弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
原判決を破棄し,第1審判決中上告人の敗訴部分を取り
消す。
前項の部分につき,被上告人の請求を棄却する。
訴訟の総費用は被上告人の負担とする。
理由
第1事案の概要
1原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1)大阪市長から権限の委任を受けた大阪市東淀川区福祉事務所長は,被上告
人に対し,平成13年5月14日,保護開始日を同年4月16日とする生活保護開
始決定をした。その当時,被上告人は,大阪市東淀川区内の住居(以下「本件住
居」という。)で生活していた。
(2)被上告人は,平成13年6月14日に出国してタイ王国(以下「タイ」と
いう。)のバンコクに渡航し,同年7月13日帰国して本件住居に戻った。被上告
人は,本件住居とバンコクとの往復に要した交通費及び同地における宿泊料とし
て,同年6月ころ,少なくとも合計7万0920円を支出した。
被上告人は,前記福祉事務所長に対し,平成13年7月18日,同年6月14日
から同月25日までバンコクにおいて求職活動等をしたとして上記金額の給与の申
請をしたが,これを却下する旨の決定をされた。
(3)前記福祉事務所長は,平成13年7月31日,生活保護法(以下「法」と
いう。)25条2項に基づき,被上告人に給与した同年6月分の生活扶助のうち被
上告人が外国滞在中であったとする同月14日から同月25日までの期間の分に相
当する金額3万3728円を減ずることとし,被上告人に対し,同年8月15日付
け保護決定通知書をもって,同年9月分の生活扶助(8万4320円)から上記金
額を差し引いて給与する旨の保護の変更の決定(以下「本件変更決定」という。)
をした。
2本件は,被上告人が,前記福祉事務所長の権限を承継した上告人に対する請
求として,本件変更決定等の取消しを求めている事案である。
上告人は,本件変更決定の適法性につき,主位的に,外国滞在期間中の生活はお
よそ法に基づく保護の対象とならないと解すべきであるから,被上告人が外国に滞
在していたとする期間に係る生活扶助を与える余地はないと主張し,予備的に,被
上告人は前記1(2)の渡航費用7万0920円を支出することができるだけの資産
を保有していたことが明らかであるから,同資産により上記期間において最低限度
の生活を維持することができたと認められ,上記期間に係る生活扶助は被上告人の
資産で満たすことのできない不足分を補う程度を超えたものであったと主張して,
これらのいずれの理由からしても,上記期間に係る生活扶助の金額3万3728円
を平成13年6月分の生活扶助から減じ,同年9月分の生活扶助から差し引いて給
与する必要があったとする。
3原審は,前記事実関係等の下において次のとおり判示し,上告人の主位的主
張及び予備的主張はいずれも理由がないとして,本件変更決定を取り消すべきもの
とした。
(1)主位的主張について
法19条1項は,要保護者の居住地又は現在地を所管する都道府県知事,市長等
の実施機関に保護の決定及び実施を行わせることとしている。したがって,国外に
現在している要保護者であっても,その生活の本拠が依然として国内の居住地にあ
るものと解される場合には,同項1号により,当該居住地を所管する福祉事務所を
管理する実施機関が存し,同実施機関は,同項に従い当該要保護者に対し保護の決
定及び実施を行う責任を負う。また,法2条は,すべて国民は法の定める要件を満
たす限り法による保護を無差別平等に受けることができると規定しているところ,
要保護者が国内に現在していることを保護の要件とする規定は存在しない。
したがって,国外に現在している要保護者が,およそ法による保護の対象となら
ないと解することはできない。
(2)予備的主張について
平成13年4月(同月16日から同月30日まで)分及び5月分の保護金品を節
約して前記1(2)の渡航費用7万0920円をねん出したとの被上告人の主張も,
あながち不合理なものとはいえないから,被上告人が同渡航費用を支出した事実か
ら,直ちに,同年6月14日から同月25日までの期間において生活を維持するに
足りる資産が被上告人にあったとは推認することができない。
第2上告代理人岩本安昭ほかの上告受理申立て理由第1の3(1),第2につい

論旨は,上告人の主位的主張に対する原審の前記第1の3(1)の判断の法令違反
をいう。
法19条は,1項において,都道府県知事等は,「その管理に属する福祉事務所
