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平成一一年(ワ)第二三一八二号 損害賠償請求事件
口頭弁論終結の日 平成一二年八月二五日
判      決
       原告        日清紡績株式会社
    右代表者代表取締役  【A】
    右訴訟代理人弁護士  西   迪 雄
    同向 井 千 杉
       同           富 田 美栄子
右補佐人弁理士  【B】
同           【C】
       被告        大日本印刷株式会社
     右代表者代表取締役   【D】
     右訴訟代理人弁護士   赤 尾 直 人
     右補佐人弁理士     【E】
同           【F】
       主      文
  一原告の請求を棄却する。
  二 訴訟費用は、原告の負担とする。
 事実及び理由
第一 請求
   被告は、原告に対し、金四億五〇〇〇万円及び平成一一年一〇月二二日から
支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
 一 争いのない事実
  1 原告は、各種繊維製品、紙製品等の製造及び販売等を目的とする株式会社
である。
   被告は、製版、印刷及び製本並びにこれらの製品の販売等を目的とする株式
会社である。
  2 原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その発明を「本件発
明」という。)を有する。
   登録番号 特許第二一二〇九八三号
   発明の名称感熱転写用受像紙
   出願日  昭和六〇年二月二五日
   公告日    平成六年一〇月二六日
   登録日  平成八年一二月二〇日
   請求項1に係る特許請求の範囲
「基紙と、該基紙に貼合した発泡プラスチックフィルムと、該プラスチックフィル
ム上に設けたインク吸収層とから成ることを特徴とする感熱転写用受像紙。」
  3 本件発明の作用効果は次のとおりである。
「基紙に起因する搬送性の良さ(基紙のクッション性と表面の適度の凹凸によると
考えられる)と、発泡プラスチックフィルムに起因する高い平滑性及びクッション
性を兼備しており、裁断が容易で、プリント時に色ずれが生じることがなく、しか
もインク転写性の良い感熱転写用受像紙とすることができるのである。更に、発泡
プラスチックフィルムのクッション性と基紙のクッション性とが相俟って搬送性を
より一層良くすることができる。」
  4 被告は、平成六年ころから、業として、合成紙ユポその他ミクロボイドフ
ィルム(以下「ミクロボイドフィルム」という。)、インク吸収層等を積層状態に
した感熱転写用受像紙(以下「被告製品」という。)を製造販売してきた。
 二 本件は、原告が、被告製品の製造販売が本件特許権を侵害すると主張して、
被告に対し、損害賠償を求める事案である。
  なお、被告は、被告製品の構成として、別紙イ号物件ないしハ号物件のとおり
であると主張するが、原告は、これを争っている。
 三 本件の争点
  1 被告製品における「ミクロボイドフィルム」が、本件発明の「発泡プラス
チックフィルム」に該当するか。
  2 被告製品には、「基紙」が存在するか。
  3 被告製品には、ミクロボイドフィルムとインク吸収層との間に白色プライ
マー層が存するものがあるか、存する場合、本件発明の構成要件を充足するか。
  4 原告が被った損害額。
第三 争点に関する当事者の主張
 一 争点1について
  (原告の主張)
  1 「発泡プラスチックフィルム」は、その製法如何にかかわらず、内部に空
洞(ボイド)が形成されたために密度が減少し、体積膨張したプラスチックフィル
ム一般をいうところ、「ミクロボイドフィルム」は、内部に多数の空孔が形成され
ることにより密度が減少し、体積が膨張したプラスチックフィルムであるから、
「発泡プラスチックフィルム」に当たる。そして、このことは、本件特許の出願前
