弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     控訴人らの控訴をいずれも棄却する。
     控訴費用は控訴人らの負担とする。
         事    実
 一 申立
 (一) 控訴人ら
 原判決を取り消す。
 被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
 (二) 被控訴人ら
 主文同旨
 二 主張
 (一) 被控訴人ら(請求原因)
 1 別紙物件目録(一)記載の土地(以下本件土地という)は、もと同目録
(二)記載の一五筆の土地であつたが、現在は一筆に合筆されているところ、訴外
内国砂糖合資会社(以下単に内国砂糖という)は大正九年一二月中旬頃(一五筆の
土地として表示されていた頃)、当時の所有者亡Aから債権担保の目的で同土地の
所有権を譲り受けた。
 2 (1) 亡Bは昭和一五年一一月一日内国砂糖の代理人Cから本件土地を買
受けた(以下、本件売買契約という)。
 (2) 仮にCに内国砂糖を代理する権限がなかつたとしても、内国砂糖の業務
執行社員Dは昭和三八年三月ころ、亡Bに対し、本件売買契約を追認する旨の意思
表示をした。
 (3) 仮に右事実が認められないとしても、亡BはCが内国砂糖の専務取締役
として業務を遂行していたため、内国砂糖を代表もしくは代理する権限を有するも
のと信じて本件売買契約を締結したものであるから、商法二六二条の規定により、
本件売買契約は有効である。
 3 本件土地について、控訴人Eのため那覇地方法務局名護支局一九五八年六月
五日受付第二〇二九号所有権移転登記、亡Aのため同法務支局一九六四年一二月二
四日受付第三六七五号所有権移転登記、控訴人Fのため同法務支局一九六五年八月
三一日受付第二七六六号所有権移転登記、控訴人Gのため同法務支局一九六六年六
月二日受付第二〇三六号所有権移転登記がそれぞれなされている。
 4 Aは昭和五〇年三月二三日死亡したが、控訴人Fはその妻であり、また控訴
人H、同I、同J、同Kおよび同Lはいずれもその子である。したがつて、右控訴
人らは相続によりAの権利義務を承継取得した。
 5 Bは昭和五一年四月二二日死亡したが、被控訴人ら四名はその子である。し
たがつて右被控訴人らは相続によりBの権利義務を承継取得した(相続分は各四分
の一)。
 6 よつて、被控訴人らは控訴人E、同Gとの間に本件土地所有権の確認ならび
に控訴人ら八名に対し、前記各登記の抹消登記手続をなすことを求める。
 (二) 控訴人ら
 1 請求原因に対する認否
 (1) 請求原因1記載の事実は認める。
 (2) 同2の(1)ないし(3)記載の事実は否認する。
 (3) 同3ないし5記載の事実は認める。
 2 抗弁
 (1) 弁 済
 被控訴人ら主張の亡Aと内国砂糖間の譲渡担保契約の被担保債権額は金一万円で
あつたところ、亡Aは昭和三年三月、内国砂糖に対しその一部金二、五〇〇円を弁
済し、その後同四年三月残債務について弁済の提供をしたので、同債務は消滅し、
本件土地所有権は再び亡Aに復帰した。
 (2) 取得時効
 仮に右主張が認められないとしても、亡Aは左のとおり、本件土地を時効により
取得した。
 すなわち、亡Aは、本件譲渡担保契約設定後も、当事者間の内部関係において保
留された所有権に基いて、本件土地を占有していたものであるから、右契約の設定
時である大正九年一二月中旬から一〇年を経過した昭和五年一二月中旬限り本件土
地の所有権を取得した。
 仮に右占有の始めに過失があつたとしても、二〇年を経過した昭和一五年一二月
中旬限り本件土地所有権を取得した。
 そして本件土地所有権は、売買により亡Aから控訴人Eへ、贈与により右控訴人
から亡Aへ売買により亡Aから控訴人Fへ、更に売買により右控訴人から控訴人G
へ各移転したものであるから、控訴人らは本訴において右取得時効を援用する。
 (三) 被控訴人ら
 1 抗弁に対する認否
 抗弁(1)、(2)記載の事実は否認する。
 2 再抗弁
 亡Bは、請求原因2記載のとおり本件土地を買い受けたことについて、昭和一五
年一一月二五日にその旨の所有権移転登記手続を了した。
 従つて仮に譲渡担保関係の消滅による本件土地の所有権の復帰、あるいは短期時
効取得の主張が認められたとしても、亡Aは、亡Bに対して本件土地所有権の取得
を対抗することはできない。
 (四) 控訴人ら
 1 再抗弁に対する認否
 被控訴人ら主張の登記がなされたとの事実は知らない。
