弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
1 被告が別紙第二原告目録(一)記載の原告らのうち原告P1、同P2、同P3、同
P4、同P5、同P6を除くその余の原告らに対してなした別紙第三処分目録(一)記
載の訓告処分は、いずれも無効であることを確認する。
2 原告P1、同P2、同P3、同P4、同P5、同P6の本件訓告処分の無効確認を求
める訴えはいずれもこれを却下する。
3 被告は別紙第二原告目録(一)記載の原告らに対し各金五、〇〇〇円を、同原
告目録(二)記載の原告らに対し各金二、五〇〇円をそれぞれ支払え。
4 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用はこれを五分し、その一を原告らの、その余を被告の負担とする。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告ら
1 被告が別紙第二原告目録(一)記載の原告らに対してなした別紙第三処分目録
(一)記載の各訓告処分は、いずれも無効であることを確認する。
2 被告は、別紙第二原告目録(一)記載の原告らに対し各金二万円を、同原告目
録(二)記載の原告らに対し各金一万円を、それぞれ支払え。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 第2項につき仮執行宣言。
二 被告
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二 請求原因
一 当事者
 被告は、日本国有鉄道法に基づいて鉄道事業を営むものである。原告らは、いず
れも被告に職員として雇傭されているもので(いずれも被告の青函船舶鉄道管理局
(以下青函局という。)内で勤務しているが、その勤務箇所および職名の詳細は別
紙第三処分目録(一)、(二)の勤務箇所欄および職名欄にそれぞれ記載したとお
りである。)、かつ、被告の職員等をもつて組織されている国鉄労働組合(以下国
労という。)の組合員で、国労の青函地方本部(以下青函地本という。)に所属し
ているものである。
二 訓告処分の存在
 被告は、青函局長名義で原告らに対し、別紙第三処分目録(一)、(二)の訓告
年月日欄記載の日にそれぞれ訓告処分(以下本件訓告処分という。)をなした。
 被告がなした右訓告処分の理由は、原告らが昭和四五年三月二〇日から同年五月
八日にわたつて、「大巾賃上げを斗いとろう、16万5千人合理化粉砕」と書いた
黄色のリボン(縦一〇センチメートル、横三・五センチメートル、以下これを本件
リボンという。)を勤務時間中に着用したのが「服制違反」であるからとのことで
ある。
三 本件訓告処分の無効
 原告らが右のごとき体裁内容を有する本件リボンを勤務時間中に着用したことは
事実である。しかしながら、原告らが、本件リボンを着用するに至つた目的および
経緯ならびに本件リボン着用行為が正当な組合活動であることは次のとおりである
から、本件訓告処分は無効である。
1 本件リボンを着用するに至つた目的および経緯
 国労は、一万六、〇〇〇円の賃上げを要求して昭和四五年二月二〇日より被告側
と精力的な団体交渉をつづけて来たが、被告側は、いわゆる国鉄の赤字解消、再建
計画と、そのための合理化に国労が協力して、これを解決しなければ、賃上げには
一切応じられないとの極めて固い態度をとりつづけた。これは本来別個の問題であ
る賃金問題にいわゆる「合理化」の問題をからめるものであるし、その合理化案自
体、国鉄の使命である安全を大きく損い、かつ国鉄労働者の労働強化等の労働条件
の改悪をもたらすのであつたが、「合理化と賃金問題とは別問題だ。国鉄の労働生
活の実態から一万六、〇〇〇円は当然の要求だ」とする国労の要求を一歩も認めよ
うとしないものであつた。そのため団体交渉は全く行きづまり、ついに同年四月三
日右交渉は決裂し、国労は同月六日、公労委に調停を申請するに至つたのである
が、本件リボン着用闘争は中央の団体交渉における被告側の右のようなかたくなな
態度に国鉄の労働者の一人一人が抗議し、かつ一万六、〇〇〇円の賃上げと当局ペ
ースのいわゆる合理化反対を自らの要求としてかかげて、この団体交渉を何とか有
利に導びこうとして、まさに組合の正当な目的のために、国労青函地本の指示に従
つて行なわれたものである。
2 本件リボン着用の正当性
 被告は、原告らが勤務中リボンを着用したのは適法であるとし、その理由とし
て、勤務中のリボン着用は(1)勤務時間中の組合活動として職務に専念すべき義
務に違反する、(2)勤務中の服制に関する諸規定に違反する、との二点をあげて
いる。
 しかしながら、以下に述べるとおり被告の主張はいずれも理由のないものであ
り、原告らの本件リボン着用が正当な組合活動であることは明白である。
(一) 勤務時間中の組合活動という点について
 原告らが勤務時間中本件リボンを着用したことが勤務時間中の組合活動になると
しても、そもそも勤務時間中の組合活動が原則的に否定される実質的根拠は、勤務
時間中は労働契約上労働義務(被告のいう「職務専念義務」)を負つているため、
勤務時間中の組合活動は通常このような義務に抵触するという点にある。これを裏
からいうならば、労働義務の履行に実質的、具体的に支障を及ぼさない限りにおい
ては勤務時間中の組合活動とても何ら違法とされるいわれはない。労働契約はあく
までも労働力の売買を中心とする契約であり、労働力を円満に提供することが債務
の本旨とされる。使用者が労働者に対し、このような労働力提供の義務以上のもの
を要求しうる根拠がないことはいうまでもない。
 本件リボンの着用が、この様な意味で労働義務の履行あるいは円満な労務提供の
義務の履行に、実質的、具体的な支障がないこと、またそのおそれすらないことは
明白であり、勤務時間中の組合活動禁止の原則に何んら反するところはない。
(二) 服装違反との点について
(1) 被告の主張する諸規定が原告ら現場職員に対し一定の制服を着用し、服装
を整えて勤務することを命じていることは、そのとおりであるが、一定の服装が労
働契約上労働義務の一内容として義務づけられうるとするなら、それは、労働義務
=業務の性質上、一定の服装が、労働能率の保持、安全衛生管理上の必要等、労働
義務の履行上合理的な理由がある場合に限られる。労働契約関係の前述のごとき性
質から、右の点は当然であり、使用者が右に述べたような合理的理由がないにもか
かわらず、服装上の義務を一方的に労働者に課することは許されない。
 本件のごとき形状、大きさのリボンを制服に着用することが労働能率の保持、安
全確保の必要という面からおよそ問題になる余地すらないことは明白であり、本件
リボンの着用を服制上の義務に反するものとして禁止しうる合理的理由はない。
(2) 被告の主張する服装上の規制をする「目的」ないし「必要性」の論理にそ
つて検討しても、本件リボンの着用による執務が、その形状、大きさ、内容からみ
て国鉄職員としての「公正中立」や「品位」を害することにならないこと明白であ
り、また、本件リボンの着用によつて「職務に対する認識心構」を欠くことになつ
たり、「注意力の集中」に支障をきたしたりなどして、「列車・自動車の運転、船
舶の運行の安全の確保」に支障をきたしたりするようなおそれがないことは明々白
々である。また、服装上の義務づけが旅客公衆と接する業務に従事する者において
は、一定の不快感を与えないという面からその合理性を認めうる余地があろうが、
本件リボンがその体裁、記載内容等から不快感を与えるようなものではないことも
また明白であり、「不快感を与えないため」という被告の主張する必要性も本件の
リボンについて該らない。もともと、リボンを着用するという行為自体は、被告も
