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主文
原判決を破棄する。
本件を東京地方裁判所に差し戻す。
理由
本件控訴の趣意は主任弁護人高橋俊彦弁護人坂根真也同布川佳正同,,,,
竹内明美及び同高木洋平連名作成の控訴趣意書控訴趣意訂正書控訴趣意補,,
充書()及び同()に記載されたとおりであるから,これらを引用する。12
第1訴訟手続の法令違反の主張について
1Aの各検察官調書の採用決定について
論旨は要するに原審及び原判決はAの各検察官調書原審甲39同,,,(,
乙58ないし6165ないし71を刑訴法321条1項2号前段の要件を,)
満たすとして採用し有罪認定の用に供しているが証人が証言を拒絶した場,,
合に同号前段の供述不能に当たる場合があるにしてもその証言拒絶は一時的,
なものでは足りず相当な期間内に翻意して証言する可能性が認められるとき,
には同号の要件を満たしているとはいえない上前記の各検察官調書には信,,
用性の情況的保障も認められないのにAが自身の公判が終わっていないので,
証言を差し控えたい旨述べて証言を拒絶し自身の公判が終了した後に証言す,
る意思がある旨を明確にしていないから同号前段の要件を満たすとした原判,
決はその解釈適用を誤ったもので判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟,,
手続の法令違反がある,というのである。
()そこで検討すると,記録によれば,Aは,平成21年5月19日の原1
審第4回公判期日に検察官請求の立証趣旨を殺人及び死体遺棄の共謀の状,「
況犯行状況等とする証人として出廷し宣誓した上で被告人と友人関係,」,,
,にあること,被害者の遺体が群馬県内に埋められていたのは知っていること
検察官調書については内容に納得して署名指印したものもあるが流されて,,
署名指印したものもあることなどごく一部の尋問に答えたものの本件に関,,
,しては,殺人には関与していないとだけ述べ,その余の大半の尋問に対して
自らも本件の共犯者として別に起訴され刑事裁判が係属中で殺人につき否認
しているのでここでの証言が自己の裁判で不利益に使われたくないなどと,,
して証言を拒絶したしかし他方でAはこの場で証言することができない。,,
のは被害者の遺族に申し訳ないと思っているが現状としては証言を拒否す,,
るとか遺族も来ているし話したい気持ちもあるとか自分自身も証言した,,,
方がいい内容もあると思うが弁護人と協議した結果証言を拒否することに,,
なったのでとか私には判断することができないので拒否するとかなどとも,,
証言している。そして,自らの弁護人が許せば証言する用意があるかどうかは,
弁護人と実際に相談してみないと分からないが基本的には弁護人の指示に従,
おうと思っている,としている。
,このように,本件に関する尋問の大半について,Aが証言を拒絶したため
検察官は同じ原審第4回公判期日において前記の各検察官調書を刑訴法3,,
21条1項2号前段の書面として請求した原審は同年5月29日の原審第。,
6回公判期日において,これらを採用した。
()刑訴法321条1項2号前段に供述者が公判準備若しくは公判期日に2
おいて供述することのできないときとしてその事由を掲記しているのはその,
供述者を裁判所において証人として尋問することを妨げるべき障害事由を示
したものでこれと同様又はそれ以上の事由の存する場合において検察官調書,
に証拠能力を認めることを妨げるものではないから証人が証言を拒絶した場,
合にも同号前段によりその検察官調書を採用することができる最高裁昭和,(
26年(あ)第2357号同27年4月9日大法廷判決・刑集6巻4号584
頁。しかし,同号前段の供述不能の要件は,証人尋問が不可能又は困難なた)
め例外的に伝聞証拠を用いる必要性を基礎付けるものであるから一時的な供,
述不能では足りずその状態が相当程度継続して存続しなければならないと解,
される証人が証言を拒絶した場合についてみるとその証言拒絶の決意が固。,
く期日を改めたり尋問場所や方法を配慮したりしても翻意して証言する,,,
見通しが少ないときに供述不能の要件を満たすといえるもちろん期日を,。,
改め期間を置けば証言が得られる見込みがあるとしても他方で迅速な裁判,,
の要請も考慮する必要があり事案の内容証人の重要性審理計画に与える,,,
影響証言拒絶の理由及び態度等を総合考慮して供述不能といえるかを判断,,
するべきである。
()以上を前提に本件についてみると,Aは,自らの刑事裁判が係属中で3
あり弁護人と相談した結果現時点では証言を拒絶したいとしているにす,,,
ぎず他方で被害者の遺族の立場を考えると自分としては証言したいとい,,,
,う気持ちがあるとまで述べているのであって,自らの刑事裁判の審理が進み
弁護人の了解が得られれば合理的な期間内に証言拒絶の理由は解消し証言,,
する見込みが高かったと認められる現に被告人の弁護人作成の平成21年。,
5月21日付け証拠に対する意見書によれば原審第4回公判期日の終了「」,
後被告人の弁護人がAの弁護人に対し同年7月8日に予定されているA,,,
自身の被告人質問が終了した後は被告人の公判においてAに証言拒絶をさ,,