 2 再々抗弁
 仮に被控訴人ら主張どおりの登記がなされたとして、戦災によりその登記簿は滅
失し、不動産登記法三三条により回復登記もなされていないので、右登記は対抗力
を失なつたものと解すべきである。
 (五) 被控訴人ら(再々抗弁に対する答弁)
 亡Bは、本件土地を買い受け、その移転登記も了したのであるから、その後登記
簿が滅失したからといつて、過去に遡つて未登記状態になるものではなく、また一
旦発生した登記の対抗力が消滅するものでもない。
 三 立証(省略)
         理    由
 一 請求原因1記載の事実については当事者間に争いがなく、成立に争いのない
甲第四号証の一・二、第五号証の二、第七号証の一、第一〇号証の一・二、第一一
号証の三、右第一〇号証の二により成立を認めうる甲第二号証、第三号証の一・
二、右第五号証の二により成立を認めうる甲第九号証、右第七号証の一により成立
を認めうる甲第七号証の二、原審における亡B本人尋問の結果(第一・二回)によ
り成立を認めうる甲第一号証、原審における証人M、同N(第一・二回)の各証言
および亡B本人尋問の結果(第一・二回)を総合すると、内国砂糖は株式会社鈴木
商店の子会社であつたが、鈴木商店が昭和二年四月頃に倒産したために、内国砂糖
も事業の継続ができなくなつて清算手続に入らざるを得なくなつたこと、その資産
処分も含む清算事務は、右鈴木商店の取締役であつたCに一任されていたこと、亡
Bは昭和一五年一一月一日内国砂糖代理人の右谷から本件土地を買い受けたことが
各認められる。
 右認定事実に対し、原審における証人Oの証言(第一・二回)によると、当時内
国砂糖の代表社員でつたDは、昭和三〇年頃右Oに対して、「本件土地をBに売つ
たことはない」旨述べていたことが認められるが、右供述は、前掲B本人尋問の結
果や、実際に清算事務を担当したのが右谷であつて、右Dが具体的な財産の処分を
熟知していたとは考え難いこと等の事情に照らすと、直ちに措信することはでき
ず、また他に右認定を左右するに足りる証拠もない。
 請求原因3ないし5記載の各事実については、当事者間に争いはない。
 二 控訴人らの主張について
 (一) 弁済について
 弁済による本件土地所有権の復帰について判断するに、本件土地が内国砂糖に譲
渡担保の目的で所有権移転されたことは当事者間に争いはないところ、控訴人らの
主張によつても被担保債権一万円のうち二五〇〇円を弁済したのみで、残余は単に
弁済の提供をしたに止まるというのであるから、それのみでは(残債務について供
託したとの主張・立証はない)被担保債権は消滅せず、従つて本件土地所有権が亡
Aに復帰することもなく、控訴人らの主張は失当である。
 (二) 取得時効について
 亡Aが本件土地を譲渡担保に供したことは、当事者間に争いがないところ、控訴
人らは、右譲渡担保設定時を起算点として時効期間が進行したとして取得時効を主
張する。
 <要旨>先ず時効の起算点について検討する。時効は、その基礎たる事実の開始し
た時を起算点として進行するものと解されている。しかし目的物が明らかに
占有者の所有に属し、その所有権の帰属について実質的な利害の対立がない場合―
例えば売買当事者間において売買契約締結後も、売主が所有の意思をもつて占有を
継続した場合の契約締結前の売主の占有、あるいは二重売買の第一買受人と第二買
受人との間において、第一買受人が占有を取得した場合の売主の占有(従つて第一
買受人は前主の占有を併せて主張することは許されない)―には、時効は、その進
行を開始しないものと解するのが相当である。けだし斯る場合にも時効の進行を認
めると、利害の対立が発生した後短期間の経過で時効により所有権を取得すること
を認容せざるを得なくなり、不合理な結果をも招きかねないからである。
 そこで本件譲渡担保について判断する。本件譲渡担保は、被控訴人らにおいて特
段の主張もしないから、内部関係においては、設定者に所有権が保留されているも
のと認められる。先ず譲渡担保設定前の亡Aの占有については、何ら利害の対立は
存しない(控訴人らもその間の占有を時効期間に算入すべきだと主張はしていな
い)。他方債務不履行により譲渡担保権者が本件土地の所有権を取得するとか、あ
るいは第三者が譲渡担保権者から本件土地を譲り受けるとかの事由が生じた場合に
は、利害の対立が生ずることは明らかである。
 そこで譲渡担保設定後右事由の生ずるまでの占有が問題となるが、当裁判所は右
