最後の年度の売上高合計
が八四九〇万円に昇る従来の顧客を被告学院に奪われ、このことによる原告の利益
の減少が、右営業による利益率を三〇パーセントとみても、合計二五四七万円に及
ぶものであることからみても明らかである。
 以上のような被告らの著作権及び著作者人格権侵害行為の態様及びその結果原告
に生じた重大な信用毀損を考慮すれば、被告らの右不法行為と相当因果関係を有す
る損害は金二〇〇万円を下ることはない。
 以上によれば、原告は、被告らに対し、前記著作者人格権侵害、信用毀損による
損害金として少なくとも金二〇〇万円の連帯支払いを求める権利を有しているが、
本訴においては、右損害金の内金九七万五七一〇円を請求する。
(四) 弁護士費用相当の損害
 原告は、被告らに対し、前記不法行為について、本件訴訟を提起せざるを得なか
ったが、本件訴訟は、事案の内容、性格が複雑かつ困難であり、その提起、追行に
特殊の知識を要するものであるから、弁護士にこれを依頼せざるを得ず、原告は、
原告訴訟代理人らに対し、本件訴訟の追行を依頼し、右弁護士費用として、少なく
とも金一五〇万円を支払うことを約し、平成四年三月三一日、原告訴訟代理人らに
対し、右金銭を支払った。
 右金銭は、右不法行為と相当因果関係を有する損害であるから、被告らは、原告
に対し、右同額の損害を賠償する義務がある。原告は、被告らに対し、本訴におい
て、右一五〇万円の内金一〇〇万円を請求する。
(五) 右(二)ないし(四)の請求額の合計は二〇〇万円となる。
(六) 謝罪広告
 前記(三)の著作者人格権の侵害は、同(三)の金銭賠償のみによって回復され
ないので、被告らによる第一(原告の請求)一に記載した謝罪広告が必要である。
2 被告らの主張
 被告らの行為を違法行為と仮定しても、原告の主張する損害及び因果関係は、被
告らの損害賠償責任の根拠とはなりえない。
 すなわち、企業間における競争では、同一の相手方に売り込みが重複するのは通
常である。そして、相手方は売り込み側の内容、担当者の人柄等の各種の要素を考
慮して取引を決定するものであり、売り込む側は競争相手と自分との優劣を主張す
ることは自由競争の範囲内で当然生ずることである。わが国の経済体制の下では、
競争により得意先を奪われたことなどはそもそも法律上の「損害」と観念しうるも
のではなく、原告の売上げ減自体と被告書籍(一)、(二)の出版とは何ら関係な
い。
第四 裁判所の判断
一 争点一(原告各表の著作物性)について
1 法令は、その性質上国民に広く開放され、伝達され、かつ利用されるべき著作
物であり、そのため著作権法一三条一号においても、憲法その他の法令は著作者の
権利の目的とならない旨規定されている。したがって、このような性格を有する法
令の全部又は一部をそのまま利用したり単に要約したりして作成されたものは著作
物性を取得しないというべきである。このような観点に留意しつつ、以下、原告各
表の著作物性、並びにこれが認められる場合に更に被告各表が原告各表の著作権を
侵害しているかどうかについて検討する。
2 原告表(1)について
(一) 原告表(1)は、別紙対照表の原告表(1)のとおりであり、宅建業法八
条二項の規定により、建設省及び都道府県にそれぞれ備えられている宅地建物取引
業者名簿に登載しなければならない事項及び右事項のうち変更があった場合に同法
九条の規定により建設大臣又は都道府県知事に届け出なければならない事項を一つ
の表にまとめたもので、その表現は、次のとおりである。(甲七号証の二)
(1) 上辺左端付近に「公式35」との記載のある長方形の枠内に全ての記載が
収められている。
(2) この枠内には、「1.名簿登載事項と変更の届出が必要な事項」との見出
しの下に、宅地建物取引業者名簿への登載事項と変更の届出の要否を示す一覧表が
作成されている。
(3) 一覧表の左側の「名簿登載事項」欄には、宅建業法八条二項一号ないし七
号の規定により宅地建物取引業者名簿に登載しなければならない事項が、上から順
に①宅建業法八条二項一号、②同二号、③同三号、④同四号、⑤同五号、⑥同六
号、⑦同七号の規定を受けた建設省令である宅地建物取引業法施行規則五条一号、
⑧同二号の順に八項目に分けて記載され、各項目間は横の罫線で区分されている。
 一覧表の右側の「届出の要否」欄には、宅建業法九条の規定により、変更があっ
た場合建設大臣又は都道府県知事に届け出なければならないとされている同法八条
二項二号ないし六号所定の事項に当たる前記②ないし⑥の項目に対応する欄には○
(一番上の②に対応する欄には「(必要)」の文字も併記されている。)、①、
⑦、⑧の項目に対応する欄には×(一番上の①に対応する欄には「(不要)」の文
字も併記されている。)の符号が付されている。
(4) 一覧表の下には、同法九条の規定の届出期限についての部分を要約した注
意書きの記載がある。
(5) 右①、②、⑤についてはほぼ条文の文言どおりに、③、④、⑦、⑧につい
ては条文を単に要約したものを簡潔な文言で、⑥については、条文に「同法一五条
一項に規定する者」とある引用部分を簡潔に読み代え、その余はほぼ条文の文言ど
おりにそれぞれ記載されている。
(二) 右認定の事実によれば、原告表(1)は法文の内容を法令記載の順番に従
い、引用条文のあるものはその引用を含めて簡潔に要約し、条文のとおりの順に配
列したにすぎないものであり、表形式でまとめた点、届出の要否を○、×の符号で
表現した点を含めて、誰が作成しても表によってまとめようとする限り同様の表現
となるものと思われるから、原告表(1)の表現形式についても表現内容について
も著作権法によって保護される著作物としての創作性を認めることができない。
(三) 原告は、原告表(1)は、宅建業法八条二項と九条から名簿登載事項と変
更の届出を選び出して一つの表にまとめ、それによって両者を一度に、かつ体系的
に容易に理解できるようにしたものであり、この構成は原告により工夫されたもの
であるから著作物性がある旨主張するが、宅建業法八条二項は九条中で引用されて
おり、内容的にも名簿登載事項とその変更の届出で関連していることは自明であ
り、これらを一つの表にまとめたことに創作性は認められず、また、これを表現し
た右認定のような一覧表も、表による表現としては典型的な形式であって、創作性
は認めることができない。
 また、原告は、原告表(1)には、名簿登載事項の整理に原告の創造がある旨主
張するが、前記のとおり、原告表(1)における名簿登載事項欄の記載は、法令の
一部をそのまま利用したり単に要約したりしたものであって、創作性を認めること
ができない。
 更に、原告は、宅建業法九条にかかる変更の届出期間に関する法文を一目でわか
るように原告表(1)の欄外に、他の部分と調和がとれるように簡潔にエクスクラ
メーションマークをもって示しているから著作物性がある旨主張するが、右部分
は、一覧表とは別に、同法九条所定の変更の届出についてのまとめである以上、欠
くことのできない同条の届出期限についての部分を要約して記載したにすぎず、エ
クスクラメーションマークを加えたとしても創作性を認めることはできない。
3 原告表(2)について
(一) 原告表(2)は、別紙対照表の原告表(2)のとおりであり、宅建業法一
八条の規定による宅地建物取引主任者の登録を受けている者についての、同法二一
条の規定による都道府県知事への届出義務の発生事由及び届出義務者を一つの表に
まとめたもので、その表現は、次のとおりである。(甲七号証の三)