含めて社会生活上日常的に行なわれていることなのであり、リボンの着用を「不
快」として受けとる社会通念は一般的にいつて存在しない。本件リボン着用を「不
快感」と結びつけることはおよそ社会通念に反するものであり、「大巾賃上げを斗
いとろう、16万5千人合理化粉砕」との内容が「不快感」を与えるなどという反
組合的感情はもとより保護に値しないものである。
 以上要するに、本件リボンを着用して就労することは、何んら労働義務の本旨に
反するものではなく、「職場の規律を紊し、被告日本国有鉄道の業務の正常な運営
を妨げること」にはならない。
(三) 以上述べたところから、本件リボンの着用を違法だとする被告の主張はす
べて理由がなく、本件リボンの着用が正当な組合活動であることは明らかである。
3 職場内慣行としてのリボン着用
 国労は、その労働組合としての当局に対する要求の貫徹と団結の強化のため、昭
和三二年頃からさまざまのリボン着用闘争を行つて来た。原告等の属する国労青函
地本のここ数年をとつてみても昭和四〇年三月の鉄道病院要員闘争を初めとして
昭和四〇年 九月 小口合理化闘争
昭和四〇年一〇月 長万部駅●電要員確保の闘い
昭和四一年 二月 電務の新体制闘争
昭和四一年 四月 昭和四一年春闘
昭和四一年 六月 昭和四一年春闘配分闘争
昭和四二年 五月 昭和四二年春闘
昭和四二年 八月 五万人合理化反対闘争
昭和四二年一〇月 昭和四二年秋季年末闘争
昭和四三年 二月 五万人反合闘争
昭和四三年 三月 船舶関係合理化
昭和四三年 四月 昭和四三年春闘
昭和四三年 九月 五万人反合闘争
昭和四三年 九月 一〇月ダイヤ改正闘争
昭和四三年一一月 昭和四三年年末闘争
昭和四四年 二月 一六万五千反合昭和四四年春闘
昭和四四年 九月 CTC闘争
昭和四四年一一月 佐藤訪米反対年末闘争
昭和四四年一一月 新幹線反合年末闘争
等においてくりかえし、その要求をかかげた本件とほぼ同様のリボンの着用を行つ
て来た。
 これに対し、被告側は昭和四四年度年末闘争におけるリボン着用に至るまでは一
度も警告を発したことがなく、これを容認していたし、まして何らかの処分を以て
臨むようなことは皆無であつた。
 このような点から見て、国鉄職場内における業務に何らの影響も及ぼさない本件
のごときリボンの着用は、職場内慣行となつていたものともいえるのであり、被告
が右のごとき長い慣行を破つて本件のリボン着用闘争に対して、本件原告らを含む
実に五〇二名の大量の処分を以つて臨んだのは、職場内慣行を犯すものとしても違
法たるを免れないものである。
4 むすび
 よつて、原告らの本件リボン着用行為は、組合員の連帯意識と団結の強化をはか
るとともに、組合の要求を内外に訴え、団結を示威するための正当な組合活動であ
つて、憲法第二八条に規定する団結権、団体行動権の保障によつて保護されている
ものであるから、この行為に対して被告がなした本件訓告処分は同条に違反し、か
つ、労働組合法第七条第一号にも違反するから、無効である。
四 本件訓告処分無効確認の訴えの利益
1 訓告処分の不利益性
(一) 被告と国労とは、昭和三一年以来毎年、昇給につき「昇給に関する協定」
を締結し、その中で昇給欠格条項を協定していた。これによれば、同一年度に二回
訓告処分を受けた者は所定の昇給号俸のうちから自動的に一号俸減ぜられることに
なつており、また、一回だけ訓告処分を受けた者でも、右昇給欠格条項中の「勤務
成績が特に良好でない者」との条項に該当するとして所定の昇給号俸のうちから一
号俸減ぜられる場合もあることになつていたから、この点だけでも、訓告処分の不
利益性は明らかである。
(二) そして、昭和四六年においても、同年八月一三日に被告と国労との間に
「昭和四六年四月期の昇給に関する協定」が締結された。これによれば国労所属の
組合員について、昭和四五年四月一日から昭和四六年三月三一日までの昇給所要期
間内に、訓告処分を二回受けた者は昇給の際昇給号俸を一号俸減ぜられる旨定めら
れており、また、同協定に定められた昇給欠格条項に該当しない限り、当然に所定
の基準に従つて昇給することとされている。
(三) 別紙第二原告目録(一)記載の原告らは、前記のとおり、右昇給所要期間
内に二回以上の訓告処分を受けているので、右昇給欠格条項に該当するとして右協
定に従つて昭和四六年度の昇給に際し、所定の昇給号俸のうちから一号俸減ぜられ
て昇給された。
 ただし、原告P1、同P3および同P2の三名は別の昇給欠格条項が適用されて、所
定の昇給号俸を二号俸減ぜられたが、これは訓告処分と別の昇給欠格条項とが競合
するときには双方の昇給欠格条項を重畳的に適用するのではなく、重いほうの昇給
欠格条項を優先的に適用する旨の右協定中の規定が適用されたものである。なお、
原告P4、同P5および同P6についても病気欠勤という別の昇給欠格条項に該当する
事実があつたが、これら三名の原告らの昇給延伸がいずれの条項によつたものかは
原告らには不明である。
(四) 本件訓告処分は被告と国労との問に締結された「懲戒の基準に関する協
約」の第一条「懲戒は次の各号の一に該当する行為があつた場合に行なう」の第一
七号「その他著しく不都合な行為があつた場合」および同第二項「第一条各号の一
に該当する行為があつた場合で懲戒を行なう程度に至らないときは訓告する」旨の
規定によつてなされたものであり、前記のような効果を有し、また体裁を整えた文
書でなされているのであつて、これらの事実を考えあわせると、実質的には一種の
懲戒処分とみるべきものであつて、これを将来を戒めるための単なる事実行為で、
雇傭関係上の権利の設定、変更、消滅に直接の影響を何ら及ぼさないものとみるの
は誤りである。
2 訴えの利益
 なる程、被告の主張するとおり、一般論としては過去の法律関係の確認をして見
ても、その後に法律関係が変動している可能性が存在する以上、余り意味がないと
はいいうる。
 しかしながら、範ちゆう的に法律関係を過去・現在と区別し、過去のものについ
ては確認の訴の対象の適格性を否定するのは正当ではない。むしろその事項につ
き、現在確認訴訟で解決すべき利益が存在するかどうかの考慮が先行し、その利益
が肯定されるときに現在の法律的紛争として捉えられてくるというべきである。本
件においても訓告処分を二回受けた原告らは、その結果、昇給額のうち一号減俸さ
れた場合、各訓告処分の無効を理由としてこれがなかつたならば、受けたであろう
給与差額について毎年その支払いを求める給付訴訟を提起することは理論上可能で
はある。しかしながら右のような給付訴訟の方途があるからといつてもそれ以外の
救済方法をすべて排斥することは原告らに余りにも酷であるし、給付訴訟によつて
紛争の根源が解決されるわけでもないのである。むしろ、本件各訓告処分の無効を
確認することによつて原告らの法律上の地位の不安定を除去するという意味におい
て、本件につき確認訴訟を認めることが紛争の最も直截的解決に益するものであ
る。
五 被告の賠償責任および原告らの精神的損害
1 被告は、憲法上および法律上正当な権利を行使したにすぎない原告らの本件リ
ボン着用行為に対し、故意または重大な過失によつて、本件訓告処分という違憲無
効な不利益処分をなし、原告らに精神的損害を与えたものである。
2 のみならず、原告らの上司である被告職制は、原告らに対し本件リボンを撤去
するよう再三にわたつて執拗かつ脅迫的に要求した。
 これらの撤去要求は、原告らの各勤務箇所の長名で各勤務箇所に警告書なる文書
を掲示してなされたばかりでなく、各原告の勤務箇所の長、助役(一人あるいは数
人)あるいは青函局から連日のように派遣された数人一組のパトロールから点呼時
あるいは勤務中等に「撤去をしなければ処分する」等、口頭で威嚇してなされたも
のであり、その詳細は別紙第四撤去要求行為一覧表記載のとおりである。