せずに尋問に応じさせてほしいと依頼したところAの弁護人から弁護,,,,
,団で協議するが,十分に検討に値する提案である,と前向きな返答があった
というのであるこれに対して検察官は何ら反論反証をしていないな(,,。)。
お原判決はA自身の公判が終了した後に証言する意思がある旨を明確にし,,
ていないことを供述不能の理由の1つとしているしかし供述不能に関する。,
立証責任は検察官にあるのであってAの証言意思裏返せば証言拒絶意思が,,
明確でないというならば,その点について立証を促すべきである。
原審は本件を公判前整理手続に付しあらかじめ争点及び証拠を整理した,,
上第8回公判前整理手続期日で審理予定を定め平成21年4月22日から,,
同年6月19日までの間に合計7回の公判期日を指定しているしかし第6。,
回公判前整理手続調書によると検察官は同期日においてAの取調べ状況,,,
等に関する捜査報告書謄本原審甲42及びAとその弁護人との接見状況(,)
等に関する回答書謄本同甲43を請求したのはAが全く証言しない可(,),
能性を考慮してのことである旨釈明している原審においてもこの時点でA。,
の証言拒絶を想定し得たはずであるそうであれば検察官に対してAの証。,,
言拒絶が見込まれる理由につき求釈明し,Aの審理予定を確認するなどした上,
Aが証言を拒絶する可能性が低い時期を見極めて柔軟に対応することができ,
るような審理予定を定めるべきであったのに原審はそのような措置を講じる,
ことなく,審理予定を定めている。
本件が殺人死体遺棄という重大事案であること被告人が犯行を全面的に,,
否認していることAは共犯者とされる極めて重要な証人であることなどを考,
え併せるとこのような公判前整理手続の経過がありながらAが前記のよう,,
な理由で一時的に証言を拒絶したからといって直ちに前記の各検察官調書を,
刑訴法321条1項2号前段により採用し有罪認定の用に供した原審及び原,
判決には訴訟手続の法令違反がある。
()次に,この訴訟手続の法令違反が判決に影響を及ぼすかを検討する。4
原判決は共犯者であるというB及びCの各原審証言を信用することができ,
るとしてこれらを基本に原判示の各事実を認定している前記のAの各検察,。
官調書は殺人及び死体遺棄の共謀の状況犯行状況等を含め広汎な内容をな,,
。すものであり,B及びCの各原審証言に符合する証拠と位置付けられている
しかしBとCは中学時代の同級生で友人関係にある上それぞれの証言,,,
によればBが最初に被告人から被害者を殺害することについて相談されたた,
め被告人にCを紹介したというのである本件においても2人は利害関係,,。
,が非常に近い立場にある。他方,Aは,Bとはわずかな面識があったものの
Cとは初対面であり別の経緯で犯行現場に来たというのであるB及びC,,。
とは利害関係が異なっているB及びCの各原審証言についてはその枢要部。,
分で概ね一致しているほか,被害者の日記(原審甲33の添付資料,Bから)
被告人に送信された携帯電話のメール原審甲32等の客観的証拠と符合し()
ているにしてもやはり本件まで2人とは利害関係が異なる立場にあったAの,
前記のような内容の各検察官調書と符合していることがその信用性を支える,
重要な要素である(なお,付言すると,被害者の日記(原審甲33の添付資
料には被告人が被害者に対し平成19年5月末までに共同で設立し),,,,
た会社株式会社Xへの出資金等の清算をめぐり3000万円を支払うこと()
になっていたというもう1人の共同出資者であるDの原審証言を裏付ける,,
記載があるもっとも被告人は清算金の金額を争い1655万円を本件(,,,
当日被害者に支払ったとしているしかしこのような状況があったにし,。)。,
てもそれをもって被告人が5月末までに被害者を殺害したいと強調してい,,
た,というB及びCの各原審証言を直接的に裏付けるとまではいえない。また,
携帯電話のメール原審甲32は同月28日午後9時2分にBから被告人(),
に対して転送されたもので「山に登ってみたけど人の匂いがするこんな近,
くじゃイベントはひらけない主催者にもっと遠くても確実な山絵文字を,()
探したほうがいいっていってみてというものであるこれは原判決が説示」。,
するとおり被害者の死体を遺棄する場所を探したが適当な場所が見付から,,
なかったので,それを被告人に伝えてもらおうと思ってBにメールを送信した,
というCの原審証言及びCから送信されたメールをそのまま被告人に転送,,
したというBの原審証言を裏付けるものである被告人が本件に深く関わっ,。
ていたことをうかがわせるものであるが殺害現場での被告人の関与役割等,,
についてまで,直ちに裏付けるものではない。。)
したがってこのような重要な位置付けにある前記のAの各検察官調書の証,
拠能力が認められず除外される以上原判示の各事実を認定する上で基本と,,
なっているB及びCの各原審証言の信用性判断にも影響を与える蓋然性があ
。る。前記の訴訟手続の法令違反は,判決に影響を及ぼすことが明らかである
論旨は理由がある。
2Eの証人尋問請求(原審弁33)に対する却下決定について
論旨は要するに本件では共犯であるという者の供述の信用性が重要な争,,
点でありこの点について攻撃防御を尽くさせて慎重に検討する必要があるの,
