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令和元年(受)第1900号開示禁止処分等請求控訴,同附帯控訴事件
令和2年11月27日第二小法廷判決
主文
原判決中上告人敗訴部分を破棄する。
前項の部分につき,本件を東京高等裁判所に差し戻す。
理由
上告代理人千原剛ほかの上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除
く。)について
1公認会計士である被上告人らは,上告人の設置する品質管理委員会(以下
「本件委員会」という。)に対し,上場会社監査事務所名簿への登録を申請したと
ころ,本件委員会から上記登録を認めない旨の決定(以下「本件決定」という。)
を受けた。
本件は,被上告人らが,本件決定が上告人のウェブサイトで開示されると被上告
人らの名誉又は信用が毀損されるなどと主張し,上告人に対し,人格権に基づき,
上記の開示の差止め等を求める事案である。
2原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1)上告人は公認会計士法により設立された法人であり(同法43条),被上
告人らは上告人の会員である。
(2)上告人は,その会則において,公認会計士又は監査法人(以下,これらを
併せて「監査事務所」という。)による上場会社の監査につき,品質管理の状況の
充実強化を図るために上場会社監査事務所登録制度を設け,新たに上場会社と監査
契約を締結した監査事務所は本件委員会に対して上場会社監査事務所名簿への登録
を申請しなければならないこととしている。上告人の会則及び規則等において,本
件委員会は,監査事務所から上記登録の申請があったときは,上記監査事務所に対
して品質管理レビューを実施し,その結果,後記2(3)の限定事項付き結論を表明
し,かつ,その限定事項が上記監査事務所の表明した監査意見の妥当性に重大な疑
念を生じさせるものである等の場合には上記登録を認めないことを検討することと
されており,本件委員会が上記登録を認めない決定をした場合,本件委員会の委員
長は,その決定を受けた監査事務所を上場会社監査事務所名簿等抹消リストに記載
し,上記登録を認めなかった旨等を上告人のウェブサイトで開示することとされて
いる。
(3)上告人の規則等に基づき定められた「品質管理レビュー手続」において,
限定事項付き結論は,品質管理レビューの対象とされた監査事務所の品質管理のシ
ステムに関する担当者又は専門要員等につき「品質管理の基準が求める個々の監査
業務における品質管理の手続を実施していない事実」(以下「基準不適合事実」と
いう。)が見受けられ,そのために上記監査事務所が実施した監査業務において職
業的専門家としての基準及び適用される法令等に対する重要な準拠違反が発生して
いる相当程度の懸念がある場合等に表明されるものとされている。
上記「品質管理レビュー手続」等において,上記の品質管理の基準とは,公認会
計士法等の諸法令,企業会計審議会の定める監査基準,監査における不正リスク対
応基準及び監査に関する品質管理基準並びに上告人の会則,規則等のうちの監査の
品質管理に係る規定を意味するとされている。上記監査基準等は,監査人は,監査
に当たり,財務諸表における重要な虚偽表示のリスクを識別,評価し,その監査上
の重要性を勘案して内部統制の運用状況の評価手続及び実証手続に係る監査計画を
策定し,これに基づき監査を実施しなければならず,これらの過程で特別な検討を
必要とするリスクがあると判断した場合には,そのリスクに個別に対応するための
監査手続を立案して実施すべきであって,これらにより,監査意見を形成するに足
りる十分かつ適切な監査証拠を入手しなければならないなどとして,いわゆるリス
ク・アプローチの考え方を採用している。
(4)被上告人らは,上場会社であったグローバル・アジア・ホールディングス
株式会社(旧商号は株式会社プリンシバル・コーポレーション。以下「本件会社」
という。)との間で監査契約を締結し,被上告人X1については平成25年1月,
被上告人X2については同年7月,本件委員会に対して上場会社監査事務所名簿へ
の登録を申請した。
(5)被上告人らは,本件会社の平成25年4月1日から平成26年3月31日
までの事業年度の財務諸表についての監査(以下「本件監査」という。)を実施し
