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裁判例


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○ 主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
被告が、昭和五四年九月一〇日付でした原告の訴外株式会社元三に対する六二七五
万七二一〇円の未収金債権の差押処分はこれを取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告に対する課税及び差押の経過
(一) 昭和四八年五月二日訴外A(被相続人。以下亡Aという。)が死亡したこ
とによつて、原告他三名が亡Aの遺産を相続し、原告他二名は、法定の申告期限で
ある同年一一月二日に、また相続人のうちBは、同年一〇月二九日に遺産分割協議
未了のまま所轄芦屋税務署長に相続税申告書を提出した(以下本件申告ともい
う)。
(二) その後、亡Aに永大産業株式会社から弔慰金(退職金)が支給されたの
で、原告らは昭和四九年四月二六日相続税の修正申告書を提出した。
(三) そして、原告らは、大阪国税局直税部資料調査課から相続税の申告につき
調査をうけ、調査結果による修正申告の慫慂に応じて、昭和五〇年七月七日、遺産
分割協議に基づく相続税の最終修正申告書を提出した(以下前記(二)の修正申告
と併せて「本件修正申告」ともいう)。
(四) なお、前項の修正申告額について、訴外Cが死後認知され、相続人が一名
増加したから、原告らは、昭和五二年一〇月二九日更正の請求書を提出し、昭和五
二年一一月一〇日に相続税額の一部について減額更正された。
(五) 右最終の修正申告による原告の取得財産の総額は、二七億八二二一万六二
七五円、債務及び葬儀費用の額七億二九九七万〇三七二円、差引純資産額は二〇億
五二二四万五〇〇〇円、相続税額は一三億九四八三万四一〇〇円となつた。
(六) 原告の右相続による取得資産の主要なものは、左記各株式(以下本件各株
式ともいう。)であり、その評価合計額は、右差引純資産額を超え、取得財産に対
する比率でも九一パーセント強を占めていた。
(七) 原告は、相続税の当初申告時である昭和四八年一一月二日に一八七三万六
九〇〇円を納付し、残税額のうち八億五〇〇〇万円について、所轄芦屋税務署長に
相続税延納許可申請書を提出し、同申請は同年一二月一八日に許可された。右延納
は一〇年の年賦であり、永大産業が納税保証を行つている。
(八) ところが、その後いわゆるオイルシヨツクに端を発したわが国経済の長期
にわたる未曽有の大不況の結果、永大産業株式会社は、昭和五三年二月二〇日に会
社更正の申立をして事実上倒産し、原告が取得していた同社並びにこれと同時に同
様倒産もしくは閉鎖のやむなきに至つた右各関連会社の株式は、すべてほとんど無
価値となつてしまつた。
(九) このため、原告は、延納許可後、一〇年年賦の内、第一回分から第三回分
までは延納期限内に納付したが、第四回分については納付することができず、滞納
となつた。そこで、所轄芦屋税務署長は昭和五三年二月一四日に延納不履行を理由
として許可を取り消した。右許可取消しにより、第五回分から最終分までが滞納と
なつた。
(一〇) のみならず、被告は、原告が取得した相続財産の範囲を超えて(もとよ
り、原告は換価可能な相続財産はすべて相続税及び換価に伴う譲渡所得税その他の
納税に充てている)、原告が相続よりも前から有していた別表2の1に記載の債権
(以下本件債権ともいう。)を含む固有財産(同財産を相続開始後に譲渡したこと
による未収の売買代金債権を含む)に対しても、次々に差押を行ない(その差押状
況は別表1、2のとおりである。但し、処分予定価額の点は除く)(以下、本件各
差押ともいう)、そのために、原告は、あらゆる事業活動を封じられているばかり
でなく、日常生活にすら事欠くありさまである。
2 ところで、被告のなした前記差押は、以下に述べる通り、違法であるから取消
さるべきである。すなわち、
(一) そもそも、前記1の(六)に記載の本件各株式が、その後無価値化した原
因は、わが国経済の基本的、構造的弱点として、客観的には相続開始前から厳然と
して存在していたものにほかならず、とりわけ住宅関連産業は、過当競争のうえ
に、需要が延び悩みの傾向を見せ始めていた。そして、実際にも、その後間もな
く、これらの弱点や傾向が顕在化した本件においては、相続税評価の算出に際して
も、当然このような事情が、評価を決める重要な一要素として、考慮さるべきであ
つた。また、右各株式が、いずれも転々流通の可能性のないいわゆる支配株で、し
かもその多くは、非上場の株式であつたことも、看過さるべきではない。ところ
で、国税庁は、相続にかかる株式の評価方法について、基本通達を出し、これに基
づき、一律の基準によつて株価を評価することとしているが、右基本通達の内容そ
のものが適正妥当なものではないのみならず、前述の如き事情のある本件において
は、原告の相続した本件各株式について、右基本通達に基づいてこれを評価するこ
とは違法不当である。しかるに、所轄芦屋税務署の担当係官は、本件各株式の評価
について、部内に示達されているいわゆる相続財産評価に関する基本通達に示され
ている画一的な基準を唯一無二の絶対的なものとして原告に押しつけ、専門的知識
がなく、担当係官らを信頼している原告は否応なくこれに従わざるを得なかつた。
しかし、このような状況のもとでなされた原告らの前記各申告は、いずれも税務係
官の誤つた指導による重大かつ明白な錯誤に基づくものであり、他に適切な救済方
法がなければ、納税義務者の利益を著しく害することが明らかであるので、当然無
効と解さるべきである(最高裁昭和三九年一〇月二二日判決民集一八巻八号一七六
二頁)。したがつて、右当然無効の申告に基づいて確定したとされる前記1の
(五)に記載の原告の相続債務は、もともと不存在である。
よつて、本件各差押は、租税債務がないのに差押えた違法がある。
(二) 次に、災害被害者に対する租税の減免・徴収猶予等に関する法律(以下災
害減免法という)第四条は、「相続税・・・・の納税義務者で災害により相
続・・・・に因り取得した財産について相続税法・・・・の規定による申告書の提
出期限後に甚大な被害を受けた者に対しては、命令の定めるところにより、被害が
あつた日以後において納付すべき相続税・・・・のうち、被害を受けた部分に対す
る税額を免除する」旨を規定しており(なお同法施行令第一一条参照)、オイルシ
ヨツクに端を発した我が国経済の長期にわたる大不況の結果、永大産業が倒産し、