から、当業者によって認識されていた。
  2 原告が、本件特許に係る出願過程において後記の被告が主張する補正を行
ったのは、「ミクロボイドフィルム」が「発泡プラスチックフィルム」に該当しな
いことを自認したことによるものではなく、特許庁における実務慣行に依拠して処
理しようとした審判官の指示に従っただけである。
  3 本件発明は、定期券類作成要素の発明に係る公開特許公報(乙一六)等か
ら容易に想到し得るものではない。
  (被告の主張)
  1 「発泡プラスチックフィルム」は、「発泡を原因として成型したプラスチ
ックフィルム」を意味し、必然的に成型に伴って体積膨張が生じ、かつ成型後の内
部には、泡構造(小さい蜂の巣又は中空の球が凝集した内部構造)を呈しているの
に対し、「ミクロボイドフィルム」は、プラスチックの延伸加工に際し、予め混入
した無機質フィラー(無機質の充填剤)とプラスチックとの間において、ミクロな
剥離を起こさせて、フィルムの内部・表面に無数の微細な空洞・亀裂を生じさせた
プラスチックフィルムであるから、「発泡プラスチックフィルム」に当たらない。
  2 本件特許の出願当時、当業者には、「ミクロボイドフィルム」が「発泡プ
ラスチックフィルム」に当たるとの認識はなかった。
  3 原告は、本件特許の出願過程における第三回目の補正において、「発泡プ
ラスチックフィルム」につき、「フィルム内部に微細な気体層又は気体泡層を有
し」といった説明部分を付加し、実施例1及び同2の「発泡プラスチックフィル
ム」の具体例として、東洋紡績株式会社製造のトヨパールSSフィルムを記載した
が、最終の補正では、前記「発泡プラスチックフィルム」の説明部分及び前記トヨ
パールSSフィルムの例を削除した。また、原告は、異議申立てに対する答弁書に
おいて、「多孔質熱可塑性樹脂フィルム」(乙一四)は、「発泡プラスチックフィ
ルム」とは異なる概念である旨答弁した。
    以上のような出願過程からして、原告が、現時点で、本件発明の「発泡プ
ラスチックフィルム」が「ミクロボイドフィルム」を包摂すると主張することは、
禁反言の原則に反し許されない。
  4 仮に、合成紙ユポなどのミクロボイドフィルムが、発泡プラスチックフィ
ルムに該当するのであれば、本件発明は、当業者が、定期券類作成要素の発明に係
る公開特許公報(乙一六)等から容易に想到し得るものである。
 二 争点2について
  (原告の主張)
  1 本件発明における「基紙」は、発泡プラスチックフィルムやインク吸収層
等を設ける基材、すなわち、これらの層のベース(基)となる紙(上質紙やコート
紙等)を意味するのであって、「基紙」が「最下層のベースたる位置」に存在しな
ければならないものではない。
 本件特許権の特許請求の範囲請求項3では、基紙の発泡プラスチックのフィルム
を貼合しない面に防水加工を施すことが記載されているから、このことからして
も、「基紙」が「最下層のベースたる位置」に存在しなければならないものではな
いことは明らかである。
  2 被告製品においては、紙にミクロボイドフィルムが貼合されているから、
「基紙と該基紙に貼合した発泡プラスチックフィルム」が存する。
  (被告の主張)
  1 「基紙」の「基」は、根底又は根元を意味するから、本件発明において、
「基紙」は、発泡プラスチックフィルムやインク吸収層等の根底又はベースとなる
層でなければならない。
 被告製品においては、コート紙の両側にミクロボイドフィルムの層がある(イ号
物件及びロ号物件)か、又は、コート紙の片側にミクロボイドフィルムとインク吸
収層があるが、その側とコート紙をはさんだ反対側に、ポリエチレンフィルムの層
がある(ハ号物件)から、コート紙は、発泡プラスチックフィルムやインク吸収層
等の根底又はベースとなる層ではない。
 基紙の発泡プラスチックのフィルムを貼合しない面における防水加工は、基紙の
凹凸による良好な搬送性を阻害しないようなものでなければならないところ、被告
製品の右ミクロボイドフィルム及びポリエチレンフィルムは、右の機能を阻害する
