弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

       主   文
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人の請求を棄却する。
三 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
       事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人
主文同旨
二 被控訴人
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
第二 事案の概要
 本件は、被控訴人が控訴人に対し、被控訴人の亡夫aの死亡につき、じん肺に起
因する業務上の事由によるものであるとして、労働者災害補償保険法に基づき遺族
補償給付及び葬祭料を請求したのに対し、控訴人から不支給処分を受けたため、右
処分の取消しを求めたところ、原審が右請求を認容したので、控訴人が控訴した事
案である。その余は、当審における主張を次のとおり付加するほか、原判決の「事
実及び理由」第二の二ないし四に記載のとおりであるから、これを引用する(ただ
し、原判決七頁七行目の「(以下「別表」という。)」を削る。)。
一 控訴人
1 国際がん研究機関(以下「IARC」という。)の報告(じん肺と肺がんとの
因果関係)について
(一) IARCは、平成九年に発表した「ヒトに対するがん原性リスクの評価に
関するモノグラフィ」(以下「IARC報告」という。)において、従前、結晶性
シリカ(遊離けい酸)の発がん性について、ヒトに対しては限定された証拠がある
としてグループ2A(ヒトに対しておそらく発がん性がある物質)に分類していた
のを、結晶性シリカの職業性曝露は「ヒトに対して発がん性がある。」として、グ
ループ1に分類を変更した。
 しかし、結晶性シリカをグループ1と評価したことについては、その基礎となっ
た疫学調査、動物実験結果のヒトヘの適用などに多くの問題を残しており、国際的
な合意を得た最終結論ではないこと、IARC報告の総合評価は、あくまでも予防
的観点から行われているものであって、個々の症例について、補償の対象とするか
否かの因果関係を明確にするという観点からされているものではないのみならず、
各国の労災補償制度を見ても、炭鉱労働者でじん肺症に罹患した患者に発生した肺
がんについて、労災補償の対象としている国はなく、唯一我が国のみが特例的に補
償しているにすぎないこと、以上からすれば、本件のように個別の事案において補
償を要求する場合には、その因果関係の立証のためIARC報告をそのまま用いる
ことはできない。
(二)(1) aが粉じん作業に従事したのは、炭肺(炭粉の吸収により発症する
もので、一ないし五ミリメートルの結節が肺野に多発し、結節周辺に局所肺気腫を
伴っている。)の好発職場である炭鉱であった。したがってaが曝露を受けた粉じ
んは、遊離けい酸の含有量が少なく、けい酸塩を主体とし、炭粉、金属を含む物質
で構成される粉じんであったから、aのじん肺は、けい肺(遊離けい酸を含有する
粉じんの吸入により発生するもので、塊状巣が見られることが多い。好発職場とし
ては、金山、銅山、その他の鉱山、石切、陶磁器製造業、鋳物業が挙げられる。)
ではなく、混合粉じんじん肺(MDP)と称されるじん肺であった。
(2) 被控訴人は、aの職種・作業内容、作業現場における遊離けい酸の含有率
などから、aが遊離けい酸の含有率が極めて高い粉じんを吸入した旨主張するが、
aが従事していた北海道炭砿汽船株式会社空知鉱業所(以下「北炭空知鉱」とい
う。)における掘進作業が被控訴人の主張するようなけい肺好発職場である旨の報
告はない。したがって、aの従事していた掘進作業が炭肺好発職場である炭鉱にお
ける業務であることに変わりはなく、けい肺の好発職場である「金山、銅山、その
他の鉱山、石切、陶磁器製造業、鋳物業」における業務とはいえない。また、aの
従事していた北炭空知鉱の岩盤中の遊離けい酸含有率は三〇パーセント前後であっ
て、地球上のシリカ含有率(約二八・一パーセントと推定。乙五九)よりも若干高
いとはいえ、含有率が極めて高かったと評価することはできない。
 なお、IARC報告では、炭鉱で曝露する炭粉を「ヒトに対して発がん性を有す
るグループに分類することはできない。」としてグループ3に分類しているから、
aの肺がんの原因を検討するについてIARC報告を前提として考えるとしても、
結晶性シリカではなく、グループ3に分類された炭粉を前提とすべきである。
2 aのじん肺による医療実践上の不利益について
(一) 平成元年五月一五日当時におけるaの肺がん鑑別診断の可能性
(1) 平成元年五月一五日撮影の胸部エックス線写真(乙二一)には、aの左肺
の下半分にびまん性の陰影が出現しており、肺感染症が存在していることを示唆し
