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平成27年2月18日判決言渡
平成26年(行ケ)第10057号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成27年1月14日
判決
原告楽天株式会社
訴訟代理人弁護士塚原朋一
同鰺坂和浩
同岡崎士朗
同尾関孝彰
訴訟代理人弁理士長谷川芳樹
同阿部寛
同保坂一之
同黒川朋也
被告特許庁長官
指定代理人手島聖治
同須田勝巳
同西山昇
同稲葉和生
同内山進
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1特許庁が不服2012-26122号事件について平成26年1月20日に
した審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
第2事案の概要
1特許庁における手続の経緯(以下の事実は,括弧内に証拠を記載したものを
除き,当事者間に争いがない。)
原告は,発明の名称を「入金端末,入金端末の制御方法,及び入金端末のプ
ログラム」とする発明について,平成19年12月21日に特許出願(以下
「本願」という。請求項の数は6。以下,本願の明細書を「本件明細書」とい
う。)をしたが,平成24年4月23日付けで拒絶理由通知を受け,同年6月
26日付けで手続補正をした(甲4)。原告は,同年9月21日付けで拒絶査
定を受け,同年12月28日,拒絶査定不服審判(不服2012-26122
号。以下「本件審判」という。)を請求するとともに,手続補正(甲5。以下
「本件補正」という。)をした。
特許庁は,上記審判請求につき審理した上,平成26年1月20日,「本件
審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同月31日,その謄本を原告
に送達した。
原告は,同年3月3日,上記審決の取消しを求めて本件訴えを提起した。
2特許請求の範囲の記載
本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以
下,この発明を「補正前発明」という。)。
「【請求項1】
実店舗に設置された入金端末であって,
貨幣端末に記憶される貨幣価値の増額要求に応じて,前記貨幣端末に対し
て,当該貨幣端末が記憶する貨幣価値の金額を所定金額分だけ増額させる金
額変更情報を送信する金額変更情報送信手段と,
前記増額要求に応じて,複数の割引内容識別情報にそれぞれ関連づけて複
数の割引内容を記憶する記憶装置から取得される前記複数の割引内容識別情
報のいずれかを,入力される割引内容識別情報に基づいて前記記憶装置から
取得される割引内容の適用可否を判断する前記実店舗に設置された決済端末
に入力可能な形式で出力する出力手段と,
を具備したことを特徴とする入金端末。」
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1及び2の記載は,次のとおりであ
る(下線は補正部分を示す。以下,請求項1の発明を「補正後発明1」とい
い,請求項2の発明を「補正後発明2」という。)。
「【請求項1】
実店舗に設置された入金端末であって,
貨幣端末に記憶される貨幣価値の増額要求に応じて,前記貨幣端末に対し
て,当該貨幣端末が記憶する貨幣価値の金額を所定金額分だけ増額させる金
額変更情報を送信する金額変更情報送信手段と,
前記増額要求に応じて,複数の割引内容識別情報にそれぞれ関連づけて複
数の割引内容を記憶する記憶装置から取得される前記複数の割引内容識別情
報のいずれかを,入力される割引内容識別情報に基づいて前記記憶装置から
取得される割引内容の適用可否を判断する前記実店舗に設置された決済端末
に入力可能且つ当該決済端末が前記割引内容を特定可能な形式で出力する出
力手段と,
を具備したことを特徴とする入金端末。」
【請求項2】
前記記憶装置は,前記実店舗に設置されており,
前記出力手段が出力する前記形式は,前記決済端末が特定する割引内容に
関連づけられた前記割引内容識別情報であることを特徴とする請求項1に記
載の入金端末。」
3本件補正
本件補正は,次の補正をするものである。
請求項2を新たに追加し,それに伴って,本件補正前の請求項2ないし6
の項番を一つ繰り下げて請求項3ないし7とし,さらに,本件補正後の請求
項3ないし5の引用請求項に,請求項2を追加する補正。
本件補正前の請求項1,5及び6において,「入力可能な形式」を「入力
可能且つ当該決済端末が前記割引内容を特定可能な形式」に限定する補正。
4審決の理由の要旨
審決の理由は,別紙審決書写し記載のとおりであり,要するに,①請求項
2を新たに追加する補正は,特許法17条の2第5項各号に掲げる事項のい
ずれも目的とするものではないから,本件補正は,同項の規定に違反し,同
法159条1項の規定において読み替えて準用される同法53条1項の規定
により却下すべきものである,②本願の請求項1に係る発明(以下「本願発
明」という。)は,平成24年6月26日の手続補正により補正された特許
請求の範囲の請求項1に記載されたもの(補正前発明)であるところ,本願
発明は,特開2007-233740号公報(甲1。以下「引用文献」とい
う。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び周知技術に基づ
いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項
の規定により特許を受けることができないものである,というものである。
審決が認定した引用発明の内容,本願発明と引用発明との一致点及び相違
点は,以下のとおりである。
ア引用発明の内容
「電子マネー管理サーバ200を介してユーザの携帯電話100にバリ
ューがチャージされることに伴ない,クーポン等に関連するコンテンツを
特定するための情報を配信する電子マネーシステム10であって,
電子マネー管理サーバ200,リモート発行サーバ400は,携帯電話
インターネット網910を介して,携帯電話100と通信し,
電子マネー管理サーバ200は,コンテンツ特定情報DB272を記憶
する記憶部220を有し,当該コンテンツ特定情報DB272は,クーポ
ン券の内容を示すコンテンツデータと,一のコンテンツデータを特定する
店舗IDおよび期限IDを記憶し,
携帯電話100は,バリューのチャージを要求するためのバリュー発行
要求情報を電子マネー管理サーバ200に送信し,
電子マネー管理サーバ200は,バリュー発行要求情報を受信すると,
コンテンツ特定情報DB272から店舗ID,期限IDおよびコンテンツ
データを抽出して携帯電話100に送信するとともに,バリューを書込ま
せるためのバリュー発行情報を携帯電話100に送信し,
携帯電話100は,店舗ID,期限ID,およびコンテンツデータを受
信すると,店舗ID,期限ID,およびコンテンツデータを携帯電話10
0の記憶部120に記憶し,バリュー発行情報を受信すると,バリュー発
行情報から特定されるバリューの額を示すバリュー発行額情報および書込
処理開始要求情報をリモート発行サーバ400へ送信し,
リモート発行サーバ400は,書込み処理開始要求情報を受信すると,
バリュー発行額情報で示される額のバリューを記憶させるためのバリュー
書込実行情報を,携帯電話100に送信し,
携帯電話100は,バリュー書込実行情報を受信すると,書込み前に記
憶されていたバリューの額と新たに書込むバリューの額との合計額のバリ
ューを記憶部192に書込み,
店舗30bに設置されるPOS端末装置600bは,決済処理時に,携
帯電話100に記憶される店舗IDおよび期限IDを読出し,当該POS
端末装置600bのバーコード・磁気カードリーダにより読み取られた商
品に対して値引き・割引を行なうクーポン券が記憶されていれば,取引に
用いるバリューの値引き・割引を行なう,電子マネーシステム10。」
イ一致点
「入金システムであって.
貨幣端末に記憶される貨幣価値の増額要求に応じて,前記貨幣端末に対
して,当該貨幣端末が記憶する貨幣価値の金額を所定金額分だけ増額させ
る金額変更情報を送信する金額変更情報送信手段と,
前記増額要求に応じて,複数の割引内容識別情報にそれぞれ関連づけて
複数の割引内容を記憶する記憶装置から取得される前記複数の割引内容識
別情報のいずれかを,入力される割引内容識別情報に基づいて割引内容の
適用可否を判断する実店舗に設置された決済端末に入力可能な形式で出力
する出力手段と,
を具備した入金システム。」
ウ相違点
相違点1
入金システムが,本願発明では「実店舗に設置された入金端末」であ
るのに対し,引用発明では電子マネー管理サーバ及びリモート発行サー
バである点。
相違点2
本願発明の決済端末は,入金端末と同じ実店舗に設置されるのに対
し,引用発明のPOS端末装置は,実店舗に設置されるものの,入金端
末と同じ実店舗ではない点。
相違点3
決済端末が割引内容の適用可否を判断する際に,本願発明は,その割
引内容を記憶装置から取得するのに対し,引用発明は,どこから割引内
容を取得するのか不明である点。
第3原告主張の取消事由
本件補正は,特許法17条の2第5項2号所定の「特許請求の範囲の減縮」
を目的とするものに該当する。したがって,同項の規定に違反するとして本件
補正を却下した審決の判断は誤りである(取消事由1-A)。
また,補正前発明(審決のいう本願発明)は,引用発明等に基づいて容易に
発明をすることができたものではないから,これと異なる審決の判断は誤りで
ある。そして,補正後発明1は,補正前発明の作用効果を明確化したものにす
ぎないから,補正前発明が引用発明等に基づいて容易に発明をすることができ
たものでない以上,補正後発明1及び2も引用発明等に基づいて容易に発明を
することができたものではない。したがって,本件補正は,特許法17条の2
第6項の要件(独立特許要件)を満たしているから,本件補正を却下した審決
の判断は,結論においても誤りである(取消事由1-B)。
仮に,本件補正を却下した審決の判断に誤りがないとしても,原告に対して
意見聴取及び再補正の機会を与えることなく審決をした本件審判の手続には,
審決を違法とすべき重大な瑕疵がある(取消事由2)。
したがって,いずれにしても審決は違法であり,取り消されるべきである。
1取消事由1-A(特許法17条の2第5項の規定に違反するとして本件補正
を却下した判断の誤り)
審決は,特許法17条の2第5項の規定に違反するとして本件補正を却下
した。審決のこの判断は,請求項2を新たに追加する補正が,いわゆる増項
補正であり,同項2号所定の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに
該当しないことを理由とするものである。
しかし,増項補正が同号所定の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするも
のに該当するか否かについては,請求項の数から外形的,抽象的に判断すべ
きではなく,補正前後の請求項の内容に基づいて,新たに審査すべき必要を
生じさせるものであるか否かを個別的,具体的に検討して判断すべきであ
る。
これを,請求項2を新たに追加する補正についてみると,まず,追加され
た請求項2の内容は,補正前の請求項1の構成要件を本件明細書の発明の詳
細な説明の実施例に即して具体的に記述したものであり,本件明細書に記載
された主要な実施例の形態であることにも鑑みれば,補正前の請求項1の構
成要件を解釈するに当たって審査において考慮されるべき事項でもある。し
たがって,請求項2を新たに追加する補正は,新たに審査すべき必要を生じ
させるものではない。
また,請求項1の補正は,補正前発明の出力手段の出力形式が「当該決裁
端末が前記割引内容を特定可能な形式」であることを限定するものである。
ここで,決裁端末が割引内容の適用可否を判断する以上は,決裁端末に入力
される情報は,当該決裁端末が適用される割引内容を特定できることは当然
であり,請求項1の補正は,補正前発明の技術的特徴を明確化したものにす
ぎない。したがって,請求項1の補正も,新たに審査すべき必要を生じさせ
るものではない。
本件審判における前置審査では,本件補正が特許法17条の2第5項の要
件を充たしていることを前提として審査を行っている(甲15・2頁以
下)。そして,前置報告書(甲15)で掲げられた引用文献1(特開200
5-182682号公報。甲14)は,拒絶査定(甲6)で周知技術の文献
として開示された文献であり,引用文献2(特開2005-128903号
公報)は,新たに周知技術として開示された文献である。このことからも,
本件補正が,新たに審査すべき必要を生じさせるものでなかったことは明ら
かである。
以上のとおり,請求項2を新たに追加する補正は,特許法17条の2第5
項2号所定の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
したがって,特許法17条の2第5項の規定に違反するとして本件補正を
却下した審決の判断は誤りである。
被告は,特許法17条の2第5項2号かっこ書の規定は,補正前の請求項
の発明特定事項を限定して減縮補正することにより,「補正前の当該請求
項」がそのまま「補正後の当該請求項」として維持されるような補正を定め
たものであり,補正前の請求項と補正後の請求項とが一対一の対応関係にあ
ることを前提としていると主張する。
しかし,同項2号かっこ書には,そのような前提関係は記載されていな
い。同項2号かっこ書の趣旨は,既になされた審査結果を有効に活用できる
範囲内で補正が行われたことを要するという点にあり,補正前と補正後の請
求項の対応関係は,厳密に一対一の対応関係にある必要はなく,一対一に準
じる対応関係が認められれば足りるというべきである。そして,請求項2を
追加する補正のように,補正前の請求項の記載要件(補正前の請求項に記載
した発明を特定するために必要な事項)を残しつつ,それを具体化する構成
要件を追加する補正であれば,一対一に準じる対応関係が認められるという
べきである(知財高裁平成21年8月20日判決・平成20年(行ケ)第1
0432号,同庁平成24年3月28日判決・平成23年(行ケ)第102
26号参照)。
被告は,請求項2を新たに追加する補正は,「補正前の請求項の記載要件
(補正前の請求項に記載した発明を特定するために必要な事項)を残しつ