同社並びに右各関連会社の株式がほとんど無価値となつてしまうというが如き事態
は、一般人の予期することができない社会経済事情の急変による大巾かつ異常な株
価の減価であつて、社会通念上災害による被害と何ら変るところがないから、右規
定は、当然本件の如き場合にも準用もしくは類推適用されるべきである。
仮に、右規定の準用ないし類推適用が困難であり、また相続税の課税範囲や税率を
如何に定めるかは、基本的には立法政策に委ねられているとしても、相続税が相続
財産額を上廻る課税を規定することによつて、相続制度そのものを事実上否定する
が如きことは、とうていありうるべきことではないから、事後的にもしろ、課税の
対象とされていた経済的な利益が、納税者本人の責には帰し得ない事情で失なわ
れ、課税をそのまま維持することが、正義公平の観念に反すると認められる場合に
は、課税権者は、右法条の精神ないしは条理に従つて、何らかの是正措置を講ずべ
きであり、その措置をとらないで徴税を強行することは許されず、あえて徴収した
租税は、公法上の不当利得として返還すべきであると解される(最高裁昭和四九年
三月八日判決民集二八巻二号一八六頁参照)。
そして、右災害減免法の準用もしくは類推適用ないしは、これらの法条の精神や条
理に従つて、是正措置を講ずれば原告には最早納付すべき相続税はない(たとえ
ば、災害減免法四条、同法施行令一一条によれば、原告の納付すべき相続税額は、
四億一八二一万六七〇〇円〔1、394、834、100×615、330、00
0÷2、052、254、000=418、216、700〕に減免される筈であ
る。原告は、利子税も含めてすでに一二億三〇〇〇万円余の相続税を納付している
ので、もはやこれ以上納付すべき相続税はない。)から、前記差押えは違法であ
る。
(三) 仮に、然らずとするも、その後何回かにわたる原告の相続税の納付によ
り、その相続税本税は、昭和五七年八月三一日現在、二〇〇〇円を残すのみとなつ
ているにも拘らず、被告は今日に至るまで、国税通則法六三条所定の減免措置すら
講ずることなく、依然として年率一四・六パーセントの高率の延滞税徴収を強行す
る姿勢を崩さず、原告の固有財産も含めた別表12に記載の財産に対する本件各差
押を維持している。このような差押は、明らかに超過差押であつて違法というべき
である。なお、被告が本件差押後の納付、充当額を全く考慮に入れていない点も、
超過差押の観点からは問題とすべきである。
(四) 国税通則法六三条四項所定の延滞税の減免措置は、徴税当局がすみやかに
公売等を進めなかつたことを考慮した措置であるから、延滞税額を確定させるに当
つては、差押等によつて充足せられていた部分に関する限り、無条件かつ例外なし
に認められるべき取り扱いであるにも拘らず、このような措置がとられていないの
は違法である。そして、右措置がとられれば、延滞税は大巾に減少し、本件差押は
超過差押となつて、違法というべきである。
(五) 相続税の連帯納付責任を定めた相続税法三四条一項は、「当該相続又は遺
贈により受けた利益の価額に相当する金額を限度として」と規定しており、その立
法趣旨は、各相続人には固有財産まで吐き出して他の相続人の相続税を納付する責
任はないという趣旨であるから(相続により取得した財産の価額から、相続税法一
三条所定の債務のほか、当該相続人の相続税額や相続に関する登録免許税まで控除
できるのもこの理による)、同条項にいう「利益」とは、当然民法七〇三条所定の
不当利得の場合のそれと同様に現存する現実の利益を意味する。したがつて、その
責任は、本件債権のような相続財産ではない原告の固有財産には及ばないにもかか
わらず、これを差押えたことは違法である。
(六) 相続税の租税債権に基づいて納税義務者の財産を差押える場合には、まず
相続財産から差押えるべきであり、不足する場合にのみ固有財産に及ぶべきもので
ある(国税徴収法五一条一項)。しかるに、本件差押に係る原告の株式会社元三に
対する未収金債権六二七五万七二一〇円は相続財産ではなく、原告の固有財産であ
る。したがつて、本件差押は、右条項に反し、違法である。
3 以上いずれにしても、前記各差押は違法であるから原告は、取敢えず、別表2
の1に記載の差押につき、異議申立をし、これが棄却されたので、さらに国税不服
審判所に審査請求をしたところ、昭和五六年一二月八日付で棄却の裁決があり、同
裁決は、同月二〇日頃、原告に送達された。
4 よつて、原告は、本訴において、別表2に記載のうち、番号1の昭和五四年九
月一〇日付でなされた原告の訴外株式会社元三に対する六二七五万七一一〇円の未
収金債権の差押処分の取消を求める。
二 請求原因に対する被告の認否
1 請求原因1一の(一)ないし(六)の事実(但し、原告の取得資産中、同
(六)の株式の取得率は九一パーセント強ではなく、五八パーセントである)及び
同(七)の事実は認める。
2 同1の(八)のうち、永大産業が昭和五三年二月二〇日会社更生の申立てをし
たことは認めるが、その余の事実は不知。
3 同一の(九)は認め、同(一〇)のうち被告が別表12の通りの差押をしたこ
とは認め、その余は不知。
4 同2の冒頭及び(一)は争う。
5 同2の(二)のうち、災害減免法第四条に原告主張どおりの規定があることを
認め、その余は争う。
6 同2の(三)のうち原告の納付すべき相続税本税が昭和五七年八月三一日現在
二〇〇〇円となつたことは認めるが、その余は争う。
7 同2の(四)ないし(六)は争う。
8 同3のうち、差押が違法であるとの点は争うが、その余は認める。
三 被告の主張
1 仮に、原告主張の相続税の課税の過程に、原告主張の瑕疵があつたとしても、
それと滞納処分とは、それぞれ独立の法律効果を目的とする別個の処分であるか
ら、差押処分に違法がない限り、課税処分の瑕疵を理由に、差押処分の取消を求め
ることは許されない。
2 原告のした本件相続税の申告は、無効ではない。
(一) 原告の本件相続税の申告書ないし修正申告書は、いずれも原告の自主的な
判断に基づいて作成され、かつ、任意に提出されたものであつて、被告の担当係官
が原告らに対し、本件株式評価につき、誤つた指導をし、これに従うことを強要し
たことはない。
(二) 次に、納税義務者が、申告ないしは修正申告について、錯誤による無効を
主張できるのは、申告書の記載内容について、その錯誤が客観的に明白かつ重大で
あつて、更正の請求という所得税法の定めた過誤是正以外の方法による是正を許さ
ないとすれば、納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場
合に限られる(最高裁昭和三九年一〇月二二日判決・民集一八巻八号一七六二ペー
