弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 原判決を取り消す。
二 群馬県知事が平成八年九月五日に都市計画法五九条一項に基づいてした前橋都
市計画道路事業三・四・二六号県庁群大線の認可の取消しを求める控訴人の審査請
求について、被控訴人が平成一〇年一一月二四日付けでした右審査請求を却下する
旨の裁決を取り消す。
三 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
       事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人
主文同旨
二 被控訴人
控訴棄却
第二 事案の概要
一 本件は、群馬県知事が都市計画法五九条一項に基づいてした前橋都市計画道路
事業三・四・二六号県庁群大線の認可(本件認可)の取消しを求めて、控訴人が被
控訴人に審査請求をしたところ、被控訴人が、審査請求期間は本件認可の告示の日
の翌日から開始するとの法解釈をもとに、審査請求期間の徒過を理由として、右審
査請求を却下する旨の裁決をしたため、控訴人が右却下裁決の取消しを求めた事案
である。原判決は、被控訴人と同じ解釈のもとに控訴人の請求を棄却したので、こ
れに対して控訴人が不服を申し立てたものである。
二 右のほかの事案の概要は、次のとおり付加するほか、原判決の該当欄記載のと
おりであるから、これを引用する。
(控訴人の当審における主張)
 原判決は、都市計画法の都市計画事業の認可が、告示によりその効力を生じる
と、処分の効力を受ける者が現実に告示を知ったか否かにかかわりなく、その者が
処分があったことを知ったものとみなされ、行政不服審査法一四条一項本文の規定
により、六〇日間の短期の審査請求期間が始まり、その期間を経過してされた本件
審査請求は、不適法であると判断した。しかし、右の判断は、法の解釈を誤ったも
のである。
 行政不服審査法一四条一項本文にいう「処分があったことを知った日」とは、処
分の効力を受ける者が処分を現実に知った日と解すべきである。本件認可が告示さ
れたのは、平成八年九月一三日であるが、控訴人が本件認可を知った日は、地元説
明会が行われた平成八年一〇月二日である。本件審査請求は、その翌日から起算し
て六〇日以内である(六〇日の最終日である平成八年一二月一日は日曜日であり、
翌日が期間の末日となる。)平成八年一二月二日にしたのであるから、適法な審査
請求である。したがって、この請求を期間経過により却下した本件裁決は取り消さ
れるべきである。
第三 当裁判所の判断
一 当裁判所は、本件認可が告示されても、処分の効力を受ける者が本件認可の存
在を現実に知らない限り、行政不服審査法一四条一項本文の「処分があったことを
知った」とはいえず、本件認可の告示の日の翌日から六〇日の審査請求期間の経過
を理由として、本件審査請求を却下した本件裁決は、違法であり、取消しを免れ
ず、被控訴人は、あらためて控訴人が本件認可の存在を知った日を認定した上、審
査請求について裁決すべきものと判断する。
 その理由は、次のとおりである。
1 行政不服審査法一四条一項本文が、六〇日という短期の審査請求期間の始期
を、処分があったことを知った日としているのは、処分の効力を受ける者が処分が
あったことを知らなければ、これを争うべきか否かを判断できず、そのような判断
ができない状態で短期間の審査請求期間が始まり、それが経過すれば審査請求をで
きなくするというのでは、処分の効力を受ける者に対して酷に過ぎるからである。
しかし、処分の効力を受ける者がこれを知らない以上、いつまででも処分の効力を
争えるとすると、永久に処分の効力が安定しないこととなるので、行政不服審査法
一四条三項は、処分の日から一年を経過して審査請求がないと、処分の効力を受け
る者が処分を知る知らないにかかわらず、これを争えないものとしている。このよ
うな法の趣旨からすると、行政不服審査法一四条一項本文の「処分があったことを
知った日」とは、処分の効力を受ける者が処分があったことを現実に知った日を意
味するのであり、抽象的な知りうべかりし日では足りないものと解すべきである
(最高裁昭和二七年一一月二〇日判決民集六巻一〇号一〇三八頁参照)。
 ただ、行政庁が処分を告知しようとしても、処分の効力を受ける者がそれを回避
しようとする場合など、処分を受ける側の事由で告知ができないときには、法は、
これに対応する措置(公告など)を定め、処分の効力を受ける者が必ずしも現実に
知らなくても、対応する措置がとられたときに、これを知ったものとして、処分の
効力を生じさせ、かつ、その効力が生じた日から、短期の審査請求の期間を開始さ
せる(最高裁昭和二七年一一月二八日判決民集六巻一〇号一〇七三頁参照)。しか
し、このように、短期の審査請求の期間の開始について、処分の効力を受ける者の
現実の知不知を問わないのは、あくまでも処分の告知が処分の効力を受ける者の側
の事由で妨げられて
いるからである。処分の効力を受ける者の側に原因がないのに、その知不知を問わ
ないで、短期の審査請求期間の進行を開始させるのは、知ったときを短期の審査請
求期間の開始時期とする行政不服審査法の制度趣旨を否定するに等しい。そのよう
な法解釈は、採用することができない。
 そして、このことは、処分が処分の効力を受ける者に個別に告知されず、告示に
