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         主    文
     原判決中上告人敗訴部分を破棄する。
     右部分につき本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人道工隆三、同井上隆晴、同柳谷晏秀、同中本勝の上告理由について
 一 原審の適法に確定した事実関係によれば、(1) 被上告人B1の夫であり、
同B2の子である訴外Dは、昭和四九年七月一日、大阪市a区bc丁目d番地先交
差点(以下「本件交差点」という。)西詰めの横断歩道を南から北へ横断歩行中、
東から西へ走行してきた訴外E運転の普通貨物自動車に衝突されて頭蓋底骨折の傷
害を受け、翌二日死亡した、(2) 本件交差点は、第一審判決添付別紙図面(以下
「別紙図面」という。)記載のとおり、東西道路と南北道路がやや斜めに交差し、
更に他の道路が東南で交差する東西方向に長い変形五差路であり、路面は平坦でア
スフアルト舗装されている、東西道路は、グリーンベルトをはさんで片側四車線で
あるが、西行直進車線は三車線となつており、東詰め停止線から西詰めの南北横断
歩道(以下「本件横断歩道」という。)の東端の線までの距離は、最短で五四・二
〇メートル、最長で六八・七三メートルである、最高速度毎時四〇キロメートル、
駐車禁止の各規制がある、(3) 上告人が本件交差点に設置し管理している自動式
信号機は、その周期が一一四・五秒であつて、東西道路西進車両の対面信号機であ
る別紙図面「A」、「B」の信号機の時間配分は、青が二七・〇秒、黄が二・五秒、
交差点の全信号機が赤となる全赤が一・五秒、引き続いて赤が八三・五秒であり、
本件横断歩道の歩行者用信号機の時間配分は、「A」、「B」の信号機が青、黄、
全赤の合計三一秒の間は赤である、なお、南北道路の車両用信号機である別紙図面
「D」、「F」信号機の時間配分も、右三一秒間は赤であり、これを経た時に右歩
行者用信号機とともに青となる、また、東西道路の東進車両用信号機である同図面
「C」の信号機は、「A」、「B」信号機の青、黄、全赤、次いで右歩行者用信号
機及び 「D」、「F」信号機の青を通じて、赤のままである、(4) 西進車線の
交差点内の距離が長いため、西行車両は、指定最高速度の毎時四〇キロメートルで
進行しても、四秒間に進行する距離は四四・四メートルであるから、黄と全赤の四
秒間に交差点を抜け切ることができず、これを抜け切らないうちに南北道路の「D」、
「F」信号機及び本件横断歩道の歩行者用信号機が青に変わることになる、という
のである。
 二 被上告人らは、右の事実関係を前提としたうえ、本件事故は、加害車と被害
者がいずれもその対面信号に従つて交差点に入つたのに、加害車が交差点を通過し
切らないうちに本件横断歩道の歩行者用信号機が青に変わるという信号機の設置、
管理の瑕疵があつたために生じた事故であると主張して、上告人に対し国家賠償法
二条一項に基づく損害賠償を求めた。
 原審は、これに対して、加害車は黄に変わる直前の青信号に従つて交差点に進入
し、被害者も青信号に従つて横断を始めたが、信号の時間配分が不適切なため交差
点内で事故を発生させる危険性が高いという信号機の設置、管理の瑕疵があつたた
め、本件事故が発生したもので、右瑕疵と本件事故との間には相当因果関係がある
として、被上告人らの請求を一部認容した。
 被害者が青信号で横断を開始したと認める理由として原判決の説示するところは、
次のとおりである。
 (一) 加害車を運転していたEは、西行車線のグリーンベルトから二番目の車線
を時速約四〇キロメートルで本件交差点に入り、直進した。Eは、事故の二時間く
らい前に清酒二合を飲み、また、降雨のためワイパーを作動中で、前照燈は下向き
であり、前方の見通しは十分でなかつた。
 (二) Eの本件事故にかかる業務上過失被疑、被告事件における供述調書(甲第
三号証の四、九、一一ないし一三)によれば、Eは、青信号で交差点に入り、「B」
信号機の手前八・一メートルの「2」地点に差し掛かつた際、「B」信号機が黄に
変わるのを認め、さらに三二・三メートル進行して「3」の地点に達した時、雨傘
をさした被害者が一人だけ前方の本件横断歩道を南から北に向かい横断を開始し、
既に南側歩道より〇・八メートルの地点(以下「イ」地点という。)まで進出して
いるのを一五・五メートル前方に認め、急制動をしたが及ばず、一四・八メートル
進行した横断歩道上で加害車を被害者に衝突させ、更に三・一メートル進行して停
止したというのであり、右供述による限り、計算上、被害者は赤信号で横断を開始
したことになる。しかし、(1) Eが飲酒状態で雨天の夜間走行をしていたことを
