弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中上告人に関する部分を破棄する。
     右部分につき被上告人の控訴を棄却する。
     控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人柳川俊一、同緒賀恒雄、同松永榮治、同水野秋一、同東條敬、同梅村
裕司、同松岡敬八郎、同吉田一司、同佐藤啓一郎、同米田昌弘の上告理由について
一 原審が適法に確定したところによれば、被上告人は、昭和四六年九月一日、国
家公務員法(以下「法」という。)六〇条所定の臨時的任用の職員として採用され
て新宿郵便局第二集配課に勤務していたが、同年一〇月二七日から名古屋郵政研修
所で初等部前期訓練を受け、右訓練の修了により、同年一一月一四日郵政省事務員
(法二条に規定する一般職の国家公務員にあたる。)として採用され、引き続き右
第二集配課に勤務していたが、同年一二月九日から昭和四七年一月一八日までの約
一か月余りの間に、五回にわたり、再三の上司の指導注意にもかかわらず、配達す
べき書留郵便物の通数を確認せずに配達に出発したり、書留配達証に受取人の受領
印を徴することなく帰局し、あるいは帰局後の査数確認をすることなく帰宅したり
してしまうなどの事務処理上の過誤を繰り返したほか、同年二月二日及び同年三月
八日にも同様の過誤を繰り返し、また、同年一月二五日には、午前九時五分ころ、
上司の許可を受けずに職場を離脱し、所定勤務終了時刻である午後四時五分に至る
まで勤務をせず、同年三月八日にも、午後三時ころから約三四分間無断で職場を離
れ、帰局後注意した上司に対し、「歯医者へ行つて風呂に入つて来た」旨の反抗的
返事をするなどし、更に、同日から同月一一日までの間に、四回にわたり配達先か
ら、被上告人が配達の際、郵便物を足で蹴つたり、誤配郵便物を持ち帰るよう要請
しても応じないなどといつた趣旨内容の苦情申告があり、右苦情申告について注意
した上司に対し、「証拠がない」、「誰がそんなことをいつたか」などと言つて反
抗的態度を示したという事実があり、上告人は、同月一八日、叙上の諸事情に鑑み、
被上告人に対し、人事院規則一一―四(職員の身分保障)(以下「規則」という。)
九条に基づき免職処分をした、というのである。
二 原審は、その確定した事実関係のもとにおいて、被上告人に書留郵便物配達上
の過誤が数度あつたことは否めないが、配達出発前の局内における書留郵便物の通
数確認については、郵便物の授受が局舎四階の第三郵便課特殊係や前記第二集配課
の主事との間で数回行われる関係上、被上告人としてはその授受の都度通数確認を
しなければならないという事情があること、及び一日の配達郵便量が多く、配達所
要時間、交通事情等の関係から配達作業を急がねばならず、しかも郵便物一通ごと
に貼布されている書留配達証に受取人の受領印を徴してこれを取り外す作業ははん
雑であつて、書留配達証への受領印を徴することやそれを受領して持ち帰ることを
忘れることもありがちであつたことからすると、被上告人の配達事務処理上の過誤
の原因をもつぱら本人の資質、意欲の欠如等に求めることは妥当でないこと、昭和
四七年一月二五日の職場離脱については、退出後間もなく上司に対し電話で早退の
連絡をしており、全くの無断職場離脱とはいえないばかりか、右職場離脱は、上司
から妥当とはいえない口調で注意されたことが原因となつていること、上告人は、
同年二月一日、法八二条に基づき右職場離脱を理由として被上告人に対し戒告処分
をしたところ、上告人としては、右処分に際し、被上告人を規則九条により免職す
べきか否かをも考慮した結果、結局戒告処分を選択したものとみるべきであり、こ
れによれば、上告人は、それまでの事情一切を考慮しても、被上告人は郵政省事務
員としての適格性を有すると判断したものと解されること、被上告人は、同月八日、
上告人から本件免職処分についての予告を受けたが、これにより被上告人が受けた
精神的衝撃に徴すると、その後被上告人が勤労意欲を失い、上司に対し反抗的態度
を示すようになつたのも全く理解できないことではなく、右予告後の勤務上の失態
を重要視することは妥当でないこと、そして、被上告人は、前記の二月一日の戒告
処分後から同月八日の免職処分の予告までの間は大過なく勤務をしていたこと等に
鑑みれば、本件免職処分は、恣意的であり過ぎ、結果的に厳し過ぎるものであつて、
裁量権を濫用した違法がある、との判断を示した。
三1 しかしながら、書留郵便の制度は、書留郵便物の引受から配達に至るまでの
記録をしてその配達の確実を図るとともに、送達の途中においてこれを亡失しある
いは毀損した場合は損害を賠償しようとするものであり、郵便制度のなかでも確実
な配達が保障されているものであつて、右の確実性に対する国民の信頼が厚いこと
はいうまでもないところ、このような書留の取扱の趣旨・目的に鑑みると、配達出
発前の書留郵便物の通数確認、帰局後の配達証及び持ち戻り郵便物の査数確認は、
配達事故を防止するための最も重要かつ基本的な作業というべきものであり、また、
書留郵便物が配達先との間で授受されたことを確認する手段として、書留配達証に
