弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用(参加によつて生じたものを含む)は原告の負担とする。
○ 事実
第一 申立
(原告)
一 昭和五八年四月一〇日執行の山口県議会議員一般選挙徳山市都濃郡選挙区にお
ける当選の効カに関する原告の異議の申出につき被告が同年六月二九日にした決定
を取消す。
二 右選挙における当選人Aの当選を無効とする。
三 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決を求める。
(被告)
主文同旨の判決を求める。
第二 主張
(原告の請求の原因)
一 原告は昭和五八年四月一〇日に執行された山口県議会議貝一般選挙徳山市都濃
郡選挙区(以下本件選挙という)に立候補した者であるが、本件選挙の結果、原告
とAとの得票数がいずれも九四四一票で同数であるとされ、同年同月一二日開かれ
た選挙会において、くじでAが当選人と決まり、その旨告示された。なお、本件選
挙の立候補者は、別紙一記載のとおりである。
二 原告はAの当選の効力に不服があるので、昭和五八年四月一三日被告に対し異
議を申出たところ、被告は同年六月二九日右申出を棄却する旨の決定(以下本件決
定という)をし、同決定書は同日原告に交付された。
三 本件決定の理由の要旨は次のとおりである。
本件選挙に係るすべての候補者の有効投票と無効投票を開披した結果、
1 細小無効投票のうち、別表番号1の投票はAに対する有効投票、同番号2及び
3の投票は原告に対する有効投票であると解する。
2 Aの有効投票のうち別表番号4の投票は無効投票と解する。
3 原告の有効投票のうち別表番号5の投票は候補者Bの有効投票と解し、同番号
6ないし8の投票はいずれも無効投票と解する。
4 点字により一C」と記載され、点字投票の押印のない投票一票(以下本件点字
投票という)を開票管理者が無効とした処分を失当とすることはできない。
5 徳山市開票区において原告の有効投票の結束誤りが認められ一票減少したが、
B候補の有効投票の中に原告の有効投票が一票混入していた。
以上によりAの得票数は九四四一票、原告の得票数は九四三九票となり、本件選挙
の当選人Aの得票数は原告のそれを上回り、選挙会で決定した結果に異動を生じな
い。
四 しかし、被告のなした右決定において、Aに対する有効票とされた別表番号1
の投票は無効とすべきであり、無効票とされた同番号6ないし8の投票及び本件点
字投票はいずれも原告に対する有効票とすべきである。また原告の有効投票の結束
誤りが認められたとして原告の得票数を一票減少させたのは不当である。
その理由は次のとおりである。
1 別表番号1の投票について
この投票の記載は極めて不明瞭であり全体として「近」とは認めがたく、仮に
「近」と認められるとしても、Aの氏名は全部で四文字であつて、そのうちわずか
一文字が一致するにすぎないのであるから、右記載をもつてAに投票する意思でそ
の氏名を略記したものと推断することはできない。したがつて、右投票は候補者の
何人を記載したかを確認しがたいものとして無効とすべきである。(最高裁昭和五
三年六月二三日判決参照)別表番号6の投票について
この投票の記載は候補者四人の氏がひら仮名によつて並記され、そのうち三人の氏
が縦線で抹消されているが、これは一旦候補者の氏を記載したが、意思の変更によ
つてこれを抹消し、新たに他の候補者の氏を記載することを三度繰返し、最終的に
原告に投票する意思で「D」と記載したものと解するのが自然である。
したがつて、右抹消部分は有意の他事記載に該当しないので、右投票は原告に対す
る有効投票と解すべきである。(最高裁昭和三〇年四月二七日判決参照)
別表番号7の投票について
この投票は、三文字が記載されていることが認められ、字体が極めて稚拙である
が、「D」と判読できるので、原告に対する有効投票と解すべきである。
別表番号8の投票について
この投票は、漢字で「E」と記載し、これにひら仮名で「D」と振仮名を付した
後、「E」の方を抹消する際、抹消作業の一環としで不用意に○印を付したものと
解される。
したがつて、右抹消部分及び○印は有意の他事記載に該当しないから、右投票は原
告に対する有効投票と解すべきである。
2 本件点字投票について
(一) 被告は、本件点字投票はその投票用紙に点字投票印がおされていないか
ら、公職選挙法第六八条一号に該当し無効だとしたが、本件点字投票は投票管理者
から交付された「成規の用紙」を用いてなされていて、ただ点字投票印がおされて
いないにすぎないから、同号に該当するものではない。
これは選挙管理委員会の印のおされてない投票用紙であつても成規の用紙でないと
はいえない(仙台高裁昭和三五年五月二三日判決参照)とされていることからも明
らかである。本件点字投票は、投票用紙の裏側から点字していることから、盲人が
したものであることは明らかであり、投票管理者が点字投票印を押し忘れたもので
あることは、ほぼ確実な事実と断定できる。
(二) 思うに同法施行令第三八条第二項が「盲人である選挙人は、点字によつて
投票をしようとする場合においては、投票管理者に対して、その旨を申し立てなけ
ればならない。この場合においては、投票管理者は、投票用紙に点字投票である旨
の印をおして、これを交付しなければならない。」と定めているのは、開票の際点
字投票と白票との区別を容易にし、もつて開票を迅速かつ正確にすることができる
ようにするためである。すなわち右条項は、単に点字投票の手続を定めたにすぎな
いものである。
(三) もしこれを文言どおり点字投票者に申立義務を課し、点字投票の有効要件
を定めたものとして、点字投票印のおされていない投票用紙によつてなされた点字
投票は無効と解すると、右条項は法の委任がないのに点字投票者に申立義務を課し
てその選挙権を制限したことになり、憲法第四一条、第四七条、第七三条、内閣法
第一一条に反するばかりでなく、点字投票者を不当に差別するものとして、法の下
の平等を定め、国民固有の権利として選挙権を保障した憲法第一四条、第一五条に
も反することになる。すなわち投票管理者にとつて該選挙人が盲人であるか否か
は、その外観、挙動等から容易に知りうろことであり、更に盲人が点字投票する場
合は、必ず点字器を使用するから、申立がなくとも、該選挙人が点字投票をする者
であることは一見明白である。このように盲人に点字投票をする旨の申立義務を課
する合理的理由は全く存しないから、本条項は健常者に比し盲人を不当に差別する
ものであり、盲人はこの義務を履行しない限り有効な点字投票ができないとすれ
ば、盲人の選挙権を不当に制限するものといわわばならない。
(四) したがつて、本件点字投票は原告に対する有効投票と解すべきである。
3 結束誤りの一票について
被告は原告の有効投票の結束誤りが認められ一票減少したとしたが、投票の計算は
二台の機械でされたうえ、二人の開票事務従事者によつて各別にされる(同法施行
令第七二条)のであるから、結束誤りということはありえない。