ジ)ところ、右の「申告書の記載内容について、その錯誤が客観的に明白」である
とは、申告ないしは修正申告の時点において、減額更正すべき事情が客観的に明白
であることをいうものと解される。
ところで、相続税法二二条は、相続財産の価格は、特別に定める場合を除いて、当
該財産の取得時における時価による旨定めているのみで、同法は、株式の時価に関
する評価方法をなんら定めていないのである。そこで、国税庁において基本通達を
定め、その評価基準に従つて各税務署が統一的に株式の評価をし、課税事務を行つ
ている。そして、上場株式の評価については、基本通達一六九に定められていると
ころ、右通達が、上場株式の評価について、証券取引所の公表する課税時期(相続
開始日)の最終価格、または、課税時期(相続開始日)の属する月以前三か月間の
毎日の最終価格の各月ごとの平均額(以下「最終価格の月平均額」という。)のう
ち、最も低い価額によつて評価することとしているのは、一時的に騰貴した株価を
もつて評価額とするのを避けようとする趣旨である。また、最終価格の月平均額を
三か月に限つた趣旨は、仮に相続開始後の平均価格によることとした場合には、株
価が恣意的に操作される恐れがあり、弊害が生ずるからである。そして、右基本通
達による評価方法に基づいて株式の評価を行うことが、相続税の課税の公平を期す
る所以であるとの考えに基づき、これが一般に是認されていたところ、本件におい
て、原告が相続によつて取得した永大産業株式会社の株価は、昭和四八年五月二日
(相続開始の日)の最終価格が七〇八円、同年三月ないし五月の最終価格の月平均
額は、それぞれ七二四・八円、六九四・七円、六九八・五円であるから、原告の右
株式の申告価格六四五円は妥当な評価といえる。このように、本件申告ないしは本
件修正申告の基礎となつた株式の評価方法は、前記基本通達一六九号にそつたもの
で、右評価方法が明らかに誤りであるとはいえないのであるから、本件申告ないし
は、本件修正申告の時点において、減額更正すべき事情が客観的に明白であつたと
いうこともいえない。
したがつて、本件申告ないしは本件修正申告が無効であると認めることはできない
のである。
3 本件に災害減免法四条の適用はない。
いわゆるオイルシヨツク等の経済事情の変化が災害減免法一条の災害に当たらない
ことは、同条が列記している事由から明らかであるから、原告主張の株価の下落に
ついては、右同法の適用のないことはいうまでもない。また、同法四条は、災害被
害者に対する税額を免除する方法について、「・・・・命令の定めるところによ
り、・・・・税額を免除する。」と規定して、命令の定めるところに委ねていると
ころ、同法施行令(昭和二二年政令第二六八号)一一条二項は、「法第四条の規定
の適用を受けようとする者は、その旨、被害の状況及び被害を受けた部分の価額を
記載した申請書を、災害のやんだ日から二か月以内に、納税地の所轄税務署長に提
出しなければならない。」と規定しているのであるから、災害被害者が災害による
税額の免除を受けるためには、右手続を履践することを要するのである。したがつ
て、この手続を履践することなく、訴訟において、直接税額が免除さるべき事由が
存したので免除されているとして、租税債務不存在の主張をすることは許されない
ものといわなければならないのであり、この点に関する原告の主張は、その前提に
おいて失当である。
なお、原告は、最高裁昭和四九年三月八日判決(民集二八巻二号一八六ページ)を
引用して、一旦課税の対象とされた経済的利益が後日失なわれた場合には、課税措
置が変更されなくても、租税債務は存在しないものと解すべきである旨主張する。
しかしながら、同判決の事案は、課税の対象とされた金銭債権が後日貸倒れによつ
て回収不能となつたというものであつて、要するに、権利確定主義のもとにおい
て、金銭債権の確定的発生の時期を基準として所得税を課するのは、現実収入がな
くても、現実収入のあることを予定して、これを前提に未必的所得に対して課税す
るというものであるから、その後に債権が貸倒れによつて回収不能となつた場合に
は、先の課税は、その前提を失い、結果的に所得なきところに課税したものという
ことになるので、何んらかの是正を要するということに基づくのである。これに対
して、本件においては、原告は、本件相続時、本件申告ないしは本件修正申告に係
る評価額相当の株式を取得したのであり、そして、この評価額相当の株式を取得し
たことに対して課税をしているのであるから、右最高裁判例とは、事案を異にし、
何んらかの是正をしなければならない事情にはないのであり、原告の主張には理由
がない。
4 超過差押について
被告のした別表12の差押は、超過差押ではない。一般的に、「超過差押」である
か否かは、差押財産の見積価額(債権の実質的価額は、第三債務者の資力によつて
定まるものであるから、名目的な価額、との趣旨ではない)と徴収すべき国税(延
滞税等の附帯税も当然含まれる)の額とを比較して判定するものであり、仮に、超
過額が生じた場合でも、その超過額が過大でない限り、直ちには、超過差押として
違法とはならないのである。しかも、この超過の事実が、差押処分後に発生したの
であれば、それは、処分後の事情として、差押処分を違法ならしめるものではな
い。
本件において、本件債権差押日前日の昭和五四年九月九日現在における本件相続に
係る原告の納付すべき国税は、総計一一億七九〇七万〇五〇七円である。その内訳
は、別表3の(A)の本税三億六一五一万五〇三二円及び(E)の延滞税一億二六
四万一七九二円(これは、昭和五四年九月九日現在における本税収納未済額の右
(A)に対する同日現在で仮計算したところの延滞税額である。
)、別表4の(B)の延滞税四九三万二二〇〇円、別表5の(C)の利子税三九二
七万円、別表6の(D)の利子税八四一万五〇〇〇円、並びに、連帯納付責任額六
億六二二九万六四八三円の合計額である。なお、別表3の分は、芦屋税務署長が、
昭和五三年二月一四日、延納不履行を理由として延納許可を取消したことによる第
五回分ないし第一〇回分の合計額(八五〇〇万円×六)であり、また、別表4の分
は、右第四圓分に係る延納分である。
昭和五四年九月九日現在における本件相続に係る原告の納付すべき国税を徴収する
ために差押をした差押年月日、差押財産及び同財産の処分予定価額は、別表1のと
おりであり、差押財産の処分予定価額の合計額は九億三二五〇万七二六四円であ
る。
しかるに、昭和五四年九月九日、右差押財産を公売したとしても、なお徴収すべき
国税に不足すること二億四六五六万三二四三円存在するので、昭和五四年九月一〇
日、本件差押処分のほかに、別表2のとおりの差押を行つたものであるが、その処