ものである。
  2 したがって、被告製品には、本件発明の「基紙」は存在しない。
 三 争点3について
  (原告の主張)
  1 被告製品に「白色プライマー層」が存在するか否かは必ずしも明確ではな
い。
  2 仮に、被告製品中に「白色プライマー層」が存在するものがあるとして
も、それは、隠蔽性向上などのために設けられていると考えられ、インク吸収層の
平坦性を阻害せず、発泡プラスチックフィルムに起因する高い平滑性を損なわない
極く薄い層にとどまるものである。そうすると、「白色プライマー層」が存在する
としても、本件発明の作用効果をそのまま保有するから、被告製品が本件発明の技
術的範囲に属さないということにはならない。
  (被告の主張)
  1 被告製品には、ミクロボイドフィルムとインク吸収層の間に「白色プライ
マー層」が存在するものがある(ロ号物件及びハ号物件)。
  2 本件発明の特許請求の範囲の記載及び作用効果からすると、「発泡プラス
チックフィルム」と「インク吸収層」との間には、他の物質の介在はあり得ないと
いうべきである。したがって、ミクロボイドフィルムとインク吸収層との間に白色
プライマー層が存在するものは、本件発明の技術的範囲に属さない。
 四 争点4について
  (原告の主張)
  1 被告は、原告から本件特許権の実施許諾を得ることなく、被告製品を、平
成六年ころから継続して製造販売し、過去三年分の売上金額は、毎年少なくとも五
〇億円を下らない。
  2 本件特許権の通常実施料は、これを実施した製品の売上金額の三パーセン
トをもって相当とするから、被告は、原告に対し、被告製品の過去三年分の合計売
上金額一五〇億円に本件特許権の通常実施率三パーセントを乗じた四億五〇〇〇万
円を支払う義務がある。
  (被告の主張)
   原告の主張はすべて争う。
第四当裁判所の判断
一争点1について
  1(一) 前記第二の一の事実並びに証拠(乙一ないし八、二一ないし二四、二
六、三四、四二ないし五八)及び弁論の全趣旨によると、以下の事実が認められ
る。
    (1) 昭和四〇年代から昭和五〇年代にかけて発行された刊行物(乙一、
四、二三、二四)には、「発泡プラスチック」について、①機械的に泡立てする方
法、②気体又は低沸点液体を樹脂中に混入する方法、③加熱によって気体を樹脂中
に放出するような発泡剤を樹脂に含有させる方法、④発泡基を高分子に結合する方
法などによって、樹脂を発泡させたプラスチックを意味する旨の記載がされてい
る。昭和五二年に改正されたJIS規格(乙二六)において、「発泡プラスチッ
ク」が定義されているが、その内容は、右刊行物と同様の内容である。
    (2) ミクロボイドフィルムは、フィラー(充填材)を混合したプラスチッ
クを押し出しシート状に成形した後、延伸加工を行い、その際、混合したフィラー
(充填材)とプラスチック素材間に亀裂が生じるような応力が加わり、これによっ
て、空隙(隙間)が生じるプラスチックフィルムを指す。合成紙ユポは、ポリプロ
ピレン樹脂にフィラーを入れて二軸延伸し、内部に多数のミクロボイド(微細な空
隙)を生じさせたミクロボイドフィルムで、昭和四七年に発売された。
    (3) 右(二)のミクロボイドフィルムの製造方法を、右(1)の刊行物等に記
載された「発泡プラスチック」の製造方法と対比すると、明らかに異なる方法であ
る。
    (4) また、昭和四〇年代から昭和五〇年代にかけて発行された刊行物(乙
二、四、六)においては、ミクロボイドフィルムは、「発泡プラスチック」のフィ
ルムとは異なるものとして分類されている。
 なお、右刊行物のうち、乙一は、「発泡プラスチック」について、「熱可塑性樹
脂または熱硬化性樹脂を何らかの方法によって体積膨張させた低密度のプラスチッ
クである。膨張の結果、その内部は小さな蜂の巣あるいは中空の球が凝集したよう
な細胞構造、すなわち、泡構造をとっている。」と記載した後、右(1)認定に係る製
造方法を記載しているものと認められ、右の記載の前半部分、すなわち、「熱可塑