(1) 上辺左端付近に「公式41」との記載がある長方形の枠内に全ての記載が
収められている。
(2) この枠内は、「1.死亡等の届出(21)」との表題の下に、都道府県知
事への届出義務の発生事由とその事由別の届出義務者を示す一覧表が作成されてい
る。
(3) 一覧表の左側の「届出の必要な場合」欄には、宅建業法二一条の規定によ
り都道府県知事へ届け出なければならない届出義務の発生事由を、届出義務者であ
る相続人、後見人、保佐人、本人ごとにまとめ、上から順に(ア)相続人が届出義
務者となる同法二一条一号、(イ)後見人が届出義務者となる同三号に引用する同
法一八条一項二号の前半部分、(ウ)保佐人が届出義務者となる同号の後半部分、
(エ)本人が届出義務者となる同法二一条二号に引用する同法一八条一項一号、三
号ないし五号について(ただし、四号の三が除外されている。)、①一号、②三
号、③四号、④四号の二、⑤五号及び五号の二の順に分類され、一覧表の右側の
「届出義務者」欄には、左側の届出義務の発生事由に対応する届出義務者が記載さ
れ、(ア)ないし(イ)の各項目間は横の罫線で区分されている。
(4) 一覧表の下には、同法二一条の規定の届出期限についての部分を要約した
注意書きの記載がある。
(5) 前記(3)の(ア)ないし(ウ)、(エ)の②については法文の文言を
「死亡」、「禁治産」などの要点を示す言葉で端的に表現し、(エ)の①、③、
④、⑤については引用された同法一八条の法文の規定の形式が既存の不許可事由を
示す表現となっているものを後発的な届出が必要な場合を示す「…となったとき」
「…たとき」等の表現とし、かつ単に要約して簡潔な文言にしてそれぞれ記載され
ている。
 右一覧表の右側の「届出義務者」欄には、届出義務者が条文の文言どおりに、あ
るいは「後見人又は保佐人」とまとめられているものを「後見人」と「保佐人」に
分けたのみで掲載されている。
(二) 右認定の事実によれば、原告表(2)は、法文の内容を引用条文も踏まえ
て、法文の字義どおり明らかにしたものであり、またその配列も、複数の事由の、
ある本人が届出義務者となる場合を一つの欄にまとめて配列すれば、誰が行っても
同じような表現になると思われ、原告表(2)の表現形式についても表現内容につ
いても著作権法によって保護される著作物としての創作性を認めることができな
い。
(三) 原告は、原告表(2)について、宅建業法二一条は一号以外は、一八条
中、一項一号又は三号から五号の二号までと、一八条一項二号を引用するが、両者
では届出事由及び届出義務者が異なり、これを説明すると複雑になり、初学者にと
って理解が容易でないので、法文とは異なる簡潔な原告表(2)記載の文言による
記述により、法文の意味するところを示して表にまとめたものであって、原告の精
神的労苦による成果物である旨主張するが、条文のとおりではないものも、要点を
示す「死亡」、「禁治産」等の言葉で端的に表現したり、単に要約して簡潔な文言
にしたにすぎないもので創作性は認められず、また、一覧表とした点も表による表
現としては典型的な形式であって、創作性を認めることができない
 また、原告は、原告表(2)は、(ア)項目について、届出義務者ごとに枠でく
くり、一目で届出の必要な事項と届出義務者がわかるようにしていること、また、
二一条の三号の記載に関しては、一文で示されているところを後見人と保佐人の二
つの枠に分け、法概念につき未だ理解の充分でない初学者にわかるように一八条二
号に示された禁治産者の届出義務者は前者、準禁治産者については後者と明示して
いること、(イ)項目の順序について、二一条の号の順ではなく、よりわかり易く
するように届出義務者に着目し、相続人、後見人、保佐人、本人の順(すなわち二
一条、一号、三号、二号の順)としていること、(ウ)二一条二号で引用する一八
条一項一号又は三号から五号の二は、一八条の但書が対象とする一項各号に該当す
る者が都道府県知事の登録を受けることができないとする不許可事由の形で示され
ているので、二一条の届出事由については、一八条の不許可事由の記載を若干解釈
で補った上、①ないし④の項目にまとめ、それをそれぞれ原告の言葉で簡潔に示し
ていること、(エ)原告表(2)の⑤は、法一八条五号及び五号の二の長い条文を
合体させて要約していることから、原告の精神的労苦に基づく独創的な記述であっ
て、著作権法上保護されるべきものである旨主張する。
 しかしながら、右主張の点を考慮しても、宅建業法二一条とそこに引用された一
八条一項各号の条文を単に要約整理して原告表(2)の程度にまとめたことに創作
性は認められない。
4 原告表(3)について
(一) 原告表(3)は、別紙対照表の原告表(3)のとおりであり、都市計画法
一五条一項の規定による都市計画の決定権者に関し、各種の都市計画とその決定権
者を一つの表にまとめたもので、その表現は、次のとおりである。(甲七号証の
五)
(1) 原告表(3)は、「1.都市計画の決定権者」との表題、続いて「(1)
決定権者」との表題があり、その下に、「原則ー都道府県知事および市町村(15
Ⅰ)」との記載があって、その下に、各種の都市計画とその決定権者を示す一覧表
が作成されている。
(2) 一覧表の左側の欄には、都市計画法七条ないし一二条の五に規定される都
市計画に定められる地域、地区等の中から、①都市計画法七条一項に規定する市街
化区域及び市街化調整区域、②同法八条一項一号ないし七号について、(ア)一号
に規定する用途地域、(イ)(a)二号ないし六号に規定する特別用途地区、高度
地区、高度利用地区、特定街区、防火地域、準防火地域、美観地区、(b)七号に
規定する風致地区、③同法一二条の四第一項一号に規定する地区計画、④同法一一
条一項に規定する都市施設、⑤同法一二条一項に規定する市街地開発事業、⑥同法
一二条の二第一項に規定する市街地開発事業等予定区域、⑦同法一〇条の二第一項
に規定する促進区域がこの順に分類されて記載されている。また右一覧表の右側欄
には、左側の各種の地域、地区等に対応する決定権者、すなわち、都市計画①の場
合は、同法一五条一項一号の規定による決定権者、②(ア)の場合は、同項三号を
受ける同法施行令九条一項一号の規定による決定権者及び同法一五条一項柱書後段
の規定による決定権者、②(イ)(a)の場合は、同法一五条一項柱書後段の規定
による決定権者、(イ)(b)の場合は、同法一五条一項三号を受ける同法施行令
九条一項二号の規定による決定権者、③の場合は、同法一五条一項柱書後段の規定
による決定権者、④の場合は、同法一五条一項三号を受ける同法施行令九条二項の
規定による決定権者及び同法一五条一項柱書後段の規定による決定権者、⑤の場合
は、同法一五条一項四号の本文の規定による決定権者及び同法一五条一項柱書後段
の規定による決定権者、⑥の場合は、同法一五条一項五号の規定による決定権者、
⑦の場合は、同法一五条一項柱書後段の規定による決定権者が記載されている。こ
れら①ないし⑦の記載はそれぞれ横の罫線で区分され、②の欄については、左端に
「地域地区」との表題欄を設けた上、(ア)、(イ)が横の罫線で区分され、
(イ)については、更に、「補助的地域地区」との表題欄を設けた上、(a)、
(b)が横の罫線で区分されている。
(3) 右一覧表の左側の欄には、「補助的地区地域」の文言を除いて法文中の文
言がほぼそのまま使用されている。右側の欄には、決定権者が、「都道府県知
事」、「市町村」又は「知事または市町村」と記載されている。