ており、また、淡い陰影の上部(左肺中肺野で、エックス線写真上は第七肋骨と第
八肋骨との間)には、やや濃度の高い境界が不鮮明な陰影が認められ、陰影が不均
等に出現していることから、肺感染症以外の何らかの病巣が存在する可能性を示唆
していた。
(2) また、同日撮影の通常断層写真(乙四六)には、第七肋骨に重なって、境
界が不鮮明な、三センチメートル×二センチメートル程度の大きさの、濃度のやや
高い陰影が認められ、腫瘍性の病巣が存在することを示唆していた。なお、じん肺
の大陰影は肺の上部に出現するのが大部分であるから、右のような濃度のやや高い
陰影については、じん肺の大陰影よりも腫瘍性の病巣の存在を疑うのが通常であ
る。
(3) 右のとおり、通常断層写真(乙四六)では、三センチメートル×二センチ
メートル程度の大きさの陰影が認められたのであるから、直径一・五ないし二ミリ
メートル程度の大きさのじん肺の粒状影が存在したからといって、右陰影自体を見
落とすということはあり得ないのであって、じん肺性の粒状影が存在したために腫
瘤陰影を判別することが非常に困難であり、そのため肺がんの発見が遅れたという
ような状況にはなかった。
 そして、右陰影の濃度がやや高く、じん肺の大陰影が出現する部位とも異なって
いることなどからすれば、右陰影については腫瘍性の病巣の存在を疑うのが通常で
あって、この時点で肺がんの存在を念頭に置いて精密検査を実施することが可能で
あった。
(二) 平成元年五月一五日当時におけるaの外科療法の適応及び延命の可能性
 aの肺がんは、悪性度の最も高い低分化腺がんであったから、平成元年五月一五
日当時、がんがリンパ節に転移していた可能性は否定できないほか、aには、心不
全という基礎疾患が存在していたことからすれば、仮に、右時点で肺がんが発見さ
れたとしても、手術等の外科療法の適応はなく、他のいかなる治療手段をとったと
しても、有意な延命効果を期待できなかった。
二 被控訴人
1 控訴人の右一1、2の主張はいずれも争う。
2 IARC報告について
(一) 平成九年に発表されたIARC報告の発がん性評価において、結晶性シリ
カ(遊離けい酸)をグループ1に分類したところ、次の(二)の事情などを考慮す
れば、aのじん肺と肺がんとの因果関係は肯定される。
(二) aが曝露を受けた粉じんは、遊離けい酸粉じんのみではなく、混合粉じん
であったが、混合粉じんといっても、そこに含まれる遊離けい酸分は一律ではな
く、労働者が従事する炭鉱内における職種・作業内容、作業現場、掘進する岩盤の
性質などにより区々である。
 aが昭和二三年二月から昭和三八年六月までの間、北炭空知鉱で稼働していたう
ち、昭和二四年一一月から退職する昭和三八年六月までの間は掘進夫として過ごし
てきた。掘進作業は、採炭現場に至る坑道を掘削し延長するという石を扱う作業で
あって、まさにけい肺の好発職場であった。また、昭和三六年四月末当時における
北炭空知鉱の各坑口における岩盤に含まれる遊離けい酸含有率はいずれも三〇パー
セント前後の数値を表しており、これと石炭鉱山保安規則に基づく通産大臣の「け
い酸質区域指定」の懈怠と相まって、aは、遊離けい酸の含有率の極めて高い粉じ
んを吸入した。
第三 当裁判所の判断
一 事実関係
 前記争いのない事実、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認めら
れる。
1 aのじん肺の罹患及び症状の推移等
(一) a(大正一〇年八月二五日生)は、昭和二三年二月九日から昭和三八年六
月一一日まで北炭空知鉱の坑内夫として粉じん業務に従事し、じん肺に罹患した。
なお、a自らが記載して岩見沢労災病院に提出した昭和五三年九月二〇日付けの問
診票(甲三の2)には、一六歳より喫煙を始め、一日一五本喫煙している旨の記載
がある。
(二) 北海道労働基準局長は、昭和五六年一一月三〇日付けで、aのじん肺をじ
ん肺管理区分「管理三イ」、療養「否」と決定した。
 aは、健康管理手帳の交付を受け、以後ほぼ年二回定期的に岩見沢労災病院にお
いて健康診断を受け、その際、診察、胸部エックス線写真撮影等の検査を受けた
が、この間、臨床症状に目立った変化はないとされ、じん肺管理区分も、平成元年
一一月一五日まで管理三イ相当で推移した。
(乙一〇、一一)
(三) 岩見沢労災病院のb医師は、平成元年五月一五日、aの健康診断の際、胸
部エックス線写真(乙二一)の左中肺野に陰影を認めたが、肺機能障害の程度は
「Fマイナス」(じん肺による肺機能障害がない状態)であり、じん肺の程度も管
理三イ相当と判断した。
 b医師は、同年一一月一五日、aの健康診断の際、同日撮影の胸部エックス線写
真(乙二二)において同年五月一五日撮影の際に認められた左中肺野の陰影が増強
していることに気づいたので、カルテ(甲五三)に要注意と記載したが、じん肺管
理区分については、肺機能障害の程度に顕著な変化がなかったため、従前と同様、
管理三イ相当と判断した。