よって効力が生じる場合であっても異なることはない。その告示は、処分の効力を
受ける者の側の事由でされるのではないのであり、したがって、告示があっても個
別の告知がないために処分があったことを知り得ない不利益を、処分の効力を受け
る者に帰することは許されないからである。すなわち、その者が処分があったこと
を知らない場合でも、告示の時点から短期の審査請求期間の進行を開始することは
できないのである。
2 もっとも、告示のみで個別の告知をしない場合でも、特に必要がある場合に
は、処分の効力を受ける者の現実の知不知を問わず、しかも、行政不服審査法一四
条三項の一年の期間の経過を待たずに、短期の審査請求期間の経過によって審査請
求を制限し、早期に処分の効力を安定させることができないではない。しかし、そ
のような行政不服審査法の規定と異なる法的効力を実現しようとする以上、まず第
一に、一般の行政処分の場合とは異なる制度上特別の必要が認められる場合でなく
てはならない。そして第二に、処分の効力を受ける者が、処分の存在についての知
不知にかかわらず、短期間に審査請求の機会を失う不利益が課せられるのであるか
ら、その不利益を緩和する代償的な制度上の措置も用意する必要があろう。そして
第三として、そのような特別な必要のため譲歩を迫られる国民の側の了解を、代議
制民主制により国民を代表する国会の場で得るため、法律でそのような特別の定め
をする必要がある。
 このような特別の規定として、例えば地方税法四一五条の固定資産税課税台帳の
縦覧の制度(これは縦覧期間を法定することをもって、縦覧する機会を確実に確保
することにより、個別の告知のない不利益の代償措置としたものである。)や、同
法四三二条や土地収用法一三〇条の現実の知不知を問わない審査請求の短期の期間
制限の制度(固定資産税や土地収用法による事業の認定の場合、制度上特別の必要
があり、合理性があるために、国会において国民の側の了承が与えられているので
ある。
)がある。
 そのような法律の規定がないのに、当然に、処分の存在の知不知を問わないで、
行政不服審査法一四条三項の一年の期間を短縮することはできないのであって、こ
のことは、処分が告示によって効力を生じる場合でも、変わりはないものである。
 本件の場合、裁判所の法廷での求釈明に対し、被控訴人は、早期に都市計画事業
の認可処分の効力を安定させなければならない特別の必要はない旨釈明している。
そうであれば、行政不服審査法とは異なる特別の規定を設けようとしても、できな
いことは明らかで、被控訴人は、行政不服審査法一四条の規定に従わねばならず、
知ったときから六〇日または知不知を問わないで一年の審査請求期間の経過を待た
ないで、処分の不可争力が発生したものと取り扱うことはできないものというべき
である。
3 なお、都市計画法六六条には、都市計画事業の認可の告示があったときは、施
行者はすみやかに周知措置を講じるべき旨の規定がある。この規定をみると都市計
画法自体が、告示だけでは、処分の効力を受ける個々の住民への周知措置として不
十分であると認めているものというべきである。そうである以上、都市計画事業の
認可の場合、法が周知措置として不十分だとしているその告示によって、処分の効
力を受ける者が処分の存在を知ったものとみなすのは、同一の事項に関する判断と
して一貫しないものといわねばならない。被控訴人の主張は、この点でも採用する
ことができないものである。
4 そして、被控訴人は、建築線の指定に関する昭和六一年六月一九日の最高裁判
決(判例時報一二〇六号二一頁)をあげる。しかし、その判示の内容は、当該事案
を前提として、原審の判断の結論を是認したのにとどまり、一般的な判示をしたも
のではないとも読める。また、最高裁判決の事案の一審判決(二審判決はこの一審
判決の認定を引用している。)をみると、当該事件の原告は公告の一〇日後には指
定の事実を知ったと認められるとしており、それより約半年後にされた審査請求
が、審査請求期間六〇日を経過していたことは明らかであったものである。とする
と、公告の日を審査請求期間の起算点とするべきかどうかの点は、当該事案では結
論を出すために不可欠のものであったとは、認められないから、この点についての
判示は、判例としての拘束力を認めがたい。都市計画事業の認可の場合、処分の効
力を受ける者が建築線指定の場合のよ
うに処分が発せられる過程に関与する機会を与えられていないこと、事業認可のも
ととなる都市計画決定と事業認可との間には多くの場合長年月(本件では控訴人の
主張によると約四〇年である。)が経過していることなど、多くの点で建築線の指
定の場合とは異なるのであって、右の判決は本件の事案には参考とならない。
二 そうすると、被控訴人が平成一〇年一一月二四日付けでした審査請求を却下す
る旨の裁決の取消しを求める控訴人の請求は、これを認容すべきものである。この
請求を棄却した原判決は、法の解釈を誤ったものであるから失当としてこれを取り
消し、控訴人の請求を認容することとする。
 よって、主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第一九民事部
裁判長裁判官 淺生重機
裁判官 菊池洋一
裁判官 江口とし子

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