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平成14年(ワ)第1323号損害賠償請求事件
口頭弁論終結日 平成14年3月28日
判    決
原          告         A
被          告         B
被          告         タイホー工業株式会

被告両名訴訟代理人弁護士         村 林 隆 一
    被告タイホー工業株式会社補佐人弁理士   福 田 賢 三
主    文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 被告タイホー工業株式会社(以下「被告タイホー」という。)は、原告に対
し金520万円を支払え。
2 被告Bは、原告に対し金520万円を支払え。
第2 当事者の主張
1 原告の主張
(1) 被告タイホーに対する請求について
ア 原告は、登録第1501677号の実用新案権(以下「原告実用新案
権」といい、その考案を「原告考案」という。)を有していた。
イ 原告は、特許第2566512号の特許権(以下「原告特許権」とい
い、その特許発明を「原告発明」という。)を有している。
ウ 被告タイホーは、「クリンビュー」と称する商品を販売している。
エ 被告タイホーが「クリンビュー」と称する商品を製造、販売する行為
は、原告実用新案権及び原告特許権を侵害する。
オ 被告タイホーは、「クリンビュー」と称する商品の製造、販売により何
億円かの利益を得ている。
カ 原告は、被告タイホーに対し、上記侵害行為により被った財産的損害の
内金として400万円、及び精神的苦痛を被ったことによる慰謝料として120万
円を請求する。
(2) 被告Bに対する請求について
ア 原告は、昭和52年3月ころ、原告実用新案登録の出願手続の際、弁理
士である被告Bに対し、
(ア) 車両のエアワイパーについてのアイデア
(イ) ウインドウガラスに油状、ワックス状、油紙又は他の液状、固体
状、グリス状のものを塗布することにより、ウインドウガラスに付着する雨・水等
の水滴を粒状にして吹き飛ばし、ウインドウガラスに残らないようにしたアイデア
(ウ) 加熱装置を設置して、熱風をウインドウガラスに吹き出して凍結を
防止したり、油膜を除去するアイデア
(エ) 防曇剤のアイデア
を開示した。
イ 被告Bは、原告から開示を受けた前記ア記載のアイデアのうち、車輌の
エアーワイパーについてのみ原告実用新案権に係る実用新案登録出願をし、他のア
イデアを第三者に漏らし、このアイデアに基づいて、被告タイホーが特許出願(発
明の名称:「防曇剤」、登録番号:第1441167号、出願日:昭和54年12
月24日。以下「タイホー特許」という。)するに至った。
ウ 原告は、被告Bの上記イの行為により、400万円の財産的損害を被っ
た上、精神的苦痛を被った。その慰謝料額としては、120万円が相当である。
エ よって、原告は被告Bに対し、不法行為に基づく損害賠償として金52
0万円を請求する。
2 被告タイホーの主張
(1) 原告の主張(1)のア~ウ記載の事実は認め、同エ~オ記載の事実は否認す
る。
(2) 「クリンビュー」との標章は、被告タイホーが有する登録商標であり、か
つ、ハウスマークである。したがって、「クリンビュー」商品としては、自動車の
フロントガラスに用いる「塗る」もの・スプレー・ワックス、車の洗車後に車に直
接用いるワックス・スプレー、車のボディーの傷を消す塗りもの、車の水アカ・汚
れを取るワックス、フロントガラスの凍結防止剤、防錆剤等、自動車用化学製品と
して多種類のものが存在し、原告が侵害品であると主張する商品がどれであるのか
全く特定されていない。いずれにしても、被告タイホーの商品「クリンビュー」
は、原告考案及び原告発明とは全く構成を異にしている。
3 被告Bの主張
(1) 原告の主張(2)のアのうち、原告が原告実用新案登録の出願をしたことは
認めるが、同アのその余の事実及び同イ~ウの各事実は否認する。
(2) タイホー特許は、被告タイホーが、出願代理人であるC弁理士に依頼して
出願したものであり、被告タイホーの本店所在地は東京都である。したがって、タ
イホー特許の出願行為は、被告Bとは何らの関係もない。
第3 当裁判所の判断
1 被告タイホーに対する請求について
(1) 原告が原告実用新案権及び原告特許権を有していること、被告タイホーが
「クリンビュー」と称する商品を製造、販売していることは当事者間に争いはな
い。原告実用新案権の内容は別紙1のとおりであり(甲2の1・2)、原告特許権の内
容は別紙2のとおりである(甲3の1・2)。