分予定価額の合計額は、一億二九二三万八三五一円であるから、本件差押は、超過
差押ではないといわなければならない。
5 国税通則法六三条四項について
同条項は、その文言から明らかなとおり、滞納税額の全額を徴収するために必要な
財産の差押をした場合、その差押がされている期間のうち、一定の期間に対応する
延滞税について、年率七・三パーセントを超える部分(原告の主張する国税通則法
六三条四項所定の二分の一)を免除することができる旨規定しているのであるか
ら、本件差押処分が、超過差押となるか否かの判断に当たり、差押財産の見積価額
と比較すべき徴収すべき国税の額は、本件差押時までの延滞税の全額を含むもので
あり、また、免除することができる延滞税にしても、本件差押後に生じたところの
延滞税にすぎないのである。しかも、この部分の延滞税を免除するか否かについて
も、税務署長等の裁量に委ねられているから、同条項に関する原告の主張は、本件
差押処分の違法の主張としては失当である。
6 相続税法三四条一項について
原告の主張によると、共同相続に係る相続税につき、差押を必要とする事情が生じ
た場合、当該差押が滞納相続税のうち連帯納付義務に係る国税か否かを明らかにす
ることを要することになるが、現行法上その旨を定めた規定はない。
なお、相続税法三四条一項の趣旨は、遺産の分割により、相続税の納税義務者と現
実に財産を取得した者との間に、相続により受けた利益に不一致が生じることが多
く、そうした場合、納税義務を本来のそれだけに険定してしまうことは、相続人間
の租税負担の公平を阻害することになるばかりでなく、租税の徴収にも困難となる
ことが予想されるので、現実の相続財産の取得者に相続税を負担させるのが妥当で
あるということで、納付責任を負わせることにしたものである。したがつて、「相
続又は遺贈により受けた利益」とは、相続又は遺贈により取得した財産の価額か
ら、債務控除の額並びに相続又は遺贈により取得した財産に係る相続税及び登録免
許税を控除した後の金額であつて、原告が主張するように、現に利益が存する限度
というものではない。
7 国税徴収法五一条一項について
同条項は、国税の納付義務者が死亡して、右納付義務が相続により承継された場合
の差押に関する規定であつて、本件のように原告固有の租税債務についての差押に
関する規定ではないから、原告の主張は失当である。
8 なお、後記原告の2ないし5の主張は争う。
四 被告の主張に対する原告の認否及び反論
1 右三の被告の主張は争う。
2 滞納処分は、有効に確定した租税債権の実現を目的とした行政処分であるか
ら、有効に確定した租税債務の存在がその前提となつており、租税の賦課決定が無
効であるなど、租税債権が不存在もしくはこれと同視すべき場合になされた滞納処
分は、違法、無効というべきである。
そして、申告の無効は、租税債権不存在の典型的な一場合であり、課税権者が、減
免ないしは是正措置を講ずべきであるにも拘らず、これをしない場合にも、租税債
権の不存在と同視すべきである。
3 被告主張の基本通達一六九による本件相続にかかる株式の評価は、違法、不当
である。すなわち、
(一) 一般的、抽象的な法の定めは、解釈上の疑義を生じやすいという欠点を免
れ得ないけれども、その反面では、もともと形式的、一律的な基準による画一的な
処理になじみにくい性質の事柄について、具体的事実に即した弾力的な解釈、運用
を可能にし、ケースバイケースで適正妥当な解釈を目ざしうる長所をも併有してい
るのであつて、通達がその解釈の指針を示すにあたつては、右趣旨、機能を損なう
ことがないよう充分配慮すべきであつて、この配慮を欠いた硬直的、画一的な通達
は、法の趣旨に反するものとして、違法のそしりを免がれない。
(二) ところで、本件相続に係る株式の評価方法を定めた基本通達一六九は、相
続開始前三か月の株価の変動のみを加味しておけば足りるとの方針で一貫し、例外
を認めない。しかし、株価の異常な高騰等が相当長期間続く事例を含めて考えてみ
た場合、果して右基準のみで適正妥当な株式の評価が得られたといえるかどうかは
甚だ疑問である。本件のような具体的事案に即した弾力的な解釈、運用を可能に
し、ケースバイケースで、適正な妥当な解決を目ざしうるには、それを可能にする
ような但し書きを付しておく必要があるが、基本通達はこのような例外を一切認め
ない形式的、画一的基準を貫ぬいている。このような硬直した基準からは、決して
適切妥当な課税を実現しうるものではない。
(三) 元来、株式は、しばしば投機の対象とされ、思惑で取引をされたり、先行
期待人気が一時的に集中、過熱したりすることがある外、株価の形成に影響を及ぼ
すべき諸事情も、一般の投資家に広く、かつ正確に了知されるようになるまでに
は、相当の時間的経過を必要とするなどの理由で、証券取引所で形成される日々の
株価は、当該株式を発行している会社の収益力、配当率や純資産額等を適正に反映
した合理的かつ妥当な取引価格であるとは限らない。
今日の証券市場における株式の取引価格は、極めて不安定であるから、上場株式で
あるからといつて、一株当りの純資産額や配当額如何に拘らず、右取引価格のみを
唯一の基準として、株式の相続税評価を定めることは、相続税法の合理的な解釈で
はないのである。
したがつて、株式の相続税評価に当つては、少なくとも、相続開始前二年と相続開
始後申告書提出期限までの二年半以上の相続の開始前後にまたがる相当長期の間の
株価のなかから、最低価格をとるなどの措置を是非とも取る必要がある。
(四) なお、相続開始後申告書提出期限までの期間の株価をとる余地を認め得る
ことは、次の諸事情からも、肯定される。
すなわち、
(1) 異常な株価の高騰等は、一、二年続くことが多く、また、そのことは、同
時に今日の証券市場では、適正な株価の形成に必要な情報の公開が著しく遅れ勝ち
であることをも示している。
(2) 相続開始までは、相続財産は、被相続人の所有に属し、相続人の財産では
ないので、相続人がこれを損金することはできない。
(3) 相続開始後でも、遺産の分割が終るまでは、やはり換価の現実的可能性は
なく(現に、被告は、遺産分割の協議の終つていない財産の物納は勿論、延納のた
めの担保提供すら拒否した)、遺産の分割、とりわけ本件のように、異母兄弟を中
心とする相続人間等の遺産分割協議には、相当長時間が必要である。
(4) 租税特別措置法三九条は、右のような事情を考慮して、相続税納付等のた
めにする相続財産の処分に伴う譲渡所得課税の特別期間を、相続開始の日の翌日か
ら二年半(但し、六ケ月間は申告書提出までの期間)と定めており、また、相続税
法三八条は五年ないし一五年の相続税の年賦延納を認めている。