つ,それを具体化する構成要件を追加する補正」ではないから,補正前の請
求項1と補正後の請求項1及び2との間に一対一に準じる対応関係は認めら
れないと主張する。しかし,以下のとおり,同主張は失
当である。
ア請求項1の補正について
被告は,請求項1の補正は,出力の「形式」についての実質的限定を含
むから,「補正前の請求項の記載要件を残しつつ」する補正ではないと主
張する。
しかし,請求項1の補正は,補正前の「形式」を「且つ当該決済端末が
前記割引内容を特定可能な形式」とするものであるから,補正前の「請求
項に記載した発明を特定するために必要な事項」を残しつつ,それに出力
の形式についての実質的な限定を行うことで,「請求項に記載した発明を
特定するために必要な事項を限定」(特許法17条の2第5項2号かっこ
書)した補正であって,「補正前の請求項の記載要件(補正前の請求項に
記載した発明を特定するために必要な事項)を残しつつ,それを具体化す
る構成要件を追加する補正」であることは明らかである。
イ請求項2後半の補正について
被告は,補正前の請求項1に記載された「実店舗に設置された決済端末
に入力可能な形式」における「形式」について,新たに追加した請求項2
の後半において,「前記出力手段が出力する前記形式は,前記決済端末が
特定する割引内容に関連づけられた前記割引内容識別情報である」とする
補正(以下「請求項2後半の補正」という。)は,実質的に,補正前の請
求項1の「割引内容識別情報」の「前記形式」に関する限定を除くもので
あって,「補正前の請求項の記載要件(を残しつつ,それ)を具体化する
構成要件を追加する補正」ではないと主張する。
しかし,補正後の請求項2は,補正後の請求項1に従属するものであ
り,補正後の請求項2の「前記形式は,・・・前記割引内容識別情報であ
ること」と,補正後の請求項1の「前記実店舗に設置された決済端末に・
・・特定可能な形式」である点とは,両立する。補正後の請求項1におい
ては,出力手段で出力される情報は,「割引内容識別情報」である必要は
なく,「決済端末に入力可能旦つ当該決済端末が前記割引内容を特定可能
な形式」の情報であれば足りるところ,請求項2後半の補正は,この情報
が「割引内容識別情報」であることを限定するものであるから,請求項1
の「前記形式」を前提としたものであり,「前記形式」に該当する限定を
除くものではなく,請求項1を正に限定するものである。したがって,請
求項2後半の補正は,「補正前の請求項の記載要件を残しつつ,それを具
体化する構成要件を追加する補正」である。
被告は,仮に,補正前の請求項1と補正後の請求項1及び2との間に一対
一に準じる対応関係が認められるとしても,請求項2を新たに追加する補正
は,特許法17条の2第5項2号所定の「特許請求の範囲の減縮」を目的と
するものに該当しないと主張する。しかし,以下のとお
り,同主張は失当である。
ア請求項2後半の補正について
被告は,請求項2後半の補正は,実質的に補正前の請求項1の「形式」
の限定を除くものであって,そもそも特許請求の範囲の減縮に当たらない
と主張する。
しかし,同主張が失当であることは,前記イのとおりである。
イ請求項2前半の補正について
被告は,補正前の請求項1に記載された「複数の割引内容識別情報にそ
れぞれ関連づけて複数の割引内容を記憶する記憶装置」における「記憶装
置」について,新たに追加した請求項2の前半において,「前記記憶装置
は,前記実店舗に設置されており」とする補正(以下「請求項2前半の補
正」という。)は,記憶装置に記憶される情報の内容ではなく,記憶装置
自体(ハードウェアとしての記憶装置)の配置を特定したものであるか
ら,請求項2前半の補正は,「発明を特定するために必要な事項を限定す
るもの」に当たらないと主張する。
しかし,配置場所を特定することと,補正前後の請求項1において,記
憶される情報の内容によって特定された「記憶装置」とは矛盾するもので
はない。補正後の請求項1における「記憶装置」は,実店舗内あるいは実
店舗外の例えばデータセンター等に設置された記憶装置を含んでいる。請
求項2は,このうち,「実店舗内に設置された記憶装置」に発明を限定す
るものである。このように,請求項2前半の補正は,請求項1の発明の技
術的範囲内において,さらに発明を限定するものであるから,「発明を特
定するために必要な事項を限定するもの」にほかならない。
ウ課題の同一性について
被告は,補正後発明2の解決しようとする課題は,実質的に,補正前発
明の課題から「クーポンDBとクーポン情報検索機能を入金端末2に内蔵
し,入金端末2が単独でクーポン券6を発行するように構成すること」
(本件明細書【0105】)により,入金端末自体を割引情報提供システ
ムとして機能させるという,新たな解決しようとする課題に変更されたと
いうべきであるから,「解決しようとする課題が同一であるもの」という
ことはできないと主張する。
しかし,「発明の解決しようとする課題が同一であること」との要件
は,課題が一致することを要求するものではない。特許庁の審査基準
「4.3.3(2)解決しようとする課題の同一について」においても,
発明の解決しようとする課題の同一性は,一致よりも概念的に広い場合に
認められている。
補正前発明の課題は,被告が主張するとおり,「電子マネーとクーポン
を関連づけることにより,電子マネーの利用と商品の販売を促進するこ
と」(本件明細書【0007】)である。
補正前発明は,記憶装置と入金端末,決済端末とが大規模なネットワー
クにより構成される場合を対象に含むものであるが,これに限られるもの
ではなく,その変形例の記載や請求項1の記載からも明らかなとおり,店
舗内に記憶装置が配置されている小規模なネットワークを含むものであ
り,「大規模・小規模双方の割引情報システムにおいて,電子マネーと
クーポンを関連づけることにより,電子マネーの利用と商品の販売を促進
すること」が課題とされている。
一方,補正後発明2については,店舗内に記憶装置を配置するとして
も,入金端末とは独立して記憶装置を配置する場合も,その技術的範囲に
含まれるものである。その種の配置例としては,例えば,記憶装置を店舗
内のネットワーク上の記憶サーバとして独立して配置するほか,他の店舗
内ネットワーク上の装置(決済端末や,在庫管理システム)内に配置する
こともできる。
このように,補正後発明2は,「入金端末自体を割引情報提供システム
として機能させる」場合に限定されるものでないから,その課題として
「入金端末自体を割引情報提供システムとして機能させる」ことを掲げる
のは不適当である。補正後発明2は,店舗内に記憶装置が配置されている
形態に限定することで,店舗内という小規模なネットワークで構成される
割引情報提供システムを対象とするものであるから,その課題は,「店舗
内という小規模割引情報システムにおいて,電子マネーとクーポンを関連
づけることにより,電子マネーの利用と商品の販売を促進すること」とい
う点にある。
そうすると,補正前発明と,補正後発明2とでは,その解決しようとす
る課題は,「電子マネーとクーポンを関連づけることにより,電子マネー
の利用と商品の販売を促進すること」という点で一致し,前者が「大規模
・小規模双方の割引情報システム」を対象とするのに対して,後者は,
「店舗内という小規模割引情報システム」を対象とする点で相違する。そ
して,後者が対象とする「店舗内という小規模割引情報システム」は前者
が対象とする「大規模・小規模双方の割引情報システム」に含まれるので
あって,両発明の課題は同種のものであり,補正後発明2は,補正前発明
の対象を限定したものにすぎないから,特許庁の審査基準によっても,発
明の課題は同一であると認めるべき場合に当たる。
2取消事由1-B(補正前発明は引用発明等に基づいて容易に発明をすること
ができたものであるとした判断の誤り)
以下のとおり,補正前発明(審決のいう本願発明)は,引用発明等に基づい
て容易に発明をすることができたものではないから,これと異なる審決の判断
は誤りである。
そして,補正後発明1は,補正前発明の作用効果を明確化したものにすぎな
いから,補正前発明が引用発明等に基づいて容易に発明をすることができたも
のでない以上,補正後発明1及び2も引用発明等に基づいて容易に発明をする
ことができたものではない。したがって,本件補正は,特許法17条の2第6
項の要件(独立特許要件)を満たしているから,本件補正を却下した審決の判
断は,結論においても誤りである(
補正前発明と引用発明との対比
補正前発明(審決のいう本願発明)と引用発明との対比に係る審決の認定
には,以下の誤りがある。
ア審決は,引用発明の「店舗IDおよび期限ID」は,一のコンテンツ
データを特定する識別情報であり,補正前発明の「割引内容識別情報」に
相当するとした。
しかし,引用発明において,補正前発明の「割引情報」に相当する
「クーポン券の内容を示すコンテンツデータ」は,「店舗IDおよび期限
ID」という店舗・期限情報に関連づけて記憶されているのに対し,補正
前発明の「割引内容識別情報」とは,実店舗で使用可能な複数の割引内容
についてそれらを識別することが可能な識別情報である点で相違する。
イ審決は,引用発明における「記憶部220」は,補正前発明の「複数の
割引内容識別情報にそれぞれ関連づけて複数の割引内容を記憶する記憶装
置」に相当するとした。
しかし,引用発明における電子マネー管理サーバ200の「記憶部22
0」は,クーポン券の内容を示すコンテンツデータと,当該コンテンツ
データを特定する店舗・期限情報を記憶するものであり,補正前発明の
「割引内容識別情報」に相当する情報に関連づけて記憶されているもので
はない。したがって,引用発明の「記憶部220」と,補正前発明の「複
数の割引内容識別情報にそれぞれ関連づけて複数の割引内容を記憶する記
憶装置」とでは,「複数の割引内容をこれらを識別可能な情報に関連づけ
て記憶する記憶装置」という範囲に限って共通する。
ウ審決は,引用発明の「店舗30bに設置されるPOS端末装置600
b」は,入力される割引内容識別情報に基づいて割引内容の適用可否を判
断する実店舗に設置された決済端末といえ,引用発明の「POS端末装置
600b」と,補正前発明の「入力される割引内容識別情報に基づいて前
記記憶装置から取得される割引内容の適用可否を判断する前記実店舗に設
置された決済端末」は,「入力される割引内容識別情報に基づいて割引内
容の適用可否を判断する実店舗に設置された決済端末」の点で共通すると
した。
しかし,引用発明の「店舗30bに設置されるPOS端末装置600
b」は,「決済処理時に,携帯電話100に記憶される店舗IDおよび期
限IDを読出し,当該POS端末装置600bのバーコード・磁気カード
リーダにより読み取られた商品に対して値引き・割引を行なうクーポン券
が記憶されていれば,取引に用いるバリューの値引き・割引を行なう」か
ら,貨幣端末内に記憶された割引情報に基づいて割引内容の適用可否を判
断する実店舗に設置された決済端末である。
審決は,「割引内容が,どのように取得されたかは不明であり,」とす
るが,引用文献【0361】の記載からも明らかなとおり,割引処理(明
細書図34参照)においては,POS端末装置600bは,携帯電話10
0の記憶部192に構築されたサービス享受用の記憶領域内に記憶されて
いる割引情報を取得している。
また,引用発明におけるこの店舗30bは,入金端末を設置した実店舗
ではない点は審決が認定するとおりである。上記店舗・期限情報,コンテ
ンツ情報がPOS端末装置により読み出され,商品の値引き等に利用され
るから,その形式は,補正前発明の「決済端末に入力可能な形式」に相当
することは認める。
したがって,引用発明の「POS端末装置600b」と,補正前発明の
「入力される割引内容識別情報に基づいて前記記憶装置から取得される割
引内容の適用可否を判断する前記実店舗に設置された決済端末」は,「入
力される情報に基づいて割引内容の適用可否を判断する実店舗に設置され
た決済端末」の点で共通するにとどまる。
エ審決は,引用発明の電子マネー管理サーバ200と補正前発明とが,
「前記増額要求に応じて,複数の割引内容識別情報にそれぞれ関連づけて
複数の割引内容を記憶する記憶装置から取得される前記複数の割引内容識
別情報のいずれかを,入力される割引内容識別情報に基づいて割引内容の
適用可否を判断する実店舗に設置された決済端末に入力可能な形式で出力
する出力手段」の点で共通するとした。
しかし,引用発明の電子マネー管理サーバ200が,「バリュー発行要
求情報を受信すると、コンテンツ特定情報DB272から店舗ID、期限
IDおよびコンテンツデータを抽出して携帯電話100に送信する」ため
の手段と,補正前発明の「前記増額要求に応じて,複数の割引内容識別情
報にそれぞれ関連づけて複数の割引内容を記憶する記憶装置から取得され
る前記複数の割引内容識別情報のいずれかを,入力される割引内容識別情
報に基づいて前記記憶装置から取得される割引内容の適用可否を判断する
前記実店舗に設置された決済端末に入力可能な形式で出力する出力手段」
は,「前記増額要求に応じて,複数の割引内容をこれらを識別可能な情報
に関連づけて記憶する記憶装置から取得される前記識別可能な情報のいず
れかを,入力される情報に基づいて割引内容の適用可否を判断する実店舗
に設置された決済端末に入力可能な形式で出力する出力手段」の点で共通
するにとどまる。
補正前発明と引用発明との一致点及び相違点
(審決のいう本願発明)と引用発明との一致
点及び相違点に係る審決の認定には誤りがあり,正しくは,次のとおり認定
されるべきである(下線部は,審決の認定と異なる箇所である。)。
ア一致点
「入金システムであって,
貨幣端末に記憶される貨幣価値の増額要求に応じて,前記貨幣端末に対
して,当該貨幣端末が記憶する貨幣価値の金額を所定金額分だけ増額させ
る金額変更情報を送信する金額変更情報送信手段と,
前記増額要求に応じて,複数の割引内容をこれらを識別可能な情報に関
連づけて記憶する記憶装置から取得される前記識別可能な情報のいずれか
を,入力される情報に基づいて割引内容の適用可否を判断する実店舗に設
置された決済端末に入力可能な形式で出力する出力手段と,
を具備した入金システム。」
イ相違点1
入金システムが,補正前発明では「実店舗に設置された入金端末」であ
るのに対し,引用発明では携帯電話のインターネット網を介して接続され
る電子マネー管理サーバ及びリモート発行サーバである点。
ウ相違点2
