弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一、申請人が被申請人に対し雇用契約上の権利を有することを仮に定める。
二、被申請人は申請人に対し、金一〇〇万円および昭和四六年一〇月一日以降毎月
二五日限り一か月金四万八、七八〇円の割合による金員を、それぞれ仮に支払え。
三、申請人のその余の申請を却下する。
四、訴訟費用は被申請人の負担とする。
       事   実
一、当事者の求めた裁判
(一) 申請人
1 主文一、四項同旨
2 被申請人は、申請人に対し金三三三万五、〇四八円および昭和四六年一〇月一
日以降毎月二五日限り、一か月金七万九、七三〇円の割合による金員を、それぞれ
仮に支払え。
(二) 被申請人
1 申請人の本件仮処分申請を却下する。
2 訴訟費用は申請人の負担とする。
二、当事者の主張
(一) 申請の理由
1 被申請人は、テレビ放送等を目的とする会社であり、申請人は、昭和三七年三
月二六日、被申請人の従業員として入社し、勤務していたものである。
2 ところが、被申請人は、申請人が昭和四四年四月三日退職したとして、被申請
人の従業員としての地位を認めず同月一日以降毎月二五日払いの賃金も支払わな
い。
3 申請人が、昭和四四年四月三日現在被申請人より支払いを受けていた一か月の
賃金は、別紙(一)賃金、賞与明細書(1)記載のとおり四万八、七八〇円であ
る。
 ところで、その後被申請人は、従業員に対する賃金、賞与につき、前同明細書
(2)ないし(9)記載のとおり、申請人の所属する名古屋放送労働組合(以下
「組合」という。)との間で協定を締結し、また組合に対し回答をし、これに基づ
く賃金、賞与をそれぞれ支給した。
 右協定ないし回答に基づき、査定部分を除いた申請人の賃金、賞与を算出する
と、前同明細書(2)ないし(9)記載のとおりとなる(被申請人における昭和四
六年四月一日以降の大学卒初任給は、一か月五万一、五〇〇円となつている。)。
 従つて、申請人の昭和四四年四月一日から昭和四六年九月三〇日までの賃金、賞
与の合計額は、前同明細書(10)記載のとおり三三三万五、〇四八円となり、昭
和四六年一〇月一日以降の一か月賃金は、七万九、七三〇円となる。
4 申請人は、被申請人の従業員として支払われる賃金のみによつて生活を営んで
いるものであつて、他に資産がないから、右賃金が支払われないためその生活は著
しく窮迫している。
 申請人は、昭和四〇年一〇月三一日、申請外aと結婚し、家族は、夫aおよび子
供二名のほか、夫の実母の計五名である。そして、夫aも被申請人の従業員として
勤務し、従来、申請人とほぼ同額の賃金を得ていたものであるが、最近における諸
物価の著しい高騰のため、申請人の生活は、知人、組合等からの借金によつて、そ
の日暮しをしているありさまである。
 申請人は、もともと夫に扶養されていたわけではなく、前記のとおり自己の収入
によつて生活してきたものであり、かつ、夫は、申請人と被申請人間の雇用契約に
は無関係の第三者であるから、本件仮処分の必要性の判断に際し、夫の収入を考慮
すべきではない。
5 申請人は被申請人に対し、近く被申請人の従業員たる地位確認と、賃金支払い
の本案訴訟を提起するため準備中であるが、本案判決の確定を待つていては、著し
い損害をこおむる虞れがあるので、申請人が被申請人に対し雇用契約上の権利を有
することを仮に定め、かつ昭和四四年四月一日から昭和四六年九月三〇日までの賃
金、賞与合計三三三万五、〇四八円および昭和四六年一〇月一日から本案判決確定
まで一か月七万九、七三〇円の割合による賃金の仮払いを求めるため本件申請に及
んだ。
(二) 申請の理由に対する答弁および抗弁
1 答弁
(1) 申請の理由1項の事実は認める。
(2) 同2項の事実のうち、被申請人は、申請人がその主張日時に退職したとし
て、従業員として地位を認めず、賃金の支払いをしていないことは認める。
(3) 同3項の事実のうち、申請人の昭和四四年四月三日現在の一か月賃金が申
請人主張のとおりであること、その後、被申請人が従業員に対する賃金、賞与につ
き、申請人主張のとおりの協定を締結し、また回答をし、これに基づく賃金、賞与
を支給したこと、被申請人における昭和四六年四月一日以降の大学卒初任給は一か
月五万一、五〇〇円となつていることは認めるが、その余は争う。
 被申請人における従業員の基本給は、就業規則五〇条に基づく給与規則五条一項
において「職能給および年令給によつて構成する」旨規定している。ところが、被
申請人は、後記のとおり定年制を採用しているため、申請人のように三〇才以上の
女子従業員の基本給については、年令給の定めがないのでこれを算出できず、従つ
て、申請人主張の昭和四四年五月一日以降の賃金ないし賞与額もまた算出が不可能
である。そのうえ、賞与は、右給与規則二条によれば「会社の業績に応じて賞与を
支給することがある。賞与の支給額、配分、支給期日、その他の取り扱いについて
は、その都度決定する」旨規定している。従つて、申請人主張の各賞与は、後記の
とおり申請人が退職している以上、もともと受給対象者となり得ないことが明らか
である。
 また、被申請人は、従業員に対する昇給は辞令の交付をもつて、賞与については
「第何期賞与」なる文書の交付をもつて、その意思表示を明示しているが、申請人
に対しては、昭和四四年四月四日以降右のような辞令または文書を交付したことが
まつたくない。かえつて、別紙(一)賃金、賞与明細書(3)(4)記載の協定
は、被申請人がいずれも申請人に対する賞与は支給しない旨の意思表示を前提とし
て締結したものであり、また、同明細書(6)(7)(9)記載の回答書には、い
ずれも申請人を賞与の受給対象者から除外する旨記載し回答している(仮に申請人
に対し右明細書(9)記載の賞与が支給されるとしても、申請人は右支給対象期間
内に第二児を出産しているから、いわゆる産休をとつたものと推認されるところ、
右賞与額は、その産休日数に対応して控除することになつているので、申請人の主
張額は減額されるべきものである。)。
(4) 同4項の事実のうち、申請人が申請外aと結婚しており、その間に子供が