(甲五二、六一、乙一一、一四)
2 aの肺がんの発見及び死亡に至った経緯
(一) aは、昭和六一年六月ころから、全身倦怠、動悸、息切れ、喀痰、咳嗽等
の症状を訴え、北見市内のc医師(以下「c医師」という。)の診察を受け、けい
肺(第三症度)、慢性心不全、動脈硬化性高血圧症と診断され、平成元年四月以降
は数日おきにc医師の診察を受けていたところ、同年一一月二四日に至り、全身倦
怠、動悸、息切れ、喀痰、咳嗽等の症状が急激に増悪した。なお、この間の同年五
月一五日、b医師がaの健康診断の際、aの左中肺野に陰影を認めていたことは前
記のとおりである。
 c医師は、同年一一月二四日に撮影したaの胸部エックス線写真(甲九八の6な
いし8)上に、左下肺野にけい肺とは異なる雲状の陰影を認めたので、同日以降各
種の検査を実施したが、確定診断をするまでには至らなかった。
(甲六二、七〇の1ないし10、七一の1ないし28、乙一二の2、証人c)
(二) aは、平成元年一二月二〇日、c医師の勧めにより岩見沢労災病院で受診
し直ちに入院したが、入院当初から、咳・痰が多く、全身倦怠感・食欲不振等の自
覚症状を訴えていた。
 右入院後、岩見沢労災病院では、aの胸部エックス線写真(甲九八の12、1
8)の所見で、左中下肺野に広範囲な陰影、右中肺野外側に淡い陰影、左胸水貯留
を、動脈血検査により低酸素血症をそれぞれ認めたことや、喀痰細胞診の検査結果
などを踏まえて、同月二五日に未分化腺がんと確定診断し、この間、酸素療法、抗
生剤投与、補液等の治療を行った。
 しかし、aの前記症状は改善されず、かえって胸水の増加傾向を示し、同日夕方
以降、胸部レントゲン所見上両肺に肺うっ血をうかがわせるすりガラス様の陰影が
出現し、乏尿、呼吸困難、低酸素血症が増強した。そのうち、aは、呼吸停止・心
停止状態に陥り、心蘇生術に一度反応したが、再度心停止をきたし、翌二六日午前
四時四〇分急性呼吸不全により死亡した。
(甲五八、乙一一、一三、一四、証人d)
(三) aは、肺の末梢に発生した未分化腺がんが胸膜に湿潤し、がん性胸膜炎と
なり、大量の胸水貯留などにより呼吸困難に陥って死亡したものであり、肺がんに
起因する急性呼吸不全が直接の死因であった。
(乙一三、証人d)
(四) なお、岩見沢労災病院では、aがじん肺により健康診断を受け始めた以
降、平成元年一二月にaが入院するまで、肺がんなどを疑った検査は実施されなか
った。
(証人d)
3 aの胸部エックス線写真及び通常断層写真の所見の経過
(一) 昭和五六年九月一〇日撮影の胸部エックス線写真(乙二三)には、左右の
肺に左右均等に直径約一・五ミリメートルないし三ミリメートルのいわゆる粒状影
及び不整形陰影が見られ、その後も昭和六三年五月ころまで、ほぼ同様の状態で推
移しており、この間、じん肺以外の異常陰影は見られなかった。
 右の間のじん肺エックス線像は、第二型(両肺野にじん肺による粒状影又は不整
形陰影が多数あり、かつ、じん肺による大陰影《一つの陰影の長径が一センチメー
トルを超えるもの》がないと認められるもの)q(直径一・五ミリメートルを超え
て三ミリメ「トルまでのもの)に分類されるものであった。
(乙一六、一八、一九、証人d)
(二) 昭和六三年一一月一七日撮影の胸部エックス線写真(乙二〇)には、従前
と同様、じん肺による粒状影及び不整形陰影以外の異常陰影は見られなかったが、
同日撮影の通常断層写真(乙四五)には、左第七肋骨部分にやや淡い異常陰影が見
られた(ただし、肋骨に重なっていたため、病的な異常陰影か否かの判定は困難で
あった。)。
(乙四四、証人d、同e)
(三) 平成元年五月一五日撮影の胸部エックス線写真(乙二一)には、全肺野に
分布したじん肺による粒状影及び不整形陰影の分布密度は従前とほぼ同様であり、
じん肺による大陰影及び結核性湿潤陰影は見られなかったが、左肺下半分を占める
びまん性の異常陰影が出現し、右陰影の上部(左肺中肺野で、エックス線写真上は
第七肋骨と第八肋骨との間)には、やや濃度の高い境界が不鮮明な異常陰影が見ら
れた。
 また、同日撮影の通常断層写真(乙四六)には、第七肋骨に重なって境界が不鮮
明な約三センチメートル×二センチメートルの濃度のやや高い異常陰影が見られ
た。
(甲五二、乙四四、証人d、同e)
(四) 平成元年一一月一五日撮影の胸部エックス線写真(乙二二)には、同年五
月一五日撮影の胸部エックス線写真に見られた左下肺野の淡いびまん性の異常陰影
はほぼ吸収されて消褪し、直径約三・五センチメートルの境界が不鮮明なやや濃度
の高い異常陰影が見られた。右陰影は、筋状の細かい血管を含んでおり、鳥の巣状
をしていた。
 また、同日撮影の通常断層写真(乙四七の1、2)には、左中肺野後部に境界が
不鮮明な四・五センチメートル×三・五センチメートルの周囲よりも濃度が高く、
内部がほぼ均等な異常陰影が見られた。
(甲五三、乙四四、証人d、同e)
二 以下、右一の事実を前提として、各争点について判断する。
1 争点1について
