弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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          主    文
    1 原判決を次のとおり変更する。
     (1) 控訴人は,被控訴人らそれぞれに対し,各金395万625
0円及びこれに対する昭和62年9月27日から各支払済みまで年5分の割
合による金員を支払え。
     (2) 被控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。
    2 訴訟費用は,第1,2審を通じ,これを10分し,その1を控
訴人の,その余を被控訴人らの負担とする。
          事実及び理由
第1 控訴の趣旨
 1 原判決中控訴人敗訴部分をいずれも取り消す。
 2 被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
 3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
第2 事案の概要
   原判決「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」欄記載のとおりで
あるから,これを引用する。
第3 当裁判所の判断
 1 争点1(亡Aの死因〔急性心不全の原因はSEPか〕)について
   当裁判所も,亡Aの死因は,SEP(硬化性被嚢性腹膜炎)が進行した
結果,全身状態が悪化して,最終的には急性心不全により死亡したものと判
断するが,その理由は,原判決中37頁10行目から47頁7行目までに記
載のとおりであるから,これを引用する。
 2 争点2(本件腹膜炎のSEPに対する影響の有無)について
   次のとおり加除訂正するほかは,原判決中49頁9行目から52頁1
0行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。
  (1) 原判決中50頁10行目から11行目にかけての「発症又はその」
及び同頁11行目の「(なお、」から51頁3行目の「ない。)」までをいず
れも削除する。
  (2) 原判決中51頁10行目から11行目にかけて「考えられる以
上、」とあるを「考えられるうえ,」と改め,同11行目の「SEPの発症
時期」から52頁2行目の「いえないこと、」までを削除する。
  (3) 原判決中52頁6行目から10行目までを次のとおり改める。
    「本件において,亡AにSEPが発症した時期を確定することは極
めて困難ではあるが,前記認定の亡Aの症状経過及びSEPの症状からする
と,本件腹膜炎がSEP発症の原因であるとまで認めることはできず,ま
た,本件腹膜炎発症以前に亡AにSEPが発症していたことを否定すること
はできないから,本件腹膜炎はSEPの進行に影響を与えたことを認定しう
るに止まる。」
 3 争点3(本件腹膜炎の原因)について
   当裁判所も,本件腹膜炎は,緑膿菌が,B医師の本件カテーテル処置
の際に生じたカテーテル損傷部からカテーテル内腔に侵入し,さらに右処置
直後の注入されたCAPD(持続的外来式腹膜透析)の透析液を介して亡Aの
身体に侵入したことにより生じたものと判断するが,その理由は,原判決中
53頁1行目から66頁6行目までに記載のとおりであるから,これを引用
する。
 4 争点4(本件カテーテル処置に関する過失の有無)について
   当裁判所も,本件カテーテル処置において,B医師がカテーテルを損
傷したことを過失であると判断するが,その理由は,原判決中66頁8行目
から68頁3行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。
 5 争点5(本件腹膜炎の治療に関する過失の有無)について
   当裁判所も,本件腹膜炎の治療に関し,昭和62年1月14日に至っ
てカテーテル抜去がなされたことは,それまでの症状経過からして,CAP
D患者においてカテーテルを抜去するとその後CAPDを施行することが困
難になることを考慮しても,なお遅きに過ぎたものといえ,この点において
B医師に過失が存すると判断するが,その理由は,原判決中68頁5行目か
ら74頁2行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。
 6 争点6(本件カテーテル感染症の治療に関する過失の有無)について
   原判決中77頁6行目の「(なお、」から10行目の「いえない。)」
までを削除するほかは,原判決中74頁4行目から77頁10行目までに記
載のとおりであるからこれを引用する。