二名いること、夫aは被申請人の従業員として勤務していることは認めるが、その
余は争う。
 申請人の夫aは、昭和四三年当時、被申請人から賞与を含めた賃金として、一か
月平均約一〇万円の収入を得ていたものであり、昭和四六年においては、右平均手
取額が一五万二、九三二円に達している。ところが、昭和四三年度の都道府県人事
委員会調査による名古屋市の四人世帯の標準生活費は、五万五、五四〇円であるか
ら、右収入金額をもつてすれば、申請人を含む家族生活は充分可能であり、余剰金
が生じている筈である。従つて、賃金仮払いの保全の必要性が存しないことは明ら
かであり、この点に関する申請人の主張は独自の見解にすぎない。
(5) 同5項は争う。
2 抗弁(女子若年定年制の主張)
 被申請人の就業規則二五条は、被申請人における女子従業員の定年を三〇才とす
る旨定め(以下「本件女子定年制」という。)、また同規則二三条は、従業員が定
年に達したときは退職する旨規定している。ところで、申請人は、昭和四四年四月
三日の経過をもつて三〇才に達したので、被申請人を当然退職したものである。
(三) 抗弁に対する答弁および再抗弁
1 答弁
 抗弁事実のうち、被申請人主張のとおり本件女子定年制が存すること、申請人が
昭和四四年四月三日の経過をもつて三〇才に達したことは認めるが、当然退職した
との点は争う。
2 再抗弁(女子若年定年制の無効)
 被申請人の就業規則二五条は、本件女子定年制のほか、男子については五五才を
もつて定年とする旨定めているが、このようにひとしく被申請人の従業員でありな
がら、女子について男子より二五才も短い本件女子定年制は、性別による差別待遇
にほかならず、憲法一四条、労基法三条、四条の精神に反し、同時に女子従業員の
労働権、生存権を侵害するものであるから、民法九〇条により公序良俗違反として
無効である。
(四) 再抗弁に対する答弁および主張
1 答弁
 再抗弁事実のうち、被申請人の就業規則二五条が男子の定年を五五才と定めてい
ることは認めるが、その余は争う。
2 女子若年定年制の合理性
 本件女子定年制は、次のとおり合理的理由に基づくものである。
(1) 一般に、女性は男性とは生理的、肉体的に異なるものであり、わが国にお
いては、このような点から更に男女間に社会的な差異が生じているのが現実であ
る。すなわち、わが国の成年男子は、通常、自己または家族のため、終身労働すべ
きものであるとの観念のもとに、家庭外に出て労働に従事しており、これを当然視
して疑うものはない。ところが、女性は、出産と育児に象徴される先天的特性を有
するから、自然、必然的に家庭にあつて育児と家事に従事することになり、それが
母体の保護と子供の健全な育成のために必要不可欠となるのであつて、一定年令に
達した成年女子は、原則として、このような家庭人となつているのが現実の姿であ
る。
 このような男女の生理的、自然的差異と、これに基づく社会的な差異を直視する
ことは、本件女子定年制の合理性を考えるにつき大切なことである。
 就職する女性のほとんどは、右に述べた両性の自然的、社会的差異に由来する当
然の現象として人生の一時期を腰かけ的に勤務するにすぎず、しかも就職条件は、
労働時間が比較的短く、かつ、不規則にならないことを希望している。また、女性
の高校、短大等における就業教育も、その教科内容から明らかなように短期雇用を
前提としたものである。
 女性は、出産、育児ないし家事から全面的に解放されない限り、女子労働者とし
て男子労働者と同一質量の労働力を使用者に提供することは、およそ不可能であ
る。社会ないし企業が女子労働者に能率の高い労働力の提供を求めるためには、育
児施設の完備、生活環境の整備、生活様式の合理化が行なわれなければならない
が、このようなことは、社会の理想図としては描き出せるけれども、わが国におけ
る社会の現実では不可能といわなければならない(戦後の夫婦、子供を中心とした
核家族において、少年の犯罪ないし非行化の重大な背景となつたいわゆるカギツ子
問題は、夫婦の子供および社会に対する責任として反省されているところであ
る。)。そのうえ女子労働者は、男子労働者に比し体力的に恵まれないばかりでな
く、労基法において、生理、出産による休暇、深夜労働の禁止等を定めており、現
実に生理、出産による休養の必要があるから、労働価値が低い割合には高くつく労
働力である。
 以上のとおり一般的に女子労働者は、家庭に入ることを前提にした短期勤務であ
つて、男子労働力の補充的色彩が濃厚であり、労働価値も低いから、女子労働者
は、満三〇才に達した後は家庭人としてその保護を考えるべきであり、これが我が
国の伝統的家族観、結婚観にも適合するというべきである。
 被申請人が昭和三六年九月六日設立されて以来、昭和四四年四月三〇日までの間
に採用した女子従業員は計九〇名であるが、その間の退職者数は計四五名であり、
その平均勤続年数は三年三か月、平均退職年令は二三・九才である。また、被申請
人における昭和四四年五月現在の三〇才未満の女子従業員計四五名のうち、既婚者
は一〇名で未婚者は三五名である。
 被申請人と同じく民間放送会社における女子定年制についてみても、東海テレ
ビ、東海ラジオは本件女子定年制と同じく三〇才であり、関西テレビの場合は二五
才である。また、フジテレビ、ニツポン放送、仙台放送、福井放送等においては、
ほとんどが女子従業員と考えられる補助職務者は二五才をもつて定年としており、
その他一定職種の者は三五才とする例が多い。
(2) 被申請人は、民間放送会社として画像を放映することのみを業とするもの
であつて、一般企業と異なる特殊な企業性格を有している。すなわち、民間放送会
社は、一定時間に放送できる素材が限定され、右時間をこえて放送することは不可
能であり、同一時間に異なる周波数の電波を専有することも許されていない。従つ
て、被申請人の企業規模はおのずから限定され、これに必要な従業員数も一定人員
にほぼ固定されているのであつて、一般企業のように企業規模を順次拡大し、これ
に伴つて従業員数を増員することは不可能である。
