弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
本件控訴をいずれも棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とする。
○ 事実
第一 申立て
一 控訴人ら
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人枚方税務署長が昭和五〇年九月三日付けで控訴人A、同B、同Cに対
して、被控訴人豊能税務署長が同年一一月一五日付けで控訴人Dに対して、被控訴
人下関税務署長が昭和五一年九月二九日付けで控訴人Eに対して、それぞれした昭
和四九年分所得税の更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。
3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。との判決を求める。
二 被控訴人ら
主文同旨の判決を求める。
第二 主張
当番における主張を次のとおり付加するほか、原判決事実摘示のとおりである(た
だし、原判決五枚目表八行目の「F」を「F」と改める。)から、これを引用す
る。
一 控訴人ら
1 本件更正処分の手続的違法事由の追加
(一) Fに対する支払金二〇〇〇万円について
(1) 仮に右支払金が本件譲渡所得の必要経費に当たらないとすれば、Fに対す
る退職金の性質を有するものであつて、控訴人Aの事業所得算定上の必要経費に当
たる。
(2) 右の内金五〇〇万円は昭和四八年八月二八日に支払われ、残金一五〇〇万
円については、建物明渡しの履行期未到来のためまだ支払われていないが、退職所
得の収入の時期は、所得税法施行令七七条の規定により、全額二〇〇〇万円につい
て昭和四八年となる。
(3) 一方、退職金の必要経費算入時期については、所得税法三七条が債務の確
定した年と規定しているから、結局控訴人Aの昭和四八年分の事業所得の必要経費
として、二〇〇〇万円全額が算入されなければならない。
(4) ところで、控訴人Aは所得税法一四三条が規定する青色申告書の提出を承
認されているところ、同控訴人の昭和四八年度事業所得の必要経費として右二〇〇
〇万円の退職金を算入すると、同年度分の申告所得額は赤字となるから、この場合
には、所得税法七〇条一項の規定により、翌昭和四九年度の所得から繰越損失とし
て控訴されなければならない。
(5) したがつて、原処分庁である被控訴人枚方税務署長は、国税通則法二四条
に従い控訴人Aの昭和四九年度の総所得について更正すべきであつたし、右更正を
しなかつたとしても、訴願手続の過程において同控訴人からその瑕疵は主張され、
同法七〇条の制限期間内であつたから、同法二六条に従い再更正すべきであつたの
に、これをしなかつた点において、同控訴人に対する本件更正処分は右法条に違反
し違法である。
(二) 日本耐アルカリに対する支払金二五〇万円について
右支払金が本件土地譲渡についての必要経費に当たらず、建物の譲渡に必要な経費
その他の経費であるとすれば、控訴人Aの昭和四九年度における不動産の譲渡所得
以外の何らかの所得の経費であるから、Fに対する支払金同様、同控訴人の同年度
の総所得について更正又は再更正すべきであつたのに、これをしなかつた点におい
て、同控訴人に対する本件更正処分は違法である。
(三) 国税通則法二四条違反について
(1) 被控訴人らにおいて、本件各更正処分をするにつき、何らかの調査をした
ことになるとしても、Fに対する支払金を退職金と見る限り、その税法上の取扱い
につき前記の各法条があることに鑑み、少くとも被控訴人枚方税務署長が控訴人A
に対する本件更正処分をなすに際してしたとする調査なるものは、杜撰きわまりな
く、不充分というよりむしろ調査に値しないというべきであるし、日本耐アルカリ
に対する支払金についても、被控訴人らとしては、控訴人らがいずれも立退補償金
二五〇万円にははるか及ばない金額である一四七万五〇〇〇円を本件土地の譲渡費
用として算入した点から見て、何故にかかる金額を算入したか課税庁として当然に
疑問を抱いたはずであり、調査の必要を感じたはずであつて、このことは、被控訴
人らにおいて、ひとしくこの点に関する調査を怠つたことを物語るものである。
(2) 右の点において、被控訴人らは、本件各更正処分をなすに際し、国税通則
法二四条の調査を充分にしなかつたことにつき、裁量権を著しく濫用した違法があ
る。
2 農地売払法五条の違憲性についての主張
別紙記載のとおり。
二 被控訴人ら
1 控訴人らの1(一)の主張は争う。
Fに対する支払金は、原判決認定のとおり、諸々の紛争解決金であつて、その一部
に退職に関する事項が含まれていたとしても、全体が退職金としての性格を有する
ものではないが、退職金の性格を有するとしたところで、退職所得の収入金額の収
入すべき時期(必要経費に算入すべき時期)は、その支給の基因となつた退職の日
による。
しかるに、Fの退職は、奥田塗料製造工業が閉鎖移転された昭和五一年である。
したがつて、仮に右支払金の一部が控訴人Aの事業所得の金額の計算上必要経費に
算入されるべきであつたとしても、その年分は昭和五一年となる。
2 控訴人らの1(二)の主張も争う。
日本耐アルカリに対する支払金についても、控訴人Aの昭和四九年分所得の計算
上、いずれの所得の必要経費にも該当しない。
3 控訴人らの1(三)の主張も争う。
譲渡所得の認定につき経費性を有しない支払について、被控訴人らは、他にどんな
税務処理が可能であり、かつ、控訴人らにおいてその手続を取つたかどうかについ
てまで確認すべき義務はない。控訴人らに対する課税処分をなすに当たり、被控訴
人らは必要かつ十分な調査をした。
4 憲法一四条違反の主張について
憲法二九条二項は、「財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれ
を定める。」と規定しており、租税法を通じて財産権の内容を定め、あるいは課税
により財産権を制限するのも、それが公共の福祉に適合する限り違憲といえない。
私有財産の収用が正当な補償のもとに行われた場合に、その後に至り収用目的が梢
滅したとしても、法律上当然にこれを被収用者に返還しなければならないものでは
なく、これを被収用者に回復する権利を保障した農地法八〇条の措置は立法政策上
の問題である。
右立法政策に基づいて、時価より低廉な価格で土地を取得した被収用者の利益は、
地価の異常な値上がりと相まつて生じた不労所得にすぎない。かかる性質を有する
所得が実現したとき、その所得に対する課税について、公共の福祉の見地からどの
ような課税をするかは、農地買収制度及び先払制度の趣旨、目的のほか、これらの
制度の基礎をなす土地政策等社会、経済全搬の事情等を考慮して決定されるべき立
法政策の問題である。農地売払法五条が、公共の目的のための譲渡による所得につ
いては軽課、それ以外の目的のための譲渡による所得については重課とし、間接的
に売払土地の公共用への転用をできるだけ促進する効果を期したのは、かかる公共
の福祉の見地によるものである。
以上のとおり、農地売払法五条の規定は合理性を有するので、憲法一四条に違反し
ない。
5 憲法二九条違反の主張について
租税特別措置法三一条一項、三二条一項の立法趣旨は、土地等に関する異常な値上
りによる投機の抑制等住宅ないし土地政策によるもので、土地ころがしのペナルテ
イーあるいは懲罰課金の性質を有するものではない。
農地売私法五条の規定は、前記のとおり公共の福祉の見地から決定されたものであ
つて、課税上の重課、軽課の取扱いを租税特別措置法によらしめたのは単なる立法
技術の問題にすぎない。同措置法の右各規定は、その適用の効果を、取得時期、保
有期間等時間を基準としない他のいかなる課税原因に流用することも許さないもの
ではない。
なお、控訴人ら主張の(A)譲渡所得の金額は申告額(長期分離譲渡所得額)であ
つて各更正額と異なるのに対し、(B)所得税額は本件各更正額(短期分離譲渡所
得税額)である。(C)住民税額については知らないが、地方税法三七条の三の一
項、三一四条の八の一項、同法附則三五条一、四、五項によつて地方税の上限が設
定されており、所得を上回る税額を負担することはありえない。
第三 証拠関係(省略)
○ 理由
一 当裁判所も、控訴人らの本訴請求はいずれもこれを棄却すべきものと判断す
る。その理由は、次のとおり付加、訂正、削除するほか、原判決理由説示のとおり
であるから、これを引用する。
1 原判決一九枚目裏六行目の「乙」の次に「第六、第八号証」を加え、同二〇枚
目表末行の「受けていない」を「受けることのできない」と改める。
2 同二〇枚目裏三行目の「(」の次に「昭和二九年法律第五二号による改正前の
所得税法二六条の三及び四六条の二の一、二項についての」を、同四行目の「日」
の次に「第三小法廷判決」、「頁」の次に「参照」を、それぞれ加え、同五行目の
「受けていない」を「受けることのできない」と改め、同二一枚目裏七行目の
「日」の次に「第二小法廷判決」、同八行目の「頁」の次に「参照」を、同二二枚
目裏七行目の「日」の次に「第二小法廷判決一を、それぞれ加える。
3 同二二枚目裏九行目の「前掲」の次に「(1)挙示の」を加え、同二三枚目表
一行目の「原本の存在と成立に争いがない」を「弁論の全趣旨によつて原本の存在
とその成立が認められる」と改め、同裏七行目の「程度であり、」の次に「いわゆ
る家庭菜園の域を出ないものであつて、」を加え、同一〇行目の「全部」を「を全
体として見て」と改め同二四枚目表一〇行目の「ないのである」の次に「(無効原
因たる明白性についての挙証責任は主張者側にあるものと解する。)」を加え、同
裏三行目冒頭「朕告ら」の前に次のとおり付加する。「 買収の結果袋地となる民
有地が生じたとしても、民法上囲繞地通行権が発生する等法律上も保護規定が存
し、通常は土地の利用に支障をきたすことは当然には認め難いのであり、控訴人ら
はその主張する民有地について袋地となつた結果どのように重大な障害を生じたか
主張立証しないので、」
4 同二五枚目表一行目全部を次のとおり改める。
「 原審証人福場佼、当番証人Fの各証言、原審における控訴人A、同B各本人尋
問の結果中右認定に反する部分は右各証拠に照らして採用し難く、ほかに右認定の
妨げとなる証拠はない。控訴人らは、甲第三五号証の四(大阪府豊地部長名義、津