受取人の受領印を徴することが重要かつ不可欠な手続であることも明らかである。
しかも、このことは被上告人において充分認識していたところであるばかりか、右
の各作業は、単純かつ基本的作業ともいうべきものであつて、配達出発前における
郵便物の授受が局舎四階の第三郵便課特殊係や前記第二集配課の主事との間で数回
行われることや一日の配達郵便量が多いことが右の基本的作業を励行するについて
支障となるものとはいえないから、被上告人においてその意思さえあれば容易に励
行することが可能なものであり、右の事務処理に関する過誤も郵政省事務員に通常
要求される注意力をもつてすれば容易に回避できたはずのものというべきである。
したがつて、被上告人が前記の事務処理上の過誤を短期間に五回以上も繰り返した
ことが、被上告人の職務に対する自覚、意欲、責任感等の欠如に基因するものとし
た上告人の判断に不合理があるということはできない。
 2 昭和四七年一月二五日の職場離脱については、被上告人が退出後電話で早退
の連絡をしたからといつて、無許可の職場離脱であることに変りはなく、右早退の
直前の被上告人に対する上司の注意が多少厳し過ぎると感じられるものであつたと
しても、右の職場離脱を軽視してよいということにはならないのであるから、上告
人が右職場離脱をもつて本件免職処分の理由のひとつとしていることに不合理があ
るということはできない。
 3 また、法八二条所定の戒告等の懲戒処分は、公務員関係における秩序を維持
するという観点から、職員にその個々の義務違反に対する責任を問うものであるの
に対し、規則九条に基づく条件附採用期間中の職員に対する免職処分は、職員の採
用にあたり行われる競争試験又は選考の結果だけでは職務を遂行する能力を完全に
実証するとはいい難いことから、いつたん採用された職員の中に適格性を欠く者が
あるときは、これを排除し、もつて職員の採用を能力の実証に基づいて行うという
成績主義の原則を実現しようとする観点から、その官職に引き続き任用しておくこ
とが適当でないと認められる職員に対しされるものであつて、前記の二つの処分の
性質は本質的に異なるものであるから、条件附採用期間中の職員に義務違反行為が
あつた場合、処分権者としては、当該職員に対し、法八二条所定の免職処分以外の
懲戒処分をすると同時に、それ以前の勤務実績をも併せ考慮することによりその官
職に引き続き任用しておくことが適当でないと認めたときは、規則九条に基づき免
職処分をすることもできれば、必要に応じ、右の免職処分を留保してとりあえず懲
戒処分をするにとどめ、その勤務実績をも考慮に入れたうえその適格性の有無を判
断することもできるというべきである。以上によれば、処分権者が右職員の義務違
反行為に対し規則九条に基づく免職処分をすることなく法八二条所定の免職処分以
外の懲戒処分をしたからといつて、直ちに当該職員の適格性を肯定したことにはな
らないというべきであるから、上告人が昭和四七年二月一日被上告人に対し右職場
離脱を理由として戒告処分をしたことをもつて、上告人が、その時点までの事情一
切を考慮して、被上告人の郵政省事務員としての適格性を肯定したものと断定する
のは相当でない。
 4 更に、免職処分の予告を受けた者の受ける精神的衝撃を無視することはでき
ないとしても、右予告後の事実も、それ以前の前記の諸事実との関連において考え
ると、軽視し難いものといわなければならない。
 5 したがつて、前記のような事務処理上の過誤、職場離脱、苦情申告の内容、
上司に対する反抗的態度等をも総合勘案すると、被上告人には自己の職務に対する
自覚、意欲、責任感等や服務規律に対する認識が欠けているものとして、上告人が
規則九条に基づいてした本件免職処分が、裁量権の範囲を超え、これを濫用してさ
れた違法なものであるとすることはできないというべきである。
 四 そうすると、原判決が本件免職処分には裁量権濫用の違法があるとしたのは、
法八一条一項、規則九条の解釈適用を誤つたものであるといわざるを得ず、右違法
は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり、原判決は破
棄を免れない。
  そして、既に説示したところによれば、本件免職処分を違法ということはでき
ず、これを取り消すべき瑕疵はないというべきであるから、本件免職処分の取消を
求める被上告人の本訴請求を棄却した第一審判決は正当であり、本件控訴はこれを
棄却すべきものである。
 よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇八条一号、三九六条、三八四条、九六
条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    大   橋       進
            裁判官    木   下   忠   良
            裁判官    鹽   野   宜   慶
            裁判官    牧       圭   次
            裁判官    島   谷   六   郎

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