したがつて被告が結束誤りを理由に原告の得票数を一票減少させたのは全く不当で
ある。
以上により、原告の得票数は被告が認定した九四三九票に五票を加えた九四四四票
となり、他方Aの得票数は被告が認定した九四四一票から一票を減じた九四四〇票
となるから、原告の得票数はAのそれを上回ることになる。
五 被告は本決定において、本件選挙に係るすべての候補者の有効投票と無効投票
とを開披点検した結果、当選の効力に影響を及ぼすと認められた投票は、別表番号
1ないし8の投票のみであつたとするが、Aの有効投票の中には他にも無効とされ
るべきものがあり、他方無効投票とされた中には原告に対する有効票がある。すな
わち、被告は別表番号9ないし19の投票をA候補に対する有効投票、同番号20
ないし23の投票を原告に対する無効投票と解したが、これは不当である。
別表番号9の投票について
右投票は正確明瞭に「F」と記載されているので、A候補の氏を誤記したものでは
なく、全く別個の人の氏を表すものと認められるから、候補者でない者の氏名を記
載したものとして無効と解すべきである(仙台高裁秋田支部昭三一・七・一二判
決)。
A候補は過去連続八期県会議員に選出され県議会議長も務めた県政界の長老と」で
その名は選挙人に広く知られているうえ、選挙期間中も「G」と一音ずつ区切つて
はつきりと連呼していたので、選挙人がその氏を「F」と誤記するとは考えられな
い。したがつて該選挙人はA候補とは全く別個のHなる人の氏を記載したものと認
められる。
別表番号10の投票について
右投票の下方には明瞭に「しり」と記載されていることが認められ、右記載はその
位置、形状からして有意の他事記載と認められるから、右投票は無効と解すべきで
ある。
別表番号11の投票について
A候補は前記の通り知名度が高く「I」「J」と呼ばれているので、その名を
「K」と誤記されることはない。しかも「忠」と「鶴」とは音感、字体とも全く異
なるとこら、右投票は明確に「K」と記載されているので、A候補以外の全く別個
の人の氏名を記載したものと認められるから無効である(名古屋高裁昭三二・九・
二五判決)。
別表番号12の投票について
右投票の名の部分は「C」と明確に記載されていて、「ちゆう」と「けん」に全く
類似性がなく、しかも前記のとおりA候補の名が「C」と誤記されることはないか
ら、これは原告が新人候補として知名度が低いため、その名である「D」を誤記し
たものと解される。したがつて右投票はA候補と原告とを混記したものとして無効
である。
別表番号13の投票について
右投票は平仮名で明確に「L」と記載されていて、第三字目の「き」が「ま」の誤
記の消し忘れとは認められないので、候補者でない者の氏を記載した投票として無
効である。
別表番号14の投票について
右投票には片仮名三文字が記載され、第一字目は「チ」、第三字目は「マ」と読め
るが、第二字目は「マ」又は「ヌ」と読めても「力」とは読めないから全体として
A候補に対する投票とは認められない。しかも第一字目の上の記載は形状、筆勢等
から誤字を抹消したものとは認められず、有意の他事記載に該当する。したがつて
右投票は無効である。
別表番号15の投票について
右投票は極めて稚拙な字体ながら横書きで「G」と記載されていることが認められ
る。しかし左側の四字目は判読不能であり、まがりなりにも「G」と書けた選挙人
の記したものとしては全く不可解である。したがつて右投票は有意の他事記載があ
るものとして無効である。
別表番号16の投票について
右投票の第三字目の右横に記された「●」は「忠」の字の一部又は不用意な記載と
は認められないから、右投票は有意な他事記載があるものとして無効である。
別表番号17の投票について
右投票の第一字目の「●」は書き損じの抹消を意味するものと認められるから、第
一字目は「ち」とは読めない。第三字目は漢字の「夫」と読める。そうすると右投
票は第二字目が「カ」と読めるのみで、第一字目と第三字目は意味不明であるか
ら、全体としてA候補に対する投票とは認められない。
別表番号18の投票について
右投票は「チカ」と二文字しか記載されておらず、第三字目の記載が全くなされて
いないので、該選挙人は途中で投票行為を中止したものと認められる。したがつて
右投票は無効である。
別表番号19の投票について
右投票の第五字目は「郎」と読めるが、A候補は知名度が高いからその名が「忠一
郎」と誤記されることはない。
かえつて原告の名の第一字目である「恵」と「忠」とが酷似しているため、右投票
の第三字目以下は原告の名が記載されたものと認められる。
したがつて右投票は原告とA候補の氏名を混記したものとして無効である。
別表番号20の投票について
右投票の第一字目は漢字の「示」と読めるが、その字体が拙劣であるから、文字に
不馴れな選挙人が「福」の「しめすへん」を書いたが「つくり」が書き切れなかつ
たものと推定される。第二字目は「た」と読める。したがつて該選挙人は原告に投
票する意思であつたことが明白であるから、右投票は原告に対する有効票と解すべ
きである。
少なくとも別表番号1の投票よりは選挙人の意思が明白に読みとれるので、これを
A候補の有効票と解するなら、当然番号20の投票は原告に対する有効票と解すべ
きである。
別表番号21の投票について
右投票は原告の氏とA候補の名とが混記されているが、第三字目の「忠」は「恵」
と酷似しているので「恵」の誤記と考えられる。そうすると右投票は「M」となり
原告に対する有効投票と解される(被告は別表番号24、25の投票をA候補に対
する有効票と解した。これは右投票の名の部分((「恵一」と記載されている))
を「I」の誤記と認めたことによるものと思われる。)。
なお右投票と番号19の投票とは候補者の氏名を混記している点で共通であるか
ら、その効力は同一に判断されるべきである。
別表番号22の投票について
右投票は第三字目が原告の氏名と異つているが、「恵」と「義」とは字体や音感に
類似性があるので、「義」は「恵」の誤記と認められる。
そうすると原告に対する有効票と解すべきである。
少なくとも番号11の投票がA候補に対する有効票であるなら、番号22の投票は
当然原告に対する有効票と解すべきである。
別表番号23の投票について
右投票の第一字目は「フ」、第二字目は「ク」と読めるから、少なくとも番号9及
び18の投票がA候補に対する有効票なら、番号23の投票は原告に対する有効票
と解すべきである。
六 以上の理由により、本件選挙においては、Aは落選(次点)し、原告が当選人
となるべきであるから、これに反する
本件決定を取消したうえ、Aの当選を無効とすることを求める。
(被告の認否及び主張)
一 請求の原因に対する認否
(一) 第一項ないし第三項について認める。
(二) 第四項及び第六項について
右のうち、原告の得票数がA(参加人)のそれを上回り、同人の当選は無効である
との主張は争う。各投票の効力に関する被告の主張は、以下のとおりである。
二 投票の効力について
1 別表番号1の投票について
本件投票は、鹿野町開票区に存在したものであるが、その字体は稚拙でやや明確性