(5) さらに、相続された株式が企業経営を目的とした株式でない場合には、時
宜に適した処分も可能であろうが、企業経営を目的としたいわゆる支配株の場合に
は、余程のことがない限り、これを換価することはあり得ないし、万一そのような
大量の株式を一時に換金しようとすれば、それ自体が株価の圧迫要因となつて、大
幅な株価の値下りを招くことになるのである。
(6) のみならず、支配株主の場合には、株式数が相当数にのぼるところから、
一株当りの株価の相違は、たとえ円単位或いは一〇円程度のものであつても、株式
評価の総額としては、多額の差異となる。
(五) 本件において、原告が相続の申告をしたときは、需要の低迷傾向等が顕在
化して、本件各株式の価格は、現実に大幅に下落していた。例えば、申告書の提出
期限である昭和四八年一一月二日までの大阪証券取引所における永大産業株式会社
の株式の安値は五〇〇円で、相続開始後の同年六月に実施された株式の無償交付
(一割)を考慮した計算値は、五五五円であつたから、右通達による評価額六九五
円からすでに一四〇円も値下がりをしており、さらに、最終の修正申告書を提出し
た昭和五〇年七月七日までの同取引所における同株式の安値は三一〇円、株式の無
償交付を考慮した計算値は、三四四円で、三五一円の値下りとなつていた。原告
は、当然これらの事情をも勘案して、適正かつ妥当な株価を評定するよう求めたに
も拘らず、担当係官であつた大阪国税局資産税資料調査課のD主査らは、前記基本
通達に定める株式評価の方法は、絶対的なもので、これ以外の評価方法は一切許さ
れないとの誤つた指導をし、原告らにこれに従うことを強要した。
(六) 以上要するに、本件各株式の株価の評価は、違法、不当である。
4 次に、本件各株式の価格の低落は、災害減免法一条にいわゆる災害に当るとい
うべきである。
すなわち、一般人が予期することのできない社会経済的事情の急変による大幅かつ
異常な財産の減価が、社会通念上災害による被害と何ら選ぶところなく、またある
財産の取得に対して課税が行なわれた後に、納税者の責に帰することのできない何
らかの事情で、同財産が著しく減価し、これを処分しても、その取得に対する租税
すら完納できないような異常な事態が発生したときに、それでもなおかつ右課税を
そのまま維持するのは、近代租税法の基本原理ないしは吾人の正義公平の観念に反
し、到底是認しえないことは多言を要しない。殊に、本件の場合には、株式発行会
社が既に事実上倒産しているばかりではなく、永大産業株式会社、永大木材工業株
式会社及び永大ハウジング株式会社の原告所有株式は、更生計画(無償消却)によ
り、その存在が法的にも否定されて終つているので、その意味においても、株価が
将来回復する可能性は皆無であり、この点でも、本件は、他の株価の乱高下とは同
一に論じられない異質の問題を含んでいるのである。したがつて、本件において
は、災害減免法の適用があるというべきである。
5 なお、被告は、本件差押は超過差押に当らないと主張するが、別表1に記載の
被告主張の処分予定価格は、いずれも余りにも低額に過ぎ、また、被告は、その後
における原告の相続税の納付、充当額を全く考慮していないので、右の点でも不当
である。けだし、納税の滞納による差押処分は、その処分時に適法でありさえすれ
ば、その後どれ程税金の納付、充当があつても、これをそのまま維持してもよいと
いうものではなく(国税徴収法七九条)、取消訴訟における違法判断の基準時から
いつても、少なくとも、差押のような継続効力を有する処分や未執行の処分につい
ては、処分時ではなく、判決時における事実、法状態を基準とすべきであるからで
ある。
五 証拠関係(省略)
○ 理由
一 請求原因1(一)ないし(七)(但し、原告の取得資産中、株式の取得比率を
除く)及び同(九)の事実並びに被告が原告の財産に対し、本件で取消を求めてい
る被差押債権を含む別表1、同2の如き差押をした事実(但し、処分予定価額の点
は除く)は当事者間に争いがない。
二 まず、原告は、その主張の相続税の申告が無効であることや、災害減免法の適
用のあること、その他を理由に、租税債務は不存在であるとして、別表2の番号1
の差押(以下本件差押ともいう)の取消を求めているところ、被告は、相続税の課
税の過程に原告主張のような瑕疵があつたとしても、これと滞納処分とは別個の処
分であるから、差押処分に違法がない限り、課税処分の瑕疵を理由に差押処分の取
消を求めることは許されないと主張する。しかし、課税処分に重大かつ明白な瑕疵
があるとか、その他の理由により、租税債務が現に存在しないのに、滞納処分によ
る差押をすることは違法というべきであつて、右差押を受けた者は、当然にその取
消を求め得るものというべきであるから、右被告の主張は失当である。
三 申告が無効(担当係官の基本通達による指導)であるとの主張について
原告は、その請求原因1の(六)に記載の本件各株式の評価額を、大部分の相続財
産の価格として申告した本件相続税の申告及び修正申告は無効であると主張するの
で、まずこの点について判断する。
所得税の確定申告ないし修正申告の記載内容に錯誤による過誤がある場合の右錯誤
の主張は、その錯誤が客観的に明白かつ重大であつて、更正の請求という所得税法
自身が定めた方法以外にその過誤更正を許さないならば、納税義務者の利益を著し
く害すると認められる特段の事情がある場合でなければ、許されないと解すべく
(最高裁昭和三九年一〇月二二日判決民集一八巻八号一七六二頁)、このことは相
続税の申告についても同様に解すべきところ、右の「申告についての錯誤が客観的
に明白」であるとは、申告ないしは修正申告の内容が適正な相続財産額及びこれに
対する税額と異つていることが、一見して客観的に明白であることをいうものと解
するのが相当である。
これを本件についてみるに、一頁から五頁まで及び一五、一六頁については成立に
争いがなく、その余の部分について弁論の全趣旨により真正に成立したと認められ
る甲第一二号証、成立に争いのない甲第一七、一八号証、甲第二三号証、乙第二号
証の一ないし三、同第一二号証、証入Dの証言、並びに、弁論の全趣旨によれば、
原告主張の請求原因1の(六)記載の各株式の評価額は、国税庁の相続財産に関す
る基本通達に合致した評価であることが認められるところ、原告は、右国税庁の通
達は、違法不当であるに拘らず、右申告に際し、所轄の芦屋税務署もしくは大阪国
税局の担当係官が、原告の取得した本件相続に係る株式の評価方法について、部内
に示達されているいわゆる相続財産評価に関する基本通達に示されている画一的な
基準を唯一無二の絶対的なものとして、これを原告に押しつけ、専門的知識がな