(2) 原告は、被告が製造、販売する「クリンビュー」と称する商品が、原告実
用新案権及び原告特許権を侵害すると主張する。
 原告実用新案登録請求の範囲(別紙1)及び原告特許請求の範囲(別紙
2)からすれば、原告考案及び原告発明は、いずれも、エアーノズルからエアーを
噴出することによってエアーカーテンを形成する車輌のエアーワイパーの技術に関
するものである。
 他方、乙1によれば、被告タイホーが販売する「クリンビュー」と称する
商品は、自動車のフロントガラスに用いる「塗る」もの・スプレー・ワックス、車
の洗車後に車に直接用いるワックス・スプレー、車のボディーの傷を消す塗りも
の、車の水アカ・汚れを取るワックス、フロントガラスの凍結防止剤、防錆剤等、
自動車用化学製品として多種類のものが存在することが認められるが、これらの商
品は、いずれも、エアーノズルからエアーを噴出することによってエアーカーテン
を形成する車輌のエアーワイパーに該当する構成を備えたものではなく、その他、
被告タイホーが、原告考案及び原告発明の技術的範囲に属する車輌用エアワイパー
を販売している事実を認めるに足りる証拠はない。
(3) 以上によれば、原告の被告タイホーに対する請求は理由がない。
2 被告Bに対する請求について
(1) 原告が、原告実用新案登録の出願をしたことは当事者間に争いがない。
(2) 原告は、原告実用新案登録の出願の際に、次のア~エ記載のアイデアを開
示したことろ、被告Bがこれを第三者に漏らしたと主張する。
ア 車両のエアワイパーについてのアイデア
イ ウインドウガラスに油状、ワックス状、油紙又は他の液状、固体状、グ
リス状のものを塗布することにより、ウインドウガラスに付着する雨・水等の水滴
を粒状にして吹き飛ばし、ウインドウガラスに残らないようにしたアイデア
ウ 加熱装置を設置して、熱風をウインドウガラスに吹き出して凍結を防止
したり、油膜を除去するアイデア
エ 防曇剤のアイデア
(3) 原告実用新案権の実用新案公報(甲2の1)によれば、原告は被告Bを代
理人として原告実用新案登録の出願をしていることが認められるから、原告は同出
願手続に際し、被告Bに上記(2)アの車輌のエアーワイパーに関する技術を伝えたも
のと推認できる。また、原告実用新案公報の考案の詳細な説明の項には、「車輌の
前面ウインドガラスには通常機械式のワイパが具備されるが、このような機械式の
ワイパを用いた場合には、前方視界が左右に揺動するワイパにより遮られて、快適
な運転が困難であると云う問題があった。また、上記の場合には、前面ウインドガ
ラスに油膜が付着しやすいと云う欠点もあり、更に、上記の場合には、前面ウイン
ドガラスの全面をワイパでぬぐうことは困難であって、隅部は汚れたままであると
云う欠点もあった。」(同公報1欄37行~2欄8行)と記載されているから、原告
は、上記出願に際して、被告Bにこうした機械式のワイパが抱えている問題点をも
伝えたものと推認できる。また、証拠(甲6、甲7の2、甲12)によれば、原告
は、その作成した上告状、告訴状及び手続補正書において、上記出願に当たり、被
告Bに対し、ハスの葉に落ちた水滴が水玉状になりポロポロと落ちることにヒント
を得て、車輌のウインドガラスの内外に油膜を付けることにより、水滴を粒状にし
てエアーで吹き飛ばしやすくするとのアイデアを得た旨述べたとの趣旨の記載をし
ていることが認められる。
 しかしながら、タイホー特許権の公開特許公報(甲1の1)によれば、同特
許出願公開時における特許請求の範囲は、「下記構造式で表されるリン酸エステル
系界面活性剤の1種又は2種以上を含有する防曇剤。」(「下記構造式」が示す化
学構造式の記載は省略)とされており、発明の詳細な説明には、「この発明は、ガ
ラス、メガネ、鏡、合成樹脂シート、フィルム、パネル等、特にメガネ、ゴーグル
など比較的長時間に亘って防曇性が持続されることを必要とするものに顕著な効果
を呈する防曇剤に関するものである。」(同公報1頁右下欄2~6行)と記載され、
従来技術の防曇剤組成物として①防曇性を有する樹脂を表面にコーティングするタ
イプ、②界面活性剤を使用するタイプがあったところ、タイホー特許の発明は、特
に②のタイプの防曇剤の防曇性の持続効果や拭き取り性を向上させるために特定の
構造式で表されるリン酸エステル系界面活性剤を含有する防曇剤を提示したもので
あることが認められる。したがって、タイホー特許の発明は、前記(2)イのアイデア
(原告が前掲証拠(甲6、甲7の2、甲12)中で被告Bに告げたと述べているアイ
デアも同趣旨のものと解される。)にとどまるものとはいえず((2)エは具体的内容
が明らかでない。)、本件全証拠によっても、原告が、タイホー特許権の特許請求
