弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
本件訴を却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
○ 事実
一 双方の申立
原告は、「被告が昭和五〇年七月一日から実施している県道箱崎横田港線敷設のた
めの陸橋橋梁整備事業処分を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を
求めた。
被告は、本案前の答弁として、主文同旨の判決を求め、本案に対する答弁として、
「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。
二 原告の請求原因
(一) 原告は、肩書住所地において敷地約一、二一六平方メートルの工場(以
下、原告工場という)を使用して五尋ないし九尋(総トン数五ないし七トン)の木
造船の製造及び修理業を営んでいる者である。
(二) 被告は、田島・横島の両島を結ぶため、原告方の船渠(船の出し入れに使
用するすべり。幅八メートル、長さ二六メートル)が存する原告工場北側沿岸直近
約二ないし四メートルの地点を東西に走る幅約八・七五メートル、満潮時を基準と
する海面からの高さ約七・六メートルの橋道(以下、本件橋道という)を敷設する
ことを計画し、陸橋橋梁整備事業という名称で県道箱崎横田港線の本件橋道敷設工
事を訴外株式会社大本組(以下、大本組という)に請負わせ、同社は昭和五〇年七
月一日より本件工事を施行中である。
(三) しかし本件橋道が敷設されれば、原告としては建造ないし修理した船舶の
原告工場への出し入れについて本件橋道の下を通過させなければならないのである
が、原告の受注した船舶の規模によつては本件橋道の桁下の通行が不可能となるこ
とがあり、またたとえ桁下の通行が可能な船舶でも発注者が通行不可能として原告
への発注を差し控えることも十分予想されるから、本件橋道が敷設されれば原告の
営業の現状維持及び発展は期し難いところとなる。
(四) よつて本件橋道敷設工事は、原告の営業権を侵害する違法なものであるか
らその取消を求める。
三 被告の本案前の主張
(一) 一般県道箱崎横田港線は、<地名略>、<地名略>を起点とし、田島・横
島両島を結ぶ陸橋を経て<地名略>、<地名略>に至る延長九・四八五キロメート
ルの道路であり、同町内で最も交通量の多い基幹道路であるが、陸橋は田島・横島
間の海上を横過して架設され、橋下を漁船が航行する際橋桁が昇降するいわゆる開
閉橋で幅員三・〇メートルと狭隘なうえ床板部は木製で架設後二十数年を経過し現
在では老朽化が著しく、しかも三トンの交通荷重制限がなされているため車両通行
に多大の支障を来たし、また右県道のうち<地名略>から人家密集地を通過して陸
橋に至るまでの道路は狭隘で、しかもクランク型に屈曲しており、屈曲部の曲線半
径は道路構造令に適合していない部分もあつて不慮の交通事故の発生も懸念される
外、町役場、<地名略>内の重要施設が存在する陸橋附近への結核検診車、消防自
動車、救急車等の進入も困難であるため、<地名略>からの要請もあつて広島県
(以下、単に県という)は、離島振興法三条一項に基づき策定した昭和四八-五七
年度広島県離島振興計画中の備後群島地域振興計画において本件橋道敷設工事を重
点事業として実施することとし、なお従来の開閉式を改めることとしたが、橋下を
航行する漁船の支障とならないようにするため主として原告の要請を考慮して本件
橋道の橋桁下を大潮平均高潮面から七・六メートルと決定して昭和五〇年六月三日
本件橋道敷設工事を行なうことを決定し、同年六月三〇日大本組に右工事を請負わ
せ、同社は同年八月九日頃工事に着手して現在本件橋道架設用の仮設工作物の設置
工事を施行しているものである。
(二) しかして本件橋道敷設工事の実施決定は、行政庁の内部的な意思決定の段
階にとどまるものであり、これによつて住民の法律的地位に変動を及ぼし、法的効
果を発生させるものではないし、また県が大本組との間に締結した本件橋道敷設工
事の請負契約は、私法上の契約にすぎず、本件橋道敷設工事の実施も右請負契約に
基づく請負者たる大本組の履行行為としての事実行為にすぎないから、いずれの点
よりするも本件橋道敷設工事は抗告訴訟の対象となる行政処分にはあたらない。
四 被告の本案に対する答弁
請求原因(一)の事実のうち、原告が肩書住所地において五ないし七トン以下の木
造船の建造または修理業を営んでいることは認めるが、その余は争う。同(二)の
事実のうち、本件橋道と原告工場との位置関係、本件橋道の構造が原告主張どおり
の設計であること、被告が大本組に本件橋道敷設工事を請負わせたことは認める
が、その余は争う。同(三)は争う。
