弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     原判決中、被告人免訴の部分を除き、その余の部分を破棄する。
     被告人を懲役三月及び罰金一万五千円に処する。
     右罰金を完納することができないときは、金二百五十円を一日に換算し
た期間被告人を労役場に留置する。
     本件公訴事実中被告人が
     第一、 昭和二十四年十月上旬頃から同月二十四日迄の間妻Aと共謀の
上連合国占領軍の財産である煙草ラツキーストライク二十本入五十個、乾ぶどう三
個、板チョコレート小四十七個、同大三個、ココナツ二十二個、カレー粉一罐、冬
アンダーシャツ一枚を不法に所持し
     第二、 昭和二十七年二月二日頃から同月十二日頃迄の間連合国占領軍
要員の財産である外国製煙草ラッキーストライク五十箱(一箱は二十本入のもの十
個入)同チェスクーフィルド二十五箱(一箱前同様)同フイリップモリス一箱(一
箱前同様)同キャメル一箱(一箱前同様)同プリンスアルバート六十瓦入八罐、石
鹸二十個を不法に所持し
     たとの点について被告人を免訴する。
         理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人木村賢三作成名義の別紙控訴趣意書と題する書面記載
の通りであるから、これを本判決書末尾に添附しその摘録に代え、これに対し次の
通り判断する。
 論旨第五点について。
 記録を調査するに、原判決の認定した判示第一、の被告人が昭和二十四年十月上
旬頃から同月二十四日迄の間妻Aと共謀の上連合国占領軍の財産である煙草ラッキ
ーストラィク二十本入五十個を不法に所持したとの事実は被告人に対する昭和二十
四年十一月四日附起訴状に公訴事実として昭和二十二年政令第百六十五号違反の訴
因を明示し罪名罰条を示して、公訴を提起され、昭和二十五年九月十九日の原審第
九回公判期日において原審検察官が公訴事実に「妻Aと共謀の上」と加えて訴因を
予備的に追加し、罰条に刑法第六十条を追加した事件に対するものであり、判示第
二、の被告人が昭和二十七年二月二日頃から同月十二日頃迄の間連合国占領軍要員
の財産であり、且つ日本専売公社の売渡したものでない外国製煙草ラッキーストラ
イク五十箱(一箱二十本入のもの十箱入)同チェスターフィルド二十五箱(一箱前
同様)、同フィリップモリス一箱(一箱前同様、同キャメル一箱(一箱前同様)、
同プリンスアルバート六十瓦入八十罐を不法に所持したとの事実は、被告人に対す
る昭和二十七年二月二十三日附起訴状に公訴事実として昭和二十四年政令第三百八
十九号違反の訴因を明示し罪名罰条を示して公訴を提起され、昭和二十七年六月十
二日の原審第十五回公判期日(同公判調書に公判をした年月日として昭和二十二年
とあるは、昭和二十七年の誤記と認める。)において原審検察官が公訴事実に「日
本専売公社の売渡したものでない外国製煙草」と加えて、たばこ専売法違反の訴因
を追加し、罰条にたばこ専売法第六十六条第一項第七十一条第一号を追加した事件
に対するものであると認められるのである。しこうして昭和二十七年四月二十八
日、政令第百十七号大赦令が公布され、同令第一条第八十三号第百十七号に依り昭
和二十四年政令第三百八十九号違反の罪(但し同令第一条違反の罪を除く)及びこ
れと性質を同じくする旧令の罪である昭和二十二年政令第百六十五号違反の罪はそ
れぞれ赦免されたのであるが、原判決は被告人の前記昭和二十二年政令第百六十五
号違反、昭和二十四年政令第三百八十九号違反の行為は、いずれも同時に右大赦令
に依り赦免されない罪であるたばこ専売法違反に触れるから、右大赦令第二条に依
り前記各政令違反の罪は赦免されないものとして有罪の言渡をしているのである。