補正前発明の決済端末は,入金端末と同じ実店舗に設置されるのに対
し,引用発明においては,POS端末装置は,実店舗に設置される一方,
入金操作は,ユーザが所有して持ち運びが可能な携帯端末から電子マネー
管理サーバにアクセスして行うものであり,決済端末と入金端末とが同じ
実店舗に設置されるわけではない点。
エ相違点3
決済端末が割引内容の適用可否を判断する際に,補正前発明は,割引内
容を同じ実店舗の入金端末が記憶装置から読み出して出力した割引内容識
別情報の入力に基づいて当該記憶装置から取得するのに対し,引用発明
は,携帯電話に格納されている店舗IDおよび期限IDに基づいて同じく
携帯電話に格納されているコンテンツ情報から取得した割引内容を利用す
る点。
阻害要因の存在
引用発明は,「店舗に関する情報として顧客にとって関心の高い店舗の情
報を提供することにより,店舗にとって効果的に来店を促すこと」(引用文
献【0004】)を目的としており,また,実店舗内での入金機でのチャー
ジに問題があるとして,いつでもどこでもチャージを可能とする点等を効果
とするものであり,実店舗内の入金機によるチャージを前提とした入金シス
テムを積極的に排除している(同【0004】,【0490】,【050
9】,【0510】)。
したがって,引用発明を店舗内の入金機を用いる構成とした場合には,引
用発明の効果が損なわれ,引用発明の目的を放棄することになるから,引用
発明に周知技術を適用することには阻害要因が存在する。
相違点3は容易想到ではないこと
審決は,相違点3について,引用発明のPOS端末装置は,携帯電話から
読み出した店舗IDおよび期限IDと,バーコード・磁気カードリーダによ
り読み取られた商品の情報とを用いて,値引き・割引を行なうが,そのため
には,携帯電話から読み出した店舗IDおよび期限IDに基づいて,クーポ
ンの割引内容を特定する必要があることは明らかであり,これらの情報は,
記憶部220のコンテンツ特定情報DBに記憶されているから,この記憶部
から,店舗IDおよび期限IDに基づいて割引内容を取得することは適宜な
し得ることであるとして,引用発明において,POS端末装置すなわち決済
端末が,割引内容を記憶装置から取得することは容易に想到し得ることであ
ると判断している。
しかし,補正前発明においては,入金端末は,同じ店舗の決済端末で割引
が可能となる割引内容を示す割引内容識別情報を両端末に接続された記憶装
置から読み出して出力するものであるため,在庫排出したい商品のクーポン
情報を優先して出力したり(本件明細書【0083】),在庫数に応じて
クーポン発行枚数を制限したり(同【0086】)することができる。ま
た,店舗の入金端末でチャージを行う顧客は,当該店舗で買い物を行う蓋然
性が高く,このような顧客に対してクーポンを提供することで顧客にとって
も利便性が高まるとともに,電子マネーの利用と商品の販売を共に促進する
ことができる(同【0112】)。このように,補正前発明においては,
クーポンの発券とその使用とが同一店舗内であって時間的・場所的に近接し
ていることから,柔軟なクーポン発券が可能となる。
これに対し,引用発明では,クーポン情報は,電子マネー管理サーバ20
0の記憶装置内ではなく,端末である携帯電話内に記憶されていることが明
記されており,クーポン発券とその使用とは,必ずしも時間的・場所的に接
近しているとは限らないため,クーポン発券の柔軟性を高めることは困難で
ある。
上記の点は,補正前発明の顕著な効果であり,引用発明及び周知技術から
当業者が容易に想到し得ることではない。
まとめ
以上のとおり,補正前発明は,引用発明等に基づいて当業者が容易に発明
をすることができたものではない。
そして,補正後発明1は,補正前発明の出力手段の出力形式が「当該決済
端末が前記割引内容を特定可能な形式」であることを限定することにより,
補正前発明の技術的特徴を明確化し作用効果を含む補正前
発明の作用効果を明確化したものにすぎない。
そうすると,補正前発明が引用発明等に基づいて容易に発明をすることが
できたものでない以上,補正後発明1及び2も引用発明等に基づいて容易に
発明をすることができたものではない。
したがって,本件補正は,特許法17条の2第6項の要件(独立特許要
件)を満たしているから,本件補正を却下した審決の判断は,結論において
も誤りである。
3取消事由2(手続上の瑕疵)
本件補正の却下に至る経緯
本件審判において前置審査を担当した審査官は,平成25年4月16日,
当時の原告代理人と電話で面談を行い(甲17),同月19日付けで前置報
告書(甲15の2枚目。以下「本件前置報告書」という。)を作成した。本
件前置報告書には,「請求項1,2,4-7についての補正は限定的減縮を
目的としている。」と記載されている。
本件審判を担当した審判官は,同年5月24日付けで,原告に対して,本
件前置報告書を利用した審尋(その書面(甲15)を「本件審尋書」とい
う。)を行った。本件審尋書には,本件前置報告書の内容が記載されるとと
もに,「この審判事件の審理は,今後,この《前置報告書の内容》を踏まえ
て行うことになります。」と記載されていた。
また,上記電話面談において,審査官は,本件補正が特許法17条の2第
5項違反として却下される可能性があることについては何ら言及していな
かった。
以上の点に照らせば,原告としては,本件補正については問題がなく,補
正後の請求項1及び2についての進歩性の判断のみが審決における争点であ
ると認識してしかるべき状況にあった。
それにもかかわらず,審査官及び審判官から原告に対して増項補正に問題
があることは全く通知されず,原告が意見を陳述する機会も与えられないま
ま,平成26年1月20日,増項補正を理由として本件補正を却下して審判
請求不成立の審決がなされた。
手続上の瑕疵
ア本件審判の手続においては,補正却下の前に意見聴取・再補正の機
会が与えられるべきであった。
すなわち,拒絶査定を受けた場合とは異なり,拒絶査定不服審判請
求を不成立とする拒絶審決を受けたときには,再補正を行う機会がな
いので,出願人にとって過酷な結果となることに鑑みれば,その機会
を与えないことが,特許出願審査手続の適正を貫くための基本的な理念
を欠くものとして,審判手続を含む特許出願審査手続における適正手続違
反があったものとすべき場合もあり得るというべきである(知財高裁平
成23年10月4日判決・平成22年(行ケ)第10298号(以下
「平成23年知財高裁判決」という。)参照)。
本件審判において,請求項2の追加を理由に本件補正を却下すると
の審査官・審判体の意向が原告に伝えられていた場合,補正後の請求
項2が補正後の請求項1に従属し,これを限定するものにすぎない以
上,原告としては請求項2の維持に固執する必要性が乏しく,原告が
請求項2の削除やそれを含む新たな補正によって特許法第17条の2
第5項違反を回避する対応をとる可能性があることは,審査官・審判
体にも十分に予測可能であったというべきであり,他方,補正却下に
伴う原告の不利益は大きい。
したがって,審判官は,請求項2の追加を理由に本件補正を却下す
るとの意向を原告に伝え,意見聴取及び再補正の機会を与えるべきで
あった。これを怠った本件審判の手続は,特許出願審査手続の適正を
貫くための基本的な理念を欠くものとして,審判手続を含む特許出願審査
手続における適正手続違反があったものいうべきである。
イ被告は,補正却下の決定の前に意見聴取及び再補正の機会を与える手続
は,特許法上,必要な手続として規定されていないと主張する。
しかし,行政手続法1条の規定する「行政運営における公正の確保と透
明性の向上」という目的は,およそ行政機関が行う手続であれば実現され
るべきであるから,特許法に詳細な定めがないとしても,審査官及び審判
官は,審査に当たってその心証を出願人に可能な限り開示して,その意見
を聴取することが求められているというべきである。本件審判において
も,補正却下に際しては,特許法上手続的な定めがないとしても,原告に
対して意見聴取の機会を与えることが適正な手続である。特に,特許法1
7条の2第5項の規定違反は特許の無効要件とされておらず,もっぱら審
査の迅速化を図るための規定にすぎない。そして,補正却下の前に意見聴
取等の機会を設けたとしても,これと審査の迅速化とを両立させることは
十分に可能であるし,むしろ,意見聴取等によって,出願人と審査官及び
審判官の認識を共有することで審査迅速化にも資するのであり,本件のよ
うな無用な審決取消訴訟の提起を防止する有効な方法である。
したがって,出願人に告知や聴聞の機会を付与することなく補正を却下
した本件審判の手続には,単に妥当な措置を欠いたというにとどまらず,
行政手続上の違法があるといわざるを得ない。
ウ審決が前置審査を覆して補正を却下したことは,審判手続上の信義則に
反する。
知財高裁平成20年10月30日判決・平成19年(行ケ)第1033
5号(以下「平成20年知財高裁判決」という。)は,審決に至るまで審
判請求時の増項補正について問題視されていなかったにもかかわらず,審
決が増項補正の違法を指摘したのみで補正全体を却下した事案において,
「あらかじめ増項補正の点についてその違法性を拒絶理由通知等によって
認識させ検討撤回等の機会を付与すべきであったか,又は,そのような機
会を付与しない場合には増項補正を判断し,併せて,その余の補正事項を
判断すべきであったものというべきであり,そのいずれもしなかったこと
には違法があるものといわざるを得ず,審決は,違法として取消しを免れ
ない。」と判示している。
本件は,増項補正について何ら言及のなかった上記事案と異なり,本件
前置報告書において,本件補正が「限定的減縮を目的としている」と明記
し,特許法17条の2第5項の要件を満たしているとして,増項補正を許
容する認定を行い,しかも,本件審尋書において「この審判事件の審理
は,今後,この《前置報告書の内容》を踏まえて行うことになります」と
記載して,出願人に,審判合議体が本件前置報告書の内容を前提として審
判を行うものと期待させていたものである。
審判合議体がその審理において,前置報告書と異なる判断に至った場合
には,速やかにその判断内容を出願人に開示して,出願人の意見を聴く機
会を設けることが,審判の争点を明確化し,審判手続における公正の確保
と透明性の向上という目的に資するのであって,そのような機会を設ける
ことなく,補正を却下した手続は,審判手続における公正の確保と透明性
の向上に反するものであって,審判請求人の審判手続に対する信頼を損な
い,審判手続上の信義則にも反する。
本件審判の手続は,平成20年知財高裁判決の事案よりも審判請求人の
審判手続に対する信頼を損なう点では重大であり,審判手続上の信義則に
反する。したがって,平成20年知財高裁判決に照らしても,本件審判の
手続は,違法というべきである。
以上のとおりであるから,本件審判の手続は,違法として取り消される
べきである。
第4被告の主張
1取消事由1-A(特許法17条の2第5項の規定に違反するとして本件補正
を却下した判断の誤り)について
原告は,いわゆる増項補正が特許法17条の2第5項2号所定の「特許請
求の範囲の減縮」を目的とするものに該当するか否かについては,請求項の
数から外形的,抽象的に判断すべきではなく,補正前後の請求項の内容に基
づいて,新たに審査すべき必要を生じさせるものであるか否かを個別的,具
体的に検討して判断すべきであり,本件補正は新たに審査すべき必要を生じ
させるものではないから,請求項2を新たに追加する補正は同号所定の「特
許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当すると主張する(前記第3の

しかし,特許法17条の2第5項は,出願人の便宜と迅速,的確かつ公平
な審査との調整の趣旨に基づき,例外的に一定の範囲に限って補正を認めた
規定である。そして,同項2号かっこ書は,「(第36条第5項の規定によ
り請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつ
て,その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に
記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である
ものに限る。)」と規定している。この規定は,補正前の請求項の発明特定
事項を限定して減縮補正することにより,「補正前の当該請求項」がそのま
ま「補正後の当該請求項」として維持されるような補正を定めたものであ
り,補正前の請求項と補正後の請求項とが一対一の対応関係にあることを前
提としている。したがって,一対一の対応関係にないような請求項を増加さ
せる補正は,同号かっこ書の規定に該当せず,同号所定の「特許請求の範囲
の減縮」を目的とするものに該当しない。審査負担の多寡のみに基づく原告
の上記主張は,そもそも失当である。
そして,請求項2が新たに追加されたことにより,補正後発明は「入金端
末」,「決済端末」,「記憶装置」を同じ店舗に設置する1店舗のシステム
が前提となるところ,本件明細書の主要な実施例は,入金端末2と店舗サー
バ7を,通信ネットワークにより接続して大規模な割引情報提供システムと
して機能させるものであって,本件補正前には,記憶装置等を含む1店舗の
システムという新たに導入された観点では必ずしも審査が行われていない。
したがって,請求項2を新たに追加する補正により,引用文献を含む先行技
術文献等の再調査を行い,新規性・進歩性について新たな審理をすることが
必要となる。本来審査結果を有効に活用すべき前置審査のサーチ結果とし
て,スタンドアロン型の装置の文献(甲14の図2,図3参照)を含む新た
な組合せを提示するに至ったことはその証左である。
また,請求項2後半の補正によって,「形式」が,「バーコード」や「電
子マネーカード」のような,機械読み取りを可能とする「割引内容識別情
報」の表示形式,記憶媒体形式を指すのか,「割引内容識別情報」それ自体
をいうのかが不明りょうとなったため,「形式」について新たな審理をする
ことが必要となる。原告が請求項2の記載要件についての異なる解釈を示し
ていることはその証左である。
以上のとおり,請求項2を新たに追加する補正は,新たに審査すべき必要
を生じさせるものである。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
原告は,補正前と補正後の請求項との対応関係は,厳密に一対一の対応関