五 被告の本案前の主張に対する原告の反論
1 本件僑道敷設工事は、行政庁である被告が継続的に行なう事実行為であつて、
これによつて住民が既得の権利、利益を侵害されるものであるから、公権力の行使
にあたる行為として取消訴訟の対象となり得るものである。
六 証拠関係(省略)
○ 理由
一 被告は、本案前の主張として本件橋道敷設工事は行政処分にあたらないから本
件訴は不適法である旨主張するので、まず本件訴の適否について検討する。
まず成立に争いのない乙第一、第二号証、欄外説明どおりの写真であることに争い
ない乙第三号証の一ないし一四、一六ないし一八、第八号証、証人Aの証言及びこ
れにより真正に成立したものと認める乙第五号証、第九ないし第一一号証ならびに
弁論の全趣旨によると、一般県道箱崎横田港線は<地名略>、<地名略>を起点と
して田島、横島間を結ぶ陸橋を経て<地名略>、<地名略>に至る延長九・四八五
キロメートルの道路であり、同町の幹線道路であるが、交通量が非常に多いうえ道
路に狭隘な箇所や未改良部分があるため車両の通行に支障を来たしており、また陸
橋は、田島、横島間の海上を横過して架設されているものであるが、橋下を船舶が
航行する際橋桁が昇降するいわゆる開閉橋でその幅員が三・〇メートルと狭隘であ
り、その床板部は木製であつて架設後二十数年を経過してかなり老朽化しているう
え、陸橋は三トンの交通荷重制限がなされているため大型車の通行に支障を来たし
ていること、また田島の陸橋付近の道路は、人家密集地の間を通つており、狭隘で
しかもクランク型に屈曲しているが、陸橋附近には町役場や連絡船の桟橋があつて
交通量が多く車両の通行に困難を生じており、とりわけ緊急自動車等の通行も思う
にまかせない状態であること、そのため県は、地元内海町民の陳情もあつて昭和四
八年三月に策定した昭和四八年度~五七年度広島県離島振興計画中の備後群島地域
振興計画において、田島、横島等備後群島の社会生活環境の向上及び産業の振興を
目指して交通諸施設の整備を図ることとし、その重点事業として田島、横島の基幹
道路を整備し、両島の一体的発展を図るため県道箱崎横田港線の改良と陸橋の整備
を行なうことを立案したこと、これに基づき県は、陸橋については従来の開閉式を
改めて常時通行可能な橋とすることを計画したが、その際橋下を通行する船舶に支
障がないよう地元漁協と協議し、原告の意向も考慮して橋の桁下高を平均満潮面よ
り七・六メートルとする本件橋道を架設することとし、昭和五〇年六月三日被告は
陸橋橋梁整備工事として本件橋道敷設工事を実施することを決定し、指名競争入札
の結果同年六月三〇日県は大本組に対し本件橋道敷設工事を請負わせ、同社は現在
右工事に着手して本件橋道架設用の仮設工作物の設置工事を施行中であることが認
められ、他に右認定に反する証拠はない。
右認定した事実によれば、県は、県道である従来の陸橋を本件橋道に改築するもの
であるから、道路法一五条による県道の管理者としての地位に基づき県道の管理行
為の一環として本件橋道敷設工事を行なうものというべきである。
ところで取消訴訟の対象となる行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為と
は、行政庁の行為のうち、行政庁が法の定めた優越的な地位に基づき法の執行とし
てなしたもので、それにより国民の法律的地位に変動を及ぼす行為をいうものと解
すべきであるが、被告がなした昭和五〇年六月三日付の本件橋道敷設工事の実施決
定は、広島県の内部的意思を決定する手続行為であるにとどまり、それ自体国民の
法律上の地位に変動を及ぼす行為ではないし、また広島県と大本組との間の本件橋
道敷設工事の請負契約は、広島県が私人と対等の立場でなした私法上の行為であ
り、本件橋道敷設工事の現実の実施も右請負契約の履行としての事実行為にすぎな
いし、これら本件橋道敷設工事に関する一連の行為を全体として考察してみても本
質的には私人が私道を新設する場合と差異はなく、被告の優越的地位に基づく行為
ということはできないから、本件橋道敷設工事は、取消訴訟の対象となるべき行政
事件訴訟法三条にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に該当し
ないものという外なく、従つて右工事の取消を求める原告の本件訴は不適法であ
る。
二 よつて原告の本件訴を却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟
法七条、民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 森川憲明 下江一成 山口幸雄)

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