を欠く。しかし、投票用紙の上辺に漢字一字が記載されていること及びその字の左
の部分が「●」(しんにゆう)であることは、いずれも明瞭に判読することができ
る。
そこで本件選挙の立候補者をみるに、氏名に「●」のつくのは「A」姓だけであ
り、他に「●」等まぎらわしい字体もないこと、しかも、本件投票の右側の栄の部
分は三画ないし四画の筆跡であり、したがつて、「斤」が最も類似することを併せ
考えると、本件投票の字体は「近」と認めることができる。
しでみれば、本件投票は、文字の記載に不馴れな選挙人が、A候補に投票する意思
をもつて記載したものと認めるべきであるから、同候補に対する有効投票というこ
とができる。
同番号6の投票について
公職選挙法六八条一項五号に規定するいわゆる他事記載のある投票が無効とされる
趣旨は、秘密投票の原間を保持し、選挙の公正を確保するとともに、不必要なこと
を記載することを禁止するところにある。したがつて、他事記載の投票の効力判定
に際しては、記載の態様が有意の他事記載であるか否かが判断の基準となり、故意
に他事を記入した以上は、たといこれを抹消したとしても、他事記入たることを失
わない。
本件投票の記載は、その態様から判断すると、投票用紙の上辺に、同じ大きさのひ
ら仮名で、本件選挙の候補者四人の氏を右から左に順次「D」、「N」、「G」、
「O」と、ほぼ等間隔に並記したうえで、そのうち右から二番目以降の三人の候補
者の氏を縦線でそれぞれ抹消したものである。したがつて、意識的になされた故意
の他事記載と認めるべきである。
同番号7の投票について
この投票の記載は、個々の字体も、また、全体としても文字として不明瞭であつ
て、判読することが困難であり、無効投票と解するほかはない。
同番号8の投票について
この投票の記載は、漢字で正確に「E」と記載し、その後に二本の縦線でこれを抹
消し、その右側にひら仮名で「D」と記載したうえ、わざわざ「上」の字の上部に
「○」印を付したものであることが認められる。
この「○」印は、その位置、形状、筆勢等により判断すると、選挙人が習慣により
氏名を書き終わつた後に不用意に付したものとは到底認められない。そのうえ、漢
字の「E」は正確に記載されており、もしも誤つた字を書いたのではないかと考え
たのであれば、投票台に貼付してある候補者氏名を確認すれば足りるのである。し
たがつて本件は、漢字を書いている途中で字を失念し、そのため、漢字の「E」を
抹消し、ひら仮名に書き換えたという事情も認められない。仮に何らかの事情で
「E」を抹消し、他の候補者の氏名を記載したのなら格別、ひら仮名で「D」と、
同一人物の氏を記載したのであれば、わざわざ、その上部に「○」印を付して、特
に趣旨を強調すべき必要性は全くない。よつて、本件投票については、これを記載
した選挙人の目的、意義の如何にかかわらず、有意の他事記載として公職選挙法六
八条一項五号本文により無効投票と解すべきである。
2 原告主張の別表番号9ないし11及び19の投票は、開票管理者、開票立会人
のすべてが異議なく有効と判断しており、別表番号12ないし18の投票は疑問票
として処理されたが最終的に有効と判断された票である。また、別表番号20ない
し23の投票は開票管理者、開票立会人のすべてが無効と判断した票である。右1
8の投票は鹿野町開票区の投票中に存在するが、それ以外はすべて徳山市開票区の
投票中に存在する。
なお、被告が以下に引用する別表番号26ないし40の投票はすべて徳山市開票区
の投票中に存在する。
別表番号90投票について
本件投票は、原告の主張する「H」姓を記載する意思で「F」と記載したものとい
うより、まず姓について「G」と記載し、次いで、A候補の名の「I」を「つうい
ち」となまり、ひら仮名で「つ」と書きかけ、二字以下を失念したものであると解
すべきである。
別表番号10の投票について
本件投票は、ひら仮名で「G」と記載され、候補者氏名欄の下方の記載について
は、欄内の記載を「し」と読むことができ、「氏」を意味した記載であると認める
ことができる(この場合、他事記載とは解されない。)が、欄外の記載は小さく不
明瞭であるため、選挙人が意識して記載した文字と認めることはできず、まして
や、原告主張のごとく判読することは困難である。本件投票は、文字の記載に不馴
れな選挙人か手の不自由な選挙人が「ちかまし」と記載した後、不用意に筆が動き
記載されたものであると解すべきである。
なお、本件投票に類似の投票で有効とされた例として、別表番号39、40があ
り、本件投票を無効と解するならば、これらもまた無効とされなければならない。
別表番号11の投票について
本件投票は「K」と記載されており、A候補の漢字四文字中、三文字が同一であ
る。
原告は、「忠」と「鶴」とは音感が全く異なると主張するが、「忠」(ちゆう)と
「鶴」(「つる」又は「つう」)とは同じタ行の発音であつて、語音が類似してお
り、選挙人が「I」を「つういち」と発音し、「つう」を「鶴」という漢字にあて
たものと推定される。
本件投票は選挙人がA候補へ投票する意思で記載したが、「忠」を「鶴」と誤記し
たものであると認め、A候補の有効票と解すべきである。
なお、本件投票に類似の投票で有効とされた例としで、別表番号26ないし30が
あり、本件投票を無効と解するならばこれらもまた無効とされなければならない。
別表番号12の投票について
本件投票は「P」と記載されており、原告の名が「D」に対し「C」と記載されて
いるため混記と解することはできない。ひら仮名七文字のうち五文字がA候補の氏
名に一致しており、「けん」はA候補の名の部分である「ちゆう」の誤記と解され
る。
なお、本件投票に類似の投票で有効とされた例として、別表番号3のほか、同26
ないし30があり、本件投票を無効と解するならばこれらもまた無効とされなけれ
ばならない。
別表番号13の投票について
本件投票はひら仮名により「L」と記載されているが、選挙人が「G」と記載すべ
きところ、筆勢により第三字目を「き」と記載し、続けて「ま」を記載し、「き」
の抹消を怠つたものであると推認される。
あるいはまた、Qが「R」、「S」、「T」の三通りに読めるように、「A」姓の
「近」を「ちかし」、「ちかき」と読むものと思いこみ、「L」と記載になとも解
される。そうすると「L」は読み方において「G」に近似しているということがで
きる。
よつて、
いずれにしても本件投票はA候補の有効投票であると解される。
別表番号14の投票について
本件投票は、第一字と第三字目は「チ」、「マ」と読むことができる(この点は原
告も認めている。)が、第二字目は不明瞭であり、「マ」又は「ヌ」に似た記載で
ある。また、上部には文字を書きかけて抹消した跡があり、全体的に筆勢の強いこ
とが認められるため、第二字目は「力」を記載すべきところを書き損じ、不明瞭な
記載となつたものであると解される。
なお、原告は、上部の記載を誤字の抹消ではなく、有意の他事記載であると主張す
るが、本件投票に類似の投票で有効とされた例として、別表番号31ないし34が
あり、本件投票を無効と解するならばこれらもまた無効とされなければならない。
