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事件番号:平成15年(ワ)第1090号
事件名:損害賠償請求事件
裁判年月日:H18.11.22
裁判所名:京都地方裁判所
部:第7民事部
結果:一部認容
登載年月日:H18..
判示事項の要旨:精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(平成11年改
正前)33条1項に規定する医療保護入院の前提となる指定
医の診察を受けさせる目的で,原告の家族の依頼を受けた医
師が問診を十分にしないまま,町職員らが原告を押さえ付け
た状態で,医師が精神安定剤を注射して,病院に搬送した行
為につき,医師及び町職員の行為が違法とされた事例
主文
1被告南丹市及び被告Aは,原告に対し,連帯して,110万円及びこれ
に対する平成15年7月11日から支払済みまで年5分の割合による金員
を支払え。
2原告の被告Bに対する請求並びに被告南丹市及び被告Aに対するその余
の請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は,被告Bに生じた費用を原告の全部負担とし,その余の費用
を10分して,その9を原告の負担とし,その1を被告南丹市及び被告A
の負担とする。
4この判決の第1項は仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1被告らは,原告に対し,連帯して,1100万円及びこれに対する平成
15年7月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2被告南丹市及び被告Bは,原告に対し,連帯して,110万円及びこれ
に対する平成17年6月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を
支払え。
第2事案の概要
1本件は,原告が,その夫であるCと旧八木町(市町村の廃置分合によっ
て平成18年1月1日から旧八木町を含む4町が合併し,同区域に南丹市
が設置された。以下「八木町」という。)の町長であった被告Bが,原告
を強制的に精神病院に入院させることを共謀して,C及び八木町職員らが,
平成10年2月25日,原告の身体を無理矢理押さえ付けて,医師である
被告Aが原告に精神安定剤を注射して原告の意識を失わせた上,原告の意
思に反してD病院まで連行したとして,被告南丹市に対して国家賠償法1
条1項に基づき,被告B及び被告Aに対して民法709条,719条に基
づき,慰謝料及び弁護士費用の合計1100万円の損害賠償金及びこれに
対する不法行為後である平成15年7月11日(訴状送達の日の翌日)か
ら支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払いを
求める(前記請求1)とともに,被告Bの指示を受けた八木町職員が,原
告の名誉を毀損する虚偽の事実等を記載した書面を作成し,平成10年3
月2日,これを被告AやD病院医師らに提供したとして,被告南丹市に対
して国家賠償法1条1項に基づき,被告Bに対して民法709条,719
条に基づき,慰謝料及び弁護士費用の合計110万円の損害賠償金及びこ
れに対する不法行為後である平成17年6月4日(請求拡張書面〔平成1
7年6月2日付け原告準備書面(第10)〕の送達の日の翌日)から支払
済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払いを求めた
(前記請求2)事案である。
2前提となる事実(争いがないか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって
容易に認められる事実)
(1)当事者等
ア原告は,昭和20年11月13日生まれの女性であり,原告とCは,
昭和46年2月3日,婚姻届出をした夫婦である(甲1)。
Eは,原告とCとの間の長男(昭和46年9月29日生まれ)であ
る(甲1)。
平成10年2月当時,原告は,当時の自宅にある美容院を経営して
おり,Cは,八木町議会議員の職にあった。
原告は,平成14年5月20日,名を「F子」から「G子」に変更
する旨の届出をした(甲1)。
イ被告南丹市は,平成18年1月1日,地方自治法7条1項に基づく
市町村の廃置分合により八木町を含む4町が合併して設置された地方
公共団体である(当裁判所に顕著である。)。
ウ被告Bは,平成10年2月当時,八木町長の職にあった者である。
エ被告Aは,京都府亀岡市内で開業する精神科医である。
オH,I及びJ(以下,この3名を合わせて「本件町職員3名」とい
う。)は,いずれも平成10年2月当時,八木町職員であった者であ
り,Hは八木町しあわせ課(町民の福祉等に関する業務を取り扱う課。
以下「しあわせ課」という。)課長,Iは同課主事の職にあった。
Jは,平成8年3月末まで,同課課長補佐であったが,平成10年