 これらの撤去要求行為は本件訓告処分と一連のものであるが、被告職制は被告の
事実を執行するにつき、原告らに対し右のような執拗かつ脅迫的な撤去要求をな
し、故意または重大な過失により原告らに精神的損害を与えたものであるから、被
告職制の使用者である被告は使用者責任を負う。
3 右一連の本件リボン撤去要求および本件訓告処分によつて、原告らが受けた精
神的損害を慰藉するには少なくとも別紙第二原告目録(一)記載の原告らにつき各
二万円、同原告目録(二)記載の原告らにつき各一万円が相当である。
六 むすび
 よつて、被告に対し訓告処分を二回受け、昇給欠格者としての不利益を受けた別
紙第二原告目録(一)記載の原告らについて、本件訓告処分の無効確認と各金二万
円の支払いを、同原告目録(二)記載の原告らについて各金一万円の支払いを求め
る。
第三 請求原因に対する認否
一 請求原因一、二項の事実は認める。
二 請求原因三項については、原告らが昭和四五年春季賃上闘争に際し本件リボン
を着用したこと、これが国労青函地本の指示によるものであることおよび原告ら主
張の闘争においてリボンの着用されたこと(但し規模は本件よりずつと小規模であ
つた。)は認めるが、その余は争う。本件リボン着用の違法性および不当性ひいて
は本件訓告処分の適法性および正当性については後に一括して詳述する。
三 請求原因四項については、原告ら主張の昇給に関する協定の存在および該協定
中に原告らの主張するような昇給欠格条項が定められていることおよび原告らの主
張するような昇給号俸の減少があつたことは認める。
 ただし、原告P4、同P5および同P6は病気欠勤を理由として一号俸昇給延伸され
たものである。
 しかし、訓告処分自体は単なる事実行為であつて、何ら法的効果をもたないもの
であり、原告らが主張するような昇給号俸の減少は被告と原告らの所属する国労と
が締結した右協定に伴う効果にすぎないから、訓告処分自体は何らの不利益性も有
していない。このことは後述の反論において詳述する。
四 請求原因五項については、おおむね原告らが主張する日時に、原告らの主張す
る原告らの上司が原告らに対し本件リボンを撤去するように要求したことは認める
が、その余の事実はすべて否認する。
五 請求原因六項は争う。
第四 被告の抗弁と反論
一 本案前の抗弁
 本件請求の趣旨1項の確認の訴えは、権利保護の資格を欠き、不適法である。
1 原告らは、いずれも訓告処分の無効確認を求めているが、民事訴訟において確
認訴訟の対象となるものは、現在の権利又は法律関係でなければならず、特別の規
定のないかぎり、単なる事実又は過去の法律関係の存否が確認の対象とならないこ
とは学説判例上一致しているところである。本件訓告は、被告の青函局長が原告ら
の所属長として、原告らの行為を企業秩序ないし規律の違反であるとしてその非を
諭して反省を促し、将来を戒めるために行なつた単なる事実行為であつて、それ自
体意思表示ないし法律行為に該当しないことは勿論、なんら直接に雇用関係上の権
利の設定、変更、消滅に影響があるものではない。かかる単なる事実行為としての
訓告が確認訴訟の対象として許されないものであることは、各裁判例の趣旨からし
て多言を要しないところである。
 もつとも、実務上解雇無効確認が求められ、その趣旨の判決がなされることがあ
るが、それは過去に行なわれた解雇の無効を前提とする現在の従業員の地位の確認
の趣旨に理解して、便宜上これを許しているに過ぎない。したがつて、解雇処分に
ついては、解雇無効の主張を従業員の地位の確認という現在の法律関係におきかえ
て許容されるとしても本件のごときそれ自体では何んら法律効果の伴わない訓告に
ついては、解雇処分のように現在の権利又は法律関係におきかえることはできない
ものであるから、確認訴訟の対象として許されないものといわなければならない。
 よつて、本件訓告処分無効確認請求の訴は、権利保護の資格を欠き、不適法なも
のであること明らかである。
2 また、原告らは、「二回訓告を受けた原告らは、これにより国労と被告との間
の昇給に関する協定の適用上昇給欠格条項に該当する者として、原告らの昇給額の
うちから一号減俸の不利益をこうむることとなる」旨主張するのでこの点について
言及すると次のとおりである。
 被告の職員の昇給は部内規程によれば毎年四月一日年一回基本給の額を四号俸増
額することにより行うこととされているが、実際は被告と組合との団体交渉により
毎年昇給に関する協定が締結され、それによつて実施されている。
 しこうして、前記昭和四六年四月期の昇給に関する協定によれば、昇給は平素の
勤務成績を十分調査して行うものとされ(右協定第一項)、現に停職中の者や年令
五五才以上で前年度末までに退職の勧奨を受けたことのある者は昇給資格者からは
ずされ(同協定第二項)、また右協定の別紙記載の昇給欠格条項第一号乃至第七号
にあたる者についてもその定めにしたがつて昇給の号俸数が減ぜられることになつ
ている(同協定第三項)。
 そして、前記欠格条項第八号には勤務成績が特に良好でない者に対しては所属長
の権限により一号俸以上減俸され、その逆に勤務成績が特に優秀な者及び他との均
衡上特に考慮すべき者については四号俸以内にて増加することができるものとされ
ている。
 すなわち昇給は、昇給期における有資格者が自動的に当然昇給するものではな
く、国鉄本社より所属箇所に配布された昇給資金の範囲内で、原告らの所属長であ
る青函局長が原告らについて昇給欠格条項の有無を確認し或いは平素の勤務成績を
十分調査し、その成績を勘案のうえ昇給の発令をなすことによつて初めて原告らの
具体的な昇給号俸が確定するものである。したがつて、本件訓告処分が仮に無効で
あつたとしても、原告らが必ず昇給するとは限らないから、形式的有資格者が当然
に昇給することを前提とする原告らの主張は失当である。
二 反論の一(勤務中のリボン着用行為等の違法性)
1 日本国有鉄道法第三二条は、日本国有鉄道職員の服務の基準として「職員は、
その職務を遂行するについては誠実に法令および日本国有鉄道の定める業務上の規
程に従がわなければならず、又、全力をあげて職務の遂行に専念しなければならな
い」旨を規定し、国家公務員法第九六条第一項、第九八条第一項、第一〇一条第一
項とほゞ同様のことを規定している。
 原告らは、本件の勤務中のリボン着用行為は組合員の連帯意識と団結強化をはか
るとともに、団結を示威する組合活動である旨主張しているが、このことは原告ら
が勤務時間中組合活動をしたことを自認し、又、組合の被告に対するデモンストレ
ーシヨンないし示威運動をしたことを認めるものである。
 原告らが執務をとりながら他方示威運動等の組合活動をすることは、職務に専念
していることにならないばかりか、次に述べる服制についての法律や日本国有鉄道
の定める規程にも違反するものである。
 すなわち、被告日本国有鉄道の職員に対しては、その勤務中の服装について種々
の規定(安全の確保に関する規程第一四条、職員服務規程第九条、営業関係職員の
職制及び服務の基準第一四条、服制及び被服類取扱基準規程第三条・第九条、鉄道
営業法第二二条等)が設けられ、現場の職員に対し制服(作業服を含む。)を着用
し、服装を整えて勤務することを命じている。
 法律又は被告日本国有鉄道が、その職員に対し、服装上の規制をなす目的ないし
その必要性は
(一) 国鉄の性格が公共の福祉を増進することを目的としているため、その職員
も公共の福祉のために勤務し、公正中立かつ品位を保持して執務することが必要で
あるため(日本国有鉄道法第一条、就業規則第四条)。
(二) 職員が職務を執行する場合、旅客公衆に対し、国鉄職員であることを識別
させると共に、不快感をあたえないため(鉄道営業法第二二条)。
(三) 職員が執務する場合、制服を着用し服装を整えることによつて、或は又定
