弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を懲役4年6月に処する。
未決勾留日数中70日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
 被告人は,
第1 平成15年10月8日午後9時30分ころ,岡山市ab番地のc所在のA株
式会社駐車場において,同所に駐車中の同社代表取締役B管理にかかる普通貨物自
動車(軽四)1台(時価約50万円相当)を窃取した
第2 同月9日午前1時30分ころ,同市de丁目f番所在のC専用駐車場におい
て,同所に駐車中のD所有にかかる普通乗用自動車(軽四)から,ナンバープレー
ト2枚を窃取した
第3 Eを略取,監禁してわいせつな行為をしようと企て,同日午前8時45分こ
ろ,兵庫県g市h町i番付近路上において,同女(当時19歳)に対し,「裸の写
真を返す。」などと言葉巧みに申し向け,同女を同所に駐車中の普通貨物自動車
(軽四)の後部に連れて行き,やにわに同女の後ろからその背中等を手で押して,
同女を同車後部荷台に押し込んで後部ドアを閉め,直ちに同所から同車を発進させ
て同市j町k番l号所在のF北側路上に同女を連行し,同日午前8時47分ころ,
同所に停車中の同車内において,その顔面及び腹部を手拳で数回殴打し,同女の両
手及び両足に手錠をかけ,さらに,ガムテープで目隠しをし,その両足を緊縛し
て,その口に猿ぐつわをするなどした上,同日午前8時55分ころ,同所から同車
を発進させて,岡山県m郡n町o字pq番地のr所在の山陽自動車道Gパーキング
エリア上り線の駐車場に同女を連行し,同日午後3時ころ,同所に駐車中の同車内
において,同女に対し,「お仕置きせにゃあな。」「入れるんな。口でするんな。
どれにするんな。」などと申し向けて脅迫し,その反抗を抑圧して,同女の陰部等
を手指でもてあそび,自己の陰茎を同女の口に押し込むなどし,引き続き,同所か
ら同車を発進させて,同月10日午前7時25分ころ,兵庫県s郡t町uv番地所
在の西日本旅客鉄道株式会社H駅前路上において,同女を解放するまでの間,同女
をして,同車内等から脱出することを不能ならしめ,もって,わいせつの目的で同
女を略取,監禁して,強いて同女にわいせつな行為をした
ものである。
(証拠の標目)―括弧内の甲,乙に続く数字は検察官請求証拠番号―
省略
(補足説明)
 弁護人は,判示第3の犯行(以下「本件犯行」という。)について,犯行に至る
経緯及び犯行の外形的事実は争わないが,被告人は,E(以下「被害者」とい
う。)に意趣返しする目的で同女を略取し,判示の行為に及んだものであって,わ
いせつ目的はなかったから,わいせつ目的略取罪,強制わいせつ罪は成立しない旨
主張し,被告人も,当公判廷においてこれに沿う弁解をする。
 確かに,関係各証拠によれば,被告人は,かつて被害者と交際していたものであ
るが,平成15年7月,被害者に対する傷害罪により逮捕された際,その被害申告
をした被害者を逆恨みし,手錠をかけて拘束するなどして同女に復讐することを企
て,同年10月7日,前記傷害罪について罰金刑の判決を受け釈放されるや,直ち
に準備を開始して本件一連の犯行に着手していると認められ,本件犯行の際,被告
人に,被害者に対し意趣返しする目的があったことは弁護人主張のとおりである。
 しかし,他方,被告人は,被害者を拉致監禁するための道具として手錠等を購入
した際,ローションを購入しており,その理由について,捜査段階では,被害者を
服従させるためにアナルセックスをしようと思い購入した旨供述していること,当
公判廷においても,ローションは自分で使用するつもりで購入した旨弁解しつつ,
自分は前記傷害罪で身柄を拘束された72日間と同じ期間被害者を監禁しようと思
っていた旨述べるとともに,その間被害者と性交するつもりもあった旨述べている
こと等に照らすと,被告人には,被害者に対するわいせつ目的があったものと認め
られ,これは,前記意趣返しの目的と十分に両立しうるものであるから,被告人
は,本件犯行の際,被害者に対するわいせつ目的をもって被害者を略取し,判示の