田町農地委員会長あて、昭和二三年七月三〇日付けの「未墾地買収令書交付方依頼
に関する件」と題する書面)を提出して、本件買収令書そのものが証拠として提出
されないこととともに、Gが当時買収令書の受領を拒んだ事実の存在しないことの
根拠とするのであるが、前掲甲第一二ないし第一四号証、第二四号証によれば、G
は昭和二三年五月一一日には大阪府農地委員会長に対して買収計画除外申立てを
し、同年七月一日に買収計画取消訴訟を提起し、同年九月六日に買収対価増額請求
訴訟を提起しており、そのような経過の中で、大阪府知事が昭和二四年二月八日自
創法三四条で準用する同法九条一項による公告を行つたことが認められるのであつ
て、右事実関係の下で考えると、その過程において昭和二三年七月三〇日ころにG
に対する買収令書交付依頼がなされたとしても何ら不合理な点を見出すことはでき
ず、受領拒絶された買収令書自体が証拠として提出されないことをもつてGが買収
令書の受領を拒んだことが疑わしいものとすることもできない。」
5 同二五枚目表五行目冒頭から同七行目末尾までを次のとおり改める。
「 本件土地買収処分前後の前記事実関係から判断すれば、当時Gが買収対価の受
領を拒絶したか拒絶することが明らかであつたことがうかがえるから、対価の供託
は有効であつたと認められる。又、買収対価が本件土地の実測面積に基づいて算出
した額をはかるかに下回ること、当時本件土地上に直径二〇ないし三〇センチメー
トル以上の松を主体とし独立した経済的価値を有する立木及び竹が密生していたこ
と、本件土地上に存在したとする滝及び農業用水路が当時Gが高価を投じて構築し
たもので、その対価を本件買収対価に含ましめることが明白に不当であると認めら
れる程度の工作物であつたことについて、いずれもこれを認めるに足る証拠はな
い。
したがつて、控訴人らの右主張によつても、本件土地の買収処分を無効ならしめる
瑕疵に該当するとはいえない。」
6 同二五枚目裏一行目の「知り、」の次に、「前記のとおり、」を加え、同三行
目全部を、「のであるが、前掲甲第一四号証によれば、右買収対価増額訴訟の訴状
には自創法一四条の訴である旨明記されていることが認められるところ、同法三四
条により三〇条の規定による買収について準用される同法一四条一項には、「第三
条の規定により買収した農地の対価の額に不服ある者は、訴を以てその増額を請求
することができる。但し、令書の交付又は第九条第一項但書の公告のあつた日から
一箇月を経過したときは、この限りでない。」と定められていたのである。」と改
め、同五行目の「移転したこと」の次に「を」を加える。
7 同二六枚目表四行目の「却つて、」の次に「農地法八〇条二項に基づき売払い
を受けた昭和四九年二月二六日より後である同月二八日に控訴人らが本件土地を日
本機械に売り渡したことについて当事者間に争いがないことからすると、控訴人ら
がその前に本件土地の売払請求権を日本機械に譲渡したことはないはずである
し、」を加え、同六行目の「結果によると、」を「結果によつても、」と改め、同
七行目の「本件土地」の次に「の所有権」を加える。
8 同一〇行目の「いるが、」の次に「右主張は本件土地の買収処分が無効である
ことを前提とするものであるところ、右前提が認められないことはすでに説示した
とおりであるから、右主張も右主張というほかない。なお、」を加え、同一二行目
の「はない。」を「もない。」と改め、同行の「原告らは、」から同裏二行目末尾
までを削る。
9 同裏五行目の「成立に争いがない」を「前掲」と改め、同七行目の「本人尋問
の結果」の次に「(一部)」を加え、同末行の「この認定に反する」を「原審にお
ける控訴人A本人尋問の結果中右認定に反する部分は採用し難く、ほかに右認定を
左右するに足る」と改め、同二七枚目表四行目冒頭から同八行目末尾までを削る。
10 同二七枚目表一〇行目の「前掲乙」の次に「第八号証、」を、「第一六号証
の一、」の次に「原本の存在及び成立に争いのない同第一四号証、」をそれぞれ加
え、同一〇、一一行目の「第八号証、」を削り、同末行の「証の一」の次に「、第
一二号証、第一三号証の一」を加え、同裏二行目の「あつたこと」を「あつて本件
土地ではないこと」と改める。
11 同二七枚目裏一〇行目冒頭から同一一行目の「多言を必要としない。」まで
を削り、同二八枚目表二行目末尾の次に「したがつて、控訴人ら主張の事情が本件
更正処分を違法ならしめるものではない。」を加え、同三行目の「採用できない」
の次に「。」を加え、「ことは、」から同四行目末尾までを削り、同六行目の「八
〇条」の次に「二項」を加える。
12 当審における控訴人らの主張1(一)Fに対する支払金に関する本件更正処
分の手続的違法(控訴人Aの主張)についてFに対する支払金(正確には支払約束
金一二〇〇〇万円はさきに判示したとおり、種々の性格を兼ねた給付金であり、そ
の一部が同人の奥田塗料製造工場の退職功労金で所得税法三〇条に定める退職所得
に当たると解されるところ、前掲乙第六号証、第一六号証の一によれば、右二〇〇
〇万円のうち五〇〇万円は昭和四八年八月二八日同人に対し現実に支払われたが、
残金一五〇〇万円は同人が奥田塗料を退職することとなつた昭和五一年までの間も
支払われていないことが認められるので、右既払金五〇〇万円は退職金の性質を有
するものとはいい難く、何らかの解決金の性格を有するものと解するほかないもの
である。しかも、退職所得とは、元来退職したことに基因して一時に支給されるこ
ととなつた性質を有する所得のことであつて(所得税法三〇条一項参照)、その収
入金額の収入すべき時期は、その支給の基因となつた退職の日によるとの取扱いが
なされていることは当裁判所に顕著な事実である(所得税基本通達(昭和四五年七
月一日直審(所)三〇)三六-一〇参照。なお、控訴人らの援用する所得税法施行
令七七条は一の勤務先を退職することにより二以上の退職手当等の支払を受ける権
利を有することとなる場合の規定であつて、昭和四八年に退職していないFに適用
される訳はない。)。
したがつて、二〇〇〇万円全額が退職金の性質を有し、それが昭和四八年度のFの
収入金額となることを前提とする控訴人Aの右主張は、右の点において理出がない
といわざるをえない。
13 同1(三)日本耐アルカリに対する支払金に関する本件更正処分の手続的違
法(控訴人Aの主張)について
前掲乙第八号証、第一一号証の一、原審における控訴人A本人尋問の結果によれ
ば、日本耐アルカリは、Gから借り受けて使用していた前記津田財産区所有地上の
建物(簡易工場建物)を昭和五〇年二月二八日を以て立退くこととなり、昭和四九
年一二月に控訴人Aとの間に約定書を交して、同控訴人から同月二〇日に一〇〇万
円、昭和五〇年二月二八日に一五〇万円合計二五〇万円の移転補償金を受領してい
ることを認めることができる。しかし一方、成立に争いのない乙第五号証及び原審
証人Hの証言によれば、控訴人らから日本機械に対する本件土地譲渡に関連して、
控訴人Aは日本機械に対し土地上の建物、施設一切を撤去することとなり、当時同
控訴人は日本機械から売買代金のほかに立道移転補償金として総額一億二四一三万
六〇〇〇円の支払を受けたのであるが、日本耐アルカリが使用していた前記建物も
右撤去の目的となつていたことが認められる。右事実関係からすると、日本耐アル
カリに支払われた二五〇万円は、控訴人Aが受領した右立退移転補償金から支払わ
れるべきものであり、実際にそのように実行されたものと見られるのである。
そして、弁論の全趣旨によれば、右立退移転補償金は、控訴人Aの所得の関係で、
租税特別措置法三七条一項に定める事業用資産の買換えの特例の適用を受けた結
果、直ちに分離長期譲渡所得として課税されることはなかつたことが認められるか
ら、事業用資産の買換による繰り延べの結果、買換資産取得価額の関係で将来いず
れ課税されることがあるとしても、日本耐アルカリに対する支払金は、その時点で
事業用資産の譲渡費用に当たるかどうか調査の対象とすれば足りるといわなければ
ならない。
したがつて、日本酎アルカリに対する支払金を控訴人Aの昭和四九年度における不
動産譲渡所得以外の何らかの所得の経費であるとし、そのことを前提として同控訴
人に対する本件更正処分が違法であるとする主張は理由のないものである。
14 同1(三)国税通則法二四条違反について
控訴人らは、F及び日本耐アルカリに対する支払金が控訴人Aの昭和四九年度にお
ける何らかの所得の経費であることを前提とし、それにそう更正ないし再更正をし
なかつたことから、被控訴人らのした本件各更正処分についての調査が杜撰又は調
査に値しないと主張し、調査につき裁量権を著しく濫用した違法があるというので
あるが、右前提がいずれも理由のないことは12・13において判断したとおりで
あるから、右主張も理由がないというほかない。
15 同2中農地売払法五条が憲法一四条に違反するとの主張について
農地先払法五条一項一号は、農地法八〇条二項の規定により売払いを受けた個人
が、当該土地等を転売した場合の譲渡所得の課税に関する租税特別措漬法の適用に
つき、その売払いを受けた年又はその翌年中に、これを公共用又は公用として政令
で定めるものに供するため転売した場合には、長期譲渡所得として軽減税率を適用
するのに対し、同条項二号は、右以外の場合には短期譲渡所得としで重課するもの
である。控訴人らは、右条項が譲渡の目的により差別を規定しているのは、憲法一
四条に違反すると主張する。
ところで、農地法八〇条一項に基づく不要地認定に関する同法施行令一六条は、認
定基準について、新たに生じた公共用等の目的に供される場合に限る等限定的に規
定していたのであるが、最高裁判所昭和四六年一月二〇日大法廷判決により、それ
が法の委任の範囲を越えた無効のものであるとされたことから、右施行令による認
定の範囲を、自作農の創設又は土地の農業上の利用の増進の目的に供しないことが
相当である土地等にまで拡大する改正が行われた。これを契機として、農地法八〇
条二項の買収前の所有者への売り戻しについては、適正な価額によるべきであると
する批判がなされるとともに、売払いの対象となる土地等について、これを公共用
又は公用への転用の促進をはかるべきであるとする社会的、政治的要望が高まり、
これを受けて農地売払法が制定された。以上の経緯は当裁判所に顕著な事実であ
る。
右立法の経過から明らかなように、農地売私法五条一項の規定は、公共用地の不足
