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平成19年6月28日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成18年(行ケ)第10076号審決取消請求事件
平成19年5月24日口頭弁論終結
判決
原告大宇電子ジャパン株式会社
訴訟代理人弁護士牧野利秋
同矢部耕三
同花井美雪
同河野祥多
同弁理士西山文俊
同大塚就彦
同松山美奈子
被告船井電機株式会社
訴訟代理人弁護士安江邦治
同弁理士渋谷和俊
主文
1特許庁が無効2005−80117号事件について平成18年1月1
9日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の請求
主文と同旨の判決
第2事案の概要
1特許庁における手続の経緯
被告は,発明の名称を「映像信号受信装置」とする特許第3293116号
(平成6年10月26日出願,平成14年4月5日設定登録。以下「本件特
許」という。)の特許の特許権者である(乙1)。
原告は,本件特許について,平成17年4月14日,無効審判請求を行い,
特許庁は,この審判請求を無効2005−80117号事件として審理した。
この審理の過程で,被告から平成17年7月21日付け訂正請求書(乙2)に
よる訂正請求(以下「本件訂正」という。)がされ,特許庁は,平成18年1
月19日,「訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」との審決を
し,同月31日,審決の謄本が原告に送達された。
2特許請求の範囲
(1)本件特許の設定登録時における願書に添付した明細書(乙1。以下「当初
明細書」という。)の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(以下,
請求項1に係る発明を「本件当初発明1」といい,請求項2に係る発明を
「本件当初発明2」という。)。
【請求項1】混合回路に局部発振信号を送出する局部発振回路と,
前記局部発振信号の出力と第1の基準信号との位相比較を行うことにより,
前記局部発振回路の局部発振信号の周波数を受信周波数に対応した周波数に
設定するPLL回路とを備えた映像信号受信装置において,
第2の基準信号を用いて,前記混合回路から出力される中間周波信号を検波
することにより得られた映像信号から色信号を復調する色信号回路を備え,
前記第2の基準信号を前記第1の基準信号として前記PLL回路に与えたこ
とを特徴とする映像信号受信装置。
【請求項2】混合回路に局部発振信号を送出する局部発振回路と,
前記局部発振信号の出力と第1の基準信号との位相比較を行うことにより,
前記局部発振回路の局部発振信号の周波数を受信周波数に対応した周波数に
設定するPLL回路と,
装置本体の動作を制御するマイクロコンピュータとが設けられた映像信号受
信装置において,
前記マイクロコンピュータの基準信号となるクロック信号と前記第1の基準
信号とを,同一信号源から得ることを特徴とする映像信号受信装置。
(2)本件訂正後の特許請求の範囲(下線は訂正部分を示す。)は次のとおりで
ある(以下,審決と同様に,本件訂正後の請求項1に係る発明を「本件発明
1」といい,請求項2に係る発明を「本件発明2」という。本件訂正後の明
細書を「本件明細書」という。)。
【請求項1】混合回路に局部発振信号を送出する局部発振回路と,
前記局部発振信号の出力と第1の基準信号との位相比較を行うことにより,
前記局部発振回路の局部発振信号の周波数を受信周波数に対応した周波数に
設定するPLL回路とを備えた映像信号受信装置において,
前記混合回路から出力される中間周波信号を検波することにより得られた映
像信号から,略3.58MHzの第2の基準信号を用いて,色信号を復調す
る略3.58MHzの色信号回路を備え,
前記第2の基準信号を前記第1の基準信号として前記PLL回路に与えたこ
とを特徴とする映像信号受信装置。
【請求項2】混合回路に局部発振信号を送出する局部発振回路と,
前記局部発振信号の出力と第1の基準信号との位相比較を行うことにより,
前記局部発振回路の局部発振信号の周波数を受信周波数に対応した周波数に
設定するPLL回路と,
装置本体の動作を制御するマイクロコンピュータとが設けられた映像信号受
信装置において,
前記マイクロコンピュータの基準信号となるクロック信号と前記第1の基準
信号とを,同一信号源から得ることを特徴とする映像信号受信装置。
3審決の内容
別紙審決書の写しのとおりである。本件訂正及び原告の主張した無効理由に
ついての判断の要旨は次のとおりである。なお,書証は,甲第1号証を「甲
1」と,甲第1号証記載の発明を「甲1発明」とそれぞれ略し,以下同様とす
る。
(1)本件訂正について
本件訂正は,特許法134条の2第1項の規定及び同条5項で準用する1
26条3項から5項までの規定(5項にあっては読み替えて準用)に適合す
る。
(2)本件発明1の新規性・進歩性
ア米国特許第4686570号明細書(甲1),米国特許第4642675
号明細書(甲2),米国特許第4595953号明細書(甲3)のいずれに
も,本件発明1の主要構成,すなわち「中間周波信号を検波することにより
得られた映像信号から色信号を復調するのに用いる略3.58MHzの第2
の基準信号を,第1の基準信号としてPLL回路に与えること」は記載され
ていない。したがって,本件発明1は甲1又は甲2のいずれかに記載された
発明であるということはできない。
イ本件発明1の上記主要構成は,甲1ないし甲3の記載から導かれるもので
もない。したがって,本件発明1は,甲1発明ないし甲3発明に基づいて当
業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。
(3)本件発明2の新規性・進歩性
ア米国特許第4727591号明細書(甲5),実願平2−81949号
(実開平4−39737号)のマイクロフィルム(甲6),特開平5−29
882号公報(甲7),米国特許第5262957号明細書(甲8),特公
昭58−29655号公報(甲9)のいずれにも,本件発明2の主要構成,
すなわち「マイクロコンピュータの基準信号となるクロック信号と第1の基
準信号とを,同一信号源から得ること」は記載されていない。したがって,
本件発明2は甲5ないし甲9発明と同一であるということはできない。
イ本件発明2の上記主要構成は,甲5ないし甲9の記載から導かれるもので
もない。したがって,本件発明2は,甲5ないし甲9発明に基づいて当業者
が容易に発明をすることができたものであるということができない。
第3原告主張の取消事由の要点
審決は,本件訂正が訂正の要件を満たさないのに,その判断を誤り(取消事
由1),本件発明1と甲1若しくは甲2発明との同一性又は本件発明1の進歩
性についての判断を誤り(取消事由2),本件発明2と甲4若しくは甲5発明
との同一性又は本件発明2の進歩性についての判断を誤った(取消事由3)も
のであるから,取り消されるべきである。
1取消事由1(本件訂正の適法性判断の誤り)
(1)「略3.58MHzの第2の基準信号を用いて」との訂正事項について
ア3.58MHz
当初明細書の段落【0016】∼【0019】は,従来のPLL回路10
を変更することなく,受信可能な周波数範囲を示すために,分周する比率の
計算例を示しているにすぎず,一般に比率を計算するには,代表的な数値を
もって計算するほかないので,段落【0017】に記載されているように,
第2の基準信号61の周波数として代表的な数値である3.58MHzに仮
定して,比率を計算したものであることが明らかである。したがって,当初
明細書の段落【0018】の「3.58MHzに変更した」との記載は,受
信可能な周波数範囲を示すために,分周する比率を計算する代表的な数値例
を示しているにすぎず,この記載を根拠に第2の基準信号が3.58MHz
であることが当初明細書に記載されているということはできない。
当初明細書の段落【0008】∼【0015】に記載されている実施例の
回路構成から,第2の基準信号はバースト信号に位相同期した信号であると
いうことができる。第2の基準信号は絶えず変動しているから,段落【00
16】の記載は,計算の都合上,バースト信号と同一周波数である水晶発振
子の略3.58MHzの発振周波数を,第2の基準信号の周波数と仮定して
計算しているにすぎない。したがって,この記載を根拠に第2の基準信号が
3.58MHzであることが当初明細書に記載されているということはでき
ない。
イ第2の基準信号
当初明細書の段落【0012】に,「バースト信号に位相同期した信号で
ある第2の基準信号」と記載されており,当初明細書には,この定義以外に,
第2の基準信号を解釈する記述はない。第2の基準信号はバースト信号に位
相同期した信号であるから,略3.58MHzの固定周波数に定まるもので
はなく,バースト周波数(略3.58MHz)に周波数変化分が加わったも
のとなり,絶えず周波数変動している信号である。したがって,第2の基準
信号が3.58MHzであることは,当初明細書に記載のない事項である。
口頭審理陳述要領書(甲11)には,第2の基準信号がバースト信号に対
して±2%程度変動することが示されているとおり,上記の周波数変動Δf
が零又は零とみなして問題がない程度の小さな値であることは,当業者にと
って自明な技術常識ではない。
当初明細書に,第2の基準信号がバースト信号に位相同期した信号である
と定義されている以上,審決がいう「第2の基準周波数を特定の値に設定す
る技術的思想」が存在する余地はない。当初明細書に記載されているのは,
固定した略3.58MHzの発振周波数を有する水晶振動子7を使用するこ
とであり,第2の基準周波数自体を特定の値に設定する技術的思想ではない。
審決は,第2の基準周波数を特定の値に設定することと略3.58MHzの
固定した周波数を有する水晶振動子を色信号回路6の振動子として選択する
こととを混同し,あたかも同一技術であるように議論している。
ウ周波数の設定
「第2の基準信号は略3.58MHzである」とする訂正を,そのまま
「周波数の設定」とするならば,第2の基準信号は,水晶発振子の固定発振
周波数である略3.58MHzであって,バースト信号に位相同期していな
い水晶発振子の生の発振周波数であるとの解釈を生じることになる。このこ
とは,当初明細書に記載されていないし,自明の事項でもない。
(2)「略3.58MHzの色信号回路」との訂正事項について
「略3.58MHzの色信号回路」は,技術的意味が不明瞭な記述であり,
新たな無効理由(記載不備)を生じるから,本件訂正は認められない。
当初明細書の段落【0012】には,発振周波数が略3.58MHzの水
晶発振子の発振を制御して,第2の基準信号を発生させ,第2の基準信号を
用いて,色信号を復調することが記載されている。この記載を参照すれば,
色信号回路が水晶発振子を備えているのであるから,「略3.58MHzの
色信号回路」とは,略3.58MHzの水晶発振子を備えた色信号回路と解
するのが極めて常識的な解釈であり,「略3.58MHzの色信号回路」を
「略3.58MHzの第2の基準信号を用いて色信号を復調する色信号回
路」の意味に,限定的かつ一義的に解することはできない。
審決が認定するように,「略3.58MHzの色信号回路」を「略3.5
8MHzの第2の基準信号を用いて色信号を復調する色信号回路」の意味に
解するならば,前記(1)の訂正事項「略3.58MHzの第2の基準信号を
用いて」だけで十分に明らかであり,訂正事項「略3.58MHzの色信号
回路」は,不要である。
2取消事由2(本件発明1の新規性・進歩性の判断の誤り)
本件訂正が適法であるとしても,本件発明1の主要構成は,甲1又は甲2に
開示されており,本件発明1と甲1又は甲2発明とは同一である。仮に,同一
でないとしても,本件発明1は,甲1発明並びに甲2及び甲3に記載された事
項に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものである。
(1)本件発明1と甲1又は甲2発明との同一性
ア本件発明1について
本件発明1は,映像信号受信装置と記載されている以上,受信信号を受信
時に,現実のPLL回路に供給するために,第1の基準信号が使われること
をいうにすぎず,どのような色信号の復調に用いられるかということとの関
係は,そもそも特定されていない。
イ甲1について
審決は,本件発明1の主要構成は,中間周波数信号を検波することにより
得られた映像信号から色信号を復調するのに用いる略3.58MHzの第2
の基準信号を,第1の基準信号としてPLL回路に与えることであると認定
している。
しかし,本件訂正後の請求項1は,「前記局部発振信号の出力と第1の基
準信号の位相比較を行うことにより,前記局部発振回路の局部発振信号の周
波数を受信周波数に対応した周波数に設定するPLL回路」であるから,
「局部発振信号の周波数を受信周波数に対応した周波数」に設定する第1の
基準信号は,受信信号の受信時に,現実にPLL回路に供給されている基準
信号であると考えられる。本件発明1は,映像信号受信装置と記載されてい
る以上,受信信号を受信時に,現実のPLL回路に供給するために,第1の
基準信号が使われることをいうにすぎず,どのような色信号の復調に用いら
れるかということとの関係は,そもそも特定されていない。
本件発明1は,ビデオカセットレコーダの記録モードにおいて実現されて
いると解するほかはなく,その記録モードでは,本件訂正後の請求項1の
「前記混合回路から出力される中間周波数信号を検波することにより得られ
た映像信号から色信号を復調する」という処理は,審決にいう「色信号を復
調」(搬送色信号から直接的に主色信号(R,G,B)を生成する。)の前
処理プロセスにおいて,「中間周波数信号を検波することにより得られた映
像信号から色信号を復調するのに用いる略3.58MHzの第2の基準信号
を,第lの基準信号としてPLL回路に与える」ことであると解さざるを得
ない。しかし,このように解すると,本件明細書の他の記載と整合しない。
審決の「色信号を復調」(テープレコーダにあっては再生モード)の前処
理プロセス(テープレコーダにあっては記録モード)において,「第2の基
準信号を,第1の基準信号としてPLL回路に与える」処理が行われるので
あって,原告の主張する「混合器250およびフィルタ出力が『中間周波数
信号を検波することにより得られた映像信号』に相当し,直交ADC274
の処理が『検波された色信号を復調する』に相当する」と解すると,本件発
明1及び本件明細書の記載に沿うものである。
したがって,甲1では,クロック信号φは,色信号を復調する前処理プ1
ロセスで使用されて,PLL回路(位相検出器268及びフィルタ270)
に与えられるのであるから,審決が認定する本件発明1の主要構成は,映像
信号受信装置としてのビデオカセットレコーダの先行技術として,甲1に実