2月当時は,同町ふるさと振興課(以下「ふるさと振興課」とい
う。)課長の職にあった(証人J)。
(2)原告のD病院への移送経過の概要
アC,E,本件町職員3名及び被告Aは,平成10年2月25日,原
告の当時の自宅を訪れ,同所で,C,E及び本件町職員3名が原告の
身体を押さえ付け,被告Aは原告に対して精神安定剤であるイソミタ
ール等を注射した(なお,注射に至るまでの経過,注射した薬剤の種
類,注射後の原告の状態等の詳細については争いがある。)。
イその後,C,E,本件町職員3名,被告A及び原告は,八木町の公
用車でD病院に行き,原告は同病院でK医師の診察を受け,心因反応
と診断されて,同病院に入院(平成11年改正前の精神保健及び精神
障害者福祉に関する法律〔以下「精神保健福祉法」という。〕33条
1項に規定する医療保護入院。以下「本件入院」という。)すること
になった。
(3)甲3の記載内容及び作成経過等(甲3,証人I)
アIは,D病院のケースワーカーLの要請に応じて,本件入院当時ま
でにC及び被告Bから聴取した原告の生育歴や言動等をまとめた書面
(甲3の「C(聞き取り調査)」と題する書面。以下「本件聴取書」
という。)を作成して,Lに交付した。
イ本件聴取書中には,以下のような記載がある。
(ア)原告が3歳のときに両親が離婚し,その後母は会社社長の妾に
なった。
(イ)原告が幼いころから,母が次々と違う男を自宅に連れ込み肉体
関係をもっていた。
(ウ)原告は,長男を出産する際,「こんなつらい目にあわせるあん
たが憎い」等とCを責め,出産後ころから,原告に異常と思える言
動が目立ち始め,10年くらい前から異常さが増した。
(エ)8年前,原告は上半身裸の姿でいきなりカセットテープの束で
Cを殴りつけた。
(オ)Cが家に入ろうとすると原告が刃物を持って暴れる。
(カ)原告はいつもベッドの下に飾りの日本刀を隠していた。
(キ)原告が中身の入った缶ビールを息子の頭めがけて投げた。
(ク)原告がCに対し催涙スプレーを噴射した。
(ケ)原告が暴力団員に「夫を殺してほしい」と依頼した。
(コ)原告が三角関係のもつれから関係者と公道でカーチェイスを演
じた。
(サ)Cの母が亡くなる直前,原告がCの母に対し,「あんたはCと
関係があった」などと罵倒した。
(4)本件入院をめぐる訴訟の経過
ア原告は,平成10年5月12日,D病院を退院したが,平成13年
12月ころ,本件入院は,精神保健福祉法の規定する要件を満たして
おらず,退院までの間,違法に身体の自由を拘束された等として,京
都府,D病院及びK医師を被告として,京都地方裁判所に損害賠償請
求訴訟を提起した(京都地方裁判所平成13年(ワ)第3291号事件。
以下「別件訴訟」という。)。その後,原告は,平成15年4月15
日,本件訴訟を提起した。
イ京都地方裁判所は,平成17年9月29日,別件訴訟について,原
告の請求をいずれも棄却したが,原告はこれを不服として控訴し,現
在,控訴審で審理中である。
3争点及びこれに対する当事者の主張
(1)原告のD病院への移送が違法といえるか否か(争点1)
(原告の主張)
アCは,平成10年2月,原告と夫婦喧嘩をしたことをきっかけに,
原告を強制的に精神病院に入院させようと考え,被告Bに相談した。
イ被告Bは,同月24日夜,自宅で本件町職員3名と打ち合わせ,同
職員らに対し,事前にD病院に空きベッドがあることを確認した上,
被告Aの往診に同行し,原告をD病院に強制的に入院させるよう命じ
た。
ウ本件町職員3名は,被告Bの上記指示を受けて,同月25日午後4
時ころ,C及び被告Aらとともに原告宅に裏口から入り,いきなり原
告に襲いかかって原告を押さえ付け,被告Aは,本件町職員3名らに
よって押さえ付けられている原告に対し,その同意を得ることのない
まま,精神安定剤であるイソミタール,コントミン及びピレチアを無
理矢理注射して原告の意識を失わせた。そして,本件町職員3名らは,
意識を失ってぐったりしている原告を八木町の公用車に乗せて,原告
の意思に反して,強制的にD病院に連行した。
エ被告Aは,原告に入院の必要性があるか否かを判断するために原告
を診察することもなく,専らCら家族の意見に影響されて,原告に攻
撃性や自傷他害のおそれがあるものとして,当初から原告を強制的に
病院に移送する意図で,原告の同意を得ないまま注射に及んだもので
ある。
また,本件町職員3名は,何ら法令上の根拠もないのに,被告Aに
同行して,原告の身体を押さえ付け,同被告が注射をするのを幇助し
た上,原告を強制的にD病院に連行したものである。
これらの被告A及び本件町職員3名の行為は,原告を違法に拘束し,
原告の身体の自由を侵害したものであり,被告Aは,民法709条,
719条に基づき,被告南丹市は,国家賠償法1条1項に基づき,い
ずれも原告に対して損害賠償責任がある。
さらに,本件町職員3名の前記行為は,被告Bの指示に基づくもの
であるところ,同指示は町長としての地位・権限に基づくものとはい