の範囲に記載されているような具体的技術を想到するに至ったことや、こうした具
体的な技術内容を被告Bに開示した事実を認めるに足りる証拠はない。
 さらに、前掲甲1の1によれば、タイホー特許の出願手続を行った代理人
は、被告Bではなく、弁理士C外2名であることが認められ、被告Bが原告から開
示を受けた情報をもとにタイホー特許が出願されたとするには、被告Bが得た上記
技術情報が弁理士Cらに伝えられる必要があるというべきところ、本件全証拠によ
っても、被告Bがタイホー特許権の技術や上記(2)イないしエの技術を第三者に漏ら
した事実も、その結果、被告タイホーがタイホー特許を出願するに至った事実につ
いても、いずれもこれを認めるに足りる証拠はない。
3 以上によれば、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費
用の負担につき民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官   小  松  一  雄
裁判官   阿  多  麻  子
裁判官   前  田  郁  勝
(別紙1)
(1) 考案の名称 「車輌のエアーワイパ」
(2) 登録番号 第1501677号
(3) 出 願 日 昭和52年6月21日(実願昭52-82155号)
(4) 公 開 日 昭和54年1月22日(実開昭54-9438号)
(5) 公 告 日 昭和57年12月13日(実公昭57-58027号)
(6) 登 録 日 昭和58年8月10日
(7) 登録抹消日 平成5年2月25日(原因:平成3年12月13日第10年分
登録料不納)
(8) 実用新案登録請求の範囲
 車輌1の前面ウインドガラス5の前方側にエアーカーテン33を形成する車
輌のエアーワイパであって、前面ウインドガラス5に略平行に、かつ略全面に沿っ
た後面エアーカーテン32を形成する上向きエアーノズル31を前面ウインドガラ
ス5の下縁部26aに沿って複数個並設し、前記後面エアーカーテン32の前方側
で前面エアーカーテン30を形成する上向きエアーノズル24を前面ウインドガラ
ス5の下縁部26aに左右に首振り自在に備えて、該エアーノズル24を首振り振
動させる手段23を備え、上記前面エアーカーテン30を形成するエアーノズル2
4を前傾上方にエアーを噴出すべく設け、各ノズル24、31へのエアー供給用パ
イプ18、19に夫々エアー流量調整用絞り弁21を設けたことを特徴とする車輌
のエアーワイパ。
(別紙2)
(1) 考案の名称 「車両用エアワイパー」
(2) 登録番号 特許第2566512号
(3) 出 願 日 平成4年11月24日(特願平4-334937号)
(4) 公 開 日 平成6年6月3日(特開平6-156204号)
(5) 登 録 日 平成8年10月3日
(6) 特許請求の範囲
 車体内に設置された圧縮空気供給手段と、前面ウィンドガラス下端の前方近
傍位置で前記前面ウィンドガラスの下端縁に沿って所定間隔毎に設置され、前記圧
縮空気供給手段から送られた空気を前記前面ウィンドガラス外表面に沿って下方か
ら上方に噴射し第1のエアカーテンを形成する第1のエア噴射ノズル部と、前記前
面ウィンドガラス下端縁の前方近傍位置で前記圧縮空気供給手段から送られた空気
を上方に噴射するように設置され、かつ前記前面ウィンドガラスの外表面に略平行
な方向に首振り運動可能に設けられ、前記首振り動作により前記第1のエアカーテ
ンより前記前面ウィンドガラスから遠い位置に第2のエアカーテンを形成する第2
のエア噴射ノズル部と、前記第2のエア噴射ノズル部に前記首振り動作を行わせる
首振り駆動手段と、を含む車両用エアワイパーにおいて、前記第2のエア噴射ノズ
ル部は、複数個のノズルからなり、該ノズルは、互いに前記前面ウィンドガラスか
らの距離を異にする2以上の小カーテンから前記第2のエアカーテンを構成するよ
うに、前記前面ウィンドガラスの左右方向の中央位置部分に設置された1又は複数
のセンターノズルパートと、左右両側寄りにそれぞれ1又は複数個ずつ設置され前
記前面ウィンドガラスの外表面に対して前記センターノズルとは異なる傾斜角で首
振り動作するサイドノズルパートと、から成り、各ノズルは、噴射エアが前記前面
ウィンドガラスの左右両側辺から外方へはみ出さないような首振り動作角とされ、
前記前面ウィンドガラス下端縁の前方近傍でかつ前記第1のエア噴射ノズル部近傍
位置に吹出し口が配され温風を前記前面ウィンドガラス外表面に沿って上方へ送出
する温風供給手段が設けられたことを特徴とする車両用エアワイパー。

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