係にある必要はなく,一対一に準じる対応関係が認められれば足り,請求項
2を新たに追加する補正のように,補正前の請求項の記載要件(補正前の請
求項に記載した発明を特定するために必要な事項)を残しつつ,それを具体
化する構成要件を追加する補正であれば,一対一に準じる対応関係が認めら
れるというべきである
しかし,以下のとおり,本件補正において,請求項1の補正及び請求項2
後半の補正は,原告のいう「補正前の請求項の記載要件を残しつつ,それを
具体化する構成要件を追加する補正」ではないから,補正前の請求項1と補
正後の請求項1及び2との間に一対一に準じる対応関係は認められない。
ア請求項1の補正について
補正前の請求項1に記載された入金端末の出力手段が出力する「前記実
店舗に設置された決済端末に入力可能な形式」は,本件明細書(甲3)
に,「店舗の会計担当者が決済端末3に当該数字を入力したり」(【00
20】),「決済端末3は,顧客の購入する商品やクーポン券6のクーポ
ンIDをバーコードにより認識する。」(【0023】),「電子マネー
カード5にクーポン情報を記憶させるように構成することもできる。」
(【0106】)と記載されていることを参照すれば,例えば「バーコー
ド」や「数字」,「電子マネーカード」に記憶されるデータのような,会
計担当者が決済端末に入力したり,決済端末が機械読み取りによる特定を
可能とする,割引内容識別情報の表示(クーポン券への印字・印刷)形式
や記録形式であると理解できる。
一方,補正後の請求項1は,「決済端末に入力可能な形式」であったも
のが,「当該決済端末が」と端末(装置)を主語として「前記割引内容を
特定可能な形式」で出力すると規定することにより,実質的に本件明細書
【0020】の「店舗の会計担当者が決済端末3に当該数字を入力」にお
ける「店舗の会計担当者」のような人が端末に入力する場合が除かれ,実
質的にバーコードなど機械式入力に対応した形式に限定されると理解でき
る。
そうすると,請求項1の補正は,出力の「形式」についての実質的な限
定を含むから,「補正前の請求項の記載要件を残しつつ」する補正ではな
い。
イ請求項2後半の補正について
請求項2後半の「割引内容識別情報」の「形式」は,「割引内容識別情
報」そのものであると規定されており,割引内容識別情報の表示形式や記
録形式などの「形式」を限定するものではない。
したがって,請求項2後半の補正は,実質的に補正前の請求項1の「割
引内容識別情報」の「前記形式」に関する限定を除くものであって,「補
正前の請求項の記載要件(を残しつつ,それ)を具体化する構成要件を追
加する補正」ではない。
仮に,補正前の請求項1と補正後の請求項1及び2との間に一対一に準じ
る対応関係が認められるとしても,以下のとおり,請求項2を新たに追加す
る補正は,特許法17条の2第5項2号所定の「特許請求の範囲の減縮」を
目的とするものに該当しない。
ア請求項2後半の補正について
のとおり,請求項2後半の補正は,実質的に補正前の請求項1
の「形式」の限定を除くものであって,そもそも特許請求の範囲の減縮に
当たらない。
イ請求項2前半の補正について
補正前の請求項1には,「複数の割引内容識別情報にそれぞれ関連づけ
て複数の割引内容を記憶する記憶装置」と記載されており,記憶される情
報の内容によって特定されている。
これに対し,補正後の請求項2には,「記憶装置」について,「前記記
憶装置は,前記実店舗に設置されており」と記載されており,請求項2前
半の補正は,記憶装置に記憶される情報の内容ではなく,記憶装置自体
(ハードウェアとしての記憶装置)の配置を特定したものである。
したがって,請求項2前半の補正は,「発明を特定するために必要な事
項を限定するもの」に当たらない。
ウ課題の同一性について
本件明細書(甲3)の記載(【0007】,【0016】,【001
7】,【0051】,【0055】~【0056】,【0095】,【0
096】,【0105】)によれば,本件補正に係る特許請求の範囲に記
載された「記憶装置」は,本件明細書の実施の形態では基本的に,「店舗
サーバ7」のデータ格納部71などから構成された「記憶部69」に相当
し,店舗サーバ7は,データ格納部71に形成されたデータベースを用い
てクーポン情報,すなわち割引情報を管理するものであり(【0056】
等),これにより,入金端末2と店舗サーバ7を,通信ネットワークによ
り接続して大規模な割引情報提供システムとして機能させるものである
(【0096】)。
一方,本件実施例の「変形例3」によれば,クーポンデータベース
(クーポンDB)とクーポン情報検索機能を入金端末2に内蔵し,「入金
端末2が単独で」クーポン券6を発行するように構成すれば,入金端末2
自体が,割引情報提供システムとして機能することとなる。そして,「記
憶装置」が入金端末と同じ「前記実店舗」に設置される補正後の請求項2
は,変形例3のような小規模な割引情報提供システムを含むものである。
そうすると,補正後発明2の解決しようとする課題は,実質的に,補正
前発明の課題から,「クーポンDBとクーポン情報検索機能を入金端末2
に内蔵し,入金端末2が単独でクーポン券6を発行するように構成するこ
と」(【0105】)により入金端末自体を割引情報提供システムとして
機能させるという,新たな解決しようとする課題に変更されたというべき
であり,「解決しようとする課題が同一であるもの」ということはできな
い。
2取消事由1-B(補正前発明は引用発明等に基づいて容易に発明をすること
ができたものであるとした判断の誤り)について
補正前発明と引用発明との対比について
原告は,補正前発明(審決のいう本願発明)と引用発明との対比に係る審
決の認定には誤りがあると主張する,以下のと
おり,審決の認定に誤りはない。
ア引用発明の「店舗IDおよび期限ID」は,一のコンテンツデータを特
定するものであって,「店舗IDおよび期限ID」からなる識別情報は,
店舗で使用できる,クーポン券の内容を示す一のコンテンツデータを識別
する(引用文献の図7,【0107】,【0396】)。
したがって,審決が,引用発明の「店舗IDおよび期限ID」を補正前
発明の「割引内容識別情報」に相当すると認定したことに誤りはない。
イ引用発明の「記憶部220」は,コンテンツ特定情報DB272におい
て,クーポン券の内容を示すコンテンツデータと,一のコンテンツデータ
を特定する「店舗IDおよび期限ID」とを記憶する(引用文献の図3,
図7,【0066】,【0101】)。コンテンツデータは補正前発明の
「割引内容」に相当し,上記アのとおり「店舗IDおよび期限ID」は補
正前発明の「割引内容識別情報」に相当するから,引用発明の「記憶部2
20」は,複数の割引内容識別情報にそれぞれ関連づけて複数の割引内容
を記憶するものである。
したがって,引用発明の「記憶部220」を,補正前発明の「複数の割
引内容識別情報にそれぞれ関連づけて複数の割引内容を記憶する記憶装
置」に相当すると認定したことに誤りはない。
ウ引用発明のPOS端末装置は,決済処理時に,携帯電話に記憶される店
舗IDおよび期限IDを読出すが,審決が認定したとおり,コンテンツ自
体を読出すかどうかは記載がなく不明である。
携帯電話の記憶部192から読み出される情報が,「店舗IDおよび期
限ID」であって,コンテンツ自体でないことは,【0394】の「図
34を参照して,ステップS715で,データ処理部310は,携帯電話
100に対してコンテンツを特定するための店舗IDおよび期限IDを要
求する要求情報を携帯電話100に送信させるように,チップリーダライ
タ390を制御する。」の記載,【0395】の「携帯電話100の制御
部191は,図34のステップS715からの要求情報に対して,記憶部
192に構築されたサービス享受用の記憶領域に記憶される店舗IDおよ
び期限IDを読出して,非接触通信部193を介し要求元の特定取引装置
に送信する処理を行なう。」の記載から明らかである。
そして,店舗IDおよび期限IDは「コンテンツを特定するための」も
のであるから,POS端末装置(特定取引装置)は,店舗IDおよび期限
IDに基づいて携帯電話に記憶されているコンテンツを特定し,バーコー
ド・磁気カードリーダにより読み取られた商品に対して値引き・割引を行
なうクーポン券が記憶されていれば,取引に用いるバリューの値引き・割
引を行なうものである。したがって,審決が,「引用発明の「POS端末
装置600b」と,補正前発明の「入力される割引内容識別情報に基づい
て前記記憶装置から取得される割引内容の適用可否を判断する前記実店舗
に設置された決済端末」は,「入力される割引内容識別情報に基づいて割
引内容の適用可否を判断する実店舗に設置された決済端末」の点で共通す
る。」と認定したことに誤りはない。
原告は,その主張の根拠として【0361】の記載を引用しているが,
この段落に記載された「記憶領域に記憶されたコンテンツを特定するため
の情報が読出されて」とは,コンテンツ(すなわち,割引内容)を読み出
すことではなく,「店舗IDおよび期限ID」(すなわち,割引内容識別
情報)を読み出すことである。
エ前記アないしウのとおり,引用発明の「店舗IDおよび期限ID」は,
補正前発明の「割引内容識別情報」に相当する。また,引用発明の「記憶
部220」は,補正前発明の「複数の割引内容識別情報にそれぞれ関連づ
けて複数の割引内容を記憶する記憶装置」に相当する。また,引用発明の
POS端末装置と,補正前発明の「入力される割引内容識別情報に基づい
て前記記憶装置から取得される割引内容の適用可否を判断する前記実店舗
に設置された決済端末」とは,「入力される割引内容識別情報に基づいて
割引内容の適用可否を判断する実店舗に設置された決済端末」の点で共通
する。
したがって,審決が,引用発明の「バリュー発行要求情報を受信する
と,コンテンツ特定情報DB272から店舗ID,期限IDおよびコンテ
ンツデータを抽出して携帯電話100に送信する」ための手段と,補正前
発明の「前記増額要求に応じて,複数の割引内容識別情報にそれぞれ関連
づけて複数の割引内容を記憶する記憶装置から取得される前記複数の割引
内容識別情報のいずれかを,入力される割引内容識別情報に基づいて前記
記憶装置から取得される割引内容の適用可否を判断する前記実店舗に設置
された決済端末に入力可能な形式で出力する出力手段」とを,「前記増額
要求に応じて,複数の割引内容識別情報にそれぞれ関連づけて複数の割引
内容を記憶する記憶装置から取得される前記複数の割引内容識別情報のい
ずれかを,入力される割引内容識別情報に基づいて割引内容の適用可否を
判断する実店舗に設置された決済端末に入力可能な形式で出力する出力手
段」の点で共通すると認定したことに誤りはない。
補正前発明と引用発明との一致点及び相違点の認定について
原告は,補正前発明(審決のいう本願発明)と引用発明との一致点及び相
違点に係る審決の認定には誤りがあ
し,以下のとおり,審決の認定に誤りはない。
ア一致点の認定について
りはないから,一致点に係る認定にも誤りはない。
イ相違点1の認定について
原告が主張する相違点1は,審決が認定した相違点1において,電子マ
ネー管理サーバ及びリモート発行サーバが「携帯電話のインターネット網
を介して接続される」点を追加したものであるところ,補正前発明は,貨
幣端末と入金端末との間の通信路を特定していないので,どのような通信
路を介して接続されるかは相違点とはならない。
ウ相違点2の認定について
原告は,相違点2について,「入金操作は,ユーザが所有して持ち運び
が可能な携帯端末から電子マネー管理サーバにアクセスして行うものであ
り」を認定しなかったことは誤りである旨主張する。
しかし,補正前発明は,貨幣端末の所有者などを特定していないので,
ユーザが所有する点,持ち運び可能な点は相違点にならない。また,入金
操作について,審決は,引用発明を「携帯電話100は,バリューのチ
ャージを要求するためのバリュー発行要求情報を電子マネー管理サーバ2
00に送信し,」(審決15ページ30~31行)と認定しており,入金
操作が,携帯端末から電子マネー管理サーバにアクセスして行われること
を認定した上で一致点,相違点を認定している。審決の相違点2の認定
は,上記認定を前提としたものであるから,原告が主張する相違点2と審
決が認定した相違点2の間には,実質差異がない。
エ相違点3の認定について
原告は,相違点3において,審決が,補正前発明が「割引内容を同じ
実店舗の入金端末が記憶装置から読み出して出力した割引内容識別情報
の入力に基づいて」当該記憶装置から取得することを認定しなかったこ
とは誤りである旨主張する。
しかし,補正前発明の「同じ実店舗の入金端末が記憶装置から読み出
して出力した割引内容識別情報の入力に基づいて」に関しては,既に,
一致点,相違点1,2として認定している。すなわち,審決は,補正前
発明と引用発明とを対比し,入金システムが記憶装置から取得される割
引内容識別情報を出力すること,及び,入力される割引内容識別情報に
基づいて割引内容の適用可否を判断することを一致点として認定し,そ
の入金システムが,補正前発明では「実店舗に設置された入金端末」で
あるのに対し,引用発明では電子マネー管理サーバ及びリモート発行
サーバであることを相違点1として認定し,補正前発明の決済端末は,
入金端末と同じ実店舗に設置されるのに対し,引用発明のPOS端末装
置は,入金端末と同じ実店舗に設置されるものではないことを相違点2
として認定している。
原告は,相違点3において,審決が,「引用発明は,携帯電話に格納
されている店舗IDおよび期限IDに基づいて同じく携帯電話に格納さ
れているコンテンツ情報から取得した割引内容を利用する」ことを認定
しなかったことは誤りである旨主張する。
しかし,引用発明のPOS端末装置は,携帯電話に記憶される店舗I
D,期限IDを読出すものの,コンテンツデータを読出すかどうかは不
明であり,「携帯電話に格納されているコンテンツ情報から取得した割
引内容を利用する」ものではない。したがって,相違点3において,こ
の点を認定しなかったことに誤りはない。
阻害要因について
原告は,引用発明は,実店舗内の入金機でのチャージに問題があるとし
て,いつでもどこでもチャージを可能とする点等を効果とするものであり,
また,引用発明の目的は店舗外にいるユーザを含めて情報提供を行うことに
あるとして,引用発明を店舗内の入金機を用いる構成とした場合には,引用
発明の効果が損なわれ,さらには,引用発明の目的を放棄することになり,