く、担当係官らを信頼している原告は、否応なくこれに従わざるを得なかつた旨主
張しているが、本件における全証拠によるも、右事実を認めることができない。却
つて、証人Dの証言によれば、所轄の芦屋税務署又は大阪国税局の担当係官が、右
基本通達に基づき、本件相続に係る株式の評価につき指導助言をしたことはある
が、基本通達に示されている基準を唯一無二のものとして原告に押しつけたことは
ないことが認められる。
次に、相続税法二二条は、相続財産の評価は、同法第三章に特別の定のある場合を
除いて、当該財産の取得時における時価による旨定め、株式の時価については特別
の定めを設けていないところ、右相続税法二二条にいわゆる時価とは、一般的に
は、相続時におけるそれぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な
取引が行われる場合に通常成立すると認められる価格をいうものと解すべきであ
る。ところで、前掲甲第二三号証、第一二号証、並びに弁論の全趣旨によれば、国
税庁は、その基本通達一六九において、上場株式の評価は、証券取引所の公表する
課税時期(相続開始日)の最終価格または課税時期(相続開始日)の属する月以前
三か月間の毎日の最終価格の各月ごとの平均額(以下「最終価格の月平均額」とい
う)のうち最も低い価格に評価することとしていることが認められるところ、これ
は、あくまで株価は、日日上下することがあるため、相続開始時に一時的に騰貴し
た株価をもつて相続財産の評価額にするは不合理であるところから、これを避ける
趣旨で定められたものと解すべく、また最終価格の月平均額を相続開始の三か月前
の株価のみを考慮し、相続開始後の株価を考慮しないこととしたのは、株価の恣意
的操作を防ごうとする趣旨に他ならないと解すべきである。このように、右基本通
達一六九条により、上場株式につき、相続税法二二条にいわゆる相続開始時の時価
の算定基準を示すことは、右時価の評価を納税者に委ねた場合の不統一による不公
平を回避し、相続税の課税の公平を期するために、必要かつ合理的なことであり、
右基本通達一六九条に定める株式評価の方法は、株式の実質的な価値と一時的な需
給関係による価格の変動を調整し、実勢価額を加味するものであつて、合理的なも
のであるというべきである。
もつとも、原告は、現在の証券市場における株式の取引価格は、極めて不安定であ
るから、上場株式であるからといつて、相続開始時の証券取引所の取引価格のみを
唯一の基準として株式の評価額を定めることは合理的でなく、少なくとも相続開始
前二年と相続開始後申告書提出期限まで二年半の相続開始前後にまたがる期間のな
かの最低価格によるべきであるとし、殊に本件では、原告の相続した本件各株式
は、いずれも輾々流通の可能性のないいわゆる支配株で、しかもその多くは、非上
場株式であり、かつ、相続開始後の不況により、その株価は、現実に大幅に下落し
たから、前記通達の基準により、原告の相続した株式の株価を評価することは、違
法不当であると主張している。しかしながら、相続は被相続人の死亡と同時に開始
すると共に、相続税の納税義務が発生するし(国税通則法一五条二項四号)、ま
た、相続財産を取得したものは、相続開始のあつたことを知つた日の翌日から六月
以内に相続税の申告をすべく(相続税法二七条参照)、右申告と同時にその納付期
限が到来するから(国税通則法三五条一項)、そもそも、相続人は、相続の開始を
知つたときから遅滞なく相続税の申告をしてこれを納付すべきものである。したが
つて、相続開始時から右相続税の申告までの間に相続財産の価格が下落した場合に
は、これによる損害は、相続人においてこれを負担すべきものであると解するのが
相当であつて、右損害を回避するためには、相続人において遅滞なく相続税の申告
をしてこれを納付すべきであり、またもし、相続の開始後相続税の申告までの間
に、相続財産の価格が下落したために、現実に相続財産を相続することにより損害
を被ることが予測される場合には、相続の放棄又は限定承認(民法九一五条以下)
をもつて、これに対処すべきである。もし右のように解さずに、相続財産の評価
を、相続開始後相続税の申告までの間に相続財産の価格が下落したときは、その下
落した価格によるものと解することは、相続財産の価格を、当該財産の取得の時
(相続開始の時)における時価とした相続税法二二条の明文の規定に反するばかり
でなく、株式のような変動の激しい相続財産については、相続開始後、これを大量
に売り出すなどして、一時的に相続財産の価格を下落させる操作を容認することに
なる上、さらに右価格の下落前に相続税の申告をしてこれを納付したものとの間に
税額の不均衡が生じて不合理な結果を招くことになるのである。そして、右の理
は、相続財産について未だ分割の行なわれていない場合についても同様であると解
すべきである。けだし、未分割の相続財産に対する相続税の申告義務を、遺産分割
後まで留保することを認めれば、その間相続税の納付を免がれることになつて不合
理であるところから、未分割の相続財産については、各共同相続人が民法の規定に
よる相続分に従つて当該財産を取得したものとして課税価格を計算するものとし、
もしその後において、これと異なる相続財産の分割がなされた場合には、その分割
された内容にしたがつて、課税価格を計算し直し、これに基づいて、更正の請求、
修正申告、或いは更正決定ができるとされている(相続税法五五条)からである。
以上の次第で、株式の評価額を、相続開始前二年と相続開始後申告書提出までの二
年半の相続開始の前後にまたがる期間のうちの最低の価格によるべきであるとの原
告の主張は到底採用できず、また、その他種々の事情をあげて、前記基本通達によ
る株式の評価が違法であるとの原告の主張は、いずれも独自の見解であつて採用で
きない。却つて、上場株式について、相続開始後の株価を考慮することとしていな
い前記基本通達一六九条には、前述の通り、何らの不合理もなく、このことは、非
上場株式の場合についても、同様に解すべきである。
そうすると、前記国税庁の基本通達の内容にそつた本件申告ないし本件修正申告
は、客観的に適正な相続財産額及びこれに対する税額と異なつているものとはいい
難く、却つて、適正なものというべきであるから、本件申告ないし本件修正申告が
錯誤により当然無効であるとの原告の主張は失当である。
四 災害減免法の適用ないし類推適用の可否について
成立に争いのない甲第二五号証、同第二六号証、同第二八号証、同第二九号証、弁
論の全趣旨により真正に成立したものと認める甲第四四号証、証人Eの証言、原告
本人尋問の結果によれば、昭和四八年のいわゆるオイルシヨツクに端を発した我が