えず,個人として行ったものであるというべきであるから,被告Bは,
原告に対し,個人として,民法709条,719条に基づき,損害賠
償責任がある。
(被告南丹市の主張)
ア本件町職員3名は,平成10年2月24日,被告Bから,しあわせ
課にCから相談があるかもしれないから相談にのってあげるようにと
の連絡を受け,これまでの原告の異常な行動について報告を受けた。
なお,Jは,当時,ふるさと振興課に所属していたが,従前,しあわ
せ課に所属しており,Cとも面識があったため,被告Bから上記連絡
を受けたものである。
イ本件町職員3名は,同日の夜,Cから,原告が包丁を振り回したと
の相談を受け,専門家に相談した方がよいと助言して,被告Aを紹介
し,翌25日に被告Aに往診してもらうことになった。
しあわせ課では,相談業務の一環として,相談者のために,各種関
係機関等へ同行することがあり,本件でも,被告Aが原告宅へ往診に
行くに際し,本件町職員3名が同行することになった。
ウ本件町職員3名は,被告A及びCらとともに,同月25日,原告宅
へ行った。そして,本件町職員3名と被告Aは,CとEが原告に対し
て入院するよう説得している間,建物の外で待機していたが,原告は
暴れている様子で,中から「お前,何するんや。」と大声が聞こえて
きたため,建物内に入った。
建物内では,原告がリビングのソファーに仰向けになって,Cに上
から押さえ付けられており,また,Cの眼鏡が床に落ちている状況で
あった。
エ被告Aは,原告に話しかけた後,Cの要請を受けて原告に精神安定
剤を注射することになり,被告Aから原告の身体を押さえておくよう
にと依頼された本件町職員3名は,被告Aが暴れている原告に対して
安全に注射ができるように,Cとともに原告の体を押さえた。
オ被告Aが原告に注射をすると,原告は落ち着き,その後,歩いて車
に乗った。原告は,D病院に行く車中でも普通に話をしていたのであ
り,注射により意識を失ったことはない。
カ上記のとおり,被告Aのした注射は,①原告が前日には包丁を振り
回し,当日にもCに暴行するなど自傷他害の事態に至る危険が切迫し
ている状況下で,②Cから治療を受けるように説得されても応じる様
子のない原告を,安全に病院に移送して診察を受けさせるため,③C
の依頼のもと,④医師である被告Aが,⑤暴れる原告に対して,必要
最小限の行為として,精神安定剤を注射したというものであり,本件
町職員3名は,被告Aの指示に従い,暴れている原告に対して安全に
注射を打つためにその身体を押さえていたにすぎない。
したがって,本件町職員3名の上記行為は正当行為であり,何ら違
法ではない。
(被告B及び被告Aの主張)
ア被告Bは,平成10年2月23日,Cから,原告が傘でCをつつく
などしてコートがぼろぼろになったこと,それまでにも原告に包丁を
振り回されて腹部を刺されたり,カセットテープの束で頭部を殴られ
るなどの暴行を受けており,もはや家族だけで対応するのは限界であ
ることなどを聞いた。
そこで,被告Bは,Cに対し,しあわせ課に相談するように言い,
翌24日,本件町職員3名を町長室に呼び,Cの相談にのってあげて
ほしいと伝えた。
Cは,同日,しあわせ課に相談し,その後,町職員とともに病院に
も行った。
同日の夜,被告Bが自宅で本件町職員3名から上記の経過について
報告を受けていたところ,Cがやってきて,原告が包丁を振り回して
襲ってきたと話したため,Iが被告Aに電話をして相談し,翌25日
に被告Aが原告を往診することになった。
そこで,被告Bは,本件町職員3名に対し,医師である被告Aの指
示に従うよう言った。
上記のとおり,被告Bは,Cから相談を受け,町長の職務として,
所管のしあわせ課職員らに相談にのるよう指示をし,また,職員らに
対しては,医師の指示に従うよう言っただけであり,被告Aの注射を
促したり,精神病院に無理矢理入院させるよう指示したことはない。
イ被告Aは,本件入院の前日である平成10年2月24日,八木町職
員から,Cの相談にのってほしい旨の連絡を受け,CとEの問診を行
ったところ,両名は原告に入院治療を受けさせることを希望していた。
この問診の際,原告が以前カーチェイスを演じたとか,Cに対し刃物
を振り回したことなど,原告の異常な行動についての話があったこと
から,被告Aは,原告が精神病に罹患している疑いが濃く,在宅での
治療が困難ではないかと考えた。そして,Cから往診の要請があった
ため,被告Aは翌25日に原告宅に往診することになった。
往診当日,被告Aは,事前にD病院に空きベッドがあることを確認
の上,本件町職員3名とともに原告宅に赴き,C及びEが原告に入院
するよう説得する間,屋外で待機していたところ,中から大声が聞こ
えてきた。
そこで,被告Aが本件町職員3名とともに家の中に入ると,Cがソ
ファーの上で原告の身体を押さえており,原告は仰向けになってなお
も暴れる様子であった。Cは,原告に対し「あなたは病院に行って治
療しなければならない。」と言っていたが,原告は興奮して,会話が