しかしながら、恩赦法第三条によると、大赦のあつた罪についてまだ有罪の言渡を
受けないものについては公訴権は消滅する旨規定しているのであつて、すなわち本
件のように公訴繋属中の事件に対しては大赦令施行の時以後公訴消滅の効果を生ず
るのであり、この場合裁判所としては公訴の基礎である公訴権が消滅する以上実体
上の審理をすることはできず、訴訟手続を裁判により終結させる外ないために形式
的に免訴の判決をしてその結末をつけるだけであるから、訴訟関係人としても訴訟
の実体に関する問題を主張することはできないし裁判所もこれを取り上げることは
出来ないこととなるのである。そこで原判決が被告人の前記各政令違反行為の赦免
されないものとした理由について検討すると、昭和二十四年十一月四日公訴を提起
された昭和二十二年政令第百六十五号違反の公訴事実には当然たばこ専売法違反の
事実が含まれているものと認められ、従つて公訴提起の効力が一所為数法の関係に
あるたばこ専売法違反の事実に及ぶとしても、それは単にたばこ専売法違反が潜在
的に審判の対象になつているに過ぎないのであつて、右昭和二十二年政令第百六十
五号違反の公訴事実に対しては、その後たばこ専売法違反の訴因の追加、罰条の追
加もなく、たばこ専売法違反事件である日本専売公社の役員又は職員の告発もない
ことは記録上明らかであるから、昭和二十二年政令第百六十五号違反の公訴事実に
含まれているたばこ専売法違反の事実は具体的な審判の対象とならないのである。
しこうして恩赦法第三条が大赦の効力として大赦のあつた罪について一、有罪の言
渡を受けた者についてはその言渡の効力を失なわさせ二、まだ有罪の<要旨>言渡を
受けない者については、公訴権を消滅させるものと規定している趣旨から考える
と、右大赦令第二条は、同令第一条に掲げる罪に当る行為もこれと一所為数
法の関係又は牽連犯の関係にある罪に当る行為もいずれも具体的な審判の対象にな
つている場合に適用があるものと解すべきでありしかも原判決が被告人の前記昭和
二十二年政令第百六十五号違反の行為が同時にたばこ専売法違反に触れるものと認
めたことは、具体的な審判の対象になつていないたばこ専売法違反の事実を具体的
な審判の対象としたものといわねばならないのであるから、原判決が右政令第百六
十五号違反の行為について右大赦令第二条の適用があるものとしたことは、具体的
な審判の対象とならないたばこ専売法違反の事実を審判の対象とし、右大赦令第二
条の適用を誤つた違法がある。次に昭和二十四年政令第三百八十九号違反の公訴事
実に対しては前記のように右大赦令公布の日後である昭和二十七年六月十二日たば
こ専売法違反の訴因が追加され、罰条も追加され、しかもたばこ専売法違反の行為
については同年五月二十四日前橋地方検察庁に対し日本専売公社高崎地方局長の告
発があつたことは記録上明らかであるが、この場合においても、昭和二十七年二月
二十三日公訴を提起された昭和二十四年政令第三百八十れ号違反の公訴事実には当
然たばこ専売法違反の事実が含まれているものと認められ従つて公訴提起の効力が
一所為法の関係にあるたばこ専売法違反の事実に及ぶとしても、単に潜在的に審判
の対象になつていたに過ぎす、右大赦令公布の日である昭和二十七年四月二十八日
当時においては、たばこ専売法違反の訴因の追加、罰条の追加、及び日本専売公社
の役員文は職員の告発はなかつたのであるから、たばこ専売法違反の事実は具体的
な審判の対象とならず、従つて被告人の昭和二十四年政令第三百八十九号違反の行
為に対し右大赦令第二条の適用の余地はなかつたわけである。しかるに、前記のよ
うに、右政令第三百八十九号違反の公訴事実に対し、大赦令公布後に至り、たばこ
専売法違反の告発、同法違反の訴因、罰条の追加があつたのであるが、右大赦令公