(二) 右認定の事実によれば、原告表(3)は、都市計画法が数か条にわたって
定める都市計画で定めるべき区域、地域、地区等の内主要なものを選択し、条文の
順序にとらわれず、独自の観点から分類、配列し、これに対応する決定権者を同法
と同法施行令の定めの中から拾い上げて、一覧表の形式にまとめて表現したもの
で、法令の規定内容を出るものではないとはいえ、一定の主題についての複雑な法
令の規定内容の骨子をわかりやすく整理要約した点に創作性が認められ、著作権法
で保護されるべき著作物であると認められる。
(三) 被告らは、原告表(3)は、都市計画法の条文に明記された用語と、それ
に対する法律上の決定権者を並べたものにすぎず、これを表に記載すれば、誰が行
っても原告表(3)と同一になる程度のものであるから著作権の対象として保護さ
れない、また原告表(3)は、先行出版物(乙八号証の三)記載の表と同じもので
あって、表の体裁が原告表(3)は表全体を線で囲んでいるところが異なるが、内
容に影響のない単純な形態の違いにすぎず、右先行出版物記載の表を模倣、改変し
たものであり、原告が著作権を取得することはありえない旨主張する。
 しかしながら、原告表(3)の内容は法令の内容を単に要約したというものでは
ないし、被告らが指摘する先行出版物である乙八号証の三の記載内容と原告表
(3)とを対比すると、都市計画法七条ないし一二条の五に示されている都市計画
の種類の選択、分類、配列が相違していることは明らかであって、誰が作成しても
原告表(3)と同一になるものではなく、被告らの主張は、理由がない。
5 原告表(4)について
(一) 原告表(4)は、別紙対照表の原告表(4)のとおりであり、都市計画法
二九条の規定及びこれに関連する規定(同法附則四項、同法施行令一九条、二〇
条、同法施行令附則四条の二)により開発行為をしようとする場合に都道府県知事
の許可が必要かどうかについて、開発行為の内容と都市計画区域との関係での都道
府県知事の許可の要否を一つの表にまとめたものであり、その表現は、次のとおり
である。(甲七号証の六)
(1) 上辺左端付近に「公式15」との記載のある長方形の枠内に全ての記載が
収められている。
(2) この枠内には、横に各種の開発行為を分類して記載し、縦に都市計画区域
の関係を分類して記載して、縦横の罫線で区分し、横と縦が交わる欄に都道府県知
事の許可の要否を「○」、「×」、「△」の記号で記載するようにした一覧表が作
成されている。
(3) 右一覧表の横の開発行為の分類では、都市計画法二九条一号ないし一一号
に掲げられている開発行為が、①同一号にいう「その規模が政令で定める規模未満
であるもの」が、「小規模開発の例外」と、②同二号にいう「農業、林業若しくは
漁業の用に供する政令で定める建築物又はこれらの業務を営む者の居住の用に供す
る建築物の建築の用に供する目的で行なうもの」が「農村漁業用建築物」と、③同
三号にいう開発行為が「公益性のあるもの」と、④同四号にいう開発行為が「公的
機関の行うもの」と、⑤同五号ないし一一号にいう各種開発行為をまとめたものが
「都市計画事業等の施行としてのもの・その他」とそれぞれ表示されて、この順に
五項目に分類、配列されている。
(4) 縦の都市計画区域の関係の分類では、(ア)「都市計画区域(原則知事の
許可必要)」との表題欄を設けた中に、(a)都市計画法二九条柱書にいう「市街
化区域」、(b)同「市街化調整区域」、(c)同法附則四項にいう「市街化区域
及び市街化調整区域に関する都市計画が定められていない都市計画区域」が「未線
引区域」と表現されており、次いで、(イ)都市計画区域外の順に分類、配列され
ている。
(5) 右一覧表の下には、○は許可が必要な場合、×は許可がいらない場合、△
は一定規模未満にかぎり許可がいらない場合、との意味の説明を記述し、その下
に、都市計画区域の種類中の②ないし⑤の表示の説明として、都市計画法二九条二
号及び同法施行令二〇条一号、二号の規定を要約した文、同法二九条三号の規定を
要約した文、同条四号の規定を要約した文、同条五号ないし一一号等の規定をまと
めて要約した文を、四項目に分けて記載している。
(6) 一覧表の横に分類した開発行為の項目名は、法令の内容を簡潔な文言にま
とめて表示され、縦に分類した都市計画区域の関係の項目名は、(ア)の項は、法
の文言のとおり表示され、(イ)の項は解釈に従って表示されている。
(7) 横と縦の交わる欄における都道府県知事の許可の要否について、許可が必
要な場合には○、許可が不要な場合には×、一定規模未満にかぎり許可が不要な場
合には△との符号を付して表わしており、なお、△の場合には、更に同法施行令に
より定められている一定規模の具体的な基準をも記載している。
(二) 右認定の事実によれば、原告表(4)は、都市計画法の本則と附則、同法
施行令の本則と附則にわたって規定された都市計画区域ごとの開発行為についての
都道府県知事の許可の要否を一覧表の形式にまとめて表現したもので、基本的に法
令の規定内容を出るものではないとはいえ、一定の主題についての複雑な法令の規
定内容の骨子をわかりやすく整理要約した点に創作性が認められ、著作権法で保護
されるべき著作物であると認められる。
(三) 被告らは、都市計画法二九条の内容を図表化しようとすれば、項目分けと
しては、都市計画区域別の項目分けと許可の不要な開発行為別の項目分けの二つの
観点があるのは明白であり、これらの二つの観点から都市計画法二九条の内容を図
表化すると、都市計画区域別の項目分けとしては区域外をも加えて四個、許可の不
要な開発行為別の項目分けとして五個を対置させた表となるのは当然であって、原
告表(4)は、このような必然的な条文の解釈をそのまま表にしたにすぎず、特に
表の内容に新規性や創造性があるわけではない旨主張する。
 しかしながら、都市計画法二九条一号ないし一一号を五項目に分けたり、各項目
毎の法令の内容を原告表(4)のように表現することは当然のこととは認められ
ず、被告らの右主張は、理由がない。
 また、被告らは、原告表(4)は、先行出版物(乙九号証の三、四)と同じもの
であって、原告表(4)が許可の必要なケースと不要なケースを一つの表にまとめ
ている点は特に工夫を要するものではなく、したがって、右先行出版物を模倣、改
変したものであり、原告が著作権を取得することはありえない旨主張する。
 しかしながら、被告らの指摘する先行出版物である乙九号証の三、四と原告表
(4)とを対比すれば、都市計画区域の関係の分類、一覧表による配列の表現形式
において相違していることは明らかであって、被告らの右主張は、理由がない。
6 原告表(5)について
(一) 原告表(5)は、別紙対照表の原告表(5)のとおりであり、建築基準法
五三条一項、同法施行令二条一項二号の規定によって定められる建ぺい率を算定す
るための建築物の建築面積の計算方法の説明図であり、その表現は、次のとおりで
ある。(甲七号証の七)
(1) 二階建ての建物の粗略な正面図を上に、その平面図を下に配した説明図で
ある。
(2) 正面図には、二階建陸屋根の建物が表わされ、一階中央にひさしのある出
入口が一個、その両側に一個ずつの窓が描かれ、二階部分には三個の窓が描かれて
いる。二階部分の左端は一階部分よりせり出しており、そのせり出し部分の左側に
バルコニー様のものが突出している。建物の屋上とバルコニー様のものの上の部分
には柵が設けられており、バルコニー様のものの部分と出入口の部分は、密度の濃
い点描が施されている。建物の左方には、一本の樹木が描かれている。