成り立つような状況ではなかった。
被告Aは,原告に対し,医師である旨名乗り,問診を始めたが,原
告はますます興奮した様子で,話ができる状態ではなかった。そして,
Cから原告を落ち着かせてほしい旨依頼されたため,原告の安全を図
るため本件町職員3名に原告の身体を押さえてもらい,原告の興奮を
鎮めるため,精神安定剤であるイソミタール,レボトミン及びピレチ
アを注射した。
ウ原告は,注射により落ち着き,自ら歩いて車に乗り込んで,D病院
へ行ったのであり,原告が注射により意識を失った事実はない。そし
て,原告は,D病院において,入院治療の必要性があると診断され,
同病院に入院した。
エ以上のとおり,被告Aのした注射は,医師としての正当な医療行為
であり,その後のD病院への搬送についても,原告は自ら歩いて車に
乗り込んでいるのであって,その経過に何ら違法な点はない。
(2)本件聴取書による原告に対する名誉毀損等の成否(争点2)
(原告の主張)
アIは,平成10年3月2日,本件聴取書を作成して,被告A及びL
にこれを提供したところ,本件聴取書には,実際には死別であるのに,
原告が3歳のときに両親が離婚したとか,Cの母は平成6年5月に死
亡しているのに,平成9年10月に死亡したなど,虚偽の事実が記載
されている上,原告の母について,「社長の妾になる」,「次々と違
う男を自宅に連れ込み肉体関係をもっていた」など,原告の母の名誉
を毀損する虚偽の事実が記載されている。
また,Iは,その職務上知り得た原告に関する情報を,原告の同意
を得ることなく第三者に提供したのであり,これが原告のプライバシ
ーを侵害することは明らかである。
イ原告は,本件聴取書の上記記載によって,その名誉及び名誉感情を
著しく傷つけられるとともにプライバシーを侵害され,重大な精神的
苦痛を被った。
ウ本件聴取書は,被告Bの指示に基づき,八木町職員であるIが作成
したものであるが,被告Bの上記指示は,八木町長としての職務権限
を違法に濫用・逸脱するものであり,故意に原告に重大な精神的苦痛
を与えたものであるから,被告Bは,原告に対し,個人として,民法
709条,719条に基づき,損害賠償責任がある。
また,Iは,八木町職員として,本件聴取書を作成し,これを第三
者に提供して原告に損害を与えたものであるから,被告南丹市は,原
告に対し,国家賠償法1条1項に基づき,損害賠償責任がある。
(被告南丹市の主張)
アIは,平成10年2月24日にC及びEから相談を受けた際,原告
の従前の言動について聴取し,これをメモに取った。また,Iは,上
記C及びEからの聴取に先立ち,被告Bからも概略について説明を受
け,その内容もメモに取っていた。
イ原告がD病院に入院した後,同病院のケースワーカーからしあわせ
課に対し,原告のこれまでの状況やしあわせ課が把握している情報を
教えてほしいと連絡があった。そこで,Iは,CやE,被告Bらから
聴き取りをした内容をまとめて本件聴取書を作成し,D病院に提出し
たのであり,その提供先は原告の医療に関わる医師等に限られている
から,事実を流布したわけではない。
ウ原告が虚偽の事実であると主張する部分については,いずれもIが
Cの発言を忠実に録取したものであり,それが事実に反するか否かを
判断することはIには不可能である。
エ仮に,本件聴取書の記載が原告の名誉を毀損するものであるとして
も,本件聴取書が作成・交付されたのは,原告を含む町民の健康とい
う公共の利害に関し,専ら公益を図る目的に出たものであり,また,
原告が指摘するように本件聴取書の記載中,事実に相違する部分があ
ったとしても,なおその主要部分においては真実であったというべき
である。
そして,Iは,原告の夫であるCから聴取した内容を整理して本件
聴取書を作成したのであり,その記載内容を真実と信じたことにつき
相当な理由があるから,原告に対する名誉毀損は成立しない。
オ本件聴取書は,原告の治療に資するため,原告に対する医療行為を
行う病院ないし医師に対してのみ交付されたものであり,このような
目的・交付先に照らせば,原告のプライバシーを侵害するものとはい
えない。
(被告Bの主張)
被告Bは,本件聴取書の作成に何ら関与したことはなく,Iに作成を
指示したこともない。また,被告Bは,本件聴取書がD病院に提供され
たことも知らない。
(3)原告の損害(争点3)
(原告の主張)
ア原告は,被告Aにその意思に反して注射をされ,被告A及び本件町
職員3名らに強制的にD病院に連行されたことによって精神的苦痛を
受け,以下の損害を被った。
(ア)慰謝料1000万円
(イ)弁護士費用100万円
イ原告は,本件聴取書の提供による名誉及び名誉感情の毀損,プライ
バシー侵害によって精神的苦痛を受け,以下の損害を被った。
(ア)慰謝料100万円
(イ)弁護士費用10万円
(被告南丹市及び被告Bの主張)
原告の主張はいずれも争う。
(被告Aの主張)
原告の主張アは争う。
第3当裁判所の判断
1争点1について
(1)前記前提となる事実に加え,甲3,乙1,乙2,丙1ないし4,丙
