弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中被告人A、B及びCに関する部分はこれを破棄し、その他の各
被告人の控訴はいずれもこれを棄却する。
     被告人斉藤好道、B及びCをそれぞれ懲役八月処し、三年間その刑の執
行を猶予する。
     原審における訴訟費用は右三名の連帯負担とする。
         理    由
 被告人Bの弁護人Eの控訴趣意第一点について。
 原判決が原判示第一の共謀の事実を認定するに当り証人D及びEに対する裁判官
の第一回公判期日前の各尋問調書をその証拠の一部として掲げていることは所論の
通りである。論旨(イ)は右両名は当時被告人等と同様に被疑者として捜査中の者
であつたから刑事訴訟法第二二六条による証人として尋問すべきもので<要旨>はな
いと主張するけれども、たとえ同一内容の事件の被疑者もしくは共犯者であつても
他の者に関する事項については右法条による証人たるの適格を有することが
明らかである。論旨(ロ)はもしそうだとすれば同人は反対尋問に答えなければな
らなくなり刑事訴訟法第三一一条及び憲法第三八条の保障する供述拒否権を侵す結
果になると主張するけれども、証人としての尋問事項が自己もしくは親族等の刑事
訴追又は有罪判決に至るおそれのある場合には刑事訴訟法第一四六条第一四七条に
よつて証言を拒むことができるのであるから右の結論をとつても所論のような心配
はないのである。論旨(ハ)は更に右両名は勾留中の被疑者であり且つ出頭又は供
述を拒んだ者ではないから刑事訴訟法第二二六条第二二七条のいずれの場合にも該
当せず従つて第一回公判期日前に証人として尋問したのは違法であると主張するけ
れども、記録によれば右両名は本件犯罪の捜査に欠くことのできない知識を有する
ことが明らかであるに拘らず捜査当局に対しある事実について供述を拒みまたある
事実については任意供述をしたけれども公判期日においてけ圧迫を受け本件犯罪の
証明に欠くことのできない事項について前と異る供述をするおそれのあつたことが
認められるのみならず、右両名がたとえ被告人等と共犯者もしくは同一事件の被疑
者としての関係があつたとしても被告人等と併合審理されない限り、他の者に関す
る事項については別にこれを証人として尋問して差支ないものであつて、この場合
においては右両法条適用の前提となる刑事訴訟法第二二三条にいわゆる被疑者以外
の者と解すべきであるから、右両名が所論のように証人適格なしとすることはで言
ない。前記各尋問調書の冒頭に被疑者F外十六名に対する傷害被疑事件について証
人尋問をする旨の記載のあることは所論の通りであるけれども、それだけでは右両
名がそれぞれ自己を含む合計十七名の被疑事件について証人として尋問されたもの
とは断定しがたいのみならず、原判示所長室に侵入した人数が十九名位であつたこ
とは原審証人Gの証言によつて明らかであり、また同所を引揚げてH事務所前を通
過した被告人等の大部分を含む一団の人員が正確に十九名であつたことは原審証人
Iの証言によつて明瞭であるから、前記尋問調書記載のF外十六名のうちには供述
者自身を含ましめていないことをうかゞうことができる。次に、論旨(ニ)は右各
尋問調書は刑事訴訟規則第一六〇条に則つえ請求に基ずいて作成されたと認める根
拠が一件記録上明らかにされていないから証拠能力がないと主張するけれども、右
調書を証拠とするには所論の証人尋問請求書の存在を記録上明らかにする必要がな
いのみならず、右各調書の冒頭に前示のような被疑事件について証人として尋問す
る旨の記載があるからこれによつて所定の請求のあつたことを推認することができ
るわけである。更に論旨(ホ)は右各尋問調書の作成手続の瑕疵について云為する
ところがあるけれども、右各調書には即時録取し読聞けたところ相違ない旨申立て
署名指印した旨の記載があり、試みにEに対する裁判官の尋問調書とを比照すれば
その供述内容において格段の相違の存することが認められるから、裁判官において
具体的に事実の尋問をせず単に検事に対する供述調書に基いて作成したとか読み聞
けの手続がなかつたとの主張は採用できないのであつて、論旨引用の原審公判にお
ける同人等の供述は当裁判所のにわかに措信できないところである。論旨はいずれ
もその理由がない。
 (その他の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 荻野益三郎 判事 梶田幸治 判事 井関照夫)

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