弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各控訴を棄却する。
         理    由
 被告人三名の弁護人辻丸勇次、同山崎信義の控訴趣意は、記録に編綴されている
同弁護人等各自提出の控訴趣意書記載のとおりであるからこれを引用する。
 弁護人辻丸勇次の控訴趣意第一点について、
 原判決のあげている各証拠を綜合すると、被告人Aはいわゆる興業師として、各
地劇場にストリツプ・シヨウ興業の斡旋を業とする興業界の中間ブローカーであつ
て、劇団B、シヨウのマネジヤーCから同劇団D一行の提供をうけ被告人のE株式
会社専務取締役Fと歩合興業契約の下にこれを招へいして、昭和二十六年五月二十
九日から同会社経営の福岡市a所在劇場Gで、同興業のふたをあけたが、踊子に欠
員があつたので、京都市在住の前記Cに交渉かたがた踊子補充のために、同市に赴
き、たまたま、同市内H劇場で、被告人Iがある種の踊にヒントを得て、自ら考案
した「ブルー・イン・ザ・ナイト」と称するストリツプ・シヨウを公演し、その一
場面において、同被告人自身が舞台において観客を前に殆んど全裸体となり、ビー
ル壜を陰部附近に押し当て、腰を前後左右に振りながら、スローワルツに合わせて
踊つていたのを観覧席から観賞してその内容を知悉しながら、同被告人を右Gで出
演させようと企て、その承諾の下に同被告人外数名の踊子を福岡市に同行して、同
劇場で協議の結果、被告人Iを興業中の前記劇団に特別出演として加入させ、出し
物についても、マネジヤーCの振付も間に合わなかつたので、同被告人の自作自演
にかかる前記「ブルー・イン・ザ・ナイト」を上演種目に加えることとし、判示日
時四回に亘り、被告人Iにおいて、同劇場舞台で、一般観客数百名を前にして判示
のとおりの所作に及んだということが認められる。この事実によると、被告人Aは
興業師として、予め被告人Iの本件ストリツプ・シヨウの演出演技の内容を熟知し
て同被告人を舞台に出演させるに至つたのであつて、被告人Iとその公演を共謀し
たことが明らかであるから興業師として所論のようにその演出演技の内容にようか
いし得るかどうかを問うまでもなく同被告人との間に、共同正犯としての責任を負
担すべきものといわねばならない。
 従つて、原判決が被告人Aに対して被告人Iの本件所為につき、共謀の事実を認
定したのは、正当であつて、原判決には所論のように事実を誤認した違法の点な
く、論旨は理由がない。
 同控訴趣意第二点について、
 原判決が被告人Iの所為について認定した事実は、同被告人は、判示劇場Gの舞
台で、一般観客数百名を前にし、(男達がしばしば宴席等で酒壜や徳利を陰部附近
に押し当てて踊る俗に「ヨカチン踊」と呼ばれる一種の座敷踊から示唆を得て自ら
考案した)「ブルー・イン・ザ・ナイト」を演ずる途中において照明の集中したと
ころで着用のドレスを脱ぎ捨て、巾約四寸、長さ約七寸の肉色の三角巾(バタフラ
イ)を以て僅かに陰部を覆つた外は、殆んど一糸もまとわぬ全裸体となつた上、数
分間に互りビールの空壜の尖端部を右手で握つたまま、陰部附近に押し当て、左手
で壜の底部或は上部附近を換で廻わしながら、速度の緩い音楽に調子を合わせて、
腰を前後左右にくねり動かして踊つたというのであつて、その所作姿態は、一般観
客に男女の性交乃至は露出した男子の生殖器を連想させて徒らに性慾を興奮又は刺
激させ且つ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものと
認められるから、原判決が判示舞台上でした被告人Iの所為を、刑法第百七十四条
所定の公然猥褻の行為に該当するものとしたのは正当である。
 そして原判決は所論のように、証人J、同K、同Lの各証言だけに拘束されて、
被告人Iの前記所為を公然猥褻の行為に当ると認めたのではなく、右各証言の外多
くの証拠をあげ、それを綜合して前記事実を認定した上、その所為が公然猥褻の行
為にあたるものと判断したのであつて、その証拠の取捨選択竝びにその価値判断に
経験則に違背した違法のあることは発見されないので原判決には、所論のように採
証の法則を誤つた違法があるということはできない。論旨は理由がない。
 同控訴趣意第三点について、
 劇場側責任者若しくは興業主が通常上演される演技の内容について劇団乃至個々
の演技者に対し、注文をつけてその演技内容の修正変更を要求する義務又は権利を
有しないことが、興業界における慣例であることは、原審第四回公判調書中証人M
及び原審公判調書中被告人Fの各供述記載を綜合してこれを窺うことができるけれ