質的に開示されているから,本件発明1と甲1発明とは同一である。
ウ甲2について
審決は,甲2について,「色副搬送波発振器13の信号(分割後の1/2
fc)は同期復調器16,18に供給されるものの,『映像信号から色信号
を復調する』ものではない」と認定している。甲2には,色信号を復調する
前処理のプロセスに使用される基準信号(第2の基準信号)が第1の基準信
号としてPLL回路に与えられることが実質的に開示されているから,審決
は,本件発明1において,第2の基準信号は,色信号の復調にのみ用いられ,
色信号を復調する前処理プロセスでは用いられないという前提に基づいてい
ることになる。
本件訂正後の請求項1に「復調」の語が使われているだけでなく,本件明
細書の記載に照らして,本件発明1の実施可能性を考慮して理解するのであ
れば,色信号を復調するために使用される第2の基準信号が直接色信号(R,
G,B)の復調に使用されることはあり得ず,色信号(R,G,B)を復調
するための前処理プロセスにおいて使用されていることは,明らかである。
審決は,甲1について,クロック信号は,「ベースバンドの複合信号から
『色信号を復調する』ために用いるものではない」と判断し,クロック信号
がベースバンドの複合信号から色信号(R,G,B)の復調に直接使用され
ることを要求している。
しかし,本件発明1の色信号の復調は,色信号(R,G,B)を復調する
に至る前処理プロセスを含むことは明らかである。したがって,甲2には,
色信号を復調する前処理のプロセスに使用される基準信号(第2の基準信
号)が第1の基準信号としてPLL回路に与えられることが実質的に開示さ
れているから,本件発明1と甲2発明とは同一である。
(2)本件発明1の進歩性
ア甲3について
甲3には,少なくともデジタルビデオプロセッサ20において,バースト
信号に同期する第2の基準信号が色分離の基準信号として用いられること,
すなわち色信号を復調又はその前処理プロセスにおいて使用することが,開
示されている。
また,甲3では,甲1の映像信号プロセッサ290は,デジタルビデオプ
ロセッサ20に対応しているから,バースト信号に同期する第2の基準信号
φを,甲1の映像信号プロセッサ290の色分離の基準信号として用いる1
ことは,当業者が容易に甲3から理解することができる。
イ甲1及び甲2の組合せについて
仮に,本件訂正後の請求項1の色信号回路がRGB色信号の復調回路であ
ると限定されたものであるとしても,甲1及び甲2に開示された復調回路を
RGB色信号の復調回路に置換することは,当業者なら想到することができ
る設計事項にすぎない。
ウ前記ア及びイのとおり,本件発明1は,甲1発明並びに甲2及び甲3に記
載された事項に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものである。
3取消事由3(本件発明2の新規性・進歩性の判断の誤り)
本件発明2の主要構成は,甲4又は甲5ないし甲9に開示されており,本件
発明2と甲4又は甲5発明とは同一である。仮に,同一でないとしても,本件
発明2は,甲5発明並びに甲5ないし甲9に記載された事項に基づき,当業者
が容易に発明をすることができたものである。
(1)本件発明2と甲4又は甲5発明との同一性
ア本件発明2の「マイクロコンピュータの基準信号となるクロック信号」に
ついて
本件明細書の段落【0015】は,請求項2に基づく直接の記述ではなく,
図1の実施態様についてのものであり,本件発明1の実施形態を説明する記
載であるから,段落【0015】は,請求項2の「マイクロコンピュータの
基準信号となるクロック信号」が「12MHz等の周波数のクロック信号」
であると定義しているものではない。
原告は,本件訂正後の請求項2の「同一信号源から得る」構成を前提とし
て,「マイクロコンピュー夕の基準信号となるクロック信号」を解釈すると,
マイクロコンピュータ11がどこから12MHz等の周波数のクロック信号
を得ているかは不明となると主張するものである。
「12MHz等の周波数のクロック信号」は,必要に応じて,マイクロコ
ンピュータ11aにおいて,水晶発振子12から供給される4MHzの基準
信号に基づいて作成されると考えられるから,本件訂正後の請求項2の「マ
イクロコンピュータの基準信号となるクロック信号」は,「12MHz等の
周波数のクロック信号」を作成する前の水晶発振子12から,マイクロコン
ピュータ11aに供給される4MHzの基準信号と認定するのが本件明細書
の記載に忠実である。本件明細書の段落【0022】の記載を文言どおり解
釈すれば,本件発明2の実施例である図2の装置本体の制御には,マイクロ
コンピュータ11aの基準クロック周波数が4MHzであれば十分であると
いうことである。
イ甲4について
a「装置本体の動作を制御するマイクロコンピュータ」
甲4の段落【0013】には,「デジタル方式では,データをデジタル信
号で処理し,水晶発振子(例えば4MHz)を精度の基準とするので,ばら
つきがなく,安定で良好なAFC精度を出すことができる。本発明では,デ
ジタルAFC回路の基準信号用として使用する水晶発振子(4MHz)を利
用,共用し,デジタルAFC回路を構成したので,新たに水晶発振子を導入
する事による,コストアップを回避でき,なおかつ高性能なAFC(自動周
波数制御)を可能にした」と記載されている。また,甲4の「符号の説明」
には,「18…マイクロコンピュータ(AFC手段)」と記載されている。
このような記載から判断すると,甲4のデジタルAFC内蔵FM復調回路
22とマイクロコンピュータ18をAFC手段,すなわち本件訂正後の請求
項2の「装置本体の動作を制御する(自動周波数制御を実行する)マイクロ
コンピュータ」とみることには,当業者として何らの困難性はない。また,
甲4に「水晶発振子(例えば4MHz)を精度の基準とする」と記載されて
いるし,AFC(自動周波数制御)は,マイクロコンピュータ18の制御対
象にすぎないから,デジタルAFC内蔵FM復調回路22の基準信号となる
クロック信号が水晶発振子15から供給されていることは,明らかである。
したがって,甲4には,本件発明2の「マイクロコンピュータの基準信号と
なるクロック信号」と実質的に同一なものが開示されている。
本件訂正後の請求項2には,「装置本体の動作を制御するマイクロコンピ
ュータ」と記載されており,装置本体の動作を制御するマイクロコンピュー
タが,一つのICで構成されているか,又はマイクロコンピュータの各構成
要素が別体に構成されているかを特定しているものではない。そして,装置
本体の動作には,自動周波数制御が含まれることは明らかであるから,自動
周波数制御を実行するデジタルAFC内蔵FM復調回路22とマイクロコン
ピュータ18(AFC手段)を「装置本体の動作を制御するマイクロコンピ
ュータ」と解釈することに,困難はない。
b基準水晶発振子の共用
甲4の図1には,各種装置として,選局回路14(選局回路用PLL),
選局回路14を制御するマイコン(マイクロコンピュータ)18が開示され,
段落【0029】の「基準水晶発振子を複数使用する各種装置に応用するこ
とが可能である」は,たとえマイクロコンピュータ18が,別の水晶振動子
から基準信号が供給されている構成であっても,図1に開示されたマイコン
(マイクロコンピュータ)18と選局回路14(選局回路用PLL)が,基
準水晶発振子を共用できることを,具体的に開示するものである。また,甲
4の段落【0029】には,「基準水晶振動子を複数使用する各種装置」が,
セカンドコンバータに限定されないことが明示されている。
本件発明2は,マイクロコンピュータとPLL回路の信号源の共用の技術
思想を要旨とするもので,その具体的な構成を特定するものではないから,
甲4の「各種装置」として,PLLとマイクロコンピュータが開示されてい
れば,両装置が,基準水晶発振子を共用する技術思想も,実質的に開示され
ていることに等しい。
ウ甲5について
a「装置本体の動作を制御するマイクロコンピュータ」
審決は,図2によれば,CPU38はプログラム可能分割器46の制御を
専らとしており,「装置本体の動作を制御するマイクロコンピュータ」であ
るということはできないと判断している。
しかし,本件明細書の段落【0015】には,「またPLL回路10に対
してコマンド出力112を送出することにより,PLL回路10における分
周比率の制御等を行う。」と記載され,請求項2の唯一の実施例を示す図2
には,マイクロコンピュータ11aに接続された水晶発振子12と,マイク
ロコンピュータ11aからのコマンド出力112が,PLL回路10に与え
られ,水晶発振子12を用いることにより生成されたクロック信号も,第1
の基準信号114としてPLL回路10に送出されていることが示されてい
る。したがって,本件訂正後の請求項2の「装置本体の動作を制御するマイ
クロコンピュータ」の唯一の実施例としては,専らPLL回路10における
分周比率の制御等が示されているのであり,このPLL回路10における分
周比率の制御が「装置本体の動作を制御するマイクロコンピュータ」の主要
な動作であることは,明らかである。
b別の発振器からのクロック信号
本件明細書の段落【0022】には,マイクロコンピュータ11aに,水
晶振動子12からの4MHzの発振周波数の供給が記載されているのみで,
4MHzと12MHzの間の関係は,全く記述されていない。これに対して,
甲5の図2には,4MHzの水晶発振器52からの周波数は,基準発振器4
8を経由してCPU38に供給されており,本件明細書の図2と対比しても,
むしろ詳細に基準信号の経路を示している。したがって,甲5の図2は,4
MHzの水晶発振器52からの周波数が基準発振器48を経由して,CPU
38に供給されることを開示している以上,これと本件明細書の段落【00
22】及び図2に開示された請求項2の実施例とが実質的に同じであること
は,明白である。また,甲5のCPU38は,4MHzの水晶発振器52又
はCPU38の周知の内部構成から,所望の基準周波数のクロック信号を容
易に得ることができることの開示がある。
(2)本件発明2の進歩性
「マイクロコンピュータの基準信号となるクロック信号」について,審決
では,甲5に記載された基準(電圧,周波数)が,いずれも比較器(compar
ator)へ入力されるものなのであるから,「CPU38の基準周波数として
動作する」の記載のみを「マイクロコンピュータの基準信号となるクロック
信号」の意味に解するに足る根拠が見いだせないと認定している。
被告の主張するように,甲5のCPU38が,装置本体の動作を制御する
ものと仮定しているのであれば,あえて別の発振器から12MHzのクロッ
クを受けなければならないという必然性は全くない。なぜなら,12MHz
のクロックを必要とするCPU38には,4MHzの水晶発振器52からの
周波数が,基準発振器48を経由して供給されており,CPU38は,与え
られた精度の良い周波数から,極めて容易に所望の(12MHzの)クロッ
ク信号を得ることができるからである。被告も認めるように,CPU38に
水晶振動子から精度のよい信号(クロック信号の基になる信号)が与えられ
ているのであれば,所望周波数のクロック信号を容易に作成することができ
るのは,明らかである。
第4被告の反論の骨子
審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
1取消事由1(本件訂正の適法性判断の誤り)に対して
(1)「略3.58MHzの第2の基準信号を用いて」との訂正事項について
ア3.58MHz
当初明細書の段落【0016】∼【0019】から明らかなように,段落
【0018】の「第2の基準信号61の周波数を4MHz(従来の周波数)
から3.58MHzに変更した」は,実施例の動作として,第2の基準信号
の周波数を3.58MHzにしていることを意味している。
イ第2の基準信号
被告は,甲11において,外部(放送局)から映像信号受信装置が受信し
たバースト信号の周波数成分がノイズによってΔfだけ変化する旨の主張を
している。しかしながら,Δfは,零若しくは零とみなして問題ない程小さ
な値であることは,当業者にとって自明な技術常識である。審決は,第2の
基準信号が周波数変動すると仮定した場合でも,本件訂正が成立すると判断
している。
ウ周波数の設定
審決の「第2の基準周波数を設定しようにも設定周波数は一律に定まるこ
とはなく変動するのが実情であるとしても,実情は第2の基準周波数を特定
の値に設定するという技術思想自体を没却するものではない。」とは,第2
の基準周波数を設定しようにも,設定周波数は一律に定まることはなく,変
動するという実情があるとしても,第2の基準周波数を特定の値に設定する
という技術思想自体を没却するものではないことを意味している。
また,当初明細書の段落【0016】には,実施例の動作として,第2の
基準信号の周波数を3.58MHzとしていることが記載されているので,
「第2の基準周波数を特定の値に設定するという技術思想」は存在している。
NTSC方式において,バースト周波数の設定は,略3.58MHzであ
るから,周波数の設定とは近傍誤差を許容しその範囲内で設定することをい
うのが通常であるから,一律に設定できないことをもって技術的に実施をす
ることができないともいえないとの審決の判断には,何の誤りもない。
(2)「略3.58MHzの色信号回路」との訂正事項について
審決は,当初明細書の段落【0018】の「第2の基準信号61の周波数
を4MHz(従来の周波数)から3.58MHzに変更した」を参照すれば,
段落【0012】に,「第2の基準信号は3.58MHzである」と記載さ
れているということができるとの判断に基づき,訂正事項「略3.58MH
zの第2の基準信号を用いて」を認容したのであるから,「略3.58MH
zの第2の基準信号」というもの自体が自明事項ではないことを前提とする
原告の主張は,失当といわざるを得ない。
2取消事由2(本件発明1の新規性・進歩性の判断の誤り)に対して
(1)本件発明1と甲1又は甲2発明との同一性
ア本件発明1について
原告は,ビデオカセットレコーダの動作モードやテレビの実施可能性を考
慮して,本件発明1の解釈を行っているようであるが,本件訂正後の請求項
1は,極めて明確であり,その文言どおりに理解すべきである。
イ甲1について
また,デジタル信号(R,R)は,ベースバンドの複合映像信号であり,IQ
原告が主張するような色信号(放送局で複合映像信号をつくるときRGB信
号を色副搬送波で変調する段階で発生される色信号)であることについては,
甲1に記載がない。デジタル信号(R,R)が,色信号ではないことは明IQ
らかであるため,クロック信号φ(3f)は,3f変調された複合映像1cc
信号からベースバンドの複合映像信号(R,R)を生成するために用いるIQ
もので,ベースバンドの複合映像信号から「色信号を復調する」ために用い