(3) 平面図では、二階部分の左端のバルコニー様のものが突出している部分の
投影図が、正面図の先端より右へ退いて表わされ、その差の寸法が一メートルと注
記されており、また、ひさしの投影図が、点線で描かれた本来の先端部分の位置よ
りも上方へ退いて表わされ、その差の寸法が一メートルと注記されている。建物の
投影図は全体的に密度の濃い点描が施され、中央より右斜め上が白抜きとなってこ
こに横書きで「平面図」との記載がある。
 建物の平面図の左下には、意味不明の小さな横長の長方形が記載され、その左側
に、横書きで「敷地面積一〇〇〇m2建築面積五〇〇m2」との記載がある。
(二) 右認定の事実によれば、原告表(5)は、建ぺい率計算の基礎となる建築
面積を算定するに当たって注意すべき建築基準法施行令二条一項二号の「建築物…
の外壁又はこれに代わる柱の中心線(軒、ひさし、はね出し縁その他これに類する
もので当該中心線から水平距離一メートル以上突き出たものである場合において
は、その端から水平距離一メートル後退した線)で囲まれた部分の水平投影面積に
よる。」との規定の要点を説明するためにそれなりに工夫創作された略図と認めら
れ、著作権法で保護されるべき著作物と認められる。
(三) 被告らは、原告表(5)は、従来から宅建試験の受験指導の書籍で使われ
ていた一般的な図を改変したものにすぎず、それ自体を一個の著作物といいうるだ
けの創造性を有するものではない旨、原告表(5)は、先行出版物(乙一〇号証の
二)に記載されている「建築面積の算定方法(令2条2号)」と題する二個の表の
合体にすぎず、右先行出版物記載の表の模倣、改変したものである旨主張する。
 しかしながら、乙一〇号証の二に記載されている二つの図と原告表(5)とを対
比してみると、前者は、建築基準法施行令二条一項二号中の「(地階で地盤面上一
メートル以下にある部分は除く)」との部分及び軒、ひさし等で一メートル以上突
き出たものである場合を説明する図と、建築物自体の二階以上の部分がせり出して
いる場合を説明する図とからなるのに対し、後者は一つの図であること、前者では
地上三階地下一階の建物と地上三階の建物が描かれているのに対し、後者では二階
建ての建物が描かれていること、両者は建物の出入口と窓との位置関係が相違して
いることなどの相違点があって、後者と前者は類似するものとは認められず、また
原告表(5)が従来から宅地建物取引主任者の受験指導の書籍で使われていた一般
的な図を改変したものと認定するに足りる証拠もなく、被告らの右主張は、理由が
ない。
7 原告表(6)について
(一) 原告表(6)は、別紙対照表の原告表(6)のとおりであり、建築基準法
六九条ないし七七条に規定された建築協定に関する事項を適用区域、協定の主体、
協定の内容、手続、協定の効力、協定の変更、協定の廃止、一人協定の項目に分類
して、右各項目につき簡潔に要点を列挙し、一つの表にまとめたものであり、その
表現は、次のとおりである。(甲七号証の九)
(1) 上辺左端付近に「公式39」との記載のある長方形の枠内に全ての記載が
収められている。
(2) この枠内には、まず「建築協定」との見出しがあり、その下に、建築基準
法六九条ないし七七条に規定された建築協定に関する事項を適用区域、協定の主
体、協定の内容、手続、協定の効力、協定の変更、協定の廃止、一人協定の項目に
分類し、これらを横の罫線で区分し、また、右各項目とその内容を縦の罫線で区分
した一覧表が作成されている。
(3) 右一覧表の欄外には、同法七六条の三第四項の規定をやや簡略化して一人
協定についての補注として記載している。
(4) (ア)「適用区域」の項目の右欄には、建築基準法六九条の規定を解釈し
た建築協定の適用されるべき区域を簡潔に記載している、(イ)「協定の主体」の
項目の右欄には、同条から協定の主体に関する部分を抽出し、法文に従って「土地
の所有者等」や「借地権者」に含まれる者を分類し、これを図表化して記載し、
「借地権者」の記載の下には、同条の地上権又は賃借権についての除外事由を要約
したものをかっこ書きで記載している。また、「借地権者」の記載の右には、同法
七〇条二項を解釈して借地権の目的となっている土地の所有者の承諾が不要である
との趣旨を簡潔な文言で記載している、(ウ)「協定の内容」の項目の右欄には、
同法六九条中の協定の内容に関する部分を抽出し、法文の文言どおり記載してい
る、(エ)「手続」の項目の右欄には、同法七〇条二項、一項、同法七三条一項、
二項に規定されている建築協定の認可手続の流れの要旨を簡潔な文言で記載してい
る、(オ)「協定の効力」の項目の右欄には、同法七五条に規定されている建築協
定の効力について、同条の法文の要点をほぼ文言どおりに記載している、(カ)
「協定の変更」の項目の右欄には、同法七四条二項に規定されている建築協定の変
更の手続について、同項が準用する同法七〇条ないし七三条の規定による変更手続
の流れの要旨を簡潔な文言で記載している、(キ)「協定の廃止」の項目の右欄に
は、同法七六条に規定されている建築協定の廃止の手続の流れの要旨を簡潔な文言
で記載している、(ク)「一人協定」の項目の右欄には、同法七六条の三第一項の
規定を平易な文言に変えて記載している。
(二) 右認定の事実によれば、原告表(6)は、建築基準法六九条ないし七七条
に規定された建築協定に関する複雑な法文の内容を、受験対策として必要な項目毎
に条文の枠を越えて整理し、簡潔な言葉で言い換え、一覧表にまとめた点において
原告の創作が認められ、著作権法で保護されるべき著作物と認められる。
(三) 被告らは、欄の作成方法、従って分類方法についても、法文を前提とする
限り、素直にまとめれば原告表(6)のようになるのであって、原告表(6)には
創造性は認められず、かつ、仮に若干の創造性が認められるとしても、著作物とし
ての保護に値する程度には至らない旨主張する。
 しかしながら、建築基準法六九条ないし七七条に規定された建築協定に関する事
項をまとめれば必然的に原告表(6)のような表現形式及び表現内容になるもので
はなく、作成者の考え方によって、多種多様の右法条の建築協定に関する事項を分
類し、要約し、配列することが可能であると認められるから、被告らの右主張は、
理由がない。
8 原告表(7)について
(一) 原告表(7)は、別紙対照表の原告表(7)のとおりであり、国土利用計
画法二七条の二及び関連法令に規定された監視区域の指定手続を時系列的に図表化
したものであり、その表現形式は、国土利用計画法二七条の二に示された監視区域
の指定手続きの要点を六個のブロックにまとめ、これを時系列的に上から下へ並べ
ているというもので、その内容は次のとおりである。
(1) 第一のブロックでは、同法二七条の二第二項に規定されている都道府県知
事が監視区域を指定しようとする場合にあらかじめしなければならない意見聴取に
ついての条文を要約して平易な文言で記載している。
(2) 第二のブロックでは、同法二七条の二第一項に規定されている都道府県知
事による期間を定めた監視区域の指定の措置、並びに、同条三項によって準用され
る同法一二条二項、一一項に規定される都道府県知事による指定期間の限度と再指
定が可能なことを、右各規定の骨子を簡潔な文言でまとめて記載している。
(3) 第三のブロックでは、二七条の二第三項によって準用される同法一二条三
項に規定される都道府県知事による公告の措置を、法文を要約して平易な文言で記
載している。