められた作業服を着用することによつて職務に対する認識心構えができ、そのため
注意力が集中され、それにより列車・自動車の運転、船舶の運行の安全が確保され
ると共に、自己の身体の安全をも保持できるため(安全の確保に関する規程第一四
条、運転取扱基準規程第一八条)
等である。
 したがつて、日本国有鉄道の職員のうち、制服の定のある職員は正規の服装を整
えて執務することが、被告日本国有鉄道に対する職務を遂行するについての義務と
なつているものであり、職員がこの義務を履行することによつて職場の規律が維持
されるもので、リボン、ゼツケン、腕章、はち巻をつける等正規外の服装をして就
労することは右労働義務の本旨に従つた履行とはならないものであるばかりでな
く、職場の規律を紊し、被告日本国有鉄道の業務の正常な運営を妨げることになる
ものである。
2 原告らは、請求原因三項記載のごとく昭和四五年春季賃金値上闘争に際し、同
年三月二〇日から五月八日にわたつて「大巾賃上げを斗いとろう、16万5千人合
理化紛砕」と書いた黄色のリボンを着用したものであるが、これは前述の諸規定に
反し、職場の規律を紊し、なお乗客荷主等に不快の念をおこさせるおそれがあるの
で、上司が再三リボンの取外しを指示したにもかかわらず、これに従わなかつたた
め、被告の青函局長が原告らに対して、原告ら主張の日時に訓告をなしたものであ
る。
三 反論の二(本件訓告は原告らの権利を何ら侵害していない)
 原告らは、「被告職制の右行為は原告らの正当な憲法上の権利を故意又は重大な
過失によつて侵害したものである」と主張しているが、労働者の団結権、団体行動
権が憲法上保障されているといつても、それにより、直接労使間の具体的な権利義
務関係が発生するものではなく、国家が勤労者に対して、積極的に関与、助力し
て、その実現をはかる責務のあることを明らかにしたものである。
 しかも、憲法上保障されている労働者の団結権、団体行動権といえども絶対無制
限のものではなく、使用者の有している権利と妥当な調和を保ちつつ、その範囲内
においてなるべく保障しようという趣旨のものであつて、団結権や団体行動権が保
障されている民間企業の労働者においても、就労義務と組合活動とは厳格に区別せ
られるべきものであつて、団結権、団体行動権が保障されているからといつて、組
合活動の名の下になにをしても許されるというものではない。
 しこうして、いつたん、就労状態に入つた以上、使用者の労務指揮権にしたがつ
て、誠実にその義務を履行すべきであつて、使用者の労務指揮権の行使によつて、
組合活動が事実上阻止される結果となるとしても、これを以て、直ちに団結権の侵
害とか団結権保障の精神にもとるものとして違法視すべき事柄ではない。
 まして、公労法により、団体行動権の制限を受けている日本国有鉄道の職員であ
る原告らが、既述の法律や業務運営の必要上設けた諸規程に違反した故をもつて、
上司より注意を受けたり、訓告を受けたことが、直ちに原告らの団結権を侵害した
ものということはできない。
四 反論の三(本件リボン着用は職場内慣行になつていない)
 原告らは、本件のごときリボン着用は職場内慣行となつており、これを無視した
本件訓告は、職場慣行を犯すものとして違法がある旨主張するが、青函局において
は、従来より同局管内の職員のリボン等の着用に対して、その都度注意してきたも
のであつて、リボンの着用を容認した事実は全くなく、また、リボン着用が職場内
の慣行となつていた事実もない。
 なお、青函局においてリボンを着用した職員に対して訓告をしたのは本件が最初
であるが、それは、今回の国労青函地本が実施したリボン着用行動は従来の例に比
較して大規模であつたため、職場規律を維持するについて、同局における最高責任
者としての青函局長が、上司の再三の注意警告を無視してリボンの着用を継続した
者に対して、職場規律保持のため本件訓告をなしたものであつて、きわめて当然の
ことである。
 したがつて、原告らの労働慣行違反の主張は全く理由がない。
第五 証拠(省略)
       理   由
一 当事者
 被告が日本国有鉄道法に基づいて鉄道事業を営むものであること、原告らがいず
れも被告の職員として青函局内に勤務し、その勤務箇所および職名は原告ら主張の
とおりであること、かつ原告らは被告の職員等をもつて組織されている国労の組合
員で青函地本に属していることは、当事者間に争いがない。
二 青函局管内におけるリボン闘争の経過
 国労が昭和三二年ころから種々のリボン闘争を実施してきたこと、特に青函局管
内においても昭和四〇年三月の鉄道病院要員闘争を初めとして昭和四四年一一月の
新幹線反合年末闘争に至るまで前後一九回にわたり行われた各種の闘争において青
函地本所属の国労組合員がリボン着用闘争を実施してきたことは、概ね当事者間に
争いがない。
 成立に争いのない乙第一〇ないし第一二号証、第一三号証の一ないし三、第一四
ないし第一六号証、第一八号証、第二三号証によれば、青函局においては昭和三三
年ころ、旅客公衆の接遇上或いは職場規律の保持の必要等から服装の斉正と題し
て、制服の着用についての注意事項を定め、局報又は依命通達の方法によりその徹
底を計つてきたこと、殊に青函局管内においてリボン闘争が実施されるに至つた後
はリボンの着用が右禁じられている注意事項に該当する旨同様の方法をもつて周知
徹底を計り、或いは青函局長名をもつて青函地本の本部に対しリボン闘争の中止方
を申し入れるなど服制によつて定められた以外の服飾をしないよう、また服装は清
潔を保ち端正な服装で執務するよう要請し、リボンの着用はこれらの禁止事項に該
当する旨繰返し注意してきたことが認められる。
三 本件リボン着用の経緯
 国鉄が近時膨大な累積赤字を負担し、これらの再建のため経営の合理化を要請さ
れていることは公知の事実である。
 証人P7の証言によれば、昭和四五年一月ころ国鉄当局は右赤字を解消し国鉄の財
政を再建するためにはその近代化に伴う人員の削減、運賃の値上げ、駅の廃止統合
等を実施するのほかなしとし、一六万五、〇〇〇人の削減を提案するに至つたこ
と、国労は右合理化案は各職員の大量首切りに直接つながる問題であるとしこれに
反対する態度を決定し同年二月二〇日ころ右趣旨の要求書を当局に提出するととも
に、そのころ物価上昇に伴う春季賃金値上げの交渉(要求額一万六、〇〇〇円)に
入つたこと、しかるに当局は組合が合理化に協力しなければ賃金交渉には応じられ
ないとの姿勢を堅持したことから交渉は難航し、遂に同年四月三日右交渉は決裂す
るに至り、公労委の調停手続に移行したこと、ところで国労はこれより先同年三月
中旬ころ右中央における交渉を支援するため全国各支部に闘争指令を発し、右指令
に基づき青函地本は同月二〇日ころよりリボン闘争を含む職場点検闘争に入ること
を各職場分会に指令したこと、右指令を受けた分会は、二〇〇名を越える組合員を
擁する函館客車区分会、函館駅分会等を始め、五稜郭貨車区、五稜郭駅、長万部
駅、木古内駅の各分会さらに数人の組合員によつて組織されている小規模の二股
駅、落部駅、桂川信号場、北豊津駅、蕨岱駅、黒松内駅、山越駅、国縫駅、静狩
駅、森駅等の各分会その他青函船舶の各分会および青森桟橋の分会に至るまで青函
局管内全域に及んだこと、しかして本件リボンを着用した組合員は、車輛検査掛、
車輛検修掛、駅務掛、旅客掛、小荷物掛、構内掛、運輸掛、信号掛、操車掛、配車
掛、荷扱専務車掌、貨物掛、桟橋諸機掛、機関運転掛等々多種多様の広範囲にわた
る職員を含み、青函局管内における国労組合員の大半が相次いで本件リボン闘争に
参加し、同年五月八日闘争指令が中止されるに至るまで本件リボンを勤務時間中に
着用したことが認められる。
四 青函局における本件リボン撤去要求の態様
 成立に争いのない甲第三ないし第五号証、乙第一九ないし第二一号証、証人P7、
