弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     当審における未決勾留日数中九〇日間を本刑に通算する。
     当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 弁護人木村一八郎の上告趣意第一点について、
 記録によると、被告人は第一審判決摘示第一の事実について昭和二五年五月一七
日勾留され、同二六年一月三〇日保釈許可決定により同年二月二日一旦釈放された
のであるが、その釈放中に更に同第二の罪を犯した容疑により同年四月一九日再び
勾留され今日に至つているもので、被告人が右第二の事実を自白したのは同年七月
六日の第一審第一三回公判期日(第二の事実に関しては第二回公判期日にあたる)
であることがわかる。
 論旨は、右第二の事実による勾留については、被告人が該事実を自白するまでの
期間はそれ自体としては必ずしも不当に長いものではないが、被告人が右第二の事
実について自白するに至つたのは、前記第一の事実による勾留が不当に長期に亘つ
た結果である、即ち、右勾留が前記のように長期に亘つたのは、被告人が該事実を
否認したためであると考え、被告人は再び保釈の許可を得るがために第二の事実に
ついて自白したのであると主張する。
 しかし、被告人が前記第一の事実について保釈されてから、同第二の事実につい
て勾留されるまでの間に二月有半を経過しており、しかも被告人は右第一の事実に
ついては終始犯行を否認しているのであつて、被告人がこれを自白したがために保
釈されたものではないばかりでなく、事件の内容及び経過に徴すれば第二の事実に
関する所論の自白が第一の勾留の結果であると認めることは到底できない。
 ところで、不当に長い拘禁後の自白であつても、拘禁と自白との間に因果関係の
ないことが明かである場合は、憲法三八条二項にいわゆる「不当に長く拘禁された
後の自白」にあたらないことは、既に当裁判所の判例とするところであるから(昭
和二二年(れ)第二七一号同二三年六月三〇日大法廷判決、集二巻七号七一五頁参
照)、本件において前記第一の事実による勾留が、たとえ所論のように不当に長期
に亘る拘禁であつたと仮定しても、所論の自白がこれと因果関係のないことは前記
のとおり明かである以上、この自白を証拠としても何ら所論の如く違憲違法なりと
することのできないことは右判例の趣旨に徴して極めて明かである。従つて、この
点に関する論旨は理由がない。また、その余の論旨は刑訴四〇五条の上告理由にあ
たらない。
 弁護人柳井宇八郎の上告趣意は刑訴四〇五条の上告理由にあたらない。
 被告人の上告趣意について、
 論旨四のロは第一審公判廷において被告人が第一審判決摘示第二の事実について
した自白は検事の強制によるものであるから、これに証拠能力を認めた原判決は憲
法三八条に違反すると主張するけれども、記録上所論ような強制のあつた事実を認
めるに足る資料がなく、原判決が所論自白の任意性を否定し得ないとした点には何
ら実験則に違反するところがないから、本点論旨は到底採用することができない。
その他の論旨は憲法三七条違反を主張する点もあるが、その実質は刑訴四一一条に
該当する事由のあることを主張するに帰するから、適法な上告理由にあたらない。
 なお、記録を調べても、本件につき刑訴四一一条を適用すべきものとは認められ
ないから、同四〇八条、一八一条、刑法二一条により裁判官全員一致の意見で主文
のとおり判決する。
  昭和二八年九月四日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    谷   村   唯 一 郎

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