た。
本件会社は,本件監査の以前から,連続して営業損失を計上し,営業活動による
キャッシュ・フローがマイナスとなるなどしていたほか,1億円程度を現金で保有
することが常態化していた。被上告人らは,本件監査において本件会社の現金預金
につき特別な検討を必要とするリスクを識別し,現金勘定の出入金記録の確認のた
め,現金元帳と通帳及び領収書等との突合を上記事業年度のうち約5箇月半につき
実施するなどした。また,被上告人らは,上記事業年度の末日を基準時とする銀行
に対する本件会社の預金残高確認を実施した。もっとも,本件会社が被上告人らに
対して上記現金の所在を明らかにしなかったため,被上告人らは,現金の実在性の
確認(以下「現金実査」という。)を上記事業年度の末日である平成26年3月3
1日までに実施することを予定していたにもかかわらず,これを予定どおり実施す
ることができず,同年5月及び6月にようやく実施することができた。
その上で,被上告人らは,上記財務諸表につき無限定適正意見を表明した。
(6)本件委員会は,被上告人らに対して品質管理レビューを実施し,本件監査
において被上告人らが上記突合を監査対象期間の一部につき実施していなかったこ
となどから被上告人らにつき基準不適合事実が見受けられるとして,平成27年5
月,「経営者が進めている継続企業の評価に関する対応策等の前提となる資金であ
る現金預金について,特別な検討を必要とするリスクを識別しているものの,監査
意見を形成するに足る十分かつ適切な監査証拠を入手するための実証手続が十分に
実施されておらず,継続企業を前提として財務諸表を作成することの適切性に関す
る監査証拠が十分に入手されていない。」との限定事項を付した結論を表明し,上
記限定事項が被上告人らの表明した監査意見の妥当性に重大な疑念を生じさせるも
のであるとして本件決定をした。
3原審は,前記事実関係等の下において,要旨次のとおり判断し,前記の限定
事項付き結論は被上告人らにつき基準不適合事実に該当する事実がないのに基準不
適合事実が見受けられるとして表明されたものであり,本件決定はその前提となる
事実を欠くものであって,本件決定が開示されると被上告人らの名誉又は信用が毀
損されるとして,上記の開示の差止請求を認容した。
被上告人らは,本件監査において,本件会社の現金預金につき,監査対象事業年
度末時点における現金実査及び預金残高確認等の通常の監査手続を実施し,かつ,
念のための特別の手続として,監査対象期間の一部につき現金元帳と通帳及び領収
書等との突合を実施しているのであり,上記突合を監査対象期間の全部につき実施
すること等が現金預金についての監査手続として実効的であるとはいえず,品質管
理の基準において,その実施が必要とされているとはいえない。したがって,被上
告人らは,本件監査において,監査意見を形成するに足りる十分かつ適切な監査証
拠を入手するための監査手続を実施しているといえ,被上告人らにつき基準不適合
事実に該当する事実があるとはいえない。
4しかしながら,原審の前記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
前記事実関係等によれば,本件会社は,本件監査の以前から,連続して営業損失
を計上し,営業活動によるキャッシュ・フローがマイナスとなるなど財政的安定性
や収益性に問題があるというべき状態にあり,かつ,1億円程度に上る多額の現金
を保有することが常態化していた。また,被上告人らは,本件会社が上記現金の所
在を明らかにしなかったために,本件監査の対象事業年度末に予定していた現金実
査を行うことができなかった。これらの事象等は,不正な財務報告若しくは資産の
流用につながり得るもの又はこれらの兆候を示すものといえ,本件監査において財
務諸表における重要な虚偽表示のリスクを識別すべき要因に当たることが明らかな
ものであったといえる。そうすると,前記のリスク・アプローチの考え方に照らせ
ば,本件会社の監査人は,上記事象等のため重要な虚偽表示のリスクが高く,か
つ,現金等に関して特別な検討を必要とするリスクがあると評価した上で,監査意
見を形成するに足りる十分かつ適切な監査証拠を入手するために,現金等に関する
上記リスクに個別に対応した実証手続を実施するとともに,必要に応じて内部統制
の整備状況を調査し,その運用状況の評価手続を実施するなどして,上記事象等に