同P8、同P9、同P10、同P11、同P12、同P13、同P14、同P15、同P16、同P
17、同P18、同P19、同P20の各証言、証人P21、同P22の各証言の一部(後記措
信しない部分を除く。)ならびに原告P23、同P24、同P25、同P26、同P1、同P
5、同P27、同P28、同P29、同P4、同P30、同P31、同P32、同P33、同P34、
同P35、同P36、同P37、同P38、同P39、同P40、同P41各本人尋問の結果およ
び元原告P42(訴訟係属中死亡により取下)本人尋問の結果によれば次の事実が認
められる。
 昭和四五年三月末ころより青函局管内の各職場において実施された本件リボン闘
争は従来のリボン闘争に比してその規模も大きく管内全域にわたりかつ長期間にわ
たり継続されたことから、青函局当局のこれに対する撤去要求もまたこれに対応し
て種々の方法をもつて広範囲に行われた。
 すなわち、青函局管内における各職場の長名をもつて服装の整正について、と題
し「標題については従来からしばしば注意を喚起してきたところであるが、最近勤
務時間中に服制に定められた以外のリボンを着用している者が見うけられる。局長
が承認したもの以外のこのような行為は日鉄法第三二条、職員服務規程第一条及び
第九条、服制及び被服類取扱基準規程第九条第三項に違反するものであるから絶対
に着用してはならない。着用している者については組合指令のいかんを問わず本人
の意思により着用しているものと判断し対処する。」旨の警告文を各職場の掲示板
に掲示し、本件リボンの着用は職場規律、服装違反となるとしてその撤去を求めた
ほか、青函局長P20は同年四月一〇日付書面をもつて、青函地本執行委員長P7に宛
て、本件リボンの着用行為又はビラ貼り行為等が行われていることを指摘しこれら
の行為をすみやかに中止されたい旨申し入れた。
 また、青函局当局は各職場の長又は助役等の管理者に対し本件リボンの着用者に
はこれを撤去せしめるよう指示し、さらに各職場におけるリボンの着用状況につい
ての報告および三回以上注意してもその撤去に応じない場合には処分することもあ
り得るのでその名前を報告するよう指示し、右指示を受けた各職場の長又は助役等
の管理者は出勤点呼等の際各組合員に対し、本件リボンの着用は禁じられている旨
注意しその撤去を求め、その注意が三回以上に及びなおこれを着用している場合に
はその日時、場所、組合員の氏名等を確認し、これらの状況を一定の期間毎に集計
して局に報告した。
 さらに青函局の各職制もまた直接各職場におけるリボン着用の状況を視察し、現
場の管理者ともども随時、随所において組合員に対しその撤去を求めた。
 その撤去を求める言動については、比較的小規模な駅分会等の職場においては、
穏かな説得的態度で臨み、処分されることもあり得るのですみやかに撤去するよう
求める程度に止まるところもあつたけれども、多数の組合員を擁する分会等の職場
においては日を追うにつれて次第にその撤去の要求は執拗の度を加え、「昇職にひ
びくから言うことをきけ。」「お前は何回言つてもきかない本当に憎たらしい奴
だ。」「リボンをはずせ。」と怒鳴るなど威嚇的態度ないし感情的態度で臨む例も
各所に散見されるまでに発展し、本件リボンの撤去要求をめぐつて各職場内におけ
る対立的空気は日毎に激化し、さらに助役等の管理者二〇名位が各組合員を個々的
に取り囲んでリボンの撤去を強要し或いは執務中にその撤去を求めたため執務に支
障をきたす事態なども発生し益々対立抗争の度合を深刻化していつた。
 しかして右撤去要求に基づき職場によつては半数近くの職員がリボンの着用を中
止したところもあつたけれども、青函局全体としてはなお相当数の組合員がその撤
去を拒みその着用を継続した。
 これがため青函局当局は三回以上注意してもこれに応じない組合員に対しては訓
告処分をもつて臨むこともやむなしとの結論に達し、同年四月二一日ころから同年
五月二〇日ころまでの間に数回にわたり延四九二名(内三一名は二回訓告を受けて
いるので実人員は四六一名)を訓告することとし、青函局長の名において「再三に
わたり制服等に着用のリボンの取外しを命じたにもかかわらず取り外さなかつたの
は服装違反である。この行為はまことに遺憾であるから訓告する。」との書面を各
組合員に交付する方法によつてそのころそれぞれ訓告した。
 右認定に反する証人P21、同P22の証言部分は措信しない。
五 本件訓告処分の無効確認の訴えの利益
 被告が青函局長名義で原告らに対し別紙第三処分目録(一)、(二)記載のとお
り前記訓告処分をなしたことは当事者間に争いがない。
 被告は、右訓告処分の無効確認の訴えは権利保護の利益がなく、不適法却下を免
れ得ない旨主張しているので、まずこの点につき検討することとする。(本件訓告
処分無効確認の訴えは、二回訓告処分を受けた別紙第二原告目録(一)記載の原告
らの訴えであるから、以下のところでは、二回の訓告処分の無効確認の訴えの利益
の有無について考える。)
1 被告が主張するとおり、当裁判所もまた、単なる事実または過去の法律関係の
存否は確認訴訟の対象とならない旨の一般論を否定するものではない。また、本件
訓告処分が日本国有鉄道法第三一条に定めている四種類の懲戒処分のいずれにも該
当しないことも明らかである。さらにまた、本件訓告処分自体によつて、雇用関係
上の権利の設定、変更、消滅等の法律的効果が直接生ずるものでないことも被告の
主張するとおりである。
2 しかしながら、以上のことから直ちに、本件無効確認の訴えの利益を否定する
べきではない。すなわち、過去の事実ないし法律関係であつても、その有効、無効
を決することが現在の紛争解決のためにもつとも有効適切な場合には、例外的にそ
の無効を確認する利益があるものと解すべきであり、そのためには本件訓告処分が
いかなる性質を有し、また、いかなる効果を有するものかを検討しなければならな
い。
(一) 成立に争いのない乙第八号証の一ないし五によれば、被告がその職員に対
して訓告を行なうのは、被告と国労との間に締結された「懲戒の基準に関する協
約」の第一条に列挙された一七種類の行為に該当する事由があり、その行為が日本
国有鉄道法第三一条に定める四種類の懲戒処分を行なう程度に至らない場合である
ことが認められる。
 しかして、本件訓告処分は前記認定のとおり、いずれも形式を整えた書面によつ
てなされたものであり、その記載内容よりすれば、その行為の反省を求め、将来を
戒めるためになされた一種の制裁処分であることは明らかである。そして右訓告処
分自体によつて雇用関係上の法律的効果が直接生ずるものでないことは前記のとお
りである。
(二) そこで本件訓告処分から派生する効果として所謂定期昇給について検討す
る。
(1) 成立に争いのない甲第六号証、乙第一号証、第二四号証および証人P43の
証言を総合すると、原告らの所属する国労と被告との間に昭和三一年以降毎年「昇
給に関する協定」が締結されておりこの協定に従つて被告は職員の昇給を実施して
きたものであるが、所謂定期昇給について、昇給は平素の勤務成績を十分調査して
行なうと抽象的に定めているほか昇給欠格条項として私傷病欠勤、事故欠勤、不参
欠勤、停職、減給、戒告、訓告等の事由を掲げ右欠格条項に該当する事由があると
きは機械的に一定の昇給の延伸措置をとる反面職員が一定の期間良好な成績で勤務
したときは機械的に昇給させることとなつており、実際の労務慣行としても特別の
欠格条項に該当しない限り全員これを昇給させていることが認められる。
 しかして、いかなる給与号俸を支給するかは使用者と労働者間の契約内容の重要
な一部であり、昇給はその契約内容を変更する場合にあたるものであるところ、右
協定の定め、労務慣行ならびに一般に公表されている国鉄職員の給与表などよりす