引用発明に周知技術を適用することには重大な阻害要因が存在すると主張す

しかし,店舗内でクーポン等の情報を入手したユーザは,その情報が利用
価値の高いものであれば,後日に再度来店しようとする(例えば,「200
6年1月31日まで半額セール!」(【0107】)という情報を店舗内で
入手したユーザは,1月31日までに再来店することを促される。)から,
店舗内のユーザに情報提供を行う場合でも,引用発明の課題は達成される。
したがって,情報提供を店舗内の入金機で行う場合であっても,引用発明
の効果を損ねたり目的を放棄したりするものではなく,引用発明において,
店舗内の入金機で情報提供することに阻害要因はない。
相違点3の容易想到性について
原告は,補正前発明の顕著な効果は,引用発明及び周知技術から当業者が
容易に想到し得ることではないと主張する。
しかし,原告は,引用発明が,携帯電話からコンテンツデータを読み出す
ことを前提としているが,引用発明は,携帯電話から「店舗IDおよび期限
ID」を読み出すもので,コンテンツデータを読み出すかどうかは不明であ
る。したがって,原告の主張はその前提において失当である。
そして,引用発明の記憶部220は,「クーポン券の内容を示すコンテン
ツデータと,一のコンテンツデータを特定する店舗IDおよび期限IDを記
憶」しているから,携帯電話から読み出した「店舗IDおよび期限ID」に
基づいて,一のコンテンツデータを特定し,記憶部から割引内容を取得する
ことは,当業者が容易に想到し得ることである。
また,在庫排出したい商品のクーポン情報を優先して出力できるという効
果は,在庫の多い商品に対して割引を行い,売れ残りを防ぐことが周知の販
売戦略であることからすれば,引用発明から当業者が予測できる範囲のこと
である。
また,入金機でチャージを行う顧客が当該店舗で買い物を行う蓋然性が高
いという効果も,バリューの入金機と,そのバリューを用いて決済する決済
端末とを同じ店舗に設置する周知技術から,当業者が予測できる範囲のこと
である。引用文献には「【0509】・・・(中略)・・・ユーザは,チ
ャージされた電子マネーを用いて遊技用記録媒体を購入したり,遊技用記録
媒体に追加入金したりする。しかし,このような技術によれば,電子マネー
のチャージは,遊技場内の所定の入金機に接続して行なう必要がある。」と
記載されており,入金機でチャージを行う顧客が当該店舗で買い物を行うこ
とが記載されている。また,このような顧客に対して,当該店舗で利用でき
るクーポンを提供すれば,利便性が高まり,電子マネーの利用と商品の販売
とをともに促進できることも,当業者が予測できる範囲のことにすぎない。
また,入金機でクーポンを発券する際に,その入金機のある店舗内で利用
できるクーポンを発券することは営業戦略として当然のことであり,その場
合に,クーポンの発券とその使用とが同一店舗内であって時間的・場所的に
近接していることから,柔軟なクーポン発券が可能になるという効果も,当
業者が予測できる範囲のことにすぎない。
以上のとおり,原告が主張する種々の効果は,いずれも,引用発明におい
て,携帯電話インターネット網を介したチャージだけでなく,入金機を用い
たチャージでもクーポン発券を行うこととした場合に,当業者が予測できる
範囲にすぎない。
したがって,相違点3が容易想到であるとの審決の判断に誤りはない。
3取消事由2(手続上の瑕疵)について
特許法159条1項の規定により読み替えて準用する同法53条1項は,
審判請求と同時にする補正が,同法17条の2第5項の規定に違反している
ものと認められたとき,補正却下をしなければならないことを規定するが,
この決定の前に意見聴取及び再補正の機会を与える手続は,特許法上,必要
な手続として規定されていない。
したがって,審決が,意見聴取及び再補正の機会を与えることなく,特許
法17条の2第5項に係る目的要件違反を理由に補正却下の決定をしたこと
に,手続上の瑕疵はない。
原告は,平成20年知財高裁判決を引用し,本件は,増項補正について何
ら言及のなかった同判決の事案と異なり,本件前置報告書において,本件補
正が「限定的減縮を目的としている」と明記し,特許法17条の2第5項の
要件を満たしているとして,増項補正を許容する認定を行い,しかも,本件
審尋書において「この審判事件の審理は,今後,この《前置報告書の内容》
を踏まえて行うことになります」と記載して,出願人に,審判合議体が本件
前置報告書の内容を前提として審判を行うものと期待させていたにもかかわ
らず,審決が審査官の上記認定を覆している点で,平成20年知財高裁判決
の事案よりも審判請求人に対する信頼を損なう点では重大であり,審判手続
上の信義則に反すると主張する。
しかし,審査前置制度は,拒絶査定に対する審判において,拒絶査定がく
つがえるものの大部分が拒絶査定後に特許請求の範囲等に補正があったこと
によるものであるという実情に鑑み,そのような事件の処理をその拒絶をし
た審査官に再審査させることにより,審判官の処理の負担を減らし,審判の
促進をはかろうとするものである。そして,前置報告は,審判合議体による
適正な審理の参考に供するためのものであり(特許法164条参照),審判
合議体による審理を拘束するものではない。
したがって,審決における補正却下の決定が,本件前置報告書の内容と異
なる理由に基づくものであるとしても,何ら違法ではない。
第5当裁判所の判断
1取消事由1(特許法17条の2第5項の規定に違反するとして本件補正を却
下した判断の誤り)について
審決は,本件補正は特許法17条の2第5項に規定される,請求項の削除,
特許請求の範囲の減縮,誤記の訂正,明りょうでない記載の釈明のいずれも目
的とするものではないとして,これを却下したところ,原告は,本件補正が同
項2号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当するものであると
主張する(前記第3の1)ので,以下,検討する。
いわゆる増項補正について
ア原告は,いわゆる増項補正が特許法17条の2第5項2号所定の「特許
請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当するか否かについては,請求
項の数から外形的,抽象的に判断すべきではなく,補正前後の請求項の内
容に基づいて,新たに審査すべき必要を生じさせるものであるか否かを個
別的,具体的に検討して判断すべきであると主張する(前記第3の1
。これに対し,被告は,同項の趣旨が,出願人の便宜と迅速,的確か
つ公平な審査との調整の趣旨に基づき,例外的に一定の範囲に限って補正
を認めたものであることに照らすと,同項2号は,補正前の請求項と補正
後の請求項とが一対一の対応関係にあることを前提としているというべき
であり,一対一の対応関係にないような請求項を増加させる補正は,同号
かっこ書の規定に該当しないと主張する。そこで,ま
ず,この点について検討する。
イ特許法17条の2第5項は,「前2項に規定するもののほか,第1項第
1号,第3号及び第4号に掲げる場合(同項第1号に掲げる場合にあって
は,拒絶理由通知と併せて第50条の2の規定による通知を受けた場合に
限る。)において特許請求の範囲についてする補正は,次に掲げる事項を
目的とするものに限る。」と規定し,同項2号は,「特許請求の範囲の減
縮(第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために
必要な事項を限定するものであつて,その補正前の当該請求項に記載され
た発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及
び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」と規定している。
特許法17条の2第5項の趣旨は,特許請求の範囲について補正が行わ
れると,審査官は補正後の特許請求の範囲について再度審査を行う必要が
あるところ,審査の長期化防止及び円滑化のため,最後の拒絶理由通知以
降に行う特許請求の範囲の補正について,既に審査においてなされた先行
技術文献の調査などの審査結果を有効に活用することができる範囲内に限
り補正を認めることにあるものと解される。
そして,同項2号は,単に「特許請求の範囲の減縮」とのみ規定するの
ではなく,「特許請求の範囲の減縮(第36条第5項の規定により請求項
に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するもの・・・に限
る。)」と規定している。その趣旨は,単に「特許請求の範囲の減縮」と
のみ規定したのでは,出願当初の明細書又は図面に記載された事項の範囲
内において,請求項に新たな構成要素を付加することにより,特許請求の
範囲の減縮を行う補正も「特許請求の範囲の減縮」に含まれることとなる
ことから,このような補正を許容すると,既に審査においてなされた先行
技術文献の調査などの審査結果を有効に活用することができなくなり,再
度審査を行う必要が生じ,上記17条の2第5項の趣旨に反することにな
るため,同法36条5項が,「特許請求の範囲には,請求項に区分して,
特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事
項のすべてを記載しなければならない。」と規定していることを受けて,
請求項に記載したすべての事項のうちの個々の事項を上記規定の趣旨で限
定する補正に限る旨を明確化することにあると解される。
ウ以上のような特許法17条の2第5項2号の規定振り及びその趣旨に照
らすと,同号に該当する補正は,多くの場合,補正前の請求項の発明特定
事項を限定して減縮補正することにより,補正前の請求項と補正後の請求
項とが一対一の対応関係にあるようなものになることが考えられる。しか
し,同号が,補正により,単に形式的に請求項の数が増加することがない
という意味を含めて,補正前の請求項と補正後の請求項が一対一の対応関
係にあることを定めていると解すべき根拠はない。
したがって,被告の前記主張の趣旨が,補正により請求項の数が増加す
るものはすべからく同号かっこ書の規定に該当しないというのであれば,
そのような主張には法的根拠がなく,採用の限りではない。
同号は,かっこ書を含めてその要件を明確に規定しているのであるか
ら,問題となる補正が同号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするもの
に該当するといえるためには,それがいわゆる増項補正であるかどうかで
はなく,①特許請求の範囲の減縮であること,②補正前の請求項に記載し
た発明を特定するために必要な事項を限定するものであること,③補正前
の当該請求項に記載された発明と補正後の当該請求項に記載される発明の
産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であること,という要
件(以下,上記各要件を単に「①の要件」のようにいう。)を満たすこと
が必要であり,かつそれで十分であるというべきである。
したがって,原告の前記主張中,これと異なり,補正前後の請求項の内
容に基づいて,新たに審査すべき必要を生じさせるものであるか否かを個
別的,具体的に判断すべきであるとする部分も採用することができない。
エところで,審決は,請求項2を新たに追加する補正は,特許法17条の
2第5項各号に掲げるいずれの事項も目的とするものではない旨を述べる
のみであり,上記①から③のいずれの要件を欠くことをその判断の理由と
したのかは明らかではない。仮に,審決が,請求項2を新たに追加する補
正は当然に同項2号所定の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに
該当しないと判断したのであるとすれば,判断の手法として,不適当なも
のといわざるを得ない。
そこで,項を改めて,請求項1の補正及び請求項2を追加する補正が,
原告の主張する特許法17条の2第5項2号所定の「特許請求の範囲の減
縮」を目的とするものに該当するか否かについて,更に検討する。
請求項1の補正について
ア請求項1の補正は,補正前の請求項1に記載された「前記実店舗に設置
された決済端末に入力可能な形式」における「形式」について,「且つ当
該決済端末が前記割引内容を特定可能な形式」とする補正である。
まず,補正前の請求項1に記載された「前記実店舗に設置された決済端
末に入力可能な形式」における「形式」の意義について検討すると,本件
明細書(甲3)には,「店舗の会計担当者が決済端末3に当該数字を入力
したり」(【0020】),「決済端末3は,顧客の購入する商品やクー
ポン券6のクーポンIDをバーコードにより認識する。」(【002
3】),「電子マネーカード5にクーポン情報を記憶させるように構成す
ることもできる。」(【0106】)との記載がある。
これらの記載に照らせば,補正前の請求項1に記載された「前記実店舗
に設置された決済端末に入力可能な形式」における「形式」とは,例えば
「数字」や「バーコード」,「電子マネーカード」に記憶されるデータの
ような,会計担当者が決済端末に入力したり,決済端末が特定することを
可能とする,割引内容識別情報の表示(クーポン券への印字・印刷)形式
ないし記録形式をいうものと認められる。
言い換えれば,補正前の請求項1においては,「決裁端末」に入力可能
な割引内容識別情報の表示形式ないし記録形式が,会計担当者が入力可能
な形式であるか,あるいは,決裁端末が特定可能な形式であるかについて
は,そのいずれとも限定されていなかった。これに対し,補正後の請求項
1においては,「形式」について,補正前の「前記実店舗に設置された決
済端末に入力可能な形式」に付加して「且つ当該決済端末が前記割引内容
を特定可能な形式」とする補正により,補正後の請求項1においては,
「決裁端末」に入力可能な割引内容識別情報の表示形式ないし記録形式
は,決裁端末が特定可能な形式に限定された。
これを,請求項1に記載された「決裁端末」についてみると,補正前の
請求項1においては,「決裁端末」は,それが「実店舗に設置された」も
のであることと,「割引内容の適否を判断する」ものであることのみに
よって特定されているにすぎなかった。補正後の請求項1においては,上
記特定事項に加えて,「割引内容を特定可能」という構成によっても特定
されることになったものである。そうすると,請求項1の補正は,補正前