 被控訴人は、本件死亡の原因がじん肺の急性悪化による呼吸不全を原因とする死
亡であるから、業務上の事由によるものである旨主張するが、本件死亡の原因が肺
がんに起因する急性呼吸不全であることは前記のとおりであるから、被控訴人の争
点1に関する主張は、その余の点を判断するまでもなく理由がない。
2 争点2について
(一)(1) じん肺に関し、適正な予防及び健康管理その他必要な措置を講ずる
ことにより、労働者の健康の保持その他福祉の増進に寄与することを目的として、
じん肺法が制定されている(同法一条)。同法において、じん肺とは粉じんを吸入
することによって肺に生じた線維増殖性変化を主体とする疾病をいうものと定義さ
れている(同法二条一項一号)。
 粉じん作業に従事する労働者及び粉じん作業に従事する労働者であった者は、じ
ん肺法所定のじん肺健康診断の結果に基づき、じん肺管理区分管理一ないし管理四
のいずれかに区分して、健康管理を行うものとされている(同法四条二項)。
 じん肺管理区分が管理四と決定された者及び合併症にかかっていると認められる
者は、療養を要するものとされている(同法二三条)。合併症とは、じん肺と合併
した肺結核その他のじん肺の進展経過に応じてじん肺と密接な関係があると認めら
れる疾病をいう(同法二条一項二号)。合併症の範囲については労働省令で定める
ものとされ(同条二項)、具体的には、じん肺管理区分が管理二又は管理三と決定
された者に係るじん肺と合併した肺結核、結核性胸膜炎、続発性気管支炎、続発性
気管支拡張症及び続発性気胸が合併症とされている(同法施行規則一条)。
(2) 遺族補償給付及び葬祭料の支給は、労働者が業務上死亡した場合に遺族又
は葬祭を行う者の請求に基づいて行うこととされている(労働者災害補償保険法
《以下「労災保険法」という。》一二条の八第一項、二項及び労働基準法《以下
「労基法」という。》七九条、八○条)ところ、労働者が業務上の疾病に起因して
死亡したときは、右にいう「労働者が業務上死亡した場合」に該当するものと解さ
れている。
 そして、業務上の疾病の範囲は、命令で定めるものとされ(労災保険法一二条の
八第一項、二項及び労基法七五条)、これを受けた労働基準法施行規則(以下「施
行規則」という。)三五条、別表第一の二において具体的に定められている。これ
によれば、療養を要するじん肺及び前記(1)の合併症は業務上の疾病であるとさ
れている(同表五号)が、じん肺に合併した肺がんは、少なくとも明示的には業務
上の疾病であるとはされていない。
 もっとも、労働省労働基準局長が各都道府県労働基準局長に対して発した「じん
肺症患者に発生した肺がんの補償上の取扱いについて」と題する昭和五三年一一月
二日付けの通達(六〇八号通達)によれば、じん肺法によるじん肺管理区分が管理
四と決定された者であって、現に療養中の者に発生した原発性の肺がんについて
は、施行規則別表第一の二第九号の「その他業務に起因することの明らかな疾病」
として取り扱うこととされている。また、六〇八号通達によれば、現に決定を受け
ているじん肺管理区分が管理四でない場合又はじん肺管理区分の決定が行われてい
ない場合において、当該労働者が死亡し、又は重篤な疾病にかかっている等のため
じん肺法一五条一項の規定に基づく随時申請を行うことが不可能又は困難であると
認められるときは、地方じん肺診査医に対しじん肺の進展度及び病態に関する総合
的な判断を求め、その結果に基づきじん肺管理区分が管理四相当と認められる者に
ついても、これに合併した原発性の肺がんを右と同様に取り扱うものとされてい
る。
(二) 被控訴人は、本件死亡当時のaのじん肺の程度が管理四相当であり、六〇
八号通達により施行規則別表第一の二第九号所定の「その他業務に起因することの
明らかな疾病」に該当するから、本件死亡は業務上の事由によるものと取り扱われ
るべきである旨主張し、証拠(被控訴人本人)には、d医師が平成元年一二月二五
日に被控訴人らに対し、正月過ぎにaについて管理四に認定申請する旨を告げたと
いう部分がある。
 しかしながら、証拠(証人d)には、dが被控訴人らに対し、右告知した事実を
否定する部分が存することに照らすと、被控訴人の右主張に沿う証拠は直ちに信用
することができないのみならず、aは、昭和五六年一一月三〇日付けでじん肺管理
区分「管理三イ」、療養「否」と決定された以降、岩見沢労災病院において定期的
にじん肺健康診断を受けたが、じん肺の胸部エックス線写真上の所見及びじん肺に
よる肺機能障害の具体的症状はさほど変化がなく推移しており、平成元年一一月一
五日のb医師の診断においても管理三イに該当すると判断されていたことに照らす
と、本件死亡当時のaのじん肺の程度が管理四相当であったと認めることはできな
い。
(三) したがって、被控訴人の争点2に関する主張は理由がない。
3 争点3について
(一) 被控訴人は、本件死亡が肺がんによるものであるとしても、現在の医学上