れば、国鉄職員の昇給について特別の欠格条項該当事由の存しない限り一定の期間
勤務することにより一定の金額を昇給せしめることは少なくとも黙示的に契約の内
容となつていたものと認め得べきところである。
 したがつて、原告らは他に特別の昇給欠格該当事由の存しない限り一定期間勤務
することにより一定の昇給を期待し得べく、これが実施されないときは契約に基づ
き一定の昇給発令を求め得る地位を有していたものというべきである。
 成立に争いのない甲第七号証および証人P8の証言によれば、原告ら国鉄職員の昇
給は原則として毎年一回給与表に従つて四号俸昇給する取扱いとなつていることが
認められ、一号俸減ぜられることによる経済的不利益は一ケ月の金額としては僅少
であるけれども、この不利益が将来にわたつて毎年累積するときは相当の金額に達
するであろうことは容易に理解し得るところであるから、昇給号俸を一号俸減ぜら
れることによつて被る経済的損失は極めて大きいものということができる。
(2) 前記昇給に関する協定によれば同一年度に訓告を二回以上受けた者は所定
の昇給号俸を一号俸減ぜられる旨定められていることが認められる。そして、昭和
四六年度においても同様の協定(昭和四六年四月期の昇給に関する協定)が締結さ
れたこと、この協定中にも右と同内容の昇給欠格条項があり、原告らはいずれも右
条項に該当すること、さらに、昭和四六年四月の昇給に際し、別紙第二原告目録
(一)記載の原告らのうち、原告P1、同P2および同P3を除くその余の原告らが所
定の昇給号俸数を一号俸減じられたこと、右三名の原告が二号俸減じられたこと、
以上の事実はいずれも当事者間に争いがない。
(3) また、成立に争いのない乙第二四、第二五号証および証人P43の証言なら
びに弁論の全趣旨によれば、別紙第二原告目録(一)記載の原告らのうち原告P1、
同P2、同P3、同P4、同P5および同P6を除くその余の二四名の原告らの右昇給号
俸数の減少は、いずれも本件訓告処分を受けたことが前記昇給欠格条項に該当する
ものとしてなされていること、右六名の原告のうち原告P1、同P2および同P3につ
いては停職ないし病気欠勤という前記協定中に定められた別の昇給欠格条項に該当
する事由があつて、これによつて昇給号俸数を二号俸減じられたものであり、前記
協定によればこのように昇給欠格条項が競合するときには号俸減の多いものを適用
することとされているため、訓告処分を二回受けたという昇給欠格条項は適用され
なかつたものであること、また原告P4、同P5および同P6についても本件訓告処分
とは別に前記協定によつて昇給号俸数を一号俸減じられることとされている病気欠
勤があり、同協定はこのように昇給号俸減が同一の昇給欠格条項が競合する場合い
ずれの条項が適用されるのかは明らかでないので、これら三名の原告らについて訓
告を二回以上受けたという昇給欠格条項が適用されたのか否かは明らかでないこと
が認められる。
(4) 以上、少なくとも昇給に関し、本件訓告処分が原告らの雇用契約上の最も
重要な権利関係にほぼ必然的な派生的効果を生じさせるものであることが認められ
る。
3 訴えの利益
 以上認定したような本件訓告処分の性質およびその存在から生じる派生的効果に
鑑みれば、本件訓告処分特に同一年度に二回の訓告処分を受けた別紙第二原告目録
(一)記載の原告らについて、その有効、無効を決することは、原告らと被告との
間の基本的な労働契約関係においてその有効、無効を原因として将来発生すること
が予想される種々の紛争(例えば、二回訓告を受けた原告らに対する昇給号俸減の
当否)を解決するのにきわめて有効適切であるということができよう。
 もつとも、本件訓告処分から派生した個別的権利関係についてそれぞれ給付請求
等の訴えを提起することも確かに不可能ではない。例えば、訓告処分の存在を理由
に昇給号俸数が減ぜられた場合に右訓告処分が違法であることを主張して、本来の
所定号俸数の昇給があつた場合との差額の賃金の給付請求の訴えを提起することも
決して不可能ではない。しかしながら、被告が本件訓告処分を適法なものとして扱
う限り、原告らは右のような給付請求を昇給のなされる都度提起しなければならな
いこととなる。むしろ、本件訓告処分が不適法なものであるとすれば、被告は原告
らに対しその有効な存在を前提とする不利益処分をしてはならない旨を宣言する意
味で、端的に本件訓告処分の無効を確認することが、真の紛争の解決となるものと
いえよう。
 よつて、本件訓告処分を二回受けた原告らについては、その無効確認を求める訴
えの利益があるといわなければならない。
 もつとも、別紙第二原告目録(一)記載の原告らのうち原告P1、同P2、同P3、
同P4、同P5、同P6の六名については、前記のとおり別途昇給欠格事由が存する以
上本件訓告処分が無効と確認されても右昇給延伸の措置が取り消され本来予定され
た昇給号俸が発令される余地はないものといわなければならない。
 そうすると、右六名については本件訓告処分自体より国鉄職員としての法律上の
地位に何らの影響を受けないのみでなく、その結果必然的派生的に生ずる格別の具
体的効果もないものと認められる。
 もとより本件訓告処分の存在が勤務成績を評価する際の一資料として考慮され得
ることが考えられるが、それは将来における抽象的危険性に止まるから、右六名に
ついては将来その不利益性が具体的法律効果として生じた際初めて司法救済を求め
るほかなきものというべきである。
 よつて右六名の原告らについては本件訓告処分の無効確認を求める利益がなくそ
の訴えは却下さるべきである。
 以上述べたところから、本件訓告処分の無効確認の訴えは右六名を除くその余の
原告らについては適法なものと解すべきである。
六 被告は本件リボン着用行為は違法であると主張するので、以下順次検討する。
1 職務専念義務違反について
 国鉄職員である原告らは、日本国有鉄道法第三二条の規定をまつまでもなく労働
契約の内容として職務専念義務を負担しているものであるから、勤務時間中組合活
動を行うことは原則として右職務専念義務に違反するものとして許されないといわ
なければならない。
 しかしながら、労働者の職務専念義務とは、使用者から要請されている一定の精
神的ないし肉体的活動力を完全に提供すべき義務を意味するにすぎないと解すべき
であるから、ある行為がこの義務に違反するかどうかは、それが勤務時間中の組合
活動か否かによつて一律に決せられるべきものではなく、当該行為の性質内容を具
体的に検討したうえ、労働者が当該行為をなすことによつてその精神的ないし肉体
的活動力を完全に提供しなかつたことになるのかどうかによつて判断すべきであ
る。従つて勤務時間中の組合活動であつても、右の意味で労働力を完全に提供して
いると評価されるときには、何ら職務専念義務に違反していないというべきであ
る。
 したがつて、職務専念義務と両立し得ない行為すなわち勤務時間中職場集会を開
催したり、組合のビラ貼り行為をなす等のことは右義務に違反することはいうまで
もない。
 またある種のサービス業等においては、業務の性質上使用者に対する要求事項を
記載したリボンを着用すること自体該職場における違和感を生ぜしめ顧客の不快感
を招き業務の円滑な遂行に支障となる場合のあり得ることも充分理解し得るところ
である。
 本件についてみるに、本件リボンの着用は前記認定のとおり昭和四五年春闘にお
ける一万六、〇〇〇円の賃上要求、一六万五、〇〇〇人の要員削減反対闘争を支援
しあわせて青函地本における組合員の団結、使用者に対する示威或いは国民一般に
対し右闘争への理解を求める目的の下になされたものであることが認められる。
 したがつて、右リボンの着用が団結権ないし団体行動権に基づく組合活動として
なされたものであることは疑いを入れないところである。