8,丙11,丙12,丙15,丙21ないし23並びに証人C,証人I,
証人J及び証人Hの各証言並びに原告,被告B及び被告Aの各本人尋問
の結果並びに弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア本件入院前日までの経過
(ア)Cは,平成10年2月23日,被告Bの自宅へ行き,同被告に
対し,原告に傘でつつかれ,コートが破れた等と話した。
被告Bは,以前にもCから原告に腹部を刺された等の話を聞いて
いたことから,Cに対し,一度しあわせ課に相談に行ったらどうか
と助言した。
(イ)被告Bは,同月24日の午前中,本件町職員3名を町長室に呼
び,前日のCからの話及び原告の従前の言動等について話した上で,
Cの相談にのるよう指示した。
Cは,同日,八木町役場を訪れ,本件町職員3名に対し,原告が
暴行をふるって自分の身が危ない旨相談し,原告を医師に診察して
もらうことになった。
Cは,同日,J及びIに同行してもらい,亀岡市内のクリニック
Mで,D病院の医師でもあるN医師の問診を受けた。
N医師は,上記問診の結果,原告本人を直接診察しないと,最終
的な判断はできないが,自分は原告宅へ往診できないとして,被告
Aを紹介した。これを受けて,Cは,Eにも連絡を取った上,J及
びIとともに被告Aの開設する医院で被告Aに相談した。
このとき,C及びEは,被告Aに対し,原告がCを包丁で刺した
り,物を投げつけたりしたことや,カーチェイスを演じたことなど
を話し,原告を入院させたいとの希望を伝えたが,被告Aは,原告
を直接診察しないと入院の必要性を判断できない旨答えた。
(ウ)本件町職員3名は,同日夜,被告Bの自宅で,Cの相談を受け
た後の経過について,医師が原告を診察しないと分からない旨話し
ていること等を被告Bに報告したが,この報告中に,Cが「原告が
包丁様のものを振り回し,とても家の中に入れない。自分の身が危
ない。」と言って被告Bの自宅へやってきた。
そこで,Iは,被告Aに連絡を取り,往診を早くしてほしい旨伝
えた。被告Aは,原告に入院治療の必要性があった場合のために,
D病院に空きベッドがあることを確認の上,翌日の午後4時ころに
被告Aが原告宅へ往診することとし,合わせて,C及び被告Aの依
頼を受け,本件町職員3名が往診に同行することになった。被告B
は,本件町職員3名に対し,被告Aの指示に従うように言った。
(エ)Cは,同日,自宅には帰らず,Eの住むマンションに泊まった。
イ本件入院当日の経過
(ア)原告は,同月25日,自宅にある美容院で平常どおり美容師と
して仕事をしていた。
本件町職員3名は,原告宅への往診に同行する前に,被告Bに対
し,これから出発する旨報告した。これに対し,被告Bは,被告A
の指示に従うように話した。
(イ)被告Aは,同日午後4時ころ,原告宅への往診に先立ち,D病
院のN医師に電話をし,「今から注射をして連れて行く。」旨伝え
た。これに対し,N医師は,診察に支障があるから注射をせずに連
れてきてほしい旨話したが,被告Aは,原告は刃物を持っているか
らとても無理である等と答えた。
C,E,本件町職員3名及び被告Aは,同日午後4時ころ,八木
町役場で待ち合わせをし,原告宅へ向かった。そして,原告宅に到
着後,まずCとEが原告宅内に入り,リビングにおいて,原告に対
し,医師の診察を受けるよう説得しようと話しかけたところ,原告
がCの顔を叩いたため,Cは「何するんや」と叫び,Eとともに原
告をソファー上で押さえ付けた。
(ウ)被告A及び本件町職員3名は,当初,原告宅の裏口の外で待機
していたが,上記Cの声を聞き,裏口から原告宅内に入った。リビ
ングでは,C及びEがソファーの上で仰向けになっている原告を押
さえている状態であり,原告はなお暴れている状態であった。
(エ)被告Aは,原告に対し,医師である旨を話して,問診をしよう
としたが,原告は興奮しており,会話が成り立つ状態ではなかった。
(オ)Cは,被告Aに対し,原告を落ち着かせてほしい旨依頼し,被
告Aは,本件町職員3名に対し,原告の身体を押さえておくよう指
示し,被告Aから指示を受けた本件町職員3名は,C及びEととも
に原告を押さえ付け(以下「本件幇助」という。),被告Aは,こ
の状態で,原告に対し,精神安定剤であるイソミタール,レボトミ
ン及びピレチアを注射した(以下「本件注射」という。)。
(カ)本件注射後,原告は,おとなしくなり,八木町の公用車に乗せ
られ,C,E,本件町職員3名及び被告Aは,原告をD病院に搬送
した(以下「本件搬送」という。)。
その車中,原告は,病院に連れて行かれることについて納得して
いない様子で,不満を述べるなどしていた。
(キ)原告らは,同日午後5時ころにD病院に到着し,被告Aが,N
医師に対し,「イソミタール等を注射したが,もう覚めかけてい
る。」旨説明した。
原告は,同日午後5時30分ころから,D病院でK医師の診察を
受け,心因反応と診断されて,Cの同意のもと,同病院に医療保護