るものではない。したがって,これを主要な根拠として,甲1に本件発明1
の主要構成が記載されていないとする審決の判断には,誤りはない。
ウ甲2について
甲2の前処理のプロセスに使用される基準信号は,審決が認定するように,
同期復調器16,18に供給されるものの,映像信号から色信号を復調する
ものではない。
(2)本件発明1の進歩性
ア甲3について
原告の主張は,バースト信号に同期するという点で,甲3のクロックCL
と甲1の第2の基準信号φとを,合理的な根拠もなく,やみくもに関連付1
けるものである。映像信号プロセッサ290が必要とする基準信号に関する
記載は,甲1にはなく,甲1の映像信号プロセッサ290と甲3のデジタル
ビデオプロセッサ20との対応関係のみをもって,甲1及び甲3の記載から
本件発明1の主要構成が導かれるなどの論理は成り立たない。
イ甲1及び甲2の組合せについて
甲1及び甲2の復調器を,RGB色信号の復調回路に置換すると,甲1発
明及び甲2発明は,まともに動作することのない回路構成になってしまうこ
とは,明らかである。
甲1の復調器に供給される信号は,クロック信号φであって,その周波1
数は,3f(NTSC色副搬送波周波数fの3倍)であり,甲2の復調器cc
に供給される信号の周波数は,1/2f(2.2MHz)であるため,Nc
TSC方式RGB色回路の基準信号(略3.58MHz)として利用できる
ものではない。
3取消事由3(本件発明2の新規性・進歩性の判断の誤り)に対して
(1)本件発明2と甲4又は甲5発明との同一性
ア本件発明2の「マイクロコンピュータの基準信号となるクロック信号」に
ついての審決の認定に誤りはない。
イ甲4について
a「装置本体の動作を制御するマイクロコンピュータ」
審決で判断されているように,甲4のデジタルAFC内蔵FM復調回路2
2は,一つのICで構成され,セカンドコンバータ19の要素である一方,
マイクロコンピュータ18は,セカンドコンバータ19の出力端子17を介
して,デジタルAFC内蔵FM復調回路22と結合されているので(図1),
これらは,別々の回路要素とみるのが自然である。
b基準水晶発振子の共用
甲4の段落【0010】の発明の目的に照らせば,段落【0029】の
「各種装置」は,セカンドコンバータ内のものに限られ,セカンドコンバー
タ外にあるマイクロコンピュータ18が,含まれる余地はない。
ウ甲5について
a「装置本体の動作を制御するマイクロコンピュータ」
本件訂正後の請求項2に対応する本件明細書の段落【0022】には,マ
イクロコンピュータ11aが,図1に示す構成と略同一であることが記載さ
れており,段落【0015】には,図1に示されているマイクロコンピュー
タ11が,ビデオカセットレコーダ(映像信号受信装置の一例)として要求
される種々の動作の制御を行うことが,記載されている。
b別の発振器からのクロック信号
審決が認定しているとおり,甲5では,基準発振器48の周波数が水晶5
2の周波数と異なるとする格別の記載はないため,基準発振器48の周波数
は,水晶52の周波数と同一である。これに対して,本件訂正後の請求項2
の実施例では,4MHzの水晶発振子12を用いており(本件明細書の段落
【0022】),一方,マイクロコンピュータ11aは,12MHz等の周
波数のクロック信号に基づき,高速にて所定動作を実行する(段落【002
2】及び段落【0015】)。これらの記載から,マイクロコンピュータ1
1aのクロック周波数は,マイクロコンピュータ11aが,4MHzの信号
を受け取り,内部で3逓倍の処理を行い,12MHzのクロック信号として
いることは,明らかである。
審決の判断は,「装置本体の動作を制御するマイクロコンピュータ」では
ないCPU38を,装置本体の動作を制御するものと仮定した場合の説明で
ある。元来12MHz等のクロック信号を必要としていなかったCPU38
が,上記仮定により,12MHz等のクロック信号を必要とするようになる
ため,本来の構成では存在しない12MHz等のクロック信号を,別の発振
器から受け取る必要があることは,当然のことである。
(2)本件発明2の進歩性
甲5では,基準発振器48からCPU38に送られる信号がクロック信号
である,あるいはクロック信号の基になる信号であるとの記載や示唆が全く
ない。したがって,「CPU38の基準周波数として動作する」の記載のみ
を,「マイクロコンピュータの基準信号となるクロック信号」の意味に解す
るに足る根拠が見いだせないとした審決の認定には,誤りはない。
原告の主張では,CPU38が,4MHzの信号を内部で3逓倍して,
「マイクロコンピュータの基準信号となるクロック信号」として利用するこ
とになるが,このような構成は,本件発明2を参考しているからこそ想到で
きるものであり,本件発明2を参考しなければ,当然12MHzのクロック
を供給するための発振器を,別途設けることになる。
第5当裁判所の判断
1取消事由1(本件訂正の適法性判断の誤り)について
(1)「略3.58MHzの第2の基準信号を用いて」との訂正事項について
ア第2の基準信号,3.58MHz及びNTSC信号については,当初明細
書に次の記載がある。
a「【請求項1】混合回路に局部発振信号を送出する局部発振回路と,前記局
部発振信号の出力と第1の基準信号との位相比較を行うことにより,前記局
部発振回路の局部発振信号の周波数を受信周波数に対応した周波数に設定す
るPLL回路とを備えた映像信号受信装置において,第2の基準信号を用い
て,前記混合回路から出力される中間周波信号を検波することにより得られ
た映像信号から色信号を復調する色信号回路を備え,前記第2の基準信号を
前記第1の基準信号として前記PLL回路に与えたことを特徴とする映像信
号受信装置。」(【特許請求の範囲】)
b「【課題を解決するための手段】・・・請求項1記載の発明に係る映像信号
受信装置は,混合回路に局部発振信号を送出する局部発振回路と,前記局部
発振信号の出力と第1の基準信号との位相比較を行うことにより,前記局部
発振回路の局部発振信号の周波数を受信周波数に対応した周波数に設定する
PLL回路とを備えた映像信号受信装置において,第2の基準信号を用いて,
前記混合回路から出力される中間周波信号を検波することにより得られた映
像信号から色信号を復調する色信号回路を備え,前記第2の基準信号を前記
第1の基準信号として前記PLL回路に与えた構成としている。・・・
【作用】請求項1記載の発明の作用を以下に示す。色信号の復調に用いら
れる第2の基準信号は,水晶発振子等の,高い周波数精度と温度安定度とを
備えた発振素子を用いて生成され,映像信号のバースト信号に位相同期する
ように制御される。つまり第2の基準信号は,PLL回路の第1の基準信号
に要求される周波数精度および温度安定度を備えた信号となっている。この
結果,PLL回路は,第1の基準信号を生成するための専用の発振素子が設
けられなくても,所定精度を備えた信号である第2の基準信号に基づき,局
部発振回路の出力周波数を受信周波数に対応した周波数に精度良く設定す
る。」(段落【0005】∼段落【0006】)
c「色信号回路6は,映像検波回路5によって検波された映像信号から,赤,
緑,青の3種の色信号62を生成するためのブロックとなっており,バース
ト信号の周波数と同一周波数の水晶発振子7を備えている。この水晶発振子
7の発振周波数は,受信する映像信号に対応した周波数となっており,受信
する信号が,例えばNTSC信号である場合には,発振周波数は略3.58
MHzである。詳細には,色信号回路6は,水晶発振子7の発振の制御を行
うことにより,バースト信号に位相同期した信号である第2の基準信号を生
成する。また輝度信号と色信号との分離を行った後,第2の基準信号に基づ
いて,分離された色信号から色差信号を生成する。そして生成した色差信号
と輝度信号とから,所定処理を行うことによって,赤,緑,青の色信号を生
成し,生成した色信号62を外部に送出する。また生成した第2の基準信号
61を,第1の基準信号としてPLL回路10に送出する。」(段落【00
12】)
d「PLL回路10は,局部発振回路8,9の発振周波数の制御と,RF増幅
回路1,2が増幅する周波数の設定等とを行うためのブロックとなっており,
従来技術において使用されていた構成と同一構成が採用されている。つまり,
水晶発振子の製造価格が最も安価となる4MHz近傍の周波数信号を第1の
基準信号として,PLL制御を行うように構成されている。詳細には,色信
号回路6から送出された4MHz近傍の第2の基準信号61を第1の基準信
号として取り扱い,第2の基準信号61を所定比率で分周した信号を生成す
る。また局部発振信号(81または91)を,マイクロコンピュータ11か
ら指示された比率でもって分周した信号を生成する。そして分周した第2の
基準信号61と,分周した局部発振信号(81または91)との位相比較を
行う。次いで,比較結果に従って出力101の電圧を制御することにより,
局部発振信号(81または91)の周波数を,受信する周波数に対応した周
波数に設定する。」(段落【0014】)
e「上記構成からなる実施例の動作を以下に説明する。PLL回路10に与え
られる第2の基準信号61の周波数をf,第2の基準信号61を分周すref
る比率をD,局部発振信号81として要求される周波数をf,局部発refosc
oscrefrefosc振信号81を分周する比率をDとすると,【数1】f/D=f
/Dなる関係にある。このため,マイクロコンピュータ11は,【数osc
2】3.58/D=f/D1が成立する分周の比率D1をPLrefoscoscosc
L回路10に指示することにより,要求される周波数の局部発振信号81を
生成させ,所定周波数の受信を行う。一方,第2の基準信号61の周波数が
4MHz(従来技術の周波数)である場合,局部発振信号81を分周する比
率をD2により示すと,【数3】4/D=f/D2となり,比oscrefoscosc
率D1と比率D2とは【数4】D1/D2=4/3.58なるoscoscoscosc
関係にある。つまり受信周波数が同一であるときには,第2の基準信号61
の周波数を4MHzから3.58MHzに変更したことにより,局部発振信
号81を分周する比率は4/3.58倍となる。しかし,PLL回路10に
おいては,局部発振信号81の分周比率の設定可能な範囲は,4/3.58
倍を許容する構成となっている。このため,従来技術において使用されてい
たPLL回路10を変更することなく用いた場合でも,必要とする周波数範
囲の全てを受信することが可能となっている。」(段落【0016】∼段落
【0018】)
f「なお,本発明は上記実施例に限定されず,請求項1および2記載の発明に
ついては,受信する信号がNTSC信号である場合について説明したが,受
信する信号が,PAL信号またはSECAM信号である場合にも,同様に適
用することが可能である。・・・」(段落【0024】)
g「以上において説明したことから明らかなように,所定の周波数精度と温度
安定度とを備えた発振素子が水晶発振子である場合,請求項1記載の発明は,
以下に示す効果を生じることとなる。すなわち,水晶発振子は,製造の都合
上,4MHz近傍の素子が最も安価である。そのためPLL回路10は,4
MHz近傍の素子を使用するように回路が構成されている。一方,色信号の
復調に使用される第2の基準信号61の周波数は4MHz近傍の周波数であ
る。このためPLL回路10は,従来において使用されていた回路構成を変
更することなく使用することが可能である。従って,本発明を適用するにあ
たっては,一般的にはIC化されているPLL回路を新たに作成することが
不要になるという効果を奏する。また装置本体を制御するマイクロコンピュ
ータ11も併せて使用する場合,請求項2記載の発明に比すると,マイクロ
コンピュータのクロック周波数を任意の周波数に設定することが可能となっ
ている。」(段落【0025】)
h「【発明の効果】請求項1記載の発明に係る映像信号受信装置は,局部発振
回路の出力と第1の基準信号との位相比較を行うことにより,局部発振回路
の出力周波数を受信周波数に対応した周波数に設定するPLL回路を備えた
映像信号受信装置に適用している。そして色信号の復調に用いられる基準信
号である第2の基準信号を,第1の基準信号としてPLL回路に与えている。
このためPLL回路には,第1の基準信号を生成するための専用の発振素子
を設けなくとも,所定精度を有する信号が第1の基準信号として与えられる
ことになる。」(段落【0026】)
イ上記アの記載によれば,当初明細書には,次の各点が開示されていると認
められる。
①色信号の復調に用いられる第2の基準信号は,水晶発振子等の高い周波
数精度と温度安定度とを備えた発振素子を用いて生成され,映像信号のバー
スト信号に位相同期するように制御されること。
②水晶発振子7の発振周波数は,受信する映像信号に対応した周波数とな
っていること。
③受信する映像信号がNTSC信号である場合には,発振周波数は略3.
58MHzであること。
④色信号回路6は,水晶発振子7の発振の制御を行うことにより,バース
ト信号に位相同期した信号である第2の基準信号を生成すること。
⑤実施例の動作として,第2の基準信号61の周波数を4MHzから3.
58MHzに変更したことにより,局部発振信号81を分周する比率は4/
3.58倍となるが,PLL回路10においては,局部発振信号81の分周
比率の設定可能な範囲は,4/3.58倍を許容する構成となっていること。
⑥本件当初発明1及び本件発明2については,受信する信号がNTSC信
号である場合について説明されているが,受信する信号がPAL信号又はS
ECAM信号である場合にも,同様に適用することが可能であること。
上記①ないし⑥を総合すると,当初明細書には,映像信号として,発振周
波数が略3.58MHzのNTSC信号が本件当初発明1の実施例として記
載され,水晶発振子の発振周波数は,映像信号に対応した周波数となってお
り,第2の基準信号は,水晶発振子を用いて生成され,映像信号のバースト
信号に位相同期するように制御され,さらに,第2の基準信号の周波数を3.
58MHzに変更した場合でも,局部発振信号の分周比率は設定可能となっ
ていることが記載されていることになる。
したがって,当初明細書には,本件当初発明1の実施例として,映像信号
として,発振周波数が略3.58MHzであるNTSC信号を採用した場合
には,第2の基準信号も略3.58MHzとすることが開示されていること
は明らかである。また,第2の基準信号を略3.58MHzとした場合でも,
局部発振信号の分周比率も設定可能なことから,問題が生じないことも明ら
かである。
ウ3.58MHz
上記イのとおりであるから,当初明細書の段落【0012】に「第2の基
準信号は3.58MHzである」との直接の記載はないとしても,段落【0
018】の「第2の基準信号の周波数を4MHz(従来技術の周波数)から
3.58MHzに変更した」との記載を参照すれば,「第2の基準信号は3.