性樹脂または熱硬化性樹脂を何らかの方法によって体積膨張させた低密度のプラス
チックである。」という部分を抽象的に見た場合には、ミクロボイドフィルムも、
これに含まれるように見えるが、右(2)認定に係るミクロボイドフィルムは、右の記
載の後半部分、すなわち、「膨張の結果、その内部は小さな蜂の巣あるいは中空の
球が凝集したような細胞構造、すなわち、泡構造をとっている。」には必ずしも該
当しないばかりか、右(1)ないし(3)認定のとおり製造方法も異なっているから、ミ
クロボイドフィルムが、乙一の「発泡プラスチック」の定義に該当すると認めるこ
とはできない。
   (二) 原告が、ミクロボイドフィルムが「発泡プラスチックフィルム」に含
まれるとして提出する証拠のうち、甲五ないし一〇、甲一一の一、甲一二、一三、
一六、二五、二六、三八ないし四〇は、いずれも本件特許出願よりも後の出願に関
する特許公報であるから、これらに、ミクロボイドフィルムが「発泡プラスチック
フィルム」に含まれる旨の記載があるとしても、その記載を直ちに本件特許出願当
時の当業者の認識を示すものと認めることはできない。
 証拠(甲一七の一ないし三)によると、昭和五七年ころに外国で発行された刊行
物には、「二軸延伸されたポリプロピレン」という項目の解説中に「真珠様の光沢
を持った不透明で発泡したポリプロピレンフィルム」との記載があることが認めら
れる。しかし、証拠(甲一七の一ないし三)及び弁論の全趣旨によると、右刊行物
には、「二軸延伸されたポリプロピレン」がミクロボイドフィルムに当たることを
認めるに足りる記載はないものと認められる。
 証拠(甲一八の一ないし三)によると、昭和五九年ころに外国で発行された刊行
物には、二軸延伸、白色・不透明PPフィルム「0ppalyte247」についての記載
があることが認められるが、これが「発泡プラスチックフィルム」である旨の記載
であるとは認められない。また、証拠(甲一八の四)によると、オンライン検索シ
ステムの右刊行物に関するキーワードは「発泡プラスチック」であると認められる
が、これは、本件特許出願後の時期に、オンライン検索システムにおいて右のよう
な取扱いがされているというにすぎないから、直ちにそれが本件特許出願当時の当
業者の認識であると認めることはできない。
 証拠(甲三六の一ないし三)によると、昭和五八年ころに外国で発行された刊行
物には、BCL社のフィルム「ShorkoーP」という記載とともに、「発泡さ
せたこと自体」という記載のあることが認められる。しかし、これらの記載の関連
性は明確ではなく、これらの記載は、「発泡プラスチック」の定義やそれに含まれ
るものを直接述べたものではない。また、証拠(甲三六の四)によると、オンライ
ン検索システムの右刊行物に関するキーワードは「発泡プラスチック」であると認
められるが、これは、本件特許出願後の時期に、オンライン検索システムにおいて
右のような取扱いがされているというにすぎないから、直ちにそれが本件特許出願
当時の当業者の認識であると認めることはできない。
 証拠(甲三七)及び弁論の全趣旨によると、昭和五九年九月に発行された刊行物
には、ミクロボイドフィルムである東洋紡績製のトヨパールが発泡ポリプロピレン
フィルムに該当する旨の記載があることが認められ、この記載は、ミクロボイドフ
ィルムが「発泡プラスチックフィルム」である旨の記載であると認められる。しか
し、証拠(甲三七)及び弁論の全趣旨によると、右刊行物では、トヨパールについ
て「内部微少空洞状の特殊フィルム」と記載し、右(一)(1)で定義された「発泡プラ
スチック」である三井東圧化学製のサニパールについて「独立気泡を有する発泡フ
ィルム」と記載されているのとは異なった記載となっている。
 証拠(甲四七)及び弁論の全趣旨によると、昭和五八年一一月に発行された刊行
物には、二軸延伸ポリプロピレンフィルムという表題の下に、二軸延伸ポリプロピ
レンフィルムの種類が記載されており、その中に「白色不透明で真珠の持っている
