弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人Aを懲役二年に、同B、同Cを各懲役一年に、同Dを懲役一年六
月に、同Eを懲役一年及び罰金二万円に処する。
     被告人Eが右罰金を完納することができないときは、金二百円を一日に
換算した期間、同被告人を労役場に留置する。
     被告人五名に対し、いずれも、この裁判が確定した日から被告人Aにつ
いては五年間、爾余の被告人らについては各四年間、右各懲役刑の執行を猶予す
る。
     原審の訴訟費用は、全部被告人Eの負担とする。
         理    由
 被告人A、同B両名の弁護人諏訪栄次郎、被告人D、同C両名の弁護人紺藤信
行、被告人Eの弁護人奥田三之助の各控訴趣意は、いずれも、末尾に添附した各別
紙記載のとおりであつて、これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。
 諏訪弁護人の論旨第一点について。
 記録を調査するに、原判決が、被告人A、同Bらに対して認定した犯罪事実の一
部として、同人らに対する昭和二十七年四月二十五日附起訴状記載の公訴事実をそ
のまま引用していること、及び、電信法第三十七条違反の罪が成立するには、現
に、電信若は電話による通信を障碍し又はこれを障碍すべき行為がなければならな
いこと、並びに、浦和電報電話局施設長から浦和市警察署長に宛てた昭和二十七年
四月十日附上申書と題する書面の記載によれば、右被告人らが、同年同月九日に切
断窃取した電線が予備線であつたことは、いずれも、所論のとおりであつて、所論
は、右のような予備線については、通信の障碍ということはあり得ないことである
から、電信法第三十七条の罪は成立しない旨を主張するにより、案ずるに、電信法
第三十七条には、「電信若ハ電話ニ依ル通信ヲ障碍シ又ハ障害ヲ生スヘキ行為ヲ為
シクル者ハ七年以下ノ懲役又ハ五百円以下ノ罰金ニ処ス」と規定してあつて、右に
いわゆる電信若は電話による通信を障碍すべき行為とは、電信若しくは電話による
通信を障碍する虞のある行為を指称するものであつて、これによつて現に通信障碍
の結果を生じたことを必要としないものと解すべきところ、原判決が証拠によつて
認定した事実は、その引用にかかる昭和二十七年四月二十五日附起訴状記載の公訴
事実のとおり、「被告人等は共謀の上、昭昭二十七年四月九日午後九時三十分頃、
浦和電報電話局施設長F管理に係る浦和市a地内、b間三〇六号乃至三一〇号柱間
国際電信線二、九耗硬銅線一、一七六米及び二、三耗鉄線五八八米を切断して窃取
し、且つ電信に依る通信を障碍すべき行為をなしたものである。」というのであつ
て、原判決が右事実認定の証拠として挙げている浦和電報電話局施設長F作成名義
の上申書と題する書面の記載によれば、原判決の認定にかかる右被害線路は、上福
岡無線受信所において海外電波を受信し、これを有線(右線路)にて東京中央電信
局に送る重要線路で、昭和二十六年まで使用していたところ、東京大宮間市外二〇
〇対地下ケーブルが布設され、<要旨>同年十月ころ右の裸線路回線を二〇〇対地下
ケーブルに収容切替してあるので、現在は予備線となつているが、右二〇〇
対ケーブル線路が故障になつた場合は、直ちに前記予備線路に切り替えるべき重要
予備線路となつており、定期的に回線試験や線路巡回も実施し、盗難の時は、直ち
に復旧せねばならぬ重要線路であることが認められるのであるから、このような重
要線路の電線を切断して窃取するときは、若し、前示地下ケーブル線路が故障にな
つた場合に、右電信による通信を障碍する虞のあることは、まことに明ちかである
というべく、従つて、被告人らの右原判示所為は、前掲電信法第三十七条所定の電
信による通信を障碍すべき行為をなした場合にあたるものと認めるのが相当であ
る。而して、被告人A、同B両名に対する原判決の判示事実は、右の点を含めて、
すべて、その挙示する証拠によつてこれを肯認することができるから、原判決に
は、所論のような証拠に基かないで有罪事実を認定した違法があるものということ
はできない。論旨は理由がない。
 (その他の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 大塚今比古 判事 山田要治 判事 中野次雄)

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