58MHzである」との記載があるということができる。
よって,審決のこの点の判断に誤りはない。
エ第2の基準信号
原告は,「第2の基準信号=略3.58MHz」を当然の前提とすること
はできず,第2の基準信号がバースト信号に位相同期した信号であると定義
されている以上,第2の基準周波数を特定の値に設定する技術的思想は存在
し得ないと主張する。
しかし,当初明細書には,映像信号として,発振周波数が略3.58MH
zであるNTSC信号を採用した場合には,第2の基準信号も略3.58M
Hzとすることが本件当初発明1の実施例として開示されていることは,前
記イのとおりである。したがって,当初明細書には,第2の基準信号を,N
TSC信号の発振周波数である略3.58MHzという特定の値に設定する
ことが記載されており,原告の上記主張を採用することができない。
原告は,「第2の基準信号は,バースト信号に対して±2%程度の変動が
生じることが,甲11に示されており,「零とみなして問題にない程小さな
値」と断定できる値ではないと主張する。
バースト信号の周波数が変動するものであることについては,当事者間に
争いはない。また,原告も認めるように,本件当初発明1の実施例において,
第2の基準信号は,バースト信号に位相同期するように制御されるものであ
る。そして,当初明細書には,第2の基準信号を,NTSC信号の発振周波
数である略3.58MHzという特定の値に設定することが記載されている
ことも,前記イのとおりである。そもそも,位相同期とは,周波数が変動す
るバースト信号に,第2の基準信号を一致追従させるために,第2の基準信
号の周波数を調整することを意味するのであるから,「零とみなして問題に
ない程小さな値」と断定することのできる値ではないとしても,バースト信
号の周波数変動は,一致追従するように調整可能な範囲の値であると解され
る。したがって,原告の上記主張も採用することはできない。
オ周波数の設定
原告は,「第2の基準信号は略3.58MHzである」とする訂正を,そ
のまま「周波数の設定」とするならば,第2の基準信号は,水晶発振子の固
定発振周波数である略3.58MHzであって,バースト信号に位相同期し
ていない水晶発振子の生の発振周波数であるとの解釈を生じることになると
主張する。
しかし,当初明細書には,第2の基準信号をNTSC信号の発振周波数で
ある略3.58MHzという特定の値に設定することが記載されており,位
相同期とは,周波数が変動するバースト信号に第2の基準信号を一致追従さ
せるために,第2の基準信号の周波数を調整することを意味するから,当業
者は,バースト信号の周波数変動は,一致追従するように調整可能な範囲の
値と解することになる。したがって,審決の「第2の基準周波数を設定しよ
うにも設定周波数は一律に定まることはなく変動するのが実情であるとして
も,実情は第2の基準周波数を特定の値に設定するという技術思想自体を没
却するものではない。」との判断に誤りはない。
(2)「略3.58MHzの色信号回路」との訂正事項について
原告は,「略3.58MHzの色信号回路」は,技術的意味が不明瞭な記
述であり,新たな無効理由(記載不備)を生じると主張する。
しかし,「略3.58MHzの色信号回路」を,「略3.58MHzの水
晶発振子を備えた色信号回路」,「略3.58MHzの第2の基準信号を用
いて色信号を復調する色信号回路」のいずれの意味に解するとしても,当初
明細書に,「略3.58MHzの色信号回路」が開示されていることは,前
記(1)イのとおりであるから,原告の主張は,審決の結論に影響を及ぼすも
のではない。
(3)以上のとおり,本件訂正が適法であるとした審決の判断に誤りはない。
2取消事由2(本件発明1の新規性・進歩性の判断の誤り)について
(1)本件発明1と甲1又は甲2発明との同一性
ア本件発明1について
a原告は,本件発明1は,映像信号受信装置と記載されている以上,受信信
号を受信時に,現実のPLL回路に供給するために,第1の基準信号が使わ
れることをいうにすぎず,どのような色信号の復調に用いられるかというこ
ととの関係は,そもそも特定されていないと主張する。
しかし,本件発明1は,「・・・前記混合回路から出力される中間周波信
号を検波することにより得られた映像信号から,略3.58MHzの第2の
基準信号を用いて,色信号を復調する略3.58MHzの色信号回路を備え,
前記第2の基準信号を前記第1の基準信号として前記PLL回路に与えたこ
とを特徴とする映像信号受信装置」であるから,本件発明1の映像信号受信
装置は,中間周波信号を検波することにより得られた映像信号から,略3.
58MHzの第2の基準信号を用いて,色信号を復調する略3.58MHz
の色信号回路を備え,第2の基準信号を第1の基準信号としてPLL回路に
与える構成を有することは明らかである。したがって,「中間周波信号を検
波することにより得られた映像信号から色信号を復調するのに用いる略3.
58MHzの第2の基準信号を,第1の基準信号としてPLL回路に与える
こと」を本件発明1の主要構成として,第1の基準信号を特定した審決の認
定に誤りはない。
bまた,本件発明1と甲1発明の同一性を判断する前提として,色信号(回
路)についてみると,本件明細書に次の記載がある。
(a)「【請求項1】混合回路に局部発振信号を送出する局部発振回路と,前
記局部発振信号の出力と第1の基準信号との位相比較を行うことにより,
前記局部発振回路の局部発振信号の周波数を受信周波数に対応した周波数
に設定するPLL回路とを備えた映像信号受信装置において,前記混合回
路から出力される中間周波信号を検波することにより得られた映像信号か
ら,略3.58MHzの第2の基準信号を用いて,色信号を復調する略3.
58MHzの色信号回路を備え,前記第2の基準信号を前記第1の基準信
号として前記PLL回路に与えたことを特徴とする映像信号受信装置。」
(【特許請求の範囲】)
(b)「【課題を解決するための手段】・・・請求項1記載の発明に係る映像信
号受信装置は,混合回路に局部発振信号を送出する局部発振回路と,前記
局部発振信号の出力と第1の基準信号との位相比較を行うことにより,前
記局部発振回路の局部発振信号の周波数を受信周波数に対応した周波数に
設定するPLL回路とを備えた映像信号受信装置において,前記混合回路
から出力される中間周波信号を検波することにより得られた映像信号から,
略3.58MHzの第2の基準信号を用いて,色信号を復調する略3.5
8MHzの色信号回路を備え,前記第2の基準信号を前記第1の基準信号
として前記PLL回路に与えた構成としている。…
【作用】請求項1記載の発明の作用を以下に示す。色信号の復調に用い
られる第2の基準信号は,水晶発振子等の,高い周波数精度と温度安定度
とを備えた発振素子を用いて生成され,映像信号のバースト信号に位相同
期するように制御される。つまり第2の基準信号は,PLL回路の第1の
基準信号に要求される周波数精度および温度安定度を備えた信号となって
いる。この結果,PLL回路は,第1の基準信号を生成するための専用の
発振素子が設けられなくても,所定精度を備えた信号である第2の基準信
号に基づき,局部発振回路の出力周波数を受信周波数に対応した周波数に
精度良く設定する。」(段落【0005】∼段落【0006】)
(c)「IF増幅回路4は,混合回路3によって周波数変換された中間周波信号
を増幅するためのブロックとなっており,増幅した中間周波信号を映像検
波回路5に送出する。また映像検波回路5は,IF増幅回路4により増幅
された中間周波信号を検波するブロックとなっていて,検波した出力を色
信号回路6に送出する。色信号回路6は,映像検波回路5によって検波さ
れた映像信号から,赤,緑,青の3種の色信号62を生成するためのブロ
ックとなっており,バースト信号の周波数と同一周波数の水晶発振子7を
備えている。この水晶発振子7の発振周波数は,受信する映像信号に対応
した周波数となっており,受信する信号が,例えばNTSC信号である場
合には,発振周波数は略3.58MHzである。詳細には,色信号回路6
は,水晶発振子7の発振の制御を行うことにより,バースト信号に位相同
期した信号である第2の基準信号を生成する。また輝度信号と色信号との
分離を行った後,第2の基準信号に基づいて,分離された色信号から色差
信号を生成する。そして生成した色差信号と輝度信号とから,所定処理を
行うことによって,赤,緑,青の色信号を生成し,生成した色信号62を
外部に送出する。また生成した第2の基準信号61を,第1の基準信号と
してPLL回路10に送出する。」(段落【0011】∼段落【001
2】)
(d)「PLL回路10は,局部発振回路8,9の発振周波数の制御と,RF増
幅回路1,2が増幅する周波数の設定等とを行うためのブロックとなって
おり,従来技術において使用されていた構成と同一構成が採用されている。
つまり,水晶発振子の製造価格が最も安価となる4MHz近傍の周波数信
号を第1の基準信号として,PLL制御を行うように構成されている。詳
細には,色信号回路6から送出された4MHz近傍の第2の基準信号61
を第1の基準信号として取り扱い,第2の基準信号61を所定比率で分周
した信号を生成する。また局部発振信号(81または91)を,マイクロ
コンピュータ11から指示された比率でもって分周した信号を生成する。
そして分周した第2の基準信号61と,分周した局部発振信号(81また
は91)との位相比較を行う。次いで,比較結果に従って出力101の電
圧を制御することにより,局部発振信号(81または91)の周波数を,
受信する周波数に対応した周波数に設定する。」(段落【0014】)
(e)「以上において説明したことから明らかなように,所定の周波数精度と温
度安定度とを備えた発振素子が水晶発振子である場合,請求項1記載の発
明は,以下に示す効果を生じることとなる。すなわち,水晶発振子は,製
造の都合上,4MHz近傍の素子が最も安価である。そのためPLL回路
10は,4MHz近傍の素子を使用するように回路が構成されている。一
方,色信号の復調に使用される第2の基準信号61の周波数は4MHz近
傍の周波数である。このためPLL回路10は,従来において使用されて
いた回路構成を変更することなく使用することが可能である。従って,本
発明を適用するにあたっては,一般的にはIC化されているPLL回路を
新たに作成することが不要になるという効果を奏する。また装置本体を制
御するマイクロコンピュータ11も併せて使用する場合,請求項2記載の
発明に比すると,マイクロコンピュータのクロック周波数を任意の周波数
に設定することが可能となっている。」(段落【0025】)
(f)「【発明の効果】請求項1記載の発明に係る映像信号受信装置は,局部発
振回路の出力と第1の基準信号との位相比較を行うことにより,局部発振
回路の出力周波数を受信周波数に対応した周波数に設定するPLL回路を
備えた映像信号受信装置に適用している。そして色信号の復調に用いられ
る基準信号である第2の基準信号を,第1の基準信号としてPLL回路に
与えている。このためPLL回路には,第1の基準信号を生成するための
専用の発振素子を設けなくとも,所定精度を有する信号が第1の基準信号
として与えられることになる。」(段落【0026】)
c上記bの記載によれば,本件明細書には,①色信号回路6は,水晶発振子
7の発振の制御を行うことにより,バースト信号に位相同期した信号である
第2の基準信号を生成すること,輝度信号と色信号との分離を行った後,第
2の基準信号に基づいて,分離された色信号から色差信号を生成すること,
②生成した色差信号と輝度信号とから,所定処理を行うことによって,赤,
緑,青の色信号を生成し,生成した色信号62を外部に送出すること,が開
示されていると認められる。
したがって,本件発明1の実施例では,「第2の基準信号を用いて,映像
信号から色信号を復調する」とは,具体的には,映像信号から輝度信号を分
離した色信号から,色差信号を生成することに該当すると認められる。そう
すると,本件訂正後の請求項1は,「映像信号から,略3.58MHzの第
2の基準信号を用いて,色信号を復調する略3.58MHzの色信号回路」
であるから,第2の基準信号を用いて,色信号から色差信号を生成すること
までも特定するものではないが,少なくとも,映像信号から色信号を復調す
る過程で,第2の基準信号を用いることを特定しているのであり,色信号を
復調する前処理のプロセスでの使用が含まれないことは,明らかである。
イ甲1について
原告は,甲1では,クロック信号φは,色信号を復調する前処理プロセ1
スで使用されて,PLL回路に与えられるのであるから,審決が認定する本
件発明1の主要構成は,甲1に,映像信号受信装置としてのビデオカセット
レコーダの先行技術として,実質的に開示されていると主張する。
a甲1には,次の記載がある。
(a)「無線周波数(r.f.)信号はアンテナ208から受信され,チューナ
モジュール210のr.f.回路212に供給される。r.f.回路21
2は,増幅されたr.f.信号を第1の検出器即ち混合器214の一方の
入力への増幅されたr.f.信号を与える周波数選択および増幅回路を含
む。チューナモジュールのチャンネル選択回路222は選択されたチャン
ネルに対応するデジタル信号を生成する。デジタル信号は,位相ロックル
ープ(PLL)220を制御して局部発振器216を制御する粗同調電圧
Vを生成し,その周波数は水晶221により示される水晶発振器によりCT
生成される基準周波数と,チャネル番号により決定される比例関係となる。
同調電圧Vは,スイッチ224と結合され,r.f.回路212と局部CT
発振器216の入力となる。r.f.回路212に供給される同調電圧V
は,局部発振器216の周波数との関係を追跡して選択されたテレビジCT
ョンチャンネル用の周波数選択回路の同調を調整する。」(5欄5∼24
行)
(b)「粗同調電圧Vは,所望のチャンネル信号を受信のために局部発振器をCT
同調すると,局部発振器の制御は精密同調電圧Vにより維持される。精FT
密同調電圧Vは,スイッチ224により局部発振器に選択的に供給されFT
る。スイッチ224は,PLL220により制御され,PLL220が粗
いロックを達成されたときに局部発振器にVを供給する。」(5欄30FT
∼38行)
(c)「i.f.増幅器240により与えられる信号は,また以下に記述されて
9f(NTSC色副搬送波信号)に実質的に等しい周波数を有するサイc
ン波を発生する,PLL260により生成される発振信号とi.f.信号
をヘテロダインする混合器250に与えられ,そして復号ビデオ信号の色
同期バースト成分と同位相にロックされる。混合器250はi.f.周波
数帯域をより低い周波数に変換し,変換された画像搬送波の周波数は実質
的に3fに等しい。」(6欄4∼14行)c
(d)「フィルタ252からの信号は搬送波基準信号抽出回路254に供給され
る。回路254は例えば,3fに同調される周波数選択回路を含み,3c
f画像信号と実質的に周波数および位相ロック関係にある信号を生成すc
る。抽出された搬送波信号は波形整形回路256により方形波に変換され,
回路256は例えばハード制限増幅器を含む。画像搬送信号に対応する3
f方形波は位相検出回路268の一方の入力端子に供給され,以下に説c
明されるPLL260により与えられる,9fから生成された3fクロcc
ック信号φが他方の入力端子に供給される。位相検出器268は搬送信1
号と3fクロック信号φとの位相差に比例する出力を与える。この信号c1
はチューナモジュール210用の制御信号Vを生成する。信号Vは局FTFT
部発振器216の周波数を調整し,混合器214に生成されたi.f.搬
送波信号を受信された複合ビデオ信号の色バースト基準信号成分と同位相
にロックを維持し,または色バースト基準信号が無いとPLLにより生成
された自由走行f信号に同位相にロックを維持する。」(6欄18∼4c
2行)
(e)「DAC285により供給されるこのアナログ復号ビデオ信号は,バース
トゲート信号BGに応答する従来のバーストセパレータ288に供給され,
BGは復号ビデオ信号の各水平ラインから色同期バースト成分を分離する
ための同期分離器回路244により与えられる。分離されたバースト信号
は,例えば9fの共振周波数を有する共振水晶261を含むPLL26c
0に供給される。PLL260は,バースト信号により制御され,上記混
合器250に供給されるサイン9f出力信号を与える。9f信号はまたcc
9f方形波信号を生成するためのハード制限増幅器を含む波形整形回路c
262に供給される。9f方形波は周波数3分割回路264に供給され,c
ここで3fと12.5%のデューティサイクル(即ち,23nsの間論c
理1状態そして79nsの間は論理ゼロ状態)に実質的に等しい周波数を
有する方形波クロック信号位相φを生成する。信号φは上述した位相検11
出器268と移相回路266に供給される。」(8欄20∼40行)
(f)「DACからの復号ビデオ信号はまた従来のビデオ信号プロセッサ,イン
ターキャリア音声変換器,IF増幅器および検出回路292に供給される。
ビデオ信号プロセッサ290は例えば,復号ビデオ信号からの輝度および
色成分を分離し,表示装置(図示されていない)への適用のために赤,緑,
青の主色信号(R,G,B)を生成する回路を含んでも良い。」(8欄4
5∼54行)
b上記aの記載によれば,甲1には,次の各点が開示されていると認められ
る。
①PLL220は,局部発振器216を制御する粗同調電圧Vを生成し,CT
その周波数は,水晶221により示される水晶発振器により生成される基準
周波数と,チャネル番号により決定される比例関係となること。
②粗同調電圧Vが,所望のチャンネル信号を受信のために局部発振器をCT
同調すると,局部発振器の制御は,精密同調電圧Vにより維持されること。FT
③PLL260により生成され,9f(NTSC色副搬送波信号)に実c
質的に等しい周波数を有する発振信号と,i.f.増幅器240により与え
られるi.f.信号とが,ヘテロダインする混合器250に与えられ,i.