優雅で高貴な光沢を持ち、独立気泡の発泡フィルムで軽くソフトな感触を持ってい
るパール調タイプのOPPフィルム」の記載があること、それとは別に、二軸延伸
ポリプロピレンフィルムの特性を述べたところに、ミクロボイドフィルムとして知
られているフィルムの特性が掲げられていることが認められる。しかし、この記載
は、以上のとおり「発泡プラスチック」の定義やそれにミクロボイドフィルムが含
まれるかどうかを直接述べたものではない。  
 その他、本件特許の出願当時、ミクロボイドフィルムが「発泡プラスチックフィ
ルム」に当たる旨の記載がある文献が存した事実を認めるに足りる証拠はない。
   (三) 証拠(甲二七)によると、京都大学名誉教授【G】の鑑定意見書に
は、「発泡プラスチック」は、「セルラープラスチック」と同義であるところ、ミ
クロボイドフィルムは、「セルラープラスチック」に含まれるから、「発泡プラス
チックフィルム」に当たる旨の記載がある。しかし、証拠(甲二七)及び弁論の全
趣旨によると、右鑑定意見書は、辞典等によって、個々の言葉の抽象的な意味を確
定して対比するという方法によっており、実際に「発泡プラスチックフィルム」や
ミクロボイドフィルムといった言葉が用いられている資料を集めて分析したもので
はない上、その論拠となっている辞典も、「セルラープラスチック」の意義を確定
するためにいまだミクロボイドフィルムが存在しない時期の辞典を用いるなどして
いるから、直ちに信用することはできない。
(四) 以上の事実によると、本件特許の出願当時、ミクロボイドフィルムが「発泡
プラスチックフィルム」に当たる旨の記載がある文献が一部にあったが、多くの文
献は、ミクロボイドフィルムと「発泡プラスチックフィルム」を別のものとして記
載していたことが認められるから、本件特許の出願当時、当業者において、ミクロ
ボイドフィルムが「発泡プラスチックフィルム」に当たるとの認識があったとは認
められない。
  2 証拠(甲一)によると、本件特許の明細書(以下「本件明細書」とい
う。)には、本件発明の「発泡プラスチックフィルム」にミクロボイドフィルムが
含まれる旨の明示の記載はない。もっとも、証拠(甲一)によると、本件明細書の
「課題を解決するための手段」には、「この発泡プラスチックフィルムにはフィラ
ーを混用したりすることもできる」との記載があることが認められるが、本件明細
書には、それ以上に「発泡プラスチックフィルム」の製造方法についての記載があ
るわけではないから、右記載をもって、本件発明の「発泡プラスチックフィルム」
にミクロボイドフィルムが含まれるということはできず、他に、本件明細書に、本
件発明の「発泡プラスチックフィルム」にミクロボイドフィルムが含まれることを
示す記載があるとは認められない。
  3(一) 前記第二の一の事実並びに証拠(乙九の一ないし六、乙一二ないし一
七)及び弁論の全趣旨によると、本件特許の出願経過について、以下の事実が認め
られる。
    (1) 原告は、昭和六〇年二月二五日、本件特許出願をしたが、出願当時の
特許請求の範囲請求項1は、「基紙と、該基紙に貼合したプラスチックフィルム
と、該プラスチックフィルム上に設けたインク吸収層とから成ることを特徴とする
感熱転写用受像紙。」というものであった。
    (2) 原告は、平成六年四月四日、特許請求の範囲請求項1を、「基紙と、
該基紙に貼合した発泡プラスチックフィルムと、該プラスチックフィルム上に設け
たインク吸収層とから成ることを特徴とする感熱転写用受像紙。」と補正するとと
もに、「発明の詳細な説明」中の「課題を解決するための手段」に、「この発泡プ
ラスチックフィルムは、フィルム内部に微細な気体層又は気体泡層を有
し、・・・」という記載を、実施例1及び2に「東洋紡績製、トヨパールSSフィ
ルム」という記載を追加した。
 なお、東洋紡績製トヨパールSSフィルムは、ミクロボイドフィルムとして広く
知られている製品である。 
    (3) 原告は、平成六年六月七日、拒絶理由通知を受け、同日、右(2)のう