 このようなことから、被申請人においては、人事の停滞と硬直化を防止し、企業
として健康な新陳代謝を促進することが要求されているのである。つまり、一定人
員の従業員数のわくの中で清新の気風を入れるため、毎年新規に学卒者を採用する
必要がある。そうでなければ、放送会社としての機能を充分に発揮し、社会の進歩
に追従できない虞れがある。また、放送会社の右新陳代謝は早い方が望ましく、そ
の方策として従業員を関連会社に配転することも考えられている。しかし、右配転
は、女子従業員の場合多くの困難を伴うことが予想されるばかりでなく、男子従業
員と同一に扱うことは、かえつて女子従業員に対する苛酷かつ不合理な取扱いとな
るので、避けなければならないと考えられている。
 被申請人における近年の女子従業員の採用人員は、年間五、六名にすぎないが、
この採用試験に応募する受験者は一二〇名ないし二〇〇名近くにのぼるのであつ
て、これら後進の就業希望者に対しても、すべて平等に就職の機会を与え確保させ
る意味においても、前記のように従業員数に制約があるもとでは、本件女子定年制
によらなければ、その方途を見出すことができない。
 被申請人のみが、ひとり他と異なつて本件女子定年制を採用しているものでない
ことは前記のとおりであり、かつ、もともと一定時期に退職する制度は、思わぬ時
期に退職を求められるよりも、従業員にとつては将来の生活設計をあらかじめ立て
ることができて、その生活安定に役立つから合理的である。
(3) 被申請人における昭和四六年三月現在の女子従業員数は四七名であるが、
その所属局部課、担当業務内容等は、別紙(二)女子従業員の所属局部課、担当業
務等一覧表の被申請人の主張欄記載のとおりである。つまり、女子従業員の担当業
務は、アナウンサーを除き主として書類の整理、配布、伝票の作成等のように単純
な定型的、補助的作業にすぎず、特別に高度な知識ないし経験、技能を要するもの
ではない。ところが、被申請人における賃金は年功序列型を採用しているため、女
子従業員も勤続年数すなわち年令の上昇に伴つて賃金が高くなる。被申請人は、こ
のように賃金体系上年功序列型をとり、かつ、女子従業員については、生理休暇は
所要日数、出産休暇は産前産後六週間を、いずれも有給として女子のみ特別に優遇
しているものであるが、男女の平等取扱いが同質のものを同一に取り扱うことだと
すれば、賃金につき、右のような業務を担当するにすぎない女子を、高度な知識な
いし経験、技能に基づき責任ある業務を担当する男子と同一に取り扱うことは、か
えつて不合理といわなければならない。
(五) 女子若年定年制の合理性に対する申請人の主張
1 (四)2(1)の事実のうち、一般に、女性は男性とは生理的、肉体的に異な
ること、女性にとつて出産、育児ないし家事が負担となつていること、労基法上、
申請人主張のような女子労働者の保護規定が存することは認めるが、その余は争
う。
 女性にとつての出産、育児は、七〇余年の生涯のうちの一時期にすぎず、家事も
漸次合理化されつつあつて、家庭における生活設計、子供の健全な育成もまた夫婦
共同の管理に移行しつつあるのが現状である。かくて、女子労働者の実態は、統計
上明らかなとおり、その労働人口は昭和三〇年以降次第に増加し、昭和四二年には
全労働者の三分の一を占めるに至つており、その平均勤続年数は四・一年に、平均
年令は二九才にそれぞれ上昇し、既婚者の増加等、女子労働者の定着化現象が明白
である。すなわち、女子労働者は、従来のように結婚までの腰かけ的勤務ではな
く、また単に男子労働力を補充するものでもなく、男子労働者と同様職業人として
の自覚をもつた労働者に変りつつある。被申請人の主張は、かかる社会の変化を看
過するものである。
 憲法一四条、労基法上の女子労働者に対する保護規定は、女性も男性と同じく働
く権利を認めるものであり、男女間の実質的平等を期するためには、社会的正義を
基準として正当目的のために差別することは必要なことである。労基法の右保護規
定は、女性にとつての出産、育児という社会的使命をそこなわしめないため、女子
労働者を母体ないし人間として尊重し、労働、生活関係上、男性との平等を実質的
なものとして保障せんとするものである。従つて、労働法上の保護規定の存在をも
つて、女子労働者を使用者にとつて高くつく労働者というのは、歴史的に勝ちとら
れた女子労働者の諸権利を奪い取ろうとする不当なものであることは明らかであ
る。
 被申請人主張の民間放送会社である関西テレビのほか、広島テレビも既に女子従
業員の若年定年制を撤廃し、フジテレビも労使間の合意成立までこれを適用しない
ことにしているのであつて、民間放送会社における右若年定年制は崩れつつあるの
が現状である。そして、中部日本放送は、女子従業員一〇〇名のうち、三〇才以上
の者が五六名であり、管理職が五名(部次長一名、課長代理三名、主任一名)とな
つている。また、日本テレビでは、三〇才以上の女子従業員は二九名で、そのうち
職制は八名であり、これを東京放送の場合でみると七四名と二名となつており、更
にNHK名古屋の場合は、女子従業員五二名のうち三〇才以上は二五名で、そのう
ち管理職が一名となつている。
2 同(2)は争う。
 被申請人主張の人事の停滞防止は新陳代謝の確保と同質であり、かかる主張自
体、被申請人の労務管理の古さと欠陥を自白するものである。被申請人は、前記の
ような女子労働者の実態ないし社会現象の進展にもかかわらず、女性は家事と育児
に天性があり、かつ、女子労働者を腰かけ的なものとして、女子労働者に対して教
育、訓練をほどこさず、また責任ある地位、職務にもつかせないで、その個人的能
力ないし技術の向上を可能ならしめることに否定的態度をとつている。従つて、人
事停滞の責任の大半は被申請人自身にあることが明らかであり、本件女子定年制自
体も、女子労働者の勤労意欲を減退させ、人事を停滞させるものにほかならない。
本件女子定年制の真の目的は、年功序列賃金体系のもとに、労基法の前記保護規定
に重荷を感じた被申請人が、高くなつた女子労働者をいつたん家庭に戻したうえ、
再び安い女子労働者を獲得することによつて、企業の利潤追求を図らんとするにあ
