弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を広島高等裁判所に差戻す。
         理    由
 弁護人古川源太郎、阿桑原五郎、同弘中武一および同吉田正之の各上告趣意は、
末尾に添えた書面記載のとおりである。
 弁護人古川源太郎、同桑原五郎および同吉田正之の各上告趣意第一点について。
 原審が被告人の本件詐欺事実を、所論のように、被告人の原審公判廷の供述、原
審第二回公判調書中証人Aの供述記載、B、C、DおよびEに対する昭和二三年九
月二日附検事の各聴取書中の同人等の供述記載を綜合して認定していることは、原
判決証拠理由の説示に照らして明らかである。ところで、原判決は、本件詐欺罪に
あたる事実として、被告人は、Aから同人が統制価格を超過して小麦粉を販売した
件につき小郡警察署の取調を受けるに至つたので関係警察官に対し寛大有利な取り
計い方の運動を依頼され、「右A等のために運動費を費消する意思もないのにある
ように装うて金員を騙取しょうと企て」、右Aに対し、第一事実としては、運動費
が要るから二万円持参せられたいと申欺き同人をしてその旨誤信させて金二万円を
騙取し、第二乃至第四事実としては、真実運動費を立替えて支払つた事実のないの
に拘らず運動費の立替金があるから支払われたいと申向け、同人をして真実被告人
が運動費を立替えたものと誤信させて、運動費立替金名下に三回に亘り合計金五万
円を騙取したことを認定している。されば、右の認定事実によれば、第一事実にお
いては被告人に運動費を費消する意思のなかつたこと、第二乃至第四事実において
は、被告人が真実運動費を立替えて支払つた事実のなかつたことが詐欺罪に必要な
欺罔の事実の一要件となつているのであるから、原判決は、かかる事実を認め得る
証拠を挙示しなければならないのである。
 よつて原判決挙示の各証拠を調べてみると、被告人が原判示各日時頃被告人肩書
地または原判示A方において四回に亘り、同人に対し原判示のように申向け、因て
同人から同日時頃同所においてその都度、原判示各金銭を受領した旨の供述記載は
あるのであるが第一事実において被告人が本件詐欺を犯すについて原判示のような
欺罔の意思を有していたとの事実に符合する供述記載、その他右犯意を推断せしめ
るに足る供述記載は存しないし、また第二乃至第四事実において被告人が真実運動
費を立替えて支払つた事実のなかつたことを推認し得る証拠も存しないのである。
されば、原審は証拠によらないで前記事実を認定した違法があり右の違法は原判決
に影響を及ぼすことは明らかであるから、論旨は理由があり、原判決は全部破棄を
免れない。
 よつて弁護人古川源太郎、同桑原五郎および同吉田正之のその余の各主張、なら
びに弁護人弘中武一の上告趣意に対する判断を省略し、旧刑訴四四七条、四四八条
の二に従い主文のとおり判決する。
 以上は、当小法廷裁判官全員の一致した意見である。
 検察官 渡部善信関与
  昭和二六年三月六日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介

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