等わが国における土地問題の現状を考慮し、国有農地等を旧所有者に売り払う場合
においても、その公共用又は公用の用途への積極的な活用の促進をはかることが、
立法政策上当を得たものであるとして、その趣旨で定められたものと解される。
右は、元来立法政策の問題に属するのであるが、上記の見地から売払いを受けた農
地等の転売目的の違いによつて課税内容に差異を設けたことは、租税政策上合理的
理由のあることであつて、公共の福祉に適合するものといわなければならない。し
かも、右差異は、人の地位、身分による差別ではなく、いやしくも農地法八〇条二
項の規定により土地等の売払いを受けた個人である以上、その譲渡をした場合に要
件を満たせば等しく軽減税率の適用を受けるのである。
したがつて、農地売払法五条一項の規定は憲法一四条に違反するものではなく、控
訴人らの主張は理由がない。
16 同2中農地売払法五条が憲法二九条一項に違反するとの主張について
控訴人らは、農地売私法五条一項二号は、売払農地等の旧所有者等に対し懲罰課金
を負担させることのみを目的としており、課税の形式で旧所有者等の有する財産権
を侵害するものであつて、憲法二九条一項に違反すると主張する。
しかしながら、農地法八〇条二項の規定により土地等の売払いを受けた旧所有者等
が、これを他に譲渡した場合の所得に対する課税について、その税率をどのように
定めるかは、農地買収制度及び買収農地売払制度の趣旨・目的のほか、これらの制
度の基礎をなす社会・経済全般の事情等を考慮して決定されるべき立法政策上の問
題であつて、農地売払法五条一項の規定には合理的な理由があり、公共の福祉に適
合するものと認められることは、さきに説示したとおりである。
なお、控訴人らが過酷な税負担であるとして示す金額は、各譲渡所得額を申告額
(譲渡費用とは認められない前記F分と日本耐アルカリ分を譲渡費用として控除し
かもの)で表示し、所得税額を更正による金額(右控除をしていないもの)で表示
してあるため、その数値は不正確といわねばならず、過酷な税負担の例示とはいい
難い。
したがつて、農地売払法五条一項の規定は憲法二九条一項に違反するものとは認め
られず、控訴人らの主張は理由がない。
二 よつて、控訴人らの本訴請求はいずれも失当としてこれを棄却すべきものであ
り、原判決は相当であつて、本件控訴はいずれも理由がないからこれを棄却し、控
訴費用の負担について民訴法九五条、行訴法七条、民訴法九三条、八九条を適用し
て、主文のとおり判決する。
(裁判官 荻田健治郎 堀口武彦 渡邊雅文)
(別紙) 国有農地等の売払いに関する特別措置法五条の違憲性についての主張
一 はじめに
原判決は、本件土地の譲渡が国有農地等の売払いに関する特別措置法(以下「売払
法」という。)五条一項二号に規定する譲渡に該当し、租税特別措置法(以下「措
置法」という。)三二条一項が適用され、分離短期譲渡所得として課税されるか
ら、被控訴人らのした本件更正処分は適法であり、本件賦課決定処分も適法である
と認定した。
しかしながら、原判決の認定の根拠となつた売私法五条一項二号は、以下に述べる
とおり憲法一四条及び二九条一項に違反するものである。したがつて、原判決も違
法のものであると断ぜざるをえない。
二 憲法一四条違反について
(一) 売払法五条は、農地法八〇条二項の規定により売払いを受けた個人が当該
土地等の譲渡をした場合における措置法三一条及び三二条の規定の適用について、
当該土地等の譲渡が公共用・公用等に供するためにされたものである場合は長期譲
渡所得(措置法三一条)に、その他の場合は短期譲渡所得(同法三二条)に該当す
ると規定している。
措置法三一条及び三二条の規定は、所得税法が累進税率の合理的適用を配慮して設
けた五年を基準とする長・短期の区分と二分の一課税(同法二二条二項二号及び三
三条)に対する特例措置として昭和四四年に立法化された。
すなわち、所得税法は資産(たな卸資産を除く。)の譲渡による所得を当該資産の
取得後五年以内に譲渡した場合には短期譲渡所得、五年超の場合には長期譲渡所得
とし、長期譲渡所得については譲渡益の二分の一を以て課税標準としているが、土
地建物等については価格高騰に伴い課税上の特例措置が必要であるとの政府税制調
査会の答申にもとづき、昭和四四年に措置法三一条、三二条を含む一連の土地税制
の立法が行われた。
大蔵省主税局の立案担当者はその主旨を「一方において個人が長期間にわたつて保
有していた土地建物等を譲渡したときの譲渡所得に対する課税の仕組みについて時
限的に分離比例課税の方式を導入して、税額計算を簡易平明化し、これにより切り
売りや売り惜しみに対処するとともに、比例税率をだんだんに高めることによつ
て、早期供給の誘導に資する」、「他方、個人が取得後短期間に土地建物等を譲渡
して得た短期譲渡所得については従来よりもかなり重課し、投機的な仮需要の抑制
や値上り益相当部分の社会公共への還元に資する」と説明している。平たく言え
ば、措置法三二条の短期譲渡重課は“土地ころがし”へのペナルテイーであつた。
(二) ひるかえつて、本件譲渡が行われた昭和四九年当時における土地建物等の
譲渡に対する所得税課税の特例をみれば、大要次の通りである。
(1) 昭和四三年一二月三一日以前に取得したものについては長期譲渡所得と
し、一〇〇分の二〇の税額(措置法三一条)。
(2) 昭和四四年一月一日以後に取得したものについては短期譲渡所得とに、次
の(1)(2)めうち何れか多い方の税額(措置法三二条)
(1) 当該譲渡所得の一〇〇分の四〇の税額
(2) 措置法三二条を適用せず、他の所得と総合して所得税法の規定で計算した
税額の一〇〇分の一一〇相当額
右の特例が適用される対象者は、いうまでもなく措置法に規定した期間内に土地建
物等の譲渡による所得があるすべての個人であり特定階層、特定所有関係、もしく
は特定の相手方に対する限定適用又は適用除外ということはない。所得税法におけ
る譲渡所得自体の計算とその適用税率についての特例であるから、当然、適用期間
と取得時点についての区分があるだけで、譲渡目的や譲渡人の差異を問う規定はな
いのである。
昭和五七年の法律八号で取得後一〇年以上のものを長期とし、それ未満のものを短
期とすると改められるまでは、昭和四四年一月一日以後に取得したものの譲渡はす
べて「短期」、その前日以前に取得したものの譲渡はすべて「長期」ということに
なつていた。ここでは所有「期間」は問題とはされない。極端にいえば昭和四三年
一二月三一日に取得し、翌日にこれを売つて、莫大な利益を得ても「長期」譲渡所
得としての課税しか受けないという不合理が存在していた。
しかし、長・短期区分については、適用時期の差異に従い万人に等しくその適用を
受けるという点において、措置法は合理化され、政策立法としての存立が容認され
た。
(三) それでは、売払法については、どうであろうか。
先払法は、昭和四六年一月二〇日の最高裁判決により当時の農地法施行令一六条四
号を無効とされたことを発端として緊急に議員立法されたものである。
農地法八〇条二項は、国が自作農創設を目的として買収した土地が、その目的に供
されないことになつた場合にこれを旧所有者(その承継人を含む。以下同じ。)に
売払わなければならないと規定しているが、同施行令一六条四号は売払う場合を
「公用、会共用又は国民生活の安定上必要な施設の用に供する緊急の必要があり、
且つ、その用に供されることが確実な土地等」に限り売払い認定の対象としている
のである。農地法八〇条二項後段には、この場合の売払い対価は買収対価相当額に
よると規定されていた。
右の最高裁判決により同施行令一六条四号が無効とされたため、買収対価による売
払いが同法八〇条二項該当土地の旧所有者に対してなされることとなり、時価との
差額が法外なものとなる場合も頻発する可能性があることから“旧地主優遇”と批
判する世論が高まつた。最高裁判所も行政局長を通じ「判決は買収した農地を旧所
有者に戻さなければならないというものであり、売戻し価格をいくらにすべきかに
ついては判示していない。」との見解を表明し、これを基礎に政府及び野党で種々
論議が交された結果、売払い額について「適正な価額」によるものとすることを骨
子に先払法が議員立法されたものである。
(四) 売払法が「適正な価額」(それは売払施行令一条で「時価の一〇分の七」
と規定された。)により旧所有者に対して売払うことは、旧所有者が買収対価相当
額で被買収農地の売払いを求めうるという民事上の財産権を侵害し、また既に売払
いを受けた者と受けていない者との間に対価の差別があるとする違憲訴訟に対して
最高裁は昭和五三年七月一二日これを合憲とする判決を下しており、控訴人らはこ
れに対して異を唱えるものではない。
しかしながら、同法五条一項が売払いを受けた長期区分につき、所有の時期的差異
ではなく譲渡の目的による差別を規定していることに対しては、売払法五条一項二
号の規定により過酷としか言いようがない懲罰的重課税を受けている控訴人らとし
ては、憲法一四条違反を主張しなければならない。
売私法五条において税法の体裁をとり、本来の目的である売払価額の決定等の範囲
を逸脱しているばかりか、農地法八〇条二項に規定する土地の旧所有者という特定
階層に属する者に対し公共用目的への譲渡を間接的に強要しその他の譲渡に対して
措置法の趣旨である取得時期による差異(現行措置法は前述の通り一〇年を基準と
する所有期間差異)を否定して苛酷な取扱いを強制することについては、憲法一四
条の許容する合理的差別であるとはとうていいえないであろう。
(五) 売払法制定前においては、農地法八〇条二項により売払いを受けた土地の
譲渡所得は、国税庁長官の通達(昭和四〇年二月二日)で「当該旧所有者が引続き
有」でいたものと取扱う。」として、「長期」の扱いになつていた。
もともと、農地法八〇条二項による旧所有者への売払いは、その実態において買受
請求権の譲渡である場合が大部分であつた。形式的には、国から旧所有者へ所有権
移転手続がされるのと、旧所有者から第三者へのそれがされるのとが、同時または
直近の時期とが普通であり、特に、売払い土地の譲渡目的を限定していた農地や法
施行令一六条四号の規定が存在していた時期においては、右のような形式以外のも
のはほとんどなかつたのではないかと考えられる。従つて、買戻しと他への譲渡を
形式的にとらえる限り、農地法八〇条二項により買戻した土地の譲渡所得について