ることは明白である。
 被申請人は、本件女子定年制は、将来の生活設計ないし生活安定に役立つと主張
するが、このことは女子労働者に特有のことでもなく、合理的な理由とはいえな
い。
3 同(3)の事実のうち、被申請人における賃金が年功序列型を採用しているこ
とは認めるが、女子従業員の担当業務が単純な定型的、補助作業であり、右賃金体
系上、男子と同一に取り扱うことは不合理であるとの点は争う。
 被申請人における女子従業員の担当業務内容は、別紙(二)女子従業員の所属局
部課、担当業務等一覧表の申請人の主張欄記載のとおりであり、これをもつて一般
的に定型的ということはあたらないし、また定型的であることは補助的であること
を意味せず、単純、軽易で能力を要しないわけのものでもない。
 申請人は、実践女子大学文家政学部英文科を卒業のうえ、前記のとおり昭和三七
年三月二六日被申請人に入社したもので、以来昭和四三年六月五日まで企画局企画
部調査課に、同日以後は業務局編成部進行課に勤務するものである。
 右調査課には、申請人入社当時、課長のほか大学卒の男女各二名が配置され、そ
の業務内容は、視聴率、嗜好率調査、統計事務、報告書作成等であり、具体的には
サービスエリア調査、社会モニター関係業務、マーケツテイングリサーチ、考査
(放送に適しないセリフ、場面のチエツク、民間放送連盟提出資料の作成、視聴率
向上のための企画、実施等であつた。申請人は入社一年目は、社会モニター関係、
視聴率、嗜好率調査等を中心とした業務に従事していたが、二年目以降は右調査課
の業務全般を手がけるようになつた。被申請人の機構改革により、右課員は昭和四
一年一〇月には三名となり、更に同年一二月には一名退社したので、以来、右業務
は、男子主任と申請人の二名が、アルバイトを使つてこれを処理していた。
 ついで、申請人が配転された進行課は、別紙(二)女子従業員の所属局部課、担
当業務等一覧表の申請人の主張欄記載のとおり、男子従業員と同等の職務に従事し
ていたものである。
 このように申請人の担当業務も、決して単純な定型的、補助的作業といえないこ
とが明らかであり、被申請人の主張は、その前提に誤りがあるといわなければなら
ない。
三、疎明関係(省略)
       理   由
一、被申請人は、テレビ放送等を目的とする会社であり、申請人は、昭和三七年三
月二六日、被申請人に入社し従業員として勤務していたこと、被申請人は、昭和四
四年四月三日、申請人が退職したとして、以来申請人の従業員としての地位を認め
ていないこと、被申請人の就業規則二五条は、被申請人における女子従業員の定年
を三〇才とする旨の本件女子定年制を定めていること、申請人は、昭和四四年四月
三日の経過をもつて三〇才に達したことは、いずれも当事者間に争いがなく、成立
に争いのない疎甲第二号証によれば、右就業規則二三条二号は、従業員が定年に達
したときは退職とする旨規定していることが疎明される。
二、次に、被申請人の就業規則二五条は、女子についての本件女子定年制のほか、
男子については五五才をもつて定年とする旨定めていることは当事者間に争いがな
い。
 申請人は、右就業規則二五条が、女子について男子より二五年も短い定年を定め
ていることは、性別による差別待遇にほかならず、憲法一四条、労基法三条、四条
の精神に反し、同時に女子従業員の労働権、生存権を侵害するものであるから、民
法九〇条により公序良俗違反として無効であると主張し、被申請人はこれを争うの
で、以下この点につき判断する。
 憲法一四条は、基本的人権として法のもとにおける平等を宣言し、性別を理由と
する合理性のない差別待遇を禁止している。同条を受けた労基法四条もまた性別を
理由とする資金の差別を禁止し、同法三条は労働条件について国籍、信条または社
会的身分を理由とする差別を禁止している。ところが、労基法は、賃金以外の労働
条件については、性別を理由とする差別を禁止する規定を設けず、かえつて、同法
一九条、六一条ないし六八条は女子労働者を保護するため、男子労働者と異なる労
働条件を定めている。従つて労基法は、性別を理由に賃金以外の労働条件について
差別することを直接禁止の対象としていないと考えられる。
 ところで、本件のように就業規則による定年退職制は、退職に関する労働条件で
あることが明らかであり、本件女子定年制が男子の五五才に対し女子について三〇
才と著しく低いものであり、かつ三〇才以上の女子であるということから当然に労
働者としての適格性を失うとは即断できないから、もとよりそれは性別を理由とす
る差別待遇にほかならない。そして、性別による差別待遇が退職という労働契約終
了の効果をきたすものであつてみれば、労務の提供によつて生活を維持している労
働者の生存権、労働権をも侵害するものであるから、憲法一四条、二五条、二七条
の精神にもとることは明らかである。従つて他にこの差別を合理的に理由づけるに
たる特段の事情がない限り著しく不合理な性別による差別待遇であり、民法九〇条
による公序良俗違反として無効というべきである。
三、そこで、次に本件女子定年制についての合理的な理由の存否につき判断する。
(一) 成立に争いのない疎甲第五号証の一ないし四、六、疎乙第八号証、第二〇
号証、証人bの証言により真正に成立したものと認められる疎乙第三〇号証の一、
二、第三三号証および同証言、証人c、同d、同eの各証言、申請人本人尋問の結
果を総合すると、次の事実が疎明され、これに反する疎明資料はない。
1 被申請人は、昭和三六年九月、テレビ放送事業を営む民間放送会社として設立
されたもので、昭和三七年四月、東海地区をサービスエリアとして開局し現在に至
つている。被申請人の昭和四五年一一月現在における機構の大要は、本社に総務、
経理、業務、制作、報道、技術の六局を置き、支社を東京および大阪に設けてい
る。そして、本社に秘書室のほか、右六局のもとに部ないし室を、更に部によつて
は課ないし支局を置き、支社にも同様部ないし課を置いて、それぞれ業務を分掌し
ている。右のうち、報道、技術、制作局関係の職場は、二四時間中放送業務を担当
しているいわゆる現場部門となつている。