ち、追加した部分の各記載を削除する補正を行った。
    (4) 本件特許は、平成六年一〇月二六日、公告された。    
    (5) 公告後、特許異議の申立てがされた。原告は、特許異議答弁書におい
て、「合成紙ユポは発泡プラスチックフィルムである。」と主張した。特許庁は、
平成八年六月二七日、右異議申立ては理由がない旨の決定を行ったが、同決定にお
いて、「ボイドとは隙間、割れ目、空隙、間隔を意味する用語であり、その製造過
程からみても、ミクロボイドを有する合成紙ユポが発泡プラスチックフィルムであ
るとは認められない。」と認定した。
   (二) 以上の経過に右2認定に係る本件明細書の記載を総合すると、原告
は、本件明細書の「発泡プラスチックフィルム」にミクロボイドフィルムが含まれ
ることを示す記載を追加する補正を行ったが、後に、補正によって、その記載を削
除したことが認められる。この事実は、原告において、本件発明の「発泡プラスチ
ックフィルム」からミクロボイドフィルムを除外したと解されるような行動をとっ
たものと認められる。
  4以上の1ないし3で述べたところを総合すると、本件発明の「発泡プラス
チックフィルム」に「ミクロボイドフィルム」が含まれるものと認めることはでき
ないから、被告製品は、本件発明の技術的範囲に含まれるとは認められない。
 二以上の次第で、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく
理由がないから、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第四七部
 
       裁判長裁判官    森   義 之
          裁判官    内 藤 裕 之
          裁判官    杜 下 弘 記
(別紙)
物件目録
【イ号物件目録】
第一 図面の説明
   イ号図面によって感熱転写用受像紙の断面図を示す。
   符号の説明
1 コート紙
2 ミクロボイドフィルム
3 インク吸収層
5 接着層
6 裏面層
第二 構成の説明
   接着層5を介して裏面層6が接着されているミクロボイドフィルム2(但
し、王子製紙株式会社製造の「合成紙ユポ」を使用している。)上に貼合したコー
ト紙1と、該コート紙1に貼合した前記ミクロボイドフィルム2上にインク吸収層
3を設けたことによる積層状態を採用し、かつ所定の規格による矩形状態に裁断さ
れている感熱転写用受像紙。
イ号図面
【ロ号物件目録】
第一 図面の説明
   ロ号図面によって感熱転写用受像紙の断面図を示す。
   符号の説明
1 コート紙
2 ミクロボイドフィルム
3 インク吸収層
4 白色プライマー層
5 接着層
6 裏面層
第二 構成の説明
   接着層5を介して裏面層6が接着されているミクロボイドフィルム2(但
し、東洋紡績株式会社製造の「トヨパール」等の「合成紙ユポ」以外のフィルム)
上に貼合したコート紙1と、該コート紙1に貼合した前記ミクロボイドフィルム2
上に、白色顔料を有する白色プライマー層4を設け、更に前記白色プライマー層4
の上に、インク吸収層3を設けたことによる積層状態かつ所定の規格による矩形状
態に裁断されている感熱転写用受像紙。
ロ号図面
【ハ号物件目録】
第一 図面の説明
   ハ号図面によって感熱転写用受像紙の断面図を示す。
  符号の説明
1 コート紙
2 ミクロボイドフィルム
3 インク吸収層
4 白色プライマー層
7 ポリエチレンフィルム
第二 構成の説明
   ポリエチレンフィルム7(但し、内部に空隙を含んでいない。)上に貼合し
たコート紙1と、該コート紙1上に貼合したミクロボイドフィルム2(但し、「合
成紙ユポ」以外のフィルム)上に、白色顔料を含む白色プライマー層4を設け、該
白色プライマー層4上に、インク吸収層3を設けたことによる積層状態の構成を採
用し、ロール巻き状態にある感熱転写用受像紙。
ハ号図面

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