確立した知見によれば、じん肺と肺がんとの間には因果関係が認められており、a
の肺がんがじん肺に起因して発生したといえるから、本件死亡は業務上の事由によ
るものである旨主張する。
(二) 後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(1) 我が国では、戦後、じん肺に原発性肺がんを合併する症例が報告されるよ
うになり、これに伴い、じん肺とこれに合併した肺がんとの間に因果関係が存在す
るか否かが議論されてきた。
(甲七七)
(2) 労働省労働基準局長は「昭和五一年九月、珪肺労災病院のfを座長とし、
ほか七名の専門家によって構成されたじん肺と肺がんとの関連に関する専門家会議
に対して、じん肺による健康障害について検討するように委嘱し、これを受けた専
門家会議は、昭和五三年一〇月一八日、同局長に対して検討結果を報告(以下「専
門家会議報告」という。乙五)したが、その概要は、次のとおりである。
ア 粉じんの発がん性について
 じん肺の主要な起因物質であるけい酸又はけい酸塩粉じんの発がん性について
は、現時点においてこれを積極的に肯定するような見解は得られなかった。
イ 実験病理学的成果について
 じん肺とこれに合併した肺がんとの病因論的関連性については、未だ不明の点が
多く、これを解明しうる実験モデルの作成は困難である。
 したがって、これまでの実験成果から得られる情報は乏しく、かつ限られた範囲
のものでしかない。
ウ 病理学的検討について
 がんの組織型や原発部位のみから直ちに職業性のがんであるか否かを判定するこ
とは困難である。
 粉じんの吸入量と肺がんの合併頻度との間に量反応関係が欠けているようにみえ
る報告もあるが、じん肺における病変の多彩さなどを考えると、直ちに両者の量反
応関係を否定し去ることはできない。
 現状では、病理形態学的立場からじん肺性変化が肺がんの発生母地になり得ると
断定するには証拠が乏しい。今後じん肺における上皮内がん症例の蓄積がされ、そ
れらとじん肺病変との病理組織学的連続性が証明されて初めてじん肺と肺がんの因
果関係の存在が結論されると考えられる。
エ じん肺と肺がんの合併頻度について
 じん肺剖検例の検討では、けい肺を主体とするじん肺患者に高頻度に肺がんが合
併している現象は、全国的な拡がりにおいてみられる可能性のあることが示唆され
る。
 一般病院施設における外来・入院患者の調査結果では、全体として肺がんの合併
頻度は高い傾向にあった。
オ 疫学的情報について
 我が国においても諸外国においても、現在得られている疫学的情報は極めて限ら
れたものでしかない。また、これらの報告は、調査方法が種々異なっており、母集
団が明確でないものが多い。今後、肺がん合併の頻度分布に関する正確な資料を収
集するとともに、けい酸又はけい酸塩粉じんのもつがん原性についての検討やけい
肺自体が示す前がん病変に関する医学的な意義の解明が重要と思われる。
カ じん肺合併肺がんに対する行政的保護措置の必要性について
 じん肺と合併肺がんの因果性の立証については、なおかつ病因論的には今後解明
を待たなければならない多くの医学的課題が残されている。
 しかし一方、我が国のじん肺と肺がんの合併の実態は、じん肺剖検例及び療養者
において高頻度であることが明らかである。しかも、じん肺合併肺がん患者を取り
扱った一般医療機関の臨床医師により、① 肺がんの早期診断がしばしば困難とな
る、② 肺がんの内科的・外科的適応が狭められる、③ じん肺と肺がんの両者の
存在のもとでは一層予後を悪くするなど、種々の医療実践上の不利益が指摘されて
いることなどからすれば、じん肺に合併した肺がん症例の業務上外の認定に当たっ
ては、これらのじん肺罹患者の病態と予後にかかわる実態が十分に考慮され、補償
行政上すみやかに何らかの実効ある保護施策がとられることが望ましい。
(3) 専門家会議報告以降に発表された、① fほか一二名「じん肺と肺がんの
関連に関する研究ー労災病院プロジェクト研究結果報告1」(昭和六二年。甲一〇
二)、② g「粉じん作業者の肺がんⅧじん肺罹患者の肺癌」(平成元年。甲八
一)、③ hほか七名「じん肺症の病理学的検討ーじん肺結核の肺癌合併例を中心
に-」(平成元年。甲八二)、④ iほか五名「珪肺と肺癌:大阪における珪肺認
定患者のコホート研究」(平成三年。甲七八)、⑤ fほか一名「じん肺症におけ
る肺がんのリスクについてー量・反応関係に関する一考察ー」(平成三年。甲七
九)、⑥ j「じん肺と肺がんの関連性および喫煙の影響に関して(意見書)」
(平成四年。甲八七)、同「じん肺と肺がんの関連性および喫煙の影響に関して
(補充意見書)」(平成四年。甲九〇)、同「じん肺と肺がんの関連性および喫煙
の影響に関して(再補充意見書)」(平成五年。甲八八)、⑦ jほか一名「意見
書ーk氏の問題提起に答えてー」(平成五年。甲八九)、⑧ l「じん肺と肺癌の
疫学研究法について(意見書)」(平成五年。甲八五)、同「じん肺と肺癌の疫学