ども、一且劇場側責任者若しくは興業主において演技の内容が、普通人の正常な観
念からみて、猥褻その他の理由により公の秩序又は善良の風俗に反するものである
ことを認識した場合にあつては、劇団乃至個々の演技者に対して演技内容の修正変
更或は上演種目の差替等を強硬に要求し、更に進んでは、公演のための劇場の提供
を拒絶するなどの挙に出て右演技の公開を阻止するための有効な措置をとり以て犯
罪行為の行われ又は継続して行われるのを防止することは、劇場側責任者又は興業
主に科せられた条理上当然の義務といわねばならない。
 <要旨>原判決の被告人Fに対して認定した事実は、同被告人は劇場Gを経営する
E株式会社の専務取締役として、社長のNを補佐し、経理関係を除くの外右
会社の営業の殆んど全般に亘りこれを統括運営する任に当つているものであるが、
さきに被告人Aの求めに応じ被告人Iの出演する前記ストリップ・ショウのために
右劇場を提供すべき旨を約し、その結果該シヨウの連続公演が開始されるに至つた
ところ、たまたま、昭和二十六年六月八日右劇場の観覧席から同被告人が舞台で多
数の観客を前にし、裸体のまま前記のような姿態をしながら踊つているのを目撃し
右ストリップ・ショウの内容を知るに至りながら、同被告人及び被告人Aに対し演
技内容の変更修正につき微温な警告を発するに止め、依然右のショウ公演のための
劇場の提供を継続し、以て右被告人両名にかかる前判示六月十日及び同月十一日の
各犯行の遂行を容易ならしめたというのであつて、被告人Fの所為は右被告人両名
の公然猥褻の行為を幇助したものであることが明らかであるから、原判決が同被告
人を公然猥褻行為の幇助罪に問擬処断したのは、まことに正当であるといわねばな
らない。論旨は理由がない。
 同控訴趣意第四点について、
 しかし、本件記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われた各被告人の性
格、経歴、境遇並びに本件犯罪の動機態様その他諸般の情状及び犯罪後の情況等を
考究し、なお所論の各情状を参酌しても、原審の被告人等に対する刑の量定はまこ
とに正当で、これを不当とする事由を発見することができないので論旨は採用し難
い。
 弁護人山崎信義の控訴趣意第一点について、
 しかし、論旨(一)の被告人Iの所為が公然猥褻行為にあたらないとの点につい
ては、前段弁護人辻丸勇次の控訴趣意第二点に対し又、(二)の被告人F、同Aは
演技の内容に容嘴すべき義務も権限もないとの点については、同弁護人控訴趣意第
三点に対し、及び(三)の被告人Aは被告人Iと共同正犯ではないとの点について
は、弁護人辻丸勇次の控訴趣意第一点に対し、それぞれ説明したとおりであつてい
ずれも理由がない。
 同控訴趣意第二点について、
 しかし、被告人Iの本件所為が公然猥褻行為に当ることは既に説明したとおりで
あり又警察官がこれを検挙しなかつたことは本件犯罪の成立に何等の関係がない。
そして犯意の成立には事実の認識があれば足り、違法の認識を必要としないので、
たとい被告人Iにおいてその所為が公然猥褻行為に当らないと思つてしたとして
も、そのことは犯意を阻却しないので、原判決がその所為を刑法第百七十四条所定
の公然猥褻罪に問擬処断したのは正当であつて所論のように法令の適用を誤つた違
法の点はない。論旨は採用し難い。
 同控訴趣意第三点について、
 なるほど原判決が証拠にあげている証人K、同O、同L、同J、同Pの各証言中
に証人自身が踊をみて感じた感想の供述部分のあることは、所論のとおりである
が、それはたんなる意見又は、証拠のない想像ではなく論旨も認めているようにそ
の証人が本件ストリツプを見たという自己の実験した事実に基いて推測した事項を
供述したものであつて、それが適法な証拠能力を有することは、刑事訴訟法第百五
十六条の明定するところであるから所論の証拠を事実認定の資料に供した原判決に
は採証の法則を誤つた違法の点なく、論旨は理由がない。
 同控訴趣意第四点について、
 各被告人に対する原審の量刑が諸般の情状からみて、まことに相当なものである
ことは、弁護人辻丸勇次の控訴趣意第四点に対して説明したとおりであるから、こ
の点の論旨も亦理由がない。
 以上の理由であるから各被告人の本件控訴は刑事訴訟法第三百九十六条に従いこ
れを棄却すべきものとし、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 西岡稔 裁判官 後藤師郎 裁判官 大曲壮次郎)

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