強制わいせつ行為に及んだものと認められ,わいせつ目的略取罪,強制わいせつ罪
の成立は優に認められる。
 弁護人の主張は理由がない。
(法令の適用)
 被告人の判示第1及び第2の各所為はいずれも刑法235条に,判示第3の所為
のうち,わいせつ目的略取の点は同法225条に,監禁の点は同法220条に,強
制わいせつの点は同法176条前段にそれぞれ該当するところ,判示第3のわいせ
つ目的略取と監禁は1個の行為が2個の罪名に触れる場合であり,わいせつ目的略
取と強制わいせつとの間には手段結果の関係があるので,同法54条1項前段,後
段,10条により結局以上を1罪として最も重いわいせつ目的略取罪の刑で処断す
ることとし,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条
により最も重い判示第3の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役
4年6月に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中70日をその刑に算入し,
訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用してこれを被告人に負担させ
ないこととする。
(量刑の理由)
 本件は,被告人が,かつての交際相手である被害者を拉致監禁しようと企て,こ
れに使用するため自動車及びナンバープレートを窃取した窃盗の事案(判示第1,
第2)及び被害者をわいせつ目的で略取し,約23時間にわたり監禁して,その間
にわいせつ行為に及んだわいせつ目的略取,監禁,強制わいせつの事案(判示第
3)である。
 判示第3の犯行を中心に犯情を見ると,被告人は,かつて被害者に傷害を負わせ
たが,その際被害者が警察には被害申告しない旨述べていたのに被害申告した結果
逮捕勾留されたとして被害者を逆恨みし,被害者に復讐しようと企て,判示各犯行
を敢行したものであるが,かかる身勝手かつ無法な動機に酌量の余地はない。強固
な犯意のもと立案し,あらかじめ自動車やナンバープレートを盗んだ上敢行した一
連の計画的犯行であるし,犯行態様も,被害者に手錠をかけたり緊縛して長時間監
禁するなどし,この間密室状態の同車内で強制わいせつ行為に及ぶなど,被害者の
身体的,性的自由を蹂躙するもので,犯行の発覚を免れるための工作をしている点
とも併せ,悪質である。もとより,被害者は,前記傷害罪の被害申告をしたことに
ついても何ら責められるべき落ち度はないにもかかわらず,判示第3の被害を受け
たもので,その肉体的精神的苦痛は著しく,その処罰感情には極めて厳しいものが
あるが,被告人は何ら慰謝の措置をとっていない。
 そして,本件が犯罪被害者の被害申告を妨げることに結びつく,法治国家におい
て許しがたい犯行であること,被告人は,前記傷害罪の公判において,被害者に復
讐する意図を持ち続けながらこれを秘し,反省している態度を装っていたのであっ
て,その反社会的発想にも憂慮すべきものがあったことなどに照らすと,被告人の
刑事責任は重大である。
 他方,判示第1及び第2の各犯行については,被告人の実母において被害弁償を
完了していること,被告人が公判を通じて本件各犯行を反省し,被害者へのわだか
まりを捨てて,被害者とは2度と会わない旨誓約していること,被告人の前妻が,
当公判廷において,被告人と復縁し,被告人を監督する旨述べていること,被告人
には前妻との間に養育すべき幼児がいること,当初被害者の証人尋問を求めていた
が,被害者の心情に思い至ってか,同人の検察官調書等の請求に同意し,これを撤
回したことなど,被告人のために斟酌すべき事情も認められるから,これらの事情
を十分に考慮した上,主文の刑に処するのが相当であると判断した。
 よって,主文のとおり判決する。
  平成16年3月16日
神戸地方裁判所第1刑事部
裁判長裁判官   杉 森 研 二
   裁判官橋 本   一
   裁判官沖   敦 子

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