研究法について(補充意見書)」(平成五年。甲八六)、⑨ m「じん肺に合併し
た肺癌症例について(部検例から)」(平成五年。甲一〇四)等の報告では、じん
肺患者に肺がんが多く発生していることなどを指摘し、じん肺と肺がんとの有意な
関連性を示唆し、その中には、有意な関連性を強く肯定する見解もある。
 これに対し、① n「じん肺症における肺がんの発生頻度に関する研究」(平成
三年。乙三九)、② oほか二名「じん肺症における肺癌発生頻度に関する文献的
一考察」(平成四年。乙四〇)、③ p「じん肺と肺癌との関連について(意見
書)」(平成五年。乙四三)等の報告では、右見解を批判し、確実な因果関係は不
明であるとし、また、平成二年度に設置されたじん肺り患者の病後の経過に関する
調査研究委員会の研究結果報告書(平成五年。乙二七)では、両者の有意な関連性
を認めていない。
(4) IARCは、世界保健機関(WHO)に所属する研究所で、昭和四〇年の
設立以降、ヒトのがんの原因解明と予防のために免疫研究と実験研究を行ってきて
おり、化学物質の発がん性に関する研究機関等の中では、国際的に権威がある機関
の一つとされている。
 IARCは、昭和六二年の段階で、結晶性シリカの発がん性について、試験動物
に対しては十分な証拠があり、ヒトに対しては限定された証拠があるとして「ヒト
に対しておそらく発がん性がある。」というグループ2Aに分類していたが、平成
九年に発表したモノグラフ(甲一一〇の1、2、乙五五)において、結晶性シリカ
の職業性吸入曝露は「ヒトに対して発がん性がある。」というグループ1に分類し
た。なお、炭じん曝露については、約一〇パーセントの結晶性シリカを含むものと
の前提において、ヒトに対して発がん性を有するグループに分類することはできな
いとしてグループ3に分類した。
 IARC報告は、主として動物実験及び疫学統計に基づくものである。
 また、IARC報告以外では、米国の国家毒性プログラム(NTP)が平成三年
に結晶性シリカを「合理的に発がん性物質であることが知られている。」(グルー
プB)に分類し、日本産業衛生学会も同年に二酸化珪素(結晶性)を「人間に対し
ておそらく発がん性があると考えられる物質のうち証拠がより十分な物質」に該当
するとしている。
 しかしながら、じん肺に関して国際会議を開催している国際労働機関(ILO)
及び米国産業衛生専門家会議(ACGIH)などにおいては、シリカの発がん性に
関する評価を発表しておらず、平成九年一〇月に開催されたILO第九回国際職業
性呼吸器疾患学術会議においても、IARC報告に対する評価が分かれた。なお、
右学術会議の座長を務めたe(平成一〇年。乙五九、六三)は、IARC報告にお
いて検証した動物実験における結晶性シリカの投与(曝露)の方法・態様が通常ヒ
トが職場で曝露する態様(作業環境)とは大きく異なること、IARC報告では、
喫煙、高齢、環境因子などに伴う肺がんの発生について言及しておらず、特に、喫
煙には高い発がん性が認められているにもかかわらず、結晶性シリカのみにガン原
性を強調することには疑問がある旨の意見を述べている。
(甲一〇五、一〇六、乙三五、三六、五九)
(三) 訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明では
なく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来
した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が
疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを必要とし、か
つ、それで足りるものである(最高裁昭和四八年(オ)第五一七号同五〇年一〇月
二四日第二小法廷判決・民集二九巻九号一四一七頁参照)。
 これを本件についてみると、専門家会議報告以降に発表された報告の中には、じ
ん肺と肺がんとの間の関連性が高いことを示すものがあるが、疫学的因果関係を肯
定する見解に対しては、分析疫学的考察の欠如、対象集団の偏り、関心度の偏り、
量反応関係、交絡因子の影響の考慮などの点について批判があること(乙四二、四
三)、また、IARC報告では、結晶性シリカの職業性吸入曝露が「ヒトに対して
発がん性がある。」というグループ1に分類したが、その基礎となった動物実験結
果のヒトヘの適用、疫学調査などに問題を残しており、国際的な合意を得た最終結
論ではないこと、その他のじん肺又は肺疾患に関連する国際機関又は国際会議にお
いても、じん肺と肺がんとの一般的因果関係を肯定する結論を出すまでの状況にな
いことは前記のとおりであること、以上に照らすと、結局、現在の医学的知見で
は、じん肺と肺がんとの間の関連性が示唆されるにとどまり、直ちに高度の蓋然性
をもって両者の間の一般的因果関係を認めるには至っていないというべきである。