期間の占有も譲渡担保設定前の占有と同様に解する。何故ならば、右期間中も本件
土地が亡Aの所有であることに何ら問題はなく、また利害の対立も生じていないか
らである。
 右の観点に立つと、本件土地の時効の起算点は、亡Bが内国砂糖から本件土地を
買い受けた時点―前掲認定により昭和一五年一一月一日―ということになる(成立
に争いのない乙第六号証の一によると、本件譲渡担保の被担保債権には期限の定め
がなかつたことが認められ、債務の不履行により内国砂糖が本件土地の所有権を取
得したと認められる証拠はない)。ところが前出甲第五号証の二、第七号証の一、
二、第九号証によると昭和一五年六月および同年一一月頃の本件土地は、全く荒れ
果て、一〇数年来管理されないまま放置されてきた状態にあつたことが認められる
ので、右起算点時において、亡Aは本件土地を占有していなかつたことになり、そ
の他の点について判断するまでもなく、控訴人らの時効の主張(一〇年および二〇
年とも)は失当である。
 従つて、爾余の点の判断は必要なきことに帰するが、敢て、控訴人らが時効完成
時であると主張する昭和五年一二月中旬ころ、あるいは昭和一五年一二月中旬ころ
における亡Aの本件土地に対する占有の有無について付言すれば、なるほど、成立
に争のない乙第四、一一号証(いずれもPの証人尋問調書)、第六号証の二(亡A
の本人尋問調書)および原審における亡Aの本人尋問の結果の如く、控訴人らの主
張に沿う一応の証拠は存するが、なおこれらを仔細に検討すると、本件土地を含む
亡Aの所有していた土地の管理を任せられていたPは大正一二年ころ内地に赴いた
ため右土地の管理をやめたことが認められ(尤も同人は昭和二年ころ帰郷して本件
土地の管理を再開した旨を述べているが、何故本件土地のみの管理を再開したかに
ついての合理的な理由を欠くばかりか、前掲認定の本件土地の占有状態に関する事
実に照らしても、この点は到底措信できない。)、他方、前掲認定のとおり本件土
地は一〇数年来管理されないまま放置されてきた状態にあつたものでこれらを総合
すると、本件土地は少くとも昭和初年ころから放置され続け、昭和一五年末当時も
同様であつたと推認することができ、これに反する前掲各証拠はいずれも措信でき
ず、他に、亡Aが昭和五年一二月中旬、あるいは昭和一五年一二月中旬ころ、本件
土地を占有していたことを立証する証拠はないから、この点においても、控訴人ら
の取得時効の主張は、いずれも失当として排斥を免れない。
 三 右のとおりであるから、本件土地は被控訴人らの共有に属し、控訴人らは請
求原因3記載の各登記を抹消すべき義務(亡A名義の登記については、控訴人F、
同H、同I、同J、同K、同Lの六名が相続人として)があることになる。
 よつて被控訴人らの請求を認容した原判決は相当であつて本件控訴はいずれも理
由がないから、民事訴訟法三八四条、九五条、八九条を適用して主文のとおり判決
する。
 (裁判長裁判官 門馬良夫 裁判官 比嘉正幸 裁判官 新城雅夫)
 (別紙)
        物 件 目 録(一)
 沖縄県名護市ab番(旧表示沖縄県国頭群c村字ab番)
  一 山 林    一三五・五七四平方メートル
        物 件 目 録(二)
 沖縄県国頭群c村字古我知嵐山d番のe
  一 山 林     四、二一一坪
 同県同群同村同字d番のf
  一 畑         三〇四坪
 同県同群同村同字d番のg
  一 宅 地        一七坪
 同県同群同村同字d番のh
  一 山 林     三、二二五坪
 同県同群同村同字d番のi
  一 畑         三一〇坪
 同県同群同村同字d番のj
  一 宅 地        二一坪
 同県同群同村同字d番のk
  一 山 林     一、六二六坪
 同県同群同村同字d番のl
  一 山 林       三二五坪
 同県同群同村同字d番のm
  一 山 林       三四七坪
 同県同群同村同字d番のn
  一 山 林     五、七六八坪
 同県同群同村同字d番のo
  一 山 林     二、三二五坪
 同県同群同村同字d番のp
  一 山 林        一九坪
 同県同群同村同字d番のq
  一 山 林        六〇坪
 同県同群同村同字d番のr
  一 畑         二六二坪
 同県同群同村同字d番のs
  一 山 林    二八、八九五坪

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