国経済の長期にわたる不況により、永大産業株式会社は、昭和五三年二月二〇日倒
産し、同社及び同社関連会社の株式は値下りし、殆ど無価値と化したことが認めら
れ、右認定に反する証拠はない。
原告は、このような場合、災害減免法四条の規定の適用ないし類推適用がなさるべ
き旨主張するが、同法一条は、この法律にいわゆる災害とは、震災、風水害、落
雷、火災その他これらに類する災害であると規定しているところ、この規定の文言
からすれば、同法にいわゆる災害は、自然界に生じた災害を指し、いわゆるオイル
シヨツク等の社会経済事情の急変による相続財産の価格の下落は、これに当らない
ものと解すべきであるし、また、これを実質的にみても、一般に、株式会社が会社
更生法の適用を受けたためにその株価が暴落しても、将来会社が再建されてその株
価が高騰することもあり得るから、会社更生法の適用を受けたためにその株価が暴
落したからといつて、このことを理由に、直ちに災害減免法第四条を適用して、相
続税を免除することは相当でないというべきである。殊に、本件においては、永大
産業株式会社が会社更生法適用の申請をしたのは、昭和五三年二月二〇日であるこ
とは当事者間に争いがないところ、原告の本件相続が開始したのは前記のとおり昭
和四八年五月二日であるから、それから永大産業株式会社が会社更生法適用の申請
をするまでの間に五年近くあるのであつて、このように相続開始後五年近くも後に
生じた会社更生法適用の申請による株価の暴落を理由に、相続税の減免をするとい
うようなことは、もともと災害減免法の予定しているところではないというべきで
ある。その上、本件において、原告が相続した相続財産の大部分を占める本件各株
式の如きは、将来その株価の変動があることは、当然予測されることであつたか
ら、原告において、その相続税を納付するに当り、他の相続人と協議して、速やか
に相続財産である本件株式を物納するか、或いはこれを他に売却するなどして、そ
の納付義務を遅滞なく履行すれば、将来の株価の暴落による損害を回避することも
充分に可能であつたというべきである。したがつて、以上の諸点からすれば、本件
のように、相続開始後の株価の暴落については、災害減免法の適用ないしその類推
適用を認めることは相当でないし、また、災害減免法の精神や条理に従つて、相続
税の減免をすべきものでもないと解すべきである。そして、このことは、原告が、
その主張の如く、永代産業株式会社の代表者として、同会社の経営に当つており、
その相続した株式がこれを他に処分し難い支配株であつたとしても、変らないもの
というべきである。けだし、原告が、その自由意思に基づき、右株式を保有しなが
ら相続税の延納の途を選んだ以上、その後の経済事情の変動により、思わざる株価
の暴落に遭遇したとしても、これによる損害は、自ら選択した結果によるものとし
て、これを原告において負担すべきものと解するのが公平の原則に合致するからで
ある。もつとも、原告は、当時相続人間で亡Aの遺産分割の協議が成立していなか
つたから、本件各株式を物納し、又は、処分して換価することはできなかつたし、
現に被告の担当者は、右物納を認めなかつたと主張するが、右原告の主張事実に副
う証人Eの証言、原告本人尋問の結果は信用できず、他に右原告の主張事実を認め
得る的確な証拠はない。却つて、遺産分割が成立していないときでも、他の相続人
と協議して、取敢えず各相続人の相続分に応じて納付すべき相続税の一部として、
本件各株式を物納し、またはこれを他に売却処分し、換価して、相続税の支払にあ
てることは、法律的に可能であつたというべきであるから、右原告の主張は採用で
きない。
のみならず、災害減免法第四条の規定により相続税の免除を受けようとするもの
は、その旨、被害状況及び被害を受けた部分の価額を記載した申請書を、災害のや
んだ日から二ケ月以内に、納税地の所轄税務署長に提出しなければならないところ
(災害減免法施行令第一一条二項参照)、前掲甲第二五号証、同第二八号証による
も、原告が本件につき、右所定の手続をとつたとは認めることができず、他に原告
が右所定の手続をとつたことを認め得る証拠はないから、この点からも、本件につ
いては災害減免法第四条の適用ないし類推適用はないというべきである。
なお、原告の引用する最高裁昭和四九年三月八日判決民集二八巻二号一八六頁は、
雑所得として課税の対象とされた金銭債権が後日回収不能となつた場合に関するも
のであつて、本件とは事案を異にするから、直ちに右判例の法理を本件に適用する
ことはできない。
よつて、本件について、災害減免法第四条の適用ないし類推適用はないし、また、
災害減免法の精神や条理に従つて、本件各株式の株価の是正措置を講ずべき余地も
ないというべきであるから、右災害減免法の類推適用その他により、原告には最早
納付すべき相続税はないとし、これを前提に、本件各差押は違法であるとの原告の
主張は、失当である。
五 超過差押の主張について
次に、原告は、本件差押は、超過差押であると主張するので、この点につき判断す
るに、超過差押であるか否かは、一般的には、差押財産の見積価額と徴収すべき国
税(延滞税等の附帯税も含む)の額とを比較して判定すべきところ、弁論の全趣旨
により真正に成立したものと認められる乙第一六号証並びに弁論の全趣旨によれ
ば、本件差押日の前日である昭和五四年九月九日現在における本件相続に係る原告
の納付すべき国税は、総計一一億七九〇七万〇三〇七円であること、その内訳は別
表3の(A)の本税三億六一五一万五〇三二円及び(E)の延滞税一億〇二六四万
一七九二円(これは、昭和五四年九月九日現在における本税収納未済額の右(A)
に対する同日現在で仮計算したところの延滞税額である)、別表4の(B)の延滞
税四九三万二〇〇〇円、別表5の(C)の利子税三九二七万円、別表6の(D)の
利子税八四一万五〇〇〇円並びに連帯納付責任額六億六二二九万六四八三円の合計
額であることが認められる。
一方、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一七号証ないし同
第二四号証並びに弁論の全趣旨によれば、昭和五四年九月九日現在における本件相
続に係る原告の納付すべき国税を徴収するために差押えをした差押財産、差押年月
日及び差押財産の処分予定価額は、別表1のとおりであつて、差押財産の処分予定
価額の合計額は八億九五二九万七二六四円であることが認められる(差押財産、差
押年月日については当事者間に争いがない)。したがつて、昭和五四年九月九日右
差押財産を公売したとしても、なお徴収すべき国税は二億八三七七万三〇四三円不
足することになるので、被告は昭和五四年九月一〇日本件差押処分を含む別表2の