(4) 第四のブロックでは、二七条の二第三項によって準用される同法一二条四
項に規定される規制区域の指定の効力発生を、法文を要約して平易な文言で記載し
ている。
(5) 第五のブロックでは、二七条の二第三項によって準用される同法一二条五
項に規定される都道府県知事による公告後の措置を、法文を要約して平易な文言で
記載している。
(6) 第六のブロックでは、二七条の二第三項によって準用される同法一二条一
〇項に規定される都道府県知事による規制区域指定後の調査義務、並びに同法二七
条の五に規定される都道府県知事の調査権限について、各法文の要点を平易な文言
で記載している。
(二) 右認定の事実によれば、原告表(7)は、国土利用計画法二七条の二、二
七条の五及び準用される同法一二条に規定された監視区域の指定手続及び指定後の
調査に関する事項について、準用された条文を合わせて、手続の流れに沿って整理
して法文の内容を簡潔に要約し、ブロック化して配列したものであって、創作性が
認められ、著作権法により保護される著作物と認められる。
(三) 被告らは、国土利用計画法二七条の二及び同条が準用する同法一二条に記
載した行政手続を時系列に従って並べると、①(土地利用審査会、関係市町村長の
意見聴取)、②(知事による区域、期間の決定)、③(公告)、④(公告による指
定の効力発生)、⑤(内閣総理大臣への報告、関係市町村長への通知、必要な措
置)、⑥(調査)の順となる。これを図表化しようとすれば、右①ないし⑥の項目
を一列に並べるしか方法がなく、縦書き横書きを別にすれば、誰が試みても同一図
表にならざるを得ない、このことは、行政手続規定は、手続の明確さが要求される
ために、規定文言が明確かつ覇束性を有し、その解釈も一義的にならざるをえない
ことに思いを致せば当然のことであり、原告表(7)は、条文そのものを簡略化し
て表現したにすぎず、表の内容に新規性、創造性が介入する余地はなく、原告表
(7)には著作物性がない旨主張する。
 しかしながら、国土利用計画法二七条の二及び同条が準用する同法一二条の規定
における監視区域の指定手続に関する事項について、どのように選択し、どのよう
に分類し、どのように法文の文言を要約し、どのような形式で配列するか多種多様
であり、また、指定後の調査に関する事項をもまとめて記載するか否かは考え方の
分れる点であり、更に原告表(7)が条文そのものを簡略化して表現したにすぎな
いものでないことは明らかであるから、被告らの右主張は、理由がない。
9 原告表(8)について
(一) 原告表(8)は、別紙対照表の原告表(8)のとおりであり、国土利用計
画法二三条ないし二七条に規定されている土地に関する権利の移転等の届出手続の
流れを時系列的に図表化したものであり、その表現形式は、国土利用計画法二三条
ないし二七条に規定されている土地に関する権利の移転等の届出手続の要点をブロ
ック化し、時系列的に関連するブロック間を実線で結び、上から下へ列記している
もので、その内容は次のとおりである。(甲七号証の一一)
(1) 最上段のブロックでは、同法二三条一項に引用される同法一五条一項所定
の土地売買等の契約を締結しようとする場合に当事者が都道府県知事に届け出なけ
ればならない事項中、原告が重要なものとして選択した予定価額と利用目的を具体
的に明示して記載し、末尾に法条の数字のみをかっこ書きで示している。
(2) 右ブロックに続くブロックでは、同法二三条一項に規定される土地売買等
の契約を締結しようとする場合の当事者の届出の方法を、法文の要点のみを簡潔な
文言で記載し、末尾に適用法条の数字のみをかっこ書きで示している。
(3) 右ブロックに続く手続の流れを、右届出に問題ある場合と問題ない場合と
都道府県知事が何もしない場合の三つの流れに分けている。
(4) 右届出に問題ある場合の流れの冒頭のブロック、このブロックの枠外及び
次の二つのブロックでは、同法二四条一項、二項に規定される都道府県知事による
措置を、法文の骨子のみを簡潔な文言で記載し、末尾に適用法条の数字のみをかっ
こ書きで示している。
 また右に続く手続の流れを、都道府県知事の勧告に従わない場合と従う場合の二
つの流れに分けて、従わない場合の流れのブロックでは、同法二六条所定の勧告に
従わない場合に都道府県知事のとりうる公表措置と契約の効力について、条文と解
釈に基づいて簡潔な文言で記載し、これに適用法条の数字のみをかっこ書きで示し
ている。勧告に従う場合の流れのブロックでは、同法二七条所定の勧告に基づいて
契約の締結が中止された場合の都道府県知事のとりうる措置の要点のみを簡潔な文
言で記載している。
(5) 前記届出に問題ない場合の流れのブロックでは、同法二四条三項所定の都
道府県知事のなすべき通知について、法文の骨子をブロック内とこのブロックの枠
外に分けて簡潔な文言で記載し、これに適用法条の数字のみをかっこ書きで示して
いる。
(6) 都道府県知事が何もしない場合の流れのブロックでは、同法二四条二項、
三項、二三条三項の解釈から導き出される都道府県知事の不作為により契約締結が
可能となる要件を、簡潔な文言で記載している。
(7) 右(5)の流れと(6)の流れを一つにまとめて、同法二三条三項の解釈
から導き出される効果である契約可能になることを、簡潔な文言で記載し、これに
適用法条の数字のみをかっこ書きで示している。
(二) 右認定の事実によれば、原告表(8)は、国土利用計画法二三条ないし二
七条、一五条に規定されている土地に関する権利の移転等の届出手続及びその後の
措置について、必ずしも条文の枠にとらわれずに場合分けして整理し、簡潔な文言
で要約し、ブロック化して配列したものであって、創作性が認められ、著作権法で
保護されるべき著作物と認められる。
(三) 被告らは、国土利用計画法二三条ないし二七条に規定されているところの
土地に関する権利の移転等の届出以降の手続の流れを図表化するならば、何人が試
みても原告表(8)のようにならざるをえず、後は微細な表現方法の問題であり、
行政手続規定は、その性質上、規定文言及びその解釈が明確性を要求され、原告表
(8)は、その明文規定と、そこから当然に導かれる解釈を図表化したものにすぎ
ず、何らの学術性、独創性もない旨主張する。
 しかしながら、国土利用計画法二三条ないし二七条に規定されている土地に関す
る権利の移転等の届出手続に関する事項について、どのように選択し、どのように
分類し、どのように法文の文言を要約し、どのような形式で配列するか多種多様で
あり、何人が試みても原告表(8)のようにならざるをえないとは認められず、被
告らの右主張は、理由がない。
 また、被告らは、原告表(8)は、先行出版物(乙九号証の五)の「土地に関す
る権利の移転等の届出」と題する表と同じものであり、したがって、右先行出版物
記載の表を模倣、改変したものであり、原告が著作権を取得することはありえない
旨主張するが、被告らの指摘する先行出版物である乙九号証の五の「土地に関する
権利の移転等の届出」と題する表と原告表(8)とを対比すれば両者の形式、表現
が相違していることは明らかであるから、被告らの右主張は、理由がない。
10 以上によれば原告表(1)、(2)については著作物とは認められないか
ら、これらについては複製の点について判断するまでもなく、著作権侵害と認める
ことができない。
二 争点二(被告表(3)ないし(8)はそれぞれ原告表(3)ないし(8)を複
製したものか。氏名表示権、同一性保持権の侵害があるか。)について