考えると、急停止をするためには、一秒間の反応時間の空走距離一一・一メートル
と、雨天のため湿潤状態にある平坦なアスフアルト舗装道路を時速四〇キロメート
ルで走行する自動車が急停止するときの制動距離一五・四メートルとの合計二六・
五メートルを必要とし、Eの供述する一四・八メートルと三・一メートルの合計一
七・九メートルでは停止できない。(2) 右一五・四メートルで停止するのに必要
な制動時間は約二・八秒と認められ、反応時間一秒との合計は約三・八秒となると
ころ、被害者が「イ」地点から衝突地点までの一・七メートルを歩行するのに必要
な時間は、歩行者の時速を四キロメートルとして試算すると約一・五秒となり、加
害車が衝突後停止するまでの時間を考慮しても、双方の所要時間は一致せず、Eが
被害者を発見した時に被害者が「イ」地点にいたとすれば、衝突の可能性はない。
 (三) 本件事故の直前に南北道路北詰め停止線の手前で先頭車の運転者として信
号待ちをしていたFの司法警察員に対する供述調書(乙第二号証)には、「折柄東
西道路の通過車両はなく対面信号が変わる気配だつたので、チエンジ・レバーをニ
ユートラルからセコンドへ入れた時、前方を一台のトラツク(すなわち加害車)が
東から西へ通つたが、交差点を過ぎる時急ブレーキをかけて異常な停まり方をした
ので、前方を見ると対面信号が青になつており、すぐ発進右折した。」旨の供述記
載があるが、Fは、対面信号が青に変わる瞬間は見ていないのであるから、加害車
が南北道路との交差部分を通過し終えるまでの間、前方対面信号、したがつてまた
本件横断歩道の歩行者用信号機が赤であつたと直ちに推認することはできない。ま
た、Fの検察官に対する供調書(甲第三号証の七) には、「チエンジ操作をした
のは東西道路の信号機が黄に変わつたのを見たためであり、そのころ加害車は東詰
め停止線に入つたか入らないかの際どいタイミングであつた。」旨の供述記載があ
るが、Fの停止位置から西進車両用の信号機は見えないから、右供述記載は措信で
きない。
 (四) このように、被害者の赤信号横断をうかがわせる証拠には、その証明力に
疑いをさしはさむべき点がある。
 (五) 第一審証人Gは、「本件事故の直後に、本件交差点の西詰め南側の歩道に
おいて、本件横断歩道を渡ろうとしていた四、五人の歩行者のうち中年の女性二人
が、歩行者用信号が青なのに危ないねと会話しているのを聞いた。」旨証言してい
る。また、甲第三号証の八(被上告人B1の司法警察員に対する供述調書)には、
「夫は注意深い性格であり、今まで赤信号で横断を始めたことはない。五、六年前
から通つていた道であり、赤信号では渡つていないと思う。」旨の供述記載がある。
さらに、横断歩道の歩行者がその対面信号が青にならないのに横断を始めるのは、
交差道路の信号が黄又は全赤の場合が多く、青の場合は危険が特に大きいので極め
て少ないことが経験則上明らかである。本件横断歩道を南から北に向かつて歩行し
ようとする者は、東西道路の西進車両用の信号を全く見ることができず、対面信号
が赤である間に横断を始めることは極めてまれであると考えられ、それにもかかわ
らず被害者が赤信号で横断を開始したと認めるべき相当の事情があつたとは認めら
れない。
 (六) 以上を総合すると、Eの供述する「2」、「3」の各地点の合理性は疑わ
しく、右各地点を前提として被害者が赤信号を無視して横断を開始したと推認する
ことは相当でない。かえつて、Eは黄に変わる直前の青信号で本件交差点に進入し、
黄・全赤の四秒間を更に西進した地点で被害者を発見して急制動をかけたものであ
り、その時被害者は青信号に従つて横断を始めようとする態勢にあつたものと認め
られるから、被害者はEと同様青信号で横断を開始したものと認められる。
 三 しかしながら、原判決の右説示のうち、まず右二(二)の(2)についてみるに、
「イ」地点から南側歩道までは〇・八メートル、衝突地点までは一・七メートルと
いうのであるから、衝突地点は南側歩道から二・五メートルの距離にあることにな
るところ、原審と同様の計算方法によれば、被害者がこの間を歩行するのに必要な
時間は約二・二五秒にすぎず、Eの反応時間と制動時間を合わせた約三・八秒との
間には衝突後停止までの時間を考慮してもなおかなりの差があるのに、本件事故が
現に発生しているのであつて、所論のとおり被害者が衝突の直前に立ちすくむこと
も十分考えられるのであるから、被害者が「イ」地点から衝突地点までに要する試
算上の時間とEの被害者発見後衝突までに要する時間との単純な比較から直ちに、
Eが被害者を「イ」地点に発見したとする限り衝突の可能性がないとした原審の判
断は、合理性を欠くものというほかはない。
 次に、原審の前記説示によれば、Eの運転する加害車はグリーンベルトから二番
目の車線を走行してきて交差点に入り、直進したというのであつて、別紙図面にも