は「短期」該当ということになる。ところが、これらの土地の譲渡所得を「短期」
とするのは実態に即さない。
すなわち、これらの土地に強制買収された時期は概ね昭和二二~五年ころであり、
買収目的に沿つた使用がされなくなつたのは同三〇年ないし三五年頃と推定される
ところ、農地法八〇条二項により不用買収土地は旧所有者に買受請求権が生じるこ
とから、当該買受請求権発生時期と第三者への譲渡時期との期間の長さにより、昭
和四四年に措置法三一条及び三二条が制定される前の時期においては長・短期の判
定がなされ、右措置法の規定制定後においては買受請求権発生時期が昭和四四年一
月一日以後かその前日以前かによりそれが判定されるが、何れにしても、これらの
土地の譲渡所得については本質的に「長期」以外にないと考えられる。
従つて先の国税庁長官通達は正当な法解釈にもとづく取扱いを第一線の税務職員に
示していたのである。
前述の昭和四六年一月二〇日の最高裁判決も旧所有者の買受請求権発生時期を右の
ように判定しており、このこと自体は売払い価額をいかほどにすべきかということ
にはかかわりがなく、よつて売払法制定後も同様である。となれば、買収価額相当
額による売払いで“旧所有者優遇”と世論の批判を浴びたのであるから、売払法に
おいて「適正な価額」により売払う旨が規定されれば、旧所有者が買戻した土地を
譲渡した場合の所得についても、措置法の趣旨通り、買受請求権成立時期の差異に
よつて長・短期の適用をすれば足り、そこに制限的な規定を設けることは前記最高
裁判決が違憲としたところを、再度立法によつて挑戦することを意味する。それを
嫌つた大蔵省が、売私法の政府提案に同意しなかつた経過もある。
(六) 農地法八〇条二項により売払いを受ける権利を旧所有者が取得することに
なつた原因は、偏に政府の側にある。政府が農業政策を大幅に転換し、食糧自給の
途を捨て、工業に重点を置く経済路線を推進したため、国内農業の発展は奇型化
し、農業人口は激減せざるを得なかつた。自作農創設の目的は当然放摘されてしま
つたのであるが、こうした政府の農業政策の当否を控訴人らは問うものではない。
ただ、売払法によつて、旧所有者層に属する者だけが、何故に苛酷な税負担を押し
つけられねばならないのかということについての、合理的な理由が存在しないこと
を主張しているのである。
(七) 昭和四六年一月二〇日の最高裁判決は次のように述べている。
「農地改革のための臨時立法であつた自創法とは異なり、法(注・農地法)は、恒
久的立法であるから、同条による売払いの要件も当然、長期にわたる社会経済状勢
の変化にも対処できるものとして規定されているはずのものである。したがつて、
農地買収の目的に優先する公用等の目的に供する緊急の必要があり、かつ、その用
に供されることが確実であるという場合ではなくても、買収農地自体社会的、経済
的にみて、すでに農地としての現況を将来にわたつて維持すべき意義を失い、近く
農地以外のものとすることを相当とするもの(法七条一項四号参照)として、買収
の目的である自作農の創設等の目的に供しないことを相当とする状況にあるといい
うるものが生ずるであろうことは当然に予測される。」
「旧所有者は、買収農地を自作農の創設等の目的に供しないことを相当とする事実
が生じた場合には、法八〇条一項の農林大臣の認定の有無にかかわらず、直接、農
林大臣に対し当該農地の売払いをすべきこと、すなわち買受けの申込みに応じその
承諾をすべきことを求めることができ、農林大臣がこれに応じないときは、民事訴
訟手続により農林大臣に対し右義務の履行を求めることができる。」
また、「収用が行われた後、当該収用物件につきその収用目的となつた公共の用に
供しないことを相当とする事実が生じた場合にはなお、国にこれを保有させ、その
処置を原則として国の裁量にまかせるべきであるとする合理的理由はない。したが
つて、このような場合には、被収用者にこれを回復する権利を保障する措置をとる
ことが立法政策上当を得たものというべく、法八〇条の買収農地売払制度も右の趣
旨で設けられたものと解すべきである」と断じ、この売払いが「すでに当該土地に
つき自作農の創設等の用に供するという公共的目的が消滅しているわけであるから
一般国有財産の払下げと同様、私法上の行為というべきである」と指摘している。
右の判決の論理からすれば、売払法五条一項のような発想は生れようがなく、この
事項が右判決で否定された農地法施行令一六条四号の復活に他ならないと言わざる
をえない。
三 憲法二九条違反について
(一) 措置法は特定の譲渡所得について課税上の優遇措置を与えている。本件譲
渡のあつた昭和四九年におけるこれらの措置は次の通りである。
(1) 収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例(三三条)
(2) 交換処分等に伴い資産を取得した場合の課税の特例(三三条の二)
(3) 換地処分等に伴い資産を取得した場合の課税の特例(三三条の三)
(4) 収用交換等の場合の譲渡所得等の特別控除(三三条の四)
(5) 特定土地区画整理事業等のために土地等を譲渡した場合の譲渡所得の特別
控除(三四条)
(6) 特定住宅地造成事業のために土地等を譲渡した場合の譲渡所得の特別控除
(三四条の二)
(7) 農地保有の合理化等のために農地等を譲渡した場合の譲渡所得の特別控除
(三四条の三)
(8) 居住用財産の譲渡の特別控除(三五条)
(9) 譲渡所得の特別控除額の特例等(三六条)
(10) 特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例(三七条)
(11) 特定の事業用資産を交換した場合の譲渡所得の課税の特例(三七条の
四)
(12) 国等に対して財産を寄附した場合の譲渡所得等の非課税(四〇条)
右の諸特例は、土地建物等に関する譲渡所得自体についての長・短期区分をすべて
措置法三一条及び三二条に規定するところによつており、売払法のように譲渡目的
を長・短期の尺度にするということはしていない。
長・短期の区分は時間的な尺度であり、所得税法が五年を基準とし、措置法が昭和
四四年一月一日前と以後を基準としていても、その本質的な意味で矛盾することは
ない。時間的な長短という点においては、同一の保有期間又は取得時期のものにつ
いては平等な取扱いがなされるのであり、それを基礎に置いた上で、前記の諸特例
規定の適用がされるわけである。
(二) 売私法五条においては、時間的な尺度による長・短期の区分を譲渡の目的
別の区分にすり替え、公共用等への譲渡以外の譲渡所得に対し、本来それが前述し
た通り「長期」の性質のものであるのに、これを「短期」として罰金的な重課税を
行わしめることは、税法の目的とするところに反する。措置法三二条は短期譲渡重
課を“土地ころがし”による異常な利得へのペナルテイー的意味を持つものであつ
て、農地法八〇条二項に基く買受請求権を行使して政府の決定した適正価額により
買戻した旧所有地の譲渡について適用すべきものでは本来的にあり得ない。もつと
も、自作農創設等の目的に使用しないという事実が昭和四四年一月一日以後におい
て生じた場合においては、一般の譲渡所得と同様「短期」の適用を受けることは当
然であろう。
税法は財政調達の手段であるが、納税者に対し課税の領域において財産権を保護す
べき目的を有する。ところが売払法は、財政調達のためではなく、農地法八〇条二
項所定の旧所有者達に対し懲罰課金を負担させることのみを目的としているようで
ある。これは、課税の形式で旧所有者の有する財産上の権利の価値を著しく低下さ
せ、間接的強制を以て、侵害するものであり、憲法二九条一項に違反する。
(三) 本件譲渡土地についての、自作農創設特別措置法による強制「買収」から
買戻し、他への譲渡に関する事情については別に詳細に述べた通りであり、売払い
を受ける権利の発生が昭和四四年四月一日より前であることは、改めて言うまでも
ないが、控訴人らが売払法によつていかに過酷な税負担を強いられているかは、次
の金額を示すだけで十分理解されるであろう
(所得額は控訴人ら主張に基く。)。
(1) A
(A)譲渡所得     一二二、三〇一、八〇〇円
(B)所得税額      九七、九九六、五〇〇円
(C)住民税額      二五、五〇〇、〇〇〇円
(A)-((B)+(C))    △一、一九四、七〇〇円
(2) B
(A)譲渡所得      一九、五五〇、三〇〇円
(B)所得税額      一〇、〇八九、〇〇〇円
(C)住民税額       三、五六〇、〇〇〇円
(A)-((B)+(C))     五、九〇一、三〇〇円
(3) D
(A)譲渡所得      一九、五五〇、三〇〇円
(B)所得税額       九、六五七、四〇〇円
(C)住民税額       三、四〇〇、〇〇〇円
(A)-((B)+(C))     六、四九二、九〇〇円
(4) E
Dと同じ。
(5) C
(A)譲渡所得      一九、五五〇、三〇〇円
(B)所得税額       九、七九七、八〇〇円
(C)住民税額       三、四五〇、〇〇〇円
(A)-((B)+(C)      六、三〇二、五〇〇円
(注・住民税は地方税法の規定する標準税率による計算。千円未満は切り捨て。)
実に、控訴人泰郎の如きは一、一九四、七〇〇円のマイナスである。現実にはこの
他三、七二〇、〇〇〇円の過少申告(長期譲渡として申告していたため、短期譲渡
として更正されたことに伴うもの。)加算税が賦課されているのである。他の控訴
人らにも各々三〇〇、〇〇〇円程度の同税が賦課されている。
売払法五条一項二号が、控訴人らの財産権を侵害していることは明らかである。
(原裁判等の表示)
○ 主文
原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求める裁判
一 原告ら
被告枚方税務署長が昭和五〇年九月三日付で原告A、同B、同Cに対して、
被告豊能税務署長が同年一一月一五日付で原告Dに対して、
被告下関税務署長が昭和五一年九月二九日付で原告Eに対して、
それぞれした昭和四九年分所得税の更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分を取
り消す。
訴訟費用は、被告らの負担とする。
との判決。
二 被告ら
主文同旨の判決。
第二 当事者の主張
一 本件請求の原因事実
