弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人岸達也、同佐伯源、同泉田一の上告趣意は末尾に添附した別紙記載の通り
である。
 弁護人岸達也上告趣意第一点について。
 記録を調ベて見ると原審公判において裁判長は第一審判決摘示事実を読み聞けた
旨の記載がないことは所論の通りである。しかし論旨にも述べているように、裁判
長は被告人に対し検事が陳述した被告事件を告げ被告人に対する公訴事実はこの様
になつているがこの点について何か陳述することはないかと尋ねた後、逐次被告人
に対し問を発し、これに対し被告人が供述したものであることは明らかであつて所
論原判決摘示事実を読聞けないからとて何等訴訟手続に反するものではなくまた被
告人の供述が不明であるとはいえないし、原判決が証拠とした被告人の原審公判に
おける「私は判示日時場所でAの頭部を金槌で殴つた旨」の供述は極めて明瞭であ
つてこれを証拠に採用しても何等法則に反するところはなく、論旨に引いている判
例は何れも本件に適切でないから、論旨は採用できない。
 同第二点について。
 記録に徴するに所論没収物が犯人以外の者に属するものではないかとの疑をおこ
させるような事情もなくまた犯人以外の者に属すると認むべき証拠もない。かくの
如く特別の事情もまた証拠もない限り判示事実に照らし本件没収にかかる金槌は被
告人以外の者に属しないと認めるを相当とする、そして原判決は、本件没収物は被
告人以外の者に属しない旨を明示していないが刑法第一九条二項を適用している点
に鑑みれば右没収物は被告人以外の者に属しないと認めた趣旨と解し得るから論旨
は採用しがたい。(昭和二四年(れ)第三一七九号同二五年七月四日第三小法廷判
決昭和二二年(れ)第二五号同二二年一一月一四日第三小法廷判決参照)
 同第三点について。
 論旨は「証拠調を為すと否とは事実承審官の専権である抔の論は旧法時代の夢に
過ぎない」と主張して原審が所論弁護人の為した証人申請を却下したことを非難す
る。しかし証拠調の限度は事実審たる原審において自由に決し得るということは決
して旧法時代の夢ではなく現実に必要なこと、であつて、原審においてその必要な
しと認めた結果所論証人の取調をしなかつたことは何等法則に反するところはない、
論旨は理由がない。
 同第四点について。
 記録を調べて見ると、所論自首の点について、被告人に対し尋間したという記載
はない、しかし原審においてはB作成の証明書を取調べたと認められるし、同証明
書には自首に関することが記載されているから、原審において自首について全然取
調をしないものではない。そして憲法第三七条一項の所謂公平な裁判所の裁判とい
うのはその組織構成が偏頗のおそれのない裁判所の裁判を指すものであることは当
裁判所数次の判例の示すところであつて所論の如き弁護人の証人申請を却下したよ
うな場合は同条に該当しない、従つて所論違憲の主張はその前提を欠き採用するを
得ない。
弁護人泉田一、同佐伯源の上告趣旨第一点について。
 原審公判に関与した判事は三野盛一、近藤健蔵、萩原敏一であり同判決に関与し
た判事も右三名であることは記録上明白であつて何等違法はない。そして判決に関
与しない判事が判決言渡に関与しても違法ではないから原審において所論前田判事
が判決言渡に関与したとしても何等違法はない。その論旨は理由がない。
 同第二点について。
 証拠調の限度は事実審たる原審の自由に委ねられているから原審において所論証
人調の申請を却下したとしても弁護権を制限したことには当らない、論旨は理由が
ない。
 同第三点について。
 自首した旨の主張は旧刑訴第三六〇条二項の所謂「刑の加重減免の事由たる事実
上の主張」に当らないからこれに対し特に判断を示さないからとて所論の如き違法
はない。従つて論旨は理由がない。
 同第四点について。
 量刑不当を主張することに帰し上告適法の理由とならない。
 よつて旧刑訴四四六条により主文の通り判決する。
 以上は裁判官全員一致の意見である。
 検察官 渡部善信関与
  昭和二六年三月六日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介

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