照らすと加害車が交差点に入つてから本件横断歩道の東側の線に達するまでの距離
は、五四・二〇メートルと六八・七三メートルとの平均値である六一・四七メート
ル前後となる。更に、同図面によると横断歩道の幅員は四メートルであり、また、
Eの供述記載によれば、横断歩道内の衝突地点から停止地点までの距離は三・一メ
ートルであるというのであり、この記載部分は原審も排斥しているわけではないの
であつて、結局、加害車が交差点に入つてから停止するまでの距離は最大でもこれ
らを合計した六八・五七メートル前後をこえないことになる。原審は、他方では、
Eは、停止地点の二六・五メートル手前で、横断を始めようとする態勢にある被害
者を発見し、急停止の措置をとつたというのであるから、Eは被害者の対面信号が
青に変わる瞬間に横断態勢にある被害者を発見したと仮定しても、Eの対面信号で
ある「A」、「B」信号機が黄に変わつたのはその四秒前であり、この四秒間に加
害車が原審認定の時速四〇キロメートルで走行した距離は計算上四四・四メートル
となるから、「A」、「B」信号機が黄に変わつたのは加害車が停止地点より七〇・
九メートル手前の地点にいたときということになる。しかも、これは、右のとおり
Eが被害者の対面信号の青に変わる瞬間に横断態勢にある被害者を発見したとの仮
定の上に立つものであるところ、被害者が対面信号の青に変わるのを認識してから
横断態勢に入り、かつ、そのことを外部から認識することができるような状態とな
るまでには若干の時間を要するものと考えられること、夜間の降雨時で前方の見通
しが十分でなかつたこと、原審の採用した前記G証言には、本件横断歩道の南側で
信号待ちをしていた歩行者は(被害者のほかにも)四、五人いたとする部分がある
ことなどを考慮すると、この仮定には無理があるものというべきであつて、被害者
が青信号で横断を開始したとする以上、Eが横断態勢にある被害者を発見した時に
は、被害者の対面信号が青に変わつてから若干の時間を経たのちであつたものとみ
るほかはなく、この間にも加害車は時速四〇キロメートルで走行を続けていたので
あるから、右七〇・九メートルという距離は更に長いものであつたことになるので
ある。そうだとすれば、加害車は、「A」、「B」信号機が青から黄に変わつた時
には東西道路西進車両用の東詰め停止線よりも更に東側にいたことになり、これら
の信号機が黄に変わつたのちに交差点に進入したものというべきことになるのであ
つて、加害車が黄に変わる直前の青で交差点に進入したとの認定と矛盾する。
 更にまた、原審認定の被害者発見後一秒間というEの反応時間については、加害
車の走行状況を外部からみた場合には、なんらの異常を認め得ないものと考えられ
るところ、前記甲第三号証の七及び乙第二号証(いずれもFの供述調書)には、原
審が排斥した部分を考慮しても、交差点北詰めで発進準備をしながら信号待ちをし
ていたFが、少なくとも加害車の走行状態の異常に気付くまでは対面信号が青に変
わつたことを認識していなかつたことをうかがわせるに足りる記載があり、もしE
が被害者の対面信号が青に変わつた瞬間に被害者を発見したのであるとすれば、被
害者の対面信号とFの対面信号とは同時に青に変わるのであるから、Fは、発進準
備をしながら信号待ちをしていたというのに、その対面信号が青に変わつたことに
一秒間も気付かなかつたことになり、このことは、他に特段の事情のない限り、E
が横断態勢にある被害者を発見した時には、Fの対面信号、したがつてまた被害者
の対面信号がまだ青に変わつていなかつたことを疑わせるものと考えられるのであ
る。
 そうすると、原審の前記説示には、上記のような点において経験則違反又は理由
不備、理由齟齬の違法があるものというべく、この違法が原判決中上告人敗訴部分
に影響を及ぼすことは明らかであるから、論旨はその余の点について判断するまで
もなく理由があり、原判決中右部分は破棄を免れない。そして、右部分については、
叙上の点について更に審理を尽くさせるため本件を原審に差し戻すのが相当である。
よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決
する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    鹽   野   宜   慶
            裁判官    木   下   忠   良
            裁判官    大   橋       進
            裁判官    牧       圭   次
            裁判官    島   谷   六   郎

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