(一) 原告らの昭和四九年分所得に対する課税の経緯とその内容は、別表1、2
に記載したとおりである。
(二) しかし、被告らが原告らにした本件更正処分は、原告らの長期譲渡所得を
短期譲渡所得と誤認した点で違法であり、たがつて、本件賦課決定処分も違法であ
る。
(三) 結論
原告らは、被告らに対し、それぞれ本件更正処分及び本件賦課決定処分の取消しを
求める。
二 被告らの答弁
(一) 本件請求の原因事実中(一)の事実は認める。
(二) 同(二)の主張は争う。
三 被告らの主張
(一) 原告らは、昭和四九年二月二八日、訴外日本機械土木株式会社(以下日本
機械という)に対し、別紙物件目録記載の土地(以下本件土地という)を、三億
八、三四七万九、二〇〇円で売却した。原告らの持分は、原告Aが一〇分の六、そ
の余の原告らが各一〇分の一である。
本件土地の譲渡所得に関する計算は、別表3記載のとおりである。
(二) 本件土地の譲渡が、短期譲渡所得として課税される理由は、次のとおりで
ある。
国有農地等の売払を受けた土地等の譲渡所得の課税については、国有農地等の売払
いに関する特別措置法(昭和四六年法律第五〇号、以下農地売払法という)が適用
され、同法五条は農地法八〇条二項により先払を受けた土地に係る譲渡所得につい
て特則をおき、同条所定の方法で売払を受けた土地の譲渡については、全て同条が
適用される。
同条は、売払を受けた後の譲渡につき、その譲渡目的(あるいはその後の使用目
的)に応じて課税所得の計算方法を区別しているのであつて、譲渡者が譲渡物件を
取得した事情は農地法八〇条二項の規定による売払という要件以外にその経緯ある
いは態様等は一切関知していないのである。
しかるに、原告らは、本件土地につき、農林大臣から昭和四八年一〇月一八日農地
法八〇条一項に基づく認定を受け同四九年二月二六日同条二項に基づいて対価一億
六、七三二万一、六三九円を支払つてその所有権を取得し、更に同月二八日日本機
械に譲渡したものである。
そうすると、本件土地の譲渡は、農地売払法五条一項二号に規定する譲渡に該当
し、租税特別措置法三二条一項が適用され、分離短期譲渡所得として課税される。
(三) 譲渡費用について
被告らは、原告らが申告した譲渡費用中、訴外F分二、〇〇〇万円と、訴外日本耐
アルカリ塗料株式会社(以下日本耐アルカリという)分二五〇万円を否認したが、
その理由は、次のとおりである。
(1) F分 二、〇〇〇万円
原告Aは、本件土地上で塗料製造業を営んでいたが、本件土地上の建物のうち、一
部の工場、作業場、倉庫を第三者に貸与していた。本件土地の譲受人である日本機
械は、本件土地上で宅地造成を行う目的でこれを買い入れたため、本件土地上に存
在する右各建物等一切の施設を撤去し更地にしなければならなかつた。そこで日本
機械は、原告Aに対して昭和四八年六月、右各施設の立退補償金として本件土地代
金とは別に一億二、四一三万六、〇〇〇円を支払つた。右立退による工場閉鎖に当
たり、同原告は、その経営する塗料製造工場に勤務していたFに対し退職功労金と
して二、〇〇〇万円を支払うことにし、同年八月二八日金五〇〇万円、残金一五〇
〇万円はFが居住していた本件土地上の建物を明け渡す際に支払うことになつた。
したがつて、原告らが本件土地の譲渡費用であると主張するFへの二、〇〇〇万円
は、原告AがFに支払う退職金であり、仮にその全てが退職金でないとしても右述
の事情よりして、右立退補償金から控除すべき性質の費用であり、本件土地の譲渡
に要した費用ではない。
(2) 日本耐アルカリ分 二五〇万円
原告Aは、本件土地上の建物の一部を日本耐アルカリに賃貸していたが、その立退
料の支払は、日本機械から支払われた右立退補償金から支払われた。したがつて、
本件土地の譲渡に要した費用ではない。
(三) 以上の次第で、被告らがした本件更正処分は適法であり、本件賦課決定処
分も適法である。
四 原告らの主張
(一) 被告らの主張中(一)の事実は認める。
(二) 本件更正処分の違法事由は、次のとおりである。
(手続的違法事由)
(1) 被告は、本件更正処分をするについて、国税通則法二四条(原告Aについ
ては、なお所得税法一五五条一項)に定める調査をしなかつた。すなわち、
国税通則法二四条は、納税申告書に係る課税標準等を更正する場合、これに先だち
税務署長に対し調査の義務を課している。同条は、調査について何らの規定を設け
ておらず、結局各個別国税諸法の定めるところによるところ、いずれにせよ、その
調査は、各納税者毎になされなければならず、自主申告制度の意義、
財産権不可侵の原則さらには法定手続の保障の意義にかんがみればその内容は納税
者に弁解の機会を与えるか少くとも納税者の意思を確認する程度にまで実質的なも
のでなければならない。
しかし、被告枚方税務署長は原告Bおよび同Cに対し、被告豊能税務署長は同Dに
対し、被告下関税務署長は同Eに対し、本件更正処分をするに先立つて同条に義務
づけられている調査を全くしなかつた。
原告Aは、被告枚方税務署長により所得税法一四三条の青色申告の承認を受けてい
たため、同被告がした本件更正処分は「青色申告書に係る年分の総所得金額」の更
正にほかならないから、同被告は、本件処分に先立ち同法一五五条一項に定める調
査をなすべきところ、同被告はかる調査をしなかつた。
(2) 原告Aに対する本件更正処分は、所得税法一五五条二項に定める更正の理
由を附記しない違法か、少くとも理由の附記があるとしても著しく不備の違法があ
る。
被告枚方税務署長が同原告に送達した更正通知書(甲第五号証)には、たしかに
「この処分の理由」であるとして、左記の記載がある。
「あなたの昭和四九年分申告所得税のうち、譲渡所得について下記の理由により更
正します。
1 あなたの申告された農地法八〇条二項により売り払いを受けた土地の譲渡所得
は「国有農地等の売払いに関する特別措置法」第五条一項二号の規定により、短期
譲渡所得(分離)と認められます。
2 土地の譲渡にかかる経費として算入されたFに対する「覚書」による一二、〇
〇〇、〇〇〇円の支払いは土地の譲渡にかかる経費とは認められません。
3 土地の譲渡にかかる経費として算入された耐アルカリ株式会社に対する立退料
八八五、〇〇〇円は建物の譲渡の経費となりますので、土地の譲渡の経費とは認め
られません。」
ところで、附記すべきものとされている理由には、とくに帳簿書類の記載以上に信
憑力のある資料を摘示して処分の具体的根拠を明らかにして納税者にこれを知悉さ
せ、もし該処分に不服である場合には不服申立をして十分に攻撃防禦を果たさせる
程度に理由を附記することが必要とされるところ、前叙の「この処分の理由」の記
載は、一体如何なる具体的資料等にもとづいて認定したのか、その資料等によるこ
とがどうして正当なのか、
たとえばFに対する支払金が土地譲渡の経費でないとするならば一体どの所得の経
費であるのかなど右の記載自体からこれを知ることは全く不可能であるから、これ
をもつて所得税法一五五条二項にいう理由附記の要件を充たしているとは到底認め
られない。
(実体的違法事由)
(1) 本件土地の譲渡所得が、長期譲渡所得になる理由は、次のとおりである。
元来本件土地は、原告らの被相続人訴外亡Gが所有していたものを、国が、昭和二
三年七月二日、自作農創設特別措置法三〇条により、未墾地買収をしたが、その買
収処分には、買収令書の交付がなかつたこと、買収の対価が支払われなかつたこ
と、買収すべき土地と隣接私有地との境界の確認がなかつたこと、など重大かつ明
白な瑕疵が存在していたのであるから、本件土地の買収処分は無効である。その理
由の詳細は、別紙添付の準備書面のとおりである。したがつて、国は、本件土地の
所有権を取得することはできなかつたのである。そして、本件土地は、大部分農業
用地として適さないから、買収計画自体杜撰なものであつて、取消しを免れないも
のであつた。
仮に右買収処分が有効であつたとしても、本件土地の所有権は、時効によつて原告
らに帰属している。すなわち、Gは、買収された昭和二三年七月二日以降も引続き
二〇年以上所有の意思をもつて平穏かつ公然に本件土地を占有していたのであるか
ら(とくに、本件土地のうち、別紙物件目録記載の(1)および(9)ないし(1
1)の各土地については、同土地上に工場等の施設を有して塗料の製造を行なつて
いたのであるから、所有の意思をもつて占有を継続していたことが明白である)、
時効により本件土地の所有権を取得したものであり、昭和四六年九月一三日、Gの
死亡によつて、その相続人である原告らが本件土地の所有権を承継取得した。
したがつて、本件土地の譲渡は、租税特別措置法三一条一項に該当するから、これ
については長期譲渡所得の課税がなされるべきであり、短期譲渡所得の課税をする
ことは許されない。
(2) 仮に、右の主張が認められないとしても、国から買収処分を受けた本件土
地の旧所有者Gの一般承継人である原告らは、農地法八〇条に基づき、農林大臣に
対して買受けに応ずべきことを求める権利(買受請求権)を有していたのであるか
ら、日本機械に対する本件土地の譲渡は、実質的には、
右買受請求権の譲渡と解すべきである。
したがつて、この譲渡は、権利譲渡であるから、所得税法三三条を適用すべきであ
り、土地建物等の譲渡に関する租税特別措置法三二条一項を適用することは許され
ない。
(3) F分、二、〇〇〇万円及び日本耐アルカリ分 二五〇万円は、いずれも、
本件土地の譲渡に必要な経費である。
(4) 本件更正処分は、著しく公平を欠き、違法である。すなわち、
すでに主張したとおり、原告らの被相続人であるGは、国の買収にもかかわらず、
従前と何ら異るところなく所有の意思をもつて平穏かつ公然に本件土地を占有し続
け、その死亡後は原告Aらが承継してきたところである。
一方本件土地の一部及びその近隣の地に当時入植した開拓者は、訴外I、J、K、
Lの四名であつたが、すでに指摘したとおり買収は杜撰をきわめ、当初より農地の
配分計画すらなかつたため開拓者といえども土地の農業上の利用の増進を計るすべ
もわからずそのためいずれもつとに転業し本件土地に関し原告らと日本機械とが契
約をした当時、これらの者(Iは死亡しその相続人ら)は全く農業の経営をなして
いなかつた。
また、本件土地が含まれる津田第一地区開拓地の旧地主であつて売払をうけた者
は、Gほか一〇名であつたが、Gを除く一〇名は、いずれも右開拓地内に居住せ