よる高いリスクに対応した監査手続を実施することが品質管理の基準において求め
られていたというべきである。そして,現金元帳と通帳及び領収書等との突合は,
現金等に関し,財務報告の正確性やその流用の有無等についてリスクが識別されて
いる場合における上記リスクに対応した監査証拠を入手し得る実証手続ということ
のできるものである。
以上に照らせば,被上告人らにつき基準不適合事実に該当する事実があるか否か
は,被上告人らが実施した監査手続が,上記突合を監査対象期間の一部に限定して
実施したこと等において,現金等に関する特別な検討を必要とするリスクに個別に
対応したものであり,上記事象等による高いリスクの下で十分かつ適切な監査証拠
を入手するに足りるものであったといえるか否かの点を,上記の限定の理由等を勘
案して検討して判断すべきものと解するのが相当である。
したがって,上記の点を検討することなく,被上告人らにつき基準不適合事実に
該当する事実があるとはいえないとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすこと
が明らかな法令の違反がある。
5以上によれば,論旨は理由があり,原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れな
い。そして,前記の点等について更に審理を尽くさせるため,上記部分につき本件
を原審に差し戻すこととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官三浦守
の補足意見,裁判官草野耕一,同岡村和美の補足意見がある。
裁判官三浦守の補足意見は,次のとおりである。
原判決中上告人敗訴部分を破棄し,同部分につき本件を原裁判所に差し戻すに当
たり,差戻審において考慮されるべき点について付言する。
1公認会計士は,他人の求めに応じ報酬を得て,財務書類の監査又は証明をす
ること等を業とするものであるが(公認会計士法(以下「法」という。)2条),
監査及び会計の専門家として,独立した立場において,財務書類その他の財務に関
する情報の信頼性を確保することにより,会社等の公正な事業活動,投資者及び債
権者の保護等を図り,もって国民経済の健全な発展に寄与することを使命とし,常
に品位を保持し,その知識及び技能の修得に努め,独立した立場において公正かつ
誠実にその業務を行わなければならない(法1条,1条の2)。
上告人は,このような公認会計士の品位を保持し,監査等の業務の改善進歩を図
るため,会員の指導,連絡及び監督に関する事務等を行うことを目的として,法が
公認会計士に設立を義務付けた法人であり,公認会計士及び監査法人(以下「公認
会計士等」という。)は,当然にその会員となる(法43条,46条の2)。
そして,上告人は,会員の権利義務,上告人の組織・運営等に関する広範な事項
を記載した会則を定めることとされ,会員は,その会則を守らなければならず,会
則の変更,予算及び決算は,総会の決議を経なければならない(法44条1項,4
6条の3,46条の6)。他方,会則の変更は,金融庁長官の認可を受けなければ
ならず,総会の決議並びに役員の就任及び退任を金融庁長官に報告しなければなら
ない(法44条2項,46条の7,49条の4第1項)。また,金融庁長官は,上
告人の適正な運営を確保するため必要があると認めるときは,上告人に対し,報告
若しくは資料の提出を求め,又は立入検査をすることができ,さらに,上告人が法
令等に違反した場合等において,上告人の適正な運営を確保するため必要があると
認めるときは,その事務の方法の変更等を命ずることができる(法46条の12第
1項,46条の12の2,49条の4第1項)。
このように,上告人は,公的な性格を有する法人であって,その事務の全般にわ
たり,金融庁長官の監督に服しており,内部的な自律性も,その監督の制約を受け
るものと解される。
2上場会社監査事務所登録制度は,社会的に影響の大きい上場会社を監査する
監査事務所の品質管理体制を強化し,資本市場における公認会計士等による監査の
信頼性を確保することを目的として,上告人の会則に基づいて運用される制度であ
る(平成27年7月21日付け変更前の日本公認会計士協会会則第6章第2節)。
この制度には,品質管理レビュー制度が組み込まれているところ,品質管理レビ