 被告表(3)ないし(8)は、別紙対照表の被告表(3)ないし(8)のとおり
である。
1 原告表(3)と被告表(3)との対比
(一) 原告表(3)と被告表(3)とを対比すると、次のとおりの事実が認めら
れる。
 原告表(3)も被告表(3)も、都市計画法一五条一項の規定による都市計画の
決定権者に関し、各種の都市計画とその決定権者を一つの表にまとめたものである
点で共通している。
 原告表(3)は、「1.都市計画の決定権者」との表題、続いて「(1)決定権
者」との表題があり、その下に、「原則ー都道府県知事および市町村(15)Ⅰ」
との記載があって、その下に一覧表が作成されているのに対し、被告表(3)で
は、上辺左側に横長の小さい長方形を有し右長方形の中に「要点・都市計画の決定
権者(1)」との記載のある長方形の枠内に一覧表が作成されている。被告表
(3)では、一覧表を大きく左右に分けた左側の最上欄には「都市計画の種類」、
右側の最上欄には「決定権者」と項目が記載されているが、原告表(3)にはその
ような欄はない。
 都市計画の分類、配列については、原告表(3)では前記一4において、①、②
(ア)、(イ)(a)、(b)、③、④、⑤、⑥、⑦として認定したとおりである
のに対し、被告表(3)では、①及び②までは原告表(3)と同様であるが、これ
以下は、③同法一〇条の二第一項に規定する促進区域、④同法(平成二年六月二九
日法律第六一号により改正された後のもの)一〇条の三第一項に規定する遊休土地
転換利用促進地区、⑤同法一一条一項に規定する都市施設、⑥同法一二条一項に規
定する市街地開発事業、⑦同法一二条の二第一項に規定する市街地開発事業等予定
区域、⑧地区計画との分類で、④の遊休土地転換利用促進区域が加わっている外、
配列も同法の条文の順序とおりの配列となっている。
 また、①の項目は、原告表(3)では、「市街化区域及び市街化調整区域の線
引」と記載されているのに対し、被告表(3)では、「市街化区域及び市街化調整
区域」と記載されており、要旨が異なっている。
(二)以上によれば、原告表(3)と被告表(3)は、共に都市計画法一五条一項
所定の都市計画の決定権者を整理して一覧表にまとめたものであるから、区域、地
区、地域等の表現、決定権者が同じになるのは当然であり、その中で全体的な表現
形式、都市計画の分類、配列等において右のように相違している以上、被告表
(3)は、原告表(3)の複製とは認められない。
2 原告表(4)と被告表(4)との対比
(一) 原告表(4)と被告表(4)とを対比すると、次のとおりの事実が認めら
れる。
 原告表(4)も被告表(4)も、都市計画法二九条の規定及びこれに関連する規
定(同法附則四項、同法施行令一九条、二〇条、同法施行令附則四条の二)により
開発行為をしようとする場合に都道府県知事の許可が必要かどうかについて、開発
行為の内容と都市計画区域との関係での都道府県知事の許可の要否を一つの表にま
とめたものである点で共通している。
 原告表(4)は、前記認定のとおり上辺左端付近に小さな切れ目を有し右切れ目
に「公式15」との記載のある長方形の枠内に全ての記載が収められているのに対
し、被告表(4)では、上辺左側に横長の小さい長方形を有し右長方形の中に「要
点・許可の不要な開発行為」との記載のある長方形の枠内に全ての記載が収められ
ている。
 一覧表の項目の分類についてみると、原告表(4)では、前記認定のとおり縦の
都市計画区域の関係の分類の(ア)において「都市計画区域(原則知事の許可必
要)」との表題欄を設けているのに対し、被告表(4)では、横の開発行為の分類
の冒頭に「原則」欄を設けている点で相違している。
 また、原告表(4)では、その下に、都市計画区域の種類中の②ないし⑤の表示
の説明として、都市計画法二九条二号及び同法施行令二〇条一号、二号の規定を要
約した文、同法二九条三号の規定を要約した文、同条四号の規定を要約した文、同
条五号ないし一一号等の規定をまとめて要約した文を、四項目に分けて記載してい
るのに対し、被告表(4)ではこれがない点でも相違している。
 しかし、原告表(4)と被告表(4)の一覧表における記載内容は、都市計画法
二九条四号の開発行為を、原告表(4)が「公的機関の行うもの」と表現している
のに被告表(4)は「国、都道府県が行うもの」とする外は、同一か極めて類似し
ており、
また原告表(4)も被告表(4)も一覧表の下に、○、×、△の意味の説明を記載
している点で共通し、その記載内容も全く同一である。
(二) 右(一)認定の事実によれば、原告表(4)と被告表(4)との記載内容
は、同一か極めて類似している点もあるが、共に都市計画法二九条及び関連する規
定に定められた、開発行為の許可の要点を整理して一覧表にまとめたものであるか
ら内容に共通する点があるのは当然であり、その中で、全体的な表現形式、内容に
ついて右のような相違がある以上、被告表(4)は原告表(4)の複製とは認めら
れない。
3 原告表(5)と被告表(5)との対比
(一) 原告表(5)と被告表(5)とを対比すると、次のとおりの事実が認めら
れる。
 原告表(5)も被告表(5)も、建築基準法五三条一項、同法施行令二条一項二
号の規定によって定められる建ぺい率を算定するための建築物の建築面積の計算方
法の説明図である。
 原告表(5)も被告表(5)も、二階建ての建物の粗略な正面図を上に、その平
面図を下に配したものであり、その表現は、被告表(5)では樹木が描かれていな
い点、バルコニー様のものの部分と出入口の部分、建物の投影図部分に付された点
描の密度がやや粗である点、建物の投影図中に「平面図」の文字がない点、平面図
の左下に敷地面積等の文字のない点を除けば、建物の形態、窓の数、形態、位置、
説明のための補助線の引き方や注記、平面図の左下の意味不明の小さな横長の長方
形が記載されている点まで共通している。
(二) 右(一)認定の事実によれば、被告表(5)は、原告表(5)と著作物と
しての同一性を損なわない程度にまで類似しているものと認められる。
4 原告表(6)と被告表(6)との対比
(一) 原告表(6)と被告表(6)とを対比すると、次のとおりの事実が認めら
れる。
 原告表(6)も被告表(6)も、建築基準法六九条ないし七七条に規定された建
築協定に関する事項を適用区域、協定の主体、協定の内容、手続、協定の効力、協
定の変更、協定の廃止、一人協定の項目に分類して、右各項目につき簡潔に要点を
列挙し、
一つの表にまとめたものである点で共通している。
 原告表(6)では、前記認定のとおり、上辺左端付近に「公式39」との記載の
ある長方形の枠内に全ての記載が収められているのに対し、被告表(6)では、上
辺左側に横長の小さい長方形を有し右長方形の中に「要点・建築協定のまとめ」と
の記載のある大きな長方形の枠内に全ての記載が収められている。
 また、原告表(6)では、「建築協定」との見出しがあるのに、被告表(6)に
はこれがない。
 一覧表の表現内容は、原告表(6)と被告表(6)は、ほぼ同一であり、わずか
に、原告表(6)では、「協定の主体」の右欄中の「借地権者」の記載の下には、
建築基準法六九条所定の地上権又は賃借権のうち除外される場合を要約して「(臨
時設備・一時使用を除く)」と記載しているのに対し、被告表(6)ではこれがな
い点で相違するのみである。
 一覧表の欄外の記載については、原告表(6)では「一人協定」の項目について
の補注を記載しているのみであるのに対し、被告表(6)では、ほぼ同文の一人協