f.信号は,復号ビデオ信号の色同期バースト成分と同位相にロックされる
こと。
④PLL260により与えられる9fから生成された3fクロック信号cc
φが,位相検出回路268の入力端子に供給され,位相検出器268は,1
搬送信号と3fクロック信号φとの位相差に比例する出力を与えることで,c1
チューナモジュール210用の制御信号Vを生成し,信号Vは,局部発FTFT
振器216の周波数を調整し,混合器214で生成されたi.f.搬送波信
号を,受信した複合ビデオ信号の色バースト基準信号成分と同位相にロック
すること。
⑤分離された色同期バースト信号は,例えば9fの共振周波数を有するc
共振水晶261を含むPLL260に供給され,PLL260は,バースト
信号により制御され,混合器250に供給されるサイン9f出力信号を与c
えること。
⑥DACからの復号ビデオ信号は,ビデオ信号プロセッサに供給され,ビ
デオ信号プロセッサ290は,例えば,復号ビデオ信号からの輝度及び色成
分を分離し,赤,緑,青の主色信号を生成する回路を含んでもよいこと。
c以上のとおり,甲1には,共振水晶261を含むPLL260は,色同期
バースト信号により制御され,PLL260により与えられる9f(NTc
SC色副搬送波信号)から生成された3fクロック信号φによって,局部c1
発振器の周波数を調整し,混合器214で生成されたi.f.搬送波信号を,
受信した混合ビデオ信号の色同期バースト基準信号成分と同位相にロックす
ることが記載されているから,甲1のクロック信号φは,その周波数が31
f(NTSC色副搬送波信号)であるが,局部発振器の周波数を調整するc
のであるから,本件発明1の第1の基準信号に対応すると解される。
しかし,甲1では,DACからの復号ビデオ信号は,ビデオ信号プロセッ
サに供給され,ビデオ信号プロセッサが,復号ビデオ信号からの輝度及び色
成分を分離し,赤,緑,青の主色信号を生成する回路を含んでもよいのであ
るから,映像信号から色信号を復調しているのは,ビデオ信号プロセッサで
あると解される。ビデオ信号プロセッサには,PLL260からの信号であ
るクロック信号φ等は入力されていないから,クロック信号φは,色信号11
の復調に用いられるものでないことになる。
したがって,甲1に本件発明1の主要構成が記載されておらず,本件発明
1が甲1発明と同一であるとはいえいないとする審決の判断に誤りはない。
ウ甲2について
原告は,本件発明1の色信号の復調は,色信号(R,G,B)を復調する
に至る前処理プロセスを含むことは明らかであり,甲2には,色信号を復調
する前処理のプロセスに使用される基準信号(第2の基準信号)が第1の基
準信号としてPLL回路に与えられることが実質的に開示されているから,
本件発明1と甲2発明とは同一であると主張する。
a本件発明1は,第2の基準信号を用いて,色信号から色差信号を生成する
ことまでも特定するものではないが,少なくとも,映像信号から色信号を復
調する過程で,第2の基準信号を用いることを特定しているのであり,色信
号を復調する前処理のプロセスでの使用が含まれないことは,前記アのとお
りである。
bそして,甲2には次の記載がある。
(a)「2つの同期復調器16,18はそれぞれ増幅器7,8の出力信号を復調
する。同期復調器16,18の出力は加算器19に供給され,そこで加算
されて約5−6MHzの帯域幅でビデオ低域通過フィルタに供給される。
低域通過フィルタ22の出力は所望のビデオ信号(複合カラー信号FBA
S)を与える。同期復調器16,18に挿入される搬送周波数を形成する
ために,色副搬送波発振器13,2分割周波数分割器14,90°移相器
17が存在する。色副搬送波発振器13は約4.433MHzの色副搬送
波周波数である。色副搬送波発振器は既知の方法でビデオ信号のバースト
と同期される。その出力信号は周波数分割器14に供給され,その出力信
号は同期復調器16に,そして90°移相器17を介して同期復調器18
にそれぞれ供給される。」(2欄49∼68行)
(b)「RF発振器3の周波数は受信される画像搬送周波数と色副搬送周波数の
中間に正確にならなければならない。僅かな偏差さえもモアレとなる。そ
こで,RF発振器3の正確な調整が,画像IF搬送波と色IF搬送波が同
期している時に達成されるために,位相および周波数比較器15が提供さ
れている。その比較器は,周波数分割器14で半分になった周波数の色副
搬送波信号と,リミッタ9で導き出される画像搬送波が供給される。それ
は,2つの信号が等しい周波数である時に位相に従う制御電圧を形成する。
制御電圧はRF発振器3に供給されて画像IF副搬送波と同期する。」
(3欄24∼38行)
(c)「位相および周波数比較器15は,「離調依存」制御電圧を生成するよう
に設計される,即ち,その入力信号が主な周波数差を禁じる時に,制御電
圧の極性が離調の方向に従う。それは,周波数比較によってのみ得られた
制御電圧と違って,周波数制御効果を消失しない制御電圧である。この制
御電圧が周波数偏差を大きく減少した後に,位相依存制御電圧は,位相ロ
ック動作が達成されることにより得られる。」(6欄6∼16行目)
(d)「2つの同期復調器16と18は,正規の位置および逆位置で完全なビデ
オ信号を搬送する。加算器19は正規位置にある2つのビデオ信号を増幅
しそして逆位置にある2つのビデオ信号を抑制する。2つの移相器4,1
7の移相の方向に依存して,正規位置の信号を得るために減算器が加算器
19の代わりに要求される。得られたビデオ信号はビデオ低域通過フィル
タ22を通過し,その帯域はビデオ帯域上の周波数が抑制されるように選
択され,同期復調器から生じる,主に画像IF搬送波の4倍の周波数(こ
の例では,4×2.2MHz∼8.8MHz)であり,同期復調のために,
全波整流に相当する加算は2.2MHzサイン波を4.4MHzの半波電
圧に変える。90°位相の異なる2つの4.4MHzの半電圧は共に加算
され,低リップル8.8MHzの半波電圧が直流電圧成分に加えて得られ
る。ビデオ信号または複合色信号(FBAS)はさらに既知の方法で処理
される。例えば,色信号は櫛フィルタにより画像信号から分離される。そ
れから,2軸,即ちPALの場合はR−YそしてB−Y,NTSCの場合
はⅠおよびQに従って直角復調される。また,5.5MHzサウンド信号
が既知の方法でビデオ信号から分離され得る。色副搬送波発振器13と同
期するために要求されるバーストがフィルタ23によりフィルタ出力され
そして色副搬送波発振器13に供給される。」(6欄51行∼7欄15
行)
(e)「2.色副搬送波発振器と,前記色搬送波発振器に結合され,前記色搬送
波発振器の周波数の半分で第1の信号を発生する周波数分割器と,前記第
1の信号と前記画像IF搬送波を比較し,前記第1の信号と前記画像IF
搬送波が同じ周波数を有するならば位相に追従する制御電圧を生成し,前
記第1の信号と前記画像IF搬送波の周波数が異なるならば離調に依存す
る周波数を生成する位相および周波数比較器と,を備え,前記RF発振器
は,当該RF発振器の周波数が前記制御電圧に追従するように前記制御電
圧に応答する,請求項1に記載の受信機。」(8欄39∼54行)
c上記bの記載によれば,甲2には,次の各点が開示されていると認められ
る。
①同期復調器16,18に挿入される搬送周波数を形成するために,色副
搬送波発振器13は,既知の方法でビデオ信号のバーストと同期されること。
②RF発振器3の正確な調整が,画像IF搬送波と色IF搬送波が同期し
ている時に達成されるため,位相及び周波数比較器15は,色副搬送波信号
と画像搬送波が等しい周波数である時に位相に従う制御電圧を形成し,位相
ロック動作を達成すること。
③同期復調器16,18は,正規の位置及び逆位置で完全なビデオ信号を
搬送すること。
④ビデオ信号又は複合色信号(FBAS)は,既知の方法で処理され,例
えば,色信号は櫛フィルタにより画像信号から分離され,2軸,即ちNTS
Cの場合はⅠ及びQに従って直角復調されること。
⑤色副搬送波発振器13と同期するために要求されるバーストが,フィル
タ23によりフィルタ出力され,色副搬送波発振器13に供給されること。
d以上のとおりであるから,甲2には,位相及び周波数比較器15が,ビデ
オ信号のバーストと同期した色副搬送波発振器13の色副搬送波信号と,画
像搬送波とから制御電圧を形成して,位相ロック動作を達成し,RF発振器
3の調整を行うことが記載されている。甲2の色副搬送波発振器13の色副
搬送波信号は,RF発振器3の調整を行うのであるから,本件発明1の第1
の基準信号に対応すると解される。しかし,甲2では,色信号は,FBAS
から分離されるのであるから,色信号の復調に,本件発明1の第1の基準信
号に対応する色副搬送波発振器13の色副搬送波信号を用いることは記載さ
れていないことになる。
したがって,甲2に本件発明1の主要構成が記載されておらず,本件発明
1が甲2発明と同一であるとはいえないとする審決の判断に誤りはない。
(2)本件発明1の進歩性
ア甲3について
a本件発明1の実施例では,「第2の基準信号を用いて,映像信号から色信
号を復調する」とは,具体的には,映像信号から輝度信号と分離した色信号
から色差信号を生成することを意味するのであり,また,本件発明1の請求
項1は,第2の基準信号を用いて,色信号から色差信号を生成することまで
も特定するものではないが,少なくとも,映像信号から色信号を復調する過
程で,第2の基準信号を用いることを特定していることは,前記(1)アc記
載のとおりである。
b映像信号から分離した色信号から色差信号を生成するために用いられる色
復調器の基準信号について,甲3及び甲14に次の記載がある。
(a)「クロック18はバーストに適合される(キー)位相ロックループ(PL
L)を含み,ビデオ信号S2の色副搬送波成分の周波数の倍数(例えば,
4倍)にロックされた周波数を有するクロック(CL)出力信号を与え
る。」(甲3の3欄64∼68行)
(b)「クロック信号CLは,バス26(矢頭で示される)を経てA/D変換器
14に供給され信号S2のサンプリングを制御し,またデジタルビデオ信
号S2と共にデジタルビデオプロセッサ20に供給され,ここで信号CL
は,プロセッサにより与えられる各種の処理機能(例えば,色分離,ピー
キング,コントラスト制御,色相および飽和制御など)のタイミングを制
御する。」(甲3の4欄6∼13行)
(c)「例えば,1975年8月にEricBreeze等の名前で出願され,そして1
976年9月14日に発行された「ElectronicTuningControlSystemf
orTelevision(テレビ用の電子同調制御システム)」と名称された文献
に,テレビジョン受信機の色復調器の水晶発振器により導かれる信号3.