の請求項には存在しなかった構成を付加するものというべきである。
したがって,請求項1の補正は,特許法17条の2第5項2号かっこ書
に規定する「補正前の請求項に記載した発明を特定するために必要な事項
を限定するもの」という要件(②の要件)を充足しない。
イ原告は,決裁端末が割引内容の適用可否を判断する以上は,決裁端末に
入力される情報は,当該決裁端末が適用される割引内容を特定できること
は当然であり,請求項1の補正は,補正前発明の技術的特徴を明確化した
ものにすぎず,請求項1の補正は,②の要件を充足する旨主張する(前記
)。
しかし,仮に,原告が主張するように,請求項1の補正が,補正前発明
の技術的特徴を明確化したものであるとしても,その補正が,補正前の請
求項には存在しなかった構成を付加するものであることに変わりはない。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
請求項2前半の補正について
ア請求項2前半の補正は,補正前の請求項1に記載された「複数の割引内
容識別情報にそれぞれ関連づけて複数の割引内容を記憶する記憶装置」に
おける「記憶装置」について,新たに追加した請求項2前半において,
「前記記憶装置は,前記実店舗に設置されており」とする補正である。
「記憶装置」は,補正前の請求項1においては,記憶される情報の内容
によって特定されているのに対し,補正後の請求項2においては,記憶さ
れる情報の内容によってではなく,記憶装置が設置される場所によって特
定されている。
したがって,請求項2前半の補正は,特許法17条の2第5項2号かっ
こ書に規定する「補正前の請求項に記載した発明を特定するために必要な
事項を限定するもの」という要件(②の要件)を充足しない。
イ原告は,補正後の請求項1における「記憶装置」は,実店舗内あるいは
実店舗外の例えばデータセンター等に設置された記憶装置を含んでいるの
に対し,請求項2は,このうち,「実店舗内に設置された記憶装置」に発
明を限定するものであって,請求項2前半の補正は,請求項1の発明の技
術的範囲内において,さらに発明を限定するものであるから,「発明を特
定するために必要な事項を限定するもの」に該当する旨主張する(前記第
3の1イ)。
しかし,請求項2前半の補正の適否の判断に当たり,補正後の請求項2
の記載と対比すべきは補正前の請求項1の記載であって,補正後の請求項
1の記載ではない。したがって,補正後の請求項1における「記憶装置」
と補正後の請求項2の「記憶装置」とを対比する原告の主張は,それ自体
失当である。そして,補正前の請求項1において,「記憶装置」は,記憶
される情報の内容によってのみ特定されていたのであり,補正後の請求項
2において,同特定事項に加えて,記憶装置が設置される場所によっても
特定されることになったのであるから,これが,補正前の請求項には存在
しなかった構成を付加するものであって,「発明を特定するために必要な
事項を限定するもの」に該当しないことは明らかである。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
請求項2後半の補正について
ア請求項2後半の補正は,補正前の請求項1に記載された「前記実店舗に
設置された決済端末に入力可能な形式」における「形式」について,新た
に追加した請求項2後半において,「前記出力手段が出力する前記形式
は,前記決済端末が特定する割引内容に関連づけられた前記割引内容識別
情報である」とする補正である。
補正前の請求項1に記載された「前記実店舗に設置さ
れた決済端末に入力可能な形式」における「形式」とは,例えば「数字」
や「バーコード」,「電子マネーカード」に記憶されるデータのような,
会計担当者が決済端末に入力したり,決済端末が特定することを可能とす
る,割引内容識別情報の表示(クーポン券への印字・印刷)形式ないし記
録形式をいうものと認められる。
これに対し,補正後の請求項2においては,「前記形式は,・・・前記
割引内容識別情報である」と記載されており,これによれば,「形式」
は,「割引内容識別情報」そのものをいうものと認められる。
そうすると,請求項2後半の補正は,補正前の請求項1の「形式」及び
これに係る限定を除くことになる。すなわち,「形式」が「割引内容識別
情報」そのものを指すことになれば,補正後の請求項1は,補正前の請求
項1における「入力される割引内容識別情報に基づいて前記記憶装置から
取得される割引内容の適用可否を判断する前記実店舗に設置された決済端
末に入力可能な形式で」という限定を除くことになり,特許請求の範囲を
拡張することになる。
したがって,請求項2後半の補正は,特許法17条の2第5項2号に規
定する「特許請求の範囲の減縮」という要件(①の要件)を充足しない。
イ原告は,補正後の請求項1においては,出力手段で出力される情報は,
「割引内容識別情報」である必要はなく,「決済端末に入力可能旦つ当該
決済端末が前記割引内容を特定可能な形式」の情報であれば足りるとこ
ろ,請求項2後半の補正は,この情報が「割引内容識別情報」であること
を限定するものであるから,請求項1の「前記形式」を前提としたもので
あり,「前記形式」に該当する限定を除くものではなく,請求項1を正に
限定するものであると主張する(前記第3の1イ)。
しかし,請求項2後半の補正の適否の判断に当たり,補正後の請求項2
の記載と対比すべきは補正前の請求項1の記載であって,補正後の請求項
1の記載ではない。したがって,出力手段で出力される情報について,補
正後の請求項1の記載と補正後の請求項2の記載とを対比する原告の主張
は,それ自体失当である。そして,補正前の請求項1において,「形式」
は,割引内容識別情報の表示形式ないし記録形式を意味するものとして記
載されていたのに対し,補正後の請求項2においては,割引内容識別情報
そのものを意味するものとして記載されているのであるから,これが,割
引内容識別情報の表示形式ないし記録形式を限定するものでないことはも
とより,補正前の請求項1における「形式」に係る限定を除くものである
ことは明らかである。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
小括
以上のとおり,請求項1の補正及び請求項2を追加する補正は,特許法1
7条の2第5項2号所定の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該
当しないから,同項の規定に違反するとして本件補正を却下した審決の判断
に誤りはない。
よって,原告主張の取消事由1-Aは理由がない。
2取消事由1-B(補正前発明は引用発明等に基づいて容易に発明をすること
ができたものであるとした判断の誤り)について
原告は,補正前発明(本願発明)は引用発明等に基づいて容易に発明をする
ことができたものではなく,補正後発明1及び2も同様であって,本件補正は
特許法17条の2第6項の要件(独立特許要件)を満たしているから,本件補
正を却下した審決の判断は結論においても誤りであるとして種々主張する(前
記第3の2)。そこで,以下,検討する。
本件明細書について
本件明細書(甲3)によれば,補正前発明は,概要,以下のとおりのもの
であることが認められる。
補正前発明は,割引情報提供システム,入金端末,及び割引情報サーバに
関し,例えば,電子マネーの入金機でクーポンを発行するものに関するもの
である(【0001】)。
従来,スーパーマーケットなどの小売店やデパートなどでは,クーポン券
と呼ばれる割引券を発行し,集客の向上に努めている(【0002】)。
一方,近年,電子マネーを用いた決済システムが小売店やデパートなどで
導入され,広く利用されるようになっている(【0003】)。しかし,電
子マネーカードには,電子マネー機能部IDによるID情報が付与されてお
り,電子マネー機能部IDとクーポンの発行を連動させることにより,より
効果的なクーポンの提供を行うことができるが,このような試みは行われて
いなかった(【0006】)。
そこで,補正前発明の目的は,電子マネーとクーポンを関連づけることに
より,電子マネーの利用と商品の販売を促進することを目的として(【00
07】),入金端末は,同じ店舗の決済端末で割引が可能となる割引内容を
示す割引内容識別情報を両端末に接続された記憶装置から読み出して出力す
るという構成を採用して(特許請求の範囲の請求項1),例えば,在庫を排
出したい商品のクーポン情報を優先して出力したり(【0083】),在庫
数に応じてクーポン発行枚数を制限したりすることができ(【008
6】),これにより,電子マネーの利用と商品の販売を共に促進することが
でき,また,店舗は,在庫状況に応じて顧客に提供するクーポン情報を柔軟
に設定することができるため,いわゆる売れ残りを軽減することができ,在
庫管理を促進することができるという効果が得られる(【0112】)。
引用文献について
引用文献(甲1)には以下の記載がある(図3,図7及び図34について
は別紙参照)。
「【発明が解決しようとする課題】
・・・
【0004】
この発明・・・の目的は,店舗に関する情報として顧客にとって関心の高
い店舗の情報を提供することにより,店舗にとって効果的に来店を促すこと
ができる電子マネー管理サーバ,および,電子マネーシステムを提供するこ
とである。」
「【発明を実施するための最良の形態】
・・・
【0064】
図3は,本発明に係る電子マネー管理サーバ200の構成の一例を示すブ
ロック図である。図3を参照して,電子マネー管理サーバ200は,データ
処理部210と,記憶部220と,データ入力部230と,表示部240
と,通信部260とを含む。
・・・
【0066】
本実施の形態においては,初期登録時AP211,バリュー購入時AP2
12,バリュー発行時AP213,および残高管理AP214が記憶部22
0に記憶される。また,前述した利用者情報DB221,発行情報DB22
2,店舗特定情報DB271,および,コンテンツ特定情報DB272も,
記憶部220に記憶される。
・・・
【0100】
図7は,本実施の形態における電子マネー管理サーバ200がコンテンツ
配信サービスを提供する際に用いるコンテンツ特定情報DB272を説明す
るための図である。
【0101】
本実施の形態におけるコンテンツ特定情報DBは,コンテンツ配信サービ
スに加盟した店舗各々に関連する情報を特定可能に構成されている。店舗に
関連する情報としては,電子マネー管理サーバ200がユーザの携帯電話1
00に配信するための配信用情報と,電子マネー管理サーバ200において
管理するためのサーバ管理用情報とが含まれる。配信用情報には,店舗I
D,期限ID,およびコンテンツデータが含まれる。
・・・
【0107】
コンテンツデータとは,コンテンツ自体の内容を示すデータである。コン
テンツデータは,店舗IDおよび期限IDから一のコンテンツデータが特定
される。・・・本実施の形態におけるコンテンツとしては,前述したように
店舗からのお知らせに関連するコンテンツと,店舗において使用できるクー
ポン券に関連するコンテンツとを含む。
・・・
【0361】
具体的に,たとえば,特定取引時に自動的に特典を付与する必要がないコ
ンテンツ(たとえば,図7で説明した店舗ID000001,期限ID06
013110から特定されるコンテンツデータ「まで半額セール!」等)が
選択された場合には,人的に特典が付与されるため,当該コンテンツ自体の
詳細な内容を表示部140に表示させて,店舗の店員の確認をとることによ
り使用することができる。また,特定取引時に自動的に特典を付与する必要
があるコンテンツ(たとえば,図7で説明した店舗ID000006,期限
ID06013100から特定されるコンテンツデータ「まで球貸時に10
0球プレゼント券」等)が選択された場合には,当該コンテンツを特定する
ための情報を非接触型ICチップ190の記憶部192のサービス享受用の
記憶領域に記憶させる書込処理を開始させるためのコンテンツ書込処理開始
要求情報をリモート発行サーバ400へ送信する。これにより,以降,図1
6のステップS155~S157で説明したと同様の処理が行なわれて,次
回特定取引が行なわれる際に,当該コンテンツから特定される特典が付与さ
れる状態に非接触型ICチップ190の記憶部192のサービス享受用の記
憶領域に記憶される。これにより,次回特定取引が行なわれる際に,非接触
型ICチップ190の記憶部192のサービス享受用の記憶領域に記憶され
たコンテンツを特定するための情報が読出されて,自動的にコンテンツに対
応する特典が付与される。
・・・
【0393】
図34は,本実施の形態における券売機,カードユニット,およびPOS
端末装置等の特定取引装置で実行される決済時処理のサブルーチンである特
典付与処理の流れを示すフローチャートである。なお,図34では,券売機
で実行される特典付与処理として説明するが,カードユニットやPOS端末
装置等の他の特定取引装置においても同様の特典付与処理が実行される。
【0394】
図34を参照して,ステップS715で,データ処理部310は,携帯電
話100に対してコンテンツを特定するための店舗IDおよび期限IDを要
求する要求情報を携帯電話100に送信させるように,チップリーダライタ
390を制御する。
【0395】
携帯電話100の制御部191は,図34のステップS715からの要求
情報に対して,記憶部192に構築されたサービス享受用の記憶領域に記憶
される店舗IDおよび期限IDを読出して,非接触通信部193を介し要求
元の特定取引装置に送信する処理を行なう。
【0396】
図34に戻り,ステップS716においては,ステップS715における
要求に起因して受信した店舗IDおよび期限IDから,有効な自店舗のクー
ポン券等のコンテンツが携帯電話100の記憶部192に構築されたサービ
ス享受用の記憶領域に記憶されているか否かを判断する。
【0397】
有効な自店舗のクーポン券等のコンテンツが記憶されていると判断された
場合(ステップS716でYESの場合),データ処理部310は,ステッ
プS717において,当該コンテンツに対応する特典を付与するための特典
対応処理を行なう。特典対応処理としては,具体的に,特定取引に用いるバ
リューの値引き・割引を行なうコンテンツである場合には,値引き・割引を
行なう旨を特定するための状態(たとえば,値引き・割引する値を特定可能
な情報を記憶させた状態)に更新する処理が行なわれる。
・・・
【0490】