の所管区域内に居住地を有する要保護者」(1号)及び「居住地がないか,又は明
らかでない要保護者であって,その管理に属する福祉事務所の所管区域内に現在地
を有するもの」(2号)に対して,保護を決定し,かつ,実施しなければならない
と規定した上,2項において,居住地が明らかである要保護者であっても,その者
が急迫した状況にあるときは,その急迫した事由がやむまでは,その者の現在地を
所管する福祉事務所を管理する都道府県知事等が保護を行うものとしている。保護
の方法に関しても,法30条が,生活扶助は原則として被保護者の居宅において行
うものと規定している。法がこのような居住地主義及び居宅保護の原則を採用した
趣旨は,要保護者がその居住地を有する限り,そこにおける継続的,安定的な生活
に着目して生活状態,資産状況等の事項を把握し,それを基に必要な扶助を与える
とともに自立の助長のための措置を講ずることとしたものと考えられる。
以上のことに法2条の規定をも考慮すると,国外に現在している被保護者であっ
ても,法19条所定の「居住地」に当たると認められる居住の場所を国内に有して
いるものは,同条に基づき当該居住地を所管する実施機関から保護の実施を受けら
れると解すべきである。このように解しても,その居住地における被保護者の生活
状態,資産状況等の事項を調査して把握し,その結果に基づいて所要の保護の変
更,停止又は廃止を決定し,また,自立の助長のための措置を講ずることは可能で
あるから,保護の決定及び実施に関する制度の趣旨が損なわれるとはいえない。
もとより,被保護者が,当初の居住地を離れて国外に滞在し続けるなどした結
果,国内に居住地も現在地も有しないこととなった場合には,保護の停止又は廃止
の決定をすべきであるが,被上告人がタイに滞在していたとする期間につき,本件
住居を被上告人の居住地ということができなくなり,被上告人が国内に居住地を有
しないものとなっていたなどというような事実は,上告人も主張立証するところで
はない。
そうすると,原審の前記判断は正当として是認することができ,論旨は採用する
ことができない。
第3同上告受理申立て理由第1の3(2),(3),第3,第4について
論旨は,上告人の予備的主張に対する原審の前記第1の3(2)の判断の法令違
反,経験則違反等をいう。
法4条は,保護の補足性の原則を定め,保護は,生活に困窮する者がその利用し
得る資産,能力その他あらゆるものをその最低限度の生活の維持のために活用する
ことを要件として行われると規定している(同条1項)。これを受けて,法8条1
項は,保護の程度に関し,要保護者の需要のうち,その者の金銭又は物品で満たす
ことのできない不足分を補う程度において行うものとすることを定めている。
前記事実関係等によれば,被上告人は,平成13年6月ころ,タイへの渡航費用
として少なくとも7万0920円を支出したというのである。これだけの金額を,
保護を受け始めて間もない時期に上記のような目的のために支出することができた
ことなどからも,被上告人が,同月ころ,少なくとも上記渡航費用を支出すること
ができるだけの額の,本来その最低限度の生活の維持のために活用すべき金銭を保
有していたことは,明らかである。
そうすると,被上告人に給与された平成13年6月分の生活扶助は,被上告人の
保有する金銭で満たすことのできない不足分を補う程度を超過してされたこととな
る。したがって,被上告人に対する保護に関し,法25条2項に基づき,上記金額
を超えない金額である3万3728円を同月分の生活扶助から減じ,同年9月分の
生活扶助から差し引くことについては,その必要があったということができ,この
保護の変更は法56条所定の正当な理由があるというべきであるから,本件変更決
定は適法であることとなる。
これと異なる原審の前記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違
反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由がある。
第4結論
以上のとおりであって,原判決は破棄を免れない。そして,被上告人の本件変更
決定の取消請求は理由がないから,第1審判決中これを認容した部分を取り消し,
同取消請求を棄却すべきこととなる。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官横尾和子裁判官甲斐中辰夫裁判官泉徳治裁判官
才口千晴裁判官涌井紀夫)

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