58MHz(即ち,米国における色副搬送波周波数)を,受信機をチュー
ニング(同調)するための位相ロックループにおいて使用される位相検出
器へ結合し,基準周波数信号が導かれる分離した水晶発振器のコストを除
去することにより受信機のコストを減少することが提案されている。」
(甲14の2欄30∼45行)
cまた,色副搬送波に使用された基準信号を,局部発振器の周波数の設定に
用いることについて,甲13には,「2分周フリップフロップ18は分周器
16からの出力信号の周波数を半分に分周する。この結果,VCO11によ
り生成された原高周波局部発振器信号は,周波数/位相比較器22へ入力さ
れる前に,プリスケーラ14,分周器16およびフリップフロップ18によ
り分周される。分周器16の各サイクルに続き,モジュロ7カウンタ163
はフリップフロップ手段18を介してパルスを比較器22へ送る。このパル
スに加え,比較器22は水晶発振器および適切な周波数分周器により供給さ
れる1.984KHz基準信号を受信する。この基準信号はまた,カラーテ
レビジョン信号に既に存在する3.58MHzの色副搬送波を分周すること
により導入されても良い。」(甲13の5欄32∼46行)との記載がある。
d上記b及びcの記載によれば,一般に,映像信号から,色信号を復調する
ために用いられる色復調器の基準信号として,色副搬送波に基づく基準信号
を用いることは,常套手段であると認められる。
甲1のクロック信号φは,NTSC色副搬送波の3倍の周波数であるか1
ら,色副搬送波に基づく基準信号を,局部発振器の周波数の設定に用いるこ
とが記載されていると認められ,甲2の色副搬送波発振器13の色副搬送波
信号は,位相ロック動作を達成し,RF発振器3の調整を行うことが,記載
されている。したがって,甲1での色副搬送波に使用された基準信号又は甲
2の色副搬送波発振器13の色副搬送波信号を,色復調器の基準信号(本件
発明1の第2の基準信号)として採用することで,中間周波数信号を検波す
ることにより得られた映像信号から色信号を復調するのに用いる略3.58
MHzの第2の基準信号を,第1の基準信号としてPLL回路に与えるよう
にすることは,当業者が容易に想到し得ることである。
e被告は,映像信号プロセッサ290が必要とする基準信号に関する記載は,
甲1になく,甲1の映像信号プロセッサ290と甲3のデジタルビデオプロ
セッサ20との対応関係のみをもって,甲1及び甲3の記載から,本件発明
1の主要構成は導かれないと主張する。
しかし,甲3は,一般に,映像信号から,色信号を復調するために用いら
れる色復調器の基準信号として,色副搬送波に使用された基準信号を用いる
ことが,常套手段であることを示すものであり,また,甲1には,色副搬送
波に使用された基準信号を局部発振器の周波数の設定に用いることが記載さ
れているのであるから,中間周波数信号を検波することにより得られた映像
信号から色信号を復調するのに用いる略3.58MHzの第2の基準信号を,
第1の基準信号としてPLL回路に与えることは,当業者が容易に想到し得
ることであり,被告の上記主張を採用することはできない。
イ甲1及び甲2の組合せについて
被告は,①甲1及び甲2の復調器をRGB色信号の復調回路に置換すると,
甲1発明及び甲2発明は,動作しない回路構成になる,②甲1の復調器に供
給される信号は,クロック信号φであって,その周波数は,3f(NTS1c
C色副搬送波周波数fの3倍)であり,甲2の復調器に供給される信号のc
周波数は,1/2f(2.2MHz)であるため,NTSC方式RGB色c
回路の基準信号(略3.58MHz)として利用できるものではないと主張
する。
しかし,甲1及び甲2の復調器を,RGB色信号の復調回路に置換したり,
そのままの周波数で用いるのではなく,甲1及び甲2の色副搬送波に使用さ
れた基準信号を逓倍処理又は分周処理して色信号の復調回路の基準信号とし
て用いることに,格別の困難性があるとは認めることはできない。被告の上
記主張は,採用することができない。
ウ前記ア及びイのとおり,本件発明1は,甲1発明並びに甲2及び甲3に記
載された事項に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3)以上のとおり,本件発明1が甲1又は2発明と同一であるとはいえないが,
本件発明1は,甲1発明並びに甲2及び甲3に記載された事項に基づき,当
業者が容易に発明をすることができたものであるから,取消事由2は,進歩
性の誤りをいう点において理由がある。
3取消事由3(本件発明2の新規性・進歩性の判断の誤り)
(1)本件発明2と甲4又は甲5発明との同一性
ア本件発明2の「マイクロコンピュータの基準信号となるクロック信号」に
ついて
a原告は,本件明細書の段落【0015】は,請求項2に基づく直接の記述
ではなく,図1の実施態様についてのものであり,本件発明1の実施形態を
説明する記載であるから,段落【0015】は,請求項2の「マイクロコン
ピュータの基準信号となるクロック信号」が「12MHz等の周波数のクロ
ック信号」であると定義しているものではないと主張する。
bマイクロコンピュータについては,本件明細書に次の記載がある。
(a)「【請求項2】混合回路に局部発振信号を送出する局部発振回路と,前
記局部発振信号の出力と第1の基準信号との位相比較を行うことにより,
前記局部発振回路の局部発振信号の周波数を受信周波数に対応した周波数
に設定するPLL回路と,装置本体の動作を制御するマイクロコンピュー
タとが設けられた映像信号受信装置において,前記マイクロコンピュータ
の基準信号となるクロック信号と前記第1の基準信号とを,同一信号源か
ら得ることを特徴とする映像信号受信装置。」(【特許請求の範囲】)
(b)「【課題を解決するための手段】・・・請求項2記載の発明に係る映像信
号受信装置は,混合回路に局部発振信号を送出する局部発振回路と,前記
局部発振信号の出力と第1の基準信号との位相比較を行うことにより,前
記局部発振回路の局部発振信号の周波数を受信周波数に対応した周波数に
設定するPLL回路と,装置本体の動作を制御するマイクロコンピュータ
とが設けられた映像信号受信装置において,前記マイクロコンピュータの
基準信号となるクロック信号と前記第1の基準信号とを,同一信号源から
得る構成としている。
【作用】・・・請求項2記載の発明の作用を以下に示す。マイクロコン
ピュータの基準信号となるクロック信号,およびPLL回路の第1の基準
信号は,共に同じ程度の周波数精度および温度安定度を要求される信号で
ある。そのためクロック信号と第1の基準信号とを同一信号源から得るこ
とは,マイクロコンピュータとPLL回路との双方にとって,精度に対す
る要求を満たす信号が与えられることを意味する。その結果,所定精度で
発振する1つの発振素子を用いるのみで,マイクロコンピュータおよびP
LL回路は,所定精度でもって所定動作を行う。」(段落【0005】∼
段落【0007】)
(c)「PLL回路10は,局部発振回路8,9の発振周波数の制御と,RF増
幅回路1,2が増幅する周波数の設定等とを行うためのブロックとなって
おり,従来技術において使用されていた構成と同一構成が採用されている。
つまり,水晶発振子の製造価格が最も安価となる4MHz近傍の周波数信
号を第1の基準信号として,PLL制御を行うように構成されている。詳
細には,色信号回路6から送出された4MHz近傍の第2の基準信号61
を第1の基準信号として取り扱い,第2の基準信号61を所定比率で分周
した信号を生成する。また局部発振信号(81または91)を,マイクロ
コンピュータ11から指示された比率でもって分周した信号を生成する。
そして分周した第2の基準信号61と,分周した局部発振信号(81また
は91)との位相比較を行う。次いで,比較結果に従って出力101の電
圧を制御することにより,局部発振信号(81または91)の周波数を,
受信する周波数に対応した周波数に設定する。マイクロコンピュータ11
は,操作パネルに設けられたスイッチ,各種の検出スイッチ,およびセン
サ等の出力111に基づき,ビデオカセットレコーダとして要求される種
々の動作の制御を行うブロックとなっていて,12MHz等の周波数のク
ロック信号に基づき,高速にて所定動作を実行する。すなわち,制御出力
113を所定ブロック(図示されていない)に送出することにより,各種
動作の制御を行う。またPLL回路10に対してコマンド出力112を送
出することにより,PLL回路10における分周比率の制御等を行う。上
記構成からなる実施例の動作を以下に説明する。PLL回路10に与えら
れる第2の基準信号61の周波数をf,第2の基準信号61を分周すref
る比率をD,局部発振信号81として要求される周波数をf,局部refosc
発振信号81を分周する比率をDとすると,【数1】f/D=oscrefref
f/Dなる関係にある。このため,マイクロコンピュータ11は,oscosc
【数2】3.58/D=f/D1が成立する分周の比率D1refoscoscosc
をPLL回路10に指示することにより,要求される周波数の局部発振信
号81を生成させ,所定周波数の受信を行う。」(段落【0014】∼段
落【0016】)
(d)「上記した動作は,VHF帯域の信号を受信するときも同様となり,PL
L回路10は,局部発振信号91を,マイクロコンピュータ11からの指
示に従った比率で分周することにより,局部発振信号91の周波数を,要
求される周波数に設定する。図2は,請求項2記載の発明の一実施例の電
気的構成を示すブロック図となっており,PLL回路10とマイクロコン
ピュータ11aとの接続関係を示した部分図となっている。そして同図に
図示されなかったブロックについては,図1に示した構成と同一の構成が
採用されている。PLL回路10は,図1に示した構成と同一であり,局
部発振回路8が出力する局部発振信号81,局部発振回路9が出力する局
部発振信号91が導かれている。またRF増幅回路1,2の増幅周波数と,
局部発振回路8,9の発振周波数とを制御するための出力101を送出し
ている。またマイクロコンピュータ11aから送出され,分周の比率の指
示等を行うコマンド出力112が与えられている。マイクロコンピュータ
11aは,図1に示す構成と略同一であり,スイッチ等からの出力111
が導かれている。またビデオカセットレコーダとしての動作を制御するた
めの制御出力113が,図示されないブロックに送出されている。またク
ロック信号を生成するための水晶発振子12が設けられており,水晶発振
子12には,制御時に要求される動作速度およびPLL回路10の回路構
成の関係から,4MHzを発振する素子が採用されている。また水晶発振
子12を用いることにより生成されたクロック信号は,第1の基準信号1
14として,PLL回路10に送出されている。すなわち,PLL回路1
0とマイクロコンピュータ11aとの双方は,水晶発振子12を発振素子
とする信号源を共有した構成となっている。上記構成からなる実施例の動
作を以下に説明する。PLL回路10に与えられる第1の基準信号114
は,従来技術において使用されていた周波数と同じ4MHzである。この
ためマイクロコンピュータ11aは,受信周波数を制御するときには,
【数5】4/D=f/D2が成立する分周比率D2をPLLrefoscoscosc
回路10に指示する。この結果,局部発振信号81の周波数は,受信しよ
うとする信号に対応した周波数に設定される。またRF増幅回路1が増幅
する周波数も,受信しようとする周波数に設定される。そのため,所定周
波数の信号が受信されることになる。これら一連の動作は,VHF帯域の
信号を受信するときも同様となる。」(段落【0019】∼段落【002
3】)
(e)「以上において説明したことから明らかなように,所定の周波数精度と温
度安定度とを備えた発振素子が水晶発振子である場合,請求項1記載の発
明は,以下に示す効果を生じることとなる。すなわち,水晶発振子は,製
造の都合上,4MHz近傍の素子が最も安価である。そのためPLL回路
10は,4MHz近傍の素子を使用するように回路が構成されている。一
方,色信号の復調に使用される第2の基準信号61の周波数は4MHz近
傍の周波数である。このためPLL回路10は,従来において使用されて
いた回路構成を変更することなく使用することが可能である。従って,本
発明を適用するにあたっては,一般的にはIC化されているPLL回路を
新たに作成することが不要になるという効果を奏する。また装置本体を制
御するマイクロコンピュータ11も併せて使用する場合,請求項2記載の
発明に比すると,マイクロコンピュータのクロック周波数を任意の周波数
に設定することが可能となっている。」(段落【0025】)
(f)「【発明の効果】・・・また請求項2記載の発明に係る映像信号受信装置
は,局部発振回路の出力と第1の基準信号との位相比較を行うことにより,
局部発振回路の出力周波数を受信周波数に対応した周波数に設定するPL
L回路と,装置本体の動作を制御するマイクロコンピュータとが設けられ
た映像信号受信装置に適用している。そしてマイクロコンピュータの基準
信号となるクロック信号と第1の基準信号とを,同一信号源から得ている。
そのため所定精度の1つの発振素子を使用するのみで,マイクロコンピュ
ータとPLL回路との双方に,精度に対する要求を満たす信号が与えられ
ることになる。」(段落【0026】∼段落【0027】)
c上記bの記載によれば,本件明細書には,①本件発明1のマイクロコンピ
ュータ11は,ビデオカセットレコーダとして要求される種々の動作の制御
を行い,12MHz等の周波数のクロック信号に基づき,高速にて所定動作
を実行すること,②本件発明2のマイクロコンピュータ11aは,図1に示
す本件発明1の構成とほぼ同一であり,ビデオカセットレコーダとしての動
作を制御し,またクロック信号を生成するための水晶発振子12が設けられ
ていること,③水晶発振子12には,制御時に要求される動作速度及びPL
L回路10の回路構成の関係から,4MHzを発振する素子が採用されてい
ること,が開示されていると認められる。本件発明2のマイクロコンピュー
タ11aについては,「マイクロコンピュータの基準信号となるクロック信
号」の周波数は明記されていないが,図1に示す本件発明1の構成とほぼ同
一であり,本件発明1と同様に,ビデオカセットレコーダとしての動作を制
御するのであるから,少なくとも,本件発明1のマイクロコンピュータ11
と同様に,12MHz等の周波数のクロック信号に基づき,高速にて所定動
作を実行する場合を含むと解される。
したがって,甲5についての判断において,「装置本体の動作を制御する
には12MHz等の高い周波数のクロック信号を必要とすることが認められ
る」とした審決の認定は,是認し得るものである。
d原告は,本件訂正後の請求項2の「同一信号源から得る」構成を前提とし
て,「マイクロコンピュー夕の基準信号となるクロック信号」を解釈すると,
マイクロコンピュータ11がどこから12MHz等の周波数のクロック信号
を得ているかは不明となると主張する。
まず,逓倍処理又は分周処理が周知慣用の技術であることは,両当事者と
もに認めているところである。また,一般に,複数の周波数の基準信号を一
つの信号源から得るために,逓倍処理や分周処理を行うことは,当業者が必
要により適宜行えばよい技術的な設計事項である。したがって,同一信号源
である水晶発振子12からマイクロコンピュータ11aに供給される4MH
zの基準信号を3逓倍の処理を行うことで,12MHzの周波数のクロック
信号が得られることは明らかであるから,原告の上記主張は,採用すること
ができない。
e原告は,①本件明細書の段落【0015】の「12MHz等の周波数のク
ロック信号」は,必要に応じて,マイクロコンピュータ11aにおいて,水
晶発振子12から供給される4MHzの基準信号に基づいて,作成されると