入院することになった。
(2)以上の事実を前提に,本件注射,本件幇助及び本件搬送(以下合わ
せて「本件移送」という。)が違法といえる否かについて検討する。
ア精神障害者と診断される前の移送について
(ア)本件入院は,精神保健福祉法33条1項に規定する医療保護入
院であるが,本件当時,同項に規定する指定医の診察を受けさせる
ために被診察者を精神病院へ移送する手続について定める規定はな
かった。
本来,医師の診察を受けるか否か,病院に入院するか否かといっ
た判断は,本人の自由な意思に基づいてなされるべきものであると
ころ,医療保護入院は,指定医により精神障害者と診断された者の
医療及び保護のため,保護者の同意を要件に,精神障害者をその同
意なくして入院させるものである。
そして,精神障害の疑いがある者について,医療保護入院の前提
となる指定医の診察を受けさせるために精神病院に移送する段階に
おいては,未だ医療保護入院の要件を満たす否かは不明であること
に照らせば,その移送には,原則として本人の同意が必要であると
いうべきである。
(イ)他方,精神障害は本人に病識がないことも多く,指定医の診察
を受けるために精神病院に移送することについて本人の同意が得ら
れない場合があることも否定できない。
そのような場合,いかに自傷他害のおそれが顕著であるなど緊急
に入院させる必要があっても,本人の同意がないために病院に移送
することができないとすることは,かえって,本人の医療及び保護
を害することになり,精神保健福祉法の趣旨にも反する結果となる。
(ウ)したがって,医師の診察の結果,精神障害者であると診断され,
その病状に照らして,自傷他害のおそれが顕著であるなど緊急に入
院させる必要が認められる者については,その保護者となるべき者
の同意がある場合には,本人の同意がなくても,医療保護入院の前
提となる指定医の診察を受けさせるために精神病院に移送すること
ができると解するのが相当である。
そして,その場合,本人を移送するために,保護者となるべき者
の同意のもとで,本人の行動を制限する措置をとることも,その方
法が社会通念上相当と認められ,かつ,移送の目的を達するのに必
要最小限のものである限り,許されるというべきである。但し,精
神安定剤の投与については,本人の心身に及ぼす影響に鑑み,本件
のように注射の方法によるにせよ,経口投与の方法によるにせよ,
医師によって行われ,かつ,身体の拘束等の他に適切な方法がない
場合に限られると解するのが相当である。
以下,この見地から,本件注射,本件幇助及び本件搬送が違法で
あるか否かについて検討する。
イ本件注射について
(ア)前記(1)ア(イ)(ウ)認定の経過のとおり,被告Aは,前日であ
る平成10年2月24日に,C及びEから原告の従前の行動等につ
いて話を聞いた上,原告を直接診察しなければ入院の必要性を判断
できないとして,原告宅に往診することになったのであるから,往
診の主たる目的は,原告を診察して,精神障害の有無や入院の必要
性の有無につき,医学的見地から判断することにあったと認められ
る。
そして,被告Aが原告に対し問診を試みた際,原告が興奮状態で
会話が成り立たない状況であったことは前記(1)イ(エ)認定のとお
りであるところ,被告Aは,この状況から,CやEから聞いていた
話が裏付けられたと考え,入院の必要性があると判断した旨供述す
る(被告A本人)。
しかしながら,被告Aが原告宅内に入った時点では,既にC及び
Eが原告を押さえ付けていたのであるから,被告Aにはどのような
経過で原告がC及びEに押さえ付けられるに至ったのかも分からな
いはずであり,また,押さえ付けられている状況下で原告がC及び
Eに抵抗して暴れているからといって,それが精神障害の影響によ
るものと直ちにいうことはできないから,原告を診察するためには,
まず,C及びEと原告を引き離し,原告の興奮が静まるか否かを見
極めながら,十分に問診を尽くすことが必要というべきである。
それにもかかわらず,被告Aは,問診を試みて会話が成り立たな
いことを確認すると,間もなく原告に本件注射をしており,その後
は問診等を行っていないのであって(被告A本人),十分に問診を
尽くしたとはいい難い上,上記注射までの間,C及びEと原告を引
き離したことも窺われない。
そうすると,被告Aは,不十分な問診しか行わないまま,専らC
やEから聴取した事情をもとに,原告に精神障害があると判断した
ものといわざるを得ない。
(イ)次に,本件注射について検討する。
注射は,身体への物理的侵襲を伴うだけでなく,精神安定剤を注
射した上で患者を病院に移送した場合,その薬効により,移送後の
医師の診察に支障を来す可能性があるから,この点からも移送に当
たって患者に精神安定剤等を注射することはできる限り避けるべき
であり,前記(1)イ(イ)認定のとおり,N医師も,往診前の電話を
受けた際,被告Aに対し,注射をせずに移送するよう求めている。
この点について,被告Aは,N医師に電話をしたのは本件注射後