ず、東京、大阪などに居住する者さえいた。ひとりGだけが、開拓地内にあつて本
件土地を占有し続けていたのである。
原告らと日本機械との前記契約は、昭和四九年二月二六日、売払を受けるより一年
以上も前になされたが、右契約は三つの契約からなつている。その一は、本件土地
のうちかつて前記開拓者らによつて占有されたことが全くなく、Gによつて排他的
に支配してきた部分に関するもの、その二は、同開拓者らが入植をしたとされる部
分に関するもの、その三は排他的支配地上にある工場施設の移転に関するものであ
つた。
以上のとおり、同しく土地に関するものであつても、二つの契約にしたのは、かつ
て開拓者らが占有したか否かによるだけであつた。
しかして、前記開拓者(Iについてはその相続人)が得た開拓者離農補償金(前記
のとおり農業経営の実態がなかつたため、占有面積などを考慮することなく一律に
支払われた)についてはすべて長期譲渡所得の取扱いがなされた。
また、
売払を受けた旧地主については、前述のごとく土地についての占有の実態を考慮す
ることなくすべて短期譲渡所得の取扱いをした。
いうまでもなく課税はその実態実質を基礎になされなければならず、かつ公平が貫
かれなければならないが、叙上の事実に鑑みるとき原告らに対する本件更正処分
は、いずれも実態と実質を無視し、著しく公平を欠くものとして、違法であるとい
わなければならない。
五 被告らの反論
(一) 国税通則法二四条による調査の程度、方法は、課税庁の合理的な裁量にま
かされており、必ず納税者に弁解の機会を与えたり、納税者の意思を確認すべき義
務はない。
本件では、原告Aが、本件土地の譲渡と譲渡所得の確定申告を総括しており、税理
士訴外Mが確定申告に当たつていた。そこで、被告枚方税務署長は、原告A、M、
Fらに面接して事情を聴取して原告らの必要書類の提示を受け、第三者、関係官庁
に照会したり、本件土地の実地見分をした。
このようなわけであるから、被告らは、国税通則法二四条に定める調査をした。
(二) 所得税法一五五条一項一号によつて更正する場合には、同項但書により、
帳簿書類の調査が必要でないし、同条二項括孤書によつて「更正理由の附記」をし
なくてもよいことになつている。
(三) 国は、昭和二三年七月二日、本件土地をGから農地買収をしたこと、国
は、昭和四九年二月二六日、原告らに対し、農地法八〇条二項によつて本件土地の
売払をしたこと、以上のことは認める。
しかし、本件土地の農地買収処分は、有効である。すなわち、
(1) 本件土地の買収処分には、原告らが主張する重大かつ明白な瑕疵がない。
(2) 仮に、取り消すべき瑕疵があつたとしても、Gが提起した本件土地の買収
計画取消訴訟、買収対価増額訴訟は、いずれも取下げられた(前訴は昭和四〇年一
二月二一日、後訴は二四年一二月二二日)。したがつて、右買収処分は、取り消し
得ざるものとして確定した。
(3) 仮にそうでないとしても、Gが昭和二三年九月六日後訴を提起して維持し
たこと、及び原告らが、昭和四七年一二月二五日、本件土地の売払について国有財
産買受申込書を訴外農林大臣に提出し、昭和四九年二月二六日、農地法八〇条二項
に基づいて対価を支払つて本件土地の先払を受けたことから、原告らは、
本件買収処分による国の所有権を追認したことになる。
(四) 原告らが、本件土地を時効によつて取得したことはない。その理由は、次
のとおりである。
(1) 本件土地の買収の相手方であるGには、所有の意思がなかつたし、この占
有を承継しか原告らにも、所有の意思がない。
(2) 原告らの主張する占有期間には、占有の継続がなかつた。
(5) の土地には、Iが入植し、(8)の土地には、Jが入植して耕作居住し、
右土地並びに(6)の土地、(7)の土地を含む本件土地の東側、南北に走る道路
一帯は、耕作、果樹栽培、養鶏などがなされていた。また(4)の土地付近は、買
収後、開拓されずに自然林のままであつたと考えられる。したがつて、Gが、これ
らの土地を占有していた事実はない。
(9) ないし(8)の土地上には、建物その他の施設が散在しているが、その建
物が未登記であるためこれらが建てられた時期が明確でない。しかし、これらの建
物が枚方市津田財産区の所有地にまたがつていることからすると、Gは、買収後開
拓が進まず放置されていたことを奇貨として、本件土地を不法占拠して行つたもの
である。
(3) 原告らは、対価を支払つて本件土地の売払を受けたのであるから、これに
より、時効利益を放棄した。
(五) 原告らと日本機械との売買契約の目的物は、本件土地の所有権であつて、
売払請求権でないことは、売買契約書や当事者の意思によつても明らかである。な
お、売払請求権は、買収前の所有権又はその一般承継人の一身専属権であつて譲渡
できない。
(六) 被告らは、F分 二、〇〇〇万円、日本耐アルカリ分 二五〇万円が、い
ずれも本件土地の譲渡費用であることを否認しているが、仮に、この主張が認めら
れない場合には、本件土地の譲渡費用中、N分 一〇〇万円を否認する。すなわ
ち、Nは、原告Aの実父であるが、本件土地の譲渡について、具体的な仲介の事実
がない。
(七) 課税処分が適法かどうかは、当該処分の前提となる課税要件が充たされて
いるかどうかによつてきまり、原告らが主張する事情によつて、課税処分が公平を
欠き違法となる理はない。
六 原告らの反駁
(一) 国税通則法二四条に定める調査義務は、課税庁の自由裁量に委ねられてお
らないし、青色申告に記載されているすべての所得について更正する場合には、
理由附記が強制されている。
F分 二、〇〇〇万円が、本件土地の譲渡費用として認められず、退職功労金であ
るというなら、被告枚方税務署長は、Aの昭和四九年分の事業所得の減額更正をな
なければならなかつたのである。そうすると、同原告に対する本件更正処分は、こ
の点で違法である。
(二) 本件土地の農地買収処分が無効である以上、無効行為の追認などある筈が
ない。
(三) 公共用財産についても、取得時効が認められるところ、本件土地は、未墾
地買収されたが、国は、その殆んどを、未墾地のままで放置して管理をしなかつ
た。そこで、Gは、その家族とともに、所有の意思をちつて占有を継続したのであ
る。本件土地上の建物や施設は、おそくとも、昭和三三年までには、完成し、昭和
三五年には、これらに火災保険がかけられている。
(四) 原告らに対する農地法八〇条二項の売払は、無効である。もともと、本件
土地は原告らの所有であるのに、日本機械に一括売却するために、八〇条二項の売
払の手続をとることを余儀なくされた。しかし、これは、国が、弱者の立場にある
原告らの窮状と窮迫に乗じて、売払契約を締結させた点で、公序良俗に違反し無効
である。
(五) 売払請求権は、一つの財産権として譲渡の目的になることは、いうまでも
ない。そして、売払請求権の譲渡には、租税特別措置法三二条一項の適用がなく、
所得税法三三条が適用されるのである。
七 被告らの反駁
(一) F分 二、〇〇〇万円が、退職金であるとしても、その年分は、昭和四九
年ではない。二、〇〇〇万円のうち五〇〇万円が支払われたのは、昭和四八年八月
二八日であり、一、五〇〇万円は、まだ支払われていない。Fが、形式的に退職し
たのは、昭和五一年であるが、現実に退職したのは、昭和四五年であり、原告Aは
昭和五〇年まで給料を支給していた。
(二) 原告らは、国から支払を受けるについて、本件土地の所有権が自己にある
ことや本件土地の買収処分が無効であることを主張しておらず、国に所有権のある
ことに異議を述べていない。したがつて、先払処分が、原告ら主張のように公序良
俗に違反する理由はない。
(三) 本件土地の買収処分には、重大かつ明白な瑕疵はなく、買収処分に伴う本
件土地の国への所有権移転登記の完了、離農補償金の支払にみられる入植者の存
在、先払申請、売渡通知、原告らの対価の支払、本件土地の引渡など、経済的成果
が生じており、課税庁は、このような売払行為を有効として課税処分をすれば足り
る。本件土地の先払が判決によつて無効であることが確定されれば、はじめてその
とき更正すれば足りる。しかし、本件では、本件土地の買収処分、売払処分が有効
に存続しているのであるから、本件更正処分には、なんらの違法がない。
(四) 原告らは、本件買収処分について、前述した訴の取下後なんら争わず、本
件土地の先払申込までした対価を支払い、先払を受けて日本機械に売却しながら、
本件更正処分を受けると、本件土地の買収処分の無効を主張するに至つた。しか
し、このような主張は、禁反言の原則、信義則の原則に反するから、許されない。
第三 証拠関係(省略)
○ 理由
第一 原告らの昭和四九年分の所得に対する所得税課税の経緯と内容が、別表1、
2のとおりであることは、当事者間に争いがない。
第二 本件更正処分の適法性について
一 当事者間に争いがない事実
(一) 原告らの亡父Gは、本件土地を所有していたが、国が、昭和二三年七月二
日、自作農創設特別措置法三〇条によつて買収処分をした。
(二) Gは、昭和四六年九月一三日死亡し、原告らが、その遺産相続人として権
利義務を承継した。
(三) 原告らは、昭和四八年一〇月一八日、農林大臣から本件土地について、農
地法八〇条一項に基づく認定を受け、昭和四九年二月二六日、同条二項に基づいて
対価一億六、七三二万一、六三九円を支払つて売払を受けた。
(四) 原告らは、同月二八日、本件土地を日本機械に三億八、三四七万九、二〇
〇円で売却した。原告らの持分は、原告Aが一〇分の六、その余の原告らが各一〇
分の一あてである。
(五) 本件土地の譲渡所得の計算は、別表3のとおりである。
二 原告ら主張の手続的違法について
(一) 国税通則法二四条にいう調査について
同法条は、なんら具体的方法を定めていないのであるから、その範囲、程度及び手
続などは、課税庁の広い裁量にゆだねられているとしなければならない。したがつ
て、課税庁が、更正処分をするについて、全く調査を怠つた場合には、当該更正処
分は違法となるが、そうではなく、調査自体の不十分であることは、直ちに当該更
正処分に取り消すべき違法があるとすることはできないと解するのが相当である。
この視点に立つて本件を観ると、本件では、本件土地を日本機械に譲渡した事実
が、原告らに全く共通であることを重視しなければならない。ということは、原告
Aを中心に調査を進めれば、他の原告らの調査にもなるということである。
