弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

       主   文
特許庁が平成4年審判第9151号事件について平成5年9月1日にした審決を取
り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
       事   実
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
主文と同旨の判決
2 被告
「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決
第2 請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
 原告は、名称を「食品の防腐方法」とする発明について、昭和59年2月23
日、特許出願をした(昭和59年特許願第31513号、以下「本件特許出願」と
いう。)ところ、平成4年4月22日、拒絶査定を受けた。原告は、上記拒絶査定
に対する審判請求書(以下「本件審判請求書」という。)の審判請求人欄を「株式
会社上野製薬応用研究所」と誤記したまま、同年5月20日、審判を請求した(以
下「本件審判請求」という。)ところ、特許庁は、この請求を平成4年審判第91
51号事件として審理した結果、平成5年9月1日、上記請求を却下する、との審
決をし、この審決書謄本は、平成5年10月27日、原告訴訟代理人に送達され
た。
2 審決の理由の要点
 本件審判請求書には、審判請求人として「株式会社上野製薬応用研究所」、審判
請求代理人として原告訴訟代理人の記載があるところ、本件審判請求は、請求人適
格を欠く者からなされた不適法な請求であり、その欠缺は補正することができない
から、特許法135条により却下すべきものである。
 なお、審判請求代理人は、審判長からの「本願の出願人と本件審判請求人が相違
している」点についての求釈明に対し、平成4年9月11日付けの回答書で、「株
式会社上野製薬応用研究所」の記載は、「上野製薬株式会社」の誤記である旨回答
し、同時に審判請求人を「株式会社上野製薬」と補正した「訂正審判請求書」
(案)を提出した。これに対し、審判長は、平成4年10月8日付けの手続補正指
令書(方式)で「審判請求人の名称を正確に記載した適正な審判請求書」の提出を
求め、併せて「株式会社上野製薬応用研究所の不存在を証明する書類、および上野
製薬株式会社の存在を証明する書類」の提出を求めたところ、審判請求代理人は、
平成4年11月19日付けで「株式会社上野製薬応用研究所も存在するため、不存
在を証明する書類を提出することはできない」旨の上申書及び登記簿抄本を添付し
た「審判請求人の名称を上野製薬株式会社と訂正した審判請求書」を提出した。し
かし、審判請求人の名称を「株式会社上野製薬応用研究所」から「上野製薬株式会
社」に補正することは、前記の上申書の記載からも単なる誤記の訂正とはいえず、
請求人を実質的に変更する補正であり、請求の要旨を変更するものであるから、特
許法131条2項に違反し、認めることはできない。
3 審決の取消事由
 本件審判請求書の審判請求人欄の「株式会社上野製薬応用研究所」は原告の誤記
であることが記録上明白であるのに、補正を許すことなく、本件審判請求を株式会
社上野製薬応用研究所がした請求であるとして、これを不適法却下した審決は違法
であり、取消しを免れない。すなわち、本件審判請求は、原告の出願に係る本件特
許出願に関するものであり、同出願代理人として、原告の原告訴訟代理人に対する
委任状が特許庁に提出されていたところ、この委任状における委任事項の範囲は、
本件特許出願の拒絶査定に対する審判請求も含まれているところである。そして、
本件審判請求書には、前記のとおり、審判請求人の名称こそ誤記したものの、特許
出願の番号、発明の名称、代理人の住所、氏名が正確に記載されていたのである。
もし、仮に株式会社上野製薬応用研究所が審判請求人であるならば、審判請求代理
人の代理権限を称する書面として、上記研究所の原告訴訟代理人宛の委任状が提出
されているはずである。しかるに、このような委任状の提出はない。したがって、
以上の関係記録から認められる事実に照らすと、本件審判請求書の審判請求人欄の
「株式会社上野製薬応用研究所」なる記載は、原告の名称の誤記であることが一見
して明白であるから、本件審判請求の申立人が原告であることに疑問の余地はない
というべきである。
 しかるに、本件審決は、本件審判請求の申立人を株式会社上野製薬応用研究所で
あるとして申立人の認定を過った結果、審判請求人適格を欠くとしたものであるか
ら、違法であり取消しを免れない。
第3 請求の原因に対する認否及び被告の主張
 請求の原因1のうち、原告が審判請求人の名称を「株式会社上野製薬応用研究
所」と誤記して本件審判請求をしたとの点は争うが、その余は認める。同2は認め
る。同3のうち、本件審判請求が本件特許出願に係るものであることは認めるが、
その余は争う。
 本件審判請求は、本件特許出願人であって当該出願の拒絶査定の名宛人である原