 7 争点7(争点4ないし6のいずれかの過失が認められる場合,その過失
と亡Aの入院〔昭和61年11月20日以降〕及び死亡との因果関係の有無)
について
   次のとおり加除訂正するほかは,原判決中78頁2行目から79頁8
行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。
  (1) 原判決中78頁4行目に「本件過失と」とあるを「本件過失により
発症し,遷延した本件腹膜炎が亡AのSEPの進行に影響を与えた限りにお
いて,本件過失と」と改める。
  (2) 原判決中79頁6行目に「発症又は進行の原因となったこと」とあ
るを「進行に影響を与えたこと」と改める。
  (3) 原判決中79頁7行目の「算定に当たって」の次に「,亡Aの素因
として」を加える。
 8 争点8(控訴人の負担すべき損害の額)について
  (1) 前記のとおりB医師は中央病院の勤務医であるから,同病院を設置
して管理する控訴人は,B医師の使用者として,民法715条に基づく損害
賠償責任がある。
  (2) 損害額
   ア 休業損害              150万円
     証拠(被控訴人千里)及び弁論の全趣旨によれば,亡A(昭和32年
5月17日生)は,本件腹膜炎のために入院する当時は,家業の電器商を被控
訴人ら両親や2人の兄とともに営んでいたことが認められるが,その収入額
を認めるに足りる的確な証拠はなく,亡Aの当時の症状経過等を考慮する
と,その収入額は月額15万円と認めるのが相当であり,入院期間10か月
間の休業損害は,150万円となる。
   イ 死亡による逸失利益        1856万2500円
     亡Aは,死亡当時30歳の男子であり,その収入額は前記認定の
とおり月額15万円とするのが相当であるから(亡Aが,賃金センサスによる
平均月収を取得し得た蓋然性を認めるに足りる証拠はない。),67歳までの
37年間就労可能(新ホフマン係数20.625)とし,生活費控除率を50
%として逸失利益の現価を算定すると,次の計算式のとおり1856万25
00円となる。
     15万円×12か月×(1-0.5)×20.625=1856万2500円
     なお,亡Aの症状経過からして,就労可能年数は制限されるべき
であるとの控訴人の主張には一応の合理性が認められるが,人の余命につい
ては軽々に判断し得ないものがあるのであり,前記の点は,後記の素因減額
において考慮するのが相当である。
   ウ 墳墓・葬祭費用           100万円
     墳墓・葬祭費用は,100万円と認めるのが相当である。
   エ 慰謝料              1500万円
     本件に現れた諸般の事情を考慮すると,亡Aの死亡による慰謝料
は合計1500万円と認めるのが相当である。
   オ 以上を合計すると,3606万2500円となる。
  (4) 素因減額(8割)            721万2500円
    前記認定の亡Aの症状経過からすると,亡Aの死亡については,亡
Aの素因が大きく関与しているものといわざるを得ないから,民法722条
の類推により前記損害額からその8割を素因減額するのが,損害の公平分担
という損害賠償制度の理念に適うものといえる(本件過失は,前記認定判断の
とおり,本件腹膜炎の発症及び遷延の原因ではあるが,死因であるSEPに
ついては,その進行に影響を与えたものと認定しうるにとどまる。)。
    そこで,前記損害額3606万2500円からその8割を控除する
と,721万2500円となる。
    よって,被控訴人らが請求しうる損害額は,それぞれ360万62
50円となる。
  (3) 弁護士費用              各35万円
    本件過失と相当因果関係の認められる弁護士費用は,本件訴訟の経
緯等を考慮すると,被控訴人らそれぞれにつき35万円と認めるのが相当で
ある。
 9 よって,被控訴人らの請求は,各395万6250円及びこれに対す
る亡A死亡の日である昭和62年9月27日から支払済みまで民法所定の年
5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,その限
度で認容し,その余は理由がないから棄却すべきところ,これと異なる原判
決を,前記のとおり変更することとして,主文のとおり判決する。
     広島高等裁判所松江支部
        裁判長裁判官 宮 本 定 雄
           裁判官 吉 波 佳 希
           裁判官 植 屋 伸 一

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