 被控訴人は、IARC報告の発がん性評価において、結晶性シリカ(遊離けい
酸)がグループ1に分類されたことを前提とした上、aは、その従事していた北炭
空知鉱内において、遊離けい酸の含有率の極めて高い粉じんを吸入していたことな
どから、aのじん肺と肺がんとの因果関係は肯定される旨主張する。しかしなが
ら、既に説示したとおり、結晶性シリカをグループ1と分類したIARC報告には
問題点があるのみならず、国際的な合意を得た最終結論でもないことなどからすれ
ば、その余の点を判断するまでもなく、被控訴人の右主張事実をもって、aのじん
肺と肺がんとの因果関係を認めることはできないというべきである。
(四) したがって、被控訴人の争点3に関する主張は理由がない。
4 争点4について
(一) 被控訴人は、aは、じん肺性の粒状影のため、肺がんの発見が遅れ、適切
な治療を受けることができず、そのために死亡したものであり、じん肺が肺がんの
早期発見、早期治療及びその後に悪影響を及ぼしたという医療実践上の不利益があ
るから、じん肺と死亡との間に相当因果関係が認められる旨主張する。
(二) 六〇八号通達において、じん肺法による管理区分が管理四で現に療養中の
者及び管理四相当であると認められる者に発生した原発性の肺がんのみを業務上の
疾病として取り扱うものとしていることは前記のとおりであるが、これは、専門家
会議報告で指摘された高度に進展したじん肺病変の存在が、肺がんの早期診断の困
難性、肺がんの治療方法の制限及び予後不良という医療実践上の不利益を考慮した
ものと解される。
 そして、六〇八号通達の根拠が医療実践上の不利益があることに鑑みれば、管理
四又は管理四相当でなくても、じん肺により肺がんの発見が遅れたり治療の適用範
囲が狭められるなどの医療実践上の不利益があり、その不利益の程度が著しい場合
には、肺がんの病状の持続ないし増悪とじん肺との間には相当因果関係があると認
めるのが相当であり、その場合、右肺がんは施行規則別表第一の二第九号にいう
「その他業務に起因することの明らかな疾病」に該当するというべきである。
(三) 右の観点から本件について検討する。
(1) 平成元年五月一五日当時におけるaの肺がん鑑別診断の可能性
ア 証拠(乙一六、四四、五三、証人e)によれば、① じん肺の胸部エックス線
写真の所見では、粒状影、不整形陰影などが見られるが、腺がんの胸部エックス線
写真の所見では、一般に、肺野末梢部に陰影が淡く、境界が不鮮明で針状放射像、
周辺ぼけ像、鋭い切痕像を示す陰影が見られること、② じん肺による大陰影が存
在したり、結核性湿潤陰影が存在する場合には、これらの陰影ががんなどの異常陰
影と重なって、読影・鑑別できないことがあるが、がんの異常陰影とじん肺の陰影
は、それぞれ異質の性状を示すので、大陰影の認められない直径約一・五ないし三
ミリメートルの陰影が存在する程度のじん肺においては、粒状影又は不整形陰影に
より肺がん等の異常陰影の初期像を発見し難いとはいえないこと、③ 肺がんが疑
われた場合、医療機関においては、喀痰検査による悪性細胞の検査、CT及び気管
支鏡検査などを実施するのが通常であること、以上の事実が認められる。
イ 右アの認定事実、並びに前記に認定した平成元年五月一五日撮影の胸部エック
ス線写真及び通常断層写真の各所見を総合すると、同日撮影の胸部エックス線写真
上のじん肺の陰影は、従前と同様、全肺野に分布した左右均等に直径約一・五ない
し三ミリメートルのいわゆる粒状影及び不整形陰影が見られたにとどまり、他の異
常陰影の読影を妨げるじん肺による大陰影又は結核性湿潤陰影は存在しなかったと
ころ、右の胸部エックス線写真には、左肺下半分を占めるびまん性の異常陰影が出
現し、右陰影の上部(左肺中肺野で、エックス線写真上は第七肋骨と第八肋骨との
間)には、やや濃度の高い境界が不鮮明な異常陰影が見られ、また、同日撮影の通
常断層写真には、第七肋骨に重なって境界が不鮮明な約三センチメートル×二セン
チメートルの濃度のやや高い異常陰影が見られたこと(なお、b医師も右の胸部エ
ックス線写真の左中肺野に陰影を認めていたことは、前記のとおりである。)から
すれば、同日撮影の胸部エックス線写真及び通常断層写真の所見上、じん肺性とは
異なる左中肺野の異常陰影を読影することが可能であったということができるか
ら、aにじん肺性の粒状影及び不整形陰影が存在したため、胸部エックス線写真及
び断層写真の所見上の異常陰影を読影することが困難であったということはできな
い。
 証拠(証人d)には、右の胸部エックス線写真について、じん肺性の粒状影があ
ったため、左中肺野の陰影が非常に分かりづらいという部分があるが、右証拠に
は、右の胸部エックス線写真について、じん肺性の変化とは異なる異常陰影を読影
できることまでをも否定する趣旨ではないという部分もあるから、右証拠をもっ
て、右各写真から異常陰影を読影することが非常に困難であったということはでき
ない。
ウ そして、証拠(乙四四、証人e)及び弁論の全趣旨によれば、右の胸部エック
