弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     被告人等に対する各原判決を破棄する。
     被告人A、同Bを各懲役六月に処し、被告人Cを懲役四月に処する。
     但し被告人A、同Cに対し本裁判が確定した日から各三年間それぞれ右
刑の執行を猶予する。
     押取にかかる鯖の換価代金千百四円はこれを被告人Aから没収する。
     当審において国選弁護人林達也に支給した訴訟費用は被告人Aの負担と
する。
         理    由
 被告人C同Bの弁護人高良一男、被告人Aの弁護人林達也の各控訴趣意は記録に
編綴の同弁護人等提出の控訴趣意書記載のとおりであるから、ここにこれを引用す
る。
 被告人Aの弁護人林達也の控訴趣意第一点及び被告人C、同Bの弁護人高良一男
の控訴趣意第一点について、
 しかし、被告人A、同Cに対する各原判示事実は各原判決の挙示した証拠を綜合
すれば充分これを認めることができる。記録を調査しても右各事実の認定に誤があ
ることを発見することができないので論旨はいずれも採用することはできない。
 弁護人高良一男の控訴趣意第二点について、
 しかし、憲法第十四条にいわゆる法の下に平等であるというのは、すべて国民が
人種、信条、性別、社会的身分又は門地等の差異によつて政治的経済的又け社会的
関係において法律上差別的待遇を受けないことを意味するもので、同種又は相類似
する被告事件間における量刑に差異がある場合これを目して憲法第十四条にいわゆ
る法の下における平等が保障されないものとすることのできないことは同条の文理
自体は勿論その律意に徴しまことに明瞭であるのみならず、同種又は類似の被告事
件間においてもその犯情その他の事情は多岐多様で、判決に表現された態様に被此
相似たところがあつても必ずしもその内容を一にするものということはできないの
であるから、その両者の間に科刑の軽重の存すべきは理の当然といわなければなら
ない。従つて他の被告事件について為された科刑に着目して特定被告事件の量刑の
当否を云為することはその当を得たものではない。論旨は理由がない。
 <要旨>次に職権を以て案ずるに、海上において魚類を採捕する目的で爆発物を使
用した者が、へい死した魚類を船内にすくい上げ積載所持した場合は漁業法
第六十八条所定の爆発物を使用して水産動物を採捕した罪が成立する外、同法第七
十条所定の所持罪が成立するものではない。けだし、魚類を採捕する目的で爆発物
を使用した者がへい死した魚類を船内にすくい上げ積載所持した場合、そのすくい
上げの行為が漁業法第六十八条所定の採捕罪に又すくい上げて船内に積載所持した
行為が同法第七十条所定の所持罪に各該当すべきものと見るべきではなく、右積載
所持した所為は同法第六十八条所定の採捕の行為に当然包含するものであつで、右
の一連の行為がとりもなおさず同条所定の採捕の行為にあたるものと解すべきであ
るからである。しかして、各原判決の認定した事実はこれを挙示の証拠と対照する
と、判示日時、判示海上で、被告人等はそれぞれその他判示の者等と共謀の上魚類
を採捕する目的で爆発物(ダイナマイト)を使用して鯖二十七貫六百匁をへい死さ
せてこれを網で判示船内にすくい上げ積載して所持したものであるというのである
から、原判示所為は右説示のごとくまさしく漁業法第六十八条第百三十八条第六号
刑法第六十条に該当するものといわなければならない。しかるに原判決は右所為に
対し前記法令の外漁業法第七十条第百三十八条第六号刑法第六十条をも適用し、右
採捕の罪と所持の罪とを刑法第五十四条第一項後段の関係があるものとして処断し
ているのであるから各原判決は明かに判決に影響を及ぼすべき法令適用の誤をした
ものといわなければならない。従つて各原判決は刑事訴訟法第三百九十七条に則り
破棄を免れない。
 そして当裁判所は本件記録及び原裁判所において取調べた証拠によつて、直ち
に、判決をすることができると認められるので各弁護人の量刑に関する控訴趣意に
対する判断を省略し、刑事訴訟法第四百条但書により更に判決をすることとする。
 そこで当裁判所は原判決の挙示した証拠中被告人の当公廷における供述とあるの
を原審公判調書中被告人等の各供述記載と読みかえる外原判決の挙示したと同一の
証拠により左記の事実を認定する。
 被告人等は昭和二十五年三月十七日長崎県上県郡a村大字b沖合約十哩の海上に
おいてD数名と共謀の上漁類を採捕する目的で爆発物(ダイナマイト)を使用して
へい死させた鯖二十七貫六百匁を乗つていた漁船E丸に網ですくい上げて積載して
以て水産動物を採捕したものである。
 法律に照すと、判示事実は漁業法第六十八条第百三十八条第六号罰金等臨時措置
法第二条第一項刑法第六十条に該当するので、所定刑中各懲役刑を選択し、その刑
期の範囲内で被告人等を各主文の刑に処し、なお被告人A、同Cに対しては情状に
鑑み刑の執行を猶予するのが相当と認められるので刑法第二十五条を適用し、この
裁判が確定した日から各三年間それぞれ右刑の執行を猶予し、又押取の鯖の換価代
金千百四円は漁業法第百四十条に従い被告人Aからこれを没収し、なお当審におけ
る訴訟費用(弁護人林達也に支給した分)は刑事訴訟法第百八十一条第一項に則り
被告人Aをして負担させることとする。
 よつて主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 谷本寛 裁判官 藤井亮 裁判官 青木亮忠)

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