告又は原告から特許を受ける権利を承継した者であるとは認められない請求人「株
式会社上野製薬応用研究所」によって請求されたものであり、このことは、上記請
求人が、本件審判請求書に記載された住所に実在する法人であって原告とは別人格
の法人であることから明らかである。したがって、上記請求人の名称が誤記による
ものであるとは認められない。
 なお、審判請求人の訂正の適否については、当事者の名称の訂正(更正)という
点において共通性を有する特許登録名義人の更正の登録申請手続が参考となるとこ
ろ、該手続においては、更正の事実を証明することができる書面の添付を必要とす
る(特許登録令35条、同38条)。しかして、その際に必要な添付書面として、
登録された住所に登録名義人の名称(更正前の名称)と同一の者が存在しなかった
ことを証明する書面(不存在証明書等)の添付が求められている。してみれば、本
件審判請求人の訂正が認められるためには、上記の取扱いに準じて、訂正される請
求人の名称に該当するものが存在しないことを要するものと判断するのが相当であ
る。これを本件についてみると、請求人「株式会社上野製薬応用研究所」について
かかる証明書は提出されていないのである。したがって、上記請求人の名称を原告
に訂正することは、当事者の変更に当たり、請求人の同一性を害するものであるか
ら、特許法131条2項に違反して許されないものである。
 したがって、審決に原告主張の違法はない。
第4 証拠(省略)
       理   由
1 本件特許出願について、平成4年4月22日、拒絶査定があったこと、上記拒
絶査定に対して、原告訴訟代理人から、同年5月20日、審判請求人欄に「株式会
社上野製薬応用研究所」と記載した本件審判請求書が提出されたこと、特許庁は、
この請求を平成4年審判第9151号事件として審理した結果、平成5年9月1
日、前記の本件審決の理由の要点に記載した理由をもって、本件審判請求を却下す
る旨の審決をし、この審決書謄本が平成5年10月27日、原告訴訟代理人に送達
されたこと、以上の各事実は当事者間に争いがない。
2 上記の本件審決の理由の要点によれば、本件審決は、本件審判請求の請求人を
株式会社上野製薬応用研究所であるとした上、同研究所は、本件特許出願に対する
拒絶査定についての審判請求人としての適格を欠くとの理由に基づき、同研究所を
名宛人として本件審判請求を却下する旨の審決をしたものと解される。そこで、原
告適格の有無は職権調査事項であることに鑑み、まず、原告が、株式会社上野製薬
応用研究所を名宛人とする本件審決の取消しを求める適格を有するか否かについて
検討する。
 審決取消訴訟の原告適格を有する者は、当該審判請求事件の「当事者、参加人」
等で(特許法178条2項)、かつ、当該審決の取消しについて法的利益を有する
者と解するのが相当であるから、まず、原告が本件審判請求事件の「当事者、参加
人」等に該当するか否かについて検討する。
 いずれも成立に争いのない甲第1号証、同第2号証の1、2及び同第3号証によ
れば、原告訴訟代理人は、本件特許出願について、原告を代理して拒絶査定に対す
る審判の請求等を行うことの授権を内容とする原告の住所、名称及び代表者名を記
載した平成1年5月29日付け委任状を添付して同年6月27日付けで特許庁長官
に対し、代理人受任届を提出したこと、原告訴訟代理人は、平成4年5月20日付
けの本件審判請求書に、審判事件の表示として「特願昭59―31513号拒絶査
定に対する審判事件」、発明の名称として「食品の防腐方法」、審判請求人として
「住所 大阪府大阪市<以下略>(住居表示の変更に伴う住所変更)、名称 株式
会社上野製薬応用研究所(この記載は当事者間に争いがない。)代表者 A」、代
理人として原告訴訟代理人の住所、氏名をそれぞれ記載して提出したものであるこ
と、株式会社上野製薬応用研究所が上記記載の住所地に実在しているが、本件審判
請求に当たり、同研究所から特許庁に宛て、本件審判請求の代理権を原告訴訟代理
人に対して授権したことを証する書面の提出はなかったこと、以上の各事実が認め
られ、他にこれを左右する証拠はない。
 そこで上記認定の事実を基礎にして、本件審判請求事件における審判請求人の確
定の問題について検討するに、特許出願に対する拒絶査定は、特許出願に係る発明
に特許権を付与しない旨の行政処分であって、これにより不利益を受けるのは当該
特許出願人自身であるから、通常、当該特許出願人以外の第3者が拒絶査定を争う
利益を有するものではなく、このような観点から、特許法121条1項は、拒絶査
定に対する審判請求人を「拒絶すべき旨の査定を受けた者」に限定しているところ
である。そうすると、以上のような拒絶査定を巡る利害関係に照らすと、拒絶査定
を受けた出願人以外の第3者が当該拒絶査定に対して審判を請求するというには、
通常、かかる請求の利益を基礎付ける特段の事情が存するものと解するのが相当で
あるところ、株式会社上野製薬応用研究所は、本件特許出願の出願人ではなく、本
件全証拠を検討しても同研究所が本件審判請求を行う利益を有することを窺わせる
特段の事情を認めるに足る何らの証拠も見いだし得ないばかりか、同研究所から特