ス線写真の異常陰影は、感染症以外の何らかの病巣が存在する可能性を示唆する所
見であり、また、通常断層写真の異常陰影も、感染症以外の腫瘍性の病巣の存在を
示唆する所見であったことが認められるから、右各写真が撮影された平成元年五月
一五日当時、客観的には、右異常陰影について肺がんの可能性を考慮に入れた鑑別
診断は可能であったというべきである。
 証拠(甲一一三)には、右の胸部エックス線写真及び通常断層写真の左中肺野に
陰影の異常を読影することができるが、当時のじん肺性の粒状影の大きさ及び存在
状況からすれば、従前の感染症の遺残と見ることが可能であり、この陰影の異常変
化を判別できなかったとしてもやむを得なかったという部分があるが、客観的には
肺がんの可能性を考慮に入れた鑑別診断が可能であったことは右に説示したとおり
である。
エ 以上によれば、平成元年五月一五日当時、aの胸部エックス線写真及び通常断
層写真の読影により、肺がんを疑い、精密検査すなわち喀痰検査による悪性細胞の
検査、CT、気管支鏡検査などを施行することが可能であったというべきであるか
ら、aのじん肺により肺がんの発見が困難であったと判断することはできない。
 なお、岩見沢労災病院においては、平成元年一二月にaが入院するまで、肺がん
を疑った検査をしていなかったことは前記のとおりであるが、このことをもって、
右判断を左右するものではない。
(2) 平成元年五月一五日当時におけるaの外科療法の適応及び延命の可能性
ア 証拠(甲七四、乙四四、五三、六三、証人e)によれば、① 肺がんの治療に
は、外科療法、化学療法、放射線療法などが存すること、② 治療法の信頼度とし
ては、外科療法が最も高いとされているが、肺が生命に関与する重要臓器であり、
肺切除による機能低下が全身に及ぼす影響が大きいため、外科療法の適応は、病巣
の広がり(病期的適応)と患者の一般状態及び心肺機能(機能的適応)により決定
すべきであるとされていること、③ 病期的適応条件としては、遠隔転移がないこ
と、気管・気管分岐部に湿潤が及んでいないこと、肺動脈基始部、上大静脈など周
囲重要臓器に広く湿潤していないこと、縦隔リンパ節への転移が広汎でないこと、
がん性胸水がないことなどが挙げられており、また、機能的適応条件としては、心
肺機能が最も重要であるとされていること、④ さらに、腺がんの場合には、一般
に放射線や抗がん剤に対する感受性が低く効果も少ないため、外科療法が有効であ
るとされているが、腺がん、特に、悪性度の高い未分化腺がんの場合、一般に比較
的早期に遠隔転移を来しやすく、予後も不良とされているので、手術等の外科療法
の適応を欠くとされることが多いこと、以上の事実が認められる。
イ 右アに認定した事実、及びaの悪性度の高い未分化腺がんであったこと、昭和
六一年ころに慢性心不全との診断を受けて治療中であったことなどを総合すれぱ、
平成元年五月「五日当時のaには、外科療法の適応条件を欠いていた可能性が高
く、また、腺がんに対する放射線や抗がん剤などの治療による延命効果も期待でき
ない可能性が高かったものというべきである。
 証拠(証人d)には、昭和六三年一一月一七日又は平成元年五月一五日の時点で
肺がんであることが判明していれば、手術が可能であったという部分があるが、こ
れは、外科療法の適応について、aの肺機能及び年齢(当時六七歳)から可能であ
ったというにすぎず、他の適応条件についてまで検討した上でのものではないこと
がうかがえるから、右証拠は、直ちに採用することはできない。
 他に、平成元年五月一五日当時のaにおいて、外科療法の適応があったこと、若
しくは同療法又は他の療法により同年一二月二六日の本件死亡又はそれに近い時期
の死亡が避けられたことを認めるに足りる証拠はない。
(四) 以上によれば、aは、じん肺により肺がんの発見が遅れたことや、治療の
適用範囲が狭められるなどの著しい医療実践上の不利益があったということはでき
ないから、被控訴人の争点4に関する主張は理由がない。
三 結論
 以上によれば、aの死亡が業務上の事由によるものではないとして、遺族補償給
付及び葬祭料を不支給とした本件処分は適法であるから、控訴人の本件処分の取消
しを求める請求は理由がない。
 よって、右と結論を異にする原判決は相当でないから、これを取り消した上、被
控訴人の請求を棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六
七条二項、六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(口頭弁論の終結の日・平成一一年三月一八日)
札幌高等裁判所第三民事部
裁判長裁判官 濱崎浩一
裁判官 竹内純一
裁判官土屋靖之は、填補のため署名押印することができない。
裁判長裁判官 濱崎浩一

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