布の日以後昭和二十四年政令第三百八十九号違反の公訴の基礎である公訴権が消滅
し裁判所としては爾後実体上の審理をすることができず、只形式的に免訴の判決を
して訴訟手続を終結させるだけであるから、このような既に公訴権の消滅した罪の
公訴事実に対し、新に訴因罰条を追加することは許されないもので訴因追加の効力
を生じないものと解しなければならないのみならず、右大赦令第二条の適用の有無
は大赦令公布の日を基準として定めるべきであつて、大赦令公布の日に同条の適用
がなかつた同令第一条に掲げる罪に当る行為が、その後生じた事由のために同令第
二条の適用を受けるようなことは、大赦令の予想したところとは認められず、寧ろ
大赦令全体の精神に反するものといわねばならないのである。しからば原判決が右
政令第三百八十九号違反の行為につき大赦令第二条の適用があるとしていること
は、具体的な審判の対象としてはならないたばこ専売法違反の事実を審判の対象と
し、大赦令第二条の適用を誤つた違法があり、この違法は、前記の違法と共に判決
に影響を及ぼすこと明らかであるから、被告人の昭和二十二年政令第百六十五号違
反昭和二十四年政令第三百八十九号違反の行為に大赦令第二条の適用がないことを
主張する点において論旨は理由がある。
 仍て被告人の本件控訴は他の論旨について判断するまでもなく理由があるから刑
事訴訟法第三百九十七条に依り原判決中被告人の免訴の部分を除きその余の部分を
破棄することとし、なお記録並に原審において取り調べた証拠に依り当裁判所にお
いて直ちに被告事件について判決することができるものこ認めるので、同法第四百
条但書に則り判決することとする。
 当裁判所の認定した事実並にこれに対する証拠は、原判決の摘示した判示第三、
第四の事実並に判示第三、第四事実認定に引用した証拠の通りである。
 法律の適用
 原判決の判示第三の所為について、
 食糧管理法第九条第一項、第三十一条、第三十四条、同法施行令第九条、同法施
行規則第四十条(懲役刑と罰金刑併科)原判決の判示第四の所為につき、
 食糧管理法第九条第一項、第三十一条、第三十四条、同法施行令第十一条、同法
施行規則第四十七条・(懲役刑と罰金刑併科)
 両者につき、刑法第四十五条、第四十七条、第四十八条第二項、第十八条
 なお本件公訴事実中、被告人は公に認められた場合でないのに
 第一、 昭和二十四年十月八日頃から同月二十四日迄の間妻Aと共謀の上肩書住
居地自宅において連合国占領軍の財産である煙草ラッキーストライク二十本入五十
個(一個二十本入)乾ぶどう三箱、板チョコレート小四十七個、同大三個、ココナ
ッ二十二個、風船ガム八十二個、カレー粉一罐、及び冬アンダーシャッ一枚を所持

 第二、 昭和二十七年二月二日頃から同月十二日頃迄の間肩書住居地自宅におい
て連合国占領軍要員の財産である外国製煙草ラッキーストライク五十箱(一箱は二
十本入のもの十個入)同チェスターフイルド二十五箱(一箱前同様)、同フィリッ
プモリス一箱(一箱前同様)、同キャメル一箱(一箱前同様)、同プリンスアルバ
ート六十瓦入八罐及び石鹸二十個を所持したとの点については、昭和二十七年政令
第百十七号大赦令第一条第八十三号第百十七号に依り大赦されたから、刑事訴訟法
第四百四宋第三百三十七条第三号に従い被告人に対し免訴の言渡をすることとす
る。前記第二の公訴事実に追加されたたばこ専売法違反の訴因に対しては、その追
加が許されず、その効力の生じないこと、弁護人の控訴趣意に対する判断中に示し
た通りであるから、これに対し判決すべき限りではない。
 仍て主文の通り判決する。
 (裁判長判事 近藤隆蔵 判事 吉田作穂 判事 山岸薫一)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