ュー制度は,監査業務の公共性に鑑み,会員の監査業務の適切な質的水準の維持,
向上を図り,もって監査に対する社会的信頼を維持,確保することを目的として,
上告人の会則に基づいて運用される制度である(同会則第6章第1節)。
他方,上告人は,会員の監査等の業務の運営の状況の調査を行うものとされ(法
46条の9の2第1項),品質管理レビュー制度は,この法律上の要請を踏まえた
ものとして位置づけられる。
そして,金融庁には,独立して職権を行う委員等により組織される合議制の機関
として,公認会計士・監査審査会が置かれているところ(法35条,35条の2,
36条,40条),上告人は,品質管理レビューの結果を,同審査会に報告するも
のとされる(法46条の9の2第2項,49条の4第1項・第2項参照)。同審査
会は,その内容を審査し,さらに,上告人又は公認会計士等に対し,報告若しくは
資料の提出を求め,又は立入検査をすることができ(法46条の12第1項,49
条の3第1項・第2項,49条の4第1項・第2項),その結果に基づき,公認会
計士等の監査等の業務又は上告人の事務の適正な運営を確保するため行うべき行政
処分その他の措置を金融庁長官に勧告することができる(法41条の2,49条の
4第1項)。
したがって,上場会社監査事務所登録制度については,公認会計士・監査審査会
による品質管理レビューの結果の審査等を通じて,公的な監督が及んでいるという
ことができる。
3このような上場会社監査事務所登録制度は,金融商品市場の適切な運営その
他の公益に関わるとともに,公認会計士等の業務遂行に係る重要な利益にも関わる
ものであるが,上告人の会則に基づく制度として設けられ運用されている。これ
は,公認会計士が,監査及び会計の専門家として,独立した立場において,公正か
つ誠実にその業務を行うことを旨としており,その業務の質的水準の向上を図り,
信頼性を確保するためには,その専門性及び独立性を尊重し,公認会計士等の組織
であって,公的な性格を有する上告人が運用する制度とするのが適切であることに
よるものと考えられる。この制度については,上記のとおり,品質管理レビューの
結果の審査等を通じて公的な監督が及んでいるが,これも,そのような考え方を前
提としているものと解される。
そして,品質管理委員会は,上場会社監査事務所名簿への登録の申請に対する審
査に当たっては,品質管理レビューの結果等を踏まえ,登録の申請のあった監査事
務所の監査の品質管理の状況について,監査に関する品質管理基準等に基づき,公
正かつ適切に判断するものとされるが(上記変更前の日本公認会計士協会会則12
9条),その審査に当たり,品質管理レビュー報告書において限定事項付き結論が
付され,かつ,同会則第123条第4項の規定により会長に報告される事項に該当
する限定事項がある場合,登録の申請があった監査事務所の登録を認めないことを
検討するものとされる(平成27年7月21日付け変更前の上場会社監査事務所登
録規則7条3号)。
本件においては,被上告人らの上場会社監査事務所名簿への登録を認めない旨の
決定につき,その前提となった事実の有無等が争われているものであるが,前記の
とおり,上場会社監査事務所登録制度が,公認会計士の監査業務の専門性及び独立
性を踏まえ,公認会計士等によって組織される上告人の制度として運用される趣旨
等に鑑みると,上記事実があるとした場合には,これを前提としてされた品質管理
委員会の決定については,その専門性,独立性を踏まえた知見に基づく判断とし
て,その合理的な裁量が尊重されるべきものと解される。
差戻審における審理においては,以上のような点も踏まえた審理,判断がなされ
るべきである。
裁判官草野耕一,同岡村和美の補足意見は,次のとおりである。
私たちは法廷意見に賛成するものであるが,原判決を破棄差戻しとしたことの趣
旨につき思うところを以下のとおり述べておきたい。
1原判決は,被上告人らが本件会社の現金預金につき,監査対象事業年度末に
現金実査等を実施したと認定した上で,現金元帳と通帳及び領収書等との突合(以
下「証憑突合」という。)を監査対象期間の全部につき実施することは監査手続と
して実効的でないと述べている。被上告人らがそもそも監査対象事業年度末に現金
実査を行っていないことは法廷意見において指摘したとおりであるが,その点はさ
ておくとしても,監査対象期間の全部について証憑突合を行うことが現金預金の監