とおりの差押処分を行なつたが、その処分予定価額の合計額は一億二九二三万八三
五一円であることが弁論の全趣旨より認められるから、結局本件差押(六二七五万
七二一〇円)が超過差押でないことは計算上明らかである。
もつとも、原告は、別表1に記載の各差押財産の処分予定価額は低きに過ぎると主
張するが、前掲乙第一七号証ないし第二四号証によれば、被告は、右差押財産処分
予定価額の評価に当つては、いずれも鑑定士等の専門家の意見を聞き、固定資産税
評価額、賃借権割合等をも考慮して右評価をしており、その評価額も、賃借権のあ
る別表1の56に記載の物件以外は、すべて固定資産税評価額をはるかに超えてい
ること、また、債権については、第三者の資力を考慮した現実の回収見込額である
こと、したがつて右物件の処分予定価額は、不当に低廉ではなく、むしろ適正妥当
なものであること、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はないから、右の
点に関する原告の主張は失当である。
また、原告は、その後における原告の相続税の納付により、その本税は、昭和五七
年八月三一日現在においては、わずかに二〇〇〇円になつたにも拘らず、差押を続
けるのは違法であると主張しているところ、右昭和五七年八月三一日における原告
の相続税本税が二〇〇〇円であることは当事者間に争いがない。しかし、成立に争
いのない乙第一三号証によれば、昭和五八年二月二八日当時において、原告自身の
相続税本税は二〇〇〇円であるが、その他に、他の相続人と連帯納付すべき税額が
六億六二二九万八四八三円、利子税が三九〇四万〇一五三円、法律による延滞税が
二億二八二七万一三一〇円、等のあることが認められるから、別表2の1の六二七
五万七二一〇円の債権に対する差押が必ずしも、超過差押になつたものとは認め難
い。のみならず、国税徴収法による差押が、その差押当時には超過差押ではなかつ
たが、その後の滞納税金の納付により、差押財産が滞納税額等を著しく超過するに
至つたときには、徴収職員は、国税徴収法七九条二項により、その差押財産の全部
又は一部を解除することができるから、差押を受けた者において、右差押の解除を
求め得ることのあるのは格別、右納税等のその後の事情を理由に、当初の差押の違
法を主張して、その取消を求めることはできないものというべきである。よつて、
右の点に関する原告の主張も失当である。
六 国税通則法六三条四項について
原告は、国税通則法六三条四項所定の延滞税の減免措置は無条件かつ例外なしに認
められるべき措置である旨主張するが、同条項は、滞納税額の全額を徴収するため
に必要な財産を差押えた場合、その差押のなされている期間のうち、一定の期間に
対応する延滞税について、国税通則法六三条四項所定の二分の一(年七・三パーセ
ントを超える部分)を免除できる旨規定しているのであつて、差押前の延滞税は免
除の対象ではないし、また、右免除をするか否かは、税務署長等の自由裁量に委ね
られているものと解するのが相当であるから、本件において、右延滞税の免除のな
いことを理由に、本件差押が超過差押であるとの原告の主張は失当である。のみな
らず、前記認定の本件差押当時における相続税本税、利子税、延滞税(計一億〇七
五七万三七九二円)と差押財産の処分予定価額とを対比すれば、仮に右延滞税の一
部が免除されたとしても、本件差押が超過差押にならないことは、計算上明らかと
いうべきである。
よつて、右の点に関する原告の主張も失当であることを免れない。
七 相続税法三四条一項について
原告は、相続税法三四条一項所定の連帯納付義務は、民法七〇三条所定の不当利得
の場合のそれと同様に、当該相続により受けた利益が現存する場合に、その限度に
おいてのみ責に任ずるものに過ぎないとして、その責任は原告の固有財産には及ば
ない旨主張する。
しかし、相続税法三四条一項は、相続税には、元来相続により財産を取得した者が
納税義務を負うのであるが、納税義務をこれらの者に限定して終うことは、租税債
権の確保することが難かしい場合も生ずるので、公平の見地からこれを避けるた
め、現実の相続財産の取得者らの取得した財産の限度で他の相続人の相続について
も連帯してその納付責任を負わせることにしたものと解すべきである。したがつ
て、ここにいう「相続又は遺贈により受けた利益」とは、相続又は遺贈により取得
した財産の価額から債務控除の額並びに相続又は遺贈により取得した財産に係る相
続税及び登録免許税を控除した後の金額であつて、原告主張の如く現に利益が存す
る限度というが如きものではない。そして、前記一の当事者間に争いのない事実
(請求原因1(一)ないし(七)、同(九)の事実)及び弁論の全趣旨によれば、
原告は、少なくとも、本件相続により、本件で他の相続人と連帯して納付責任があ
るとされている六億五〇〇〇万円以上の財産(但し、原告本人の相続税、登録税を
控除した後の残額)を取得したことが認められるから、右相続税法三四条一項の規
定を理由に、本件差押が違法であるとの原告の主張は失当である。
八 国税徴収法五一条一項について
原告は、本件差押に係る原告の株式会社元三に対する債権六二七五万七二一〇円
は、相続財産ではなく、原告の固有財産であるから、これを差押えることは国税徴
収法五一条一項に違反して違法である旨主張する。
しかし、同条項は、その文言からも明らかなとおり、国税の納付義務を負う者が死
亡したことにより右納付義務が相続により相続人に承継されることになつた場合、
その相続人(国税通則法五条一項、民法八九六条)に対して差押を行う場合には、
まず相続財産を差押えるべき旨定めた規定であつて、本件の場合の如く、原告固有
の租税債務につき差押を行なう場合に、まず相続財産から差押えるべき旨定めたも
のではないから、本件差押について、同条違反の生ずる余地はない。したがつて、
この点に関する原告の主張も失当である。
九 以上のとおり、原告の各主張はいずれも失当であつて、本件差押の取消を求め
る原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担に
つき、行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 後藤 勇 大沼容之 岩倉広修)
別表1~6(省略)

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採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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