別表番号15の投漠について
本件投票は極めて稚拙な字体で「G」と記載してあり、左側の四字目は判読不能で
あるが、有意の他事記載と解すべきでない。記載の態様から判断すると、最初中央
部分に横書きで「チカ」と記載したが、「マ」の字が書けずこれを書き損じたた
め、更に「マ」の字を記載しようとしたが結局書き得す、下側に横書きで「G」と
書き直したものであると認めることができる。
なお、本件投票に類似の投票で有効とされた例として、別表番号35、36があ
り、本件投票を無効と解するならばこれらもまた無効とされなければならない。
別表番号16の投票について
本件投票は極めて稚拙な字体で「A」と記載してあり、第三字目は「忠」の字を記
載したが、その際最後の第八画目の点に力が加わり○に近い形状となつたものであ
ると認められ、原告の主張するように有意の他事記載と解することはできない。
別表番号17の投票について
本件投票は極めて稚拙な字体であるが、記載の態様から判断すれば、文字の記載に
不馴れな選挙人が、A候補の姓をひら仮名で記載しようとした意思を明白に認める
ことができる。
なお、本件投票に類似の投票で有効とされた例として、別表番号37、38があ
り、本件投票を無効と解するならばこれらもまた無効とされなければならない。
別表番号18の投票について
本件投票は片仮名により「チカ」と記載されており、第三字目の「マ」の字が記載
されていないため、原告は選挙人が投票行為を中止したものであると主張するが、
本件候補者中「チカ」という字があるのはA候補のみであり、
A候補の有効得票と解すべきである。
別表番号19の投票について
本件投票は「近間忠一郎」と記載されており、A候補の漢字四文字はすべて含まれ
てあり、「郎」は記憶違いと思料される。
原告は、原告の名の第一字目である「恵」と「忠」が類似しているため、本件投票
は原告とA候補の氏名を混記したものとして無効である旨主張するが、本件「近間
忠一郎」との記載の態様から判断すると明瞭に「忠」と記載されており、原告の名
との混記であると解することができない。
別表番号20の投票について
本件投票は上部左隅に小さく二字が記載されており、第一字は「示」と読むことが
できるが、第二字目は不明瞭であり、判読が困難である。仮に原告が主張するよう
に「た」と記載されたものであるとしても、第一字の「示」を「福」の「しめすへ
ん」と解釈し、「示」を「福」と読むことは到底できない。
よつて、本件投票は公職の候補者の何人を記載したか確認し難い投票として無効で
ある。
別表番号21の投票について
本件投票は「福田忠一」と記載されており、原告の姓であるEとA候補の名の部分
が混記されているため無効と解すべきである。原告は「忠」の字が「恵」に類似し
ているため「恵」の誤記である旨主張するが、本件投票は明瞭に「忠」と記載され
ており、しかも「I」と記載された投票用紙における文字の配列具合から「郎」を
書き落としたとは到底考えられないから、原告の名である「D」の誤記であると解
することはできない。
別表番号22の投票について
本件投票は「U」と記載されており、名の部分は原告の名であるDと全く類似性が
認められない。原告は、「恵」と「義」とは字体や音感に類似性があると主張する
が、字体は著しく異なり、発音も「ケイ」と「ヨシ」又は「ギ」では類似している
とはいえず、誤用されたとは考えられない。本件投票が「福田義一郎」と記載され
ていればともかく、「U」と記載されている以上、これを原告の有効票と解するこ
とはできない。
なお、原告は、別表番号11の投票と比較し、本件投票の有効性を主張している
が、別表番号11の投票は漢字の四字中、三字が同じで、しかも残りの一字の
「鶴」は前述のとおり、「忠」と発音が著しく類似しており、誤記と認めたもので
あつて、本件と同一に論じることはできない。
別表番号23の投票について
本件投票は「V」と片仮名によつて明瞭に記載されている。原告が主張するよう
に、仮に「フフ」を「フク」の誤記であると解釈しても「X」と「C」では類似性
が全くない。
本件投票は、むしろ本件選挙のW候補の姓を片仮名で「O」と誤記したものとも考
えられ、この点からも原告の有効票と解することはできない。
別表番号24、25の投票について
本件投票は、いずれも徳山市開票区において疑問票として処理されたが、最終的に
六人の立会人全員がA候補に対する有効と判断した票である。
記載の態様は第三字目がやや不明瞭であるが、仮に「恵」であつたとしても、選挙
人が「A」と書くべきところを「忠」と「恵」が類似しているため誤つて「●」、
「●」と記載したものであると解すべきであつて、本件各投票を混記による無効と
解すべきではない。
三 点字投票について
1 点字投票制度について
(一) 点字投票制度は、盲人の選挙権を確保するために盲人に限つて認められる
べきものであり、盲人以外の者の点字投票は認めるべきではない。なぜならば、点
字文字は点字器によつて打ち出されるため異なる者の投票(別人による投票)かど
うかが確認できなくなること、開票の際の見落し、混同が生ずること等の問題があ
り、選挙の公正確保を期しがたいからである。
このようなことから、公職選挙法施行令三八条二項は、点字投票を行うことができ
る者を盲人に限定し、点字投票を行おうとする盲人には申し出をさせ、投票用紙に
点字投票印を押した点字投票用紙を交付して、それを用いて点字投票を行わせると
いう手続きを定めているが、これは、選挙の公正かつ円滑な執行のためには必要欠
くべからざる規定であり、命令への委任を定めた公職選挙法二七二条に基づく規定
であるということができる。
(二) また、点字投票印がない点字投票が無効となるのは、公職選挙法施行令三
八条二項の直接の効果ではなく、当該投票用紙が点字投票印を欠くために公職選挙
法六八条一項一号の所定の用紙を用いないものに該当し無効となるからである。ち
なみに、点字投票である旨の印を押印していない投票用紙に点字によつて記載した
投票は、成規の用紙を用いないものに該当し無効と解すべきである旨の行政実例が
ある(昭和二年八月一五日地発乙第一九七号地方局長通牒)。したがつて、点字投
票印を欠く投票用紙によつてなされた点字投票を無効とすることは、法律の委任が
ないのに点字投票者の選挙権を制限したものであるとする原告の主張は理由がな
い。原告が引用する判例は、投票用紙に選挙管理委員会の印を欠く投票用紙であつ
ても、それが単に選挙管理委員会側の過失にすぎない場合には有効であるとするも
のであり、点字投票用紙に係るものではなく、本件のような場合とは事案を異に
し、同一に論ずることはできない。
(三) また原告は、点字投票者に申立て義務を課する合理的な理由はなす、この
ような義務を課することは健常者に比べ盲人を不当に差別するものであり憲法一四
条、一五条に違反すると主張する。
しかし、選挙人が盲人であることは常に一見して明らかであるとは断定できず、ま
た、仮に選挙人が盲人であることが一見して明らかな場合であつても、すべての盲