携帯電話100では、図16のステップS153aで電子マネー管理サー
バ200からのコンテンツを特定するための情報を受信したことを条件とし
て、ステップS153bで当該情報が記憶部120に記憶される。記憶され
たコンテンツを特定するための情報は、図12のステップS160における
コンテンツ報知処理で説明したようにして確認および使用される。このよう
に、バリューを用いた特定取引が行なわれた取引済店舗からのお知らせ、
クーポン券等に関連するコンテンツを特定するための情報が携帯電話100
に送信されるため、利用実績に沿った利用価値の高い情報を提供することが
できる。その結果、ユーザである顧客にとって関心の高い店舗の情報を得る
ことができ、また店舗にとっても効果的に来店を促すことができる。
・・・
【0509】
(13)従来,電子マネーで遊技に使用する遊技用記録媒体の発行や遊技
用記録媒体に追加入金をするものがあった(たとえば,特開2002-22
4423号公報(たとえば,第0035段落))。この電子マネーは,利用
者の取引金融機関からチャージすることができる。そして,ユーザは,チ
ャージされた電子マネーを用いて遊技用記録媒体を購入したり,遊技用記録
媒体に追加入金したりする。しかし,このような技術によれば,電子マネー
のチャージは,遊技場内の所定の入金機に接続して行なう必要がある。この
ため,電子マネーのチャージのために,わざわざ,入金機に出向く手間が必
要であった。また,入金機の台数が少ない場合は,電子マネーをチャージす
るためにユーザが並んで待つ状態が発生し,遊技に費やす時間が少なくな
る。このため,入金機の台数を増やすことが考えられるが,設備投資費用が
発生したり,入金機を設置するスペースにも限界がある。いずれにせよ,
ユーザが遊技場にいる時間のうちの遊技に費やす時間をチャージに費やす必
要が生じるため,遊技機の稼動に悪影響を与えるといった問題があった。し
かし,本実施の形態においては,前述したように構成しているため,バリ
ューチャージ時の手間を低減させることが可能である。
【0510】
具体的には,図13のバリュー購入時処理に従って,ステップS133に
おいてチャージ要求情報が携帯電話100から電子マネー管理サーバ200
に送信されることにより,図14のバリュー購入時APに従って,ステップ
S268において引継画面情報が電子マネー管理サーバ200から携帯電話
100に送信される。引継画面情報を受信した携帯電話100からは,図1
1のウェブ処理に従って,ステップS118aにおいてバリューの購入に対
する決済に関する情報が金融機関サーバ500に送信され,当該金融機関に
おいて決済が行なわれ,その後図16のバリュー発行時処理に従って,未チ
ャージバリューが記憶部192に書込まれる。これにより,携帯電話100
から,チャージ要求情報を電子マネー管理サーバ200に送信することによ
り,いつでもどこでも事前にバリューをチャージあるいは遊技中であっても
席を離れることなくバリューをチャージすることができる。また,店舗30
a等の遊技場においては,当該遊技場に設置されているパチンコ遊技機70
0等の稼動に与える悪影響を減少させることができる。」
補正前発明と引用発明との対比について
原告は,補正前発明(審決のいう本願発明)と引用発明との対比に係る審
決の認定には誤りがあると主張する(前記第3の2)。しかし,以下のと
おり,審決の認定に誤りはない。
ア原告は,審決が,引用発明の「店舗IDおよび期限ID」は,一のコン
テンツデータを特定する識別情報であり,補正前発明の「割引内容識別情
報」に相当すると認定したことについて,引用発明において,補正前発明
の「割引情報」に相当する「クーポン券の内容を示すコンテンツデータ」
は,「店舗IDおよび期限ID」という店舗・期限情報に関連づけて記憶
されているのに対し,補正前発明の「割引内容識別情報」とは,実店舗で
使用可能な複数の割引内容についてそれらを識別することが可能な識別情
報である点で相違すると主張する(前記第3の2ア)。
しかし,引用文献の図7,【0107】及び【0396】の記載によれ
ば,引用発明の「店舗IDおよび期限ID」は,一のコンテンツデータを
特定するものであって,「店舗IDおよび期限ID」からなる識別情報
は,店舗で使用できるクーポン券の内容を示す一のコンテンツデータを識
別するものであることが認められるから,引用発明の「店舗IDおよび期
限ID」は,補正前発明の「割引内容識別情報」に相当するといえる。
したがって,審決の上記認定に誤りはなく,原告の上記主張は理由がな
い。
イ原告は,審決が,引用発明における「記憶部220」は,補正前発明の
「複数の割引内容識別情報にそれぞれ関連づけて複数の割引内容を記憶す
る記憶装置」に相当すると認定したことについて,引用発明における電子
マネー管理サーバ200の「記憶部220」は,クーポン券の内容を示す
コンテンツデータと,当該コンテンツデータを特定する店舗・期限情報を
記憶するものであり,補正前発明の「割引内容識別情報」に相当する情報
に関連づけて記憶されているものではないと主張する(前記第3の2
イ)。
しかし,引用文献の図3,図7,【0066】及び【0101】の記載
によれば,引用発明の「記憶部220」は,コンテンツ特定情報DB27
2において,クーポン券の内容を示すコンテンツデータと,一のコンテン
ツデータを特定する「店舗IDおよび期限ID」とを記憶するものである
ことが認められる。コンテンツデータは,補正前発明の「割引内容」に相
当するものであり,また,前記アのとおり,「店舗IDおよび期限ID」
は,補正前発明の「割引内容識別情報」に相当するものであるから,引用
発明の「記憶部220」は,複数の割引内容識別情報にそれぞれ関連づけ
て複数の割引内容を記憶するものであるといえる。
したがって,審決の上記認定に誤りはなく,原告の上記主張は理由がな
い。
ウ原告は,審決が,引用発明の「店舗30bに設置されるPOS端末装置
600b」は,入力される割引内容識別情報に基づいて割引内容の適用可
否を判断する実店舗に設置された決済端末といえ,引用発明の「POS端
末装置600b」と,補正前発明の「入力される割引内容識別情報に基づ
いて前記記憶装置から取得される割引内容の適用可否を判断する前記実店
舗に設置された決済端末」は,「入力される割引内容識別情報に基づいて
割引内容の適用可否を判断する実店舗に設置された決済端末」の点で共通
すると認定したことについて,引用文献の【0361】の記載を根拠に,
POS端末装置600bは,携帯電話100の記憶部192に構築された
サービス享受用の記憶領域内に記載されている割引情報を取得していると
して,引用発明の「POS端末装置600b」と,補正前発明の「入力さ
れる割引内容識別情報に基づいて前記記憶装置から取得される割引内容の
適用可否を判断する前記実店舗に設置された決済端末」は,「入力される
情報に基づいて割引内容の適用可否を判断する実店舗に設置された決済端
末」の点で共通するにとどまると主張する(前記第3の2ウ)。
しかし,携帯電話の記憶部192から読み出される情報について,引用
文献の【0394】には「図34を参照して,ステップS715で,デー
タ処理部310は,携帯電話100に対してコンテンツを特定するための
店舗IDおよび期限IDを要求する要求情報を携帯電話100に送信させ
るように,チップリーダライタ390を制御する。」の記載があり,同じ
く【0395】には「携帯電話100の制御部191は,図34のステッ
プS715からの要求情報に対して,記憶部192に構築されたサービス
享受用の記憶領域に記憶される店舗IDおよび期限IDを読出して,非接
触通信部193を介し要求元の特定取引装置に送信する処理を行なう。」
の記載がある。
これらの記載によれば,引用発明のPOS端末装置は,決済処理時に,
携帯電話に記憶される店舗IDおよび期限IDを読み出すものであること
は認められるものの,コンテンツ自体(原告の主張する割引情報)を読み
出すものであるかどうかについては記載がなく,不明である。
もっとも,前記アのとおり,引用発明の「店舗IDおよび期限ID」か
らなる識別情報は,店舗で使用できるクーポン券の内容を示す一のコンテ
ンツデータを識別するものであって,補正前発明の「割引内容識別情報」
に相当するものである。そうすると,引用発明の「POS端末装置600
b」は,補正前発明の「入力される割引内容識別情報に基づいて前記記憶
装置から取得される割引内容の適用可否を判断する前記実店舗に設置され
た決済端末」と,「入力される割引内容識別情報に基づいて割引内容の適
用可否を判断する実店舗に設置された決済端末」の点において共通すると
いえる。
したがって,審決の上記認定に誤りはなく,原告の主張は理由がない。
エ原告は,審決が,引用発明の電子マネー管理サーバ200と補正前発明
とが,「前記増額要求に応じて,複数の割引内容識別情報にそれぞれ関連
づけて複数の割引内容を記憶する記憶装置から取得される前記複数の割引
内容識別情報のいずれかを,入力される割引内容識別情報に基づいて割引
内容の適用可否を判断する実店舗に設置された決済端末に入力可能な形式
で出力する出力手段」の点で共通すると認定したことについて,これを誤
りであると主張する(前記第3の2エ)。
しかし,前記アないしウのとおり,引用発明の「店舗IDおよび期限I
D」は,補正前発明の「割引内容識別情報」に相当する。また,引用発明
の「記憶部220」は,補正前発明の「複数の割引内容識別情報にそれぞ
れ関連づけて複数の割引内容を記憶する記憶装置」に相当する。さらに,
引用発明のPOS端末装置と,補正前発明の「入力される割引内容識別情
報に基づいて前記記憶装置から取得される割引内容の適用可否を判断する
前記実店舗に設置された決済端末」とは,「入力される割引内容識別情報
に基づいて割引内容の適用可否を判断する実店舗に設置された決済端末」
の点で共通する。
したがって,引用発明の電子マネー管理サーバ200が,「バリュー発
行要求情報を受信すると、コンテンツ特定情報DB272から店舗ID、
期限IDおよびコンテンツデータを抽出して携帯電話100に送信する」
ための手段と,補正前発明の「前記増額要求に応じて,複数の割引内容識
別情報にそれぞれ関連づけて複数の割引内容を記憶する記憶装置から取得
される前記複数の割引内容識別情報のいずれかを,入力される割引内容識
別情報に基づいて前記記憶装置から取得される割引内容の適用可否を判断
する前記実店舗に設置された決済端末に入力可能な形式で出力する出力手
段」は,「前記増額要求に応じて,複数の割引内容識別情報にそれぞれ関
連づけて複数の割引内容を記憶する記憶装置から取得される前記複数の割
引内容識別情報のいずれかを,入力される割引内容識別情報に基づいて割
引内容の適用可否を判断する実店舗に設置された決済端末に入力可能な形
式で出力する出力手段」の点で共通するといえる。
したがって,審決の上記認定に誤りはなく,原告の上記主張は,採用す
ることができない。
補正前発明と引用発明との一致点及び相違点の認定について
原告は,補正前発明(審決のいう本願発明)と引用発明との一致点及び相
違点に係る審決の認定には誤りがあると主張する(前記第3の2)。
しかし,以下のとおり,審決の認定に誤りはなく,原告の上記主張は,採
用することができない。
ア一致点の認定について
前記のとおり,補正前発明と引用発明との対比に係る審決の認定に誤
りはないから,一致点及び相違点に係る認定についても誤りはない。
イ相違点1の認定について
原告は,審決が,相違点1の認定において,電子マネー管理サーバ及び
リモート発行サーバが「携帯電話のインターネット網を介して接続され
る」点を認定しなかったことは誤りである旨を主張する(前記第3の2
イ)。
しかし,補正前発明は,貨幣端末と入金端末との間の通信路を特定して
いないので,どのような通信路を介して接続されるかは相違点とはならな
い。
したがって,相違点1に係る審決の認定に誤りはない。
ウ相違点2の認定について
原告は,審決が,相違点2の認定において,「入金操作は,ユーザが所
有して持ち運びが可能な携帯端末から電子マネー管理サーバにアクセスし
て行うものであり」を認定しなかったことは誤りである旨を主張する(前
記第3の2ウ)。
しかし,補正前発明は,貨幣端末の所有者を特定していないので,ユー
ザが所有する点及び持ち運び可能な点は相違点とはならない。
また,入金操作について,審決は,引用発明を「携帯電話100は,バ
リューのチャージを要求するためのバリュー発行要求情報を電子マネー管
理サーバ200に送信し,」(審決15頁30~31行)と認定してお
り,入金操作が,携帯端末から電子マネー管理サーバにアクセスして行わ
れるものであることを認定した上で一致点,相違点を認定している。審決
の相違点2の認定は,引用発明についての上記認定を前提とするものであ
る。
したがって,相違点2に係る審決の認定に誤りはない。
エ相違点3の認定について
原告は,審決が,相違点3において,補正前発明が「割引内容を同じ
実店舗の入金端末が記憶装置から読み出して出力した割引内容識別情報
の入力に基づいて」当該記憶装置から取得することを認定しなかったこ
とは誤りである旨を主張する(前記第3の2エ)。
しかし,補正前発明の「同じ実店舗の入金端末が記憶装置から読み出
して出力した割引内容識別情報の入力に基づいて」に関しては,審決
は,補正前発明と引用発明とを対比し,①入金システムが記憶装置から
取得される割引内容識別情報を出力すること,及び,入力される割引内
容識別情報に基づいて割引内容の適用可否を判断することを一致点とし
て認定し,②その入金システムが,補正前発明では「実店舗に設置され
た入金端末」であるのに対し,引用発明では電子マネー管理サーバ及び
リモート発行サーバであることを相違点1として認定し,③補正前発明
の決済端末は,入金端末と同じ実店舗に設置されるのに対し,引用発明
のPOS端末装置は,入金端末と同じ実店舗に設置されるものではない
ことを相違点2として認定している。
そして,上記①ないし③の認定に誤りがないことは,前記アないしウ
のとおりである。
原告は,審決が,相違点3において,「引用発明は,携帯電話に格納
されている店舗IDおよび期限IDに基づいて同じく携帯電話に格納さ
れているコンテンツ情報から取得した割引内容を利用する」ことを認定
しなかったことは誤りである旨を主張する(前記第3の2エ)。
しかし,前記ウのとおり,引用発明のPOS端末装置は,携帯電話
