弁護士法人ITJ法律事務所

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○ 主文
原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
○ 事実
第一、当事者双方の求めた裁判
(原告ら)
一、被告が昭和四三年五月二二日付でなした、原告らに対する、別紙物件目録記載
の農地についての買収処分を取消す。
二、訴訟費用は被告の負担とする。
(被 告)
主文同旨。
第二、当事者双方の主張
(原告らの請求原因)
一、別紙物件目録記載の各土地(以下、本件土地と称する。)は、もとAの所有で
あつたが、右Aが昭和二二年一〇月一日、国に物納し、次いで同月二日、旧自作農
創設特別措置法(以下、旧自創法という。)一六条により、亡Bが国から売渡処分
を受けた。
二、Bは、昭和二七年七月二六日死亡し、同人の妻であつた原告Cならびに同人の
子である原告D及び同Eの三名が、本件土地を相続した。
三、ところが被告は、農地法一五条一項に基づき、昭和四三年五月二二日をもつて
原告らに対し、本件土地を買収する旨の処分(以下、本件買収処分という。)をな
した。
四、しかしながら、本件買収処分は次の事由により違法である。
1 本件土地の耕作者は、F、G、H及びIであり、本件買収処分の買収令書によ
れば右の者は賃借人とされているが、右耕作者らはいずれも不法占有者であり、農
地法一五条一項が適用されるべきでないのにもかかわらず、右法条を適用したのは
違法である。
2 更に、被告は右四名が不法占有者であることを知り、あるいは知りうべかりし
事情にあり、かつ原告らが農地転用申請をしたにもかかわらず、本件買収処分をし
たのは違法である。
五、そこで原告らは、昭和四三年六月一〇日、農Z大臣に対して本件買収処分につ
いて審査請求したが、同日から三月以上経過しても右審査請求について裁決をしな
い。
六、よつて、原告らは被告に対し、本件買収処分の取消を求める。
(請求原因に対する被告の認否)
一、請求原因第一ないし第三項の事実はいずれも認める。
二、同第四項につき、本件買収処分が違法である点は争い、
1 第1項の事実のうち、本件買収処分が農地法一五条一項によるものであること
は認めるが、その余の事実は否認する。
2 第2項の事実は否認する。
三、同第五項の事実は認める。
四、同第六項は争う。
(被告の主張-本件買収処分の適法性)
一、Bは、国から本件土地の売渡処分を受けたものの、その後、自ら耕作すること
なく、同郷のJらに耕作させたにすぎず、本件土地のその後の耕作者らも右渡辺の
許諾を受けており、耕作者らに明渡を求めることなく、もつて、第三者の耕作を許
容していた。その後右被売渡人Bは家族と共に岐阜県に移住しており、同人及びそ
の世帯員で本件土地を耕作した者はいなかつた。
二、仮りに、本件土地の耕作者が不法占有者であつたとしても、農地法一五条一項
の規定は、客観的な耕作状態をとらえて買収要件を定めているものであるから、国
から売渡処分を受けて農地を所有するに至つた者が、右所有者及びその世帯員以外
の第三者に相当の期間にわたり平穏かつ公然と耕作することは許容していた場合
は、同法条に該当することとなり、その第三者が不法占有者であるといえども、同
法条による買収処分の対象になりうる。ところで、本件土地については、売渡処分
を受けたB及び同人の世帯員が右売渡処分より本件買収処分に至るまで、二〇年以
上にわたり第三者が平穏公然と耕作することを許容していたものであり、右法条を
適用したのは適法である。
(被告の主張に対する原告らの反論)
一、Bが本件土地の売渡処分を受けた当時は、Bの指揮の下でその使用人で、世帯
員に準じる地位にあつたJら数名のものが耕作していたが、その後昭和二五年こ
ろ、Jが単独で占有するようになつてからBの許可を受けることなく勝手に第三者
に耕作させるに至つたものである。被告主張のように、B及びその世帯員が耕作し
たことはなかつたこと及び第三者の耕作を許容していたことは否認する。
二、耕作者が平穏公然と耕作していたことは否認し、また農地法一五条一項につい
ての被告の主張は、独自の見解であつて理由がない。
第三、証拠関係(省略)
○ 理由
一、請求原因第一ないし第三項の各事実はいずれも争いがない。
二、本件買収処分の適法性について争いがあるのでこの点について検討する。
1 前記争いのない各事実、いずれも成立に争いのない甲第八号証の二の「イ」な
いし「カ」、乙第一ないし第四号証、証人Kの証言によつて真正に成立したと認め
られる甲第三号証の二、証人Lの証言によつて真正に成立したと認められる甲第四
号証の二、証人Mの証言によつて真正に成立したと認められる甲第七号証及び前掲
K、F、M各証言、証大N、同O、同P(但し後記認定に反する部分を除く。)、
同Qの各証言によれば次の事実を認めることができ、B証言中右認定に反する部分
は活用することはできず、他に右認定を覆えずに足りる証拠はない。
(一) 本件土地付近は、もとAの所有であつたが、戦時中は、旧軍隊の飛行場の
設営隊の作業隊が駐在しており、Bは右設営隊の主計中尉であつた。終戦後、Aは
昭和二二年一〇月一日本件土地を国に物納し、本件土地は国の所有することとな
り、更にBが農地として開墾するため、同月旧自創法一六条の規定に基づき 本件