人が点字投票を行うとは限らず、盲人の場合であつても通常の投票をする者もあれ
ば、法四八条に基づく代理投票をする者もあるのであつて、当該選挙人が点字投票
をする者であるかどうかは明らかではない。したがつて、原告の右主張はその前提
を欠き失当である。点字投票については、これを誰にでも認めるということは、投
票の公正の確保の観点等から問題が多く、そのため、点字投票を行う者を盲人に限
定し、点字投票印を押した点字投票用紙を用いることとしているのであつて、点字
投票をしようとする盲人に口頭で申出をさせるという軽易な義務を課したとして
も、それは選挙の公正を確保するための必要最少限の制約であり、盲人の選挙権を
不当に制限するものではない。
四 結束誤りの一票について
本件結束誤りについては、被告が徳山市開票区の投票を開披点検した際に発見した
ものであり、開披点検に従事した四名によつて確認している。
徳山市における開票事務についていえば、別紙二のとおり、開披選別された投票
は、第一点検係で所要の点検を受け、二台の異つた計数機にかけられて一〇〇票を
一束として結束される。ついで第二点検係がこの結束された投票を再度点検して、
開票立会人に回付し、点検を受けた後開票管理者のもとに集められる仕組みをとつ
ている。
そこで一〇〇票あるべき一束が九九票であつた原因について推測すると、開票立会
人又は第二点検係に回付された段階で、有効投票とするにつき疑義ありとして当該
束から一票を抜き出し疑問票審査係に回付されたのに、当該束に付された付箋の票
数欄の記載を九九票と訂正すべきところを失念したため、そのまま一〇〇票として
集計されたとしか考えられない。
したがつて、被告が原告の得票数を減少させたとする原告の主張は、根拠のないも
のである。
(参加人の主張)
一 参加人は、原告の主張に対し、次のとおり反論する。
(一) 被告委員会の昭和五八年六月二九日付決定(以下本件決定という)につい

(1) 別表番号1ないし8についての被告委員会の効力の判定はいずれも正当で
あつて、原告のこれに対する非難はいずれも失当である。
(2) 点字により「C」と記載され点字投票の押印のない投票一票(以下本件点
字投票という)は無効と解するのが相当であつて、その理由は、本件決定の理由欄
の記載並びに本訴における被告の主張のとおりであるから、これを援用する。
(二) 原告の引用する別表番号9ないし23の投票について
別表番号9ないし23の投票の効力については、被告において逐一主張のとおりで
あつて、これを援用する。
(三) 別表番号24、25の投票について
別表番号24、25の各投票の第三字は、いずれも投票人が「忠」と記載する意思
で書いたものと推認するのが相当であつて、原告主張のように「恵」と記載する意
思で書いたものとは推認すべきでない。仮に、右第三字をいずれも「恵」と判読す
るのが相当であるとしても、いずれも参加人の「A」の氏名の四字のうち三字が符
合するから、最高裁判例に照らして、いずれも参加人に対する有効投票と認めるの
が相当である。
なお、右については、被告の主張を援用する。
(四) 本件決定の指摘する結束誤りの一票について
右については、本件決定理由欄並びに被告の主張を援用する。
二 参加人は、別表番号アないし力の投票の効力について、次のとおり主張する。
(一) 別表番号ア、イの投票
右は、いずれも原告Cの氏名と全く関係がないから、本件決定が右投票を原告に対
する有効投票と認めたのは、違法である。
(二) 別表番号ウ投票
ウ投票の第一字は「福」、第四字は「一」と判読できるけれども、その他の文字は
不明である。従つて、ウ投票の記載は、原告の氏名五字中二字だけ符合するにとど
まるから、最高裁判例に従い、
無効と認めるのが相当である。
(三) 別表番号エ投票
エ投票の第一字は「ち」であること明瞭であつて、第二字は「力」と判読できる。
従つて、エ投票は、別表番号18と同様、参加人に対する有効票と認めるのが相当
である。
(四) 別表番号オ投票
オ投票は、第一字が「近」に類似しているから、第三字迄を続けると、「近間一」
と判読できる。そうすると、オ投票は、参加人の氏名の四字中三字が符合するか
ら、参加人の有効票と認めるのが相当である。
(五) 別表番号力投票
力投票は、文字を正確記覚えていない選挙人の筆跡と思われるが、第二字が「カ」
であることは明瞭であつて、第一字から第三字迄を凝視すると、「ちカよ」と記載
したものと判読することができる。第四字以下は無意味な他事記載と解される。そ
うすると、カ投票は、参加人に対する有効票であると認めるのが相当である。
三 結論
前述一及び二の主張を総合整理すると、次のとおりである。
(一) 参加人Aの有効票は、本件決定の認定した九四四一票に別表番号エ、オ、
カの三票を加えた九四四四票となる。
(二) 原告Cの有効票は、本件決定の認定した九四三九票から別表番号ア、イ、
ウの三票を減じた九四三六票となる。
従つて、本件選挙の当選人A候補の得票数はE候補のそれを上回り、選挙会で決定
した結果に異動を生じないとして原告の異議の申出を棄却した本件決定は、まこと
に正当であつて、原告の本訴請求は棄却せられるべきである。
(参加人の主張に対する原告の反論)
1 別表番号ア、イの投票について
原告は代々「つちや」の名で酒類販売業を営んでいて、「つちや」は原告の屋号と
して通称化しているのであるから、ア、イの投票はいずれも原告に対する有効票で
ある。酒類販売業「つちや」は、昭和二七年に「株式会社つちや」の商号で法人化
し、原告は本件選挙当時は専務取締役であつた。(選管も右事実を認めて原告の有
効票と解した。)
2 別表番号ウ投票について
一 字目が「福」であることは明らかである。二字目は不明であるが、三字目は
「け」、四字目は「一」または「い」、五字目以下は「ろう」または「いちろ」と
判読することができるので、三字目以下は全体として原告の名を記載したものと認
められる。
仮に三字目以下の記載が原告の名として若干不正確であつたとしても、一字目が明
瞭に「福」と記載されているところ、本選挙では原告以外に「福」のつく候補者が
いないのであるから、ウ投票の選挙人が原告に投票する意思であつたことは明白で
ある。
3 別表番号エ投票について
二 字目は「へ」と読めるが、「カ」とは読めない(左の薄い縦線は一字目の
「ち」が伸びた無意味な記載である)。したがつてエ投票は候補者の何人を記載し
たか確認し難いものとして無効である。
4 別表番号オ投票について
一 字目は偏が「シ」であるから「近」とは相違している。四字目以下は有意の他
事記載と認められる。
したがつてオ投票は無効である。
5 別表番号カ投票について
第二字目は抹消の跡が認められる。他の文字はいずれも全く判読不能である。参加
人の主張は無理なこじつけである。
(原告の反論1に対する被告及び参加人の認否)
「つちや」は、原告の実父が経営する酒類販売業の屋号である。その余の原告主張
の事実は知らない。
第三 証拠(省略)
○ 理由
一 請求原因第一ないし第三項の各事実は当事者間に争いがない。
そこで、以下当事者及び参加人間において、その効力につき争いのある各投票の有