定の項目についての補注の外に、「協定の効力」の項目についての補注がある点で
相違している。
(二) 右認定の事実によれば、原告表(6)と被告表(6)とは前記のような相
違点はあるものの、その表現は著作物としての同一性を損なわない程度にまで類似
しているものと認められる。
5 原告表(7)と被告表(7)との対比
(一) 原告表(7)と被告表(7)とを対比すると、次のとおりの事実が認めら
れる。
 原告表(7)も被告表(7)も、国土利用計画法二七条の二及び関連法令に規定
された監視区域の指定手続を時系列的に図表化したものである。
 被告表(7)では、上辺左側に横長の小さい長方形を有し右長方形の中に「要
点・監視区域の指定」との記載のある大きな長方形の枠内に全ての記載が収められ
ているのに対し、原告表(7)では、これがない点、被告表(7)では、右枠内
に、まず、国土利用計画法二七条の二第一項に規定される都道府県知事の監視区域
の指定の権限を、法文の要点を抜粋して記載しているのに対し、原告表(7)では
これがない点、被告表(7)では、右枠内の右下に適用法条(国土利用計画法二七
条の二のみ)を簡潔に記載しているのに対し、原告表(7)ではこれがない点で相
違している。
 他方、原告表(7)と被告表(7)中の国土利用計画法二七条の二に示された監
視区域の指定手続きの要点を六個のブロックにまとめ、これを時系列的に上から下
へ並べた部分は、そのような整理の形式が共通しているばかりか、その記載内容ま
で原告表(7)と一言一句同一である。
(二) 右認定の事実によれば、原告表(7)と被告表(7)中の六個のブロック
からなる部分は、ほぼ同一であると認められる。
6 原告表(8)と被告表(8)との対比
(一) 原告表(8)と被告表(8)とを対比すると、次のとおりの事実が認めら
れる。
 原告表(8)も被告表(8)も、国土利用計画法二三条ないし二七条に規定され
ている土地に関する権利の移転等の届出手続の流れを時系列的に図表化したもので
ある点で共通している。
 被告表(7)では、上辺左側に横長の小さい長方形を有し右長方形の中に「要
点・届出の手続のまとめ」との記載のある大きな長方形の枠内に全ての記載が収め
られているのに対し、原告表(8)ではこれがない点、被告表(8)では、時系列
的に関連するブロック間を矢印で結んでいるのに対し、原告表(8)では、時系列
的に関連するブロック間を実線で結んでいる点、原告表(8)では、ブロック中の
記載に、適宜、適用法条の数字を示しているのに対し、被告表(8)ではこれがな
い点で相違している。
 他方、原告表(8)と被告表(8)は、一つのブロックの中にまとまる事項、手
続きの流れの分け方が共通である上、各ブロック内の記載の表現が同一又は著しく
類似している。
(二) 右認定の事実によれば、原告表(8)と被告表(8)との類似の程度は、
同じ国土利用計画法二三条ないし二七条の規定を図表化したものであることから当
然に予想される類似性を遥かに超えて類似しているものと認められる。
7 訴外【A】は、昭和六二年五、六月頃から平成二年一〇月までの間、原告に、
その開催する宅建試験の受験指導講座の講師として勤務し、原告書籍(一)の作成
にも関わり、また右講座での講義に原告書籍(一)を講義の教材として使用してい
た。訴外【B】は、平成元年から平成二年一〇月までの間、原告に、その開催する
宅建試験の受験指導講座の講師として勤務し、原告書籍(一)を教材として使用し
ていた。【A】と【B】は、原告を平成二年一〇月に退職した後、翌一一月から被
告学院に勤務し、被告学院の発意に基づき、その名で発行するものとして、平成二
年一二月から翌年三月頃までの間に、被告表(1)ないし(8)を含む被告書籍
(一)の原稿を共同で執筆したが、被告表(1)、(2)を含む部分は【A】が、
被告表(3)ないし(8)を含む部分は【B】が分担した。少なくとも【A】は、
被告書籍(一)の原稿を執筆するに際し、原告書籍(一)を参考にしたことがあっ
た。被告書籍(二)は、被告らにおいて被告書籍(一)中の要点となる部分を抜き
出して作成した。(乙一四号証、証人【A】の証言、弁論の全趣旨)
8 右3ないし6のとおり、被告表(5)は原告表(5)に、被告表(6)は原告
表(6)に、被告表(7)中の六個のブロックからなる部分は原告表(7)に、被
告表(8)は原告表(8)にそれぞれ同一あるいは極めて類似しているものである
ところ、右7のとおり被告書籍(一)の執筆者である【A】も【B】も原告書籍
(一)の作成に携わったり、講義の教材として使用して、原告書籍(一)の内容は
十分把握しており、被告書籍(一)の執筆の際に原告書籍(一)を参考にしていた
ものであり、しかも、3認定のとおり、原告表(5)中にある意味不明の長方形が
被告表(5)にもあることに照らせば、被告表(5)、被告表(6)、被告表
(7)中の六個のブロックからなる部分、被告表(8)は、それぞれ原告表(5)
ないし(8)に依拠して、そのまま、あるいは一部改変して作成されたもので、原
告表(5)ないし(8)の複製と認められるから、これらの被告表(5)、
(6)、(8)及び被告表(7)の前記部分を含む被告書籍(一)、(二)を作
成、出版することは原告の原告表(5)ないし(8)についての複製権の侵害にあ
たる。
 他方、右1、2のとおり、被告表(3)、被告表(4)は、原告表(3)、原告
表(4)と共通する点もあるものの相違点があり、原告表(3)、原告表(4)の
複製とは認められない。
9 被告表(5)、(6)、(8)及び被告表(7)の前記部分は、原告表
(5)、(6)、(8)、(7)を一部改変したものであり、かつ著作者として原
告の名称が表示されていないから、被告書籍(一)、(二)を作成、出版すること
は原告の同一性保持権、氏名表示権の侵害にあたる。
三 争点三(被告らの行為による原告の損害及び謝罪広告の必要性)について
1 前記二7認定のとおり、被告学院は、平成二年一〇月に原告を退職した【A】
及び【B】に、退職の約二か月後の平成二年一二月から、原告書籍(一)と同様の
宅建試験の受験者用のテキストである被告書籍(一)の執筆をさせていることに鑑
みれば、被告学院は、【A】及び【B】が原告に勤務中、宅建試験の受験指導に関
与していた経歴を知った上、被告書籍(一)の執筆をさせたものと推認される。
 そうすると、被告学院は、右両名によって短期間に作成された被告書籍(一)の
原稿が原告の出版している同種の書籍の著作権を侵害していないかどうか調査し、
他人の著作権を侵害しないようにすべき義務があるのにこれを怠ったまま被告書籍
(一)を販売し、またその要点を抜き出した被告書籍(二)を無償配布した過失が
あるものと認められる。
 また、被告出版は、被告学院と代表者を同じくし、営業所も同一場所にあり、か
つ、業務においても密接な関連を有しているのである(弁論の全趣旨)から、被告
学院の発意の下にでき上がった被告書籍(一)、(二)の原稿を出版しようとする
場合、被告学院と同様に、でき上がった被告書籍(一)、(二)の原稿が他人の出
版している同種の書籍の著作権を侵害していないかどうか調査し、他人の著作権を
侵害しないようにすべき義務があったというべきであるところ、被告出版は、これ
を怠ったまま被告書籍(一)、(二)を出版したのであるから過失があるものと認
められる。
 右被告らの行為は客観的に関連共同するものとして、共同不法行為に当たり、被
告学院と被告出版は、連帯して原告の損害を賠償すべき責任を負う。
2 著作権侵害による損害