 被申請人の従業員数は、開局当時で約二六〇名、昭和四五年一〇月一日現在は二
五二名であつて、ほとんど変化がなく、右従業員のうち女子従業員は二四・五パー
セントを占めている。
 被申請人における昭和四六年三月現在の女子従業員数は四七名であり、その所属
局部課別人員および当該局部課の業務内容は、別紙(二)女子従業員の所属局部課
担当業務等一覧表の被申請人主張欄記載のとおりである。
2 本件女子定年制は、被申請人の設立に伴い、昭和三七年三月中旬に制定された
就業規則に規定され、現在に至つているものであるが、被申請人がこれを制定した
契機ないし事由は次のとおりであつた。
 すなわち、(1)女子労働者は安定した労働力として期待できないこと、つま
り、一般に女性は三〇才までに、結婚のため家庭に入る者が多く、長期勤続が期待
できず、更に出産、育児等のため欠勤が多く非能率であること、(2)通常、女性
はほとんど単純業務に従事しているが、賃金体系が年功序列のため、三〇才にもな
れば賃金が高くなつて高度な知識ないし技能または経験に基づき責任ある業務を担
当している男性との間に、平等を欠くことになること、(3)女性は、労基法上深
夜作業禁止等の種々の制約があるため、放送会社における現場部門に配置できず、
その職場は必然的に限定され、かつ、民間放送会社は、昭和三七年当時、既にラジ
オ時代からモノクロテレビ時代に移つていて、各局間の競争が激しく、次第に放送
局の自動化、製作部門の下請け等による企業の合理化が進行中であり、将来、単純
業務が増えることが予測されたこと、(4)昭和三七年当時、東海テレビ、東海ラ
ジオ、関西テレビ、仙台放送、山陽放送等の民間放送会社も、女子従業員につき二
五才ないし三〇才の定年制をとつていたこと、その他大学卒女性アナウンサーは、
卒業時既に二二才となつているので、二五才を定年とすることは低すぎること等が
主たる事由であつた。
3 被申請人は、このような本件女子定年制の制定事由に基づき、女性は結婚ない
し出産までの一時的就職にすぎないとの考えのもとに、女子従業員に対しては、原
則として能力のいかんを問わず、特別の研修を必要とするような困難な業務を担当
させず、単純業務に従事させるために採用している。
 そして、被申請人における昭和四四年以降の女子従業員の採用は、昭和四二年以
降の放送局におけるモノクロテレビからカラーテレビへの移行、UH局の増設等に
よる企業の合理化のため、従来のように社員として採用しないで、嘱託として特定
業務を担当させる目的で雇用期間を一年間と定めて採用し、右契約期間を更新する
形をとつており、将来は女子従業員をすべてこのような嘱託として採用する方針を
もつている。このため、被申請人における昭和四六年八月現在の女子従業員は四九
名であるが、そのうち社員は二五名で嘱託が二四名となつている。
4 ところで、被申請人の従業員をもつて組織する組合は、昭和三八年六月六日結
成されたものであるが、本件女子定年制については、昭和四二年九月二七日三〇才
の定年を迎えた組合員fのため、当時ストをもつて右反対闘争を展開し、以来強く
その撤廃を要求するようになつた。この結果、fは、右定年後も嘱託として一年の
雇用期間をもつて実質上従来どおり雇用を継続されたが、昭和四四年九月二七日の
契約更新に際し、被申請人提示の雇用条件が不利なため、遂に同日退職するに至つ
ている。
 被申請人において本件女子定年制をめぐつて労使間で特に問題となつたのは、右
fと、申請人の二例だけであつた。被申請人が、昭和三六年九月に設立されてから
昭和四四年四月三〇日までの間に採用した女子従業員は九〇名であり、その間の退
職者数は四五名であるが、そのほとんどは円満に退職しており、その退職事由も結
婚ないし出産によるものが全体の約九〇パーセントを占め、更に平均退職年令は二
三・九才で、平均勤続年数は三年三か月となつている。
5 そして、厚生大臣官房統計調査部人口動態統計課の「人口動態統計」によれ
ば、昭和四一年におけるわが国の女性の初婚平均年令は二四・五才であり、また子
供の出生は妻が二五才から二九才までの間が最も多くなつている。他方、労働省婦
人少年局編集の昭和四四年版「婦人労働の実情」によれば、昭和三九年から昭和四
三年にかけてのわが国の女子雇用者数は増加傾向にあり、昭和四三年においては、
雇用者総数のうち女子の占める比率は三二・八パーセントとなつており、右女子雇
用者の平均年令は二九才、その平均勤続年数は四・三年(男子の平均勤続年数は
八・六年)であつて、これらも上昇傾向を示している。また昭和三九年から昭和四
三年にかけ、女子雇用者のうち未婚者は減少し、逆に既婚者が増加している。
6 申請人は、昭和三七年三月実践女子大学文家政学部英文科を卒業し、同月二六
日入社後、当時の本社企画局内にあつたモニター課に勤務し、同年五月中旬から同
局内の考査課(その後調査課と改称)に配置され、ついで昭和四三年六月編成局編
成部進行課に配転された。
 右調査課の課員は、昭和三七年当時、男女各二名であつたが、その後多少の変遷
を経て昭和四一年一〇月には男子一名、女子二名となり、同年一二月以降は男子主
任と申請人の二名のみとなつた。
 申請人が調査課において担当していた業務は、主として視聴率、嗜好率の各調
査、モニター関係、民間放送連盟に提出資料の作成等であつた。視聴率、嗜好率調
査は、放送需要予測を目的としたもので、申請人は、昭和三九年ごろまでは企画か
ら実施までをアルバイトを使つて調査していたが、その後は実施を調査会社に委託
して、主として企画を担当することになり、かつ、右実施調査を基礎にして被申請
人に対する報告書をまとめる等の職務に従事していた。またモニター関係業務は、
社外モニターの募集事務および右応募者の原稿審査による採用関係を直接担当し、
かつ、モニター説明会における説明等に従事していた。更に民間放送連盟に提出す
る資料の作成は、三か月に一回、被申請人の全放送番組を教養、娯楽等に分類し、
その比率を算出する等を内容としたものであつた。
 次に、申請人の進行課における担当業務はスタンバイ業務であつた。その大要
は、まず放送時間、放送番組表等に基づき自己の担当放送番組を確認し、更にキー