効、無効並びに原告及び参加人の有効得票数について順次検討する。
二 各投票(点字投票を除く)の効力について
1 別表番号1ないし8の各投票の効力についての当裁判所の判断は、本件選挙区
における当選の効力に関する原告の異議申出に対し、被告がなした本件決定(成立
に争いのない-参加人との関係では弁論の全趣旨によつて成立の認められる1甲第
一号証)の理由中に示された被告の判断と結論において同一である。そのうち、本
訴において原告がその効力を争う投票について、判定の理由を述べれば次のとおり
である。
(1) 別表番号1の投票について
投票の効力決定に当つては、公職選挙法(以下法という)六八条の投票無効事由の
規定に反しない限りにおいて、その投票した選挙人の意思が明白であれば、その投
票を有効としなければならない(法六七条後段)。右規定の趣旨は、選挙人の意思
が投票の記載から判断できる以上は、できるだけその投票を有効とすべきことを示
したものと解される。
検証の結果(写真1参照)によれば、本件投票は、漢字の一字を記載したものと認
められるが、運筆が稚拙で字体の明瞭・正確性に欠けている。しかしながら、本件
選挙の候補者氏名(別表一記載)を念頭においてこれを見れば、全体として「近」
の字に類似しており、選挙人は近の字を記載する意思であつたことを明らかに読み
とることができる。従つて、A候補以外に、右記載に類似した氏名の候補者が存在
しない本件選挙においては、右投票は同候補に対する有効投票と解するのが相当で
ある。なお、本件選挙において、別表番号38の投票が原告の有効票とされている
ことも考慮されなければならない。
(2) 別表番号6の投票について
検証の結果(写真6参照)によれば、本件投票の記載は、候補者氏名欄の上方に、
同じ大きさの平仮名で右から左へ順次「D」、「N」、「G」、「O」と四人の候
補者の氏を、ほぼ等間隔で並記し、そのうち右から二番目以降の氏をそれぞれ一本
の縦線で抹消(見え消し)したものであることが認められる。右記載の態様から判
断すると、右抹消部分の記載は故意の他事記載といわざるを得ず、本件投票は無効
である。
(3) 別表番号7の投票について
検証の結果(写真7参照)によれば、本件投票は平仮名又は片仮名でおよそ三字が
記載されているものと認められるが、字体が不明瞭のため、いかなる文字を記載し
ようとしたものか、いずれとも判読できない。従つて、右投票は候補者の何人を記
載したか確認し難いものとして無効である。
(4) 別表番号8の投票について
検証の結果(写真8参照)によれば、本件投票は用紙の上方中央の右測に平阪名で
「D」と、同左測に漢字で「E」とそれぞれ明確に並記され、平仮名記載部分
(「ふ」)の上部にはつきりと丸印(「○」)を付け、漢字記載部分を二本の縦線
で抹消(見え消し)したものであることが認められる。右記載の態様からする上、
本件投票は有意の他事記載として無効といわねばならない。
2 別表番号9ないし25の各投票の効力についての当裁判所の判断は、本訴にお
ける被告及び参加人の主張と結論において同一である。その理由は大略次のとおり
である。
(1) 別表番号9の投票について
本件投票は、漢字で「近」と記載され、続いて平仮名で「まつ」と記載されてい
る。検証の結果(写真9参照)によれば、「まつ」は一筆で書かれている(「ま」
の字の末尾が「つ」の字の初めまでつながつている)ことが認められる。右記載の
態様及び他に類似の氏名の候補者が存在しないことを考慮すると、本件投票の選挙
人は、「ま」と記入すべきところを、不注意による筆の走りで「まつ」と記入し、
誤記に気づかず「つ」を抹消しなかつたものと推認できる。従つて、本件投票は、
A候補の有効票というべきである。
(2) 別表番号10の投票について
検証の結果(写真10参照)によれば、本件投票は、候補者氏名欄の平仮名で
「G」と記載され、間をあけて下部及び欄外に平仮名文字らしい記載がある。その
うち、下部の筆跡は「し」と読むこともできるが、欄外の記載は不明である。
「G」の字が大きく、運筆にたどたどしいところがあり、字配りに難点があること
からすれば、本件投票は、文字の記載に不自由な選挙人が、まず候補者の氏の部分
を記入し、続いて名の部分を記入しようとしたが果せなかつたものと推認すること
ができ、下部及び欄外の記載は有意の他事記載とは認められない。従つて、本件投
票はA候補の有効票である。
(3) 別表番号11の投票について
本件投票は、漢字で「K」と記載されており検証の結果(写真11参照)によれ
ば、しつかりした筆跡であることが認められる。「忠」と「鶴」とでは、意義・字
形に類似性はない。しかしながら、「ち」と「つ」では同じ夕行の音であり、A候
補の氏名と四字中三字が完全に一致していることからみれば、本件投票はA候補の
名を正確に記憶していない選挙人が、同候補の名を誤記したものと認めるのが相当
であり、同候補の有効票と解すべきである。なお、本件選挙において、別表番号2
6ないし30の各投票が原告の有効票と判定されていることも考慮しなければなら
ない。
(4) 別表番号12の投票について
検証の結果(写真12参照)によると、本件投票は、平仮名で「P」と明瞭に記入
されている。原告の名が「D」であるのに対し、本件投票には「C」と記入されて
いるから、A候補の氏と原告の名との混記とは解されず、全体としてA候補の氏名
に類似しており、「けん」は「ちゆう」の誤記と解される。従つて、前記番号11
と同様、A候補の有効票と解すべきである。
(5) 別表番号13の投票について
検証の結果(写真13参照)によれば、本件投票には、平仮名で「L」と記入され
ている。記載は明瞭であり、A候補の氏を「L」と読んで、そのように記入したも
のと推認できるから、同候補の有効票である。
(6) 別表番号14の投票について
検証の結果(写真14参照)によると、本件投票には三字が記載され、第一字目は
片仮名の「チ」、第三字目は同「マ」と読むことができる。第二字目は記載が不正
確で、片仮名の「マ」とも「ヌ」とも読める。第一字、第二字の筆勢が強いところ
から判断すると、第二字目を記入するときに第三字(「マ」)が念頭にあるため、
「カ」と書くべきところを誤つて「マ」に類似した不明瞭な記載となつたものと推
認される。全体としてA候補の氏に類似しており、同候補の有効票というべきであ
る。上部の意味不明の記載は、漢字の第一画又は第二画を書きかけて書き損じ、抹
消したものと解されるから、有意の他事記載とは認められない。
(7) 別表番号15の投票について
検証の結果(写真15参照)によれば、本件投票には、極めて稚拙な字体ながら、
片仮名で「G」と横へ上下二段に二度記入されていることが認められる。その他の
意味不明の筆跡は、その態様からみて、書き損じの跡であり有意の他事記載とは認
められない。
(8) 別表番号16の投票について
検証の結果(写真16参照)によれば、本件投票には、独得の筆跡(漢字)で、
「A」と記載されていることが明らかであり、有意の他事記載があるものとは認め
られない。