 被告出版が被告書籍(一)を一部二八〇〇円で少なくとも三〇〇〇部発行したも
のであることは、当事者間に争いがない。
 原告は、被告出版が被告書籍(一)を五〇〇〇部発行した旨主張するが、右三〇
〇〇部以上の発行を認めるに足りる証拠はない。
 被告表(6)ないし(8)が掲載された被告書籍(二)は、一〇〇〇部が被告学
院の宅建試験講座の受講者等に無償で配布されたものであることは前記のとおりで
ある。
 原告は、被告らの前記著作権侵害により、著作権行使につき通常受けるべき金銭
の額相当の損害を被ったものと認められるところ、被告書籍(一)の定価、総頁数
(五五四頁)、被告書籍(一)、(二)の発行部数に原告表(5)ないし(8)の
内容を綜合考慮すれば、原告が被告書籍(一)及び(二)の出版発行による著作権
の行使につき通常受けるべき金銭の額は、原告表一面について二万五〇〇〇円、四
面分一〇万円が相当であるが、原告表(5)ないし(8)についての原告の主張の
範囲内で一万一八五四円(二万〇二一六円÷八×四+四〇七四円÷七×三=一万一
八五四円)と認める。
3 著作者人格権侵害、信用毀損等による損害
 右1及び前記二8認定のとおり、被告らは、原告表(5)ないし(8)に一部改
変を加えた被告表(5)ないし(8)を掲載した被告書籍(一)を販売し、被告表
(6)ないし(8)を掲載した被告書籍(二)を無償配布して原告の同一性保持
権、氏名表示権を侵害したものであるところ、前記認定の被告らの著作権侵害行為
の態様及び諸般の事情等を勘案すると、被告らの著作者人格権侵害による損害賠償
額は四〇万円と認めるのが相当である。
 原告は、被告らの行為によって著しい信用毀損を受けた旨主張するが、右事実は
本件全証拠によっても認めるに足りない。
4 弁護士費用相当の損害
 原告が本訴の提起及び遂行のために弁護士である原告代理人を選任したことは当
裁判所に顕著であるところ、本件事案の内容、当初は被告書籍(一)、(二)の出
版、販売の差止請求もされていたところ、被告らにおいて被告書籍(一)の在庫を
裁断処分し、被告書籍(二)は在庫がなく、その後発行された版では問題となる被
告表が含まれていない等の事情の変化が生じたので右差止請求は取り下げられたこ
とを含む審理の経緯、訴訟の結果その他諸般の事情を考慮すると、原告に生じた弁
護士費用のうち三〇万円は被告らの著作権侵害の不法行為と相当因果関係のある損
害として被告に負担させるべきものと認めるのが相当である。
5 右2ないし4の損害額の合計は七一万一八五四円となる。
6 被告らは、被告書籍(一)のみならず被告書籍(一)の第二版に当たる「宅建
虎の巻(下)」の一九九一年度版をも既に発行しておらず、在庫品として残ってい
た二一七部は廃棄処分しており、被告書籍(一)の第三版に当たる「宅建虎の巻
(下)」の一九九二年度版以降は、被告表(5)ないし(8)の掲載を止めてい
る。また、被告らは、被告書籍(二)のみならず被告書籍(二)の第二版に当たる
「宅建虎の子(下)」の一九九一年度版をも既に発行しておらず、在庫品も残って
いない。被告書籍(二)は、宅建試験の直前対策の資料として被告学院の受講生に
無料配布していたものであって、一般に流通していなかった。(以上乙一五号証の
一ないし一二、乙一六号証の一ないし一一、乙一七号証)。以上の事実に前記の被
告書籍(一)、(二)の販売ないし頒布数、被告書籍(一)、(二)中において被
告表(5)ないし(8)の占める程度を考慮すると、金銭賠償の他に、原告の名誉
声望を回復するため原告が請求する謝罪広告が必要であるとは認められない。
四 結論
 以上によれば、原告の本訴請求は、被告らに対し各自損害賠償金七一万一八五四
円及びこれに対する平成四年三月一五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合
による遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある。
(裁判官 西田美昭 宍戸充 櫻林正己)
別紙謝罪広告目録(省略)
被告表目録
被告書籍(一)及び(二)に示された左記表
 記
(1) 被告書籍(一)の五六頁要点33及び被告書籍(二)の七頁要点15「宅
建業者名簿への登載事項と変更の届出」に示された表
(2) 被告書籍(一)の八一及び八二頁要点49及び被告書籍(二)の一三頁要
点30「死亡等の届出」に示された表
(3) 被告書籍(一)の二五七頁要点22及び被告書籍(二)の六一頁要点20
「都市計画の決定権者(1)」に示された表
(4) 被告書籍(一)の二六八頁要点27及び被告書籍(二)の六五頁要点25
「許可の不要な開発行為」に示された表
(5) 被告書籍(一)の三三七頁2建ぺい率の計算方法で示された図
(6) 被告書籍(一)の三六四及び三六五頁要点53及び被告書籍(二)の七九
頁要点50「建築協定のまとめ」に示された表
(7) 被告書籍(一)の三八二及び三八三頁要点55及び被告書籍(二)の八一
頁要点52「監視区域の指定」に示された表
(8) 被告書籍(一)の三八八頁要点57及び被告書籍(二)の八三頁要点54
「届出の手続きの総まとめ」に示された表
原告表目録
原告書籍(一)及び(二)に示された左記表
       記
(1) 原告書籍(一)の一四〇頁及び原告書籍(二)の三〇頁の公式35の1.
「名簿登録事項と変更の届出が必要な事項」に示された表
(2) 原告書籍(一)の一四九頁及び原告書籍(二)の三四頁の公式41の1.
「死亡等の届出21」に示された表
(3) 原告書籍(一)の二二六頁「1.都市計画の決定権者」に示された表
(4) 原告書籍(一)の二三六頁及び原告書籍(二)の五二頁の公式15に示さ
れた表
(5) 原告書籍(一)の二六九頁に示された図
(6) 原告書籍(一)の三〇五頁及び原告書籍(二)の七〇頁の公式39に示さ
れた表
(7) 原告書籍(一)の三一二頁に示された表
(8) 原告書籍(一)の三一三頁の届出の手続きの図表
原告書籍目録
(一) 題号「出る順宅建(下)宅建業法 法令上の制限 その他」第三版
発行日 一九九〇年三月一〇日
著者 株式会社東京リーガルマインド(総合研究所 宅建試験部)
発行所 株式会社東京リーガルマインド
(二) 題号「出る順公式集Ⅱ(宅建業法・法令上の制限)」
発行日 一九九〇年九月三〇日ころ
著者 株式会社東京リーガルマインド
発行所 株式会社東京リーガルマインド
被告書籍目録
(一) 題号「宅建虎の巻(下)宅建業法・法令上の制限・税・その他」
発行日 平成三年六月二〇日
発行者 株式会社早稲田経営出版
(二) 題号「宅建虎の子(下)宅建業法・法令上の制限・税・その他」
発行者 株式会社早稲田経営出版
別紙 対照表
<27885-001>
<27885-002>
<27885-003>
<27885-004>
<27885-005>
<27885-006>
<27885-007>
<27885-008>
<27885-009>
<27885-010>
<27885-011>
<27885-012>
<27885-013>
<27885-014>
<27885-015>
<27885-016>

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◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

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