に記憶される店舗ID,期限IDを読み出すものの,コンテンツデータ
を読み出すかどうかは不明であり,「携帯電話に格納されているコンテ
ンツ情報から取得した割引内容を利用する」ものではない。
したがって,相違点3に係る審決の認定に誤りはない。
阻害要因について
原告は,引用発明は,「店舗に関する情報として顧客にとって関心の高い
店舗の情報を提供することにより,店舗にとって効果的に来店を促すこと」
(引用文献【0004】)を目的としており,また,実店舗内での入金機で
のチャージに問題があるとして,いつでもどこでもチャージを可能とする点
等を効果とするものであり,実店舗内の入金機によるチャージを前提とした
入金システムを積極的に排除しているから,引用発明を店舗内の入金機を用
いる構成とした場合には,引用発明の効果が損なわれ,引用発明の目的を放
棄することになるとして,引用発明に周知技術を適用することには阻害要因
が存在すると主張する(前記第3の2)。
しかし,前記で認定した引用文献の【0509】,【0510】の各記
載によれば,引用発明は,ユーザが遊技場にいる時間のうちの遊技に費やす
時間が削られることのないように,遊技中であっても席を離れることなくバ
リューをチャージしたり,あるいは事前にバリューをチャージすることによ
り,バリューチャージ時の手間を低減させることも想定していることが認め
られるのであって,引用発明が,実店舗内の入金機によるチャージを積極的
に排除しているものでないことは明らかである。
そして,店舗にとって効果的に来店を促すという引用発明の目的は,携帯
電話インターネット網を介したチャージによって達成されることはもとよ
り,店舗内で入手した情報がユーザにとって利用価値の高いものであれば後
日再来店することを促されるということがあるから,店舗内の入金機を用い
たチャージによっても上記の目的は達成されるし,また,いつでもどこでも
チャージを可能とするという点については,携帯電話インターネット網を介
したチャージによって達成される。
したがって,引用発明において,店舗内の入金機を用いる構成を適用する
ことについて阻害要因があるとはいえず,原告の上記主張は,採用すること
ができない。
相違点3の容易想到性について
原告は,補正前発明においては,クーポンの発券とその使用とが同一店舗
内であって時間的・場所的に近接していることから,在庫排出したい商品の
クーポン情報を優先して出力したり(【0083】),在庫数に応じてクー
ポン発行枚数を制限する(【0086】)など,柔軟なクーポン発券が可能
となるのに対し,引用発明では,クーポン情報は,電子マネー管理サーバ2
00の記憶装置内ではなく,端末である携帯電話内に記憶されていることが
明記されており,クーポン発券とその使用とは,必ずしも時間的・場所的に
接近しているとは限らないため,クーポン発券の柔軟性を高めることは困難
であるとして,柔軟なクーポン発券を可能とするという点は補正前発明の顕
著な効果であり,引用発明及び周知技術から当業者が容易に想到し得ること
ではないと主張する(前記第3の2)。
しかし,在庫の多い商品に対して割引を行い,売れ残りを防ぐことは周知
の販売戦略である。また,入金機でクーポンを発券する際に,その入金機の
ある店舗内で利用できるクーポンを発券することも,営業戦略として当然の
ことである。したがって,クーポン発券とその使用とが同一店舗内であって
時間的・場所的に近接していることから,在庫を排出したい商品のクーポン
情報を優先して出力したり,在庫数に応じてクーポン発行枚数を制限するな
ど,柔軟なクーポン発券が可能になるという効果は,当業者が予測し得るこ
とである。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
小括
以上のとおり,補正前発明(審決のいう本願発明)は,引用発明及び周知
技術から当業者が容易に発明をすることができたものであり,この点に係る
審決の判断に誤りはない。
よって,原告主張の取消事由1-Bは理由がない。
3取消事由2(手続上の瑕疵)について
原告は,本件補正を却下してされた審決には,手続上の瑕疵があると主張す
る(前記第3の3)ので,以下,検討する。
本件補正の却下に至る経緯
前記第2の1の事実に加え,各項掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,
以下の事実が認められる。
ア原告は,本願につき,平成24年9月21日付けで拒絶査定を受け,同
年12月28日,本件審判を請求するとともに,本件補正をした。
これを受けて,特許庁長官は,特許法162条の規定に基づき,本願に
ついて拒絶査定をした審査官(以下,単に「審査官」という。)に,上記
請求についての審査(前置審査)をさせた。
イ審査官は,平成25年4月3日及び同月16日,当時の原告代理人と電
話による面談をした。審査官は,同月3日,原告に対し,請求項3であれ
ば拒絶理由を有しないと考えられるため,請求項3に限定する補正の検討
を依頼し,同時に特開2005-182682号公報を参考文献として通
知した。これに対し,原告は,同月16日,審査官に対し,請求項1,2
に記載の権利範囲で特許を受けたいため,請求項の補正を行わないとの回
答をした(甲17)。
ウ審査官は,本件審判の請求について審査をし,平成25年4月19日付
けで本件前置報告書を作成して,その結果を特許庁長官に報告した。本件
前置報告書には,「請求項1,2,4-7についての補正は限定的減縮を
目的としている。この場合,補正後の請求項1,2,4-7に係る発明は
特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならな
い。しかしながら,・・・引用文献1の装置に引用文献2の構成を採用し
て本願の端末を構築することは,当業者において容易なことである。した
がって,当該補正後の請求項1,2,4-7に係る発明は,特許法第29
条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができな
い。」との記載がある(甲15)。
エ本件審判を行う合議体を構成する審判官(以下,単に「審判官」とい
う。)は,平成25年5月24日付け書面(本件審尋書)により,原告に
対し,本件前置報告書を利用した審尋を行い,回答書の提出を求めた。
本件審尋書には,「この審判事件については,審査官による審査(特許
法第162条,前置審査)の結果,以下の《前置報告書の内容》のとお
り,特許をすべき旨の査定ができない旨の報告(同法第164条第3項,
前置報告書)が特許庁長官になされました。この審判事件の審理は,今
後,この《前置報告書の内容》を踏まえて行うことになります。」との記
載があり,併せて本件前置報告書の内容が記載されていた(甲15)。
オ原告は,平成25年7月17日,本件審尋書に対する回答書を提出し
た。同回答書には,「請求項1記載の本願発明は,引用文献1及び引用文
献2から容易に想到することができた発明に該当しません」等,本件前置
報告書の内容に対する原告の見解が記載されている(甲18)。
カ特許庁は,平成26年1月20日,本件補正を却下し,「本件審判の請
求は,成り立たない」との審決をした。
手続上の瑕疵の有無について
ア原告は,本件審判の手続において,特許出願の適正を貫くためには,審
判官は,請求項2の追加を理由に本件補正を却下するとの意向を原告に伝
え,意見聴取及び再補正の機会を与えるべきであったのに,これを怠った
から,本件審判の手続には,特許出願審査手続の適正を貫くための基本的
な理念を欠くものとして,適正手続違反があったと主張し,平成23年知
財高裁判決を指摘する(前記第3の3ア)。
そこで検討すると,本件補正は,特許法17条の2第1項4号に該当す
る拒絶査定不服審判の請求と同時にする補正であるから,同条の2第3項
ないし第5項に規定される要件を満たす必要がある。一方,同法53条
は,同法17条の2第1項1号又は3号に係る補正が,同条の2第3項か
ら第6項までの規定に違反していると認められたときは,決定をもってそ
の補正を却下すべきものとしているところ,同法159条1項は,同法5
3条の規定は,拒絶査定不服審判に準用するものとし,この場合におい
て,同法53条1項中「17条の2第1項1号又は3号」とあるのは,
「17条の2第1号,第3号又は第4号」と読み替える旨を規定してい
る。したがって,拒絶査定不服審判の請求と同時にする補正が同法17条
の2第5項の規定に違反しているものと認められたときは,決定をもって
その補正を却下しなければならない。そして,特許法上,この手続におい
て,補正却下の決定をする前に,審判請求人に対して拒絶理由を通知して
意見聴取及び再補正の機会を与えるべきことは求められていない。
したがって,上記規定を踏まえた本件審判の手続において,審判官が,
請求項2の追加を理由に本件補正を却下するとの意向を原告に伝えて意見
聴取及び再補正の機会を与えるということをせず,特許法17条の2第5
項の規定に違反することを理由として本件補正を却下する旨の決定をした
ことをもって,直ちに,特許出願審査手続の適正を貫くための基本的な理
念を欠くとか,適正手続に反するということはできず,これを違法とする
ことはできない。
なお,原告の引用する平成23年知財高裁判決は,審決が,補正後の発
明について,新たな公知技術に基づいて進歩性を否定し,独立特許要件を
欠くとして補正を却下した等の事情のある事案に係るものであり,本件と
は事案を異にし,本件をこれと同視するのは適切でない。
イ原告は,本件審判の手続には,行政手続法1条の規定する「行政運営に
おける公正の確保と透明性の向上」という目的から,特許法に詳細な規定
がないとしても,原告に対して意見聴取の機会を与えるべきであり,告知
や聴聞の機会を付与することなく,補正を却下した本件審判の手続には行
政手続上の違法があると主張する(前記第3の3イ)。
しかし,特許法195条の3は,特許法又は特許法に基づく命令の規定
による処分については,行政手続法第2章(申請に対する処分)及び第3
章(不利益処分)の規定を適用しない旨を規定している。したがって,特
許法に規定のない限り,行政手続法13条ないし31条に規定する聴聞や
弁明の機会の付与の手続を執らないことが,行政手続法上の違法をもたら
すものではない。そして,特許法には,これを必要とする規定はなく,ま
た,原告の上記主張に照らしてみても,他に,前記で認定した本件審判
の手続に,告知・聴聞の手続を経なければ,行政手続法の目的に反し,こ
れを違法とするような事情があるとは認められない。
ウ原告は,審判官が,本件審尋書において「この審判事件の審理は,今
後,この《前置報告書の内容》を踏まえて行うことになります。」と記載
し,出願人に,審判合議体が本件前置報告書の内容を前提とした判断を行
うものと期待させたところ,同報告書には,本件補正が「限定的減縮を目
的としている」と明記されていたのであるから,審判合議体が,これと異
なる判断に至った場合には,速やかにその判断内容を原告に開示して,そ
の意見を聴く機会を設けるべきであり,これをせずに補正を却下した手続
は,審判請求人の審判手続に対する信頼を損ない,審判手続上の信義則に
も反すると主張して,平成20年知財高裁判決を引用する(前記第3の3
ウ)。
しかし,前記で認定した本件審判の手続については,特許法の規定に
従ったものであり,行政手続上の違法も認められないことは,前記ア及び
イで述べたとおりである。
ところで,審査前置制度は,拒絶査定に対する審判において,拒絶査定
がくつがえるものの大部分が拒絶査定後に特許請求の範囲等に補正があっ
たことによるものであるという実情に鑑み,そのような事件の処理をその
拒絶をした審査官に再審査させることにより,審判官の処理の負担を減ら
し,審判の促進をはかろうとするものである。そして,特許査定に至らな
かった審査官の審査結果は審判合議体に報告され,その後の審理の参考に
供されるものである。
本件においては,前記の認定事実ウのとおりの内容の本件前置報告書
が提出されたところ,同認定事実エのとおり,審判官は,同報告書の内容
を示した本件審尋書により,原告に審査官の報告内容を知らせ,回答書に
よりその主張を述べる機会を与えたことが認められる。審判合議体が,こ
れらの報告書や回答書の内容も参考にして審決の判断をするものであるこ
とは明らかであるが,その判断がこれらの内容に拘束されるものでないこ
とも,また当然の前提というべきである。
そして,このような審査前置制度の趣旨に照らせば,本件審尋書におけ
る「《前置報告書の内容》を踏まえて」との記載は,本件審判の手続にお
いて,審査官から報告された内容を参考として審理を行うという,ごく当
然のことを述べたものにすぎないことも明らかであり,それを超えて,審
決においては本件前置報告書の内容と異なる判断をしないとの意思を原告
に表示したものと見ることはできないし,何らかの期待を与えるものとい
うこともできない。
さらに,前記の認定事実において認められる本件審判手続の経緯に照
らしてみても,審査官や審判官と原告との間のやりとりにおいて,本件前
置報告書に記載された内容のうち補正に係る部分が,審決において維持さ
れることを原告が期待すべき特段の事情が存在することをうかがうことは
できないし,他に,審判合議体が,原告に再補正の機会を与えなければ,
その手続が審判請求人の審判手続に対する信頼を損ない,審判手続上の信
義則に反するものとして,これを違法とすべき事情があるとも認めること
ができない。
なお,平成20年知財高裁判決は,審判請求後の補正について,提出前
の補正案(増項補正)を審査官が容認した上,面接結果と異なる判断や処
分をすることとなる場合にはその旨を拒絶理由通知書等によって通知する
ことを伝えた等の事情のある事案に係るものであって,本件とは事案を異
にし,本件をこれと同視するのは適切でない。
小括
以上のとおりであるから,原告の前記各主張は,いずれも採用することが
できない。原告主張の取消事由2は理由がない。
第6結論
よって,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のと
おり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官石井忠雄
裁判官西理香
裁判官田中正哉
(別紙)
【図3】
【図7】
【図34】

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