(9) 別表番号17の投票について
検証の結果(写真17参照)によれば、本件投票には、稚拙な筆跡で平仮名の
「ち」、「か」、「ま」に類似した記載がなされていることが認められる。候補者
の氏名を念頭においてこれを見れば、選挙人が不完全、不充分ながら「G」と記入
しようとした意思が明白に読みとれるから、A候補の有効票というべきである。な
お、本件選挙において、別表番号37、38の各投票が原告の有効票とされている
ことを考慮しなければならない。
(10) 別表番号18の投票について
検証の結果(写真18参照)によれば、本件投票は、片仮名で「チカ」と記載され
ている。A候補の氏の一部を記入したものとして、同候補の有効票と解するのが相
当である。
(11) 別表番号19の投票について
本件投票は、漢字で「近間忠一郎」と記載されている。検記の結果(写真19参
照)によれば、手馴れた筆跡で一気に記入されていることが認められる。A候補の
氏名全部が含まれており、「郎」は記憶違い又は筆の走りによる誤記と推認される
から、
同候補の有効票と解すべきである。
(12) 別表番号20の投票について
検証の結果(写真20参照)によると、本件投票には、用紙の上部左端に小さく二
字と思われる記載があり、第一字目は漢字の「示」に、第二字目は平仮名の「た」
に類似し、そのように読めないことはない。しかし、「示」を漢字の「しめすん
(示)」と見て第一字を「福」と読むことは無理である(そのような略字は通用し
ていない。なお、新字体では「しめすへん」は「ネ」となる。)また、第一字が漢
字の偏であるとすると、第二字も平仮名ではなく、漢字の一部を書いたものとも考
えられる(「田」は非常に書き易い字であり、わざわざ平仮名で表記するまでもな
いといえる。)。これを要するに、本件投票は候補者の何人を記載したか確認し難
いものとして無効と解せざるを得ない。
(13) 別表番号21の投票について
本件投票には、「福田忠一」と記入されている。検証の結果(写真21参照)によ
れば、筆跡は明瞭で、四文字が字配りよく記入されていることが認められる。原告
の氏「E」とA候補の名「I」と完全に合致しており、これを混記したものとして
無効といわざるを得ない。
(14) 別表番号22の投票について
検証の結果(写真22参照)によれば、本件投票は、「U」と記載されていること
が認められる。「U」と原告の名「D」との間には類似性が少なく、誤記とは考え
られないから、本件投票を原告の有効票と解することはできない。
(15) 別表番号23の投票について
検証の結果(写真23参照)によれば、本件投票は片仮名で「V」と記載されてい
ることが認められる。第一字と第二字とを対照すると、第二字の「フ」はむしろ
「ク」に類似しその誤記とも解せられる。しかにそうであるとしても、「X」と
「C」では類似性が認められないから、本件投票を原告の有効票と解することはで
きない。
(10) 別表番号24、25の各投票について
検証の結果(写真24、25参照)によれば、本件各投票には漢字四字が記載され
ており、第一、第二字は「A」で第四字は「一」であるが、第三字は記載が不正確
で「忠」の誤字とも「恵」の誤字とも判定し難い。しかし、仮に「恵」の誤字であ
るとしても、「忠」と「恵」とは字形が似かよつているため、「忠」を「恵」の如
く記載したものと推認され、
選挙人の意思がA候補に対する投票であることは明白である。
3 参加人においてその効力を争う別表番号アないし力の各投票についての当裁判
所の判断は次のとおりである。
(1) 別表番号ア、イの各投票について
検証の結果(写真47、48参照)によると、本件各投票は平仮名で「つちや」と
記載されている。原告本人尋問の結果によれば、原告の父は昭和一三年から「つち
や」の屋号で酒類販売業を営み、昭和二七年に法人化」た(「株式会社つちや」)
が、山口県内では一番大きな小売店で、徳山市では広く知れわたつた屋号であつ
て、原告は昭和四七年に取締役となつたが、その前後を通じて右家業に従事してい
ること、原告は、昭和五四年四月の統一地方選挙、昭和五五年八月の補欠選挙に続
いて今回が三度目の立候補であり、他方、原告の父は、これまでいかなる選挙にも
立候補したことがないことが認められる。右事情の下では、本件各投票は、原告を
指示する通称を記載したものとして原告の有効票と解するのが相当である。
(2) 別表番号ウの投票について
検証の結果(写真49参照)によれば、本件投票は、全体として不明瞭な筆跡で第
一字目に漢字の「福」と、第三字もしくは第四字目に「一」と記載されていること
が認められるが、その他の記載は判読できない。しかし、第一字目が「福」である
ことは疑いなく、原告以外に「福」のつく候補者がいない本件選挙においては、本
件投票は原告の有効票と解すべきである。
(3) 別表番号エの投票について
検証の結果(写真50参照)によれば、本件投票は、第一字は「ち」と読めるが、
第二字は判読不能である。候補者の何人を記載したかを確認し難いものとして無効
というべきである。
(4) 別表番号オの投票について
検証の結果(写真51参照)によれば、本件投票は、極めて稚拙な筆跡でおよそ漢
字五字が記載されていることが認められるが、字形はいずれも明瞭性に欠けるとこ
ろがある。しかしながら候補者の氏名を念頭においてこれを見れば、第一字は
「近」の字の「しんによう」部分を「さんずい」(「シ」)のように誤記したもの
であり、第二字は「間」の不正確な記載、第三字は「一」であることが明らかであ
り、第四字以下は書き損じによるものと推認でき、有意の他事記載とは認められな
い。してみれば、本件投票はA候補の有効票と解すべきである。なお本件選挙にお
いて、別表番号36、38、ウの各投票が、原告の有効票とされていることを考慮
しなければならない。
(5) 別表番号カの投票について
検証の結果(写真52参照)によると、本件投票には仮名文字らしい記載がある
が、いずれも判読不能である。参加人の主張は採用できない。
三 本件点字投票の効力について
1 成立に争いのない-参加人との関係では弁論の全趣旨によつて成立の認められ
る-甲第三号証(点字一覧表)、検証の結果(写真26、27参照)によると、本
件投票は、投票用紙の裏面から表へ突き出して、右から左へ横書きで、法四七条、
同法施行令三八条一項別表第一で定める点字により「C」と記載されていること、
右投票用紙にぼ点字投票である旨の印はおされていないことが認められ、右認定に
反する証拠はない。
2 公職選挙法は、点字投票については四七条において「投票に関する記載につい
ては、政令で定める点字は文字とみなす。」と定めるだけである。すなわち、同法
は、点字投票をすることができる選挙人の範囲、その確認及び投票の拒否等につい
て何も規定していない(このことは、代理投票及び不在者投票については法及び施
行令にかなり詳細な規定があるのとは趣を異にしている。)。ただ施行令三八条二
項が、「盲人である選挙人は、点字によつて投票しようとする場合においては、投
票管理者に対して、その旨を申し立てなければならない。この場合においては、投