局から送られてきたフイルム、ビデオテープの放送素材およびコマーシヤル素材に
よつて、その放送形態、形式を確認する。そのうえで、これをプレビユーしてその
放送時間を計り、コマーシヤルの挿入場所、形式等を決め、コマーシヤル進行表お
よび放送進行表に基づきキユーシート(疎乙第三三号証)を作成し、更にこれに基
づきキユーテープ原稿(疎乙第三〇号証の一)を作成する等の一連の作業であり、
右プレビユー作業は、一つでも過誤があると放送事故に連らなる性質のものであ
る。右進行課の課員は一三名であるが、そのうちスタンバイ業務を担当する者は女
子四名、男子五名の計九名であつて、男女間に右作業内容について差異がない。
(二) 以上の認定事実に基づき、本件女子定年制に合理的理由があるか否かを検
討する。
1 被申請人は、一般に女子労働者は、結婚ないし出産により家庭に入るまでの短
期勤続であり、男子労働者に比し労働価値が低いと主張する。
 なる程、統計上わが国の女性の初婚平均年令が二四・五才で、子供を出生する年
令が二五才から二九才にかけて一番多く、また、女子労働者の勤続年数が上昇傾向
にあるといつても男子の二分の一にあたる四・三年であることは、さきに認定した
とおりであり、また証人bの証言により真正に成立したものと認められる昭和四四
年五月一日付関東地区生産性労使会議調査研究部発行の「労使の焦点」に掲載の右
編集部調査の結果によれば、女子労働者の意識として、結婚ないし出産まで勤務し
たいとする者が六一・四パーセントを占めていることが疎明され、これらの事実を
あわせ考えると、女子労働者は、男子労働者に比し勤続年数が短いことが一応認め
られる。
 しかし、このことから、直ちにすべての女子労働者が腰かけ的な短期勤続である
と即断することは到底できない。
 そのうえ、わが国の女子労働者は、全労働者のほぼ三分の一を占め、その平均年
令が二九才に達していることは、前記認定のとおりである。そうとすれば、一般に
女子労働者が短期勤続であることを前提として、長期勤続の意思ないし意欲を持つ
た女子労働者も、一律に三〇才をもつて労働契約を終了せしめるようなことは許さ
れるべきではあるまい。
 従つて女子労働者が一般的に短期勤続の傾向にあるということは、本件女子定年
制の合理性を理由づけるに足りるものとは認めがたい。また、前記認定の被申請人
における女子従業員の退職事由、平均勤続年数ないし退職年令は、本件女子定年制
のもとにおけるものでもあり、なんら右結論を左右するものではなく、かつ、被申
請人と同じく他の民間放送会社において三〇才の女子定年制の定めがあることをも
つて、本件女子定年制の合理的理由があるといえないことはもちろんである。
 そして、証人bの証言をもつてしても、被申請人主張のように一般的に既婚の女
子労働者の労働価値が低いことを認めるにたりない。既婚女子労働者は、労基法六
五条、六六条により出産、育児について休業請求権を有し、また既婚、未婚を問わ
ず、女子労働者の同法六一条、六二条による時間外労働の制限ないし深夜労働の禁
止、あるいは同法六七条の生理休暇請求権等は、その限度で労務の不提供が許され
ているところであるが、このような労務の不提供をとらえて、女子労働者が非能率
ないし労働価値が低いということは、母体を保護し肉体的に異なる女性保護のため
の右規定の存在を無視するものであり、本件女子定年制の合理性を理由づけるもの
とは到底認められない。
 なお、成立に争いのない疎乙第一四号証の一、二、第一五号証によれば、両親の
共かせぎ家庭における子供、いわゆるカギツ子の少年犯罪ないし非行化が、社会的
問題となつていることが疎明されるが、右社会的問題につき企業が責任を負わねば
ならぬ筋合は何ら存しないから、企業がこれを女子若年定年制の存在理由の一つと
することは筋違いの論というべきである。
2 次に被申請人は、民間放送会社としての企業性格から、人事の停滞防止と新陳
代謝を図り、後進の就職希望者にひとしく就職の機会を与える必要があると主張す
る。
 被申請人は、放送法に基づく免許事業を営むものであるから、その法的規整を受
け、そきに認定したとおり設立以来従業員数がほぼ固定しているものと考えられ、
また証人c、同bの各証言を総合すれば、民間放送が開局された昭和二六年以降、
民間放送局の増設ないし放送技術の急速な進歩によつて、一般的に民間放送会社に
おいては、これに対応した企業の合理化が図られつつあり、女子従業員の若年定年
制もその一環であることが疎明される。そして、被申請人における将来の方針とし
て、女子従業員は、すべて雇用期間を一年とする嘱託に切替える計画を持つている
ことは、前記認定のとおりである。
 しかしながら、右のように企業の合理化に基づき、人事の停滞防止ないし新陳代
謝を図り、後進に就職の機会を与えることを理由として、女子について男子と差別
した定年制を敷くことは、一方的に女子にのみ犠牲を強いるものであつて、前記の
ように一般的傾向として女子労働者が短期勤続であることを考慮しても、到底合理
的な理由ということができない。また、一定時期に退職する制度は、将来の生活設
計に役立つとする被申請人の主張は、定年制一般の問題であつて、本件女子定年制
の合理性を理由づけるものといえないことは、いうまでもない。
3 次に被申請人は、女子従業員が担当する職務は、単純な定型的、補助的業務で
あるのに、賃金体系が年功序列型のため、年令と共に賃金のみが高くなり、高度な
知識ないし技能または経験に基づき、責任ある業務に従事している男子従業員との
間に不合理が生ずると主張する。
 しかし、申請人が、被申請人において担当していた業務は前記認定のとおりであ
つて、これをもつて単純な定型的、補助的業務といえないことは明白であり、ま
た、被申請人の主張自体からも、女性アナウンサーがこれにあたらないことは自認
するところであるから、被申請人の右主張は、その前提を欠き到底採用することが
できない。
 仮に被申請人において、女子従業員が単純な定型的、補助的業務を担当している
としても、申請人ら女子従業員が入社時にこのような業務のみに従事する旨の労働