であり,往診前に注射をすることを予告することはない旨供述する
が,上記電話の内容からして,注射前のやりとりであることは明ら
かであり,N医師が被告Aの発言を誤解したとか,架空の会話内容
を創作したとは考え難い(被告Aは,N医師が本件注射の薬剤を誤
って説明している点を指摘するが,3種類の薬剤を注射したという
点は合致しており,上記認定を左右するほどの矛盾とはいえな
い。)。むしろ,前記認定の会話内容からすると,被告Aは,往診
前の段階で,原告が刃物を持っているとの前提で,注射した上で移
送することを念頭に置いていたことが窺われる。
そして,被告Aは,原告が現にCに暴行をふるったり,刃物を振
り回したりしている状況を見ておらず,ほかに,問診時において,
原告に自傷他害のおそれが顕著であるなど,直ちに精神安定剤を注
射して原告の興奮を静める必要があったことを示す具体的な事情も
窺われない(Cは,原告が包丁を取りに行くような動きをした旨証
言するが,Eはその陳述書〔丙12〕ではこの点に全く触れておら
ず,また,原告宅の間取り〔丙15末尾に添付の見取り図〕からし
ても,上記事実を直ちに認めることはできない。)。
また,問診当日には,CやEのほか,本件町職員3名が同行して
いたのであり,いかに原告が興奮状態にあったとしても,その場に
は成人男性6人がいたのであるから,精神安定剤を注射しなくても,
自傷他害の事態を防止し,原告を安全にD病院に移送することは可
能であったというべきである。
(ウ)以上によれば,本件注射については,被告Aの問診では,本件
当時,原告に自傷他害のおそれがあるなど緊急に入院させる必要が
あったとは直ちに認められない上,本人の行動を制限する措置とし
て社会通念上相当とは認められず,かつ,他に適当な方法がなく,
必要最小限のものともいえない。
したがって,本件注射は違法というほかない。
ウ本件幇助について
本件町職員3名は,本件注射の際,被告Aの指示を受けて原告の身体
を押さえ付けているが,本件注射自体が違法であることは前記イで判
示したとおりである。
そして,本件町職員3名は,被告Aの往診の目的が原告を診察する
ことにあることを認識した上で,町の福祉にかかる業務の一環として
被告Aに同行したものと認められるところ,本件町職員3名が原告宅
に入った時点では,C及びEが原告を押さえ付けている状態であった
のであるから,まずはC及びEと原告を引き離すなどして,被告Aに
よる診察が可能な態勢となるよう補助すべきであったというべきであ
る。
それにもかかわらず,本件町職員3名は,上記のような補助をする
こともないまま,被告Aが十分な問診もしていない段階で,現に原告
が包丁を持っている等,危険が切迫した状況にもないのに,注射をす
るために押さえてほしいとの被告Aの指示に安易に従い,C及びEも
含め成人男性5名で原告を押さえ付け,被告Aの本件注射を補助した
ものであり,たとえ医師である被告Aの指示があっても,本件幇助は
違法であるというほかない。
エ本件搬送について
本件注射後,原告はおとなしくなり,車に乗せられていること(前
記(1)イ(カ)。なお,被告A及び本件町職員3名は原告は自ら車に乗
り込んだとの供述ないし証言をするが,本件注射後間もなくのことで
あること及び原告の後記車中での状態,言動に照らせば,原告が任意
に乗り込んだとは認められない。),D病院到着時に被告Aが「もう
覚めかけている。」と発言していること(前記1(1)イ(キ))等に照
らせば,車に乗り込んでからも,原告は本件注射の影響下にあったと
認められること,原告は,車中で,病院に連れて行かれることについ
て不満を述べるなどしていたこと(前記(1)イ(カ))を考慮すれば,
本件搬送が原告の意思に反するものであったことは明らかである。
したがって,本件搬送は違法というほかない。
オ以上によれば,本件移送は全体として違法といえる。
なお,原告は,D病院においてK医師に心因反応と診断されて,医
療保護入院しているが(原告がこの医療保護入院が違法であると主張
して別件訴訟が現在も審理中であることは前記前提となる事実(4)の
とおりである。),原告に精神障害があったか否かによって,本件移
送の違法性が左右されるとはいえない。
(3)被告Bの不法行為責任について
ア前記(1)ア認定のとおり,被告Bは,Cの相談を受け,本件町職員
3名に対してCの相談にのるよう指示しているところ,しあわせ課の
担当業務に関して,町長である被告B自ら,担当課員であるI及びH
のみならず,既にしあわせ課から他課に異動していたJに対して直接
指示をし,その後も自宅で本件町職員3名から報告を受けるなどして
いることからすると,被告Bは,Cとの個人的関係(本件当時,被告
Bは八木町長,Cは同町議会議員という関係にあっただけでなく,被
告Bの供述によれば,同被告はかつてCの父親に世話になったことも
あったと認められる。)を背景に上記指示をしたものといえる。
しかし,その指示は,Cの相談にのること及び被告Aの往診に同行