 成立に争いのない甲第二号証によれば、原告らは本件リボンを大体制服の左胸の
位置に着用していたことが認められる。
 しかして、右リボンの着用はこれを制服等に付けることによつて一切の有形的行
為を終了しその後は格別の行為を必要としないものであるから、該リボンに記載さ
れた文言の内容にかゝわらず当該職種に要請される労務に精神的、肉体的に全力を
集中することが可能であり、職務専念義務と両立し得ないものと解することはでき
ない。
 もつとも、使用者の側からみれば従業員が要求事項を記載したリボンを着用した
まゝ労務の提供をしていることは物心両面にわたりこれを提供していることにはな
らないと感ずるであろうことは避け難いことであると云えるかも知れない。
 しかし、仮りに原告らが本件リボンを着用していることによつて組合活動を意識
し職務に対する精神的集中力が低下するとしても、いかなる程度に低下するかは明
らかでない。本件リボンの着用は職務専念義務に違反するとする証人P20の証言は
抽象的、理念的には考え得る議論であるけれどもいかなる点において両立し得ない
ものか具体的説明がなく、遽に採用できないし、他に原告らが勤務時間中本件リボ
ンを着用したことにより職務の遂行上注意力が散漫となり支障をきたしたものと認
めるに足りる証拠はない。
 そして、本件リボンに記載されている文言が、労働者ないし労働組合の要求とし
て不当なものであるとは認め得ないし、また、原告らの職種、本件リボンの形状お
よびその着用態様に照らすと、本件リボンを着用することによつて原告らの服装が
それ自体で社会通念上異状ないし不快なものとなるとは言い難い。そうであるなら
ば、労働者ないし労働組合が、団結権ないし団体行動権に基づいて、団結示威ない
し連帯感強化行為として本件リボンを着用したこと自体を違法ないし不当な組合活
動ということはできず、本件リボン着用行為は、それ自体としては正当な組合活動
であつたと評価される。
 しかして、原告らの職種は前記のとおり多岐にわたるけれども、いずれも国鉄の
使命である旅客貨物の安全な輸送に奉仕するものであるところ、本件全証拠による
も本件リボンの着用によりこれら輸送の安全を害し、その正常な運営を阻害し或い
は職場の公共性に支障をきたしたものと思料される特段の事情も認め難いところで
ある。
 そうすると、原告らが勤務時間中組合活動として本件リボンを着用したことは職
務専念義務に反するものとは認め難いものといわなければならない。
 なお乙第七号証、第二三号証は職種を異にする国鉄職員に適用することは相当で
なく右認定の妨げとならない。
2 服装違反について
(一) 国鉄の職員に対しては、その勤務中の服装について種々の規定(安全の確
保に関する規程第一四条、職員服務規程第九条、営業関係職員の職制及び服務の基
準第一四条、服制及び被服類取扱基準規程第三条、第九条、鉄道営業法第二二条)
が設けられており、原告ら現場の職員に対し制服(作業服を含む。)を着用し服装
を整えて勤務することが命じられていることは当事者間に争いがない。
 そして、成立に争いのない乙第五号証の一、二によれば、被告の「服制及び被服
類取扱基準規程」の第九条第三項は「被服類には、腕章、キ章および服飾類であつ
て、この規程に定めるものおよび別に定めるもの以外のものを着用してはならな
い。」と定められており、同条項の(注)として別に定めるもののおもなものが列
挙されているが、本件のようなリボンについては記されていないことが認められ
る。この規定は、要するに着用せよと命ぜられていないものを制服に着用してはな
らない旨を定めたものと解され、被告が本件リボン着用行為を服制違反と主張する
最も直接的な根拠規定はここにあると窺われる。
(二) ところで、使用者が労働者の服装に関してなす規制は、労働者の労務提供
義務の履行の態様を定めたものと解されるから、服装の規制が許されるのは、それ
が使用者の業務の遂行上合理的な理由がある場合に限られるのである。そして、合
理的な理由の有無は、使用者の業務の性質や内容および当該労働者の職務内容につ
いて十分考慮して判断すべきことはもちろんであるけれども、このような点を考慮
してもなおなんらの合理的な理由がないのに服装の規制をなすことは許されない。
被告の前記「服制及び被服類取扱基準規程」第九条第三項も叙上の見地から解釈す
べきであつて、右規定があるからといつて他に何ら正当な理由なく、それが着用す
ることを命じられていないとの理由によつて社会通念上相当と認められる服飾類の
着用を禁止することは許されない。問題は、本件リボンの着用が被告が定めた服装
の規制の目的ないし必要性に反しているか否かであり、被告の主張もこの点にある
と解される。
(三) 被告は右服装の規制をなす目的ないし必要性について
(1) 国鉄の性格が公共の福祉を増進することを目的としているため、その職員
も公共の福祉のために勤務し、公正中立かつ品位を保持して執務することが必要で
あるため(日本国有鉄道法第一条、就業規則第四条)。
(2) 職員が職務を執行する場合、旅客公衆に対し、国鉄職員であることを識別
させると共に、不快感をあたえないため(鉄道営業法第二二条)。
(3) 職員が執務する場合、制服を着用し服装を整えることによつて、或いは又
定められた作業服を着用することによつて職務に対する認識心構えができ、そのた
め注意力が集中され、それにより列車、自動車の運転、船舶の運行の安全が確保さ
れると共に、自己の身体の安全をも保持できるため(安全確保に関する規程第一四
条、運転取扱基準規程第一八条)。
等であると主張し、原告らも右主張をあえて争わないところであり、当裁判所も被
告の主張を相当と認めるとともに、被告が原告らに対し服装上の規制をなす目的な
いし必要性は被告の主張するところにつきていると解される。そこで、被告の主張
に即して本件リボンの着用が右目的ないし必要性に反するか否かを検討する。
 まず第一に、「公正中立」および「品位」の保持については、被告の公共企業体
という性格からしてその重要性が肯認できる。しかしながら、前記のような原告ら
の勤務箇所および職名からうかがわれる職務の内容に鑑みるときは、前記のような
本件リボンの形状、大きさ、内容からみて、本件リボン着用によつて原告らに要請
されている「公正中立」および「品位」が害され、またはそのおそれがあるものと
は到底いえない。
 第二に、国鉄職員であることの識別について考えると、本件リボン着用によつて
国鉄職員であることの識別に支障を来すものとは考えられない。また、旅客公衆に
対する「不快感」の点についてみると、前記のような原告らの職務の内容、本件リ
ボンの形状、大きさ、内容からみて通常の健全な社会的感覚を有する者に本件リボ
ンの着用が不快感を与えるものとは考えられない。もつとも、多数の旅客公衆の中
には不快感を抱く者がいるであろうことは否定できないけれども、その不快感は労
働組合やその活動に対する個人的悪感情を原因とするものであろうと考えられる。
しかしそのような現代の正常な労働法感覚に反する悪感情からくる不快感はなんら
考慮すべきではない。
 第三に諸々の「安全の確保」については、ただ注意力の集中の点で問題となりう
るが、これが余りにも抽象的な危険性であることは、さきに職務専念義務違反の判
断において述べたとおりであり、これをもつて本件リボンの着用を禁止することは
許容し難い。
 その他本件リボン着用行為によつて被告の業務の遂行に支障を来したことを認め
るに足りる証拠はない。
 以上のように考えると、社会通念、現代人の労働法的知識および感覚ならびに経
験則に照らしても、本件リボン着用行為が被告が主張する服装の規制をなす目的な
いし必要性に背馳しているとは認められず、本件リボン着用行為が服制違反になる
ものとしてこれを規制する合理的理由を見出すことができない。