契約を結んだと認めるに足りる疎明は何ら存しないから、さきに認定したとおり、
被申請人が、女子労働者は結婚ないし出産までの一時的就職にすぎないことを前提
として、その能力の有無を問わず、一律にこれを担当させている結果によるものと
認める外はないが、このような労務管理はそれ自体として甚しく合理性に欠けると
いうべきであるから、このような労務管理を前提とする被申請人の右主張はもとよ
り採用の限りではない。
(三) 以上のとおりであるから、本件女子定年制に関する被申請人の主張はいず
れも合理的理由がなく、他にこれを認めるにたる疎明資料はない。
 思うに、女子若年定年制に合理的理由ありと認められる場合とは、特定の業種ま
たは業務に必須の年令的制約が伴い、かつ非適格者に他業種または他業務への配転
の可能性のない特殊の場合であろうが、本件においては被申請人の全立証によるも
本件女子定年制がかかる場合にあたるとは認められない。
 従つて本件女子定年制は、女子従業員を男子従業員の五五才定年制と著しく不利
益に差別するもので、公序良俗に反し無効といわなければならない。
四、ところで、申請人が、昭和四四年四月三日現在、被申請人より支払いを受けて
いた賃金は、申請人主張のとおり一か月四万八、七八〇円であつたこと、その後、
被申請人は従業員に対する賃金を、同年五月一日、ついで昭和四五年四月一日およ
び昭和四六年四月一日よりそれぞれ引上げたうえ、これを支給したこと、被申請人
は、現に申請人に対する賃金を支払つていないことは、いずれも当事者間に争いが
ない。
 成立に争いのない疎乙第一〇号証、申請人本人尋問の結果により真正に成立した
ものと認められる疎甲第四号証によれば、被申請人における賃金の支払日は毎月二
五日であること、また賃金の計算期間は、基準給料(基本給、業績手当、住宅手
当、厚生手当等)については当月一日から末日まで、基準外給料(時間外勤務手
当、通勤手当等)については、前月一日から前月末日までとなつていること、申請
人は、被申請人より昭和四四年三月分までの賃金を受領していることが疎明され、
これに反する疎明資料はない。
 以上の事実によれば、本件女子定年制が無効であり、申請人が三〇才に達した後
においても、いぜんとして被申請人の従業員としての地位を有する以上、昭和四四
年四月一日以降毎月二五日に少なくとも四万八、七八〇円の賃金の支払いを受ける
権利を有することが明らかであり、昭和四六年九月三〇日までの右賃金による合計
額は、計算上一四六万三、四〇〇円となることも明白である。
五、次に被申請人が、申請人の従業員としての地位を否定していることは前示のと
おり当事者間に争いがなく、また申請人の家族は夫aのほか子供が二名であるこ
と、夫aが被申請人の従業員として勤務していることも当事者間に争いがない。
 前掲甲第四号証、成立に争いのない疎乙第四〇号証、申請人本人尋問の結果によ
り真正に成立したものと認められる疎甲第一〇号証および同尋問の結果、証人bの
証言を総合すると、申請人は、前記のとおり被申請人から賃金の支払いを受けられ
なくなつたので、昭和四四年四月以降は失業保険金を計二九万四、〇〇〇円余受領
したほか、組合から闘争資金の名目で毎月、当初は約四万円、その後は約一万六、
〇〇〇円の借金を重ねるに至り、昭和四六年九月末現在の右借金額は約七七万円と
なつており、組合費約八万円は滞納した儘となつていること、申請人は、目下アル
バイトとして自宅で近くの子供に英語を教え、毎月約一万五、〇〇〇円の収入を得
ていること、他方、申請人の夫aが被申請人から支払いを受けた賞与を含む賃金の
一か月平均手取額は、昭和四四年が約一〇万円、昭和四五年が約一二万七、〇〇〇
円、昭和四六年が約一五万三、〇〇〇円であつたこと、申請人は、昭和四〇年一〇
月三一日、夫aと結婚以来同居し生計を共にしていることが疎明され、これに反す
る疎明資料はない。
 以上の事実によれば、申請人は、夫aと生計を共にし、被申請人から従業員とし
ての地位を否定され、引続き賃金の支払いを受けられないときは、組合からの借金
額、最近における諸物価の高騰等にかんがみると、申請人の右従業員としての生活
が窮迫し、著しい損害をこおむるおそれがあると認めざるを得ない。
 そこで、申請人が被申請人に対し雇用契約上の権利を有することを仮に定め、賃
金の仮払いについては、前記認定の申請人の借金額、生活状況および夫aの収入等
諸般の事情を考慮すると、昭和四四年四月一日から昭和四六年九月三〇日までの分
については前記賃金一四六万三、四〇〇円のうち一〇〇万円を、昭和四六年一〇月
一日以降の分については、一か月四万八、七〇〇円の限度でその必要性を認めるの
が相当である。
 申請人主張の保全の必要性は、夫の収入を考慮すべきでないとの点は採用の限り
でなく、また、申請人主張の賃金引上げ後の賃金および賞与については、被保全権
利の存否を判断するまでもなく、保全の必要性に欠くというべきである。
六、よつて、本件仮処分申請は、右の限度において理由があるからこれを認容する
こととし、その余は理由がないから却下し、訴訟費用の負担につき民訴法九二条た
だし書きを適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 松本武 角田清 植村立郎)
(別紙(一)省略)
(別紙(二))
女子従業員の所属局部課、担当業務等一覧表
<18109-001>
<18109-002>
<18109-003>
<18109-004>
<18109-005>
<18109-006>
<18109-007>
備考(被申請人の主張)
一、編成課所属の「番組ハイライト」作成業務について
 「番組ハイライト」の放送時間は五分間であるが、前後一分づつのスポツトがあ
るため正味三分間である。被申請人の放送番組は、そのほとんどが東京、大阪のキ
ー局からマイクロまたはブイテイアールないしフイルムによつて送られてくるもの
であり、これら番組の予告フイルム、ピーアールフイルムその他の素材は、すべて
キー局または被申請人よりの依頼に基づき、これを作成した三共プラニングセンタ
ーより送られてくる。
 編成課に所属する女子の主要担当業務は、右素材をつなぎ合わせて三分間のもの