するに当たり,同被告の指示に従うことといった抽象的な内容にとど
まり,被告Bが,原告を入院させることについてCと共謀したとか,
本件町職員3名に対して,原告を強制的に病院に連行するよう具体的
に指示したとまで認めるに足りる証拠はない。
イ以上によれば,本件幇助及び本件搬送は,往診時の具体的な状況を
前提とするものであり,事前に被告Bが「医師の指示に従うように」
との抽象的な指示をしたからといって,本件町職員3名の本件幇助
(但し,これに加わったのは,本件町職員3名とC及びEの5名)及
び本件搬送(但し,これに加わったのは,本件町職員3名と被告A,
C及びEの6名)につき,不法行為責任があるとはいえない。
なお,本件注射は,被告Aが,往診時の具体的状況下で,医師とし
ての判断に基づいて行ったものであり,被告Bが本件注射を共謀・指
示した証拠はないから,同被告は,本件注射につき,不法行為責任が
あるとはいえない。
(4)まとめ
以上によれば,本件移送について,被告Aは民法709条,719条
に基づき,被告南丹市は国家賠償法1条1項に基づき,いずれも原告に
対して損害賠償責任がある。
2争点2について
(1)本件聴取書の記載
甲3によれば,本件聴取書には,前記前提となる事実(3)記載の事実
をはじめとして,原告やその家族の生育歴や,原告が異常な行動を取っ
たり,Cら家族に暴行を加えた事実等が記載されており,その中には原
告の社会的評価を低下させる事実の記載や原告のプライバシーに関わる
記載があると認められる。
また,本件聴取書には,原告の母について,「会社社長の妾」,「違
う男性を自宅に連れ込み肉体関係をもっていた」等の記載があり,これ
が原告の名誉感情を害するであることは否定できない。
(2)本件聴取書の作成の経緯・目的,交付の目的
ア乙8及び証人Iの証言によれば,Iは,平成10年2月24日に町
長室で被告Bから聞いた話(前記1(1)ア(イ))及び同日,Cから相
談を受けた際に聴取した事項についてメモをしていたこと,原告がD
病院に入院した後,Lから八木町の持っている情報を提供してほしい
と依頼を受け,上記メモを清書して本件聴取書を作成し,同年3月2
日にLに提供し,証拠上日時は特定できないが,被告Aにも提供した
と認められる(なお,甲5の1・2によれば,本件聴取書をL等に提
供することについては,C及びEの同意があると認められる。)。
イまた,原告の母に関する前記記載は,Cが原告自身から聞いた事実
をそのままIに話し,これをIが本件聴取書に記載したものと認めら
れる(丙22,弁論の全趣旨)。
(3)本件聴取書の提出は違法といえるか否か
ア上記(2)で認定したところによれば,本件聴取書は,D病院におい
て,医療保護入院中の原告に対して適切に医療及び保護を行う際の資
料として用いる目的で,Iがしあわせ課の業務の一環として作成した
ものであり,その作成経緯・目的に違法な点は見られない。
イまた,提供先も原告に対して医療を行う医師等に限定されていると
いうことができるから,Iが本件聴取書をL等に提供したことをもっ
て,公然と事実を摘示したということはできない(なお,原告は,後
日,別件訴訟において,本件聴取書が書証として提出されたことを指
摘するが,そのことをもって,Iが本件聴取書を提供したことが公然
と事実を適示したことになるとはいえない。)。
ウ上記ア,イに加えて,本件入院における原告の保護者であるCがD
病院への情報提供につき同意していること,C自身,A医院やD病院
において診察を受けた際,本件聴取書に記載されている事実等につい
ても自ら話していること(丙5)に照らせば,本件聴取書の提供が違
法とはいえない。
(4)まとめ
以上によれば,本件聴取書の提供は違法とはいえないから,本件聴取
書の提供にかかる原告の被告南丹市及び被告Bに対する請求はいずれも
理由がない。
3争点3について
本件町職員3名及び被告Aによる本件移送によって原告の被った精神的
苦痛に対する慰謝料としては,本件移送にかかる前記認定事実に加えて,
本件移送はもともと原告の家族であるC及びEが原告の入院を希望したこ
とに端を発し,被告Aは上記両名から相談を受けて往診することになり,
本件町職員3名はC及び被告Aから依頼されて同行することになったもの
であることを斟酌すれば,100万円が相当であり,弁護士費用としては
10万円が相当である。
4結論
以上によれば,原告の請求は,被告南丹市及び被告Aに対し,110万
円及びこれに対する本件移送の後である平成15年7月11日から支払済
みまで年5分の割合による遅延損害金の連帯支払いを求める限度で理由が
あるからこれを認容し,被告Bに対する請求並びに被告南丹市及び被告A
に対するその余の請求はいずれも理由がないから棄却し,主文のとおり判
決する。
京都地方裁判所第7民事部
裁判長裁判官田中義則
裁判官阪口彰洋
裁判官大橋弘治

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