票管理者は、投票用紙に点字投票である旨の印をおして、これを交付しなければな
らない。」と定めるだけである(なお、不在者投票の場合における点字投票につい
て、施行令五〇条三項、五三条三項に規定がある。)。しかし、同条項は、そもそ
も法二七二条一項に基づき、法実施のための手続その他施行に関する事項を定めた
ものにすぎないと解されるところ、点字投票をする必要がある者は、必ずしも盲人
に限られないと考えられるのみならず、右条項によつても、いわゆる盲人とはどの
範囲の視覚障害者をいうのか不明であり、また盲人であることの確認手続について
も別段の規定はない。以上によつてみれば、施行令三八条二項の趣旨は、点字投票
をする選挙人に交付する投票用紙に、点字投票印をおすことによつて、開票の際、
点字投票と白票との選別、点字記載と単なる毀損、汚染等との判別を容易にし、も
つて開票を迅速かつ正確にすることにあるものと解すべきであつて、点字投票をす
ることができる者を盲人に限定し、同項の規定に反する点字投票を無効とすること
までを定めたものとは解せられない。すなわち、同条項は、通常点字投票をすると
考えられる選挙人である盲人が点字投票をする場合についての手続規定にすぎず、
運用においても、文字どおりに、必ず選挙人から点字投票をする旨の申し立てを待
たねばならないものではなく、点字投票をする盲人と認められる選挙人について
は、むしろ投票管理者において進んで点字投票をするかどうかを尋ね、その返答次
第で点字投票印をおすことも何ら妨げないものといわねばならない。
3 ところで、被告は、本件点字投票には、点字投票である旨の印がおされていな
いので、法六八条一項一号(所定の用紙を用いないもの)に該当し、無効であると
主張する。右にいう「所定の用紙」とは、地方公共団体の議会の議員の選挙につい
ては、当該選挙に関する事務を管理する選挙管理委員会の定める様式により、権限
ある選挙管理委員会が調製したもので、選挙の当日投票所において交付されたもの
を言い、点字投票については点字投票印がおされたものが所定の用紙であることは
もちろんであるが、施行令三八条二項の立法趣旨が前述のとおりであるとすれば、
単に点字投票印がおされていないことだけを理由に、当該点字投票を無効とするの
はいきすぎである。けだし、法六八条一項一号において、所定の用紙を用いない投
票を無効とするのは、投票用紙の公製公給制により不正投票を防止し、投票の秘密
を保持し、もつて選挙の公正を確保しようとするにあるから、右公正を害すること
を疑わせるに足る不正、違法使用の用紙であることが認められない限り、点字投票
印のないことの一事をもつて、所定の用紙を用いなかつたものとして当該点字投票
を無効と解するのは相当でないものといわねばならない。この点に関する被告の主
張は要するに、点字投票をする必要がない選挙人によつてなされる点字投票による
弊害をいうことに帰着するが、健常者でありながら点字投票をするのはよほど物好
きな選挙人であるというべく、そのような稀有の事例を心配する余り、結果的に
は、盲人の正当な選挙権の行使を侵害することになるような取り扱いは排斥されね
ばならない。
4 これを本件点字投票についてみるに、前記認定の事実及び弁論の全趣旨を綜合
すると、点字投票印がおされていないことを除けば、前記意味における所定の用紙
が用いられていることは明らかであり、他方、点字投票印がおされていないのは、
選挙人が点字投票の旨を申し立てなかつたことによるものか、申し立てたにもかか
わらず投票管理者が押印を怠つたことによるものかは不明であるが、点字投票をす
る必要のない選挙人において、ことさら点字投票をしたことを疑わせるような形跡
は全く認められない。右のような事情の下においては、本件点字投票に点字投票印
のないことは投票を無効ならしめる瑕疵に当らないものと解するのが相当である。
従つて、本件点字投票は原告の有効票(「C」は「D」の誤記であることは明らか
である。)と認めるべきである。
四 結束誤りの一票について
証人五郎丸賞の証言及び検証の結果(写真28ないし31参照)並びに弁論の全趣
旨を綜合すると徳山市開票区において原告の有効得票が一〇〇票あるものとしてホ
ツチキスで結束された投票束の一個に、現実には九九票が存在すること、右結束誤
り(有効投票(得票)の上部に添付され、投票とともに結束される付箋の票数欄に
記載された票数と現実に結束されている得票数との不一致)は、原告の本件異議申
出後、被告が徳山市開票区の投票を開披点検した際に初めて発見されたものである
こと、右開票区における開票事務では、第一点検係で各候補者毎に選別された有効
票(得票)を、二台の計数機で各別に計算したうえその一〇〇票を有効投票一〇〇
票と記入した付箋とともに一束にして目玉クリツプで止め(挾む)、これが第二点
検係(票の内容を精密に検査し、無効票、疑問票等の有無を調べ、疑問票等があれ
ばこれを除き(審査係に回付)、その分だけの有効票を補充する)、下計算係(付
箋に記入されている票数を集計する)、開票立会人(票の内容を検査し、疑問票等
があれば、これを除き有効票と差し換えること第二点検係と同様)、開票管理者、
得票計算係(付箋に記入されている票数を集計する)を経て得票整理係に回り、そ
こで目玉クリツプをはずして付箋とともに一〇〇票あるはずの得票をホツチキスで
結束する運びとなること、本件結束誤りが生ずるに至つた原因は明らかではない
が、開票の際に現実に存在した原告の有効票がその後紛失・毀損等した形跡は窺え
ないこと、以上の事実が認められる。
右認定を左右するに足る証拠はない。
右によれば、原告の有効投票一〇〇票とされた投票束に現実には九九票しか存在し
ないのであるから、これを九九票として原告の得票数を計算すべきことは当然とい
わねばならない。従つて、本件決定において右による一票を原告の得票数から減じ
た被告の措置は正当である。
五 以上の認定判断を綜合整理すると、次のとおりである。
1 参加人Aの有効票は、本件決定の認定した九四四一票(選挙会決定の得票数九
四四一票に別表番号1の一票を加え、同番号4の一票を滅じたもの)に、別表番号
オの一票を加えた九四四二票となる。
2 原告Cの有効票は、本件決定の認定した九四三九票(選挙会決定の得票数九四
四一票から、本件結束誤りによる一票を減じ、B候補の有効投票中に混入していた
原告の有効票一票を加えたものに、別表番号2、3の二票を加え、同番号5ないし
8の四票を減じたもの)に、本件点字投票の一票を加えた九四四〇票となる。
してみれば、本件選挙の当選人A候補の得票数はE候補のそれを上回り、選挙会で
決定した結果に異動を生じないとして原告の異議の申出を棄却した本件決定は正当
であつて、原告の本訴請求は失当として棄却を免れない。
よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 熊佐義里 土屋重雄 大西浅雄)
別紙一、二、別表(省略)

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