許庁に対し、原告訴訟代理人に本件審判請求を委任する旨の委任状の提出すらない
のである。したがって、これらの点からすると、同研究所を本件審判請求人として
みることは、審判を求める実質的利益の有無及び審判請求に必要な手続の履践状況
の各観点からみて、極めて不自然といわざるを得ないものである。
 これに対して、原告は本件特許出願に対し拒絶査定を受けた者であるから、審判
を請求する利益を有する上、
原告から原告訴訟代理人に対する本件特許出願の拒絶査定に対する審判請求につい
て授権を含む内容の委任状が本件審判請求前に既に特許庁に提出されていたことの
各事実が存し、これに前記説示のとおり、株式会社上野製薬応用研究所を本件審判
請求人とみることには重大な疑問が存したことを勘案すると、本件審判請求書の審
判請求人欄の前記記載のみを根拠に、同研究所を本件審判請求人とみることは相当
ではなく、本件審判請求書の前記審判請求人の名称の記載は、原告の名称の明白な
誤記であると認めるのが相当であるというべきである。
 この点について、審決は、株式会社上野製薬応用研究所が原告の住所地と同一場
所に実在したことを理由に、かかる場合には誤記とは認められない旨摘示するが、
かかる判断は妥当ではないというべきである。すなわち、まず、本件審判請求書の
審判請求人の名称が明白な誤記に当たるか否かの判断は、当該特許出願事件の出願
から審判請求に至る経緯を踏まえながら関係記録を総合的に観察して決すべきもの
であるところ、このような観点に基づくと、前述した本件特許出願に対する拒絶査
定の取消しを求めることについての利害関係の存否、本件特許出願事件における出
願代理人選任の有無及び本件審判請求書の記載状況等に照らすと、上記の誤記とさ
れる法人が不存在である旨の証明のないとの一事をもって、本件審判請求書の請求
人欄の記載が明白な誤記であるとの前記判断を左右することは到底困難といわざる
を得ない。したがって、誤記とされる法人の不存在を証する資料の提出がない場合
には誤記とは認められず、訂正は許されないとする審決の判断基準は硬直に過ぎ、
また、この点の根拠として被告が援用する登録名義人の更正の登録申請手続に関す
る特許登録令35条及び38条も登録名義人の氏名の更正の場合に必要とされる資
料を被告の前記判断基準のように限定しているものとは解されないから、これらの
規定を根拠に上記の判断基準を正当化することはできないというべきである。して
みると、本件審判請求書の審判請求人欄の「株式会社上野製薬応用研究所」なる記
載は、原告の名称の明白な誤記と認めるべきであり、原告は、本件審判手続を提起
した請求人であって、特許法178条2項にいう「当事者」に該当することが明ら
かである。
 そこで、進んで、審決取消しの利益の有無について検討するに、特許庁は本件審
判請求事件の請求人を株式会社上野製薬応用研究所であると確定したことを踏ま
え、その請求は不適法である旨の本件審決をしたことによって、本件審判請求事件
の処理は終了したものであるとの見解を採っていることは本訴における被告の答弁
からみて明らかなところである。そうだとすると、本件審判請求は原告からなされ
た請求であるとして(この場合に、請求人適格を具備することは疑問の余地がな
い。)、拒絶査定の内容の当否について審理を期待することは困難であるというべ
きであるから、本件審決の存在は、原告が上記のような審理を受ける上での法的な
障害に当たるといって差し支えがないというべきである。したがって、原告は、本
件審決の取消しを求める法的利益を有するというべきである。
 以上の次第であるから、原告は、本件審決の取消しを求める原告適格を有する者
というべきである。
3 そこで、本件審決の当否について検討するに、本件審判請求書の審判請求人欄
の「株式会社上野製薬応用研究所」なる記載は、原告の名称の明白な誤記であるこ
とは、前項に詳述したとおりである。そうすると、前記の名称の訂正は審判請求書
の要旨を何ら変更するものではなく、したがって、本件審判請求は、原告からなさ
れたものとして取り扱うべきものである。
 してみると、本件審判請求は、拒絶査定を受けた本件特許出願人からなされたも
のであるから、これが請求人適格を有することはいうまでもないところであり、か
かる審判請求を出願人以外の第3者である株式会社上野製薬応用研究所からされた
ものであると速断して、請求人適格を欠く不適法は請求であるとして却下した本件
審決の判断に誤りがあることは明らかである。
 以上の次第であるから、本件審決は審判請求人を誤認した結果、本件審判請求を
本件特許出願人以外の第3者からされた不適法な請求であるとしたものであるか
ら、
違法であり、取消しを免れない。
4 よって本訴請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担に
ついて行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 竹田 稔 関野杜滋子 田中信義)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