成立に争いがない甲第五ないし第八号証、同第一五号証の一、二、乙第九号証の一
ないし四、同第一〇号証、同第一九号証によると、原告らの確定申告は、税理士訴
外Mが作成して提出したが、更正処分の際には、課税庁の職員は、譲渡所得が農地
法八〇条による先払を受けた土地の譲渡であることを調査し、原告AとFとの間の
覚書(乙第六号証)、日本耐アルカリと原告Aとの間の約定書(同第八号証)を徴
したことが認められ、この認定の妨げになる証拠はない。
そうすると、課税庁は、本件更正処分をする際、国税通則法二四条の調査をしたと
しなければならない。
したがつて、原告らの同条の調査の欠缺による手続的違法の主張は、採用しない。
なお、原告Aに対する本件更正処分をするについて、その帳簿書類の調査が必要で
ないことは、所得税法一五五条一項本文但書の明定するところである。
(二) 所得税法一五五条二項の理由の附記について
青色申告の承認を受けた所得については、法定の帳簿書類に基づいて計算を行わ
せ、その帳簿書類に基づく実額調査によらないで更正されることがないよう保障し
ているが、青色申告の承認を受けていない所得については、青色申告に対する更正
であつても、白色申告に対する更正と同様に処理されれば足りるものと解するのが
相当である(最高裁判所昭和四二年九月一二日裁判集民事八八号三八七頁)。
さて、本件は、青色申告の承認を受けていない本件土地の譲渡所得に対する更正で
あるから、原告Aが青色申告者であつても、その更正についての理由の附記は、法
律上要求されでいないことは、いうまでもない。
したがつて、原告Aのこの主張は、採用しない。
三 原告ら主張の実体的違法事由について
(一) 行政処分の無効は、何時どんなときにでも、誰に対しても、主張できるも
のであるから、本件更正処分の前提として、本件土地の買収処分の無効を主張して
本件更正処分を争うことはできると解するのが相当である。
しかし、行政処分の単なる取消し事由に当たる瑕疵については、既に抗告訴訟の出
訴期間が経過しているから、本件で適法に主張できないことは、いうまでもない。
そこで、原告ら主張の本件土地の買収処分が無効であると主張しているものの中
に、単に取消し事由にしかならないものは、この理由で排斥される。
(1) 本件土地の買収計画が、自作農創設特別措置法三〇条に規定された目的を
欠くとの主張について
「未墾地買収は、『自作農を創設に、又は土地の農業上の利用を増進するために必
要がある』場合に行われるものであり、右必要性の認定については、農業委員会
は、目的地が開墾適地であるかどうかの点のみならず、目的地附近の社会的条件、
国の農業政策、資源確保、災害防止の必要度等の諸要素を検討考慮する必要があ
り、したがつて、農業委員会に、以上の諸要素を基礎とした相当広範な裁量権が与
えられている」(最高裁判所昭和三四年七月一五日民集一三巻七号一〇六二頁)。
したがつて、買収計画が違法となるのは、農業委員会の裁量権行使に濫用又は踰越
があつたときに限られるが、この場合の違法は、買収計画の取消し事由であつて、
無効事由にならないと解するのが相当である。
原告らの主張は、この点で採用できない。
のみならず、成立に争いがない甲第九号証、同第二〇ないし第二二号証、同第二五
ないし第二七号証(同第二五、二六号証については原本の存在についても争いがな
い)、同第二八号証の一、二、同第二九、三〇号証、同第三二号証の一ないし五、
弁論の全趣旨によつて原本の存在とその成立が認められる同第一二号証、証人Oの
証言によると、本件土地を含む津田町第一地区の未墾地買収計画自体が、同法三〇
条の目的、趣旨に合致したものであるといわなければならない。
(2) 本件土地の買収計画の樹立に当たり同法三一条、民有未墾地買収要領に違
反して各筆ごとの綿密な調査をしなかつたとの主張について
未墾地買収においては、買収目的地の特定を欠くときには、買収計画自体が無効に
なると解するのが相当である。しかし、この特定には、買収目的地の実測面積によ
ることまで要求されてはいないのであつて、関係書類上、被買収者のどの土地が対
象にされているかが特定できれば足りるのである(最高裁判所昭和三六年五月二六
日民集一五巻五号一三六五頁参照)。
前掲各証拠によるとき、本件土地が、未墾地買収の対象地として特定を欠いたとす
ることはできない。とりわけ、Gは、本件土地が未墾地買収の対象になつているこ
とを知つたうえで、訴訟をしたり異議の申立をしたりしているのである(前掲甲第
一二号証、原本の存在と成立に争いがない甲第一三、一四号証による)。そして、
前掲甲第二五号証や証人Oの証言によると、Gは、大阪府職員が本件土地の現地調
査に行つたときにはその立会をし、境界の不明確な部分を指示したというのであ
る。このような事情があるにも拘らず、本件土地の買収計画を樹立するについて、
綿密な調査をしなかつたというのは、事実にそわない主張でしかない。
(3) <地名略>の土地が農地であるのに、未墾地と認定したことの誤りについ

明らかに農地であるものを未墾地と誤認して未墾地買収をした場合、その買収は、
無効であると解するのが相当である。
しかし、本件に顕われた証拠を仔細に検討しても<地名略>の土地が、全地域にわ
たつて、明らかに農地として耕作されていたことが認められる証拠はない。却つ
て、前掲甲第二五号証やO証言によると、Gの使用人であるPが、約半分位よいと
こ好みの格好で開墾して耕作していた程度であり、P自身この土地を未墾地買収さ
れた後、売渡しを受けることを希望していたことが認められる。この認定の事実に
よると、<地名略>の土地全部が農地であることが誰の目から見ても明白であつた
とまで断定することは無理である。したがつて、原告らのこの無効の主張は、採用
しない。
(4) 本件土地の範囲と面積の不確定について
さきに述べたとおり、被買収地の特定を欠くときには、買収計画は無効になるが、
本件では、本件土地の範囲は、関係書類によつて明らかにされ、Gの十分承知する
ところでもあつたのである。
前掲甲第二五号証、O証言によると、買収計画のため特に測量はせず、目測によつ
て縄のびを一・五としたことが認められる。そして、本件においてこの縄のび率が
明白に間違つていることが認められる証拠がないのであるから、原告ら主張の本件
土地の範囲と面積が不確定であることが、本件土地の買収処分を無効ならしめる事
由とはならない。
(5) 本件買収計画から除外された民有地(Q所有地)が本件土地の買収により
袋地になつたとの主張について
原告ら主張の事由が、本件土地の買収処分を当然無効にならしめる瑕疵であるとす
ることはできない。
(6) 本件土地の買収令書の交付がなく対価の支払もされていないとの主張につ
いて
買収令書の交付がないことや対価の支払がないことは、買収処分を無効ならしめる
瑕疵に当たる。
前掲甲第二五号証、成立に争いがない同第二三、二四号証、同第三一号証の一ない
し五、証人Oの証言によると、Gは、買収令書の受領を拒んだため、大阪府知事
は、大阪府公報(甲第二四号証)に公告しその対価を供託したことが認められ、こ
の認定の妨げになる証拠はない。
そうすると、原告らのこの主張も、採用できない。
(7) 本件土地について、正当な補償がないとの主張について
原告らの主張が、本件土地の買収処分を無効ならしめる瑕疵に該当しないことは、
多言を必要としない。
(8) まとめ
以上の次第で、本件土地の未墾地買収計画ないし買収処分が無効であるとの原告ら
の主張は、すべて理由がない。
(二) 時効取得について
Gは、本件土地が昭和二三年中に買収になることを知り、同年七月には、未墾地買
収計画取消訴訟を、同年九月には、農地買収対価増額訴訟を提起したことが、前掲
甲第一三、一四号証によつて認められる。
そうすると、Gは、本件土地の所有権が農地買収によつて国に移転したこと知つた
ものとするほかはなく、仮に、Gが、昭和二三年七月ころから、本件土地全部を占
有しなとしても、その占有に所有の意思があつたとすることは、到底無理である。
したがつて、原告らの時効取得の主張は、採用巳ない。
(三) 農地法八〇条の売払請求権の譲渡であるとの主張について
本件に顕われた証拠を仔細に検討しても、原告らと日本機械との間の売買の目的物
が、本件土地ではなく本件土地の売払請求権であることが認められる証拠はない。
却つて、成立に争いがない乙第一号証の六、七、同第二、三号証、証人Hの証言、
原告Aの本人尋問の結果によると、右売買の目的物は、形式的にも実質的にも本件
土地であることが認められる。
したがつて、原告らのこの主張は、採用しない。
(四) 原告らは、本件土地の売払が無効であると主張しているが、本件に顕われ
た証拠を仔細に検討しても、本件土地の売払自体が無効であることが認められる証
拠はない。原告らは、本件土地の売払を受け、これを日本機械に譲渡して多額の利
益を得ながら、本件土地の売払を無効と主張することは、
矛盾も甚しく、理解に苦しむところである。
四 本件土地の譲渡費用について
(一) F分 二、〇〇〇万円
成立に争いがない乙第六号証、公務員が職務上作成したものであるから真正に作成
されたものと認められる同第一六号証の一、原告Aの本人尋問の結果を総合する
と、原告AがFに支払うことにした二、〇〇〇万円の性格は、Fの奥田塗料製造工
場の退職功労金、Fの居住家屋(Q所有)の立退料、原告AとFとの間のGの遺産
をめぐる確執に対する示談金など諸々の解決金であつたことが認められ、この認定
に反する証拠はない。
そうすると、この二、〇〇〇万円が、本件土地の譲渡に必要な費用に該当しないこ
とは、いうまでもない。
なお、原告らは、この二、〇〇〇万円が、退職功労金であるとするなら、原告Aの
事業所得を更正すべきであつたと主張しているが、同原告が、そのような確定申告
や條正申告をしていないのに、課税庁がそのような更正をすべき義務はない。
前掲乙第一六号証の一、成立に争いがない同第八号証、同第一五号証、公務員が職
務上作成したものであるから真正に作成されたものと認められる同第一一号証の一
によると、日本耐アルカリが、原告Aから借りていた建物のあつた場所は、枚方市
<地名略>財産区所有の枚方市<地名略>であつたこと、日本酎アルカリは、この
建物から立ち退くため二五〇万円を原告Aから受け取つたこと、以上のことが認め
られ、この認定に反する証拠はない。
そうすると、日本耐アルカリ分が、本件土地の譲渡に必要な費用に該当しないこと
は、いうまでもない。