考えられるから,本件訂正後の請求項2の「マイクロコンピュータの基準信
号となるクロック信号」は,「12MHz等の周波数のクロック信号」を作
成する前の水晶発振子12から,マイクロコンピュータ11aに供給される
4MHzの基準信号と認定するのが本件明細書の記載に忠実である,②段落
【0022】の記載を文言どおり解釈すれば,本件発明2の実施例である図
2の装置本体制御には,マイクロコンピュータ11aの基準クロック周波数
が4MHzであれば十分であるということである,と主張する。
本件訂正後の請求項2は,「前記マイクロコンピュータの基準信号となる
クロック信号と前記第1の基準信号とを,同一信号源から得る」であり,本
件発明2の「マイクロコンピュータの基準信号となるクロック信号」は,第
1の基準信号と同一の信号源から得るものであるから,水晶発振子12から
マイクロコンピュータ11aに供給される4MHzの基準信号は,第1の基
準信号との同一の信号源に相当するものであり,「マイクロコンピュータの
基準信号となるクロック信号」ではないことは,明らかである。
イ甲4について
a「装置本体の動作を制御するマイクロコンピュータ」
原告は,甲4の段落【0013】の記載などを根拠に,甲4には,本件発
明2の「マイクロコンピュータの基準信号となるクロック信号」と実質的に
同一なものが開示されていると主張する。
マイクロコンピュータ(マイコン)について,甲4に次の記載がある。
(a)「【請求項1】局部発振器と混合器を備え,入力信号と前記局部発振器か
らの発振周波数を混合し,第2の中間周波数を生成する周波数変換手段と,
PLLシンセサイザ方式により前記局部発振器の周波数を制御する,水晶
発振子を備えた選局回路と,前記第2の中間周波数に変換された信号のF
M検波を行う,デジタルAFC回路採用のFM復調回路と,前記選局回路
に対して放送局の選局データを供給し,前記デジタルAFC回路採用のF
M復調回路よりのAFC直流電圧により,前記第2の中間周波数の周波数
制御(AFC)を行う手段とを具備し,前記選局回路に使用されている水
晶振動子を前記デジタルAFC回路採用のFM復調回路と共用することを
特徴とする衛星放送受信装置。
【請求項2】局部発振器と混合器を備え,入力信号と前記局部発振器か
らの発振周波数を混合し,第2の中間周波数を生成する周波数変換手段と,
PLLシンセサイザ方式により前記局部発振器の周波数を制御する,水晶
発振子を備えた選局回路と,前記第2の中間周波数に変換された信号のF
M検波を行う,デジタルAFC回路採用のFM復調回路と,前記選局回路
に対して放送局の選局データを供給し,前記デジタルAFC回路採用のF
M復調回路よりのAFC直流電圧により,前記第2の中間周波数の周波数
制御(AFC)を行う手段とを具備し,前記選局回路に使用されている水
晶振動子を,前記デジタルAFC回路採用のFM復調回路と共用し,かつ,
前記選局回路と前記デジタルAFC回路採用のFM復調回路の配置を近接
させ,その間に電磁シールド手段を設けたことを特徴とする衛星放送受信
装置。」(【特許請求の範囲】)
(b)【従来の技術】として,「図4において,入力端子1には,図示しない
パラボラアンテナで受信されて,ファーストコンバータ(一般にはBSコ
ンバータ)で第1の中間周波数(以下,第1のIF周波数という)に増幅
・変換された信号が入力される。前記第1の中間周波数は,950∼1,
880MHzの範囲である。入力端子1に入力された第1のIF信号は,
入力増幅回路2,AGC回路3,第1中間周波増幅回路4及びイメージ妨
害信号を除去するプリセレクタ5を経由し,混合器6の一方の入力端に供
給される。混合器6の他方の入力端には,局部発振器8からの局部発振信
号がバッファ7を介して供給される。局部発振器8の局部発振信号の周波
数は,マイクロコンピュータ(以下,マイコンという)18によって制御
される選局回路14からの選局データによって可変されるようになってい
る。…
前記帯域切換回路11は,マイコン18によって制御される選局回路1
4からの制御信号によって切り換えられるようになっている。また,FM
復調回路13は,前記第2のIF信号の中心周波数のずれを補正するため
に,常に周波数のずれに対応した直流電圧20を,セカンドコンバータ1
9の出力端子17より出力し,マイコン18に送り出している。この信号
をもとにマイコン18は,周波数の変動を調整する。これがAFC回路の
動作である。さらに,FM復調回路13は,検波出力のレベル情報をAG
C回路3に対して,フィードバックし,AGC回路3は,該情報に基ずき
受信電波の強弱に応じて受信機の利得を自動的に制御し,FM復調回路1
3から常に歪みの無い一定の検波出力が得られるよう制御している。尚,
FM復調回路13は,IC(集積回路)で構成されている。」(段落【0
004】∼【0006】)
(c)【実施例】として,「局部発振器8の局部発振信号の周波数は,マイク
ロコンピュータ(以下,マイコンという)18によって制御され,選局回
路14からの選局データによって可変されるようになっている。また,選
局回路14は,選局回路用PLLから成っており,基準信号を発生させる
ために,水晶発振子15を使用している。水晶発振子15としては,例え
ば4MHzのものが使用される。ここで,図2を用いて,選局回路14の
選局回路用PLLの構成について説明する。選局回路14は,選局回路用
PLLから成っている。局部発振器8の発振周波数(fi)をプリスケー
ラ23で1/Npに分周し,さらにプログラマブルカウンタ24で1/N
に分周してできた周波数と,基準水晶発振器15の発振周波数(fo)を
基準発振器26で1/nに分周した周波数とを,位相比較器25に加え,
結果をLPF(ローパスフィルタ)27を通して局部発振器8へもどす。
そして,このループをロックさせる。その結果,等価的にfiをfoのN
倍にすることとなり,Nを適当に変えることによってfi(局部発振周波
数)を変化させて,任意のチャンネルに合わせることができる。本実施例
の場合,プログラマブルカウンタ24の分周比(N)をマイコンよりの選
局データによって変化させている。前記マイクロコンピュータ(マイコ
ン)18によって制御され,前記選局回路14からの選局データによって
可変される,前記局部発振器8からの局部発振信号と,前記プリセレクタ
5からの信号とは,混合器6において,第2の中間周波数(402.78
MHz)に周波数変換される。」(段落【0018】∼【0020】)
(d)同じく【実施例】として,「前記帯域切換回路11は,マイコン18に
よって制御される選局回路14からの制御信号によって切り換えられるよ
うになっている。ここで,デジタルAFC内蔵FM変調回路22のAFC
回路及びFM復調回路の機能(動作)について補足説明を行う。先ず,A
FC回路について説明する。従来のAFC回路は,前記第2のIF信号の
中心周波数のずれを補正するために,常に周波数のずれに対応した直流電
圧20を,セカンドコンバータ19の出力端子17より出力し,マイコン
18に送り出している。この信号をもとにマイコン18は周波数の変動を
調整する。これがAFC回路の動作である。ところで,本実施例によるA
FC回路(デジタルAFC内蔵FM変調回路22)はデジタル方式である
ので,基準信号発生用の水晶発振子が必要となる。本実施例では,このデ
ジタルAFC回路の基準信号発生用の水晶発振子として,前記選局回路1
4の選局回路用PLLの基準信号発生用に使用している水晶発振子15を
用いて(共用)いる。このデジタル方式による前記デジタルAFC回路は,
入力信号(前記第2のIF信号)の周波数を,直接カウンタでカウントし
て周波数のずれを検出する方式であり,従来例によるアナログ方式(FM
復調出力の直流成分を周波数ずれ信号として用いる方法)と比較すると,
調整が不要で,尚かつ格段の精度の向上を,実現している。」(段落【0
022】∼【0024】)
(e)【符号の説明】として,「18…マイクロコンピュータ(AFC手段)
22…デジタルAFC内蔵FM復調回路」
上記(a)ないし(e)の記載によれば,甲4には,次の事項が開示されている
と認められる。
①従来のAFC回路の動作として,第2のIF信号の中心周波数のずれを
補正するために,FM復調回路13が,常に周波数のずれに対応した直流電
圧20を,マイクロコンピュータ18に送り出し,この信号をもとに,マイ
クロコンピュータ18が周波数の変動を調整すること。
②局部発振器8の局部発振信号の周波数は,マイクロコンピュータによっ
て制御される選局回路14からの選局データにより可変されること。
③デジタルAFC回路は,第2のIF信号の周波数を,直接カウンタでカ
ウントして周波数のずれを検出する方式であり,従来例のアナログ方式と比
較すると,調整が不要であること。
しかし,甲4には,④マイクロコンピュータ18が選局回路以外のものを
制御すること及び⑤マイクロコンピュータ18のクロック信号については,
開示されていない。
上記①ないし③のとおりであり,甲4のデジタルAFC内蔵FM復調回路
22とマイクロコンピュータ(AFC手段)18を一体と見たとしても,甲
4には,マイクロコンピュータ18のクロック信号については,開示されて
いないから,一体と見たデジタルAFC内蔵FM復調回路22とマイクロコ
ンピュータ(AFC手段)18全体のクロック信号についても,甲4に開示
がないことに変わりはない。したがって,甲4のデジタルAFC内蔵FM復
調回路22とマイクロコンピュータ18(AFC手段)を,本件発明2の
「装置本体の動作を制御するマイクロコンピュータ」と解釈したとしても,
甲4には,本件発明2の「マイクロコンピュータの基準信号となるクロック
信号」と実質的に同一なものが開示されているということはできない。
b基準水晶発振子の共用
原告は,本件発明2がマイクロコンピュータとPLL回路の信号源の共用
の技術思想を要旨とするもので,その具体的な構成を特定するものではない
から,甲4の「各種装置」として,PLLとマイクロコンピュータが開示さ
れていれば,両装置が,基準水晶発振子を共用する技術思想も,実質的に開
示されていることに等しいと主張する。
装置については,甲4に次の記載がある。
(a)「【請求項1】・・・前記選局回路に使用されている水晶振動子を前記デ
ジタルAFC回路採用のFM復調回路と共用することを特徴とする衛星放
送受信装置。
【請求項2】・・・前記選局回路に使用されている水晶振動子を,前記
デジタルAFC回路採用のFM復調回路と共用し,・・・を特徴とする衛
星放送受信装置。」(【特許請求の範囲】)
(b)「【産業上の利用分野】本発明は衛星放送受信装置に係り,特に衛星放送
及び衛星放送を受信する衛星放送受信装置のセカンドコンバータにおける,
受信性能の向上を図った装置に関する。」(段落【0001】)
(c)「ところで,上記記載の装置におけるFM復調回路では,従来よりAFC
回路として,アナログ方式が採用されている。これは,FM変調出力の直
流成分を周波数ずれ信号として用いる方式であって,細かな調整が必要と
され,また精度の点でも多少問題がある。そこで,AFC回路を,アナロ
グ方式からデジタル方式へ代える事が考えられる。ところで,デジタルA
FC回路の動作には,高精度の基準周波数が必要であり,そのために水晶
発振子が必要となる。その結果,水晶発振子を含めたFM復調回路(I
C)のコストが上昇し,さらには装置全体のコストアップが発生するとい
う問題(欠点)がある。
【発明が解決しようとする課題】上記の如く,AFC回路の性能を上げ
るべく,衛星放送受信装置のセカンドコンバータにおける,FM変調IC
として,高性能のデジタルAFC回路採用のICを使用すると,装置全体
のコストアップになるという問題があった。そこで,本発明はこのような
問題を解決するため,FM変調ICとして,高性能のデジタルAFC回路
採用のICを使用しても,衛星放送受信装置におけるセカンドコンバータ
のコストアップが発生せず,なおかつ周辺回路への混信妨害を起こすこと
の無い,優れた(ハイコストパフォーマンスな)衛星放送受信装置を提供
することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】請求項1記載の発明による衛星放送受信
装置は,・・・を特徴とする。請求項2記載の発明による衛星放送受信装
置は,・・・を特徴とする。」(段落【0007】∼段落【0012】)
(d)「尚,上記実施例では,衛星放送及び衛星通信を受信するセカンドコンバ
ータにおける複数のPLLシンセサイザ方式の回路(又はIC)での基準
水晶発振子の共用について説明したが,本発明はこれに限定されず,基準
水晶発振子を複数使用する各種装置に応用することが可能である。」(段
落【0029】)
上記(a)ないし(d)の記載によれば,これらの記載によれば,甲4に,装置
としては,衛星放送受信装置のみが開示され,実施例では,衛星放送及び衛
星通信を受信するセカンドコンバータにおける複数のPLLシンセサイザ方
式の回路(又はIC)での基準水晶発振子の共用について説明し,甲4発明
はこれに限定されず,基準水晶発振子を複数使用する各種装置に応用するこ
とが可能であることが開示されていると認められる。したがって,甲4発明
を応用することが可能な基準水晶発振子を複数使用する各種装置とは,衛星
放送受信装置のような装置を意味するものであり,PLLやマイクロコンピ
ュータのような回路(又はIC)を意味するものではないと解される。そし
て,甲4では,衛星放送受信装置において,基準水晶発振子を共用するもの
を,選局回路やデジタルAFC回路採用のFM復調回路のような,PLLシ
ンセサイザ方式の回路(又はIC)としているのであり,マイクロコンピュ
ータのクロック信号の共用については,記載されていない。甲4で基準水晶
発振子を共用するものは,複数のPLLシンセサイザ方式の回路(又はI
C)であり,マイクロコンピュータを含まない。したがって,各種装置に適
用した場合に,マイクロコンピュータのクロック信号が他のPLLシンセサ
イザ方式の回路(又はIC)に相当する回路(又はIC)と基準水晶発振子
を共用する技術思想が甲4に開示されていると認めることはできない。
c以上のとおり,本件発明2と甲4発明とが実質的に同一であるとは認めら
れない。
ウ甲5について
a甲5には,次の記載がある。
(a)「この発明は,一般には受信機用の同調(チューニング)システムに関係
し,特に,自動周波数制御特徴を有するマイクロプロセッサ制御の同調シ
ステムに関し,特に衛星信号受信機における使用に良く適用される。」
(1欄7∼11行)
(b)「受信機18の同調装置は,通常は図2の参照番号36により指示される
マイクロプロセッサ制御の位相ロックトループを含む。ボード上の位相ロ
ックトループを有する適切なマイクロプロセッサはMOTOROLAシリ
ーズ6805T2である。マイクロコンピュータはチャンネルセレクタ4
0からの入力を受けるCPU38を含む。CPU38はランダムアクセス
メモリ(RAM)42およびリードオンリーメモリ(ROM)44を使用
し,データおよび入力チャンネル選択情報を処理し且つボード上の位相ロ
ックトループを同調するために要求される命令を記憶する。位相ロックト
ループはプログラム可能分割器46,基準発振器48および位相検出器5
0を含む。プログラム可能分割器46はCPU38によって制御される。
CPU38により供給され且つ分割器46にラッチされるN分割は位相検
出器50の電圧出力を制御し,そしてVCO26の電圧入力を制御してチ
ューナにおける局部発振器周波数を変えられるようにする。基準発振器4
8は,好ましくは4MHzで動作する水晶52により制御され,CPU3
8と位相検出器50のための基準周波数として動作する安定出力周波数を
供給するために提供される。位相検出器50は基準発振器48から入力す
る信号とプログラム可能分割器46との間の位相差を検出し,そして調整