に共犯者の1人であるというCの供述と真っ向から対立する供述を捜査段階,
でしていたEの証人尋問請求原審弁33を却下した原審には判決に影響(),
を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反審理不尽があるというのであ,,
る。
()そこで記録を調査して検討すると,前記のとおり,本件は公判前整理1
手続に付され合計5回の打合せ期日のほか合計8回の公判前整理手続期日,,
を重ね,争点及び証拠の整理が行われ「①被告人がB,C及びAと共謀の上,,
被告人において被害者の殺害を実行したか②被告人がBCA及びFと,,,,
。共謀の上,被害者の死体を遺棄したか」が争点整理の結果として確認された
争点整理の経過をみると検察官は証明予定事実記載書の第5の13及び,,,
4において「共謀の成立状況等」に関する具体的事実として,被告人が親友,
のBに対して被害者の言動等について虚偽の事実を伝えた上で被害者を殺,,
害するため殺し屋の手配を依頼しBもこれを了承したことBは刑務所か,,,
ら出所したばかりであるCであれば殺し屋の手配をしてくれるのではないか,
と考え被告人にCを引き合わせたこと被告人から殺し屋の手配を依頼され,,
たCは殺し屋に渡す報酬として現金1000万円を受領するとともに被害,,
者の映ったビデオを受領したことCは知人に被害者を殺害するよう持ち掛,,
けるなどしていたが,知人が逮捕されてしまったことなどを挙げ,これに対し,
弁護人は予定主張記載書面の第5の2の()ないし()において被告人がB,,35
及びCに殺し屋の手配を依頼したことはないCに1000万円を渡したこと,
もないなどと争っていた。
本件以前に被告人がB及びCに被害者を殺害するため殺し屋の手配を依,,
頼したかどうかは被告人の犯人性本件の計画性等を裏付ける重要な間接事,,
実の1つであるとともにこのように述べるというB及びCの各供述の信用性,
を支える重要な事実の1つでもあるもちろん被告人が殺し屋の手配を依頼。,
した事実が認められなかったとしても直ちにB及びCの他の供述部分の信用,
性にまで影響を与えるかは慎重な検討を要するところであるが2人の供述の,
信用性判断に関し重要な争点の1つとして取り上げ当事者に攻撃防御を尽,,
くさせるべき事実である。原審は,一方で「被告人から殺し屋の手配を依頼,
された状況等という立証趣旨で検察官が請求した証人G原審人5を採用」()
しているなお同証人は召喚されていた原審第4回公判期日に出頭せず同(,,
第6回公判期日において,請求が撤回され採用決定が取り消されている)上,。
原判決においてB及びCの各原審証言の信用性判断に関し被告人から殺し,,
屋の手配を頼まれたとする点について供述が概ね一致しており互いに信用性,
を高め合っている,と最初に取り上げて説示している。これらのことからして,
原審も被告人が殺し屋の手配を依頼したかどうかはB及びCの各供述の信,,
用性判断に関する重要な争点の1つであるという認識を持っていたことがう,
かがえる。
そうであれば被告人から依頼されCにおいて手配した殺し屋として名前が,
挙がっているE自身が捜査段階でCから殺しの相談を受けていないし金,,,
をもらったこともないなどとB及びCの述べる経緯と整合しない供述をして,
いるというのであるからEの証人尋問については関連性及び必要性とも,,,
認められる弁護人によるEの証人尋問請求を却下し反証の機会を与えなかっ。
た原審には,証拠採否に関する合理的な裁量の範囲を逸脱した違法がある。
()次に,この点に関する審理不尽の違法が判決に影響を及ぼすかについ2
て検討すると,次のとおりである。
前記のとおり弁護人の立場からするとEの証言は被告人から殺し屋の,,,
手配を依頼されたとするB及びCの各原審証言を否定弾劾するものとなった,
蓋然性が高いもちろんEがB及びCの各原審証言を否定弾劾する供述を。,,
したとしても直ちにB及びCの各原審証言全体の信用性に影響を与えること,
にはならないが2人の各原審証言における重要な事実の1つについて大きく,
揺らぐ蓋然性があることは確かであるそのような蓋然性がある以上この審。,
理不尽は,判決に影響を及ぼすことが明らかである。
また前記のとおり前記のAの各検察官調書の証拠能力が否定されこれ,,,
を除外した上更にEの証人尋問を実施すればより一層B及びCの各原審証,,
言の信用性が揺るぎかねないのであってこれらの2つの訴訟手続の法令違反,
が判決に影響を及ぼすことは明らかである。
論旨は理由がある。
第2破棄差戻し
よって弁護人のその余の論旨につき判断するまでもなく刑訴法397条,,
1項379条により原判決を破棄し同法400条本文に則り前記のとお,,,
りAの再度の証人尋問及びEの証人尋問を実施しそれを踏まえ更に証拠調べ,
が必要ならばその審理を尽くさせるため本件を原裁判所である東京地方裁判,
所に差し戻すこととし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官阿部文洋裁判官山口雅高裁判官野原俊郎)

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