五 本件更正処分か、著しく公平を欠き違法であるとの主張について
原告ら主張の事情が、本件更正処分を違法にならしめる理由とならないことは、多
言を必要としない。課税庁としては、確定申告、修正申告を契機として、その内容
を審査し、税法を適用して課税処分をすれば足り、他の納税者(本件では離農者)
との比較をも考えて課税処分をする義務もなければ必要もない。
原告らの主張は、到底採用できないことは、いうまでもない。
六 本件更正処分の適法性について
原告らは、農地法八〇条によつて本件土地の売払を受け、これを日本機械に譲渡し
たわけであるから、この譲渡所得は、農地売私法五条一項二号、租税特別措置法三
二条一項により、
分離短期譲渡所得として課税される。そして、譲渡費用中F分二、〇〇〇万円と日
本耐アルカリ分二五〇万円は、否認されなければならない。そうすると、別表3の
被告らの更正欄記載のとおりになる。
以上の次第で、本件更正処分は、適法であつて、原告ら主張の違法な点はない。し
たがつて、本件賦課決定処分も適法である。
第三 むすび
原告らの請求は失当であるから棄却し、行訴法七条、民訴法八九条に従い、主文の
とおり判決する。
別表1~3、物件目録(省略)
準備書面(昭和五五年九月五日)
原告らは、本訴において、国が昭和二三年七月二日付をもつてなした本件土地に対
する自作農創設特別措置法第三〇条にもとづく買収(いわゆる未墾地買収・以下本
件買収という)の無効を主張するものであるが、この点に関する主張を、次のとお
り補充する。
一、本件買収は、自創法第三〇条に明記される買収の目的を欠くか、少くとも同条
に定める買収目的に関する解釈・運用を誤つたものである。
(一) 同条は未墾地買収の目的を「自作農を創設し、又は土地の農業上の利用を
増進するため」と定めているが、本件買収当時、国の側に「自作農の創設」または
「土地の農業上の利用の増進」の目的があつたとしても、それは全く主観的・恣意
的なものであつて、本件買収後における国の不作為的態度、すなわち自作農を創設
し、あるいは土地の農業上の利用の増進をはかるために、積極的な施策を講じなか
つたことが如実に示すごとく、客観的に買収目的をもつていたものとは到底考えら
れない。
(二) また、何よりも被買収者訴外亡Gは本件買収当時まぎれもなく自作農(同
訴外人は兼業として塗料製造業を営んでいたが、自作農創設特別措置法は自作農を
いわゆる専業農家に限定していない)として、本件土地を農地または新炭採草地と
して所有し、かつこれを利用していたのであり、たとえ国が本件土地を買収のう
え、該地に自作農に非らざる第三者を入植させて自作農を創設し、あるいはすでに
自作農である第三者を入植させてその土地の農業上の利用を増進する目的を有して
いたとしても、右訴外Gの自作農家としての営農規模を減少させ、ひいては同訴外
人の耕作者としての地位を不安定にし、土地の農業上の利用を減少させるがごとき
は、角をためて牛を殺すの喩であつて、自創法本来の趣旨に反するものである。
よさに自創法第三〇条に定める買収目的の解釈ないしは運用を誤つたものといわな
ければならない。
(三) なお、以上の点については、立法者の意思も重視されなければならないと
思われるところ、自創法制定当時における国会審議の諸議事録は原告らの主張を全
面的に裏付けている。
創法第三一条)、右買収計画の樹立にあたつては被買収土地の各筆ごとに所定の事
項を綿密に調査のうなされなければならないとされている(同法第三二条、民有未
墾地買収要領・昭和二二年一月八日農林次官通達)ところ、国は大阪府県農地委員
会をしてかかる調査を実施させず、したがつてその限りにおいては違法な買収計画
を樹立し、大阪府知事をして、これを認可したものである。
(一) 調査に関しては、当時農林次官通達(昭和二二年一月八日二一閣第二三五
七号)なるものが定められており、右通達によれば、調査は対象土地の各筆ごと
に、所定事項を綿密に実態調査をしなければならないとされていた。しかして、所
定事項として明定されるものは次のとおりであつた。
イ 土地については、地目(台帳上と現況について)、面積(台帳上と実測による
もの)、対価および所有者など。
ロ 日通三寸以上の立木および竹については、所在地、樹種、数量、対価および所
有者など。
ハ 堰堤などの工作物については、所在地、種類、構造、対価および所有者など。
二 溜池、水路などの用水設備については、所在地、種類、目的、用水量、対価お
よび所有者など。
(二) しかるに国は本件土地(実は本件土地のみならず、いわゆる津田地区の全
域についてであるが)の各筆についての調査を全く行わなかつた。
とくに、本件土地について(のみならず叙上の全域について)、その範囲、非買収
地との境界およびその面積についての調査がなされなかつたことは、重視されなけ
ればならない。
(三) また、国は本件土地について(のみならず叙上の全域について)、所定事
項の調査をしなかつた。
とくに、農業にとつて必要欠くべからざる水利についての調査は全くなされず、ま
た本件土地および対象地一帯には直径二〇ないし三〇センチメートルに及ぶ松その
他の立木や竹が密生していて、本件買収の目的に鑑みれば、当然独立した買収の対
象としてこれを調査すべきところ、これを全くしなかつたことは重視されなければ
ならない。
(四) さらに、
所定事項については調査したものもあるが(もちちろ各筆ごとの調査はなしていな
い)密な調査はなさなかつた。
三、本件買収は自作農創設特別措置法第三〇条第一項一号、すなわち「農地及び牧
野以外の土地で農地の開発に供しようとするもの」の買収としてなされたものであ
るが、本件土地の一部(大阪府枚方市<地名略>の土地一帯)については、当時前
記訴外人が現に農地として農業の用に供していた土地であるにもかかわらず「農地
及び牧野以外の土地」として買収されたものである。
ちなみに、同条項二号にはいわゆる「あわせ買収」として、農地をも買収の対象と
することができるようになつているが本件買収はあくまで同条項一号としてなされ
たものであることは、当時本件買収の手続に関与した当時の大阪府農地部職員が明
言するところである。
四、本件買収は、前述したごとく、各筆ごとに綿密な調査、とくに測量などを実施
せずしてなされた結果、買収土地の範囲、したがつて隣地とくに非買収地(本件土
地についていえば訴外Q所有の大阪府枚方市<地名略>)との境界も判然とされな
いまま、しかも買収土地の面積も不確定のまま買収がなされた。
前述の農林次官通達によれば、買収土地の「買収面積は土地台帳に登録した当該土
地の地積によるのを原則とするが、その地積を以て買収することを著しく不相当と
認め別段の面積を定めたときは、台帳面積の外にその面積を買収面積欄に表示し、
面積測定の方法実測、目測等を摘要欄に表示すること」と定められているが、国は
本件土地(のみならず前述の土地全域)について公簿面積によることは「著しく不
相当」としながらも、・実測することなく、本件土地を含む右の全対象土地(但
し、宅地は除く)については、その公簿面積に一律単純に一・五を乗じて買収土地
の面積としたが、もとより合理性を欠き、推察するにただ行政の便を計つたにすぎ
ない。
五、本件買収は、訴外亡Gおよびその家族の生活と営業(塗料製造業)を全く無視
してなされ、同訴外人の妻である訴外Q所有地(前記の枚方市<地名略>)を除
き、その周囲の土地をすべて買収した結果、全くの袋地とされてしまつた。
かくして、本件買収は、かりに自創法所定の目的に出でたものであつたとしても、
著しく法の趣旨を逸脱したものといわなければならない。
六、本件買収については、
買収令書の交付がなされていない。
(一) 自創法によれば、買収は被買収土地の所有者に対し買収令書を交付してし
なければならないとされている(自創法第三四条・同第九条)。そして、右所有者
が知れないとき、その他令書の交付をすることができないときは、命令の定めると
ころにより、所定事項を公告し、令書の交付に代えることができるとされている
(同第九条一項但書)。
(二) しかるに、本件買収については、訴外亡Gに対し、買収令書の交付は全く
試みられなかつた。
(三) ちなみに、本件買収については、右訴外Gにおいて令書の受領を拒絶した
という虚偽の事実をもとにして、買収の時期(昭和二三年七月三日)を過ぐること
七ケ月に及んで、すなわち昭和二四年二月八日付大阪府公報をもつて公示されてい
るが、公示の原因を欠くこと前述のとおりであつて、かかる公示をもつて、買収令
書不交付の違法が治癒されるものではない。
なお、津田地区における当時の被買収者は共有者を含め合計六〇名であつたとこ
ろ、うち四三名について、右公報をもつて公示されており、その行政の違法ぶりが
如何なく示されている。
七、本件買収については正当なる補償がなされていない。
(一) 本件土地の買収についてはすでに主張したごとく、買収の対価が全く支払
われていない。
(二) 国は本件土地の買収対価は供託した旨主張するようであるが前記訴外人は
供託の事実を知らないばかりか、たとえ供託の事実があつたとしても、それは供託
の要件を欠くものとして無効であるといわなければならない。
(三) かりに、本件土地の対価が有効に供託されているとしでも、該対価は前述
したごとく公簿面積に一律単純に一・五を乗じたものを買収土地面積として算出し
たもので、真実の面積にもとづいて算出した額をはるかに下廻る額であるから、こ
れをもつて、本件土地の正当なる補償がなされたとみることは到底できない。
(四) さらに、本件土地上には前述したごとく、買収当時直径二〇ないし三〇セ
ンチメートル以上の松を主体とする立木及び竹が密生していたが、国はこれら多数
の立木および竹について買収の手続をとることなく、したがつてこれに対する正当
な補償をすることなく、本件土地の買収と同時に、これに附随して、事実上買収を
なした。
(五) また、本件土地の上には、買収当時、前記訴外人が高価を投じて構築した
滝および所有農地(もちろん本件買収の対象外)に至る農業用水路が存在したが、
これら工作物もすべて正当なる補償なく、本件土地の買収に附随して、事実上買収
されてしまつた。
八、以上述べたごとく、本件買収処分には、重大にして、かつ明白なる瑕疵があ
り、当然無効といわなければならない。

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