にする作業である。
 素材によつては、アナウンス、コメント作成、バツクグラウンドミユージツクの
選曲を要するものもあるが、アナウンスコメントの作成にあたつては、編成課デス
クで作成している各新聞社に対する番組紹介記事たるデイリーハイライトを参考に
して抜き書きする程度のもので、高度な判断を要する業務ではない。
 スポツト用フイルムに関する「番組ハイライト」の作成も、その制作自体は前記
のとおりであり、自社制作の番組に関してこれをみるに、その本数は年間一、二本
と僅少であり、かつ、その制作にあたつては、編成課内で毎月一回開かれる広報会
議によりピーアール要綱が決定され、女子従業員は、これに基づいて月間スケジユ
ールを作成し、編成課長の承認を経た後、現実のピーアール用フイルム、スライド
作成業務にあたるものである。更に、右フイルムの作成にあたつての主要業務は、
報道部にフイルム内容を指示するための台本作成であるが、これも編成課長のチエ
ツクを受けてから、スライドにおいては制作部美術室にその大綱のみを連絡し、具
体的なデザイン等は右美術室に一任するものである。従つて女子の担当業務のうち
では相対的には、やや自主的判断が入る業務とはいえるけれども、デイレクターの
役割を果たすものではない。
二、進行課の業務について
(一) デスク業務
 デスク業務とは、端的にいえば、マイクロ回線の確保に始まり、確定番組表、ス
ポツト予定表、キー局とのネツト連絡に基づき、放送進行表およびパンチ用原稿を
作成する業務である。
 キー局よりマイクロウエーブで送つてくる画を被申請人で放送する場合、マイク
ロウエーブの本数には制限があるため、右使用にあたりマイクロウエーブの監視を
している電々公社に対して一週間に一度マイクロウエーブ表によりマイクロウエー
ブの使用申請をし、マイクロ回線を確保する業務があり、これをしないとキー局よ
り出る画を受けられないことになる。
 次に、編成課より渡された確定番組表およびスポツト課より渡されたスポツト予
定表により放送の基本となる指図書たる放送進行表を作成する。確定番組表により
番組時間は一応決つているけれども、実際の番組時間や、番組の中に入れるコマー
シヤルの時間が一定してないものがあるため、このようなものにつき毎日二回キー
局と専用電話で連絡をとり、現実に放送される番組の放送開始、終了時間、コマー
シヤルの開始時間、ブランク時間(このような時間には番組宣伝のテロツプとか事
業ピーアールのテロツプを入れ放送に空白ができないようにする。)を確定する作
業が必要になる。これがネツク連絡の業務である。
 放送進行表が作成されると、次にこれをテイブイテープに打つためのパンチ用原
稿を作成し、これが放送進行表とそごしないかどうかをパンチヤーと協力してチエ
ツクすることになる。
 以上がデスク業務であり、これらはすべて進行課所属の男子が担当し、女子は一
名もこれにたずさわつていない。
(二) スタンバイ業務
 スタンバイ業務は端的にいえば、進行課長に指示された番組につき、キー局から
送られてきたフイルム、ビデオテープの時間的長さをはかり、番組課からくるコマ
ーシヤル進行表、進行課デスクが前記(一)の順路により作成した放送進行表の指
示どおりにキユーシートを作成し、これに基づきキユーテープ原稿を作成し、更に
素材を揃えて送出部に持つて行くという業務である。
 スタンバイ業務の最初の作業は、プレビユーである。番組素材であるフイルム、
ブイテイアールを試写して、その本編の時間をはかり、そのかたわらストツプマー
ク、スタートを決められたところに貼り、更に本編の画面が流れている間にオーバ
ーラツプして文字を流す(いわゆるスーパーテロツプ)場合の文字が画面の妨げに
ならず、かつ、目立つ場所を探す作業(いわゆるタイミング)をすることである。
 右時間測定に際し、スタンバイ担当者の現実に行う作業は、フイルムを映写機に
かけて回転させ、本編のフイルムの始まりと終りのところでボタンを押し、機械が
自動的に読み取つて記録した時間を読んでメモするだけの作業である。右プレビユ
ーに際しては、フイルムの古さとか、内容の適否の検討はまつたく要求されていな
い。
 プレビユーが終ると、キユーシートの作成にかかることになるが、右作成にあた
つては、放送進行表により番組の開始と終了の時間、当該番組に使用する機器の種
類等が指示されており、コマーシヤル進行表によりコマーシヤルタイムに入れるべ
きコマーシヤルのスポンサー名、素材が指示されているので、右指示に従つて忠実
にキユーシートに必要事項を記載すればよく、自己の判断をさしはさむ余地のない
定型的単純作業である。
 当該素材の本編の時間とコマーシヤル時間とを加えた時間が放送進行表に指示さ
れている放送時間に満たない場合、スタンバイ担当者は、右余剰時間に番組予告と
か事業ピーアールのテロツプやフイルム、フイラー等をそう入することになるが、
右そう入用のテロツプは、各曜日毎に一定の物が用意されており、右素材の中から
特定の物を選択するに過ぎず、フイルムの場合は、空白時間を告げて編成課にフイ
ルムの作成を依頼するのみで、いずれにしても複雑な判断を要する作業ではない。
 スタンバイ担当者は、番組ピーアールなどをそう入する場合これに対するアナウ
ンスコメントを作成するものではなく、右アナウンスコメントは、アナウンサーが
デイリーハイライトに基づき作成しているものである。
 キユーシート作成が終了すると、これに基づきキユーテープ原稿を作成し、これ
らを一方ではパンチヤーに渡すとともに、他方本編素材と番組課から渡されたコマ
ーシヤル素材とを合わせて、キユーシートと共に送出部に持つて行き、使用済素材
を送出部より受取り、ストツプマーク、スタートマークをはずす作業をする。
 以上がスタンバイ業務である。
(三) パンチヤー業務
 パンチ用原稿に基づきテイブイテープを、キユーテープ原稿に基づきキユーテー
プをパンチアウトし、右両テープをテープリーダーにかけるのがパンチヤーであ
る。
 以上

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