土地の売渡を受け、元兵舎を修理した木造バラツク建小屋に家族である原告らと居
住すると共に、郷里の岐阜県からJ、M、Rの外、旧軍隊仲間を数人集めて、右の
者を使用人として本件土地を含む附近一帯を開墾するようになつた。
(二) ところが、Bは戦時中、盲腸手術の際痛み止めに打つたヒロポンの中毒に
罹り、戦後次第に禁断症状が現われ、昭和二三年には入院したこともあり、その間
家族である原告らも本件土地を離れ、B自身も昭和二五、六年に本件土地から離れ
てしまつた。このような状態のため、Bやその家族はほとんど農作業に従事せず、
使用人も次第に離れていき、J、同S夫婦がBに代つて本件土地を含むB所有地を
管理していた。
(三) 本件土地の状況については、
(1) 七四六番地の四の土地のうち、南西側の約五畝歩については、昭和二四、
五年ころ、Fがそれまで耕作していたJから金七〇〇〇円で賃借権を認めてもら
い、以後、Fの息子Lが続けて耕作している。
右七四六番地の四の土地のその余の部分については、戦後J、続いてTが耕作して
いたが、昭和二八年ころ、NがSに金一万円を支払つて借り受け、以後親戚である
Gと共に耕作している。
(2) 同番の一〇の土地については、戦時中にOの母親が当時の所有者Aの番頭
であるUから借り受け、小作料として毎年小麦を支払つており、昭和三〇年母親が
死亡後、Oが耕作を続け、昭和四〇年にVが耕作するようになつた。
(3) 同番の三三の土地については、昭和二一年の秋ころ、IがWから借り受
け、以後I、続いて息子のKが耕作を続けていた。
(4) 本件土地の耕作者に対して、Bの相続人である原告ら及び管理者Jからも
昭和四〇年ころまで明渡要求がされたこともなく、耕作者たちもBが所有者である
とは知らない状態であつた。
2 右認定事実によれば、
(一) 七四六番の四の耕作者はいずれも管理者であるJ、S夫婦から耕作権を受
けたものであるから、土地の正当な賃借人と推認でき不法占有者とは認めることは
できない。
(二) 同番一〇及び三三の各土地の耕作者は、UもしくはWから土地を借受けた
ものであるが、U及びWが管理権限を有する者と認めることはできないのであるか
ら、耕作者は正当な賃借人と認めることかできず、不法占有者といわざるを得な
い。
3 ところで農地法一五条一項の規定は、自作農創設の目的で売渡しを受けた者
が、その目的に反して自己及びその世帯員以外の第三者に土地を耕作させた場合
は、自作農創設という目的に反することになるので、これを買収する趣旨である
が、被売渡人が積極的に土地を貸付ける場合のみならず、耕作者が不法占有者であ
つたとしても、被売渡人がこれを黙認し、あるいはこれと同様の状態を続けている
場合には、このような農地を認めることは自作創設という旧自創法の目的、精神に
反する(換言すればこのような農地の所有者は自作農たるに値しない)結果となる
ので、該農地を改めて国に買収させるべきものと解するのが相当である。本件土地
について考えてみるに、七四六番の四の土地は、被売渡人が貸付けたと推認でき、
同番の一〇、三三の各土地は、前記認定事実からするとB及びその世帯員(渡辺夫
婦らは世帯員とはいえない。)が耕作していたことがほとんどなかつたこと、耕作
者がいずれも昭和二〇年代の初めから以後続けて耕作しており、被売渡人あるいは
その相続人はこれを認識していた(かあるいは容易に認識できた)にもかかわら
ず、昭和四〇年ころまで耕作者になんら異議を述べておらず、耕作者もそれまでB
が所有者であつたことは知らなかつたことが認められるのであり、右事実からすれ
ば被売渡人及びその世帯員以外の第三者が長期間、平穏かつ公然と耕作しており被
売渡人及びその世帯員がこれを黙認していた、あるいは黙認と同視できる状態であ
つたと判断することができ、したがつて本件土地はいずれも農地法一五条一項の買
収要件に該当すると認めることができる。よつて、原告らの主張は理由がない(な
お本件買収令書に耕作者を賃借人と記載したと認めるに足りる証拠はなく仮りに事
実としても農地法一五条一項の買収が違法と認めることはできない。)。
4 更に、原告らは農地転用申請をしているのに本件買収処分をなしたのは不当で
あり違法であると主張し、証人Z、同Pの各証言及びZ証言によつて真正に成立し
たと認められる甲第六号証の一の「い」、同号証の二によれば、原告らが昭和四三
年八月一五日に被告に対し幼稚園建設という理由で農地転用申請を出しており、本
件買収処分当時、右建設計画が進行中であり被告もこれを認識していたことを推認
できるが、右事実は、旧自創法の目的を達成するため 農地法一五条一項に基づい
てなされた本件買収処分の適法性になんら消長を及ぼすとは認められず、原告らの
主張は理由がない。
5 他に本件買収処分が違法であることを認めるに足る主張、立証がない。
三 よつて、原告らの請求は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の
負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項を適用して主文
のとおり判決する。
(裁判官 木村輝武 小松 峻 福岡右武)
別紙(省略)

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