査手続として「実効的でない」という原審の見解には看過し難い誤謬があるといわ
ざるを得ない。けだし,確かに監査の対象となる財務諸表が貸借対照表だけであれ
ば期末の現金実査等だけで現金預金に関する財務諸表上の記載の正確性を確認し得
るかもしれないが,金融商品取引法上財務諸表に含まれる会計書類は貸借対照表だ
けではないからである。特に,平成10年代に財務諸表に加えられたキャッシュ・
フロー計算書は,監査対象期間全部におけるキャッシュ・フローを「営業活動によ
るキャッシュ・フロー」と「投資活動によるキャッシュ・フロー」と「財務活動に
よるキャッシュ・フロー」に分類した上でそれぞれの正味合計額を示すものである
から,その記載の正確性を監査するためには全期間に対しての証憑突合を行うこと
が確実で有効な監査方法であることは明らかであり,期末の現金実査等だけで記載
の正確性を常に監査できるとは考え難い。しかも,本件会社が本件監査以前におい
て営業活動によるキャッシュ・フローがマイナスとなるなどして企業としての継続
性に疑いをもたれていたこと等を考えると,キャッシュ・フローの適正な監査を行
うことは本件会社においてはとりわけ重要であった。以上の点に鑑みれば,監査手
続としての証憑突合の実効性という点に関する原審の判断は経験則に関する重大な
誤りであるといわざるを得ない。
2もっとも,監査対象期間の全部について証憑突合を行うことが現金預金の監
査手続として有効なものであるとしても,それを実施しなければ直ちに基準不適合
事実が見受けられるといい得るかは証拠上必ずしも明らかではなく,結局のとこ
ろ,被上告人らが証憑突合を本件会社の監査対象事業年度のうちの約5箇月半につ
いてしか実施しなかったことをもって基準不適合事実が見受けられるといえるか否
かが本件の中核的争点と考えられる。当審が本件を原審に差し戻したのはこの点を
踏まえてのことであるが,この点に関して,原判決が,証憑突合がされた約5箇月
半は「多額の現金移動があった期間」であったことを弁論の全趣旨によって認定し
ていることについては特に留意を要する。被上告人らが「期中を通じて100万円
以上の出納については証憑突合を実施した」と主張していることを踏まえて原審の
認定した事実を合理的に解釈すると,「被上告人らが監査対象事業年度のうちの約
5箇月半においてしか証憑突合を行わなかったのは,当該期間において100万円
以上の現金移動を伴う取引(以下「多額現金取引」という。)が集中的に発生し,
残りの約6箇月半においては多額現金取引は発生しなかったからである」というこ
とになるのであろう。この点に関して差戻審の注意を喚起するため,以下のことを
指摘しておきたいと思う。
(1)第1に指摘すべきことは,監査対象事業年度に関する本件会社の有価証券
報告書上,同年度における本件会社の営業活動による連結キャッシュ・フローの正
味合計額はマイナス7億6884万5000円に上っているという点である。1年
間のキャッシュ・フローの正味額がこのような巨額の値となる会社において,多額
現金取引が,12箇月間に及ぶ監査対象事業年度のうちの約5箇月半においてしか
発生せず,しかも,その約5箇月半においては,(多額現金取引が発生した日だけ
ではなく)期間全体にわたって証憑突合を実施する必要性を認めるほど集中的に発
生したなどということが現実に起こり得るものか疑問があり,慎重な検討が必要で
あろう。
(2)第2に指摘すべきことは,本件会社が設置した第三者委員会の作成に係る
平成27年1月19日付けの報告書には,本件会社が監査対象事業年度のうちで被
上告人らが証憑突合を行わなかった約6箇月半の期間の一部である平成26年1月
から3月の間に3件の多額現金取引(取引対象額はいずれも2000万円を超えて
いる)を行った旨の記述があるという点である。この記述内容が正しいとすれば,
被上告人らが多額現金取引があった期間に限定して証憑突合を行ったという主張は
成立し得ないように思われる。
差戻審においては,以上のことを踏まえ,被上告人らが監査対象事業年度のうち
の約5箇月半の期間に対してしか証憑突合を行わなかった理由は何であったのかを
見極めた上で適切な判断をすべきものと考える。
(裁判長裁判官草野耕一裁判官菅野博之裁判官三浦守裁判官
岡村和美)

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