3 職場の規律違反又は職務命令違反との関係
(一) 被告は国鉄の職員のうち制服の定めのある職員は正規の服装を整えて執務
することが国鉄に対する職務を遂行する義務となつているものであり、職員がこの
義務を履行することによつて職場の規律が維持されるもので、リボン等正規外の服
装をして就労することは職場の規律を紊したことになる旨主張し、証人P15はこれ
に照応する証言をするところ、国鉄の職員のうち制服の定めのある職員が正規の服
装を整えて執務すべきことは所論のとおりであるが、本件リボンの着用が右服務規
程に反するものでないことは前段において判断したとおりである。したがつて、リ
ボンの着用が服務規程等に反することを前提とするこれらの主張は理由がない。
 また本件リボンの着用をめぐる紛争は労使間における全く価値観を異にする立場
の相違に基づくものであり、原告らがその撤去を求める管理者の命令に応じなかつ
たのは組合の指示に基づき組合活動として行つていたことにほかならないから、そ
のことから正常な業務命令一般についても上司の命令に服従しなくなり職場の規律
が乱れると懸念するのは相当でない。
 もし一般に正常な業務命令に服従しない風潮が生じ職場の規律が乱れるに至つた
とすれば、これが対策は別途考慮すべく、相当の処分をもつて臨むことも許される
からである。
(二) 次に、職務命令違反の点については、原告らが各職場の管理者等を通じて
再三本件リボンを撤去するよう要求ないし命令されてこれに従わなかつたことは当
事者間に争いがないところであるが、右命令が一般的には職務命令に含まれるとし
ても、本件リボンの着用が勤務時間内の組合活動として許されるものである以上、
右命令は適法、正当なものとはいえないから、これら撤去要求に従わなかつたから
といつて、職務命令に違反したものということはできない。
4 むすび
 以上、本件リボンの着用が憲法、公労法等によつて保障される団結権、団体行動
権に基づくさゝやかな組合活動であることを思えば、これが格別の支障を生ずると
認め難い本件においてはこれを正当なものとして許容すべきものというべきであ
る。
七 本件訓告処分の効力
 本件リボン着用行為が法律および被告の定めた諸規程に違反しているとは認めら
れないこと、被告が原告らに対し本件リボンの着用を禁止したことに合理的理由が
あつたとは認められないことおよび原告らの本件リボン着用行為が正当な組合活動
と認められることは前記のとおりである。
 そうすると、本件リボン着用行為を理由としてなされた本件訓告処分は正当な理
由なくしてなされたものといわざるを得ず、また、労働組合法第七条一号本文の
「不利益な取扱」に該当することも明らかであるから右法条にも違反していること
となる。従つて、被告が本件訓告処分の存在を理由として、原告らに対して不利益
な処分ないし取扱いをなすことは許されない。この意味において、本件訓告処分は
違法無効である。
八 損害賠償の請求について
1 原告らの本件リボン闘争が青函局全域にわたり広範囲かつ長期間にわたり実施
されたこと、これに伴い青函局当局の撤去要求も執拗に繰り返されたこと、さらに
これら撤去要求を拒んだ原告ら組合員が服装違反を理由として本件訓告処分を受け
たことは、いずれも冒頭認定のとおりである。
 そして、本件リボンの着用が勤務時間内の正当な組合活動として許容されるもの
であること、これに対する撤去要求ならびに本件訓告処分が違法無効であることも
前記判示のとおりである。
 しかして、前記認定の各事実によれば、本件リボンの撤去要求ならびに訓告処分
はいずれも被告の青函局長の指示ないしその名においてなされたものでありこれを
一体として評価し得べく、しかも被告の職務の執行としてなされたものと認められ
る。
 そして、証人P20の証言によれば、被告の青函局長は、前記のような本件リボン
の撤去要求および訓告処分に際し本件リボン着用行為は服装違反であり、かつ、勤
務中の組合活動であるから許されないと極めて形式的抽象的に断定し、これについ
ての判例、学説等を十分調査することなく、被告の他の鉄道管理局の取扱いについ
てすら調査をしなかつたことが認められる。使用者が労働者に対し、組合活動とし
て行なわれている行為を禁止し、またこれに対し前記のような性質および効果を有
する訓告処分をなす際には、処分の対象となつている労働者の行為についてその労
働者の主張弁明に十分留意し、これについて判例学説が如何に評価しているかを相
当慎重に検討することが要請されるところ、右認定によれば被告の青函局長はこれ
らの義務を十分につくさず、本件リボン撤去要求および本件訓告処分をなしたもの
と認められるから、右リボン撤去要求および訓告処分をなすにつき少なくとも過失
があつたと認められる。よつて、被告はこれにより原告らの被つた精神的損害を賠
償する義務がある。
2 ところで、正当な組合活動は憲法又は労働法上保護されている労働者の権利で
あるから、原告らが前記執拗な撤去要求ならびに本件訓告処分によりこれを侵害さ
れ、労働者としての名誉を傷つけられ、かつ将来不利益な取扱いを受けるおそれが
あるという不安を抱くなど相当の精神的苦痛を被つたことは想像に難くない。
 しかし、組合側もリボン闘争に対する当局側の見解が否定的であることは昭和三
二年ころ以来の闘争過程において充分了知していた筈であり、本件リボンの着用を
長期間にわたり実施することによりその組合活動の態容に即応して相当の対立紛争
を惹起するであろうことは当初より予測し得た筈である。
 しかもその撤去要求が執拗であつたにもせよ組合員の連帯感に支えられてその闘
争中止指令のなされるまで相当数の組合員が撤去要求を拒み続け、リボンの着用を
継続したことからみても、その被つた精神的苦痛は組合員の支援のない状態で個人
的圧迫を受けている場合に比べれば軽いものといえよう。
 また、従来この種闘争によつて訓告処分にまで至つたことのないことから、これ
ら処分を受けることにより相当の精神的苦痛を被つたものとも考えられるが、右訓
告処分が無効と確認されることによつてその苦痛も相当程度癒され得るものと思料
される。
 よつて、本件訓告処分がなされるに至つた経過、その性質、内容、その他諸般の
事情を考慮し原告らの慰藉料は別紙第二原告目録(一)原告らについて金五、〇〇
〇円、同原告目録(二)の原告らにつき金二、五〇〇円とするのが相当である。
 なお訓告処分の無効確認の利益がないと判断された前記原告ら六名についても、
その被つた精神的苦痛は他の原告らと同様であると考えられるので慰藉料の請求に
ついては認容すべきである。
九 結論
 よつて原告らの本訴請求のうち訓告処分無効確認の訴えについては、別紙第二原
告目録(一)記載の原告らのうち原告P1、同P2、同P3、同P4、同P5、同P6は
その確認の利益を欠くものとして訴えを却下すべく、その余の原告らに対しなした
別紙第三処分目録(一)記載の訓告処分はいずれも無効であることを確認すべく、
慰藉料の請求については、被告に対し別紙第二原告目録(一)記載の原告につき各
金五、〇〇〇円、同原告目録(二)記載の原告につき各金二、五〇〇円の支払を求
める限度において正当として認容すべく、その余は失当として棄却すべきである。
 よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条、第九三条、第八九条を各適
用し、仮執行の宣言についてはこれを付するを不相当と認め主文のとおり判決す
る。
(裁判官 新海順次 今井功 伊藤剛)
(別紙第一~第三省略)
別紙第四
 リボン撤去要求行為一覧表
<18119-001>
<18119-002>
<18119-003>
<18119-004>
<18119-005>

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