のためにアクティブフィルタ54へこの差を供給する。フィルタ54は位
相検出器50の出力を,チューナ22におけるVCO26を制御するため
に入力として与えられる安定DC電圧へ変化するアクティブロウパスフィ
ルタである。VCO26の出力はプリスケーラ56を介してプログラム可
能分割器46にフィードバックされ,選択されたチャンネルに局部発振器
周波数をロックする。プレスケーラ56は,局部発振器信号の周波数を位
相ロックトループにより容易に処理されるレートに減少する分割比Kを持
つ周波数分割器である。」(4欄63行∼5欄30行)
b上記aの記載によれば,甲5には,次の事項の開示があるものと認められ
る。
①発明が,衛星信号受信機に適用される自動周波数制御を有するマイクロ
プロセッサ制御の同調システムに関するものであること。
②位相ロックトループを有するマイクロプロセッサは,MOTOROLA
シリーズ6805T2であり,チャンネルセレクタ40からの入力を受ける
CPU38を含むこと,CPU38は,データ及び入力チャンネル選択情報
を処理し,位相ロックトループを同調するために要求される命令を記憶する
こと。
③位相ロックトループは,プログラム可能分割器46,基準発振器48及
び位相検出器50を含み,プログラム可能分割器46は,CPU38によっ
て制御されること。
④CPU38により供給され,分割器46にラッチされるN分割は,位相
検出器50の電圧出力を制御し,VCO26の電圧入力を制御してチューナ
の局部発振器周波数を変えること。
⑤基準発振器48は,4MHzで動作する水晶52により制御され,CP
U38と位相検出器50のための基準周波数として動作する安定出力周波数
を供給すること。
c甲5の基準発振器48は,水晶52により制御され,CPU38と位相検
出器50に基準周波数を供給し,また,位相ロックトループは,位相検出器
50を含むのであるから,甲5の「CPU38」,「位相ロックトループ」,
「水晶52」はそれぞれ,本件発明2の「マイクロコンピュータ」,「PL
L回路」,「同一信号源」に相当し,甲5の「基準発振器48から位相検出
器48に供給される基準周波数」は,本件発明2の「第1の基準信号」に相
当すると認められる。しかし,甲5の「基準発振器48からCPU38に供
給される基準周波数」について,具体的な記載はなく,これがクロック信号
に相当するとまではいえない。
したがって,甲5には,本件発明2の主要構成である「マイクロコンピュ
ータの基準信号となるクロック信号と第1の基準信号とを,同一信号源から
得ること」は記載されておらず,本件発明2は甲5発明と同一であるという
ことはできない。
(2)本件発明2の進歩性
ア前記(1)ウの検討結果に基づき,更に検討すると,甲5のCPU38は,
チャンネルセレクタ40からの入力を受け,データ及び入力チャンネル選択
情報を処理し,位相ロックトループを同調するために要求される命令を記憶
し,プログラム可能分割器46を制御することや,分割器46にラッチされ
るN分割を供給して,位相検出器50の電圧出力を制御し,VCO26の電
圧入力を制御してチューナの局部発振器周波数を変えることを行うのであり,
CPU38が,特別な処理を行うために,基準発振器48から供給された基
準周波数を利用することが甲5に記載されているわけではない。一般に,C
PUに供給され,特別な処理と関連しない基準周波数は,CPUの基準信号
となるクロック信号として供給されることが常套手段であるから,甲5の
「基準発振器48からCPU38に供給される基準周波数」を,本件発明2
の「マイクロコンピュータの基準信号となるクロック信号」とすることに困
難はなく,また,このように解したからといって,甲5の記載と何ら矛盾や
格別の問題が生じるものでもない。したがって,甲5には,「マイクロコン
ピュータの基準信号となるクロック信号と第1の基準信号とを,同一信号源
から得ること」が,少なくとも示唆されているということはできる。
また,甲19には,次の記載があり,PLLの基準周波数信号源である基
準水晶発振器30が,クロック信号を中央処理装置74に与えることが記載
されているから,上記の解釈と符合する。
a「PLLは可変プログラム可能分割器36を含み,可変プログラム可能分割
器36にプリスケーラ26の出力がチューナー/局部発振器の出力を選択的
に分周するために与えられ,この分周信号は位相比較器34のひとつの入力
に与えられる。PLLはまた基準水晶発振器30の形態で基準周波数信号源
を含み,この出力は,基準分割器32により分周された後に位相比較器34
の他の入力に与えられる。位相比較器34に対する可変分割器36と基準分
割器32の出力信号の周波数が確実に等しいとき,比較器出力は0である。
2つの周波数に何らかの差がある時に,位相比較器34は出力を生成し,P
LLフィルタ38を通過して補正電圧をリード12を経て局部発振器12へ
与え,2つの信号が確実に同じ周波数をもつまで局部発振器周波数を変化す
る。チューナー局部発振器12はそのとき基準水晶発振器30の安定性を仮
定している。この周波数と位相補償はチューナー発振器ドリフトを補償する
ために継続して実行される。」(3欄46∼68行)
b「マイクロコンピュータのチューニングは,高動作周波数,即ち7.16M
Hzのために,マイクロコンピュータ46にその両側が接続されている直列
共振素子の形態である発振器72により供給される。これは,マイクロコン
ピュータ46内に含まれている大部分のマスタクロッキング回路を可能にす
る。直列共振素子72のひとつの出力はクロック発生器88の入力に結合さ
れ,直列共振素子の他の出力はクロック発生器88の出力に結合されている。
処理動作の後,クロック信号は,キーボード40からの制御信号の入力パル
スをカウントするためにROM84に記憶された命令の制御により,中央処
理装置74とRAM86のカウンタに与えられる。直列共振素子72とクロ
ック発生器88の組み合わせは本発明において使用された位相ロックループ
の基準水晶発振器30を構成する。本発明の好適な実施形態では,クロック
発生器88,基準およびプログラム可能分割器32,36および位相比較器
34はマイクロコンピュータ集積回路に含まれる。このため,位相ロックル
ープの構成要素はマイクロコンピュータを示すブロック46に含まれる。」
(11欄65行∼12欄19行)
イ甲5に,基準発振器48が,水晶52により制御され,CPU38と位相
検出器50のための基準周波数として動作する安定出力周波数を供給するこ
とが,開示されていることは前記(1)ウb⑤のとおりであるから,甲5発明
が「所定精度の1つの発振素子を使用するのみで,マイクロコンピュータと
PLL回路との双方に,精度に対する要求を満たす信号が与えられることに
なる」及び「PLL回路を使用した場合にも,高い周波数精度および高い温
度安定度を備えた発振素子の使用個数の増加を防止することが可能となって
いる」という本件発明2の効果を奏することは明らかである。
ウ「装置本体の動作を制御するマイクロコンピュータ」について
甲5の「基準発振器48からCPU38に供給される基準周波数」を,本
件発明2の「マイクロコンピュータの基準信号となるクロック信号」とする
ことが困難でないことは,前記アのとおりである。また,本件明細書には,
マイクロコンピュータが,装置本体の動作を制御するために必要な機能や特
性としては,12MHz等の高い周波数のクロック信号のみが記載されてい
るにすぎず,他に具体的に必要な機能や特性については,記載されていない。
そして,制御する対象に必要な性能を有するCPUを選定することは,有効
なCPUを使用するために当然に行われることであり,また,そのCPUを
十分に機能させるために不可欠な周波数のクロック信号を採用することも,
当然に行われることである。そうすると,甲5において,専らプログラム可
能分割器46の制御を行っているCPU38を,装置本体の動作を制御する
ものとすることは,当業者が容易に想到し得るものである。
エ別の発振器からのクロック信号について
a被告は,「審決の判断は,「装置本体の動作を制御するマイクロコンピュ
ータ」ではないCPU38を,装置本体の動作を制御するものと仮定した場
合の説明である。元来12MHz等のクロック信号を必要としていなかった
CPU38が,上記仮定により,12MHz等のクロック信号を必要とする
ようになるため,本来の構成では存在しない12MHz等のクロック信号を,
別の発振器から受け取る必要があることは,当然のことである。」と主張す
る。
しかし,甲5の水晶52が接続されるマイクロプロセッサ36は,例えば,
MOTOROLAシリーズ6805T2という一つのチップである。そして,
一つのマイクロプロセッサに外部から供給される動作タイミングの信号源は,
通常一つであり,内部で必要な他の周波数の基準信号については,この外部
から供給される信号源を,逓倍処理又は分周処理して得るというのが最も一
般的なチップ構成である。そうすると,甲5のマイクロプロセッサ36に,
水晶52以外の別の発振器からクロック信号を与えることは,必ずしも要求
されないことになるから,この審決の判断は誤りであり,また,被告の主張
も採用することはできない。
b被告は,甲5では,審決が認定しているとおり,基準発振器48の周波数
が,水晶52の周波数と異なるとする格別の記載はないため,基準発振器4
8の周波数は,水晶52の周波数と同一である。これに対して,請求項2の
実施例では,4MHzの水晶発振子12を用いており,一方,マイクロコン
ピュータ11aは,12MHz等の周波数のクロック信号に基づき,高速に
て所定動作を実行すると主張する。
しかし,一般に,複数の周波数の基準信号を一つの信号源から得るために,
逓倍処理や分周処理を行うことは,当業者が必要により適宜行えばよい技術
事項であり,制御する対象に必要な性能を有するCPUを選定することは,
有効なCPUを使用するために当然に行われることであり,また,そのCP
Uを十分に機能させるために不可欠な周波数のクロック信号を採用すること
も,当然に行われることであることは,前記aのとおりである。甲5には,
基準発振器48が,4MHzで動作する水晶52により制御され,CPU3
8と位相検出器50のための基準周波数として動作する安定出力周波数を供
給することが開示されていることも,前記(1)ウb⑤のとおりであるから,
甲5の基準発振器48において,位相検出器50のための基準周波数と異な
る周波数の基準周波数を,CPU38に提供するために,逓倍処理や分周処
理を行うようにすることに,格別の困難性があるとは認めることはできない。
現に,被告は,本件明細書にマイクロコンピュータ11aの内部で3逓倍の
処理を行うことが明記されていないにもかかわらず,被告が同処理を当然の
こととして主張しているし,甲19には,中央処理装置74に与えられるク
ロック信号を,基準分割器32で分周することが記載されている。
オ「マイクロコンピュータの基準信号となるクロック信号」について
referencea審決は,甲5の次の記載について,これらにおける「
」はいずれも比較器()へ入力するものであり,(voltage,frequency)comparator
「」の記載だけを「マイクロコンピュactsasareferencefrequencyforCPU38
ータの基準信号となるクロック信号」の意味に解するに足る根拠が見出せな
いと判断している。
Thisvoltageiscomparedtoapredeterminedthresholdorreferencevoltage(a)「
」(1欄59行∼61行)whichisprovidedatasecondcomparatorinput.
(b)「」(2欄19行∼ifthereferencevoltageinthedetectorsubsequentlydrifts,
20行)
(c)「」(5欄16actsasareferencefrequencyforCPU38andphasedetector50.
行∼17行)
(d)「,」(claim17)asecondinputcoupledtoareferencefrequencysource
(e)「」(claprogrammablefrequencydivderforprovidingthereferencefrequency
aim17)
しかし,比較器へ入力される「」はすべて「位reference(voltage,frequency)
相検出器48に供給される基準周波数」に関するものであり,「基準発振器
48からCPU38に供給される基準周波数」に関するものではないから,
「基準発振器48からCPU38に供給される基準周波数」を,本件発明2
の「マイクロコンピュータの基準信号となるクロック信号」と解せない根拠
とはならないものである。
b被告は,甲5では,基準発振器48からCPU38に送られる信号がクロ
ック信号である,あるいはクロック信号の基になる信号であるとの記載や示
唆が全くないと主張する。
しかし,CPUに供給され,特別な処理と関連しない基準周波数は,通常,
CPUの基準信号となるクロック信号を意味するというのが,一般的な考え
方であるから,甲5の「基準発振器48からCPU38に供給される基準周
波数」を,本件発明2の「マイクロコンピュータの基準信号となるクロック
信号」と解するのが相当であり,また,このように解したからといって,甲
5の記載と何ら矛盾や格別の問題が生じるものでもないことは,前記アのと
おりであるから,被告の上記主張も採用することができない。
c被告は,原告の主張では,CPU38が,4MHzの信号を内部で3逓倍
して,「マイクロコンピュータの基準信号となるクロック信号」として利用
することになるが,このような構成は,本件発明2を参考しているからこそ
想到できるものであり,本件発明2を参考しなければ,当然12MHzのク
ロックを供給するための発振器を,別途設けることになると主張する。
しかし,甲5の基準発振器48において,位相検出器50のための基準周
波数と異なる周波数の基準周波数を,CPU38に提供するために,逓倍処
理や分周処理を行うようにすることに格別の困難性があるとは認めることは
できないことは,前記エaのとおりであり,また,甲5の水晶52が接続さ
れるマイクロプロセッサ36は,例えば,MOTOROLAシリーズ680
5T2という一つのチップであり,一つのマイクロプロセッサに外部から供
給される動作タイミングの信号源は,通常一つであり,内部で必要な他の周
波数の基準信号については,この外部から供給される信号源を,逓倍処理又
は分周処理して得るというのが最も一般的なチップ構成であるから,甲5の
マイクロプロセッサ36にクロック信号を与えるのが水晶52以外の別の発
振器である必要はないことも,前記エaのとおりである。したがって,被告
の上記主張も採用することができない。
カ以上のとおり,本件発明2は,甲5ないし甲9に記載された発明に基づい
て当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3)以上のとおり,本件発明2が甲4又は甲5発明と同一であるとはいえない
が,本件発明2は,甲5ないし甲9に記載された発明に基づいて当業者が容
易に発明をすることができたものであるから,取消事由3は,進歩性の誤り
をいう点において理由がある。
4結論
以上に検討したところによれば,原告の主張する取消事由2及び3のうち,
本件発明1及び2の進歩性判断の誤りをいう点には理由がある。
よって,原告の請求は理由があるから,認容することとし,主文のとおり判
決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
塚原朋一
裁判官
古閑裕二
裁判官
浅井憲

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