弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件抗告を棄却する。
         理    由
 本件特別抗告の理由は、別紙特別抗告申立書記載のとおりである。
 一件記録によれば、大阪地方裁判所裁判官が、昭和四一年一二月一七日「被疑者
は、法定の除外事由がないのに、Aと共謀のうえ、昭和三八年二月二五日ごろ神戸
市a区bc丁目d番地被疑者の自宅において、二二口径ロスコー回転弾倉式けん銃
一〇丁および火薬類であるけん銃用実包二〇〇発位を所持したものである。」とい
う事実について、被疑者を銃砲刀剣類所持等取締法違反および火薬類取締法違反の
嫌疑で勾留したこと、これに対して、被疑者の弁護人から準抗告の申立がなされ、
大阪地方裁判所が、同四一年一二月二六日「犯罪後の法律により法定刑が変更され
た場合における公訴時効の期間は、その事件に適用すべき罰条の法定刑によつて定
まるものと解すべきところ、本件に適用すべき罰条の法定刑によれば、本件被疑事
件は、被疑者の勾留時すでに公訴時効が完成していたことが明らかである。」旨判
示し、右準抗告の申立を理由があるとして右勾留を取り消し、検察官の勾留請求を
却下したことが認められる。また、本件被疑事件の犯行当時施行されていた銃砲刀
剣類等所持取締法(昭和三三年法律第六号)が、昭和四〇年法律第四七号によつて
改正され、その改正法が、銃砲刀剣類所持等取締法として、本件犯行の後である同
四〇年七月一五日から施行されたことは、原判示のとおりである。
 そして、所論引用の各大審院の判例(明治四三年(れ)第一四八〇号同年九月二
〇日判決、同四四年(れ)第九二五号同年五月二五日判決)および札幌高等裁判所
の判例(昭和二九年(う)第二〇九号同年六月一七日判決)の趣旨とするところは、
犯罪後の法律により法定刑が変更されて、その刑を標準とすれば、その罪に対する
公訴時効の期間が変わる場合には、刑法六条により新旧両者を比照して短い方の期
間を適用すべきではなく、変更後の法定刑によつてその時効期間を定めるべきであ
るというものであるから、原決定は、これらの判例と相反する判断をしたものとい
わなければならない。
 検察官は、公訴の時効は訴訟法上の制度であるから、前記判例の示すように、犯
罪後の法律により法定刑が変更されて、その刑を標準とすれば、その罪に対する時
効期間が変わる場合には、裁判時施行されている法律によつて、その期間を定める
べきであると主張する。しかし、公訴の時効は、訴訟手続を規制する訴訟条件であ
るから、裁判時の手続法によるべきであるとしても、その時効期間が、犯罪に対す
る刑の軽重に応じて定められているのであるから、その手続法の内容をなす実体法
(刑罰法規)をはなれて決定できるものではない。従つて、公訴の時効が訴訟法上
の制度であることを理由として、時効期間について、すべて裁判時の法律を適用す
べきであるとするのは相当でない。そして、本件のように、犯罪後の法律により刑
の変更があつた場合における公訴時効の期間は、法律の規定により当該犯罪事実に
適用すべき罰条の法定刑によつて定まるものと解するのが相当である。本件被疑事
件において、けん銃所持の事実に適用すべき罰条は、銃砲刀剣類所持等取締法(昭
和四〇年法律第四七号)附則五項の罰則の適用に関する経過規定により、本件犯行
当時施行されていた右改正前の銃砲刀剣類等所持取締法(同三三年法律第六号)三
一条一号、三条一項、三四条であつて、その法定刑は、三年以下の懲役又は五万円
以下の罰金(又はこれを併科)であり、また、けん銃用実包所持の事実に適用すべ
き罰条は、火薬類取締法五九条二号、二一条であつて、その法定刑は、一年以下の
懲役又は一〇万円以下の罰金(又はこれを併科)であるから、本件被疑事件の公訴
時効の期間は、刑訴法二五〇条、二五一条により三年である。すると、本件被疑事
件については、被疑者の勾留の裁判がなされた昭和四一年一二月一七日当時、すで
に公訴時効が完成していたことが明らかであるから、これと同旨の理由により、被
疑者を勾留すべきではないとした原決定は正当である。されば、所論引用の前記各
大審院の判例および札幌高等裁判所の判例は、これを変更するのが相当であり、本
件抗告は、結局、理由がないことに帰する。
 よつて、刑訴法四三四条、四二六条一項により、裁判官全員一致の意見で主文の
とおり決定する。
  昭和四二年五月一九日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    柏   原   語   六
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    下   村   三   郎
            裁判官    松   本   正   雄

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